【医師監修】妊娠中の茶色いおりもの:原因、危険なサイン、安全な対処法の完全ガイド
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【医師監修】妊娠中の茶色いおりもの:原因、危険なサイン、安全な対処法の完全ガイド

妊娠は奇跡のような素晴らしい旅ですが、同時に多くの不安がつきものです。特に、おりものの色の変化といった普段と違う兆候は、多くの妊婦さんを戸惑わせ、心配にさせます。中でも「茶色いおりもの」は、決して珍しくないものの、その原因がわからず不安に感じる方が多い症状の一つです。そのように感じられるのは、ごく自然なことです。本稿は、そうした不安を抱える皆さまに、正確な医学的知識と具体的な行動指針を提供するために編纂されました。
まず理解すべきは、茶色いおりものの正体です。これは多くの場合、出血してから時間が経過した「古い血液」が原因です1。血液が体外に排出されるまでに時間がかかると、血液中のヘモグロビンが酸化し、鮮やかな赤色から茶色や黒っぽい色へと変化します。これは、通常、鮮血(せんけつ)と呼ばれる真っ赤な出血とは区別されます。しかし、この色の違いだけで安心するのは早計です。茶色いおりものの原因の多くは妊娠に伴う生理的な変化であり、心配のないものですが、中には迅速な医療介入を必要とする病的な状態のサインである可能性も否定できません。この記事では、日本産科婦人科学会(JSOG)2、米国産科婦人科学会(ACOG)3、英国王立産婦人科医協会(RCOG)4などの権威ある機関のガイドラインや、PubMedなどの国際的な医学データベースに掲載された査読済み科学研究に基づき、信頼性の高い情報のみを網羅的に解説します。読者の皆様がご自身の状況を客観的に評価し、いつ、どのように医療機関に相談すべきかを明確に理解できるよう、手助けとなることを目的としています。

この記事の要点

  • 茶色いおりものの多くは、酸化した古い血液であり、着床出血や子宮頸部の過敏性など、心配の少ない生理的な原因によるものです。
  • しかし、切迫流産、子宮外妊娠、胞状奇胎など、緊急の対応を要する病的な状態のサインである可能性もあります。
  • 色だけでなく、量、期間、性状(血の塊の有無)、そして特に腹痛の有無を総合的に観察することが極めて重要です。
  • 出血量が多い(生理2日目以上)、強い腹痛を伴う、鮮血が出るなどの場合は、時間帯を問わず直ちに医療機関に連絡する必要があります。
  • 妊娠初期の出血は、たとえ無事に治まったとしても、その後の妊娠経過において早産や低出生体重児などのリスク因子となる可能性があり、継続的な注意深い健診が重要です。

第1部:妊娠中の「おりもの」の性質と科学的背景

妊娠期間中、女性の身体は胎児を育み、守るために劇的なホルモンの変化を経験します。特にエストロゲンとプロゲステロンという二つの主要なホルモンが、おりものの性質に大きな影響を与えます。

1.1 妊娠に伴うおりものの生理的な変化

妊娠すると、女性ホルモンの分泌が活発になります。これがおりものの量や状態に変化をもたらすのです。

  • エストロゲンの役割: エストロゲンの濃度が上昇すると、おりものの量が増加します。これは、膣内を清潔に保ち、外部からの感染が子宮内に侵入するのを防ぐための自然な防御メカニズムです5
  • プロゲステロンの役割: 同様に妊娠維持に不可欠なプロゲステロンも増加します。このホルモンは、おりものの色を透明や白色から、わずかに黄色がかった色や茶色がかった色に変化させることがあります5

したがって、おりものの量が増え、色が少し変わることは、妊娠中のごく正常な現象の一部です。この時期の正常なおりものは、通常、透明、乳白色、またはわずかに黄色がかっており、匂いはほとんどないか、あっても軽いものです6。この「正常な状態」を理解しておくことが、異常な変化を見分けるための基礎となります。

