切り傷・擦り傷の治し方|正しい応急手当から湿潤療法、傷跡を残さないケアまですべて解説
皮膚科疾患

切り傷・擦り傷の治し方|正しい応急手当から湿潤療法、傷跡を残さないケアまですべて解説

切り傷や擦り傷ができたら、どう手当てしていますか? もしかしたら、その「消毒して乾かす」方法は古い常識かもしれません。実は、傷の手当てで最も大切なのは「洗浄」です1。この記事では、科学的根拠に基づき、傷を早くきれいに治す「湿潤療法」の正しいやり方から、危険なサイン、傷跡を残さないケアまで、専門家の視点で徹底解説します。

この記事の信頼性について

この記事は、JHO編集部が公開されている診療ガイドラインや質の高い学術論文などのエビデンスに基づき、AI支援ツールを活用して作成しました。本記事は情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。監修には外部の医師は関与していません。

  • エビデンスの優先順位: 日本の学会ガイドラインや公的機関(厚生労働省など)の情報を最優先し、Cochraneレビューなどの質の高い国際的研究で補完しています。
  • 引用の透明性: すべての医学的主張には、直後に参照元文献へのリンクを番号で示しています。
  • 情報の鮮度: 参考文献のリンク到達性を定期的に確認し、更新計画に基づき内容を最新の状態に保ちます。

方法(要約)

  • 検索範囲: PubMed, Cochrane Library, 医中誌Web, 日本皮膚科学会・日本形成外科学会等の公式サイト, 厚生労働省・消防庁公式サイト (.go.jp)
  • 選定基準: 日本人データ・国内ガイドラインを最優先。システマティックレビュー/メタ解析 > RCT > 観察研究。発行5年以内の主要文献。
  • 除外基準: 商業ブログ、査読のない情報源(プレプリントを除く)、撤回論文。
  • 評価方法: GRADE評価(高/中/低/非常に低)、ARR/NNT計算(該当時)、SI単位統一、Risk of Bias評価(Cochrane RoB 2.0)。
  • リンク確認: 全参考文献のURL到達性を個別確認済み(2025年1月11日時点)。

この記事の要点

  • 応急手当の基本は「流水洗浄 → 直接圧迫止血 → 湿潤保護」の3ステップです2
  • 消毒液の日常的な使用は非推奨。傷を治す細胞を傷つける懸念があるため、まず洗浄が最優先です1
  • ⚠️ 【最重要】湿潤療法は正しい洗浄が絶対条件。汚れが残ったまま貼ると、かえって感染を悪化させる危険があります3
  • 出血が止まらない、傷が深い、動物に咬まれた、感染の兆候がある場合は、ためらわず医療機関を受診してください4
  • 汚れた傷では破傷風のリスクも考慮が必要です。不安な場合は医師に相談しましょう5

まずは落ち着いて!切り傷・擦り傷の正しい応急手当【家庭でできる3つの基本ステップ】

【最重要ポイント】 傷の手当てで最も大切なのは「洗浄」「止血」「保護」の3つの柱です。これは日本医師会も推奨する基本原則です2。慌てずに、一つずつ確実に行動しましょう。

ステップ1:洗浄 – なぜ消毒より「水道水」が最善なのか?

具体的な方法: 痛みを伴うかもしれませんが、蛇口から流れる十分な量の水道水で、傷口とその周辺をしっかりと洗い流します。砂や泥、その他の目に見える異物が完全になくなるまで、最低でも1〜2分は丁寧な洗浄を続けてください6

科学的根拠(なぜ消毒は原則不要か?):

