口唇ヘルペス【完全ガイド】:症状・原因から市販薬・最新治療(PIT療法)まで医師が解説
皮膚科疾患

口唇ヘルペス【完全ガイド】:症状・原因から市販薬・最新治療(PIT療法)まで医師が解説

唇の周りに突然現れるピリピリとした痛み、赤み、そして小さな水ぶくれ。多くの人が一度は経験する口唇ヘルペスは、その見た目や不快な症状から、大きな悩みやストレスの原因となります。しかし、あなたは一人ではありません。世界保健機関(WHO)の推計によれば、世界人口の約64%、実に38億人もの50歳未満の人々が、口唇ヘルペスの主な原因である単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に感染しているのです12。日本国内でもその状況は同様で、感染率は年齢と共に上昇し、60歳以上では80%以上の人々がこのウイルスを体内に持っていると報告されています34。この事実は、口唇ヘルペスが決して珍しい病気ではなく、誰もが直面しうる身近な健康問題であることを示しています。この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、日本の皆様のために、最新かつ最も信頼できる科学的根拠に基づき、口唇ヘルペスに関するあらゆる疑問に答えることを目的として作成した決定版ガイドです。症状の初期段階から、家庭でできるセルフケア、市販薬の正しい選び方、そして頻繁な再発に悩む方のための最新治療法まで、包括的かつ深く掘り下げて解説します。

要点まとめ

  • 口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が主な原因で、日本の成人の多くが感染している非常に一般的な病気です34
  • 症状は「ピリピリする前兆」→「水ぶくれ」→「ただれ」→「かさぶた」という典型的な経過をたどります5。治療は前兆の段階で始めるのが最も効果的です。
  • 日本の薬局で購入できる市販薬(OTC医薬品)は、過去に医師から口唇ヘルペスの診断を受けたことがある人の「再発時」にのみ使用が認められています6。初めての場合は必ず医療機関を受診してください。
  • 医療機関では、抗ウイルス薬の内服薬や外用薬が処方されます7。頻繁に再発する方向けには、予め処方された薬を症状の兆候が出た時点で服用する「PIT療法」という新しい治療選択肢もあります89
  • 疲労やストレス、紫外線などが再発の引き金になります10。日々のセルフケアと免疫力を維持する生活習慣が、再発予防の鍵となります。

1. 口唇ヘルペスとは? – あなただけではありません

口唇ヘルペスという言葉を聞くと、何か特別な病気のように感じるかもしれませんが、その正体はウイルス感染症です。多くの人々が抱えるこの悩みについて、まずはその基本的な知識から理解を深めていきましょう。

1.1. 単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1):感染の基本

口唇ヘルペスの主な原因は、「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」というウイルスです11。このウイルスは非常に感染力が強く、多くの場合、幼少期にウイルス保持者である家族(親子間など)とのキスや食器の共有といった、日常生活の中での直接的または間接的な接触によって感染します12。一度感染すると、ウイルスは症状が治まった後も体外に排出されるわけではなく、顔の感覚を支配する「三叉神経節(さんさしんけいせつ)」と呼ばれる神経の根元に潜伏します1012。これが「潜伏感染」という状態です。そして、体の免疫力が低下した時などに、ウイルスは再び活性化し、神経を伝って唇やその周辺の皮膚に症状を引き起こします。これが「再発」のメカニズムです。また、あまり知られていませんが、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2、主に性器ヘルペスの原因となる)も、オーラルセックスなどの行為によって口唇に症状を引き起こすことがあります13

1.2. 驚くほど多くの人が感染している:世界の統計と日本の現状

口唇ヘルペスに対する社会的な誤解や偏見は未だに存在しますが、統計データはその常識を覆します。これは決して一部の人の問題ではありません。世界保健機関(WHO)は2025年のファクトシートで、全世界の50歳未満の人口のうち、推定38億人(約64%)がHSV-1に感染していると発表しています12。この数字は、私たちが思う以上に多くの人々がこのウイルスと共存していることを示しています。日本においても例外ではなく、厚生労働省の研究班の報告などを基にしたデータでは、抗体保有率は年齢と共に上昇し、20代~30代で約30%、60歳以上になると80%を超える人々がHSV-1に感染しているとされています34。これらのデータは、口唇ヘルペスが決して恥ずかしいことではなく、多くの人が経験するありふれた症状であることを明確に示しており、不必要な罪悪感や羞恥心から解放されるべきだという強いメッセージを送っています。

