ウルシかぶれ完全ガイド:原因植物の見分け方から最新治療まで皮膚科医が徹底解説
皮膚科疾患

ウルシかぶれ完全ガイド:原因植物の見分け方から最新治療まで皮膚科医が徹底解説

週末のハイキングや庭仕事の後、腕や足に突然、耐えがたいほどのかゆみを伴う赤い発疹が現れた…そんな経験はありませんか?それは、日本で最も一般的な植物由来の皮膚トラブルの一つ、「ウルシかぶれ」かもしれません。正式には漆性皮膚炎(しっせいひふえん)と呼ばれるこの症状は、多くの人が経験する一方で、その原因や正しい対処法については数多くの誤解が存在します。JAPANESEHEALTH.ORG編集部では、読者の皆様が安全に自然を楽しみ、万が一の際にも的確に対応できるよう、皮膚科学の専門家の監修のもと、日本の最新の診療ガイドラインと国際的な科学的エビデンスに基づいた、最も信頼できる包括的な情報をお届けします。本記事を読めば、ウルシかぶれの正体から、原因となる植物の見分け方、緊急時の応急処置、そして薬局で買える市販薬の賢い選び方まで、すべてを深く理解することができます。

この記事の要点まとめ

  • ウルシかぶれは、ウルシオールという物質に対するアレルギー反応であり、接触後12時間から数日経って発症する遅延型です。水ぶくれの液で他人にうつることはありません。
  • 原因植物(ツタウルシ、ヤマウルシ、ハゼノキ)を正確に見分けることが最大の予防策です。特に「3枚1組の葉」を持つツタウルシには注意が必要です。
  • 接触したと気づいたら、10分以内に石鹸(特に食器用洗剤など脱脂力の高いもの)と大量の流水で徹底的に洗い流すことが症状を最小限に抑える鍵です。
  • 症状が軽い場合は市販薬でも対応可能ですが、ステロイド外用薬には強さのランクがあります。顔などのデリケートな部位には「弱い(Weak)」ランクのものを選びましょう。
  • 顔や広範囲に発疹が広がった場合、呼吸困難や強い腫れがある場合は、迷わず皮膚科を受診してください。強力な処方薬による専門的な治療が必要です。

第1章:「ウルシかぶれ」とは? あなたの皮膚で起きているアレルギー反応の正体

「ウルシかぶれ」は、医学的には漆性皮膚炎(しっせいひふえん)と呼ばれ、特定の植物に含まれる化学物質に対するアレルギー反応の一種です1。日本皮膚科学会が発行する「接触皮膚炎診療ガイドライン 2020」によれば、これは外部からの特定の抗原(この場合はウルシオール)が皮膚に接触することで引き起こされる、アレルギー性接触皮膚炎に分類されます2

症状が遅れて現れる「遅延型アレルギー」の仕組み

ウルシかぶれの最大の特徴は、その反応がすぐには現れないことです。これは、ウルシかぶれがTリンパ球という免疫細胞によって引き起こされる「IV型アレルギー(遅延型過敏反応)」だからです5。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、ウルシオールに接触してから発疹などの症状が現れるまでには、通常12時間から48時間かかります4。初めてウルシにかぶれた人の場合、この潜伏期間はさらに長く、1週間から2週間に及ぶこともあります6。この時間差こそが、多くの人を混乱させる原因です。患者さんは、2日前の山歩きが原因だとは思い至らず、直前に食べた物や新しく使い始めた石鹸を疑ってしまうことが少なくありません。この「症状の遅れ」を理解することが、原因を正しく特定するための第一歩です。

よくある誤解を科学的に解明する

ウルシかぶれに関しては、科学的根拠のない俗説が広まっています。ここでは、特に重要な二つの誤解を解き明かします。

  • 誤解1:水ぶくれの汁でうつる
    多くの人が信じているこの説は、医学的には明確に否定されています。クリーブランド・クリニックの専門家によれば、発疹にできた水ぶくれの中の液体は、体自身の炎症反応によって作られたものであり、原因物質であるウルシオールは含まれていません8。したがって、この液体が他の人に触れたり、自分の体の他の部位についても、発疹が広がることはありません7。発疹が時間差で体のあちこちに出現するのは、最初にウルシオールが付着した量が場所によって異なったり、皮膚の厚さ(例えば、手のひらは厚く、腕の内側は薄い)によって反応速度が違ったりするためです9
  • 誤解2:「免疫」がつく、または慣れることができる
    漆職人のように長年ウルシに接している人の中には、ある程度の耐性を獲得する人もいますが、これは非常に稀なケースです1。ほとんどの一般人にとって、ウルシオールに対するアレルギー反応は、接触を繰り返すことでむしろ強くなる傾向があります。一度かぶれた経験がある人は、次に接触した際に、より速く、より激しい症状を示す可能性があります。

注意すべき「交差反応」:マンゴーやギンナンも危険?

