多胎妊娠とは?原因・種類・リスクから管理・出産・日本の公的支援まですべて
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多胎妊娠とは?原因・種類・リスクから管理・出産・日本の公的支援まですべて

多胎妊娠とは、ふたご(双胎)、みつご(品胎)など、一度に2人以上の赤ちゃんを子宮内で育む妊娠のことです1。近年、母親の出産年齢の上昇や生殖補助医療(ART)の普及に伴い、多胎妊娠を経験する方は決して珍しくありません2。実際に、日本の最新の公式統計を見てみましょう。政府統計の総合窓口(e-Stat)が公表した令和4年(2022年)の人口動態統計によると、日本の総分娩件数773,993件に対し、多胎(複産)分娩は8,708件で、全分娩の1.19%を占めています3。これは、約84回の分娩に1回の割合で多胎分娩が起きている計算になり、多くの人々が経験する可能性のある、身近な出来事であることを意味します。

この記事の科学的根拠

本記事は、周産期医療を専門とする医学博士兼メディカルライターの監修のもと、以下に示す国内外の主要な学会ガイドラインおよび政府機関の報告書といった、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。すべての情報は出典を明記し、読者の皆様がご自身で検証できるよう透明性を確保しています。

  • 日本産科婦人科学会 (JSOG) & 日本産婦人科医会 (JAOG): 本記事における多胎妊娠の医学的管理、診断、分娩に関する推奨は、日本の産科臨床における最高基準である「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2023」に準拠しています4
  • 厚生労働省 (MHLW) & こども家庭庁 (CFA): 日本国内の統計データ、および多胎児家庭に対する公的支援制度に関する記述は、厚生労働省およびこども家庭庁が公表する最新の報告書やデータに基づいています56
  • 米国産科婦人科学会 (ACOG): 日本の診療方針を国際的な標準と比較し、より深い科学的根拠を示すため、世界で最も権威あるガイドラインの一つであるACOGの実践速報「Multifetal Gestations」を重要な参考文献としています7
  • 日本多胎支援協会 (JAMBA): 多胎家庭が直面する具体的な課題や心理的・社会的支援に関する記述は、当事者と専門家の知見が集約された日本多胎支援協会のガイドラインを参考にしています8

この記事の要点まとめ

  • 多胎妊娠は、日本では約84回の分娩に1回の割合で起こる身近なものです。
  • 産科医療で最も重要なのは「卵性(一卵性/二卵性)」よりも、胎盤を共有するかどうかで決まる「膜性(まくせい)診断」です。
  • 多胎妊娠は早産や妊娠高血圧症候群などのリスクが高い「ハイリスク妊娠」であり、膜性に応じた専門的な管理が必要です。
  • 特に胎盤を一つ共有する「一絨毛膜性双胎」では、双胎間輸血症候群(TTTS)などの特有の重篤な合併症に注意が必要です。
  • 日本では、妊婦健診費用の追加助成や高額療養費制度、人数分の出産育児一時金など、多胎家庭を手厚く支援する公的制度が充実しています。一人で抱え込まず、専門家や支援団体に相談することが重要です。

1. 多胎妊娠の原因と種類:一卵性と二卵性、そして最も重要な「膜性」

多胎妊娠と診断されたとき、多くの人が「一卵性?二卵性?」と考えますが、産科医療で最も重要視されるのは、実は「膜性(まくせい)」という分類です。ここでは、その違いと重要性について詳しく解説します。

1.1. なぜ多胎妊娠が起こるのか?

多胎妊娠は、主に二つの異なるメカニズムによって起こります。

  • 二卵性多胎(Fraternal Multiples):
    これは、複数の卵子が排卵され、それぞれが別の精子と受精することで成立します9。遺伝的には通常の兄弟姉妹と同じ関係です。二卵性多胎の発生頻度は、以下の要因に影響されることが知られています2
    • 母親の年齢: 年齢が上がると、卵巣を刺激するホルモンの分泌量が増え、一度に複数の卵子が排卵されやすくなります。35歳以上の女性で頻度が高まります10
    • 遺伝的素因: 母親の家系に二卵性双胎の方がいる場合、その傾向が遺伝することがあります11
    • 人種差: アフリカ系の女性で最も頻度が高く、アジア系の女性では比較的低いとされています10
    • 生殖補助医療(ART): 日本生殖医学会によると、排卵誘発剤の使用や体外受精での複数胚移植は、多胎妊娠の確率を高める主な要因です121
  • 一卵性多胎(Identical Multiples):
    これは、1つの受精卵が、発生の早い段階で偶然2つ(あるいはそれ以上)に分裂することで成立します10。分裂した胚は同じ遺伝情報を持つため、性別や血液型は同じで、容姿も非常によく似ます。一卵性双胎の発生率は人種や年齢に関わらず、ほぼ一定(出生1000組あたり約4組)とされていますが、その分裂が起こる明確な原因はまだ解明されていません9

