この記事の要点まとめ
- 乾癬は、免疫系の異常によって引き起こされる慢性の炎症性疾患であり、他人には絶対に感染(伝染)しません。
- 皮膚の症状だけでなく、約2割の患者様に関節の痛みを伴う「乾癬性関節炎」を合併することがあり、早期発見が重要です。
- 治療法は飛躍的に進歩しており、特に生物学的製剤は、特定の原因物質を狙い撃ちすることで、多くの患者様で「ほぼ完全に皮疹が消えた状態(PASI 90/100)」を目指せるようになりました。
- 日本には「高額療養費制度」や「指定難病医療費助成制度」といった手厚い公的支援があり、高額な治療薬の経済的負担を大幅に軽減できます。
- 乾癬はコントロール可能な疾患です。正しい知識を持ち、専門医と連携することで、充実した生活を送ることが十分に可能です。
乾癬の基礎知識:疾患の正しい理解
乾癬を正しく理解することは、不安を和らげ、適切な治療への道を開くための基礎となります。ここでは、乾癬がどのような病気で、なぜ起こるのか、そして日本における現状について、最新の医学的知見に基づいて解説します。
乾癬(かんせん)とは?―免疫介在性の全身性疾患
乾癬は、英語ではPsoriasisと呼ばれ、皮膚に特徴的な赤い発疹(紅斑)とその上に銀白色の鱗屑(りんせつ、皮膚の粉)が付着する、慢性の非感染性炎症性疾患です4。本質的には、体の免疫システムが自身の正常な皮膚細胞を誤って攻撃してしまう「自己免疫疾患」または「免疫介在性疾患」の一種と考えられています5。この疾患は、症状が良くなる「寛解期」と悪化する「増悪期」を繰り返すことが特徴です6。世界保健機関(WHO)は、乾癬が単なる皮膚疾患ではなく、全身の健康に影響を及ぼす可能性がある「深刻な非感染性疾患(NCD)」であると公式に認めており、その重要性を強調しています3。
病態のメカニズム:症状の裏側で何が起きているのか
乾癬の患者様の体内では、免疫システムが過剰に活動しています7。このプロセスには、T細胞と呼ばれる免疫細胞や、「サイトカイン」という名の炎症を引き起こす情報伝達物質が深く関与しています6。特に、TNF-α、インターロイキン-17(IL-17)、インターロイキン-23(IL-23)といったサイトカインが、炎症反応の主役として働きます7。
この免疫の過剰反応は、皮膚細胞のライフサイクル、すなわち「ターンオーバー」を劇的に加速させます。健康な皮膚では約28日から45日かけて行われるターンオーバーが、乾癬の皮膚ではわずか4日から7日という異常な速さに短縮されます2。この結果、未熟な皮膚細胞が大量に生産され、剥がれ落ちる間もなく地表に積み重なり、乾癬特有の厚い、鱗屑を伴う発疹を形成するのです8。後述する最先端の生物学的製剤は、まさにこれらの特定のサイトカインの働きをピンポイントで阻害することによって、劇的な効果を発揮します。
原因と誘発因子:遺伝的素因と環境の相互作用
乾癬の根本的な原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因(遺伝的素因)と、それを引き金とする様々な環境因子が複雑に絡み合って発症すると考えられています2。
- 遺伝的素因: 特定の遺伝子(例:HLA-Cw6)との関連が知られています6。しかし、遺伝がすべてではないことを強調することが重要です。日本のデータによると、親が乾癬の場合に子供が発症する確率は約4~5%にとどまります2。この事実は、将来の世代への遺伝に関する過度な心配を和らげる一助となるでしょう。
- 環境因子(誘発・増悪因子): 遺伝的素因を持つ人において、以下のような要因が発症の引き金となることがあります。
- 感染症(特に溶連菌による咽頭炎は、滴状乾癬の典型的な誘因です)
- 精神的ストレス
- 皮膚への物理的刺激や外傷(ケブネル現象として知られています)
- 特定の薬剤(β遮断薬、リチウムなど)
- 喫煙、肥満、高脂肪食などの生活習慣6
日本における乾癬の疫学:国内の患者像