1.2 色が「茶色」になる科学的理由

おりものに含まれる血液の色は、出血がいつ起きたかを知るための重要な手がかりとなります。その色の変化を決定づけるのが「酸化」のプロセスです。
血液が血管から出た直後は、酸素を豊富に含んだヘモグロビンによって鮮やかな赤色をしています。しかし、その血液がすぐに体外に排出されず、子宮内や膣内にしばらく留まると、ヘモグロビンは徐々に酸素を失います。この酸化プロセスによってヘモグロビンの構造が変化し、血液は次第に暗赤色、茶色、そして最終的には黒に近い色へと変わっていきます1。そのため、茶色いおりものは、出血が少し前に起こったものであり、現在進行形の急性出血ではないことを示唆する場合が多いのです。
ただし、色だけで重症度を判断することは危険な自己判断につながりかねません。「茶色は古い血だから心配ない」という経験則は多くの生理的状況で当てはまりますが、胞状奇胎7や子宮外妊娠8、さらには一部の流産のように、深刻な病状が茶色や暗褐色のおりもので始まることも臨床データで示されています。色は全体像の一部に過ぎません。正確な評価のためには、色、量、持続期間、性状(血の塊が混じっているか)、そして特に腹痛などの随伴症状を総合的に考慮する必要があります。本稿で提案する行動計画は、この多角的なアプローチに基づいています。

第2部:心配の少ない生理的な原因

妊娠中にみられる茶色いおりものの多くは、危険な病気の兆候ではなく、生理的な変化や良性の現象に由来します。

2.1 着床出血(Implantation Bleeding):詳細な分析

着床出血は、妊娠のごく初期段階で茶色やピンク色のおりものを引き起こす、最も一般的で無害な原因の一つです。

  • メカニズム: 受精卵が胚盤胞(はいばんほう)となって子宮内膜に着床する際に起こります。胚が子宮内膜に潜り込む過程で、内膜にある毛細血管がわずかに傷つき、少量の出血を引き起こすことがあります7
  • 時期: 通常、妊娠4週頃、つまり次の生理予定日とほぼ同じ時期に起こります。このため、生理と混同されることがあります9
  • 特徴的なサイン:
    • 量: ごくわずかで、下着に数滴付着する程度の点状出血であることがほとんどです。ナプキンが必要になることは稀です9
    • 色: 血液の量が少なく、酸化されるため、薄いピンク色や茶色であることが一般的です9
    • 期間: 非常に短く、通常1日から3日程度で自然に止まります9
    • 痛み: 激しい痛みを伴うことはありません。一部の女性は、生理前の軽い不快感に似た、下腹部のチクチクとした軽い痛みを感じることがあります7
    • 性状: 血液はさらさらしており、大きな血の塊が混じることはありません10
  • 頻度: 着床出血は全ての妊婦に起こるわけではありません。推定では、妊婦のおよそ4分の1かそれ以下でしか経験されない現象です7

2.2 子宮頸部の過敏性

妊娠中は、子宮や子宮頸部を含む骨盤内の臓器への血流が著しく増加します。これにより、子宮頸部は通常よりも柔らかく、充血し、非常に敏感な状態になります6
この敏感さのため、以下のようなわずかな物理的刺激によって、子宮頸部から少量の出血が起こりやすくなります。

  • 産婦人科での内診6
  • 性交渉6
  • 便秘による排便時のいきみ6

これらの微小な損傷からの出血は、しばらく時間が経ってから体外に排出される際に茶色く見えることがよくあります。

  • 子宮頸部びらん(Cervical Ectropion): これは病気ではなく、完全に正常な生理的状態です。子宮頸管内の腺細胞が子宮頸部の外側の表面まで広がってきて、粘膜がただれた(びらん)ように見える状態を指します。ホルモンの影響で妊娠中には特に顕著になりやすく、このびらん面は非常に薄くて脆いため、接触によって容易に出血し、茶色やピンク色のおりものの原因となります7
  • 子宮頸管ポリープ(Cervical Polyp): 子宮頸部の表面にできる、キノコのような形の小さな良性の腫瘍です。ポリープは柔らかく、血管が豊富で非常に脆いため、接触によって簡単に出血します7。妊娠中のポリープの扱いは、基本的には経過観察となります。しかし、日本産科婦人科学会(JSOG)のガイドラインによれば、出血を繰り返す、あるいは感染源となる場合には、子宮収縮や多量出血のリスクを慎重に評価した上で、切除が検討されることもあります11

第3部:医学的評価を要する病的な原因

多くの原因が良性である一方で、茶色いおりものは、迅速な診断と治療を必要とする医学的問題の早期警告サインである可能性もあります。

3.1 切迫流産(Threatened Miscarriage)

