シェービングによる肌トラブルを防ぐ方法とは? 効果的なケアと治療法をご紹介
皮膚科疾患

シェービングによる肌トラブルを防ぐ方法とは? 効果的なケアと治療法をご紹介

多くの男性、そして女性にとっても、シェービングは日々の身だしなみとして欠かせない習慣です。しかし、その一方で「カミソリ負け」として知られる、ヒリヒリとした痛み、赤み、不快なブツブツといった肌トラブルに悩まされている方も少なくありません1。これらの症状は単なる不快感にとどまらず、放置すると慢性的な炎症や色素沈着につながる可能性もあります2

この記事は、シェービングによる肌トラブルの根本原因を皮膚科学的な視点から徹底的に解明し、最新の臨床研究や専門家の知見に基づいた、最も効果的で信頼性の高い予防策と治療法を包括的に提供することを目的としています。本稿は、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医である土屋佳奈医師3および花房火月医師4の監修のもと、米国皮膚科学会(AAD)の指針5や国際的な医学論文のデータを統合し、日本の皆様のために作成されました。単純な対処法だけでなく、なぜトラブルが起きるのかという「科学」を理解することで、あなた自身の肌を守るための最適なソリューションを見つける手助けとなるでしょう。

要点まとめ

  • 「カミソリ負け」には、物理的刺激による「接触皮膚炎」、細菌感染による「毛嚢炎」、毛が皮膚に再侵入する「尋常性毛瘡(PFB)」の3種類があり、原因と対処法が異なります。
  • 肌への負担が少ない道具は、クリッパー > 電気シェーバー ≒ 安全カミソリ > カートリッジ式カミソリ の順です。科学的データでは、一枚刃の方が多枚刃より炎症リスクが低いことが示されています6
  • 予防の鍵は「準備・実践・回復」です。シェービング前の水分補給、毛の流れに沿った「順剃り」、そしてシェービング後の冷却とアルコールフリーの保湿剤によるバリア機能の修復が極めて重要です。
  • 市販薬を1週間使用しても改善しない、痛みが強い、膿を持つ、または色素沈着が残る場合は、迷わず皮膚科専門医を受診してください。

第1部 「カミソリ負け」の正体:皮膚科学的視点から見る症状・種類・原因

一般的に「カミソリ負け」と一括りにされがちな肌トラブルですが、その実態は一つではありません。原因や症状によって、医学的にはいくつかの異なる状態に分類されます。正確な知識を持つことが、適切なケアへの第一歩です。

1.1 それは本当に「カミソリ負け」?症状と種類を正確に知る

あなたの肌トラブルは、以下のどれに当てはまるでしょうか。原因が異なれば、対処法も変わってきます。

接触皮膚炎 (Contact Dermatitis)

カミソリの刃が物理的に肌を擦ることによる刺激や、シェービング剤に含まれる成分へのアレルギー反応が原因で起こる、最も一般的なタイプの「カミソリ負け」です。主な症状は、シェービング直後から現れる肌の赤み(紅斑)、ヒリヒリとした灼熱感、かゆみです2。これは肌の表面的な炎症であり、感染を伴わないことが特徴です。

毛嚢炎 (Folliculitis)

シェービングによって生じた目に見えないほどの微小な傷から、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌などが毛穴(毛嚢)に侵入し、感染・炎症を起こした状態です2。症状としては、ニキビに似た赤く小さなブツブツや、中心に膿を持った白い膿疱が現れます7。接触皮膚炎と異なり、細菌感染が根本原因です。

尋常性毛瘡 (Pseudofolliculitis Barbae – PFB)

英語では「Razor Bumps」とも呼ばれ、特に毛が濃く、カールしている人に多く見られる深刻な状態です。これは、剃られた毛の先端が皮膚の中に戻ってしまい(埋没毛)、毛そのものが異物として認識されることで炎症反応が起きるものです8。細菌感染が主体の毛嚢炎とは異なり、毛の物理的な侵入が引き金となります。強いかゆみや痛みを伴う硬い丘疹(盛り上がり)が特徴で、慢性化しやすく、色素沈着や瘢痕(傷跡)を残すリスクが高いとされています9
これらの状態を自己判断するための一助として、以下の表をご参照ください。

