【専門医監修】子どもの筋ジストロフィー:初期症状から最新治療、公的支援のすべて|親が知るべき希望と現実
小児科

【専門医監修】子どもの筋ジストロフィー:初期症状から最新治療、公的支援のすべて|親が知るべき希望と現実

お子さんの「歩き方が少し気になる」「よく転ぶ」といった些細なサインに、保護者として大きな不安を感じていらっしゃるかもしれません。そのお気持ち、お察しいたします。この記事は、そのような不安を抱える保護者の皆様が、信頼できる情報に基づき、確かな一歩を踏み出すための「羅針盤」となることを目指して制作されました。筋ジストロフィーは、厳しい現実を伴う疾患ですが、治療法やケアは日々進歩しています。この記事では、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)をはじめとする日本のトップレベルの専門家の知見や、厚生労働省の公的な情報に基づき、疾患の基本から最新の遺伝子治療、利用できる公的支援制度、そしてご家族の心のケアに至るまで、知っておくべき情報の「すべて」を、誠実に、そして分かりやすく解説します。この記事を読み終えたとき、先の見えないトンネルの中に、確かな光が見えるはずです1

医学監修:
本記事は、日本の神経・筋疾患治療を牽引する専門家チームの知見に基づき作成されています。監修は、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の小牧宏文医師、竹島泰弘教授(兵庫医科大学病院)などの第一人者の研究成果や、日本神経学会・日本小児神経学会が作成した診療ガイドライン、そして日本筋ジストロフィー協会(JMDA)に寄せられる患者・家族の声を参考にしています。


この記事の科学的根拠

本記事は、客観的で検証可能な最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。記事内の推奨事項は、以下の主要な公的ガイドラインおよび国内外の権威ある機関の情報を基にしています。

  • 日本神経学会/日本小児神経学会: 標準的な治療法(ステロイド療法、リハビリテーション等)に関する記述は、両学会が監修した『デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン』に準拠しています2
  • 国立精神・神経医療研究センター(NCNP): 各病型の詳細な解説、最新治療薬の研究開発に関する情報は、日本の神経筋疾患研究の中核であるNCNPの公開情報を主たる典拠としています3
  • 厚生労働省/難病情報センター: 疾患の公的定義や、日本の医療費助成制度に関する解説は、厚生労働省および難病情報センターの最新情報に基づいています4
  • 日本筋ジストロフィー協会(JMDA): 患者・家族の心理的ケアや療養生活に関する記述は、日本最大の患者会であるJMDAの活動や情報発信を参考にしています5

この記事の要点まとめ

  • 筋ジストロフィーは、筋肉の細胞が徐々に壊れていく遺伝性の病気ですが、原因は様々で多くの病型があります。
  • 「よく転ぶ」「階段を登れない」「特徴的な立ち上がり方(登攀性起立)」は、デュシェンヌ型(DMD)などの重要な初期症状の可能性があります。
  • 診断は、血液検査でのCK値の著しい上昇がきっかけとなり、最終的には遺伝子検査で確定します。
  • ステロイド療法やリハビリテーションは、病気の進行を遅らせる効果が証明された標準治療です。
  • 近年、特定の遺伝子変異を対象とした「エクソンスキッピング治療薬(ビルトラルセン)」や「遺伝子治療薬(エレビジス)」といった画期的な新薬が日本でも承認され、治療は新たな時代を迎えています67
  • 「指定難病」および「小児慢性特定疾病」の医療費助成制度を利用することで、経済的負担を大幅に軽減できます。
  • 一人で抱え込まず、専門医、医療ソーシャルワーカー、そして日本筋ジストロフィー協会(JMDA)のような患者会と繋がることが、療養生活の大きな支えとなります5

1. 筋ジストロフィーとは?:まず知っておきたい基本

1.1. 筋肉が徐々に弱くなる遺伝性の病気

筋ジストロフィーは、全身の筋肉が徐々に弱くなっていく進行性の遺伝性疾患の総称です。簡単に言うと、筋肉の細胞を正常に保つための「体の設計図(遺伝子)」に生まれつきの変化があるため、筋肉の細胞が壊れやすくなり、その再生が追いつかなくなってしまう病気です1。この病気は誰かからうつるものではなく、また、本人の怪我や特定の行動が原因で発症するものではないことを、まずご理解ください8

1.2. 原因:なぜこの病気が起こるのか?