  • ガイドラインの推奨: 日本皮膚科学会のガイドラインでは、感染の兆候がない日常的な傷への画一的な消毒は推奨されていません。これは、消毒の有益性が確立されていないことや、創傷治癒に関わる細胞への影響が懸念されるためです1。断定はできませんが、消毒液が細菌だけでなく、傷を治そうとする自身の正常な皮膚細胞にもダメージを与え、かえって治癒を遅らせる可能性があると考えられています。
  • 洗浄の圧倒的な効果: 2022年のコクラン・レビューは、傷の洗浄における水道水と滅菌された生理食塩水を比較しました。その結果、感染率や治癒率に明確な差があるという確かな証拠は見つからず、エビデンスの確実性は非常に低い(very low certainty)と結論付けられています7。このため、家庭では安全かつ容易に利用できる流水での丁寧な洗浄が第一選択となります。
  • 石鹸の使用について: 汚れがひどい場合は、石鹸をよく泡立てて優しく洗浄することも有効です。ただし、石鹸の成分が傷口に残ると刺激になるため、最後は必ず大量の水道水で完全にすすぎ流してください。

ステップ2:止血 – 安全で確実な方法と、やってはいけない危険な止血

正しい止血法(直接圧迫止血法):

  1. 清潔なガーゼやハンカチ、タオルなどを傷口に直接当てます。
  2. 手のひらで、傷口全体をためらわずに強く、かつ持続的に圧迫します。これは消防庁が推奨する最も基本的で重要な応急手当です6
  3. 最低でも5分間、できれば10分間は圧迫を続けます。途中でガーゼを剥がして傷口を確認すると、固まりかけた血の塊(血餅)が剥がれて再び出血してしまうため、じっと我慢することが重要です。
  4. 可能であれば、傷のある部分を心臓より高い位置に保つと、その部分への血流が穏やかになり、出血が止まりやすくなります8

【警告】危険な止血法と止血帯の扱いについて

指や手足の付け根を輪ゴムや細い紐で固く縛る行為は、血流を完全に止めてしまい、神経麻痺や組織の壊死を引き起こす可能性があり、大変危険です6一般の方は、原則として止血帯を使用しません。まずは直接圧迫止血を優先し、それでも血が止まらない場合は圧迫を続けながら救急要請をしてください。

ステップ3:保護 – 「乾かさない」が傷を早くきれいに治す鍵

保護の目的: 傷口を外部からの汚染や細菌の侵入から守り、治癒に最適な「湿潤環境」を維持することが目的です。傷を乾燥させないことが、現代の創傷治療の基本であると日本医師会も説明しています2

具体的な方法:

  • 湿潤療法(最も推奨): ハイドロコロイド素材などの専用絆創膏(ドレッシング材)で傷をぴったりと覆います。これにより、傷口から出る滲出液(しんしゅつえき)を適度に保持し、最適な湿潤環境を作ります。詳細は次章で解説します。
  • 軟膏+ガーゼ/絆創膏: 湿潤療法用の絆創膏がない場合は、ワセリンなどを傷口に塗り、その上を非固着性(くっつきにくい)のガーゼや通常の絆創膏で保護し、乾燥を防ぎます。

現代の常識「湿潤療法(モイストヒーリング)」とは?科学的根拠と正しいやり方

なぜ「乾かさない」方が良いのか?湿潤療法のメカニズム

かさぶたの正体: かさぶたは、傷口から出た血液や体液が乾燥して固まったものです。かつては傷を守る「フタ」と見なされていましたが、現在では皮膚が再生する際の「障害物」になることがわかっています1

滲出液(しんしゅつえき)の力: 傷から出るジクジクした液体(滲出液)は、ただの体液ではありません。例えるなら、体の自己修復工場から送られてくる「栄養満点のスープ」です。これには、皮膚の細胞を増やし、傷の治癒を促す様々な「細胞成長因子」が豊富に含まれています1。湿潤療法は、この「自己治癒能力の源」を最大限に活用する治療法なのです。

エビデンス要約(研究者向け)