日本国内における乾癬の患者数は、約43万人と推定されており、これは人口の約0.34%に相当します9。世界的な有病率が0.09%から11.4%と幅広いことを考えると3、日本においても決して稀な疾患ではないことがわかります。性別では男性に多く、男女比は約2:1と報告されています。発症年齢のピークは、男性では30代と60代、女性では20代と50代に見られます8。
臨床スペクトラム:多様な病型、症状、そして診断
乾癬は一つの病気ではなく、様々なタイプ(病型)が存在します。それぞれの特徴を知ることは、ご自身の状態を理解し、医師とのコミュニケーションを円滑にする上で役立ちます。
主な病型:最も一般的なものから重症型まで
乾癬には複数の臨床型がありますが、その約90%を占めるのが最も一般的な「尋常性乾癬」です9。
病型(日本語名・英語名) | 日本での割合 | 主な特徴 | 好発部位 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|
尋常性乾癬 (Jinjōsei Kansen, Plaque Psoriasis) | 約90%9 | 境界がはっきりした赤い発疹(紅斑)の上に、銀白色の鱗屑が付着する。 | 肘、膝、頭部、腰など、刺激を受けやすい部位。 | 最も一般的なタイプ。 |
滴状乾癬 (Tekijō Kansen, Guttate Psoriasis) | 比較的まれ | 小さな水滴状の発疹が多発する。 | 体幹、背中など。 | 多くは溶連菌感染(扁桃炎など)の後に発症する。 |
乾癬(関節擦過部) (Kansen (Kansetsu Sakkabu), Inverse Psoriasis) | 比較的まれ | 鱗屑を伴わない、滑らかな赤い発疹。 | 腋の下、股、乳房の下など、皮膚がこすれる部位。 | 真菌感染症(カンジダ症など)と間違われやすい。 |
膿疱性乾癬 (Nōhōsei Kansen, Pustular Psoriasis) | まれ | 赤い皮膚の上に、無菌性(細菌がいない)の膿疱が多発する。 | 全身、または手のひら・足の裏に限局。 | 全身に広がる汎発型は国の指定難病。 |
乾癬性紅皮症 (Kansensei Kōhishō, Erythrodermic Psoriasis) | 1-2%9 | 全身の皮膚の90%以上が赤くなり、落屑する。 | 全身。 | 重症型であり、入院治療が必要となることが多い。 |
症状の認識:皮膚だけではないサイン
乾癬の症状は皮膚に限定されません。全身に及ぶ影響を理解することが重要です。
- 皮膚症状: 特徴的な発疹に加え、約半数の患者様が「かゆみ」を経験します7。その他、痛みや灼熱感、亀裂による出血なども見られます5。診断の助けとなる臨床所見として、鱗屑を剥がした際に見られる点状の出血(アウスピッツ現象)や、健康な皮膚を掻いたり傷つけたりした部位に新たな発疹が出現する現象(ケブネル現象)があります6。
- 爪症状(爪乾癬): 爪の変化は非常に多く見られ、爪の表面に小さな凹み(点状陥凹)ができる、爪が先端から剥がれる(爪甲剥離症)、爪が厚く濁り、もろくなる、といった症状が特徴です10。
- 全身症状: 多くの患者様が、疾患の全身的な炎症状態を反映して、持続的な「倦怠感」を訴えます3。
特集:乾癬性関節炎(PsA)-見過ごされやすい関節への影響
乾癬性関節炎(Psoriatic Arthritis, PsA)は、乾癬患者様のかなりの割合で発症する、極めて重要な合併症です10。多くの場合、皮膚の症状が関節の症状より何年も先行して現れるため10、関節の痛みを乾癬と結びつけて考えにくいことがあります。しかし、診断と治療の遅れは、関節の破壊といった不可逆的なダメージにつながるため、早期発見が何よりも重要です10。
PsAの早期発見において最も重要な役割を担うのは、患者様ご自身です。皮膚科医に関節の症状を伝えることが、診断への第一歩となります。以下の様な症状に気づいたら、ためらわずに主治医に相談してください。
