要点まとめ
- 単一臍帯動脈は全妊娠の約1%に見られる比較的一般的な所見であり、あなたのせいではありません。
- 最も重要なのは「孤発性(他に異常がない)」か「非孤発性(他に異常がある)」かです。
- 大多数を占める「孤発性」の場合、赤ちゃんの予後はきわめて良好です。
- 孤発性では、胎児発育と出生後の腎臓のチェックを念のために行うことが推奨されます。
- 非孤発性の場合は、合併する異常の種類に応じた専門的な検査と周産期管理が重要になります。
- 信頼できる医療チームと連携し、正確な情報に基づいて冷静に対応することが大切です。
単一臍帯動脈はどのようにして見つかるのか
単一臍帯動脈(SUA)の診断は、その客観性と正確性を理解することで、診断結果への納得感を深める第一歩となります。診断は、主に妊娠中に行われる「出生前診断」と、出産後に行われる「出生後診断」の二つのタイミングで行われます。
出生前診断:超音波(エコー)検査
現在、ほとんどの単一臍帯動脈は、妊娠中に行われる超音波検査によって出生前に診断されています。特に、胎児の臓器や体の構造を詳しく調べる妊娠中期(日本では妊娠20週前後)のスクリーニング検査で発見されることが一般的です4。医師や検査技師は、ただ漠然と画面を眺めているわけではありません。非常に体系的な方法で、胎児の血管を確認しています。その代表的な方法が、カラードップラー法を用いた観察です。これは、血流に色を付けて表示する技術で、血管の走行を視覚的に捉えることができます5。具体的には、胎児のお腹の断面を映し出し、「膀胱(ぼうこう)」の位置を確認します。正常な場合、膀胱の両脇を、2本の臍帯動脈が挟むように走行しているのが観察されます。カラードップラーを用いると、この2本の動脈にそれぞれ血流の色がはっきりと表示されます。単一臍帯動脈の場合、この膀胱の脇を走る動脈が1本しか確認できません6。この所見は非常に明確であり、診断の客観的な根拠となります。もう一つの確認方法として、羊水の中に浮いているへその緒の輪切り(断面)を観察する方法があります。正常なへその緒は、太い臍帯静脈1本と細い臍帯動脈2本の合計3つの穴が見え、その配置からしばしば「ミッキーマウスの顔」に例えられます。単一臍帯動脈の場合は、動脈が1本少ないため、この断面には2つの穴しか見えません6。これらの方法を組み合わせることで、診断の精度は非常に高くなります。
出生後診断:肉眼および病理組織学的検査
超音波検査で単一臍帯動脈が疑われた場合や、出生前に診断されていなかった場合でも、出産後に確定診断が行われます。これは、分娩後に切り離された胎盤側のへその緒の断面を、助産師や医師が直接目で見て確認する方法です2。日本産科婦人科学会が示す指針によれば、へその緒の割面(断面)を見て、2本の円形の臍帯動脈と、やや内腔の広い1本の臍帯静脈が確認できれば正常です。血管が2本しか見られない場合に単一臍帯動脈と診断されます2。ただし、まれに途中で動脈が1本に合流(吻合)していることもあるため、より正確を期すために、1箇所だけでなく複数箇所の断面で確認することが推奨されています2。さらに、必要に応じてその臍帯組織を病理検査に提出し、顕微鏡で血管の数や構造を詳細に調べる「病理組織学的検査」によって、最終的な確定診断が行われることもあります4。このように、単一臍帯動脈の診断は、超音波技術と物理的な確認という複数の客観的な手法に基づいており、非常に信頼性の高いものであると言えます。
頻度と原因:なぜ起こるのか、どれくらい珍しいのか
「なぜ、うちの子が?」「何か原因があったのだろうか?」と、ご自身を責めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、単一臍帯動脈は、決してあなたのせいではありません。ここでは、その頻度と原因について、現在医学的にわかっていることを解説します。
頻度:決して「稀」ではない所見
単一臍帯動脈は、先天性の構造異常の中では最も頻度が高いものの一つとされています。その発生頻度は、全妊娠の約0.5%から1%と報告されており7、これは「100人から200人の妊婦さんに1人」の割合で見つかる計算になります1。助産師や産科医にとっては、臨床現場で比較的よく遭遇する所見の一つです1。日本の研究でも、同様の頻度が報告されています。例えば、順天堂大学で行われた研究では、分娩3179件中12例(0.37%)8、聖マリアンナ医科大学の研究では分娩3173例中20例(0.6%)4に単一臍帯動脈が認められました。これらのデータからも、単一臍帯動脈は「極めて珍しい病気」というわけではないことがお分かりいただけるでしょう。また、いくつかの興味深い特徴も知られています。人種による差も報告されており、白人での発生率が最も高く、日本人を含むアジア人ではやや低い傾向があるとされています9。さらに、双子(双胎)などの多胎妊娠では、その頻度が単胎妊娠に比べて3〜5倍に上昇することもわかっています5。