結論
湿潤療法用ドレッシング材は、従来のガーゼドレッシング材と比較して、創傷治癒時間を有意に短縮し、感染率を著しく低下させることが示された。
研究デザイン
21報のRCTを対象としたシステマティックレビューおよびメタ解析(n=1,793人)
GRADE評価
(治癒時間)、(感染率)
主要な定量的結果
  • 治癒時間: 有意に短縮(SMD: -2.50; 95% CI: -3.35 to -1.66, p<0.01)
  • 感染率: 有意に低下(OR: 0.30; 95% CI: 0.17 to 0.54, p<0.01)
  • 絶対リスク減少 (ARR) の試算: 従来のガーゼでの感染率を10%と仮定すると、湿潤療法での感染率は3%に低下。ARRは7%、治療必要数 (NNT) は15人(1人の感染を防ぐために15人の治療が必要)と推定される。
異質性 (Heterogeneity)
治癒時間において高い異質性(I² = 97%)が認められた。これは、対象となった創傷の種類や研究デザインの多様性によるものと考えられる。
出典
Wang S, et al. Int Wound J. 2023. DOI: 10.1111/iwj.143199

家庭でできる!湿潤療法の正しい手順と注意点

  1. 徹底した洗浄: 上記「ステップ1」と同様に、傷口を水道水で十分に洗浄します。異物が残っていると感染の原因になるため、これが最も重要な工程です。
  2. 被覆材の選択と貼付:
    • 傷の大きさより一回り大きいサイズのハイドロコロイド絆創膏を選びます。
    • 貼る前に、傷の周りの皮膚の水分を清潔なタオルでしっかり拭き取ります。
    • 絆創膏を数秒間、両手で温めると柔らかくなり、体のカーブに沿って貼りやすくなります。シワができないように、ゆっくりと貼り付けます。
  3. 交換のタイミング:
    • 被覆材が滲出液を吸収して白く膨らんできます。この膨らみがパッドの端に達した場合、パッドの縁から液が漏れ出した場合、またはパッドが自然に剥がれてきた場合が交換のサインです10
    • 漏れていなくても、2〜3日に一度は交換し、その都度、傷口を水道水で優しく洗い流し、感染の兆候(後述)がないか確認することが推奨されます。

【重要】軟膏との併用はNG: キズパワーパッド™などのハイドロコロイド絆創膏を使用する場合、その下にワセリンや抗生物質軟膏を塗ることは避けてください。絆創膏の粘着力が著しく低下し、適切に密閉できず、本来の湿潤環境維持効果が得られなくなります11

【要注意】湿潤療法が適さない・危険な傷

湿潤療法は万能ではありません。以下のような傷には自己判断で行わず、速やかに医療機関を受診してください。

  • 洗浄が不十分な傷: 【最重要】汚れや細菌が残ったまま密閉すると、内部で菌が繁殖し、重篤な感染症を引き起こす危険があります。これは湿潤療法の最も危険な失敗パターンです3
  • 感染している傷: 傷の周りが異常に赤く腫れている、ズキズキと脈打つように痛む、熱を持っている、緑色や黄色の膿が出ている1
  • 深い傷: 脂肪(黄色い組織)や筋肉(赤い組織)が見えているような、縫合が必要な可能性がある傷4
  • 異物が残っている傷: 洗浄してもガラス片や木片、砂利などが内部に残っている、またはその可能性がある傷。
  • 動物や人に咬まれた傷(咬創): 口腔内の特殊な細菌による感染リスクが非常に高いため、専門的な洗浄と処置が必要です4

これは危険信号!すぐに病院(皮膚科・形成外科)へ行くべき10の目安

家庭での応急手当には限界があります。以下に一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見ず、速やかに医療機関を受診することを強く推奨します。

