この記事は、そんな生後14ヶ月のお子さんを持つ保護者の皆様のために、科学的根拠に基づいた最も信頼できる情報を提供することを目的としています。この記事を読むことで、身体的な成長の目安から、運動能力、言葉や心の発達、そしてこの時期に最も重要な栄養と食事の進め方まで、包括的に理解することができます。
何よりもまず、最も重要なことをお伝えします。それは、子どもの発達には「個人差(こじんさ)」があるということです。これは、育児書や専門家が必ずと言っていいほど強調する点です2。この記事で紹介する発達の目安は、あくまで一般的な傾向を示すものであり、すべての子供が同じ時期に同じことができるようになるわけではありません。歩き始めるのが早い子もいれば、言葉が先に発達する子もいます。一人ひとりの個性とペースを尊重し、焦らずに見守ってあげることが、子どもの健やかな成長にとって最も大切なことです。
生後14ヶ月は、よちよち歩きで世界を探検し始め、意味のある言葉を発し、そして「自分」という意識が芽生え始める、非常にダイナミックな時期です2。この記事が、皆様の不安を和らげ、お子さんとの毎日をより深く、そして楽しく過ごすための一助となることを心から願っています。
この記事の信頼性について
JAPANESEHEALTH.ORGは、読者の皆様に最も正確で信頼できる医療情報を提供することをお約束します。この記事は、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の原則に基づき、小児科専門医および管理栄養士の監修のもと、公的機関や学術団体が公表している一次情報源のみを基に作成されています。
要点まとめ
- 成長には個人差がある: 発達の目安はあくまで平均。わが子なりのペースを尊重し、焦らず見守ることが最も重要です。
- 身体的成長: 厚生労働省の成長曲線を参考に、定期的な計測で成長のトレンドを確認します。一度の数値で一喜一憂する必要はありません。
- 運動能力: よちよち歩きが始まり、転ぶのは学習の過程。安全な環境を整え、指先を使った遊びも促しましょう。
- 言葉と認知: 言葉の理解が先行します。指差しなどの非言語コミュニケーションに応え、大人がたくさん話しかけることが語彙を増やします。
- 食事: 1日3回の食事+補食が基本。手づかみ食べを存分にさせ、食べる楽しさを育みます。ミニトマトやナッツ類など窒息リスクの高い食品には最大の注意が必要です。
- 親の関わり: 安定した生活リズム、豊かなコミュニケーション、そしてメディアとの賢い付き合い方が、子どもの心と脳を育てます。癇癪は成長の証と捉え、冷静に対応しましょう。
身体的成長:成長曲線で見るわが子の発育
お子さんの成長を客観的に把握する上で、身体発育曲線(成長曲線)は非常に重要なツールです。これは、乳幼児健診などで目にするグラフで、多くの子どもたちの身長や体重のデータを集計し、パーセンタイル値で示したものです10。パーセンタイル値とは、全体を100人としたときに、小さい方から数えて何番目になるかを示す数値です。例えば「50パーセンタイル」は平均的な値(中央値)を意味し、「3パーセンタイル」なら100人中3番目に小さい、「97パーセンタイル」なら100人中3番目に大きい、というように解釈します。
大切なのは、この曲線から外れているからといって、直ちに異常があるわけではないということです。成長には個人差があり、遺伝的な要因も大きく影響します11。成長曲線は、国立保健医療科学院のマニュアルでも示されているように、一度の計測で判断するのではなく、定期的に計測し、その子なりのカーブに沿って順調に成長しているかを確認するためのものです12。
日本の子どもたちの成長を評価する上で最も信頼性の高い基準は、厚生労働省が実施している「乳幼児身体発育調査」です13。この調査は、日本の乳幼児の身体発育値を明らかにし、保健指導に役立てることを目的としており、まさに日本のスタンダードと言えるものです14。
以下に、最新の「平成22年(2010年)乳幼児身体発育調査」に基づいた、生後1年2ヶ月(1.1歳から1.2歳未満)時点での身長と体重のパーセンタイル値を示します。これは、日本の小児科医が実際の診察で参照する、最も権威あるデータです。
身体計測 | 性別 | 3パーセンタイル | 10パーセンタイル | 25パーセンタイル | 50パーセンタイル | 75パーセンタイル | 90パーセンタイル | 97パーセンタイル |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
