【医師監修】赤ちゃんのうんちの粘液:正常か病気か?原因、見分け方、受診の目安を専門家が徹底解説
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【医師監修】赤ちゃんのうんちの粘液:正常か病気か?原因、見分け方、受診の目安を専門家が徹底解説

赤ちゃんのうんちは、消化器系の健康状態を示す最も重要な指標の一つです。保護者の皆様が、うんちの変化、特に粘液の出現に気づき、心配されるのは正当かつ必要な関心事です。この記事は、JapaneseHealth.org(JHO)編集委員会が、小児消化器学の専門的知見と科学的根拠に基づき、皆様の疑問に包括的にお答えするために作成しました。本稿では、まず粘液の生理的な役割を解説し、次にうんちに含まれる粘液が増加する様々な原因を詳述します。そして最も重要な点として、どのような場合に医療機関を受診すべきか、明確で実践的な指針を提示します。私たちの目標は、保護者の皆様の不安を、情報に基づいた観察と自信に満ちた行動へと転換させることです。

この記事の科学的根拠

この記事は、参考文献として明示された質の高い医学的エビデンスのみに基づいています。以下に、本稿で言及される医学的指針と関連する主要な情報源を示します。

  • 妙佑医療国際 (Mayo Clinic): 腸管における粘液の保護的役割に関する記述は、同機関が提供する情報に基づいています。1
  • 世界保健機関(WHO)および米国小児科学会(AAP): 授乳や乳児の便に関する一般的な指針は、これらの国際的な保健機関の見解を参考にしています。640
  • 日本小児感染症学会: 感染性胃腸炎に関する記述は、同学会が発行する「小児消化管感染症診療ガイドライン」などの専門的指針に基づいています。2344
  • 厚生労働省研究班および関連学会: 食物アレルギー(特に新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸炎)に関する診断・治療指針は、日本の専門家による研究成果と提言に基づいています。27
  • 日本小児科学会および関連研究機関: 炎症性腸疾患(IBD)や日本の小児医療における特定の状況(例:便色カード)に関する情報は、国内の学会や研究センターの報告に基づいています。3339

要点まとめ

  • 粘液は必ずしも異常ではない: 健康な腸でも、潤滑と保護のために粘液は自然に分泌されます。特に母乳栄養児の便に少量の粘液が見られるのは一般的です。
  • 赤ちゃんの全体的な状態が最も重要: 赤ちゃんが機嫌良く、元気に哺乳・食事をし、熱もない場合、一時的な粘液の増加は多くの場合、心配ありません。
  • 警戒すべき「赤信号」の便を知る: イチゴジャムのような便(赤黒い血と粘液の混じり)、白い・灰色の便、多量の血便は、緊急の医療介入を必要とするサインです。
  • 付随する症状に注意する: 高熱、頻繁な嘔吐、腹痛、体重減少、ぐったりしているなど、粘液便に他の症状が伴う場合は、速やかに医師の診察を受けるべきです。
  • 正確な情報提供が診断の鍵: 受診の際は、便の写真や症状の記録(いつから、どのような便が、他の症状は何か)を持参することが、迅速かつ正確な診断につながります。

第1章:消化の生理機能と新生児の便:正常な基準を理解する

異常な状態を分析する前に、粘液が本質的に有害な物質ではないことを理解することが基本です。むしろ、粘液は健康な消化器系に不可欠な構成要素です。

1.1. 健康な腸における粘液の保護的役割

腸は、粘膜を覆い保護するため、消化を助けるため、そして便がスムーズに移動するための潤滑剤として、自然にゲル状の粘液を分泌します1。その主な機能は保護と補助です。したがって、便に少量の粘液が混じること自体は、通常、懸念すべきことではありません1。この基本的な役割を理解することは、粘液の存在を確認した際の不必要な心配を避ける上で極めて重要です。

1.2. 新生児の便の臨床的変化:発達段階ごとのガイド

保護者にとって最も大きな不安の一つは、赤ちゃんの便が絶えず変化することです。しかし、新生児における「正常」は静的な状態ではなく、動的な範囲であることを認識することが重要です。赤ちゃんの便は、消化器系の成熟と食事内容の変化を反映し、予測可能な進化を遂げます。