ウルシオールにアレルギーを持つ人は、化学構造が似ている他の物質にも反応してしまう「交差反応」を起こすリスクがあります。これは非常に重要な情報であり、日常生活での予期せぬトラブルを避けるために知っておくべきです。東豊ひふ科の報告によると、ウルシオールに敏感な人は、マンゴー(特に皮の部分)やイチョウの果実であるギンナン(銀杏)の殻に触れることで、同様の皮膚炎を引き起こす可能性があります12115。ウルシかぶれの経験がある方は、これらの食品を取り扱う際にも十分な注意が必要です。

第2章:原因はこれだ! 日本の野山に潜む危険植物の見分け方

ウルシかぶれを避けるための最も効果的な方法は、原因となる植物を正確に知り、それに近づかないことです。日本では主にウルシ科のツタウルシ、ヤマウルシ、ハゼノキが原因となります。ここでは、それぞれの植物を、よく似た無害な植物と比較しながら、見分けるための実践的なポイントを解説します。

2.1. ツタウルシ (蔦漆)

最も多くの被害報告があるのがツタウルシです。つる性の植物で、他の木に絡みついたり、地面を這ったり、時には低い木のように自立したりと、様々な形で存在します13

  • 最大の特徴:「3枚1組の葉(三出複葉)」。一つの葉柄の先に3枚の小さな葉(小葉)がついています。この「3枚の葉」は絶対に覚えておくべき鉄則です。
  • 葉の縁(ふち):成長したツタウルシの葉の縁は、ギザギザがなく滑らか(全縁)であることが多いです13
  • 秋の紅葉:秋には鮮やかな赤色に紅葉し、非常に美しいですが、この時期も毒性は失われていません。
  • 比較対象(間違えやすい植物):無害なツタ(蔦)も3つに分かれているように見えることがありますが、これは1枚の葉が3つに深く裂けている「単葉」であり、ツタウルシのように3枚の葉が独立しているわけではありません。また、ツタの葉の縁には通常、ギザギザがあります13

2.2. ヤマウルシ (山漆) と ハゼノキ (櫨の木)

これら二つは樹木の形で、葉の形がよく似ています。どちらも「奇数羽状複葉」といい、鳥の羽のように葉柄の左右に小葉が並び、先端に1枚の小葉がつく形をしています14

  • ヤマウルシ:葉柄や葉の裏に細かい毛が生えていることがあります16。また、葉軸(中央の茎)が赤みを帯びることが多いです。葉全体の形として、根元に近い小葉が先端の小葉に比べて小さい傾向があります13
  • ハゼノキ:葉柄や葉に毛がなく、つるりとしています16。小葉の大きさは根元から先端まで比較的均一で、ヤマウルシより細長い形をしています13
  • 注意点:若い木の葉は、成長した木と形が異なる場合があり、同定が難しいことがあります15。「怪しい」と感じたら、触らないのが賢明です。

表1:ウルシ属 危険植物 早分かり比較表

特徴 ツタウルシ (蔦漆) ヤマウルシ (山漆) ハゼノキ (櫨の木)
葉の形 つる性。3枚1組の葉(三出複葉)が最大の特徴。 樹木。鳥の羽のような形の葉(奇数羽状複葉)。 樹木。鳥の羽のような形の葉(奇数羽状複葉)。
葉の縁(ふち) ギザギザがなく滑らか(全縁)。 ギザギザがなく滑らか(全縁)。 ギザギザがなく滑らか(全縁)。
その他の特徴 秋に美しく紅葉する。つるの幹から気根を出す。 葉柄や若枝に毛があることが多い。葉軸が赤みを帯びることがある。 全体的に無毛で滑らか。果実から和ろうそくの原料を採る。