2. もしかしてヘルペス?症状の全段階とセルフチェック

「これって口唇ヘルペスかな?」と不安に思ったとき、症状の典型的な経過を知っておくことは、早期発見と適切な対処につながります。ここでは、症状の各段階と、他の似た症状との見分け方を詳しく解説します。

2.1. 典型的な症状の経過:4つのステージ

口唇ヘルペスの症状は、一般的に以下のような4つのステージを経て進行します514。この経過を知ることは、治療を開始する最適なタイミングを見極める上で非常に重要です。

  1. ステージ1:前駆症状(ぜんくしょうじょう)
    水ぶくれが現れる半日~1日ほど前に、唇や口の周りにピリピリ、チクチク、ムズムズといった違和感やかゆみ、ほてりを感じる時期です。この段階ではまだ見た目に変化はありませんが、体内のウイルスが再活性化を始めたサインです。「いつもの場所に、いつもの嫌な感じがする」と、再発を繰り返す方の多くがこの前兆を自覚できます。抗ウイルス薬による治療は、この段階で開始することが最も効果的であり、症状の悪化を防ぎ、治癒までの期間を短縮する鍵となります。
  2. ステージ2:水疱期(すいほうき)
    前駆症状から半日~1日後に、赤く腫れた部分に複数の小さな水ぶくれ(水疱)が出現します。この水ぶくれの中には、ウイルスが大量に含まれた液体が詰まっています。この時期はウイルスの排出量が最も多く、他者へ感染させるリスクが非常に高い状態です。
  3. ステージ3:潰瘍期(かいようき)
    水ぶくれが破れ、ただれた状態(びらん)や潰瘍になります。この段階でも、患部からはウイルスを含んだ浸出液が出ているため、感染力は依然として高いままです。痛みを最も強く感じることが多い時期でもあります。
  4. ステージ4:痂皮期(かひき)
    ただれた部分が乾燥し始め、茶色いかさぶた(痂皮)ができます。かさぶたが形成されると、ウイルスの排出はほぼなくなり、感染力は大きく低下します。このかさぶたは無理に剥がすと、治りが遅れたり、跡が残ったりする原因になるため、自然に剥がれ落ちるのを待つことが大切です。通常、発症から治癒までは約1~2週間かかります。

2.2. 口唇ヘルペスと間違いやすい他の症状

唇や口の周りにできるトラブルは、すべてが口唇ヘルペスとは限りません。適切なケアのためにも、他の似た症状との違いを理解しておくことが重要です515

症状 主な特徴 口唇ヘルペスとの違い
口角炎(こうかくえん) 唇の両端(口角)が赤く腫れ、亀裂が入り、痛みを伴う。カンジダ菌や細菌の感染、ビタミン不足などが原因。 口角に限定して発生することが多い。通常、小さな水ぶくれの集まりは見られない。
ニキビ(尋常性ざ瘡) 毛穴の詰まりとアクネ菌の増殖が原因。白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビなど様々な状態がある。 通常、ピリピリとした前駆症状はない。水ぶくれではなく、膿を持った発疹が中心。唇そのものより、唇の輪郭周辺の皮膚にできやすい。
手足口病(てあしくちびょう) ウイルス感染症で、主に乳幼児に流行する。口の中、手のひら、足の裏などに水疱性の発疹が現れる。 唇だけでなく、手のひらや足の裏、口の中の粘膜にも発疹が同時に現れることが多い。通常、発熱を伴うことがある。