原因:有力なのは「二次的萎縮説」
単一臍帯動脈がなぜ起こるのか、その正確なメカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、現在では大きく分けて二つの説が考えられており、そのうちの一つが有力視されています1。
- 二次的萎縮説(Secondary Atrophy): こちらが現在最も有力とされている説です。妊娠のごく初期の段階では、正常に2本の臍帯動脈が作られます。しかし、その後の発生過程で、何らかの理由(例えば、血管内に小さな血の塊(血栓)ができるなど)で片方の動脈への血流が途絶えてしまい、使われなくなった動脈が自然に細く萎縮して、最終的に消失してしまうという考え方です。
- 原発性無形成説(Primary Agenesis): そもそも発生の段階から、臍帯動脈が1本しか形成されなかったという説です。
日本の研究では、この発生機序に着目した、より詳細な分類も試みられています。特に、二次的な萎縮によって生じたものを「閉塞型SUA」、原発性のものを「無形成型SUA」と呼び、その後の妊娠経過との関連を分析しています。いくつかの研究では、胎児発育不全や羊水過少といった問題が妊娠の早い段階から見られるケースでは、この「閉塞型SUA」が多い可能性が示唆されています4。これは、動脈が失われたタイミングやそのプロセスが、胎児への影響度に関わっている可能性を示しており、今後の研究が待たれる分野です。ここで最も重要なことは、単一臍帯動脈の発生は、お母さんの妊娠中の食事や仕事、行動などが原因ではないということです。これは、妊娠初期の胎児の発生段階で起こる、いわば偶然の出来事です。どうか、ご自身を責めることのないようにしてください10。
最も重要な視点:「孤発性」と「非孤発性」の違い
単一臍帯動脈と診断されたとき、今後の見通しを理解する上で、この記事全体を通じて最も重要な概念が登場します。それが、「孤発性(こはつせい)」と「非孤発性(ひこはつせい)」という区別です。あなたの赤ちゃんがどちらのタイプに当てはまるかによって、妊娠中の管理方針や予後(今後の見通し)が大きく変わってきます。この違いを正しく理解することが、不必要な不安を取り除き、医師からの説明を冷静に受け止めるための鍵となります。
孤発性単一臍帯動脈(Isolated SUA: iSUA)
これは、超音波検査で「単一臍帯動脈」という所見が見つかったものの、それ以外には、赤ちゃんの心臓や腎臓、脳、手足などの形に明らかな異常(形態異常)や、染色体異常を示唆する他の所見が一切認められない場合を指します11。そして、ここが非常に重要なポイントですが、単一臍帯動脈と診断された赤ちゃんの大多数が、この「孤発性」です。長野県立こども病院で行われた大規模な研究では、単一臍帯動脈と診断された単胎妊娠199例のうち、127例(63.8%)が孤発性であったと報告されています12。つまり、3人に2人は、へその緒の血管が1本少ないという特徴を持っているだけで、他に目立った問題がないということです。この事実は、多くのご家族にとって大きな安心材料となるはずです。
非孤発性単一臍帯動脈(Non-isolated SUA)
こちらは、「単一臍帯動脈」に加えて、心臓、腎臓、消化管、骨格、中枢神経系など、体の他の部分にも何らかの形態異常や、染色体異常を疑わせる所見が合併している場合を指します。この場合、赤ちゃんの予後を左右するのは、単一臍帯動脈という所見そのものではなく、むしろ合併している異常の種類や重症度によって決まります8。このように、単一臍帯動脈の予後を考える上での最初の、そして最大の分岐点は、「他に異常があるかないか」という点に尽きます。医師が超音波検査で時間をかけて赤ちゃんの全身をくまなく観察するのは、まさにこの「孤発性」か「非孤発性」かを見極めるためなのです。
孤発性単一臍帯動脈(iSUA)の管理と予後
超音波検査で単一臍帯動脈以外に異常が見つからなかった、つまり「孤発性単一臍帯動脈(iSUA)」と診断された場合、それは非常に心強い知らせです。このセクションでは、大多数を占めるiSUAのケースについて、具体的な管理方法と予後を、科学的根拠に基づいて詳しく解説します。
全体的な予後:きわめて良好