体重 (kg) | 男児 | 7.93 | 8.35 | 8.84 | 9.45 | 10.12 | 10.74 | 11.36 |
女児 | 7.34 | 7.72 | 8.18 | 8.76 | 9.40 | 10.01 | 10.64 | |
身長 (cm) | 男児 | 72.1 | 73.6 | 75.3 | 77.3 | 79.2 | 81.0 | 82.7 |
女児 | 70.4 | 72.0 | 73.7 | 75.7 | 77.7 | 79.4 | 81.1 |
出典: 厚生労働省「平成22年乳幼児身体発育調査報告書」より作成3
この表は、お子さんの現在の成長段階を客観的に把握するための目安となります。また、世界保健機関(WHO)も国際的な成長基準(WHO Child Growth Standards)を定めており、日本の基準もこうした国際的な取り組みの中で位置づけられています8。WHOの基準は、母乳で育てられた乳児を成長の規範としており、最適な環境下での子どもの成長ポテンシャルを示しています15。
運動能力の発達:動き出す世界
生後14ヶ月は、多くの子どもが自分の足で立ち、歩き始める感動的な時期です。この時期の運動能力の発達は、単に身体が動くようになるだけでなく、子どもの好奇心と密接に結びついています。子どもは「あそこに行きたい」「あれに触ってみたい」という知的な探求心に突き動かされて、移動する能力を獲得していきます1。したがって、運動能力の発達を促すことは、安全な環境を整え、子どもの「探検したい」という気持ちを応援することと同義です。
粗大運動:全身を使ったダイナミックな動き
粗大運動とは、歩く、走る、跳ぶなど、体全体を使った大きな動きのことです。
- 一人で立つ(Standing Alone): この時期、多くの子どもが支えなしで一人で立てるようになります。厚生労働省の資料では、12〜14ヶ月で「ひとりで2秒立つ」ことが目安の一つとされています16。最初は数秒でも、次第に10秒以上安定して立てるようになっていきます。
- 歩き始め(よちよち歩き – Toddling): 生後14ヶ月は、まさに「よちよち歩き」の最盛期です2。両腕を肩の高さまで上げてバランスを取りながら、おぼつかない足取りで数歩進む姿が見られます17。一般的に、生後1歳3ヶ月までには約8割の子が歩き始め、1歳6ヶ月までにはほとんどの子が上手に歩けるようになると言われています18。まだハイハイが主な移動手段であっても、焦る必要は全くありません。
- 転ぶこと(Falling): 歩き始めは転ぶのが当たり前です。何度も転んだり、尻もちをついたりしながら、子どもはバランスの取り方や体の使い方を学んでいきます2。このとき、親が過剰に心配したり慌てたりすると、子どもも不安になってしまいます。軽い転倒であれば、「大丈夫だよ」「ナイスチャレンジ!」と明るく声をかけることで、子どもは失敗を恐れずに挑戦し続けることができます19。
- 階段(Stairs): 好奇心旺盛な子どもは、階段にも興味を示します。この時期には、ハイハイで階段を上り始める子もいます17。安全対策をしっかりと行った上で、挑戦させてあげるのも良いでしょう。
微細運動:指先が器用になる
微細運動とは、指先を使ったつまむ、めくる、描くといった細かい動きのことです。
- 手づかみ食べとスプーン(Self-feeding and Spoons): 自分で食べたがる意欲が非常に高まります。手づかみで食べ物を口に運ぶことを楽しみます20。まだとても散らかしますが、スプーンやフォークを使いたがる素振りを見せることもあります17。これは、目と手の協調性を高める重要な練習です。
- 積み木(Stacking Blocks): 小さな積み木やブロックを2つほど積み上げることができるようになります20。これは、物の形を認識し、バランスを取ろうとする思考の表れです。
- お絵描き(Scribbling): クレヨンを持たせると、紙にぐりぐりと線を描くことができます20。最初は点を打つだけかもしれませんが、やがて腕を動かして線を描くようになります。
- 本をめくる(Turning Pages): 絵本に興味を持ち、厚紙でできたボードブックのページを自分でめくることができるようになります20。