  • 定義: 日本の医学的定義によると、切迫流産とは、妊娠22週未満に性器出血が起こり、超音波検査で胎児の生存(心拍が確認できる)が確認され、子宮頸管が開いていない状態を指します12(国際基準では20週)。これは流産が「差し迫っている」状態であり、まだ流産が完了したわけではありません。
  • 症状: 出血は茶色い点状出血から鮮血まで様々で、下腹部の鈍痛や腰痛を伴うことがあります13
  • 診断: 診断は超音波検査によって確定されます。出血という症状がありながらも、子宮内での胎児の正常な発育が確認できる状態です13
  • 「安静(あんせい)」の意義に関する重要な考察: 切迫流産の治療における「安静」の役割については、明確にしておくべき重要な点があります。それは、高度な科学的根拠と、広く行われている臨床現場での実践との間に見られる相違です。ACOG3やJSOG12といった権威ある機関のガイドラインは、ベッド上での安静を含む「安静」が、運命づけられた流産(多くは胎児の染色体異常が原因)を防ぐ上で有効であるという科学的証拠はない、と明言しています。妊娠初期の流産の最も一般的な原因は胎児の遺伝的異常であり、これは母親の行動によって変えられるものではありません12。しかし、日本では「安静」は依然として切迫流産の管理における基本方針とされています14。これは単なる矛盾ではなく、臨床的・心理的なアプローチを反映したものです。医師が安静を勧める目的は、以下の多面的な意味合いを持ちます。
    • 状況を悪化させる可能性のある要因の軽減: 物理的なストレスを減らし、不要な子宮収縮を抑える。
    • 他の出血源からの出血防止: 例えば絨毛膜下血腫がある場合、安静にすることで状態が安定する可能性がある。
    • 心理的サポート: 不安な妊婦に対し、コントロール不能な状況の中で「できる限りのことをしている」という感覚を提供する。

    したがって、医師から安静を指示された際は、「科学的根拠上、安静が胎児側の問題による流産を防ぐことはできないものの、妊娠にとって最も安定した環境を作るために推奨されています。身体的な負担を減らし、子宮への刺激を最小限に抑えることが目的です。医師の安静の指示に従うことは、あなたにとって重要なケアプランの一部です」と理解することが大切です。

3.2 絨毛膜下血腫(Subchorionic Hematoma – SCH)

  • メカニズム: 絨毛膜(胎児を包む膜)と子宮壁の間に血の塊(血腫)が形成される状態です6
  • 症状: 茶色い点状出血から赤い出血まで引き起こす可能性があります。多くの場合、腹痛を伴わず、出血が唯一の症状です9
  • 予後: 小さな血腫は非常によく見られ、通常は自然に吸収され、妊娠に影響を与えません。しかし、大きな血腫は流産やその他の合併症のリスクを高める可能性があり、超音波による慎重な経過観察が必要です6

3.3 子宮外妊娠(Ectopic Pregnancy)

  • 状態: これは直ちに除外診断が必要な医学的緊急事態です。
  • メカニズム: 受精卵が子宮腔の外、最も一般的には卵管に着床してしまう状態です7
  • 頻度: 全妊娠のおよそ1~2%で発生します15
  • 警告サイン: 典型的な三徴候は、「腹痛(多くは片側の鋭い痛み)」「無月経」「性器出血(茶色で少量の場合もある)」です。卵管が破裂すると、めまい、肩の痛み、ショック症状など、生命を脅かす症状が現れることがあります6

3.4 早期流産(Miscarriage)

  • メカニズム: 妊娠初期(妊娠12週未満)の流産の大部分(最大80%)は、胎児の染色体異常が原因であり、決して母親のせいではないことを理解することが重要です12
  • 症状: 出血は点状出血から始まり、次第に量が増え、しばしば血の塊を伴います。また、腹部のけいれん様の痛みが、徐々に強く、規則的になります12

3.5 胞状奇胎(Molar Pregnancy)

  • メカニズム: 受精時のエラーによって胎盤の組織(栄養膜細胞)が異常に増殖し、ぶどうの房のような水疱状の嚢胞を形成する疾患です7
  • 日本での発生頻度: アジア諸国ではこの疾患の発生率が高いことが知られており、特に注意が必要です。日本での発生率は妊娠約500件に1例と報告されており16、この疾患への認識は日本の読者にとって特に重要です。
  • 症状: 暗褐色の出血、重度のつわり(悪心・嘔吐)、妊娠週数に比して子宮が大きい、などの症状が見られることがあります7。迅速な医療処置が必要です。

第4部:妊娠中期から後期にかけての茶色いおりもの

妊娠の後半期に見られる茶色いおりものは、初期とは異なる原因が考えられます。

4.1 おしるし(Show)