症状の種類別比較
症状の種類 主な見た目 主な感覚 原因
接触皮膚炎 全体的な赤み、腫れ ヒリヒリ感、かゆみ 物理的刺激、化学的刺激
毛嚢炎 毛穴に一致した赤いブツブツ、膿を持った白い点 軽度の痛み、かゆみ 細菌感染
尋常性毛瘡 (PFB) 硬い盛り上がりのある丘疹、埋没した毛が見えることも 強いかゆみ、圧痛 毛の皮膚への再侵入

1.2 なぜ肌は荒れるのか?シェービングが引き起こす皮膚の科学

シェービングが肌トラブルを引き起こす背景には、皮膚の構造と機能に関わる科学的なメカニズムが存在します。

皮膚バリア機能の破壊

私たちの皮膚の最も外側には、厚さわずか0.02mmの「角質層 (stratum corneum)」があり、外部の刺激から肌を守り、内部の水分蒸発を防ぐ「バリア機能」を担っています10。シェービングは、ヒゲだけでなくこの重要な角質層をも物理的に削り取ってしまいます8。バリア機能が損なわれた肌は、水分が逃げやすくなり乾燥するだけでなく、細菌やアレルギー物質などの外部刺激が容易に侵入できる無防備な状態に陥ります10

炎症カスケードの誘発

角質層が傷つくと、体はそれを「傷害」と認識し、修復プロセスを開始します。この過程で、皮膚の血管が拡張(vasodilation)し、炎症細胞が集まってきます。これが、赤み(紅斑)や熱感といった「カミソリ負け」の直接的な症状の正体です6。さらに、この時にできた微小な傷は、毛嚢炎の原因となる細菌の格好の侵入口となります2

尋常性毛瘡(PFB)の特異的な病態生理

尋常性毛瘡(PFB)は、より複雑なメカニズムによって引き起こされます。

  • 遺伝的素因と毛の構造: PFBは、特に毛が太く、強くカールしているアフリカ系やアジア系の人々に多く見られます11。近年の研究では、毛包のケラチンをコードする遺伝子(K6hf)の特定の変異を持つ人は、PFBを発症するリスクが6倍に高まることが報告されており、遺伝的な要因が強く関与していることが示唆されています11
  • 2種類の毛の侵入パターン: PFBにおける埋没毛は、主に2つのパターンで発生します。
    • 毛包外侵入 (Extra-follicular penetration): 毛が一度皮膚の表面に出た後、カールして再び皮膚に突き刺さるパターンです9
    • 毛包貫通 (Trans-follicular penetration): シェービング時に皮膚を強く引っ張ったり、多枚刃カミソリを使用したりすることで、毛が皮膚表面より下で切断されます。その結果、毛先が毛包内に後退し、成長する過程で毛包の壁を突き破って炎症を引き起こします9
  • 異物反応: PFBの炎症は、細菌感染ではなく、皮膚内に侵入した毛の主成分であるケラチンに対する「異物反応」です11。体は侵入した毛を異物とみなし、排除しようとして強い炎症反応を起こすのです。

第2部 徹底予防ガイド:科学的根拠に基づく「肌を守る」完全手順

肌トラブルを未然に防ぐことは、治療するよりもはるかに重要です。ここでは、科学的根拠に基づいた最も効果的な予防法を、道具選びからシェービング後のケアまで、完全な手順で解説します。