これらの症状と見分けがつかない場合や、初めて症状が出た場合は、自己判断せずに必ず皮膚科などの医療機関を受診してください。

3. なぜ再発するのか?口唇ヘルペスの原因と誘因

一度かかると、何度も繰り返すことがある口唇ヘルペス。そのしつこい再発の裏には、ウイルスが体内に潜み続けるという特徴があります。ここでは、再発のメカニズムと、その引き金となる要因について詳しく見ていきます。

3.1. 体内に潜むウイルス:再活性化のメカニズム

前述の通り、口唇ヘルペスの原因である単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、初感染後に体内から消えることはありません。症状が治まると、ウイルスは顔面の感覚を司る三叉神経節に移動し、免疫システムから隠れるように静かに潜伏します1012。この状態では、ウイルスは活動を休止しており、症状を引き起こすことも、他人に感染させることもありません。しかし、体が何らかのきっかけで弱まると、この「休眠状態」のウイルスが目を覚まします。これを「再活性化」と呼びます。再活性化し、増殖を始めたウイルスは、潜伏していた神経を逆走し、再び唇やその周辺の皮膚に到達して、口唇ヘルペスの症状(水ぶくれなど)を再発させるのです10

3.2. 再発の引き金となる要因

ウイルスの再活性化、すなわち口唇ヘルペスの再発は、体の免疫機能の低下と密接に関連しています。免疫力が低下すると、ウイルスを抑制する力が弱まり、ウイルスが再び活動しやすくなるのです。再発の具体的な引き金となる要因は様々ですが、主に以下のようなものが知られています101216

  • 風邪や発熱: 風邪をひくと体の免疫力がウイルスと戦うために使われるため、潜伏しているヘルペスウイルスを抑える力が弱まります。英語で「Cold Sore(風邪の瘡蓋)」と呼ばれるのはこのためです。
  • 疲労・ストレス: 過労や睡眠不足、精神的なストレスは、自律神経のバランスを乱し、免疫細胞の働きを低下させる主要な原因です。
  • 紫外線(UV): 強い日光を浴びることは、皮膚の免疫機能を局所的に低下させ、ウイルスが再活性化するきっかけとなります。スキーや海水浴の後に再発しやすいのはこのためです。
  • 月経や妊娠などによるホルモンバランスの変化: 女性の場合、生理前や妊娠中など、ホルモンバランスが大きく変動する時期に免疫力が不安定になり、再発しやすくなることがあります。
  • 歯科治療や口周りの外傷: 唇やその周りの皮膚・粘膜に物理的な刺激や傷が加わることも、ウイルスを活性化させる誘因となることがあります。
  • 免疫力を低下させる薬剤の使用や病気: ステロイド薬や免疫抑制剤の使用、またはHIV感染症やがんなどの病気によって免疫機能が著しく低下している場合も、再発のリスクが高まります。

4. 【重要】口唇ヘルペスの治療法:いつ、どこで、何をすべきか

口唇ヘルペスの治療は、タイミングと方法が鍵となります。ここでは、受診の目安から市販薬の正しい使い方、医療機関での専門的な治療法まで、日本の医療事情に合わせて具体的に解説します。

4.1. 最初のステップ:いつ病院へ行くべきか?何科を受診?

口唇ヘルペスが疑われる場合、特に初めて症状が出た際には、自己判断せずに医療機関を受診することが極めて重要です。確定診断を受けることで、他の病気との鑑別ができ、適切な治療方針を立てることができます17
受診のタイミング: 理想的なのは、唇にピリピリ、チクチクとした違和感(前駆症状)が現れた時点です14。この最も早い段階で治療を開始できれば、ウイルスの増殖を効果的に抑え、症状の悪化を防ぎ、治癒までの期間を大幅に短縮することが可能です。水ぶくれができてからでも治療は可能ですが、効果は早期に始めるほど高くなります。
受診する科: 口唇ヘルペスの診療を専門とするのは皮膚科(ひふか)です1819。しかし、かかりつけの内科や、症状によっては婦人科でも相談・治療が可能な場合があります1820。どこを受診すればよいか迷った場合は、まずは皮膚科を選ぶのが最も確実です。