  • メカニズム: 出産の準備のために子宮頸管が柔らかくなり、少しずつ開き始めると、妊娠中に子宮口を塞いでいた粘液栓(子宮頸管粘液)が剥がれ落ちます。この過程で子宮頸部の毛細血管が破れ、少量の血液が粘液に混じって排出されることがあります1
  • 時期: 通常、妊娠37週以降の臨月(りんげつ)に起こります1
  • 特徴: ピンク色、赤色、または茶色の血液が混じった粘液状のおりものです。これは、数時間から数日以内に陣痛が始まる可能性を示唆するサインですが、全ての女性が経験するわけではありません1

4.2 胎盤関連の問題

前置胎盤(ぜんちたいばん)のような状態にも注意が必要です。これは胎盤が子宮の出口(内子宮口)の一部または全部を覆ってしまう状態です。前置胎盤は、痛みを伴わない突然の鮮血の出血を引き起こすことがあります。低置胎盤と診断されている妊婦さんが、茶色いおりものを含めたいかなる出血の兆候にも気づいた場合は、直ちに医師に報告する必要があります1

第5部:詳細な行動計画:茶色いおりものに気づいた時の対応

茶色いおりものに気づいたとき、冷静を保ち、体系的に行動することが非常に重要です。以下の計画が、あなたの一歩一歩を導きます。

5.1 初期自己評価(「症状探偵」アプローチ)

医師に連絡する前に、落ち着いて重要な詳細を観察し、記録しましょう。これは医師が診断を下す上で非常に貴重な情報となります。

セルフチェックリスト

  • 時期 (Timing): いつから始まりましたか?現在、妊娠何週目ですか?
  • 量 (Volume): 下着に付着する点状ですか?おりものシートで足りますか?ナプキンが湿るほどですか?何時間で何枚のナプキンを使いましたか?1
  • 色 (Color): 薄茶色、濃い茶色、ピンク色、鮮やかな赤色、暗い赤色のどれですか?1
  • 性状 (Nature): 水っぽい、粘り気がある、粘液と混じっている、血の塊(かたまり)はありますか?ある場合、その大きさはどのくらいですか?1
  • 痛み (Pain): 腹痛やけいれん痛はありますか?ある場合、痛む場所はどこですか(片側、中央)?痛みの程度は(軽い、生理痛のよう、激しい)?痛みは持続的ですか、それとも周期的ですか?6
  • その他の症状 (Other Symptoms): 発熱、めまい、吐き気、腰痛はありますか?7

5.2 いつ医師に連絡すべきか:明確なガイダンス

以下の症状チェック表は、あなたの観察結果を明確な行動計画に変換し、曖昧さを減らし、ストレスの多い状況下で安全な判断を下すのに役立ちます。

症状の組み合わせ (Symptom Cluster) 取るべき行動 (Action to Take) 懸念される可能性 (Potential Concern)
グループ1:経過観察し、次回の健診で報告
– 茶色またはピンク色の少量の点状出血
– 1~2日以内に収まる
– 腹痛はない、またはごく軽い
– 他に気になる症状はない
– おりものシートやナプキンを当てて経過を観察する
– 激しい運動や無理な活動を避ける
– 次回の定期健診時に医師に報告する
– 着床出血や子宮頸部の過敏性など、良性である可能性が高い
グループ2:診療時間内にクリニックへ連絡
– 茶色いおりものが2~3日以上続く
– 少量でも赤い出血が断続的にある
– 激しい腹痛はない
– かかりつけの産婦人科に電話して指示を仰ぐ
– 医師から受診を勧められる可能性がある
– 絨毛膜下血腫(SCH)、持続的な子宮頸部の問題、または他の問題の初期兆候など、評価が必要
グループ3:直ちに(夜間・休日でも)病院へ連絡
– 生理の多い日と同等かそれ以上の出血(1時間にナプキン1枚が完全に濡れる状態が2時間続くなど)
– 大きな血の塊が出る
– 鮮やかな赤色の出血がある
– 中等度から重度の腹痛やけいれん痛がある
– めまい、失神、肩の痛みがある
– 直ちにかかりつけの産婦人科または救急外来に連絡する
– これは緊急事態です
– 子宮外妊娠、進行中の流産、またはその他の重篤な合併症が強く疑われる1