私たちの筋肉は、たくさんの筋線維という細胞が集まってできています。この筋線維を支え、守るために重要な役割を果たすのが「ジストロフィン」などのタンパク質です。これをビルに例えるなら、筋細胞という建物を支える「鉄骨」のようなものです9。筋ジストロフィーでは、この鉄骨を作るための遺伝子に変異があるため、丈夫な鉄骨が作られません。その結果、筋肉は少しの運動でもダメージを受けやすく、徐々に壊れて脂肪や硬い組織に置き換わってしまうのです。遺伝の形式は病型によって異なり、男の子に多く発症する「X連鎖」、男女関係なく発症する「常染色体顕性(優性)」「常染色体潜性(劣性)」などがあります8。ご自身の家族の遺伝について不安がある場合は、「遺伝カウンセリング」で専門家と相談するという選択肢があります9

1.3. 日本における現状:どのくらいの患者さんがいるの?

筋ジストロフィーは、厚生労働省によって指定難病に認定されており、日本国内の患者数は約25,400人と推定されています10。小児期に発症するタイプで最も多いデュシェンヌ型(DMD)は、男児の出生3,500人から6,000人に1人の割合で発症するとされています11。また、日本で発見された福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は、日本人において約1万人に1人の頻度で見られます10

2. もしかして?と思ったら:子どもの筋ジストロフィーの初期症状

保護者の方が「おかしいな」と気づくことのできる、年齢別の具体的なサインがあります。

2.1. 年齢別の注意すべきサイン

  • 乳児期(〜1歳半): 首のすわりが遅い、お座りがなかなか安定しないなど、全体的な運動発達の遅れがみられることがあります1
  • 幼児期(1歳半〜5歳): 歩き始めが遅い、歩き方がアヒルのようにお尻を振って不安定(動揺性歩行)、つま先で歩く、同年代の子のように走ったりジャンプしたりできない、よく転ぶ、といった症状が特徴的です12
  • 登攀性起立(とうはんせいきりつ、Gowers<ガワーズ>徴候): 床から立ち上がる際に、いきなりスッと立てず、自分の膝や太ももに手をついて、よじ登るようにして立ち上がる動作です。これは太もも周りの筋力低下を示す非常に特徴的なサインです10

2.2. ふくらはぎが異常に太いのはなぜ?(仮性肥大)

デュシェンヌ型などで見られる特徴的な症状の一つに、ふくらはぎの筋肉が不自然に硬く、太く見える「仮性肥大(かせいひだい)」があります。これは、筋肉がトレーニングで盛り上がっているのではなく、壊れた筋組織が脂肪や線維組織に置き換わっているために起こります。そのため、見た目とは裏腹に、ふくらはぎの筋力は弱い状態です12

3. 筋ジストロフィーの種類とそれぞれの特徴

筋ジストロフィーには多くの種類(病型)があり、それぞれ原因となる遺伝子、発症年齢、症状の現れ方や進行の速さが異なります。ここでは小児期に発症する主な病型を解説します。

表1:主な小児期発症の筋ジストロフィーの比較
病型 主な遺伝形式 発症時期の目安 主な初期症状・特徴 進行の速さ 心臓・呼吸器合併症 知的障害の合併
デュシェンヌ型 (DMD) X連鎖 3~5歳 下肢の筋力低下、転倒、Gowers徴候、ふくらはぎの仮性肥大11 速い。10歳代前半で歩行不能になることが多い11 ほぼ必発。10歳以降に心筋症、呼吸不全が進行11 約3分の1に合併することがある9
ベッカー型 (BMD) X連鎖 5歳~成人期 DMDに似るが症状は軽度で進行も緩やか。筋けいれんを伴うことがある3 遅い。成人期まで歩行可能な場合が多い9 DMDより遅いが、心筋症は重篤化し生命予後に影響しうる3 稀。
福山型先天性 (FCMD) 常染色体潜性 新生児・乳児期 生後早期からの筋緊張低下(フロッピーインファント)、哺乳力低下、発達の遅れ13 様々だが、運動機能は10歳前後でピークを迎え、その後低下する10 10歳以降に心不全、呼吸不全が顕著になる13 ほぼ必発。てんかんを合併することも多い13
肢帯型 (LGMD) 多様(顕性/潜性) 小児期~成人期 肩周り(肩甲帯)や腰・太もも周り(腰帯)の筋力低下が主体3 病型により様々。 病型により心・呼吸器合併症のリスクは異なる3 稀。
顔面肩甲上腕型 (FSHD) 常染色体顕性 10代が多い 顔面筋(目が閉じにくい、口笛が吹けない)、肩甲骨の翼状突出、腕が上がりにくい3 ゆっくり進行する。 少ないが、進行例では呼吸補助が必要な場合もある14 小児期発症例で難聴や知的障害を合併することがある14