  • 胎便(生後数日間): これは赤ちゃんの最初の便で、黒緑色で粘り気があり、タールのようにべっとりしています。胎便は、赤ちゃんが子宮内で飲み込んだ羊水、粘液、皮膚細胞などで構成されており、粘液を含むのが正常です2。日本小児外科学会によると、胎便が正常に排出されない場合は、胎便閉塞性疾患などの可能性も考慮されます5
  • 移行便(生後3~5日目): 赤ちゃんが母乳やミルクの消化を始めると、便は緑がかった茶色になり、より緩くなります6
  • 母乳栄養児の便: 便は通常、マスタードイエロー色で、粒々やカッテージチーズのような凝固物を含むことがあります。質感は緩く、わずかに甘い香りがすることがあります。母乳は非常に消化が良く、固形の老廃物が少ないため、腸内の正常な粘液成分が目立ちやすくなります。したがって、母乳栄養児の便が粘液質に見えることは一般的であり、完全に正常な現象です4
  • 人工乳(ミルク)栄養児の便: 便の色は黄色、薄茶色、または緑がかった茶色など様々です。質感は母乳栄養児の便よりも固め(ペースト状で、ピーナッツバターよりは硬くない)で、より強い匂いがすることがあります。鉄分が強化されたミルクを飲んでいる場合、緑色の便は一般的な現象です6
  • 離乳食期(生後約6ヶ月頃): 離乳食が始まると、便はより固く、茶色っぽくなり、色や質感は食べたものによって多様に変化します(例:ビーツで赤色、ほうれん草で緑色)2

赤ちゃんの便の発達において、変化こそが唯一不変のものです。保護者の役割は、変化のたびに慌てることではなく、その変化が予測される発達の軌道に沿っているかを理解することです。

表1:新生児の便の変化チャート

時期・月齢 典型的な色 典型的な質感 重要な注意点
胎便(生後1~3日) 黒、濃緑色 粘着性、タール状 粘液を含むのが正常。子宮内で飲み込んだ物質を反映。
母乳栄養児(生後3~5日以降) マスタードイエロー、やや緑色 水様、粒状、凝固物あり 母乳が消化しやすいため、粘液が目立つのは一般的で正常。
人工乳栄養児 黄色、薄茶色、緑色 ペースト状、より固め 鉄分強化ミルクでは緑色の便がよく見られる。
離乳食開始(生後約6ヶ月) 茶色、食品により変化 より固く、形がある 色や質感は食べたものを直接反映する。

第2章:便中の粘液増加の一般的かつ多くは良性の原因

多くの場合、便中の粘液の増加は病気の兆候ではなく、新たな刺激や一時的なストレス要因に対する消化器系の生理的反応です。これらの良性の原因に共通する特徴は、粘液の出現が一過性であり、赤ちゃん自身は元気である(食欲があり、機嫌が良く、熱がない)ことです10

2.1. 食事内容の影響

  • 授乳の力学: 前乳(糖分/乳糖が豊富)と後乳(脂肪分が豊富)のバランスが崩れると、泡立ち、緑色で粘液質の便が出ることがあります3。これは、赤ちゃんが片方の乳房を短時間しか吸わない場合に起こり得ます。
  • 母親の食事: 母乳栄養児の場合、母親の食事の急な変更や、特定の食品(例:高糖質、高デンプン、香辛料の多い食事)の摂取が、一時的に赤ちゃんの腸を刺激し、粘液を引き起こすことがあります3
  • 新しい食品の導入: 新しいミルクや離乳食、特にバターや肉などの脂肪分の多い食品を始めると、赤ちゃんの消化器系が適応する過程で、一時的に粘液が増加することがあります3

2.2. 発達上の要因:身体の正常なプロセス

  • 歯の生え始め(歯ぐずり): 歯が生え始める時期には唾液の分泌が増加し、赤ちゃんは大量の唾液を飲み込みます。この唾液中の粘液は、消化されずに消化管を通過し、便の中に現れることがよくあります4
  • 一過性の腸の刺激: 軽い風邪(気道からの粘液を飲み込んだ場合)や食べ過ぎなど、一時的な不快感が原因で、短期間の粘液便が出ることがあります14。どんな軽度の刺激に対しても、腸は保護的な粘液をさらに産生することで反応します。
  • 便秘: 硬いコロコロした便は、排出される際に腸の粘膜を傷つけ、便の表面に粘液(時には少量の血液の筋)が付着する原因となることがあります3