  1. 🚨 出血が止まらない: 10~15分間、正しく圧迫止血を続けても出血が止まらない、または血がジワジワと滲み出てくる6
  2. 傷が深い・大きい: 傷口がパックリと開いて皮下の脂肪(黄色い組織)や筋肉(赤い組織)が見えている4
  3. 異物が取れない: 洗浄してもガラス、木片、砂、泥などが傷の中に残っているのが見える、または埋まっている感覚がある。
  4. 動物や人に咬まれた傷: 破傷風やその他の特殊な感染症のリスクが非常に高いです4
  5. 錆びた金属や土で汚れた深い傷: 破傷風のリスクがあります。過去の予防接種歴を医師に伝え、相談が必要です5
  6. 顔の傷: 特に目、鼻、口の周りの傷は、機能的・整容的に重要であり、傷跡を最小限にするためにも専門的な処置が望まれます4
  7. 関節部分の深い傷: 曲げ伸ばしに関わる腱や神経を損傷している可能性があります。
  8. 感覚の異常や動かしにくさ: 傷のある指先などが痺れる、感覚が鈍い、動かしにくいといった症状がある場合、神経や腱の損傷が疑われます。
  9. 明らかな感染の兆候: 時間が経つにつれて、傷の周りの赤み、腫れ、熱感、痛みが強くなる、または膿が出る1
  10. 基礎疾患がある場合: 糖尿病、血流障害、ステロイド内服中、免疫抑制剤使用中の方は、傷が治りにくく感染しやすいため、小さな傷でも早めに受診することが推奨されます。

【市販薬・絆創膏】賢い選び方と使い方ガイド

ドラッグストアには多くの製品が並んでおり、どれを選べば良いか迷うことも多いでしょう。ここでは、傷の種類に応じた選び方を解説します。

創傷被覆材(絆創膏)の種類と選び方

表1:市販の創傷被覆材(絆創膏)の比較
種類 代表的な製品例 特徴 適した傷 注意点
ハイドロコロイド キズパワーパッド™、ケアリーヴ™治す力など 湿潤環境を強力に維持し治癒を促進。防水性が高く、数日間貼付可能。 滲出液の少ない~中等度の浅い切り傷・擦り傷。 感染創には禁忌。軟膏との併用不可11。添付文書を要確認。
ウレタン不織布 ケアリーヴ™(通常タイプ)など 伸縮性が非常に高く、関節部など動きの多い部位によくフィットする。通気性が良い。 動きの多い部位の軽い傷や、乾燥気味の傷の保護。 防水性は低い。湿潤環境の維持能力はハイドロコロイドに劣る。
防水フィルム バンドエイド®ウォーターブロックなど 薄くて透明なフィルムで水に強い。目立ちにくい。 水仕事や入浴時の、滲出液が少ない傷の保護。 滲出液が多いと蒸れて剥がれやすい。伸縮性はあまりない。
液体絆創膏 コロスキン®、サカムケア®など 塗って乾かすと透明な膜になり、傷を保護する。 さかむけ、あかぎれなど、絆創膏が貼りにくい部位の小さな傷。 塗る時に強い刺激痛がある。顔、粘膜、深い傷、化膿部位には使用不可12

出典: 各種製品情報および国際的な創傷被覆材レビュー13を基にJHO編集部作成

塗り薬(軟膏)の種類と選び方

  • 抗生物質含有軟膏(例:ドルマイシン軟膏®、テラマイシン軟膏®)
    • 目的: 細菌の増殖を抑え、感染を予防または治療します。
    • 使うべき時: 汚れた物で怪我をした場合や、ごく軽い感染の兆候が見られる場合に短期的に使用を検討します。ただし、感染が疑われる場合は、まず医療機関を受診するのが原則です。
  • ワセリン(例:プロペト®)
    • 目的: 薬剤成分を含まず、皮膚の表面に膜を作ることで物理的に保護し、乾燥を防ぎます。湿潤環境の維持を補助します。
    • 使うべき時: 薬剤が不要な清潔な傷の保護や、治りかけの乾燥しやすい傷の保湿に適しています。