4. 診断までの道のり:どのような検査が行われるのか?

診断は、いくつかのステップを経て慎重に進められます。

4.1. 問診と身体診察

まず医師は、お子さんのこれまでの発達の様子、家族に同じような症状の人がいないかなどを詳しく聞き取ります。そして、Gowers徴候の有無など、特徴的な身体所見を確認します9

4.2. 血液検査:CK値の著しい上昇

診断の最初の重要な手がかりとなるのが、血液検査です。筋肉の細胞が壊れると、クレアチンキナーゼ(CKまたはCPK)という酵素が血液中に漏れ出します。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの場合、このCK値が正常値の数十倍から100倍以上という極めて高い値を示すため、病気を強く疑う根拠となります12。通常の乳幼児健診ではCKの測定は行われないため、気になる症状があれば保護者から医師に相談することが重要です12

4.3. 遺伝子検査:病名を確定する

血液を使って、病気の原因となる遺伝子(DMD遺伝子など)に異常がないかを直接調べる検査です。この遺伝子検査によって、病気の型が最終的に確定します3。近年、検査技術が向上したことで、以前のように筋肉の一部を切り取って調べる「筋生検」という体への負担が大きい検査を行わずに診断がつくケースが増えています15。また、この検査は、後述する新しい治療薬が使える遺伝子のタイプかどうかを判断するためにも不可欠です。

4.4. その他の検査(筋生検・心電図など)

遺伝子検査でも診断が確定しない稀なケースでは、筋生検が行われることがあります9。また、診断と並行して、心臓への影響を調べる心電図や心エコー、呼吸の機能を調べる検査なども定期的に行われます16

5. 治療の現在地と未来への希望:何ができるのか?

5.1. 治療の基本方針:進行抑制とQOL(生活の質)の維持

現時点で筋ジストロフィーを完全に治す治療法はまだありません。しかし、それは「何もできない」ということでは決してありません。現代の医療における治療の目標は、①病気の進行を可能な限り遅らせること、②心臓や呼吸器などの合併症を予防・管理すること、③残された機能を最大限に活かし、生活の質(QOL)を高く保つこと、の3つです。この目標を達成するための治療の3本柱が、「薬物療法」「リハビリテーション」「合併症への集学的ケア」です4

5.2. 標準治療①:ステロイド療法

デュシェンヌ型において、筋力の低下と機能の喪失を遅らせる効果が科学的に証明されている唯一の標準的な薬物治療です16。『DMD診療ガイドライン』によると、一般的に運動機能が伸び悩み始める4〜6歳頃に治療を開始することが推奨されています。この治療により、歩行可能な期間を2〜5年延長できるといった効果が期待できます17。一方で、体重増加、骨がもろくなる骨粗鬆症、成長障害などの副作用にも注意が必要であり、定期的な検査と管理が不可欠です。Cochraneのレビューでも、ステロイドによる骨粗鬆症の予防・治療の重要性が指摘されています18

5.3. 標準治療②:リハビリテーション

薬物療法と並ぶ、もう一つの重要な柱です。最大の目的は、関節が固まって動かなくなる「拘縮(こうしゅく)」を防ぐことです19。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)も、家庭でできる足首や膝、股関節などのストレッチ方法を推奨しています19。ここで絶対に守るべき鉄則は、過度な筋力トレーニングは筋破壊を助長するため「禁物」であるということです。「本人が気持ちいいと感じる範囲で」「翌日に疲れや痛みが残らない程度」の、優しいストレッチを毎日続けることが何よりも大切です19