これらの因果関係を認識することは、不必要な不安を和らげるための強力なツールです。もし保護者が粘液便を最近の良性イベント(例:「昨日から歯が生え始めて、よだれがすごい」)と結びつけることができ、赤ちゃんが元気であれば、それは一時的で心配のない現象である可能性が高いです。

第3章:病的要因による粘液便:鑑別診断の概観

「良性」から「病的」な原因への移行は、炎症の存在と、それに伴う全身症状の有無によって判断されます。粘液が単独の病的兆候であることは稀です。その臨床的重要性は、同時に現れる他の症状によって決定されます。

3.1. 感染性急性胃腸炎

これは、粘液を伴うことの多い急性下痢の非常に一般的な原因です。

  • メカニズム: ウイルス(ロタウイルス、ノロウイルス)や細菌(サルモネラ、カンピロバクター、大腸菌、赤痢菌)などの病原体が腸に侵入し、粘膜に炎症を引き起こします。この炎症が粘液と水分の分泌を著しく増加させ、水様性で粘液質の多い下痢を引き起こします3。日本小児感染症学会は、このような状況に対応するための詳細なガイドラインを提供しています23
  • 関連症状: 通常、発熱、嘔吐、腹痛、不快感を伴います。細菌感染症は、高熱や血性粘液便を引き起こす可能性が高くなります8。特に赤痢菌による細菌性赤痢では、粘液と血液が混じった便(粘血便)が特徴的です24
  • 臨床的注意点: 東京医科大学病院の情報によると、ロタウイルスは時に白っぽく、色の薄い便を引き起こすことがあり、ノロウイルスは下痢の前に嘔吐が先行することが多いとされています18

3.2. アレルギーおよび過敏性疾患

食物タンパク質に対する免疫介在性反応は、乳児における持続的な粘液便および血便の主な原因の一つです。

  • 食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)および腸症: これはIgE非介在性のアレルギーの一形態です。嘔吐、下痢、血便、粘液便、そして体重増加不良といった症状で現れることがあります27。主な要因は腸内の炎症反応です。日本では、厚生労働省の研究班によって詳細な診断治療指針が作成されています28
  • 牛乳・大豆タンパクアレルギー: これは新生児において非常に一般的な原因です。大腸の炎症により、粘液便、時には血液の筋を伴う便が見られます3。一見健康そうな新生児が粘血便を呈する場合、これは頻繁に見られる診断です。
  • 診断の手がかり: 症状は通常、生後数ヶ月以内に現れます26。アレルギー原因タンパク質を除去(例:母親が食事から乳製品を除去、または赤ちゃんが加水分解乳に切り替える)した後に症状が改善すると、診断が確定的になります4。便検査では、アレルギー反応に関連する白血球の一種である好酸球の存在が示されることがあります27。好酸球性消化管疾患として、難病に指定されている場合もあります29

3.3. 慢性炎症性疾患:小児の炎症性腸疾患(IBD)

非常に幼い小児では稀ですが、潰瘍性大腸炎やクローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)は、慢性的な炎症の深刻な原因であり、症状が持続する場合には考慮されなければなりません。

  • メカニズム: IBDは、消化管に炎症と潰瘍を引き起こす慢性的な自己免疫疾患です。この炎症により、血漿、タンパク質、血液、そして大量の粘液が便中に漏出します17
  • 潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis – UC): 大腸に影響を及ぼします。症状には血性下痢、腹痛、しぶり腹(便意が頻繁にあるが少量しか出ない感覚)が含まれます。粘液は白/黄色(膿/白血球による)または血液と混じることがあります17。日本小児科学会の調査によると、日本には相当数の小児IBD患者が存在します33
  • クローン病: 消化管のどの部分にも影響を及ぼす可能性があります。症状には腹痛、下痢(通常は非血性だが粘液を伴う)、体重減少、発熱、成長障害が含まれます17
  • 疑うべき時: 2週間以上続く下痢、便中の血液/粘液、腹痛、体重減少または成長障害は、国立成育医療研究センター(NCCHD)のような専門施設での医学的評価を必要とする警告サインです36