- 指や足の指が全体的に腫れ、「ソーセージ」のようになる(指趾炎、dactylitis)。
- 足の裏(特に踵や足底)が痛む(アキレス腱付着部炎、足底腱膜炎)。
- 朝方に特に強い腰や背中の痛みがある(脊椎炎)。
医師は、CASPAR分類基準などの専門的な診断基準を用いてPsAの診断を行います11。
特集:汎発性膿疱性乾癬(GPP)-国の重点対策疾患
汎発性膿疱性乾癬(Generalized Pustular Psoriasis, GPP)は、尋常性乾癬とは全く異なる、重篤な疾患です。突然の高熱、強い倦怠感と共に、全身に多数の膿疱が急速に出現するのが特徴です12。
その重篤性と希少性(日本での登録患者数は約2,000人13)から、日本政府はGPPを「指定難病」として認定しています14。この認定は、疾患の深刻さを示すと同時に、対象となる患者様が公的な医療費助成を受けられることを意味し、経済的な負担を大きく軽減する上で極めて重要です。
現代の治療モデル:基本ケアから最先端治療まで
乾癬治療は、疾患の重症度に応じて段階的にアプローチする「ステップアップ方式」または「治療ピラミッド」の考え方が基本となります15。これにより、患者様は治療の全体像を把握し、医師と共に最適な治療法を選択していくことができます。
階層 | 疾患の重症度 | 代表的な治療法 |
---|---|---|
頂点 | 重症 | 生物学的製剤(注射薬)、JAK阻害薬(内服薬) |
中間 | 中等症 | 光線療法、全身投与薬(内服療法) |
土台 | 軽症 | 外用療法(塗り薬) |
基本治療:外用療法(塗り薬)と光線療法
- 外用療法(塗り薬): 軽症から中等症の乾癬治療の基本です2。炎症を抑える「ステロイド外用薬」と、皮膚細胞の異常な増殖を抑制する「ビタミンD3誘導体外用薬」が主軸となります16。近年では、これら二つの成分を配合した利便性の高い配合薬(例:マルホ社のドボベット®、マーデュオックス®など)が広く用いられ、良好な効果を示しています17。
- 光線療法: 発疹が広範囲に及ぶ場合や、外用薬だけでは効果が不十分な場合に選択されます2。紫外線の免疫抑制作用を利用して皮膚の炎症を鎮める治療法です。日本で主に行われているのは、特定の波長の紫外線B波を照射する「ナローバンドUVB(NBUVB)療法」と、ソラレンという薬剤を併用する「PUVA療法」です15。安全性の観点から、ナローバンドUVBがより一般的に選択されます18。
全身療法:内服薬と低分子化合物
中等症から重症の患者様には、体全体に作用する全身療法が検討されます。
- 従来の経口薬: 免疫系全体を抑制することで効果を発揮する「メトトレキサート」や「シクロスポリン」が古くから用いられてきました16。これらの薬剤は、副作用の管理のため定期的なモニタリングが不可欠です。
- 新しい低分子化合物: より標的を絞った経口薬として、「PDE4阻害薬(アプレミラスト)」や「JAK阻害薬(ウパダシチニブ、デュークラバシチニブなど)」が登場しています15。これらは従来の免疫抑制薬とは異なるメカニズムで作用します。特にJAK阻害薬については、日本皮膚科学会(JDA)がその使用に関する詳細なガイダンスを発表しています19。
乾癬治療の最前線:生物学的製剤の深掘り
生物学的製剤の登場は、乾癬治療に革命をもたらしました。ここでは、その仕組み、効果、そして日本での使用状況について詳しく解説します。
生物学的製剤とは?-精密誘導ミサイル療法
生物学的製剤は、化学合成された薬剤とは異なり、生物(生きた細胞)の力を利用して作られるタンパク質製剤(主に抗体)です。その最大の特徴は、驚異的な「特異性」にあります。乾癬の根本原因である特定のサイトカイン(TNF-α、IL-17、IL-23など)だけを精密に狙い撃ちし、その働きをブロックします2。これにより、免疫システム全体を抑制することなく、病気の原因に直接アプローチできるため、高い有効性と管理可能な安全性プロファイルを実現しています。
効果の比較分析:どの生物学的製剤が最も効果的か?