1.2. 臨床で最も重要:「膜性診断」とは?

産科医が多胎妊娠の管理方針を決定する上で、卵性(一卵性か二卵性か)よりもはるかに重要なのが「膜性診断」です。これは、赤ちゃんを包む膜(絨毛膜と羊膜)と胎盤の数を超音波検査で確認することです9

なぜ膜性が重要なのか?
胎盤を共有しているかどうかで、赤ちゃんたちの健康リスクが大きく異なるためです。日本産科婦人科学会のガイドラインでも強調されているように、胎盤が一つ(一絨毛膜性)の場合、赤ちゃんたちの血管が胎盤内でつながっている可能性があり、血液のバランスが崩れるなどの特有の合併症が起こりやすくなります。そのため、より慎重な管理が必要となるのです4

膜性診断は、妊娠初期、特に妊娠10週前後に行うのが最も正確です4。超音波検査で、膜の厚さや付け根の形(「ラムダ(λ)サイン」や「Tサイン」と呼ばれる特徴)を見て判断します13

【双胎(ふたご)における膜性の主な3つのタイプ】

  • 二絨毛膜二羊膜(DD)双胎:
    特徴は胎盤が2つ、赤ちゃんを包む部屋(羊膜腔)も2つあることです。それぞれが独立しており、二卵性双胎のすべてと、一卵性双胎の約3分の1(非常に早い段階で分裂した場合)がこれに該当します。最もリスクが低いタイプとされています9
  • 一絨毛膜二羊膜(MD)双胎:
    胎盤は1つを共有しますが、部屋は2つに分かれているタイプです。一卵性双胎の約3分の2を占め、最も多い一卵性のタイプです。胎盤を共有するため、特有の合併症のリスクがあり、慎重な管理が必要となります14
  • 一絨毛膜一羊膜(MM)双胎:
    胎盤も部屋も1つで、2人の赤ちゃんが同じ部屋の中にいるタイプです。一卵性双胎の約1~2%と稀ですが、へその緒(臍帯)が絡み合うリスク(臍帯巻絡)などがあり、最も厳重な管理を要します14

2. 多胎妊娠に伴うリスク:お母さんと赤ちゃんのために知っておくべきこと

多胎妊娠は、単胎妊娠に比べてお母さんと赤ちゃんの両方にさまざまな合併症が起こりやすい「ハイリスク妊娠」です。しかし、リスクを正しく理解し、適切な妊婦健診を受けることで、多くの問題は早期に発見し、管理することができます。

2.1. すべての多胎妊娠に共通するリスク

これらのリスクは、子宮が過剰に大きくなることや、胎盤の総量が増えることなどが原因で起こります。

お母さんへのリスク:

  • 妊娠高血圧症候群(HDP): 単胎妊娠の2~3倍起こりやすいとされています。重症化すると母子ともに危険な状態になるため、血圧と尿蛋白の定期的なチェックが不可欠です15
  • 妊娠糖尿病(GDM): 複数の胎盤から出るホルモンの影響で、血糖値が上がりやすくなります。食事療法やインスリン治療が必要になることがあります7
  • 貧血: 赤ちゃんたちに多くの鉄分を供給するため、重度の鉄欠乏性貧血になりやすいです。鉄剤の補充が必要となることが多いです16
  • 血栓症: 大きくなった子宮が血管を圧迫し、血が固まりやすくなるため、深部静脈血栓症や肺塞栓症のリスクが高まります4
  • 産後の弛緩出血: 大きく伸びた子宮が出産後に収縮しにくく、大量出血を起こすリスクが高まります17

赤ちゃんへのリスク:

  • 早産(Preterm Birth): 多胎妊娠における最大かつ最も頻度の高い合併症です。米国産科婦人科学会(ACOG)によれば、双胎妊娠の約60%が妊娠37週未満の早産となります18。早く生まれた赤ちゃんは、呼吸障害や感染症などのリスクがあり、新生児集中治療室(NICU)でのケアが必要になることがあります。
  • 低出生体重児(Low Birth Weight): 早産であることに加え、子宮内でのお互いのスペースが限られるため、赤ちゃんが小さく生まれる傾向があります。双胎の平均出生体重は約2300gです15
  • 胎児発育不全(Fetal Growth Restriction, FGR): 赤ちゃんの発育が週数相当の基準よりも遅れる状態です。定期的な超音波検査で発育を注意深く監視します19

2.2. 【特に注意】一絨毛膜性(胎盤が一つ)特有の重篤な合併症

胎盤を共有する一絨毛膜性双胎(MD双胎、MM双胎)では、胎盤内の血管吻合(血管のつながり)が原因で、以下のような特有の合併症が起こることがあります。これらは専門的な診断と治療が必要なため、日本産科婦人科学会のガイドラインでも、総合周産期母子医療センターなどの高次医療施設での管理が推奨されています4

  • 双胎間輸血症候群(TTTS): 一方の赤ちゃん(供血児)からもう一方の赤ちゃん(受血児)へ血液が一方的に流れ込んでしまう病態です。供血児は貧血で羊水が少なくなり、受血児は多血で羊水が多くなります。一絨毛膜性双胎の10~15%に発生し、治療しない場合の予後は極めて不良です。治療法として、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)があります4
  • 選択的胎児発育不全(sFGR): 胎盤の分け方が不均等なために、一方の赤ちゃんだけが極端に小さくなってしまう状態です4
  • 双胎貧血多血症シークエンス(TAPS): 微細な血管吻合を通じて、ゆっくりと血液の移動が起こり、一方が貧血、もう一方が多血になる病態です14
  • 無心体双胎(TRAP): 一方の赤ちゃんが心臓を持たず、もう一方の正常な赤ちゃんから血液供給を受けて生存している極めて稀な状態です。正常な赤ちゃんに大きな負担がかかるため、血流を遮断する治療が行われます4

表2:膜性による双胎の分類と主なリスク

膜性の種類 胎盤の数 羊膜の数 頻度 主なリスク
二絨毛膜二羊膜 (DD) 2つ 2つ 全双胎の約70% 早産、妊娠高血圧症候群など(一般的な多胎リスク)
一絨毛膜二羊膜 (MD) 1つ 2つ 全双胎の約30% 一般的な多胎リスクに加え、TTTS, sFGR, TAPS
一絨毛膜一羊膜 (MM) 1つ 1つ 全双胎の約1% MD双胎のリスクに加え、臍帯巻絡(へその緒の絡み合い)

典拠: ACOG Practice Bulletin No. 2317, RCOG Green-top Guideline No. 5120, JSOG 産婦人科診療ガイドライン産科編20234

3. 多胎妊娠中の管理:安全な出産に向けた過ごし方

多胎妊娠では、合併症を早期に発見し、適切に対応するために、単胎妊娠よりもきめ細やかな管理が行われます。

3.1. 妊婦健診のスケジュール

健診の頻度は、リスクの度合いを決定する「膜性」によって異なります。

  • 二絨毛膜二羊膜(DD)双胎の場合:
    リスクが比較的低いため、単胎妊娠に準じたスケジュールが基本です。一般的には、妊娠24週頃までは4週間に1回、妊娠24週から36週までは2週間に1回、それ以降は毎週となります19
  • 一絨毛膜性(MD, MM)双胎の場合:
    TTTSなどの特有の合併症を早期に発見するため、より頻回な健診が必要です。日本産科婦人科学会のガイドラインでは、妊娠16週頃から少なくとも2週間に1回の超音波検査が推奨されています4