3.4. 緊急治療を要する構造的・閉塞性疾患

これらは外科的緊急事態であり、粘液便が重要な診断的手がかりとなります。

  • 腸重積症(Intussusception): 腸の一部が隣接する腸の部分にはまり込み、閉塞を引き起こす状態です。これは医療緊急事態です。古典的な兆候は「イチゴジャム様」または「ラズベリージャム様」の便、つまり暗赤色の血液と粘液の混合物です4。通常、周期的で突然の激しい腹痛(赤ちゃんが金切り声を上げて泣き、脚を胸に引きつける)と嘔吐を伴います32
  • ヒルシュスプルング病: 腸の一部に神経細胞が欠損している先天性疾患で、機能的な閉塞を引き起こします。新生児では、胎便の排出遅延、腹部膨満、緑色の胆汁性嘔吐で現れることがあります38。年長児では重度の便秘を引き起こしますが、深刻な合併症として腸炎があり、これは悪臭を伴う爆発的な水様性下痢、または血性/粘液性の便と発熱で現れます38

3.5. 消化管に症状が現れるその他の重要な疾患

  • 嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis – CF): 全身の粘液産生に影響を与える遺伝性疾患です。腸では、脂肪の吸収不良を引き起こし、かさばる、脂っこい、悪臭のする、粘液を伴う便と体重増加不良の原因となります10
  • 胆道閉鎖症および肝疾患: 胆管の閉塞。この状態は通常、粘液便を引き起こしませんが、新生児において重要な鑑別診断です。特徴的な兆候は、薄い色、白色または灰色の便(無胆汁便)で、しばしば黄疸(皮膚や眼球が黄色くなる)を伴います3。日本の母子健康手帳に同封されている「便色カード」は、この疾患の重要なスクリーニングツールです39

表2:粘液便を呈する疾患の臨床的鑑別

病状 典型的な年齢 主な便の特徴(粘液、血液、色) 主な付随症状 緊急度
胃腸炎 全年齢 粘液、水様性、血便の可能性(特に細菌性) 発熱、嘔吐、腹痛、不機嫌 医師に連絡/脱水症状の監視
牛乳/大豆アレルギー 0~6ヶ月 粘液、しばしば新鮮血の筋 通常は元気、ぐずり、腹部膨満の可能性 小児科医に連絡
炎症性腸疾患(IBD) 通常は年長児だが全年齢で可能性 粘液、しばしば血便、慢性下痢 体重減少、成長障害、腹痛、発熱 小児科医/専門医に連絡
腸重積症 3ヶ月~3歳 「イチゴジャム様」便(暗赤色の血液と粘液) 周期的な激しい腹痛、嘔吐、嗜眠 救急 – 直ちに病院へ
ヒルシュスプルング腸炎 新生児/乳児 爆発的な悪臭のある下痢、血便/粘液の可能性 高熱、腹部膨満、嗜眠 救急 – 直ちに病院へ

第4章:医療機関受診のための確実なガイド:臨床的警告サイン(レッドフラグ)の認識

すべての警告サインが同じレベルの危険性を持つわけではありません。「懸念すべき」状態と「救急」状態を区別することが重要です。このガイドは、保護者が正しく、時機を逸することなく決断を下すための分類システムとして構成されています。

4.1. 視覚的警告:緊急行動を要する便の色と性状のチャート

便のいくつかの特徴は、ほぼ常に異常であり、直ちに医学的評価が必要です。

  • 赤色または黒色の便(新鮮血/タール便):
    • 鮮血の筋は、便秘3や牛乳アレルギー8のような良性の原因によることもありますが、常に評価が必要です。
    • 便や粘液に混じった大量の赤い血液は、細菌性腸炎やIBDのような、より深刻な問題を示唆します9
    • タールのような黒い便(胎便期以降)は、上部消化管からの出血を示唆します6
  • 「イチゴジャム様」の便: 暗赤色の血液が粘液と混じったこの特徴的な外観は、外科的緊急事態である腸重積症の古典的な兆候です9
  • 白色、薄い色、または灰色の便(無胆汁便): これは胆道閉鎖症などの肝臓や胆道の問題に対する主要な警告サインであり、直ちに医療介入が必要です3
  • 膿または多量の水様性粘液: 白/黄色で膿のように見える粘液は、重大な細菌感染または重度の炎症(IBDなど)を示唆します9。粘液を伴う非常に水っぽい爆発的な下痢は、重症胃腸炎の兆候であり、脱水のリスクが高いです10