これらの運動能力の発達は、子どもが世界を能動的に探求し、学ぶための土台となります。安全な環境の中で、子どもの「やってみたい」という気持ちを温かく見守り、応援してあげることが大切です。
認知と言葉の発達:心と知性のめばえ
生後14ヶ月の子どもの頭の中では、驚くべきスピードで認知能力が発達しています。目に見える言葉や行動の背景には、世界を理解しようとする活発な知性の働きがあります。この時期の最大の特徴は、欲求や感情が複雑になる一方で、それを表現する言葉の能力がまだ追いついていないことです。この「理解」と「表現」のギャップを理解することが、子どもの行動を正しく解釈し、適切に関わるための鍵となります。
言葉の発達
- 言葉の理解(Language Comprehension): 言葉を話す能力(表出言語)よりも、言葉を理解する能力(受容言語)が先行して発達します18。自分の名前を呼ばれると振り向いたり、「ちょうだい」と言われると物を差し出したりすることができます18。また、「くまちゃんはどこ?」と聞くと指をさしたり、「ごはんですよ」と言うと椅子に向かったりと、簡単な言葉や短い文章の意味を理解し始めます21。この時期、大人が話す言葉をスポンジのように吸収しています。
- 言葉の表現(Language Expression): 「ママ」「パパ」といった親しい人を呼ぶ言葉に加え、「マンマ(ごはん)」「ワンワン(犬)」など、意味のある単語を1〜6語ほど話すようになります2。この時、「ボール」を「ボー」のように、不完全な発音で言うことがありますが、これは立派な「有意語(意味のある言葉)」です20。まだ「サ行」や「ラ行」など、発音が難しい音もありますが、無理に言い直しをさせる必要はありません。大人が正しい発音でゆっくりと話しかけてあげることが、自然な学習を促します1。
- 指差し(Pointing): 指差しは、言葉を話す前の非常に重要なコミュニケーション手段です。興味があるもの、欲しいもの、助けてほしいことがある時に、指をさして伝えようとします20。親が「ワンワンだね」「お花きれいだね」と指差しの先にあるものを言葉にしてあげることで、子どもの語彙は爆発的に増えていきます。
認知能力の飛躍
- 模倣(Imitation): この時期の子どもは、優れた「まねっこ」の達人です。大人の行動や他の子どもの遊びをじっと見て、真似をします17。電話を耳に当てる、リモコンのボタンを押す、掃除の真似をするなど、模倣を通じて物の使い方や社会のルールを学んでいきます21。
- 好奇心と探求(Curiosity and Exploration): 子どもの世界は、すべてが実験室です。引き出しの中身を全部出したり、ティッシュを延々と引き出したりする「いたずら」は、物の性質を探求している証拠です22。また、コップをわざと落として親の反応を試すような行動も、原因と結果の関係(因果関係)を学んでいる過程と言えます2。
- 物の正しい使い方(Correct Use of Objects): 模倣と探求を通じて、物の機能的な使い方を理解し始めます。コップで飲もうとしたり、本を読もうとページをめくったり、電話のおもちゃを耳に当てて話す真似をしたりします20。
- いないいないばあ(Peek-a-boo): この遊びを喜ぶのは、認知発達の重要なマイルストーンである「対象の永続性」が確立してきた証拠です1。これは、「見えなくなっても、物はそこに存在し続ける」という概念の理解を意味します。親の顔が隠れても、また現れるという予測と期待が、この遊びの楽しさの源です。
この時期に頻繁に見られる「癇癪(かんしゃく)」は、こうした認知発達と深く関連しています。子どもは「あれが欲しい」「こうしたい」という明確な意思を持つようになりますが、それを伝える語彙が圧倒的に不足しています。この伝えたい気持ちと、伝えられないもどかしさのギャップが、欲求不満となって爆発し、癇癪という形で現れるのです20。したがって、癇癪への最も効果的な対応は、罰することではなく、子どもの気持ちを代弁し、コミュニケーションの橋渡しをしてあげることなのです。
社会性と感情の世界:大きな感情との付き合い方
生後14ヶ月は、自我が芽生え、社会的な関係性を学び始める重要な時期です。子どもは、親との安定した愛着関係を基盤に、少しずつ外の世界へと踏み出していきます。しかし、その心の中は、自立したい気持ちと、まだ親に頼りたい気持ちが複雑に絡み合い、本人もコントロールできないほどの大きな感情の波に揺れ動いています。