傷跡を残さないための科学的アプローチ【介入後ケア】

傷が閉じ、上皮化した後もケアは続きます。ここからの半年から1年間が、最終的な傷跡が目立つかどうかの分かれ道です。

  1. 徹底した紫外線対策(最低3~6ヶ月間)
    • 理由: 治りたてのデリケートな皮膚は、紫外線に反応してメラニン色素が過剰に生成されやすく、茶色いシミ(炎症後色素沈着)として傷跡が目立ってしまう原因になります。
    • 対策: SPF30・PA++以上の日焼け止めを毎日塗る、遮光効果のある医療用テープを貼る、衣服や帽子で物理的に覆うといった対策が非常に有効です。
  2. 物理的刺激からの保護(最低3~6ヶ月間)
    • 理由: 傷跡に継続的な張力(引っ張られる力)や摩擦が加わると、コラーゲン線維が過剰に作られ、傷跡が赤く盛り上がったり(肥厚性瘢痕)、幅が広がったりする原因になります。
    • 対策: 医療用のサージカルテープを、傷跡の走行に対して垂直に、皮膚が少し寄るようにテンションをかけて貼る方法が推奨される場合があります。
  3. 十分な保湿
    • 理由: 乾燥は皮膚のバリア機能を低下させ、かゆみや微細な炎症を引き起こします。このかゆみで傷跡を掻き壊すことが、さらなる悪化につながります。
    • 対策: 刺激の少ない保湿剤で傷跡部分を十分に保湿し、常にしっとりとした状態を保ちます。

よくある質問

傷口を洗うのは水道水で十分ですか? 生理食塩水の方が良いのでは?

簡潔な回答: 家庭では、容易に利用できる水道水での洗浄が第一選択です。

複数の研究を統合した2022年のコクラン・レビューでは、水道水と生理食塩水で洗浄した場合の感染率や治癒率に明確な差があるという確かな証拠は見つからず、その効果の差は不確実である(エビデンスの確実性は非常に低い)と結論付けられています7。まずは十分な量の流水で異物を洗い流すことが最も重要です。

消毒液は本当に使わない方がいいのですか?

はい、感染の兆候がない日常的な傷への画一的な使用は、原則として推奨されません。消毒液は細菌だけでなく、傷の治癒に必要な自身の細胞にもダメージを与え、回復を遅らせる可能性があるためです1。まずは洗浄を最優先してください。

圧迫しても血がなかなか止まりません。どうすれば良いですか?

清潔なガーゼなどで傷口を強く圧迫し続ける「直接圧迫止血法」を継続することが最優先です6。圧迫を続けながら、ためらわずに救急車を要請するか、速やかに医療機関を受診してください。

キズパワーパッド™などのハイドロコロイド絆創膏は、いつ貼り替えるべきですか?

絆創膏が滲出液を吸収して白く膨らみ、その膨らみがパッドの端に達した場合、パッドの縁から液が漏れ出した場合、またはパッドが自然に剥がれてきた場合が交換のサインです10。これらがなくても、感染の兆候がないか定期的に確認し、その都度、傷口を洗浄することが推奨されます。

傷口がかさぶたになってしまいました。剥がしても良いですか?

無理に剥がすのは避けてください。かさぶたは皮膚の再生を妨げる障害物になる可能性がありますが、無理に剥がすと治りかけの新しい皮膚を傷つけ、出血や感染、傷跡が残る原因になります。自然に剥がれ落ちるのを待ちましょう。

お風呂には入れますか? 傷口を濡らさない方が良いと聞きましたが。

傷口を清潔に保つための洗浄は重要なので、シャワーなどで洗い流すことは問題ありません。ただし、長時間の入浴で傷がふやけてしまうのは避けるべきです。防水性の高い絆創膏を貼るなどして保護し、入浴後は再度、傷の周りを清潔にして乾燥させてから新しい絆創膏を貼りましょう。

(研究者向け) 湿潤療法と従来の乾燥療法を比較したメタ解析における、創傷治癒期間の標準化平均差(SMD)は具体的にどの程度か?

2023年にInternational Wound Journalで発表されたWang Sらのメタ解析では、湿潤療法用ドレッシング材は従来のガーゼドレッシング材と比較して、創傷治癒時間を有意に短縮することが示されました。具体的には、標準化平均差 (SMD) が −2.50 (95%信頼区間[CI] −3.35~−1.66, p<0.01) でした。ただし、著者らは含まれた研究間に高い異質性(I²=97%)があることを指摘しており、結果の解釈には注意が必要です9

(臨床教育向け) 患者に湿潤療法の誤用(不十分な洗浄)のリスクを説明する際、どのような比喩や表現が効果的か?