第3章:症状の経過と、病院へ行くべき「危険なサイン」

ウルシかぶれの症状は時間とともに変化します。典型的な経過を知ることで、落ち着いて対処し、受診のタイミングを正しく判断できます。

症状の時間的変化

  1. 初期段階(接触後12~48時間):まず、接触した部位に強いかゆみが生じ、続いて赤く腫れ始めます(紅斑、浮腫)1
  2. 進行期(2~3日後):赤みの上に、小さな赤いぶつぶつ(丘疹)や液体を含んだ水ぶくれ(小水疱)が多発します。かゆみはピークに達し、掻き壊すと細菌感染のリスクが高まります。
  3. 極期(数日後):水ぶくれが破れて、じゅくじゅくとした滲出液が出ることがあります。この液体は感染性ではありませんが、皮膚のバリア機能が低下している状態です。
  4. 回復期(1~3週間):じゅくじゅくした部分が乾いてかさぶた(痂皮)になり、次第に剥がれ落ちて治癒します10。強い炎症があった場合、一時的に皮膚の色が濃くなる(炎症後色素沈着)ことがありますが、通常は時間とともに薄くなります。

ただちに医療機関へ!受診が必要な「レッドフラッグ・サイン」

ほとんどのウルシかぶれは家庭での対処や市販薬で軽快しますが、以下のような症状が見られる場合は、重症化や合併症のリスクがあるため、自己判断せず、ただちに皮膚科を受診してください。これらの基準は、米国労働安全衛生研究所(NIOSH/CDC)の緊急時ガイドラインに基づいています717

  • 呼吸が苦しい、または飲み込みにくい(アナフィラキシー反応の可能性)
  • 顔、唇、まぶたが腫れあがり、特に目が開けられないほどの腫れがある
  • 発疹が全身の4分の1以上に広がっている、または急速に拡大している
  • 顔、唇、目、口の周り、陰部など、デリケートな部分に発疹が出た
  • 38度以上の発熱がある、水ぶくれから膿が出ている、発疹から赤い筋が伸びているなど、細菌感染の兆候がある

第4章:接触後10分が勝負!運命を分ける緊急応急処置

もしウルシに触れてしまったかもしれないと感じたら、症状が出る前の迅速な行動が極めて重要です。ウルシオールは油性で、皮膚に固着するまでに少し時間がかかります。この「ゴールデンタイム」内に行う処置で、その後の症状の重さが大きく変わります。

ウルシオール除去・4ステップガイド

  1. ステップ1:すぐに、大量の水と石鹸で洗う
    MSDマニュアルによると、接触後できるだけ早く、理想的には10分以内に、その部位を大量の流水と石鹸で洗い流すことが最も効果的です9。この時、冷たい水の方が毛穴が開かず、ウルシオールが浸透しにくいため推奨されます。石鹸は、油を分解する力が強い食器用洗剤などが、CDCによって特に推奨されています7。ゴシゴシこすりすぎると、逆にウルシオールを皮膚の奥に擦り込む可能性があるので、泡で優しく、しかし徹底的に洗い流しましょう。
  2. ステップ2:爪の間を重点的に洗浄する
    見落としがちなのが爪の間です。ウルシオールが爪の間に残っていると、無意識に他の場所を掻いたときに、そこから発疹が広がってしまいます17。ブラシなどを使って、爪の間を念入りに洗いましょう。
  3. ステップ3:衣服や道具もすべて洗濯・洗浄
    ウルシオールは衣服、手袋、靴、園芸用具などにも付着し、数年間も活性を保つことがあります8。接触時に着ていたものは、他の洗濯物とは別にし、できればお湯と洗剤で洗濯します1。道具類も洗剤でよく洗いましょう。
  4. ステップ4:ペットの体もチェック
    一緒にいた犬や猫の毛にウルシオールが付着し、それを撫でることで人間がかぶれるケースもあります。ペットはウルシオールに反応しませんが、媒介者になる可能性があります。ペットが植物に触れた可能性があるなら、ペット用のシャンプーで洗ってあげてください8

応急処置のヒント:もし水や石鹸がすぐに使えない野外にいる場合、一部の専門家は、応急的にサラダ油やキャノーラ油などの植物油を布に含ませて拭き取る方法を提案しています10。油性のウルシオールを油で溶かして拭き取るという原理ですが、これはあくまで一時的な措置であり、その後できるだけ早く石鹸と水で洗い流す必要があります。