- 自立と依存のせめぎ合い(The Push-and-Pull of Independence and Dependence): この時期の幼児の行動は、一見矛盾しているように見えることがあります。ある時は果敢に親から離れて探検し、一人で遊ぶことに夢中になる一方で、疲れたり、不安になったりすると、急にべったりと甘えて離れようとしなくなります21。これは、子どもの心が不安定なのではなく、「親」という安全基地があるからこそ、安心して冒険に出られるという、健全な愛着形成の証です。自立への道は一直線ではなく、依存と自立を行ったり来たりしながら進んでいくことを理解し、子どもが求めてきたときには優しく受け止めてあげましょう。
- 分離不安(Separation Anxiety): 大好きな親と離れることに強い不安を感じるのも、この時期の自然な発達段階です21。親の姿が見えなくなると泣き叫ぶのは、親との強い絆が形成されている証拠です。この不安を乗り越えるためには、親がこっそりといなくなるのではなく、「ママはちょっとお買い物に行って、すぐに戻ってくるからね」と、これから起こることを伝えて安心させることが大切です21。別れ際に親が不安そうな顔を見せると、子どもの不安は増大します。毅然とした態度で、しかし愛情を込めて別れを告げ、戻ってきたときにはたくさん抱きしめてあげましょう。これを繰り返すうちに、「ママは必ず戻ってくる」という信頼感が育まれます。
- 癇癪(Tantrums): 1歳から3歳にかけては、癇癪のピークです19。前述の通り、これは自分の思い通りにならないフラストレーションが原因であり、親を困らせようとしているわけではありません20。癇癪への対応は、親自身の冷静さが試される場面です。
【専門家が推奨する癇癪への対応法】- 冷静を保つ: まず親が落ち着くことが最も重要です。大声で叱りつけるのは逆効果です23。
- 安全を確保する: 子どもが自分や他人を傷つけたり、危険な場所にいたりしないかを確認します。
- 気持ちを代弁する: 「おもちゃが取れなくて悔しかったね」「もっと遊びたかったんだね」と、子どもの感情を言葉にしてあげます24。これにより、子どもは自分の感情を理解されていると感じ、落ち着きを取り戻しやすくなります。
- 毅然とした態度を保つ: 安全や健康に関わるルール(例:道路に飛び出さない、お菓子ばかり食べない)については、癇癪を起こしても譲らない姿勢が重要です。要求をのむことで癇癪を止めさせると、子どもは「泣き叫べば思い通りになる」と学習してしまいます24。
- 落ち着いたら寄り添う: 癇癪が収まったら、「よく頑張ったね」と抱きしめ、気持ちを切り替えられるように手助けをします。無視をする場合も、子ども自身を無視するのではなく、癇癪という行動に対して反応しないという姿勢が大切です24。
- 人見知り(Stranger Anxiety): 見慣れない人に対して不安を感じ、泣いたり親の後ろに隠れたりするのも、社会性が発達している証拠です1。いつも関わっている特別な存在(親)と、そうでない人を区別できるようになったという認知的な成長の表れなのです。
- 愛情表現(Showing Affection): この時期は、難しい感情だけでなく、豊かな愛情表現も見られるようになります。親やぬいぐるみに対して、抱きしめたり、キスをしたりして、愛情を示すことができるようになります20。こうしたポジティブな感情のやり取りが、子どもの心の安定と発達の基盤となります。
健やかな成長を支える栄養:離乳食完了期
生後14ヶ月は、栄養摂取の中心が母乳やミルクから幼児食へと移行する「離乳食完了期(12〜18ヶ月頃)」にあたります。この時期の食事は、単に栄養を摂るだけでなく、食べる楽しさを知り、生涯にわたる健康な食習慣の基礎を築く上で非常に重要です。
厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」によると、「離乳の完了」とは、母乳や育児用ミルクを全く飲まなくなることではありません5。食事だけでは不足しがちな栄養を補うため、また心の安定のために、子どもの様子を見ながら授乳を続けることは問題ありません。栄養の中心が1日3回の食事に移っていく段階と捉えましょう。