「この絆創膏は、傷を治すための『最高の土壌』を作るものですが、『悪い種(細菌や汚れ)』が残っていると、かえって雑草だらけになってしまいます。だからこそ、まず最初に畑をしっかり耕すように、痛くても傷を徹底的に洗うことが一番大切なのです」といった比喩が有効です。洗浄不足のまま貼付すると、細菌を密閉してしまい感染を悪化させるリスクがあることを具体的に伝えることが重要です3

反証と不確実性

  • 日本人データの限定性: 本記事で参照した主要なメタ解析やレビュー7,9は、主に海外の研究を含んでおり、日本人集団に特化した大規模なデータは限定的です。人種差が治癒過程に与える影響は完全には解明されていません。
  • 市販製品の多様性: 湿潤療法用製品は多岐にわたり、素材や吸収能力に差があります。本記事の推奨は一般的なものであり、特定の製品の効果を保証するものではありません。
  • 観察バイアス: 軽微な傷は医療機関を受診しないため、報告される感染症例は重症例に偏る可能性があります。実際の家庭での感染率は、報告されている数値と異なる可能性があります。

自己監査:潜在的な誤りと対策

  1. リスク: 「湿潤療法」という言葉の過度な単純化。
    読者が「特別な絆創膏を貼るだけ」と誤解し、最も重要な「徹底した洗浄」を軽視する可能性がある。
    軽減策: 「【要注意】湿潤療法が適さない・危険な傷」の項目を設け、「洗浄が不十分な傷」を筆頭に記載。要点やFAQでも繰り返し洗浄の重要性を強調した。
  2. リスク: 科学的根拠のニュアンスの欠落。
    例えば、Cochraneレビューの結論のみを伝え、「エビデンスの確実性が非常に低い」という重要な注釈を省略すると、読者に過度な確信を与えてしまう。
    軽減策: 引用する際は、効果量や結論だけでなく、GRADE評価やエビデンスの確実性に関する記述を必ず併記し、科学的な透明性を確保した。
  3. リスク: 「消毒不要」の原則が、すべての状況に当てはまると誤解される。
    動物咬傷や深い汚染創など、明らかに感染リスクが高い場合には専門的な消毒や抗菌薬が必要になる。
    軽減策: 「原則として」「日常的な傷では」といった限定的な表現を使用し、「病院へ行くべき目安」で専門的処置が必要なケースを具体的に列挙した。

付録:お住まいの地域での調べ方

休日や夜間に予期せぬ怪我をした場合、どこに相談・受診すればよいかを知っておくことは重要です。

  • こども医療でんわ相談(#8000): 小学生までの子どもの急な怪我について、看護師や医師から電話でアドバイスを受けられます(実施時間帯は都道府県により異なります)。
  • 救急相談センター(#7119): 救急車を呼ぶべきか迷った時に相談できる窓口です。医師や看護師が対応してくれます(一部地域で実施)。
  • 自治体のウェブサイト: 「[市区町村名] 休日夜間 診療」などのキーワードで検索すると、地域の当番医や休日診療所の情報を得られます。
  • 医療情報ネット(ナビイ): 厚生労働省が提供する全国の医療機関情報サイトで、診療科目や時間帯で検索が可能です。

まとめ

切り傷や擦り傷は、誰にでも起こりうる最も身近な怪我です。その処置方法一つで、治る速さや最終的な傷跡は大きく変わります。本稿で一貫してお伝えしたかったことは、「しっかり洗浄し、乾かさずに保護する」という現代の創傷治療の基本原則と、「不適切な洗浄のまま湿潤療法用絆創膏を使うと感染を悪化させる危険がある」という重要な警告です。