複数の治療法を網羅的に比較した「ネットワークメタアナリシス」という手法を用いた大規模な研究から、各薬剤の有効性に関する貴重な知見が得られています。ここでは、皮疹が90%以上改善することを示す「PASI 90達成率」を指標に、有効性の序列を見ていきます。
2022年に発表されたコクラン・レビューによるネットワークメタアナリシスによると、PASI 90を達成する上で最も効果の高い薬剤群は、IL-17/IL-23経路を標的とする薬剤であることが示されました。具体的には、ビメキズマブ(IL-17A/F阻害薬)、イキセキズマブ(IL-17A阻害薬)、リサンキズマブ(IL-23阻害薬)、そしてインフリキシマブ(TNF-α阻害薬)がトップクラスの有効性を示しています20。作用機序別に大別すると、IL-17阻害薬群が最も高い有効性を示し、次いでIL-23阻害薬群が続きます。これらの新しい薬剤群は、旧世代のTNF-α阻害薬やIL-12/23阻害薬(ウステキヌマブ)と比較して、皮膚症状をクリアにする能力において概して優れていることが科学的に証明されています20。ただし、実際の薬剤選択では、皮膚症状の改善効果だけでなく、関節症状(PsA)への効果、投与間隔、安全性プロファイルなども総合的に考慮されます21。
日本で承認されている生物学的製剤ガイド
以下は、日本皮膚科学会(JDA)の2022年版ガイドラインに基づき、現在日本国内で使用可能な主な生物学的製剤を作用機序別にまとめたものです22。この日本に特化した情報は、患者様がご自身の治療選択肢を理解する上で非常に重要です。
作用機序 | 薬剤名(製品名® / 一般名) | 標的分子 | 投与経路 | 投与間隔(導入期・維持期) | 主な臨床的特徴 |
---|---|---|---|---|---|
TNF-α阻害薬 | レミケード® (インフリキシマブ) | TNF-α | 点滴静注 (IV) | 0, 2, 6週; 以後8週ごと | 強力で迅速な効果。 |
ヒュミラ® (アダリムマブ) | TNF-α | 皮下注射 (SC) | 初回、1週後; 以後2週ごと | 在宅自己注射が可能。 | |
シムジア® (セルトリズマブ ペゴル) | TNF-α | 皮下注射 (SC) | 0, 2, 4週; 以後2週ごと | 妊娠中の使用が考慮されうる。 | |
IL-12/23阻害薬 | ステラーラ® (ウステキヌマブ) | IL-12, IL-23 | 皮下注射 (SC) | 0, 4週; 以後12週ごと | 長期的な使用実績が豊富。 |
IL-17阻害薬 | コセンティクス® (セクキヌマブ) | IL-17A | 皮下注射 (SC) | 毎週×5回; 以後4週ごと | 皮膚と関節の両方に高い効果。 |
トルツ® (イキセキズマブ) | IL-17A | 皮下注射 (SC) | 初回後2, 4, 6, 8, 10, 12週; 以後4週ごと | 効果発現が非常に速い。 | |
ルミセフ® (ブロダルマブ) | IL-17A受容体 | 皮下注射 (SC) | 0, 1, 2週; 以後2週ごと | 極めて高い皮膚クリアランス効果。 | |
ビンゼレックス® (ビメキズマブ) | IL-17A, IL-17F | 皮下注射 (SC) | 4週ごと×4回; 以後8週ごと | デュアル阻害による優れた効果。 | |
IL-23阻害薬 | トレムフィア® (グセルクマブ) | IL-23 | 皮下注射 (SC) | 0, 4週; 以後8週ごと | 効果の持続性が高い。 |
スキリージ® (リサンキズマブ) | IL-23 | 皮下注射 (SC) | 0, 4週; 以後12週ごと | 投与間隔が最も長い選択肢の一つ。 | |
イルミア® (チルドラキズマブ) | IL-23 | 皮下注射 (SC) | 0, 4週; 以後12週ごと | IL-23阻害薬の新たな選択肢。 |
安全性と管理:治療前と治療中に知っておくべきこと
生物学的製剤の使用にあたっては、JDAのガイドラインに沿った厳格な安全管理が求められます22。
- 対象患者: 既存の全身療法(内服薬や光線療法)で効果が不十分、あるいは副作用などで使用できない中等症から重症の乾癬患者様が対象です23。治療の開始は、日本皮膚科学会が承認した医療機関でのみ可能です2。
- スクリーニング: 治療開始前に、結核やB型・C型肝炎といった潜在的な感染症の有無を徹底的に検査する必要があります。
- モニタリング: 治療期間中は、感染症のリスクに常に注意を払い、定期的な診察と検査が行われます。
- 副作用: 全体として安全性の高い薬剤ですが、注射部位の反応や、感染症リスクの軽度な増加などが報告されています20。
実践的アクションプラン:ローカライズと信頼構築(E-E-A-T)
JHO編集委員会は、科学的根拠に基づく正確な情報提供を使命としています。ここでは、日本国内の制度やコミュニティに焦点を当て、患者様が直面する現実的な問題への解決策を提示します。
経済的負担への対応:日本の手厚い公的支援制度