まず結論からお伝えします。孤発性単一臍帯動脈の赤ちゃんの予後は、一般的にきわめて良好です12。動脈が1本でも、残された1本の動脈と1本の静脈がその役割を十分に代償し、赤ちゃんの発育に必要な酸素と栄養を問題なく供給できることがほとんどです。多くの赤ちゃんは、何の問題もなく元気に生まれ、その後の成長・発達も正常です。しかし、「予後良好」という言葉は、「何の注意も必要ない」という意味ではありません。専門家は、潜在的なリスクを注意深く見守るために、いくつかのフォローアップを推奨しています。これは、漠然とした不安からではなく、「管理可能な二つの具体的な課題」に対応するためです。
妊娠中の管理:赤ちゃんの成長を丁寧に見守る
iSUAで注意すべき一つ目の課題は、胎児発育不全(Fetal Growth Restriction: FGR)のリスクです。動脈が1本少ないことで、胎盤の機能がわずかに影響を受け、赤ちゃんの成長が少しゆっくりになる可能性があることが指摘されています9。そのため、iSUAと診断された場合、妊娠後期(28週以降など)にかけて、定期的に超音波検査を行い、胎児の推定体重や体の各部分の大きさを計測し、成長のペースを注意深く見守っていくことが一般的です13。実際に、長野県立こども病院の研究では、iSUAの症例のうち19%に、出生時の体重が標準より小さい「低出生体重児」が認められたと報告されており、成長をモニタリングすることの重要性が裏付けられています12。一方で、iSUAであるという理由だけで、羊水検査や絨毛検査といった侵襲的(お腹に針を刺すなど、母体や胎児に負担のかかる)な染色体検査を追加で行うことは、米国母体胎児医学会(SMFM)などの国際的な専門家組織からも推奨されていません14。他に異常がないのであれば、染色体異常のリスクは一般の妊婦さんと変わらないと考えられているためです。
出生後の管理:念のための「腎臓エコー検査」
iSUAで注意すべき二つ目の課題は、出生後に見つかる可能性のある、隠れた腎・泌尿器系の異常です。いくつかの信頼性の高い研究報告やメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)によると、iSUAの赤ちゃんの約7%から9%に、妊娠中にはわからなかった腎臓や尿管の軽微な形態異常(水腎症や膀胱尿管逆流症など)が合併していることがあるとされています11。これらの異常の多くは無症状であり、治療を必要としない軽微なものですが、中には将来的に尿路感染症の原因となりうるものも含まれます。そのため、多くの医療施設では、iSUAで生まれた赤ちゃんに対して、生後に念のため「腎臓の超音波(エコー)検査」を行うことを推奨、または検討します10。この検査は赤ちゃんにとって痛みも負担もなく、安全に行うことができます。この腎臓エコーで異常がなければ、泌尿器系に関する心配はほとんどなくなると考えてよいでしょう。
分娩について
孤発性単一臍帯動脈であること自体が、分娩方法(経腟分娩か帝王切開か)を決定したり、分娩時期を早めたりする直接的な理由になることはありません15。ただし、妊娠経過中に胎児発育不全が見られたり、他の何らかの理由で赤ちゃんの元気がなくなったりした場合には、その状況に応じて、陣痛誘発や予定帝王切開といった個別の分娩計画が立てられることになります。
非孤発性単一臍帯動脈:合併する可能性のある異常
単一臍帯動脈(SUA)に加えて、超音波検査で他の形態異常や、染色体異常を示唆する所見が見つかった場合、それは「非孤発性単一臍帯動脈」と診断されます。この場合、赤ちゃんの今後の見通し(予後)は、SUAという所見そのものではなく、合併している異常の種類と重症度によって大きく左右されることを、まず理解する必要があります8。このセクションでは、感情的な表現を避け、客観的なデータと医学的な知見に基づき、どのような異常が合併する可能性があるのかを正確に解説します。これは、なぜ精密検査が必要なのか、そしてどのような医療体制が望ましいのかを理解するための重要な情報となります。
合併異常の種類と頻度
SUAには、心臓血管系、腎・泌尿器系、消化管系、中枢神経系(脳や脊髄)、骨格系など、全身の様々な臓器に異常を伴う可能性があります5。その頻度は研究によって多少のばらつきがありますが、近年の日本の大規模な研究報告などを統合すると、おおよその傾向が見えてきます。
合併異常の種類 | 頻度(単胎妊娠199例中の割合) | 主要な参考文献 |
---|---|---|
胎児発育不全(FGR) | 24.1% (48例) | 12 |
先天性心疾患 | 19.6% (39例) | 12 |
遺伝子・染色体異常 | 12.1% (24例) | 12 |
消化管閉鎖 | 9.0% (18例) | 12 |
羊水量異常(過多または過少) | 16.1% (32例) | 12 |