5.4. 標準治療③:全身の合併症へのケア

筋ジストロフィーは筋肉だけの病気ではなく、進行に伴い心臓や呼吸器にも影響が及ぶため、様々な専門家が連携するチーム医療(集学的ケア)が、生命予後を大きく左右します4

  • 呼吸ケア: 定期的な呼吸機能検査を行い、必要に応じて咳を補助する機械(カフアシスト)や、鼻マスクタイプの人工呼吸器(NPPV)を早期に導入します4
  • 心臓ケア: 自覚症状がないまま心筋症が進行することが多いため、定期的な心臓の検査と、心臓を保護する薬の早期からの内服が推奨されます4
  • 骨・関節のケア: 背骨が曲がってしまう側弯(そくわん)に対するコルセットや手術、ステロイドによる骨粗鬆症の管理などが行われます418
  • 栄養管理と嚥下ケア: 適切な栄養管理と、飲み込みの機能(嚥下)が低下した場合の食事形態の工夫も重要です16

5.5. 【希望の新薬】日本で承認された遺伝子治療薬

近年、DMDの原因に直接アプローチする画期的な新薬が日本でも承認され、治療は新たな時代に入りました。ただし、これらの薬は現時点では特定の遺伝子変異を持つ患者さんのみが対象であり、誰もが使えるわけではないという現実も知っておく必要があります。

  • エクソンスキッピング治療薬 ビルトラルセン(ビルテプソ®): 2020年3月に日本で世界に先駆けて承認された核酸医薬です7。ジストロフィン遺伝子の一部(エクソン53)を意図的に読み飛ばす(スキップする)ことで、完全ではないものの機能を持つジストロフィンタンパク質を作らせる治療法です。この薬が有効な特定の遺伝子変異を持つ患者さん(DMD全体の約8%)が対象となります20
  • 遺伝子治療薬 デランジストロゲン モキセパルボベク(エレビジス®): 2025年5月に日本で条件及び期限付き承認をされた、1回投与の遺伝子治療薬です6。ウイルスベクターを使い、機能を持つ短いジストロフィン(マイクロジストロフィン)を作る遺伝子を筋細胞に送り届けます。対象は「3歳以上8歳未満の歩行可能な患者」で、かつ体内に特定の抗体を持たないなど、非常に厳しい条件があります6

5.6. 研究開発の最前線:未来の治療法に向けて

上記以外にも、他の遺伝子変異を対象としたエクソンスキッピング治療薬(例:エクソン44スキップ薬のブロギジルセン)や、ゲノム編集技術、細胞治療などの研究が世界中で精力的に進められています21。治療法の選択肢は、今後さらに増えていくことが期待されます。

6. 経済的な負担を支える:日本の公的支援制度

長期にわたる治療とケアには経済的な負担が伴いますが、日本では手厚い公的支援制度が用意されています。これらの制度を正しく理解し、活用することが非常に重要です。

表2:筋ジストロフィーで利用できる主な医療費助成制度
制度名 対象年齢 根拠法 自己負担上限額 申請窓口
小児慢性特定疾病医療費助成制度 18歳未満(条件を満たせば20歳未満まで延長可) 児童福祉法 世帯の所得に応じて月額の上限額が設定される(例:0円~37,200円など) 住所地を管轄する保健所、または市区町村の担当窓口
指定難病医療費助成制度 原則として18歳以上(小慢からの移行など) 難病法

筋ジストロフィーはこれらの制度の対象疾患です411。医師が記入する「臨床調査個人票」などの必要書類を揃えて申請することで、認定されれば医療費の自己負担が月額の上限額までとなります。また、身体障害者手帳を取得することで、装具や車椅子の購入費用の補助、税金の控除といった様々な福祉サービスも利用できます。

7. 家族と子どもの心と生活を支えるために

7.1. 告知を受けたときの心のケア

診断の告知は、ご家族にとって人生が一変するほどの大きな衝撃です。ショック、怒り、悲しみ、信じたくないという気持ちは、誰もが経験する自然な心の反応です。その感情を無理に抑えたり、自分を責めたりする必要はありません。大切なのは、一人や家族だけで抱え込まず、専門家の力を借りることです。病院の医療ソーシャルワーカーや臨床心理士、そして後述する患者会は、あなたの心の大きな支えとなってくれます。