第5章:家庭での治療と日本で買える市販薬(OTC)の賢い選び方

発疹が出てしまった後の治療目標は、かゆみと炎症をコントロールし、快適に過ごしながら自然治癒を待つことです。

薬を使わない対症療法

かゆみを和らげるためのシンプルな方法がいくつかあります。

  • 冷やす:濡れタオルや保冷剤をタオルで包んだものを患部に当てると、かゆみが一時的に和らぎます。
  • オートミール風呂:コロイド状オートミール(細かく粉砕された燕麦)をぬるま湯に溶かして入浴すると、皮膚の炎症を鎮める効果が期待できます1。重曹(ベーキングソーダ)をカップ1杯ほど溶かすのも同様の効果があります。

日本の薬局で手に入る市販薬(OTC医薬品)

日本の薬局では、ウルシかぶれに対応できる様々な市販薬が販売されています。しかし、成分や強さが異なるため、症状や使用部位に合わせて正しく選ぶことが重要です。

  • 抗ヒスタミン薬(内服薬):全身のかゆみを抑えるために使用します18。ただし、製品によっては眠気を引き起こすことがあるため、車の運転や機械の操作をする前には服用しない、または眠くなりにくいタイプを選ぶなどの注意が必要です。
  • 塗り薬(外用薬):ウルシかぶれの治療の主役は塗り薬です。
    • 非ステロイド性抗炎症薬:ウフェナマートなどを含み、比較的穏やかな抗炎症作用を示します19。ごく軽い症状や、ステロイドに抵抗がある場合に選択肢となります。
    • カラミンローション:古典的な薬ですが、酸化亜鉛が皮膚を保護し、乾燥させることで、じゅくじゅくした患部のかゆみを和らげます。
    • ステロイド外用薬:炎症を抑える効果が最も高く、ウルシかぶれの標準的な治療薬です。ただし、市販薬でも成分によって強さにランクがあることを理解しておく必要があります。

表2:市販のステロイド外用薬 強さのランク分けと選び方【日本市場版】

ステロイド外用薬は、効果の高さから「最強(Strongest)」「非常に強力(Very Strong)」「強力(Strong)」「中間(Medium)」「弱い(Weak)」の5段階に分類されます。市販薬として販売が許可されているのは「Strong」「Medium」「Weak」の3つのランクです27。不適切な強さの薬を不適切な部位に使うと副作用のリスクがあるため、この表を参考に慎重に選びましょう。

ランク(強さ) 主な有効成分 代表的な市販薬(例) 適した部位・症状
Strong (ストロング) ベタメタゾン吉草酸エステル
フルオシノロンアセトニド
リンデロンVs27
フルコートf27
体の皮膚が厚い部分(胴体、腕、脚)のひどい炎症に。顔、首、陰部、脇の下など皮膚の薄い部分には絶対に使用しないでください。5~6日を超えての使用は避けるべきです。
Medium (ミディアム) プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル (PVA) プレバリンα27
ムヒアルファEX27
体幹部や四肢の一般的な炎症に。Strongランクよりも副作用のリスクが低く、使いやすいです。ただし、顔面への長期使用は避けるべきです。
Weak (ウィーク) ヒドロコルチゾン酢酸エステル
プレドニゾロン
テラ・コートリル軟膏a27
コートf MD軟膏27
顔、首、デリケートゾーンなど皮膚の薄い部分や、子どもの軽い症状に適しています。作用が穏やかで、最も安全性が高いランクです。
ステロイド外用薬使用上の注意
市販薬を使用しても症状が改善しない、または悪化する場合は、使用を中止し、速やかに皮膚科医に相談してください。また、細菌や真菌(カビ)による感染症が疑われる部位には、ステロイド薬を使用すると悪化させることがあるため、自己判断で使用してはいけません。

第6章:専門医による治療:皮膚科では何が行われるのか?