4.2. 即時の医学的評価を要する症状群

赤ちゃんの全体的な状態は、便そのものと同じくらい重要です。

  • 発熱と全身疾患: 高熱、特に血性/粘液性の下痢を伴う場合は、重大な感染症(細菌性腸炎、壊死性腸炎)またはIBDの急性増悪を示唆します17
  • 持続的な嘔吐と脱水: 嘔吐は、特に下痢と組み合わさると、乳児を急速に脱水状態に陥らせます。脱水の兆候には、眼のくぼみ、口唇の乾燥、泣いても涙が出ない、おむつが濡れる回数の著しい減少などがあります。これは医療緊急事態です3
  • 腹痛、腹部膨満、そしてなだめられない泣き: 激しく、周期的な痛み(泣き叫び、脚を胸に引きつける)は、腸重積症の主要な兆候です32。張って硬い腹部は、閉塞(腸重積症、ヒルシュスプルング病)または重度の炎症を示唆する可能性があります38。なだめることのできない泣きは、相当な痛みのサインです26
  • 嗜眠、成長障害、体重減少: 元気がない、哺乳が悪い、体重が増えない(または減少する)ことは、IBD、FPIES、CF、セリアック病などの慢性的な潜在的問題の重要な兆候です17

4.3. ケアレベルの分類:初期判断ガイド

以下の表は、保護者が「いつ心配すべきか」という問いに直接答えるための、明確な意思決定ツールを提供します。

表3:警告サイン(レッドフラグ)に基づく行動指針

症状・兆候 緊急度 行動 理由
「イチゴジャム様」の便、周期的な激しい腹痛 救急 直ちに救急外来へ。飲食させない。 腸閉塞の一種である腸重積症の強い疑い。
白色、灰色、または薄い色の便 救急 直ちに救急外来へ、または医師に連絡。 肝臓/胆道の問題の警告サイン。
脱水の兆候(おむつが乾いている、眼のくぼみ、嗜眠) 救急 直ちに救急外来へ。 乳児の脱水は急速に進行し、危険。
高熱と血性・粘液性下痢 緊急 直ちに医師に連絡、または救急外来へ。 重篤な細菌感染症または腸炎の可能性。
腹部膨満、硬い腹、緑色の嘔吐 緊急 直ちに医師に連絡、または救急外来へ。 腸閉塞または重度の炎症の兆候。
便中の血液(わずかな筋以上) 医師に連絡 診療時間内に小児科医に連絡。 原因を特定するための評価が必要。
2~3日以上続く下痢または粘液 医師に連絡 診療時間内に小児科医に連絡。 感染症やその他の問題を除外するための評価が必要。
粘液はあるが、赤ちゃんは元気で機嫌が良い 経過観察 自宅で様子を見る。歯の生え始めや食事の変化と関連づける。 通常は良性で一過性のもの。

第5章:小児科医との連携:診断への道のり

診断プロセスは、保護者と医師との共同作業です。保護者からの質の高い情報提供は、診断の効率と正確性に直接影響します。

5.1. 診察への準備:効果的な観察と記録

正確な診断を促すために、保護者は事前に準備をすべきです。

  • 症状日誌: 便の頻度、性状、色、および関連する症状(発熱、嘔吐、痛みなど)とその出現時期を記録します。
  • 便の写真を撮る: 百聞は一見に如かず。赤ちゃんのオムツの写真を撮って持参することは、医師や主要な医療センターによって推奨されています36。これは、便を正確に説明する難しさを克服するのに役立ちます。
  • 食事日誌: 赤ちゃん(および授乳中の母親)が何を食べたかを記録します。
  • 便のサンプルを持参する: 可能であれば、また医師の指示があれば、便のサンプルを持参することが役立つ場合があります6