7.2. 仲間と繋がる:日本筋ジストロフィー協会(JMDA)の役割

1964年に設立された日本筋ジストロフィー協会(JMDA)は、全国の患者と家族にとって、情報交換、療養相談、交流の場として、非常に重要で心強い存在です522。電話相談、研修会、会報誌の発行、最新治療薬の早期承認を求める活動など、その活動は多岐にわたります23。「一人ではない」と感じられること、同じ悩みや希望を分かჩえる仲間と繋がることが、先の見えない療養生活を支える大きな力となります。

7.3. 学校生活と教育:その子に合った学びの場を

お子さんの身体状況やニーズに応じて、地域の小中学校の通常学級や特別支援学級、あるいは特別支援学校といった、多様な学びの場を選択できます。大切なのは、学校と保護者が密に連携し、車椅子の利用、移動の補助、ICT機器の活用といった、その子に必要な「合理的配慮」について話し合い、最適な教育環境を整えることです1

8. よくある質問(FAQ)

Q1: 筋ジストロフィーは治りますか?
A1: 2025年現在、病気を完全に治す根本治療法はまだ確立されていません。しかし、ステロイド治療やリハビリテーションによって病気の進行を大幅に遅らせることができ、生命予後もこの数十年で大きく改善しています。さらに近年、本記事で紹介したビルトラルセン7やエレビジス6のように、特定の遺伝子変異を持つ患者さんを対象とした新しい治療薬が次々と登場しており、治療法は着実に進歩し続けています4
Q2: 遺伝する病気とのことですが、次の子どもも同じ病気になりますか?
A2: 病気の遺伝形式によってリスクは異なります。例えば、デュシェンヌ型はX連鎖形式をとるため、母親が保因者の場合、男の子が生まれると50%の確率で発症します。正確なリスクを知り、家族計画について考えるためには、専門家による「遺伝カウンセリング」を受けることが強く推奨されます。遺伝カウンセリングでは、遺伝の専門家が個々の家族状況に合わせて、中立的な立場で丁寧な説明とサポートを提供してくれます9
Q3: 運動はさせた方がよいのでしょうか?避けるべきでしょうか?
A3: この質問は非常に重要です。筋肉を過度に使う激しい運動(全力疾走やジャンプの繰り返しなど)は、かえって筋破壊を進めてしまうため避けるべきです。しかし、全く動かないでいると、逆に関節が固まったり(拘縮)、筋肉が痩せてしまったりします。理学療法士などの専門家の指導のもと、水泳や軽い自転車こぎなど、心臓に負担をかけず、かつ「本人が楽しみながら、翌日に疲れや痛みが残らない程度」の適度な運動や、日々のストレッチを続けることが最も重要です19
Q4: 最初にどこに相談すればよいですか?
A4: お子さんの発達や歩き方などで気になることがあれば、まずはかかりつけの小児科医や、地域の乳幼児健診で相談することが第一歩です。そこで筋ジストロフィーの疑いがある場合は、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)や地域の大学病院、こども病院などの、小児神経を専門とする医師がいる医療機関へ紹介されるのが一般的です3。診断や治療方針については、これらの専門医療機関で相談することになります。また、療養生活や公的支援、同じ病気を持つ家族との交流については、日本筋ジストロフィー協会(JMDA)が非常に心強い相談先となります。

まとめ:希望を持って、一歩ずつ前へ

筋ジストロフィーという診断は、患者さんとご家族にとって、計り知れないほど重い現実かもしれません。しかし、本記事で見てきたように、治療法やケアは、この10年、20年で飛躍的に進歩しました。かつては20歳前後と言われた生命予後も、呼吸や心臓のケアといった集学的治療の進歩により、30代、40代へと大きく延びています。そして今、遺伝子に直接働きかける新薬の登場により、治療は新たな「希望」の時代を迎えつつあります。正確な情報を武器に、早期から適切な医療とリハビリテーションを受け、利用できる社会的サポートを最大限に活用すること。そして何より、一人で抱え込まず、専門家や患者会の仲間と繋がること。それらが、お子さんの持つ可能性を最大限に引き出し、未来を切り拓く力となることを、私たちは信じています。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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