2.1 道具選びの極意:シェーバー・カミソリの科学的比較

最適な道具を選ぶことは、肌を守るための第一歩です。一般的な評判だけでなく、科学的なデータに基づいて選択することが賢明です。
多くの消費者向けサイトでは、電気シェーバーが「肌にやさしい」と推奨されていますが4、より客観的な証拠も存在します。例えば、2024年に発表されたある医学研究では、特殊な分光法(NIRS)を用いてシェービング後の皮膚の赤み(紅斑)を定量的に測定しました。その結果、カートリッジ式の多枚刃カミソリを使用した肌の57.6%で紅斑が見られたのに対し、一枚刃の安全カミソリでは40.3%に留まり、安全カミソリの方が有意に炎症を引き起こしにくいことが示されました6
さらに、医学研究で最も信頼性の高い形式の一つであるコクランレビューでは、外科手術前の除毛に関する複数の研究を分析し、カミソリによる除毛は、クリッパー(バリカン)や除毛クリームに比べて術後感染症(SSI)のリスクを有意に高めることが結論付けられています12。これは、カミソリが皮膚に微小な傷をより多く作ることを示唆しており、日常のシェービングにも通じる重要な知見です。
これらの階層的なエビデンスを統合すると、肌への負担が少ない順に、クリッパー > 電気シェーバー ≒ 安全カミソリ > カートリッジ式カミソリ という序列が浮かび上がります。以下の比較表を参考に、ご自身の肌質や求める仕上がりに合わせて最適なツールを選択してください。

シェーバー種類別 科学的比較分析
道具の種類 メカニズム 肌への影響(科学的データ) メリット デメリット
電気シェーバー 外刃(網刃)が肌を保護し、内刃が毛を剃る。刃が直接肌に触れにくい3 肌への物理的ダメージが少ない。一般的にカミソリ負けしにくいとされる4 安全性が高い、手軽、ドライシェービングが可能。 深剃り性能はT字に劣る場合がある、本体価格が高い、手入れが必要。
T字(安全カミソリ) 一枚の鋭利な刃で毛を剃る。 カートリッジ式より紅斑の発生率が低い(40.3%)6 深剃りが可能、ランニングコストが安い、刃のコントロールがしやすい。 慣れが必要、刃の交換頻度が高い。
T字(カートリッジ式) 複数の刃が「毛を持ち上げて剃る」ことで、毛が皮膚表面より下で切断されやすい13 紅斑の発生率が高い(57.6%)6。PFB(埋没毛)のリスクを高める可能性。 手軽に入手可能、安全ガード付きが多い。 肌への負担が大きい、替刃のコストが高い、刃の間に皮脂や毛が詰まりやすい。
クリッパー/トリマー 毛を挟んでカットする。肌に直接刃が触れない。 皮膚を傷つけるリスクが極めて低い。術後感染症リスクがカミソリより低い12 最も肌にやさしい、PFB予防に最適。 深剃りはできない(数ミリ毛が残る)。

刃の管理:切れ味と清潔さが命

どの道具を使うにせよ、刃の管理は極めて重要です。切れ味の悪い刃は、毛に引っかかり、余計な力や何度も同じ場所を剃る原因となり、肌ダメージを蓄積させます7。米国皮膚科学会(AAD)は、5~7回の使用ごとの刃の交換を推奨しています14。また、使用後は刃を十分に洗浄・乾燥させ、湿気の多い浴室での放置を避けることで、細菌の繁殖を防ぎ、毛嚢炎のリスクを低減できます2

2.2 シェービングの全手順:皮膚科医が推奨する「肌を守る」黄金律

正しい手順を踏むことで、肌へのダメージは劇的に軽減できます。ここでは、日本の皮膚科医とAADが推奨する「黄金律」をステップごとに紹介します。

ステップ1:準備編 (Preparation Phase) – 基礎を固める

  1. 洗顔 (Cleansing): まずはぬるま湯と刺激の少ない洗顔料で、皮脂や汚れを落とします。これにより、刃の滑りが良くなります15
  2. 水分補給と軟化 (Hydration and Softening): これが最も重要なステップです。温かいシャワーを浴びながら、あるいは蒸しタオルを2~5分間顔に当てて、ヒゲと皮膚を十分に柔らかくします。これにより、剃るのに必要な力が減り、摩擦が軽減されます4
  3. シェービング剤の塗布 (Applying Shaving Agent): 絶対に「から剃り」は避けてください。保湿成分の入ったシェービングクリームやジェルをたっぷりと塗り、1~2分間放置してヒゲに浸透させます7