健診では、血圧測定や尿検査に加え、超音波検査で赤ちゃんたちの発育、羊水量、胎盤の位置などを詳細にチェックします。

3.2. 栄養と体重管理

「2人分、3人分食べなければ」というのは誤解です。量よりも質を重視した食生活が大切です。

  • カロリー摂取量: 単胎妊娠の場合に比べて、1日あたり約600キロカロリー(双胎の場合)の追加が必要とされています21。これは、おにぎり2個とヨーグルト1個分程度に相当します。一度にたくさん食べられないことが多いため、分食(食事の回数を増やす)などの工夫が有効です。
  • 重要な栄養素:
    • 鉄分: 貧血予防のため、赤身の肉や魚、ほうれん草などを積極的に摂り、必要に応じて鉄剤が処方されます19
    • 葉酸: 赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを低減するため、妊娠初期からサプリメントでの摂取が推奨されます。Brigham and Women’s Hospitalのガイドラインでは、多胎妊娠の場合1日1mg(1000µg)の摂取を推奨しています19
  • 推奨体重増加量: 妊娠前の体格(BMI)によって異なりますが、米国の医学研究所(IOM)は、双胎妊娠の場合、普通体重(BMI 18.5~24.9)の女性で16.8~24.5kgの体重増加を推奨しています19。主治医と相談しながら、適切な体重管理を目指しましょう。

3.3. 早産予防について:医学的に正しい知識

早産は多胎妊娠における最大の懸念事項ですが、残念ながら、現時点でその発生を確実に予防できる方法は確立されていません。

注意:広く信じられているが、効果が証明されていない予防法

ACOGなどの国際的なガイドラインでは、多胎妊娠というだけで予防的に以下の介入を行うことは、早産率を低下させる効果がないと結論付けています18

  • prophylactic cerclage(予防的子宮頸管縫縮術)
  • routine hospitalization or bed rest(ルーチンの入院や安静指示)
  • prophylactic tocolytics(予防的な子宮収縮抑制剤の投与)

これらの治療は、切迫早産の兆候が見られるなど、医学的に必要と判断された場合にのみ行われます。自己判断での過度な安静は、かえって血栓症のリスクを高める可能性もあるため、必ず主治医の指示に従ってください。

3.4. 管理入院について

妊娠経過中に、切迫早産(お腹の張りや出血、子宮頸管の短縮)や妊娠高血圧症候群などの合併症が認められた場合、安静や治療のために管理入院が必要となることがあります9。特に三つ子以上の妊娠では、妊娠中期(20週代)から予防的に管理入院となることも少なくありません9。長期入院になる可能性も念頭に、仕事の引き継ぎや上の子のケアなど、家族と事前に準備をしておくと安心です。

4. 多胎妊娠の分娩:いつ、どのように産むのか?

多胎妊娠のゴールである出産は、母子ともに最も安全な方法が慎重に選択されます。

4.1. 分娩の時期:安全を最優先した計画分娩

単胎妊娠では自然な陣痛発来を待つことが多いですが、多胎妊娠では、赤ちゃんの状態が良好なうちに計画的に分娩(誘発分娩または予定帝王切開)を行うことが一般的です。これは、妊娠週数が進むと胎盤の機能が低下し、赤ちゃんが元気がなくなってしまうリスクが高まるためです22
分娩の推奨時期は膜性によって異なります。以下は、合併症のない双胎妊娠における国際的な目安です。

表3:合併症のない双胎妊娠における推奨分娩週数

膜性の種類 推奨される分娩時期(妊娠週数) 典拠
二絨毛膜二羊膜 (DD) 38週0日~38週6日 ACOG7, SMFM14
一絨毛膜二羊膜 (MD) 34週0日~37週6日 ACOG7, SMFM14
一絨毛膜一羊膜 (MM) 32週0日~34週0日 ACOG7, SMFM14

(注:これはあくまで目安であり、個々の状況に応じて主治医が最適な時期を判断します。)

4.2. 分娩の方法:帝王切開だけが選択肢ではない

「双子=帝王切開」というイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。分娩方法は、赤ちゃんたちの位置(胎位)や週数、施設の体制などを考慮して総合的に決定されます23

  • 経腟分娩が可能な場合:
    ACOGによれば、先進児(子宮口に一番近い、先に出てくる赤ちゃん)が頭位(頭が下)であることが、経腟分娩を試みるための最も重要な条件です7。この場合、2人目の赤ちゃんが骨盤位(逆子)であっても、経験豊富な産科医のもとで経腟分娩が可能な場合があります21
  • 帝王切開が選択される場合:
    以下のような状況では、安全を最優先して予定帝王切開が選択されることがほとんどです。
    • 先進児が頭位でない場合(骨盤位や横位など)17
    • 一絨毛膜一羊膜(MM)双胎(臍帯巻絡のリスクを避けるため)23
    • 三つ子以上の多胎妊娠9
    • 重度の妊娠高血圧症候群や胎児機能不全など、母体や赤ちゃんに緊急性がある場合