特に生物学的製剤を用いた治療の費用は、多くの患者様にとって大きな懸念事項です。しかし、日本にはこの負担を大幅に軽減するための優れた公的制度が存在します。
最も重要な制度が「高額療養費制度」です。これは、1か月の医療費の自己負担額が所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です24。さらに、過去12か月以内に3回以上上限額に達した場合は、4回目から自己負担上限額がさらに引き下げられる「多数回該当」という仕組みがあり、長期的な治療における経済的負担を大きく軽減します24。また、前述の通り、「汎発性膿疱性乾癬(GPP)」と診断された患者様は、「指定難病医療費助成制度」により、さらに手厚い助成を受けることができます13。
所得区分 | 年収の目安 | 自己負担上限額(月額) | 多数回該当の場合の上限額 |
---|---|---|---|
区分ア | 約1,160万円~ | 252,600円 + (総医療費 – 842,000円) × 1% | 140,100円 |
区分イ | 約770万円~約1,160万円 | 167,400円 + (総医療費 – 558,000円) × 1% | 93,000円 |
区分ウ | 約370万円~約770万円 | 80,100円 + (医療費 – 267,000円) × 1% | 44,400円 |
区分エ | ~約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
区分オ | 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
出典:厚生労働省の資料に基づき作成24。実際の計算は個々の状況により異なりますので、詳しくはご加入の公的医療保険(協会けんぽ、組合健保など)にお問い合わせください25。 |
患者体験の統合:コミュニティとの連携
乾癬は、QOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼし、精神的な苦痛や社会的孤立につながることがあります3。同じ病気を抱える仲間と繋がることは、非常に大きな力になります。日本には、情報交換、精神的サポート、そして政策提言などを行う「患者会」が各地に存在します26。代表的な団体として、「NPO法人東京乾癬の会 P-PAT」27や「日本乾癬患者連合会」28などがあります。こうしたコミュニティに参加することで、「一人じゃない」という安心感を得ることができます。
乾癬と共に生きる:ライフスタイルと自己管理
治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことも、症状をコントロールする上で非常に重要です。
- 日常のスキンケアと誘発因子の管理: 皮膚の乾燥は症状を悪化させるため、保湿剤によるスキンケアを習慣づけることが基本です。また、ケブネル現象を避けるため、皮膚を掻きむしったり、強くこすったりしないよう優しく扱うことが大切です2。
- 食事、運動、合併症: 乾癬と、肥満、糖尿病、高脂血症といったメタボリックシンドロームとの間には密接な関連があることが知られています7。高脂肪食や過度のアルコール摂取を避け、バランスの取れた食事を心がけることが推奨されます。また、適度な運動は体重管理に役立ち、全身の健康状態を改善します2。
- メンタルヘルスとストレス軽減: ストレスは乾癬の明確な増悪因子です7。ヨガや瞑想など、自分に合ったストレス管理法を見つけることが助けになります29。うつ病や不安に悩んでいる場合は、決して一人で抱え込まず、専門の医療機関やカウンセラー、あるいは患者会に相談することをためらわないでください。
よくある質問
質問1:乾癬はうつりますか?
質問2:乾癬は完治しますか?
質問3:生物学的製剤の治療費はどのくらいかかりますか?
質問4:乾癬性関節炎(PsA)が疑われる場合、何科を受診すればよいですか?
結論:希望と自己決定権を手に
乾癬は、かつてのように治療が困難な疾患ではありません。現代の医学、特に生物学的製剤の登場により、その治療パラダイムは大きく変わりました。皮膚症状をほぼ完全に消失させ、QOLを劇的に改善することは、もはや特別なことではなく、多くの患者様にとって現実的な目標となっています4。最も重要なのは、乾癬がコントロール可能で、決して感染しない病気であるという事実を理解することです。正しい知識を武器に、ご自身の体の声に耳を傾け、主治医と積極的に対話し、治療のパートナーとして共に歩むこと。それが、乾癬と共により良い人生を築くための鍵となります。乾癬の研究は今も日進月歩で進んでおり、未来はさらに明るいものとなるでしょう30。
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
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