4.2. 市販薬(OTC医薬品)での対処法【再発時のみ】

日本の薬局では、口唇ヘルペス再発治療薬が市販薬(OTC医薬品)として販売されています。しかし、その使用には厳格なルールがあることを理解しておく必要があります。

注意: 日本では、口唇ヘルペスの市販薬は、過去に医師から口唇ヘルペスの診断・治療を受けたことがある方の「再発時」にのみ使用が認められています。初めて症状が出たと思われる場合は、自己判断で市販薬を使用せず、必ず医療機関を受診してください6

このルールは、安全性を確保するために厚生労働省によって定められています6。初めての症状が本当に口唇ヘルペスなのか、あるいは他の病気なのかを正確に診断する必要があるためです。市販されている主な抗ウイルス成分には、アシクロビル(例:アクチビア軟膏)やビダラビン(例:アラセナSクリーム)があります212223。これらの薬は、前駆症状または症状のごく初期に、1日数回、患部に塗布して使用します。使用前には、必ず薬剤師に相談し、添付文書の指示に従ってください。

4.3. 医療機関での治療:処方薬の種類と使い方

医療機関では、市販薬よりも効果の高い様々な選択肢が提供されます。治療は主に抗ウイルス薬を用いて行われます717

  • 外用薬(塗り薬): アシクロビルやビダラビンなどの抗ウイルス成分を含んだ軟膏やクリームが処方されます。軽症の場合や、内服薬が使えない場合に選択されることが多いです。
  • 内服薬(飲み薬): 症状が中等度から重度の場合、または再発を繰り返す場合には、内服の抗ウイルス薬が第一選択となります。日本で主に使用されるのは、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルといった薬剤です7。これらの薬は、ウイルスのDNA複製を阻害することで増殖を抑え、症状を速やかに改善し、治癒を早める効果があります。医師の指示通り、定められた期間、用法・用量を守って服用することが非常に重要です。

4.4. 【最新治療】頻繁な再発に悩む方へ:PIT療法と再発抑制療法

年に何度も口唇ヘルペスの再発を繰り返し、その度に生活の質(QOL)が著しく低下してしまう方のために、より進んだ治療法が存在します。

  • PIT療法(Patient Initiated Therapy):
    「患者主導型治療」とも呼ばれるこの方法は、頻繁に再発する患者さんのための新しい治療戦略です89。あらかじめ医師から抗ウイルス薬を処方してもらい、患者さん自身が「再発の前兆だ」と感じた時点で、直ちに服用を開始します。医療機関を受診する時間的なロスなく、ウイルスの増殖が活発になる前の最も効果的なタイミングで治療を始められるのが最大の利点です。日本では、ファムシクロビル(商品名:ファムビル®)を初期症状発現後6時間以内に1回服用する方法や、アメナメビル(商品名:アメナリーフ®)という新しい作用機序を持つ薬剤を1回服用する方法などが承認されています89。アメナメビルは1回限りの服用で済むため、利便性が高い選択肢です9。この治療法は、再発のパターンを自己認識できている患者さんにとって非常に有効です。
  • 再発抑制療法:
    特に再発頻度が高い場合(例えば年に6回以上など)、抗ウイルス薬を毎日少量服用し続けることで、ウイルスの再活性化そのものを抑え込み、再発を予防する治療法です7。この方法は、ヘルペスの症状から解放され、精神的な負担を大きく軽減することが期待できます。治療は長期にわたることがあるため、医師と十分に相談の上で検討されます。

もしあなたが頻繁な再発に悩んでいるなら、これらの治療法について皮膚科医に相談してみることを強くお勧めします。このページを印刷して持参し、医師と話し合うのも良い方法です。

5. ヘルペスを早く治すために:セルフケアと生活習慣のポイント

抗ウイルス薬による治療と並行して、日々のセルフケアを適切に行うことは、症状の悪化を防ぎ、回復を早めるために不可欠です。ここでは、具体的なケア方法と生活習慣の改善点を紹介します。