そして、少しでも不安な点や、本記事で紹介した「病院へ行くべき目安」に当てはまる場合は、決して自己判断で済ませず、ためらわずに専門医に相談してください。正しい知識と適切な判断こそが、あなたとあなたの大切な家族の体を守る最良の方法なのです。

免責事項

本記事は、医学的知識の普及を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。怪我の状態について具体的な診断・治療をご希望の場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の内容は2025年1月11日時点の情報に基づいており、最新のガイドラインや研究結果により変更される可能性があります。

利益相反の開示

本記事の作成にあたり、特定の製品・企業・団体からの資金提供は受けておらず、金銭的な利益相反はありません。記事中で言及される製品は、科学的エビデンスや公的機関の推奨に基づいて選定されており、広告・PR目的ではありません。

参考文献

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    創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)-1 創傷一般(第 3 版).
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    ステータス: OK |
    Tier: 0 (日本学会) |
    最終確認: 2025年1月11日
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    すりむいたケガへの対応方法 – 白クマ先生の子ども診療所.
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    ステータス: OK |
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    擦り傷を早く治すには?擦り傷で病院に行く目安や処置・薬について.
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    ステータス: OK |
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    PMID: 37465989
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    ステータス: OK |
    GRADE: 中/高 |
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    最終確認: 2025年1月11日
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    ステータス: OK |
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    最終確認: 2025年1月11日
  11. ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社.
    キズパワーパッド™ Q&A.
    URL: https://www.band-aid.jp/qa
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    ステータス: OK |
    Tier: 2 (製品情報) |
    最終確認: 2025年1月11日
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    ステータス: OK |
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    最終確認: 2025年1月11日
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    PMID: 29262220
    ↩︎

    ステータス: OK |
    GRADE: – |
    Tier: 1 (レビュー) |
    最終確認: 2025年1月11日

更新履歴

最終更新: 2025年1月11日 (Asia/Tokyo) — 詳細を表示

  • バージョン: 3.0.0
    日付: 2025年1月11日 (Asia/Tokyo)
    編集者: JHO編集部
    変更種別: Major改訂(多役割ストーリーテリング導入・3層コンテンツ設計・ARR/NNT追加・Self-audit新設)

    変更内容(詳細):

    • リード文を初心者に分かりやすい問いかけ形式に変更(Layer 1)。
    • 3層コンテンツ設計を導入(Beginner/Intermediate/Expert)。
    • 湿潤療法の項に主要メタ解析のエビデンス要約を追加(Layer 3)。GRADE評価、95% CI、ARR/NNTの試算を明記。
    • 消毒に関する記述を、ガイドラインの趣旨に沿って「懸念がある」というより正確な表現に修正。
    • 水道水洗浄に関するCochraneレビューの「エビデンスの確実性は非常に低い」という重要なニュアンスを追記。
    • 湿潤療法の誤用(不十分な洗浄)のリスクに関する警告を大幅に強化し、「要点」にも追加。
    • FAQを拡充し、研究者向け・臨床教育向けの質問を追加(Layer 3)。
    • 新規モジュールとして「方法(要約)」「反証と不確実性」「自己監査」「地域での調べ方」「利益相反の開示」を追加。
    • 参考文献をJHO標準形式に統一し、全件の到達性を再検証。引用箇所を各主張の直後に再配置。
    • 次回更新計画を含む、詳細な更新ログセクションを新設。

次回更新予定

更新トリガー(以下のいずれかが発生した場合、記事を見直します)

  • 日本皮膚科学会/日本形成外科学会ガイドライン改訂(現行版: 2023/2021年)
  • 関連する大規模RCT/メタ解析の発表(監視ジャーナル: Lancet, NEJM, JAMA, BMJ, Cochrane)
  • 市販の主要な創傷被覆材に関する重大な安全性情報の発表(監視: PMDA)

定期レビュー

  • 頻度: 12ヶ月ごと(トリガーなしの場合)
  • 次回予定: 2026年1月11日
  • レビュー内容: 全参考文献のリンク到達性確認、最新情報の反映。
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