いずれの方法であっても、多胎妊娠の分娩は、新生児科医や麻酔科医が待機し、緊急帝王切開に即座に対応できる体制の整った周産期医療センターなどの施設で行われるのが原則です7

5. 日本における社会的・経済的支援:ひとりで悩まないために

多胎児の妊娠・出産・育児は、喜びが大きい一方で、身体的・精神的・経済的な負担も大きくなりがちです。しかし、日本ではそうした家庭を支えるための様々な公的支援制度が整備されています。一人で抱え込まず、利用できる制度は積極的に活用しましょう。

5.1. 多胎家庭が直面する現実

厚生労働省の報告書や日本多胎支援協会の調査では、多胎家庭が以下のような困難に直面しやすいことが報告されています58

  • 圧倒的な身体的負担: 24時間体制での授乳やおむつ交換、寝かしつけによる慢性的な睡眠不足と疲労。
  • 精神的負担と社会的孤立: 外出が困難なため社会から孤立しやすく、産後うつのリスクが単胎児の母親より高い。
  • 経済的負担: ミルクやおむつ、衣類などの消耗品が2倍、3倍と必要になる。双子用ベビーカーなど、特殊で高価な育児用品も必要になる24

これらの課題に対応するため、国や自治体は様々な支援策を用意しています。

5.2. 妊娠中から利用できる公的支援

  • 妊婦健診費用の助成:
    多胎妊娠では健診回数が多くなるため、多くの自治体で、通常の妊婦健診の公費助成券(受診票)に加えて、多胎妊婦専用の追加助成券を交付しています25。母子健康手帳の交付を受ける際に、お住まいの市区町村の窓口で必ず確認しましょう。
  • 産前・産後サポート事業(厚生労働省):
    多くの自治体がこの事業を活用し、多胎家庭への支援を行っています6。具体例としては、家事や育児を支援するヘルパーを低料金または無料で派遣するサービスや、多胎育児経験者(ピアサポーター)による相談・情報提供、妊婦健診時のタクシー利用料助成などがあります5

5.3. 出産・育児に関する経済的支援

  • 出産育児一時金:
    健康保険から支給される、出産費用の補助です。赤ちゃん1人につき支給されるため、双子なら2人分、三つ子なら3人分が支給されます。例えば、1人あたり50万円(2023年4月以降)の場合、双子であれば100万円が支給されます26
  • 医療費の自己負担(高額療養費制度):
    管理入院や帝王切開などで医療費が高額になっても、日本の健康保険には「高額療養費制度」があります。これは、1か月の医療費の自己負担額が所得に応じた上限額を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です26。事前に「限度額適用認定証」を申請しておくと、窓口での支払いが上限額までで済みます。
  • 児童手当・乳幼児医療費助成:
    これらも当然、子どもの人数分、支給・適用されます。忘れずに申請しましょう。

5.4. 産後の育児支援サービス

  • ファミリー・サポート・センター: 地域で育児の助け合いを行う会員組織。比較的安価で子どもを預かってもらえます。
  • 一時預かり・ベビーシッター: 自治体が運営する施設や民間のサービスがあります。自治体によっては、多胎家庭向けに利用料の助成制度を設けている場合があります。
  • 家事代行サービス: 経済的な負担はありますが、産後の大変な時期に家事をアウトソーシングすることで、心身の負担を大きく軽減できます。

5.5. 相談窓口とコミュニティ

孤立を防ぎ、情報を得るために、専門家や同じ境遇の仲間とつながることが非常に重要です。

  • 地域の保健センター(母子保健担当): 地域の母子保健の拠点です。保健師は、産後の心身のケアや利用できるサービスについて、専門的な視点から相談に乗ってくれます。
  • 一般社団法人 日本多胎支援協会 (JAMBA): 日本最大の多胎支援団体です。ウェブサイトでは、全国の多胎児サークルの情報や、オンラインでの相談会、多胎育児に関する豊富な情報を提供しています。困ったときには、ぜひアクセスしてみてください8