ステップ2:実践編 (Execution Phase) – 技術を磨く

  1. 剃る方向 (Shaving Direction): 必ず毛の流れに沿って剃る「順剃り」から始めます。これが炎症とPFBを防ぐ最大の秘訣です9。深剃りを求める場合のみ、毛の流れに逆らう「逆剃り」を行いますが、それは最後の仕上げとし、敏感な部分では避けるべきです3
  2. 力加減とストローク (Pressure and Strokes): 短く、軽いストロークを心がけます。刃を肌に強く押し付けてはいけません。同じ場所を何度も往復するのは避け、2回を限度とします9
  3. 皮膚を伸ばさない (Don’t Stretch the Skin): 剃る際に、もう片方の手で皮膚を強く引っ張らないでください。これは毛を皮膚の下で切断し、埋没毛(PFB)の直接的な原因となります9
  4. 刃をすすぐ (Rinse the Blade): 一剃りごとに刃をお湯でよくすすぎ、詰まった毛や皮脂を取り除きます。これにより、常にクリーンで鋭い切れ味を保てます15

ステップ3:事後ケア編 (Aftercare Phase) – 回復を促す

  1. すすぎ (Rinsing): シェービング剤が残らないよう、冷たい水かぬるま湯で顔を優しく洗い流します15
  2. 冷却 (Cooling): 冷たい水でパッティングするか、冷たいタオルを数分間当てることで、初期の炎症を鎮め、赤みを抑えます2
  3. 保湿 (Moisturizing): これを怠ってはいけません。タオルで優しく押さえるように水分を拭き取り(こすらない!)、すぐにアルコールフリーの保湿ローションやクリームを塗布して、破壊された肌のバリア機能を補修します15

ステップ4:肌を休ませる (Resting the Skin)

肌が敏感な時や、炎症が起きている時は、シェービングを休む勇気も必要です。可能であれば毎日剃るのをやめ、休日などを利用して肌を休ませる日を作ることで、皮膚が自己修復する時間を与えることができます4

第3部 効果的な治療法:自宅ケアから皮膚科の専門治療まで

万が一、予防策を講じても肌トラブルが発生してしまった場合のために、症状のレベルに応じた明確なアクションプランを提示します。

3.1 症状が出たらすぐ実践:自宅でできる応急処置と市販薬ガイド

初期症状には、迅速かつ適切なセルフケアが重要です。

応急処置 (First Aid)

  • 冷やす (Cooling): 炎症の兆候(赤み、熱感、ヒリヒリ)を感じたら、まず冷たいタオルや保冷剤で患部を優しく冷やします。これにより血管が収縮し、炎症と痛みが和らぎます2
  • 保湿 (Moisturizing): 冷却後は、低刺激性の保湿剤でしっかりとケアします。肌のバリア機能をサポートし、乾燥による悪化を防ぎます。特に乾燥がひどい場合は、純度の高い白色ワセリンを薄く塗布し、水分の蒸発を防ぐ保護膜を作るのが効果的です3
  • 天然由来成分の活用: いくつかの天然成分は、その鎮静効果が研究で示唆されています。
    • アロエベラ: 軽度の火傷の治癒を助ける可能性が報告されています14
    • ココナッツオイル: 抗炎症作用と抗菌作用を持つ可能性が研究で示されています14
    • コロイド状オートミール: 抗酸化作用と抗炎症作用を持つフェノール類を含み、肌を落ち着かせ、保湿する効果が期待できます14

市販薬(OTC)の選び方と使い方

症状に合わせて適切な有効成分を含む市販薬を選ぶことが大切です。

  • 赤み・かゆみに対して: 抗炎症成分であるグリチルリチン酸ジカリウムや、弱いステロイド(ヒドロコルチゾンなど)を含む製品が有効です2
  • ブツブツ・毛嚢炎に対して: ベンゾイルペルオキシドなど、殺菌作用のある成分を含む製品が推奨されます。これにより、毛穴の細菌の増殖を抑えます14
  • 埋没毛(PFB)の予防に: サリチル酸グリコール酸といった角質柔軟成分を含む製品は、毛穴の詰まりを防ぎ、埋没毛の発生を抑えるのに役立ちます。ただし、これらは予防目的で使用し、既に炎症を起こしている肌への使用は刺激となるため避けるべきです14