5.3 医療相談の準備

電話または受診する際には、セルフチェックリスト(5.1項)で記録した情報を手元に準備しておきましょう。これにより、医師はあなたの状況を迅速かつ正確に把握できます。

第6部:安全な管理とセルフケア

医師の診察を受けた後は、その指示に従い、適切に自己管理することが重要です。

6.1 「安静」の具体的な過ごし方

「安静」という医学用語は、医師が指示するレベルに応じて、具体的な行動に落とし込む必要があります14

  • レベル1(活動制限): 重い物(5kg以上)を持つ、激しい運動、長時間の立ち仕事などを避ける。家事を減らす。
  • レベル2(自宅安静): 主にソファやベッドで横になって過ごす。食事とトイレ以外は起き上がらない。家事や仕事は行わない。
  • レベル3(入院安静): 入院し、トイレへの歩行も制限されることが多い。

最も重要なのは、安静のレベルは医師が決定するものであり、その指示に厳密に従うことです。

6.2 清潔と快適さ

出血の量を確認し、衛生的に保つために、おりものシートやナプキンを使用してください(タンポンの使用は避ける)。外陰部は清潔な水で優しく洗い、刺激を避けるようにしましょう6

6.3 心の健康

心理的なストレスや不安は、この経験において避けられない部分です。パートナーや信頼できる友人、または医療スタッフ(医師、助産師)にあなたの気持ちを打ち明けてください。これらの感情はごく自然で、正当なものであることを忘れないでください。

第7部:長期的視点:予後予測因子としての妊娠初期出血

流産という当面の懸念とは別に、妊娠初期の出血は、たとえそれが止まり、良性と判断された後でも、その後の妊娠期間の健康状態にとって重要な予後情報をもたらします。これは単に「過ぎ去った危機」ではなく、価値ある医学的情報なのです。
複数の大規模な系統的レビューやメタアナリシス研究により、妊娠初期の出血は、その後の妊娠における有害事象の統計的に有意なリスクファクターであることが示されています1718。出血の根本的な原因(例えば、胎盤の着床の問題や炎症状態など)が、長期的な影響を及ぼす可能性があるのです。
研究によれば、妊娠初期に出血を経験した女性は、経験しなかった女性に比べて、早産や低出生体重児(LBW)、前期破水(PROM)といった状態を発症するリスクがわずかに高くなることが示唆されています。ある大規模なメタアナリシスでは、具体的なオッズ比(OR)が報告されています17

  • 早産: リスクが約1.8倍に増加 (OR=1.8)
  • 低出生体重児 (LBW): リスクが約2.0倍に増加 (OR=2.0)
  • 前期破水 (PROM): リスクが約2.3倍に増加 (OR=2.3)

別の研究では、妊娠初期に1日以上続く出血が、妊娠後期の胎児の発育、特に腹囲の成長が遅れることと関連があることも示されています19
この情報は、さらなる不安を煽るためのものではありません。むしろ、十分な産前ケアを受け、医療提供者とオープンにコミュニケーションを取ることの重要性を強調するためのものです。これは、医療チームがあなたとあなたの赤ちゃんに、妊娠全期間を通じて最善のケアを提供するのに役立つ早期のシグナルと捉えるべきです。

結論

妊娠という旅は、自身の身体への忍耐と理解を常に要求します。茶色いおりものの出現は、体内で起こっている複雑な変化を思い出させるものです。この記事では、あなたがこの現象に自信を持って向き合えるよう、科学的根拠に基づいた包括的な視点を提供しました。
心に留めておくべき重要なポイントは以下の通りです。

  • 茶色いおりものは一般的だが原因は多様: 全く無害な場合もあれば、深刻な問題のサインであることもあります。決して自己判断で結論づけないでください。
  • 色は一つの手がかりに過ぎない: 正確な評価には、量、期間、性状、そして伴う痛みの有無といった全体像の把握が必要です。
  • 医師への連絡をためらわない: あなたの観察は、診断にとって不可欠な情報です。あなたと赤ちゃんの安全が最優先です。
  • 「安静」の指示を遵守する: 医師の指示に厳密に従い、その役割が妊娠にとって最も安定した環境を作ることにあると理解してください。
  • あなたは自身の健康の主体的なパートナー: いかなる出血の兆候も、妊娠の長期的な健康管理にとって重要な情報となります。

最後に、ご自身の直感を信じ、医療チームとオープンにコミュニケーションをとり、安全で健康な妊娠期間を乗り越えるための知識とサポートが十分にあると確信してください。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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