市販薬で対応できない重症例や、危険なサインが見られる場合は、専門的な医療介入が必要です。皮膚科医は、症状の重症度と部位に応じて、最適な治療法を選択します。

  • 処方箋ステロイド外用薬:市販薬よりも強力な「Very Strong」や「Strongest」ランクのステロイド外用薬が処方されることがあります。医師は、例えば体の厚い皮膚には強力なものを、顔には穏やかなものを、といったように、部位に応じて薬の強さを使い分ける「部位別療法」を行います27
  • ステロイド内服薬:発疹が全身に広がっている、顔面の腫れがひどくて日常生活に支障が出ているなど、重症の場合には、プレドニゾロンなどのステロイド内服薬が処方されます9。これは非常に効果的ですが、医師の厳格な管理下で、指示された期間、正確に服用する必要があります。
  • その他の処方薬:かゆみが非常に強い場合には、処方箋でのみ入手可能な強力な抗ヒスタミン薬が処方されることがあります18。また、掻き壊して細菌感染を合併した場合には、抗生物質の塗り薬や飲み薬が必要になります。
  • 原因物質の特定(パッチテスト):症状が非典型的であったり、原因がはっきりしない場合には、アレルギーの原因物質を特定するためにパッチテスト(貼付試験)が行われることがあります23。これは、疑わしい物質を皮膚に貼り付け、48時間後と72時間後に反応を見る検査です。

第7章:予防こそ最善の治療:自分と家族を守るための戦略

ウルシかぶれの苦痛を経験すれば、二度と繰り返したくないと思うはずです。CDC/NIOSHが推奨する以下の予防策を徹底することが、最も賢明な対策です7

  • 服装で物理的にブロックする:山林や草むらに入る際は、長袖、長ズボン、手袋、ブーツを着用し、皮膚の露出を最小限に抑えましょう。
  • バリアクリームを塗る:作業前に「ベントクワタム」という成分を含む専用のバリアクリームを塗ると、ウルシオールが皮膚に直接接触するのを防ぐ効果があります7
  • 絶対に燃やさない:ウルシの木を燃やすと、煙の中にウルシオール粒子が飛散します。この煙を吸い込むと、気道や肺に深刻な炎症を引き起こし、生命に関わる危険な状態になることがあります4。枯れ木であっても絶対に燃やしてはいけません。
公衆衛生的視点:ウルシ以外の有毒植物にも注意を
自然の中には、ウルシ以外にも危険な植物が存在します。特に、誤って食べると命に関わるものがあります。厚生労働省は、スイセン(葉がニラに似る)、イヌサフラン(球根がタマネギに似る)、トリカブト(若葉がニリンソウに似る)などによる食中毒死亡例が報告されているとして、注意を呼びかけています24。山菜採りなどでは、確実に同定できない植物は「採らない、食べない、人にあげない」を徹底してください。

よくある質問 (FAQ)

ウルシかぶれは他の人にうつりますか?
いいえ、うつりません。発疹や水ぶくれの液体には、原因物質であるウルシオールは含まれていないため、感染性はありません8。ただし、原因植物に触れた人の手や衣服にウルシオールが付着している場合、それを介して他の人がかぶれることはあります。
治るまでどのくらいかかりますか?
症状の重さによりますが、一般的には1週間から3週間程度で治癒します1。適切な治療を行えば、回復を早め、症状を和らげることができます。
発疹は跡に残りますか?
通常、適切に治療すれば跡(瘢痕)を残さずに治ります。しかし、かゆみのために強く掻き壊してしまい、細菌感染を起こすと、跡が残る可能性があります10。かゆくても掻かないことが重要です。
漆塗りの食器でもかぶれますか?
はい、可能性があります。完全に硬化した漆は化学的に安定しており、アレルギー反応を起こすことはありません。しかし、漆が十分に乾燥・硬化していない場合や、古い漆器の表面が傷ついて未硬化の層が露出した場合には、そこからウルシオールが溶け出し、かぶれを引き起こすことがあります1
このアレルギーを根本的に治す方法はありますか?
残念ながら、現時点ではウルシオールに対するアレルギーを根本的に治す(脱感作する)確実で安全な治療法は確立されていません。したがって、原因植物を避ける「予防」が最も重要かつ効果的な対策となります。

結論

ウルシかぶれは、適切な知識があれば、そのリスクを大幅に減らし、万が一発症しても正しく対処できる皮膚疾患です。本記事で解説した「予防(植物の見分け方と防御策)」「緊急処置(接触後すぐの洗浄)」「段階的治療(症状に応じた市販薬の選択と受診の判断)」という三つの柱を理解することが、あなた自身と大切な家族を不快な症状から守る鍵となります。自然の美しさを享受するためにも、正しい知識を身につけ、安全なアウトドア活動を心がけましょう。

免責事項
本記事は、情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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