注意点: 市販薬を選ぶ際は、薬剤師や登録販売者に相談することが推奨されます。また、1週間程度使用しても改善が見られない、あるいは悪化する場合には、使用を中止し、速やかに皮膚科を受診してください16

3.2 皮膚科での専門的治療:受診の目安と治療法の全貌

セルフケアで対応できない、あるいは症状が深刻な場合は、専門家である皮膚科医の診断と治療が必要です。

受診すべきタイミング

以下のいずれかに当てはまる場合は、迷わず皮膚科を受診してください。

  • 市販薬を1週間使用しても症状が改善しない16
  • 痛み、腫れ、かゆみが非常に強い。
  • 膿を持つ、じゅくじゅくする(ただれ)など、明らかな感染の兆候がある3
  • 硬いしこりや埋没毛(尋常性毛瘡)が繰り返しできる。
  • トラブルが治った後に黒ずみ(炎症後色素沈着)が残ってしまう2

皮膚科での治療法

皮膚科では、症状と診断に基づき、以下のような専門的な治療が行われます。これらは単独、あるいは組み合わせて用いられます。

症状別・皮膚科での専門的治療法
症状・疾患 主な治療法 治療の目的
重度の接触皮膚炎・炎症 ステロイド外用薬 強い抗炎症作用で、赤み、腫れ、かゆみを迅速に抑える9
細菌性毛嚢炎 抗菌薬(外用・内服) 原因菌(黄色ブドウ球菌など)を殺菌し、感染を治療する。クリンダマイシンなどが用いられる7
尋常性毛瘡 (PFB) 多角的なアプローチ:複合的な原因に対処するため、複数の治療を組み合わせる13
└ レチノイド外用薬 毛穴の角化異常を正常化し、毛の詰まりを防ぐ。トレチノインなどが用いられる9
└ 角質溶解薬(ケミカルピーリング) グリコール酸やサリチル酸で古い角質を除去し、毛の排出を助ける13
└ レーザー脱毛 PFBの最も根本的な治療法。毛根を破壊することで、原因となる毛そのものをなくす9
炎症後色素沈着 美白剤、ケミカルピーリングなど メラニンの生成を抑え、排出を促す。ハイドロキノン、アゼライン酸などが用いられる2

第4部 信頼性の根拠:専門家による監修と参考文献

この記事で提供される情報の正確性と信頼性を担保するために、その根拠を明確に示します。

4.1 監修者紹介

本記事は、以下の皮膚科専門医の監修を受けています。

  • 土屋 佳奈(つちや かな)医師
    資格: 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
    所属: つちやファミリークリニック浅草 院長
    経歴・理念: 「自身で試して本当に良いと思ったものだけを患者様におすすめする」をモットーとし、皮膚が本来持つ力を引き出す治療を信条とする。メディアでの監修や著書も多数31718
  • 花房 火月(はなふさ ひづき)医師
    資格: 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、医学博士
    所属: はなふさ皮膚科 理事長
    経歴・理念: 東京大学医学部卒業後、がん研有明病院などで研鑽を積む。エビデンスに基づいた最新の皮膚科治療を国内外の学会で積極的に発表・導入し、日本の皮膚医療の発展に貢献41920

4.2 本記事の信頼性について

現在、日本皮膚科学会(JDA)は「カミソリ負け」や「尋常性毛瘡」に特化した診療ガイドラインを公式には公開していません21。この事実は、多くの患者が標準的な治療情報にアクセスしにくい状況にあることを意味します。
そのため、この記事では、日本の皮膚科専門医による監修のもと、米国皮膚科学会(AAD)の指針や、世界的な医学データベースであるPubMed、そして最も信頼性の高いエビデンスとされるコクランレビューに掲載されている最新の臨床研究を統合しました。これにより、日本の読者にとって最も包括的で信頼できる情報を提供することを目指しています。我々は、この情報ギャップを埋めることが、肌トラブルに悩む方々への真の貢献となると信じています。