5.1. 患部のケアと悪化させないための注意点

  • 触らない、潰さない: 水ぶくれにはウイルスが大量に含まれています。潰すと中のウイルスが周囲に広がり、症状を悪化させたり、他の部位に感染(自家接種)したりする原因になります12。絶対に触ったり、潰したりしないでください。
  • 清潔に保つ: 患部は清潔に保つことが重要です。洗顔の際は、刺激の少ない石鹸をよく泡立て、優しく洗い、清潔なタオルで軽く押さえるように水分を拭き取ります。細菌による二次感染を防ぐためです。
  • 保湿する: かさぶたができた段階では、ワセリンなどで保湿すると、かさぶたがひび割れて出血するのを防ぎ、きれいに治りやすくなります12
  • 紫外線対策: 紫外線は再発の引き金になるため、症状が出ている間はもちろん、普段からUVカット効果のあるリップクリームや帽子、日傘などで唇を保護しましょう。
  • マスクの活用: 患部を物理的に保護し、無意識に触ってしまうのを防ぐために、マスクの着用は有効な手段です18。また、見た目が気になるという精神的なストレスを軽減する効果も期待できます。

5.2. 免疫力をサポートする食事と栄養

口唇ヘルペスの再発は免疫力の低下と密接に関わっているため、バランスの取れた食事で免疫機能をサポートすることが根本的な対策となります。特定の栄養素がウイルスの活動に影響を与える可能性も指摘されています11

  • L-リジンを多く含む食品: リジンは必須アミノ酸の一種で、ヘルペスウイルスの増殖を抑制する働きがあると考えられています。乳製品、肉類、魚類、大豆製品などに多く含まれます。
  • アルギニンを多く含む食品を控える: 一方、アルギニンというアミノ酸は、ヘルペスウイルスの増殖を助ける可能性があるとされています。チョコレート、ナッツ類、カフェイン飲料などに多く含まれるため、症状が出ている間は摂取を控えめにすると良いでしょう。
  • ビタミン・ミネラルを十分に: 免疫細胞の働きを正常に保つためには、ビタミンA、C、E、亜鉛などの摂取が重要です。緑黄色野菜や果物を積極的に食事に取り入れましょう。

6. 他の人にうつさないために:感染対策の徹底

口唇ヘルペスは感染症です。大切な家族やパートナーにうつさないために、症状が出ている間は特に注意深い行動が求められます。ウイルスは、症状が目に見えない時でも排出される(asymptomatic shedding)可能性があることも知っておくべきです11

    • 直接的な接触を避ける: キスや頬ずりなど、患部が他人の皮膚や粘膜に直接触れる行為は避けてください。
    • タオルの共有をしない: 患部に触れたタオルや食器、グラス、カミソリ、リップクリームなどを他人と共有しないでください。ウイルスが付着している可能性があります。
    • 手洗いの徹底: 患部に触れてしまった後や、薬を塗った後は、必ず石鹸で丁寧に手を洗いましょう。手に付着したウイルスが、他の部位(特に目や性器)や他人に感染を広げるのを防ぎます。

特に乳幼児との接触に注意:

    赤ちゃんは免疫力が未熟なため、ヘルペスウイルスに感染すると重症化することがあります。症状があるときは、赤ちゃんとのキスなどは絶対に避けましょう。

  • オーラルセックスを避ける: 口唇ヘルペスのウイルス(HSV-1)は、オーラルセックスによってパートナーの性器に感染し、性器ヘルペスを引き起こす可能性があります13。症状が出ている間は、オーラルセックスを含む性的な接触は避けるべきです。

7. 特別な注意が必要なケース

ほとんどの人にとって、口唇ヘルペスは局所的な症状で治まりますが、特定の状況下ではより慎重な対応が必要です。

  • 妊娠中の方: 妊娠中に口唇ヘルペスを再発しても、通常、胎児への影響はほとんどないと考えられています24。しかし、薬の使用については、必ず産婦人科医やかかりつけ医に相談してください。自己判断で市販薬や処方薬を使用するのは避けましょう。
  • アトピー性皮膚炎の方: アトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下している人がヘルペスウイルスに感染すると、症状が全身に広がり重症化する「カポジ水痘様発疹症(すいとうようほっしんしょう)」という状態になることがあります1025。アトピー性皮膚炎の湿疹が悪化し、そこに小さな水ぶくれが多発した場合は、直ちに皮膚科を受診してください。
  • 免疫機能が低下している方: がん治療中の方、HIV感染症の方、臓器移植後などで免疫抑制剤を使用している方は、ヘルペスが重症化しやすく、脳炎などの深刻な合併症を引き起こすリスクがあります2627。口唇ヘルペスが疑われる症状が出た場合は、速やかに主治医に連絡してください。