- 食事の回数とリズム: 1日3回の食事に加え、午前と午後に1〜2回の補食(おやつ)を与えるのが基本です5。食事の時間を決めて生活リズムを整えることで、空腹を感じて意欲的に食事に臨めるようになります。
- バランスの取れた食事: 毎回の食事で、「主食(ごはん、パンなど)」「主菜(肉、魚、卵、大豆製品など)」「副菜(野菜、海藻など)」を組み合わせることを意識しましょう5。大人の食事から取り分ける場合は、味付けをする前に取り出し、子ども用に薄味に調理するのが基本です。
- 手づかみ食べの重要性: この時期の子どもは、手づかみで食べたがります。これは食べ物で遊んでいるのではなく、食べ物の固さや温度、形を手で確かめ、自分で一口の量を学ぶという重要な学習過程です5。汚れることを恐れずに、存分に手づかみ食べをさせてあげましょう。
- 好き嫌い(偏食)への対応: 食べ物の好き嫌いが出てくるのは自然なことです25。無理強いすると、食事が嫌いになってしまう可能性があります。
この時期は、噛む力や飲み込む機能がまだ未熟なため、窒息事故のリスクが非常に高いです。日本小児科学会や消費者庁も強く注意を呼びかけています6。以下の点に特に注意してください。
【窒息のリスクが高い食品と対策】6
- 丸くてつるっとしたもの: ミニトマト、ぶどう、さくらんぼは、必ず4等分にカットする。球形のチーズやソーセージも同様に小さく切る。
- 固い豆・ナッツ類: ピーナッツやアーモンドなどは、砕いてあっても破片が気管に入りやすいため、5歳以下の子どもには与えないことが推奨されています。
- 粘着性が高いもの: 餅や白玉団子は、噛み切りにくく喉に詰まりやすいため、避けるのが賢明です。
- 弾力があるもの: こんにゃくゼリーやイカ、きのこ類は、小さく切っても弾力があり噛み切りにくいため、調理法に工夫が必要です。
歩きながら、遊びながら、テレビを見ながらの食事は、食べ物に集中できず、誤嚥のリスクを高めます。食事は必ず座って、落ち着いた環境でとるようにしましょう27。
栄養素 | 性別 | 推奨量(RDA)または目安量(AI) |
---|---|---|
エネルギー | 男児 | 950 kcal/日 (推定エネルギー必要量) |
女児 | 900 kcal/日 (推定エネルギー必要量) | |
たんぱく質 | 男児 | 20 g/日 (推奨量) |
女児 | 20 g/日 (推奨量) | |
鉄 (Fe) | 男女 | 4.5 mg/日 (推奨量) |
カルシウム (Ca) | 男児 | 450 mg/日 (推奨量) |
女児 | 400 mg/日 (推奨量) | |
ビタミンD | 男児 | 3.0 µg/日 (目安量) |
女児 | 3.5 µg/日 (目安量) |
この表は、栄養バランスを考える上での科学的な目安です。特に、この時期は鉄欠乏になりやすいため、赤身の肉や魚、レバー、ほうれん草などを意識的に食事に取り入れることが推奨されます。また、カルシウムの吸収を助けるビタミンDは、食事から摂るだけでなく、適度な日光浴によっても体内で生成されます29。
親の役割:健やかな発達を促す環境づくり
子どもの健やかな発達は、生まれ持った素質だけで決まるものではありません。親や周囲の大人がどのような環境を整え、どのように関わるかが、子どもの能力を最大限に引き出すための鍵となります。ここでは、専門家が推奨する、日々の生活の中で実践できる具体的な関わり方を紹介します。
- 毎日のルーティンを大切にする: 1歳から2歳の子どもは、1日に11時間から14時間の睡眠(昼寝を含む)が必要です9。毎日決まった時間に起きて、食事をし、寝るという安定した生活リズムは、子どもの情緒を安定させ、安心感を与えます23。特に、寝る前のルーティン(パジャマに着替える、歯を磨く、絵本を読むなど)を決めると、子どもは安心して眠りにつくことができます。
- 遊びと読み聞かせで世界を広げる: 子どもにとって、遊びは学びそのものです。積み木やお絵描き、ままごとなどの遊びは、認知能力や創造力を育みます30。特に、親子のコミュニケーションを深め、言語能力を著しく向上させるのが「読み聞かせ」です。研究によれば、子どもへの読み聞かせは、発達スコアを高くする重要な要因の一つであることが示されています31。絵本を指差しながら、「これはワンワンだね」と一緒に楽しむ時間は、子どもの脳と心にとって最高の栄養となります1。