よくある質問 (FAQ)

カミソリ負けを防ぐために最も効果的なシェーバーの種類は何ですか?
科学的データに基づくと、肌への負担が最も少ないのは、刃が直接肌に触れない「クリッパー/トリマー」です12。深剃りはできませんが、尋常性毛瘡(PFB)の予防には最適です。深剃りを求める場合は、「電気シェーバー」や一枚刃の「安全カミソリ」が、多枚刃のカートリッジ式カミソリよりも炎症を引き起こすリスクが低いと報告されています6
シェービング後にアルコール入りの化粧水を使っても良いですか?
いいえ、推奨されません。シェービング後の肌はバリア機能が低下しており、非常にデリケートな状態です。アルコール(エタノール)は刺激が強く、肌の水分を奪って乾燥を悪化させる可能性があります。必ず「アルコールフリー」または「エタノールフリー」と表示された、低刺激性の保湿ローションやクリームを使用してください15
埋没毛(Razor Bumps)ができてしまった場合、自分で抜いても良いですか?
絶対に避けるべきです。無理に毛を抜こうとすると、毛穴周辺の皮膚をさらに傷つけ、炎症を悪化させたり、細菌感染を引き起こしたりするリスクがあります。また、色素沈着や瘢痕(傷跡)の原因にもなります9。埋没毛の予防にはサリチル酸やグリコール酸を含む製品が有効ですが14、症状が改善しない場合は皮膚科を受診し、適切な治療(レチノイド外用薬やレーザー脱毛など)を受けることをお勧めします。
毎日シェービングをしても大丈夫ですか?
肌が健康な状態であれば毎日シェービングをしても問題ありませんが、肌にとっては常に負担となります。もし赤みやヒリヒリ感などの炎症が起きている場合は、シェービングを数日間休み、肌が自己修復する時間を与えることが重要です4。可能であれば、週末などを利用して定期的に肌を休ませる日を設けることが理想的です。
皮膚科ではどのような治療が受けられますか?
皮膚科では、診断に応じて様々な治療が提供されます。強い炎症には「ステロイド外用薬」、細菌感染による毛嚢炎には「抗菌薬」が処方されます79。繰り返す埋没毛(PFB)には、毛穴の詰まりを防ぐ「レチノイド外用薬」や、根本的な解決策として「レーザー脱毛」が非常に効果的です913。また、トラブル後に残った色素沈着には、美白剤などが用いられます2

結論

シェービングによる肌トラブル、通称「カミソリ負け」は、多くの人が経験するありふれた悩みですが、その背景には接触皮膚炎、毛嚢炎、尋常性毛瘡といった、それぞれ異なる原因と病態を持つ医学的な状態が存在します。これらの違いを理解し、自身の症状を正しく認識することが、効果的な対策の出発点となります。

本記事で詳述したように、肌トラブルの予防は、「準備・実践・回復」という科学的根拠に基づいた一連のプロセスを丁寧に行うことで、その大部分を防ぐことが可能です。適切な道具を選び、肌と毛を十分に軟化させ、正しい技術で剃り、そして何よりもシェービング後の冷却と保湿を徹底することが、健やかな肌を維持するための鍵です。

もしトラブルが発生してしまった場合でも、慌てる必要はありません。初期段階であれば、本記事で紹介したような自宅での応急処置や市販薬によるセルフケアが有効です。しかし、症状が改善しない、あるいは悪化する場合には、躊躇なく皮膚科専門医に相談してください。現代の皮膚科学は、ステロイド外用薬から抗菌薬、そしてレーザー脱毛といった根本治療に至るまで、あなたの悩みを解決するための多様な選択肢を提供しています。