よくある質問(FAQ)

Q1: 多胎妊娠の管理入院や出産には、合計でどのくらいの費用がかかりますか?
費用は病院や個室利用の有無で大きく異なりますが、高額な自己負担が発生することは稀です。管理入院や帝王切開は健康保険が適用され、「高額療養費制度」により月々の自己負担額には上限があります(所得によりますが、一般的には約8~9万円程度)。さらに「出産育児一時金」が赤ちゃんの人数分支給されるため、多くの場合、実際にかかった費用を差し引いても手元にお金が残ることがあります26。ただし、差額ベッド代や食事代の一部は自己負担となるため、事前に病院に確認しておくと安心です。
Q2: 仕事はいつまで続けられますか?産休・育休制度について教えてください。
多胎妊娠の場合、母体への負担を考慮し、産前休業は単胎妊娠よりも長く、出産予定日の14週間前から取得できます(単胎は6週間前)。産後休業は単胎と同様に8週間です5。育児休業も原則として子どもが1歳になるまで取得できます。体調には個人差があるため、いつまで働くかは主治医とよく相談して決めましょう。
Q3: 遺伝で双子が生まれやすくなるというのは本当ですか?
二卵性双胎については、母親側にその体質(一度に複数の卵子を排卵しやすい)が遺伝することがあり、事実と言えます11。一方、一卵性双胎は、受精卵が偶然分裂する現象であり、基本的には遺伝とは関係ないと考えられています9
Q4: 上の子がいる場合、どのようにケアすればよいですか?
多胎妊娠・出産では、管理入院や産後の育児で、どうしても上の子との時間が減ってしまいがちです。これは多くの多胎家庭が経験する悩みです8。事前に、入院中や産後のサポート体制を家族(夫、両親など)と具体的に話し合っておくことが重要です。また、自治体のファミリー・サポート・センターや、一時預かりなどの公的サービスを積極的に活用し、上の子と一対一で関わる時間を意識的に作ることも大切です。

結論

多胎妊娠は、早産や妊娠高血圧症候群などの医学的リスクを伴う「ハイリスク妊娠」です。しかし、本記事で解説したように、そのリスクは適切な医学的管理によって最小限に抑えることが可能です。特に、妊娠初期の正確な「膜性診断」に基づいた、専門家によるきめ細やかな妊婦健診が、母子ともに安全な出産を迎えるための鍵となります。また、出産後の育児は身体的・精神的に大きな挑戦となりますが、日本には多胎家庭を支えるための多様な社会的・経済的支援制度が整っています。健康保険制度による医療費の補助、人数分もらえる出産育児一時金、そして各自治体が提供するヘルパー派遣やピアサポートなど、利用できる資源は数多く存在します。最も大切なことは、一人で悩みや不安を抱え込まないことです。かかりつけの産婦人科医、地域の保健師、そして日本多胎支援協会のようなコミュニティは、あなたとあなたの家族の強力な味方です。正しい情報を得て、利用できるサポートを最大限に活用し、複数の新しい命を迎えるという、かけがえのない喜びを、自信と安心感を持って享受してください。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  21. Twin Pregnancy: Answers from an Expert | Johns Hopkins Medicine. [インターネット]. [引用日: 2025年6月21日]. Available from: https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/staying-healthy-during-pregnancy/twin-pregnancy-answers-from-maternal-fetal-medicine-specialist
  22. 2)多胎の分娩時期と分娩管理. 日本産科婦人科學會雜誌. 2009;61(9):N-419-N-423. Available from: https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/61/9/KJ00005703765.pdf
  23. Brigham and Women’s Hospital. Twin Pregnancy Labor and Delivery Guidelines. [インターネット]. [引用日: 2025年6月21日]. Available from: https://www.brighamandwomens.org/obgyn/maternal-fetal-medicine/for-medical-professionals/twin-pregnancy-labor-and-delivery-guidelines-for-medical-professionals
  24. 4.多胎児について – WAM NET. [インターネット]. [引用日: 2025年6月21日]. Available from: https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/kn/kn005.html
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  26. 【双子妊娠】管理入院でもらったお金を公開!保険の思わぬ落とし穴も. [インターネット]. [引用日: 2025年6月21日]. Available from: https://www.nissen-life.co.jp/willnavi/hokennoho/category_14/1009.html
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