5.2. 臨床評価:診察から高度な診断まで

保護者の期待を管理するための、潜在的な診断プロセスの概要です。

  • 初期段階: 詳細な病歴聴取と包括的な身体診察が最も重要です。
  • 便検査: 医師は、潜血、白血球(炎症の兆候)、感染性病原体(細菌培養、ウイルス検査)、またはアレルギーの兆候(好酸球)を調べるために便検査を依頼することがあります9
  • 血液検査: 感染、炎症、貧血、または栄養失調の兆候を調べることができます17
  • 画像診断: 超音波検査は、腸重積症を診断するための主要なツールです37。X線検査も使用されることがあります。
  • 内視鏡検査: IBDや重度のアレルギーのような慢性的な炎症が疑われる場合、小児消化器専門医が胃カメラや大腸カメラを行い、腸の粘膜を直接観察し、生検(組織片の採取)を行うことがあります17

よくある質問

歯が生え始めると、うんちに粘液が混じるのはなぜですか?
歯が生え始める時期には、唾液の分泌が大幅に増加します。赤ちゃんはこの過剰な唾液を飲み込みますが、唾液に含まれる粘液成分は消化されにくいため、そのまま消化管を通過して便の中に現れることがあります4。赤ちゃんが元気で、他に心配な症状がなければ、これは正常な生理現象です。
母乳育児ですが、緑色で粘液質の便が出ます。心配すべきですか?
母乳栄養児の便が緑色で粘液質になる原因はいくつか考えられます。一つは、前乳と後乳のバランスの不均衡です。赤ちゃんが脂肪分の多い後乳を十分に飲む前に授乳が終わると、乳糖の多い前乳を過剰に摂取し、便が緑色で泡立ち、粘液質になることがあります3。また、母親の食事内容(緑黄色野菜の大量摂取など)や、軽い風邪なども影響します。赤ちゃんが元気であれば、多くの場合心配ありませんが、続く場合は小児科医に相談してください。
便中の粘液と血液の違いは何ですか?どう見分ければよいですか?
粘液は通常、透明、白っぽい、または黄色がかったゼリー状やスライム状の物質です。一方、血液は鮮やかな赤色や暗赤色の筋や塊として現れます。便秘による切れ痔では、便の表面に鮮血の筋が付着することがあります。牛乳アレルギーでは、粘液に混じって細かい血液の筋が見られることが多いです8。腸重積症の「イチゴジャム様」便は、暗赤色の血液と粘液が混ざり合った特徴的な外観をしています9。判断に迷う場合は、写真を撮って医師に見せることが最も確実です。
粘液便はどのくらい続いたら受診すべきですか?
赤ちゃんが元気で他の症状がない場合、一過性の粘液便(1~2日)は様子を見てもよいことが多いです。しかし、粘液便が2~3日以上続く場合、または量が増えたり、他の症状(発熱、嘔吐、不機嫌、血便など)が現れたりした場合は、小児科医に相談することをお勧めします31。慢性的な問題や感染症の可能性を評価するためです。

結論:不安から自信へ—情報に基づいた観察と迅速な行動の重要性

本稿では、小児の粘液便の原因とその意義について包括的な視点を提供しました。心に留めておくべき要点は以下の通りです。

  • 粘液は正常な場合もあります。重要なのは、量の著しい変化や持続性があるかどうかを見極めることです。
  • 赤ちゃんの全体的な状態が最も重要な判断材料です。少量の粘液があっても元気で機嫌の良い赤ちゃんは安心材料です。一方、粘液に加えて体調が悪く、ぐったりしている、または痛みを訴える赤ちゃんは、懸念すべき原因があることを示唆します。
  • 緊急治療を要する絶対的な警告サインを知っておきましょう:「イチゴジャム様」の便、白色/薄い色の便、そして脱水の兆候です。

この記事の中心的なメッセージは、注意深い観察と断固とした行動のバランスです。保護者の皆様には、ご自身の直感を信じつつも、本稿で得た体系的な知識を用いてその直感を方向づけることをお勧めします。目標は、不安を完全に取り除くことではなく、それを自信に満ちた適切な行動へと転換させることです。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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