腎形態異常 | (上記研究では個別データなし) | 12 |
注:この表は、長野県立こども病院総合周産期母子医療センターが2024年に発表した単胎199症例の後方視的検討12に基づいています。胎児発育不全は、他の異常と重複して認められる場合があります。この表が示すように、SUAに合併する異常としては、胎児発育不全と先天性心疾患が比較的多く見られます。これらの所見の組み合わせが、さらなるリスクを予測する上で重要な手がかりとなることがあります。例えば、ある日本の研究では、「SUAに先天性心疾患や腎形態異常を合併する場合は染色体異常を伴う可能性が高く、羊水過多を伴う症例は消化管閉鎖を伴う可能性が高かった」と報告されています12。これは、医師が単一の所見だけでなく、複数の所見を組み合わせて総合的に胎児の状態を評価していることを示しています。
特に注意すべき合併症
染色体異常(Chromosomal Abnormalities)
SUAが他の形態異常と合併している場合、染色体異常のリスクは孤発性の場合と比較して著しく高まります。複数の研究を総合すると、非孤発性SUAの約10%から、報告によってはそれ以上に染色体異常が認められます13。特に、18トリソミー(エドワーズ症候群)や13トリソミー(パタウ症候群)との関連が強いことが知られています13。これらの疾患は、心臓をはじめとする複数の臓器に重篤な合併症を伴うことが多く、予後が厳しいとされています。SUAは、これらの染色体異常を発見する上での重要な「ソフトマーカー(確定的な所見ではないが、リスクの上昇を示唆する所見)」の一つと考えられています。
VACTERL/VATER連合(VACTERL/VATER Association)
これは、特定の遺伝子異常による単一の疾患ではなく、以下の頭文字で表される複数の異常が、一人の赤ちゃんに偶然の確率以上に合併して見られる状態を指します16。
- V – Vertebral defects(脊椎の異常)
- A – Anal atresia(鎖肛など、肛門の異常)
- C – Cardiac defects(心臓の異常)
- TE – Tracheo-Esophageal fistula(気管食道瘻)
- R – Renal anomalies(腎臓の異常)
- L – Limb abnormalities(四肢の異常)
SUAは、このVACTERL連合の一つの構成要素として認められることがあります17。2012年に行われた日本の全国調査では、VATER症候群(CとLを含まない、より古典的な定義)と診断された112例のうち、11例(約10%)に単一臍帯動脈が合併していたと報告されています18。したがって、SUAに加えて、心臓や腎臓、脊椎などに複数の異常が見つかった場合、医師はこのVACTERL連合を念頭に置いて、さらなる精査を進めることになります。
妊娠中から出産後までの精密検査と周産期管理
単一臍帯動脈(SUA)、特に他の異常を合併する「非孤発性」の可能性が示唆された場合、診断は終わりではなく、むしろ赤ちゃんにとって最適な医療ケアの始まりを意味します。SUAという所見は、より専門的で集中的なケアを受けるための「きっかけ」となるのです。ここでは、具体的にどのような検査が行われ、どのような医療体制のもとで妊娠・出産を迎えることになるのかを解説します。
出生前の精密検査
SUAが見つかった場合、まず行われるのは、胎児の状態をより深く、正確に把握するための精密検査です。
- 胎児形態異常スクリーニングの徹底: 通常の妊婦健診で行われる超音波検査よりもさらに時間をかけ、専門的な知識を持つ医師が胎児の全身を系統的に観察します。脳、顔面、心臓、肺、消化管、腎臓、膀胱、脊椎、四肢など、すべての臓器や構造に隠れた異常がないかを詳細にチェックします19。
- 胎児心エコー検査(Fetal Echocardiography): 前述の通り、SUAは先天性心疾患の合併頻度が比較的高いため、胎児の心臓を専門的に評価する「胎児心エコー検査」が強く推奨されます11。この検査では、心臓の4つの部屋の構造、弁の動き、血液の流れ、心臓から出る大きな血管の走行などを詳細に観察し、複雑な心疾患の有無を出生前に診断します。
- 遺伝カウンセリングと染色体検査: 超音波検査でSUA以外にも形態異常が見つかったり、複数のソフトマーカーから染色体異常のリスクが高いと判断されたりした場合には、専門家による「遺伝カウンセリング」の機会が提供されます。ここでは、赤ちゃんの状態、考えられる疾患、そして利用可能な検査の選択肢(NIPT、羊水検査など)について、ご夫婦が十分に理解し、納得して意思決定できるよう、専門家がサポートします。その上で、希望に応じて羊水検査などの確定診断検査が検討されます13。