シェービングは、肌にとって常に負担を伴う行為です。しかし、正しい知識とケアを実践することで、そのダメージを最小限に抑え、快適なシェービングライフを送ることは十分に可能です。この記事が、あなたの肌を守るための一助となることを心から願っています。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 肌のことを考えたシェービングとシェービングサロン活用術 | プロの技術で新感覚のフェイシャルケア. Kracie. (n.d.). 入手可能: https://www.kracie.co.jp/professional/news_event/7843/
  2. カミソリ負けの対処法は?自分でできる方法や予防法も解説. HENSON SHAVING. (n.d.). 入手可能: https://hensonshaving.jp/media/razor-losing-how-to-deal-with/
  3. カミソリ負けの原因と対策を皮膚科医が徹底解説! | UP LIFE | 毎日を、あなたらしく、あたらしく。 Panasonic. (n.d.). 入手可能: https://panasonic.jp/life/beauty/150034.html
  4. ひげを剃った後のカミソリ負けの原因とは?皮膚科の先生に聞いた… Ozmall. (n.d.). 入手可能: https://www.ozmall.co.jp/healthcare/rough-skin/article/26747/
  5. How to get rid of razor bumps. American Academy of Dermatology Association. (n.d.). 入手可能: https://www.aad.org/public/everyday-care/skin-care-basics/hair/razor-bump-remedies
  6. Kearney, L., et al. (2024). A quantitative analysis of shaving-induced erythema using multispectral near-infrared spectroscopy. Skin Research and Technology, 30(1), e13559. doi:10.1111/srt.13559. 入手可能: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10818121/
  7. 髭剃りで肌荒れが起きる原因と対策|痛み・赤み・ブツブツから解放される方法とは. Voi. (n.d.). 入手可能: https://voi.0101.co.jp/voi/content/01/sp/media/kakkoii/skincare/skin-problem-for-shaver.html
  8. 髭剃り後の肌荒れは何が原因?ニキビやブツブツができたときの5つの対処法を紹介. HENSON SHAVING. (n.d.). 入手可能: https://hensonshaving.jp/media/bearing-and-rough-skin/
  9. DermNet NZ. (n.d.). Pseudofolliculitis barbae. Retrieved from DermNetNZ.org. 入手可能: https://dermnetnz.org/topics/pseudofolliculitis-barbae
  10. 髭剃り後の肌荒れ対策6選と治し方|おすすめ電気シェーバーや保湿クリームも紹介. Earthcare. (n.d.). 入手可能: https://earthcare.co.jp/blog/how-to-shave-without-getting-rough
  11. Dalia, Y., et al. (2023). Review of treatments for pseudofolliculitis barbae. Clinical and Experimental Dermatology, 48(6), 591-597. doi:10.1093/ced/llad054. 入手可能: https://academic.oup.com/ced/article/48/6/591/7058147
  12. Tanner, J., et al. (2021). Preoperative hair removal to reduce surgical site infection. Cochrane Database of Systematic Reviews, (8). doi:10.1002/14651858.CD004122.pub5. 入手可能: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8406791/
  13. Ogunbiyi, A. (2019). Pseudofolliculitis barbae; current treatment options. Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology, 12, 241-247. doi:10.2147/CCID.S149250. 入手可能: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6585396/
  14. How to Get Rid of or Prevent Razor Burn and Ingrown Hairs. Healthline. (n.d.). 入手可能: https://www.healthline.com/health/how-to-get-rid-of-razor-burn
  15. カミソリ-ヒゲ剃り負けをなくす6つのコツ| Philips. (n.d.). 入手可能: https://www.philips.co.jp/c-e/mens-grooming/shaving/shaving-irritation/what-causes-razor-burn-and-how-to-prevent-it.html