結論

口唇ヘルペスは、多くの人々が経験する一般的なウイルス感染症であり、その原因と対処法を正しく理解することが、不安を和らげ、症状をコントロールするための第一歩です。この記事で解説したように、口唇ヘルペスは決して特別な病気ではありません。最新の医学的知見に基づけば、その症状は効果的に管理することが可能です。 覚えておくべき最も重要なポイントは以下の通りです。まず、治療は「ピリピリ」とした前兆の段階で開始するのが最も効果的であること。次に、日本の市販薬は「再発時」専用であり、初めての症状では必ず医師の診断を受ける必要があること6。そして、頻繁な再発に悩む方には、PIT療法のような先進的な治療選択肢が存在すること89。 最終的に、口唇ヘルペスと賢く付き合っていくためには、日々の生活習慣を見直し、ストレスや疲労を溜めずに免疫力を高く保つことが、何よりの予防策となります。このガイドが、あなたの口唇ヘルペスに対する理解を深め、より健やかで安心した毎日を送るための一助となることを心から願っています。

よくある質問 (FAQ)

口唇ヘルペスは1日で治りますか?
残念ながら、口唇ヘルペスを1日で完全に治すことは現代の医学では困難です28。しかし、症状の兆候(ピリピリ感など)が現れた直後に抗ウイルス薬の服用を開始するPIT療法(Patient Initiated Therapy)であれば、水ぶくれの出現を防いだり、症状を非常に軽く抑えたりすることが可能です89。一般的な経過では、治癒までには1~2週間かかります。
口唇ヘルペスの跡は残りますか?
通常、口唇ヘルペスが治癒した後に傷跡が残ることは稀です15。しかし、水ぶくれを無理に潰したり、かさぶたを剥がしたりすると、皮膚が傷つき、色素沈着や稀に瘢痕(はんこん)が残ることがあります。また、細菌による二次感染が起こると跡が残りやすくなるため、患部を清潔に保ち、触らないようにすることが重要です。
症状がない時でも、他の人にうつす可能性はありますか?
はい、その可能性はあります。これを「無症候性ウイルス排出(asymptomatic shedding)」と呼びます11。症状が全くなくても、唾液などから微量のウイルスが排出されていることがあるためです。ただし、感染リスクは水ぶくれがある時期に比べて格段に低いとされています。日頃から食器やタオルの共有を避けるなどの基本的な衛生対策を心掛けることが推奨されます。
口唇ヘルペスは性感染症(STD)ですか?
口唇ヘルペス自体は、一般的には性感染症(STD)とは分類されません。多くは幼少期の非性的な接触で感染するためです。しかし、原因ウイルスであるHSV-1は、オーラルセックスによってパートナーの性器に感染し、性器ヘルペスを引き起こすことがあります13。その意味では、性的な行為を通じて感染を広げる可能性があるため、注意が必要です。
治療には日本の健康保険は適用されますか?
はい、医療機関で受ける口唇ヘルペスの診断および治療(診察、検査、処方薬など)には、原則として日本の公的医療保険(国民健康保険や社会保険など)が適用されます18。自己負担割合(通常1割~3割)で専門的な治療を受けることができます。薬局で購入する市販薬は保険適用外となります。
免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  28. ファストドクター. 口唇ヘルペスを最短で治す方法を解説、食事や生活で実践できる方法を紹介. Available from: https://fastdoctor.jp/columns/oral-herpes-cure-shortest. [引用日: 2025年6月16日].
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