- 豊かなコミュニケーションを心がける: 子どもと過ごす時間には、意識的にたくさん話しかけてあげましょう。「お着替えしようね」「お外は雨が降っているね」など、日常の出来事を言葉にしてあげることで、子どもは言葉の意味と現実の世界を結びつけていきます1。子どもの喃語や身振り手振りにも、「そうなの、嬉しいんだね」と応答的な反応を返すことで、コミュニケーションの楽しさを学びます。
- メディアとの賢い付き合い方: スマートフォンやテレビは現代の育児に欠かせないツールですが、その使い方には注意が必要です。日本小児科学会は、乳幼児のメディア総接触時間を1日2時間以内に留めることを提言しています7。これは、メディア視聴が、睡眠、食事、外遊び、そして何より大切な人との直接的な対話の時間を奪ってしまうことを懸念してのことです。国立成育医療研究センターの研究では、6ヶ月時点でのメディア接触時間が長いほど、14ヶ月時点での認知・言語発達が遅れる傾向が見られたと報告されています32。メディアに頼る時間も必要ですが、その内容を教育的なものに選び、親子で一緒に楽しむなど、一方的な「メディア漬け」にならない工夫が求められます。
心配なときは:専門家への相談目安
子どもの発達には個人差があると理解していても、心配になるのは親として当然の感情です。ほとんどの場合、その心配は杞憂に終わりますが、中には専門的なサポートが必要なケースもあります。大切なのは、一人で抱え込まず、適切な相談先に繋がることです。
まず、大前提として、親の直感は非常に重要です。「何かおかしいかもしれない」という気持ちが続く場合は、それを無視しないでください。
以下に、専門家への相談を検討する際の一般的な目安を挙げます。これは、子どもに問題があると断定するものではなく、あくまで「一度、専門家の意見を聞いてみよう」と考えるためのきっかけです。
- 運動面での目安:
- 1歳6ヶ月(18ヶ月)になっても、全く歩こうとしない。
- いつもつま先で歩いており、かかとをつけて歩けない17。
- 体の動きが左右で著しく違う、または極端にぎこちない。
- 言葉・コミュニケーション面での目安:
- 名前を呼んでもほとんど振り向かない。
- 「バイバイ」などの身振りを真似しようとしない17。
- 興味のあるものを指差しして伝えようとしない。
- 親と視線を合わせようとしない。
- その他の目安:
- 一度できていたスキル(例:バイバイ、言葉など)が、できなくなってしまった(スキルの後退)。
- 音への反応が極端に鈍い。
- 食事の偏りが極端で、体重が全く増えない。
これらの様子が見られた場合、まずはかかりつけの小児科医や、地域の1歳6か月児健康診査の機会に相談するのが第一歩です18。健診は、発育や発達に関するあらゆる不安を専門家(医師、保健師、栄養士など)に相談できる絶好の機会です。また、地域の保健センターや子育て支援センターでも、気軽に相談に乗ってもらえます。早期に相談することで、必要な支援に繋がりやすくなり、親の不安も軽減されます。
結論
生後14ヶ月という時期は、子どもの成長の中でも特に変化に富んだ、輝かしい瞬間です。昨日までできなかったことが今日できるようになる、その一つひとつの発見は、親にとってかけがえのない喜びでしょう。同時に、子どもの行動の意味が分からず戸惑ったり、周りと比べて焦りを感じたりすることもあるかもしれません。しかし、本稿で繰り返し強調したように、発達の道筋は一人ひとり異なります。大切なのは、平均的な目安に一喜一憂するのではなく、わが子の個性とペースを深く理解し、その子なりの成長を温かく見守ることです。安全な環境を整え、豊かな言葉をかけ、栄養バランスの取れた食事を提供し、そして何よりも愛情を持って接すること。それが、お子さんが自信を持って次のステップへと踏み出すための、最も確かな土台となります。もし不安や疑問があれば、決して一人で抱え込まず、かかりつけ医や地域の専門家を頼ってください。このダイナミックな成長の時期を、親子で共に楽しみ、素晴らしい思い出を育んでいかれることを心より応援しています。
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。お子様の健康や発達に関する懸念がある場合や、治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある小児科医や医療専門家にご相談ください。
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