周産期管理体制:高次医療施設との連携
SUAに合併症のリスクがある場合、あるいは出生直後に新生児への専門的な治療が必要になる可能性が考えられる場合、かかりつけの産科クリニックから、より高度な医療を提供できる施設へ紹介されることが一般的です。日本の周産期医療システムでは、こうしたハイリスクな妊娠・分娩を専門に扱う「総合周産期母子医療センター」や「大学病院」が全国に整備されています。これらの施設は、母体・胎児集中治療室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)、そして小児科、小児外科、小児循環器科、新生児科といった専門診療科を備えています20。日本の研究報告でも、SUA症例、特に合併症のリスクがある場合は、「胎児精査や新生児の対応が可能な施設での周産期管理が勧められる」と明確に提言されています12。国立成育医療研究センター21のような中核施設は、まさにこのようなハイリスク妊娠の管理と治療を担う中心的な存在です。
分娩後の対応
高次医療施設で出産することで、出生直後からシームレスな医療連携が可能になります。出生後は、合併している異常の種類に応じて、小児科医、新生児科医、小児循環器科医、小児外科医など、各分野の専門家からなるチームが赤ちゃんの診察と治療を速やかに開始します。出生前に診断がついていることで、治療計画を事前に立て、万全の準備を整えて赤ちゃんを迎えることができるのです。これは、赤ちゃんの予後を改善する上で、計り知れないメリットとなります。
よくあるご質問と専門家からの回答
単一臍帯動脈と診断されてから、頭の中には様々な疑問や不安が渦巻いていることでしょう。ここでは、多くの方が抱きがちな具体的な質問に対して、専門家の立場から、医学的根拠に基づいてお答えします。
Q1: 単一臍帯動脈は私のせいですか?何か予防法はありましたか?
Q2: 孤発性と言われましたが、本当に心配ないのでしょうか?出生後に何か問題が起きる可能性は?
Q3: 胎児ドックやNIPT(新型出生前診断)は受けるべきですか?
Q4: 出生後の腎臓エコーはなぜ必要なのでしょうか?
Q5: 次の妊娠でも繰り返しますか?
結論:正しい知識で、安心して出産に臨むために
この記事を通じて、単一臍帯動脈(二血管臍帯)について、多角的な視点から解説してきました。最後に、あなたが安心して今後の妊娠生活を送り、出産に臨むために、最も大切なポイントを改めて確認しましょう。
- 単一臍帯動脈は、決して稀な所見ではありません。 全妊娠の100〜200人に1人という頻度で見つかる、比較的よくある解剖学的な特徴の一つです7。あなたは決して一人ではありません。
- 最も重要なのは、「孤発性」かどうかです。 単一臍帯動脈と診断されたケースの大多数(3分の2近く)を占める「孤発性(他に異常がない)」の場合、赤ちゃんの予後はきわめて良好です12。
- 診断は、不安の終わりではなく、「最適なケアの始まり」です。 単一臍帯動脈という所見は、赤ちゃんの状態をより詳しく知り、潜在的なリスクに備え、必要であれば出生前から万全の医療体制を整えるための重要な「きっかけ」となります。
- 大切なのは、信頼できる情報源を頼ることです。 インターネット上の断片的な情報や個人の体験談に一喜一憂するのではなく、担当の主治医や助産師、そしてこの記事で示したような科学的根拠のある情報に基づいて、冷静に状況を理解することが重要です。
わからないこと、不安なことがあれば、どんな些細なことでも遠慮なく医療スタッフに質問してください。あなたと医療チームが強い信頼関係を築き、同じ目標に向かって協力していくことが、母子ともに健やかな出産を迎えるための最も確実な道です。この情報が、あなたの心にある不安を少しでも和らげ、お腹の赤ちゃんの生命力を信じて、前向きな気持ちで一日一日を大切に過ごすための一助となることを、心から願っています。
This article is for informational purposes only and does not constitute professional medical advice. Always consult a qualified healthcare professional for any health concerns or before making any decisions related to your health or treatment.
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