  16. 剃刀負けにおすすめの市販薬はどれ?9選を紹介!【薬剤師解説】. EPARK. (n.d.). 入手可能: https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/razor-rash
  17. 土屋院長初の書籍が4月3日に発売されます. つちやファミリークリニック 浅草院. (2024, April 3). 入手可能: https://tsuchiya-family-asakusa.com/2024/04/03/土屋院長初の書籍が4月3日に発売されます/
  18. 突撃クリニック訪問シリーズ!つちやファミリークリニックの土屋先生にクリニックみせていただきました。. 服部形成外科・皮ふ科. (n.d.). 入手可能: https://hattori-keisei.com/blog_doctor/突撃クリニック訪問シリーズ!つちやファミリークリニックの土屋先生にクリニックみせていただきました。/
  19. 医療法人社団清優会花房火月. Newsweek. (n.d.). 入手可能: https://challenger.newsweekjapan.jp/guest.php/hanafusa_hiduki/
  20. 医師紹介 | 実績多数の【はなふさ皮膚科へ】. はなふさ皮膚科. (n.d.). 入手可能: https://mitakahifu.com/ikebukuro/staff/
  21. 一般公開ガイドライン|公益社団法人日本皮膚科学会. (n.d.). 入手可能: https://www.dermatol.or.jp/modules/guideline/index.php?content_id=2
  22. American Academy of Dermatology Association. (n.d.). Folliculitis: How to prevent. Retrieved from AAD.org. [リンク切れの可能性あり]
  23. 第20回「カミソリ負け問題。」 – メンズノンノウェブ. (n.d.). 入手可能: https://www.mensnonno.jp/beauty/skincare/5068/
  24. 「カミソリ負け対処法」のお話です。 – シャレコ・スキンケア. (2013, June). 入手可能: https://www.shareco.co.jp/shareco-blog/sharecoletter/2013/06/post-216.html
  25. 髭剃り後に肌荒れする原因と簡単なのに効果的な5つの肌荒れ対策 – アレックスメディア株式会社. (n.d.). 入手可能: https://alex-media.co.jp/lalamen/hige-datsumou/hige-higesori-hadaare.html
  26. 尋常性毛瘡について – メディカルノート. (n.d.). 入手可能: https://medicalnote.jp/diseases/尋常性毛瘡
  27. 顔がヒリヒリする4つの原因と対策!急なピリピリや赤みを素早く解消 – 無添加工房 OKADA. (n.d.). 入手可能: https://www.mutenka-okada.com/column/four_reasons_face_sore.php
  28. カミソリ負けの種類や原因について|おすすめの電気シェーバーを使ってキレイ肌のメンズに. (n.d.). 入手可能: https://www.clubd.co.jp/menscosme/post-razor-loss-mens
  29. Razor bump remedies for men with darker skin tones – American Academy of Dermatology. (n.d.). 入手可能: https://www.aad.org/public/everyday-care/skin-care-basics/hair/razor-bump-remedies
  30. Razor bumps: How to treat and prevent them – Medical News Today. (n.d.). 入手可能: https://www.medicalnewstoday.com/articles/325471
  31. カミソリ負けを治す3つの方法。まずは冷やして!皮膚科での治療法は?. (n.d.). 入手可能: https://fdoc.jp/byouki-scope/features/razor-burn/
  32. 髭剃りで肌荒れしてしまう原因と対処方法 – 楽天市場. (n.d.). 入手可能: https://event.rakuten.co.jp/beauty/menscosme/article/005/
  33. ザ・グルーミング シェービングリキッド 480mL ≪シェービングソープ≫の卸・通販 | ビューティガレージ. (n.d.). 入手可能: https://www.beautygarage.jp/p/232692
  34. カミソリ負けの原因と対処法を解説|カミソリ負けを防止するポイントまで理解して肌トラブルを回避 | ReFa(リファ)公式通販 | MTG ONLINESHOP. (n.d.). 入手可能: https://www.mtgec.jp/shop/pages/refa_epi_academic_con015.aspx
  35. カミソリ負けによる痒み、湿疹の対処法は? – 南青山皮膚科スキンナビクリニック. (n.d.). 入手可能: https://www.skinnaviclinic.jp/faq/112.html
  36. Review of treatments for pseudofolliculitis barbae – PubMed. (2023). 入手可能: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36840647/
  37. Acne-like breakouts could be folliculitis – American Academy of Dermatology. (n.d.). 入手可能: https://www.aad.org/public/diseases/a-z/folliculitis
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