要点まとめ
- 「パイナップルで流産する」という噂は科学的根拠のない迷信です。
- 噂の原因「ブロメライン」は主に食べない茎や芯に多く、果肉にはごく微量しか含まれていません。
- パイナップルはビタミンC、B6、葉酸、食物繊維など、妊婦さんと赤ちゃんに有益な栄養素が豊富です。
- 心配すべきは迷信ではなく、糖分の過剰摂取(特に缶詰)や食中毒予防(皮の洗浄)といった現実的なリスク管理です。
- 日本の厚生労働省や産科婦人科学会もパイナップルの摂取を禁止しておらず、バランスの取れた食事の一部として果物を推奨しています。
第1章:パイナップルと流産の迷信:噂の出所と科学的真実
妊娠中の食事に関する懸念の中で、パイナップルにまつわる話は特に根強く、多くの妊婦さんを悩ませています。「パイナップルを食べると陣痛がくる」「流産する」といった噂は、日本のオンラインコミュニティや口コミで広く共有されています1。この章では、この迷信がなぜこれほどまでに広まったのか、その背景と科学的な見解を明らかにします。
この迷信の核心には、「ブロメライン(ブロメリン)」という酵素の存在があります4。ブロメラインは、パイナップルに含まれるたんぱく質分解酵素の一群です。生のパイナップルを食べたときに口の中がピリピリしたり、舌がヒリヒリしたりする感覚を経験したことがある方もいるかもしれませんが、これはブロメラインが舌の表面にあるたんぱく質を分解することによって生じる現象です6。
この迷信が心理的に強い影響力を持つ一因は、このような体感できる物理的な感覚と結びついている点にあります。口の中で感じるピリピリとした刺激が、「これほど強い作用があるのだから、子宮にも何か強力な影響を及ぼすに違いない」という誤った解釈につながりやすいのです。物理的な体感が伴うことで、単なる噂話が、あたかも真実であるかのような確信に変わり、不安を増幅させる一因となっています。
しかし、最も重要な点は、ヒトを対象とした研究において、パイナップルの果肉を食べることが流産や早産を引き起こすという科学的根拠は一切存在しないということです5。日本の産婦人科医や管理栄養士といった専門家も、これを医学的根拠のない「迷信」であると明確に否定しています3。
次章では、この迷信の中心にある酵素「ブロメライン」についてさらに深く掘り下げ、なぜパイナップルの果肉を食べても安全なのかを科学的に解き明かしていきます。
第2章:【科学的深掘り】酵素「ブロメライン」の正体
パイナップルに関する不安の根源である「ブロメライン」。この酵素の性質を正しく理解することが、誤解を解く鍵となります。ブロメラインは確かに生理活性を持つ物質ですが、それが妊娠中の食事においてどのように作用するのか、科学的な視点から詳しく見ていきましょう。
2.1. ブロメラインとは何か?
ブロメラインは、パイナップル植物に含まれるたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)の複合体の総称です12。その強力なたんぱく質分解作用と抗炎症作用から、古くから医療目的で研究されてきました。現在では、消化を助けるサプリメントや、怪我や手術後の腫れを抑えるための抗炎症剤として、世界中で合法的に利用されています4。ブロメラインが実際に生理活性を持つ化合物であるという事実は、その効果を正しく評価する上で重要です。
2.2. 含有量の真実:食べる「果肉」にはごくわずか
ブロメラインの含有量は、パイナップルの部位によって大きく異なります。ここが、妊娠中の安全性に関する議論で最も重要なポイントです。
科学的な研究により、ブロメラインの濃度が最も高いのは、私たちが通常食べない茎(stem)や、硬くて食べにくい芯(core)の部分であることが一貫して示されています11。一方で、私たちが日常的に口にする甘くてジューシーな果肉(flesh/pulp)に含まれるブロメラインの量は、これらの部位に比べて著しく低いのです13。
つまり、流産のリスクと関連付けて語られるブロメラインは、主に私たちが食べない部分に高濃度で含まれており、普段食べている果肉の部分には、薬理学的な影響を及ぼすほどの量は含まれていないのです。
2.3. 子宮収縮研究のからくり:実験室と人体の違い
「パイナップルが子宮を収縮させる」という話には、ごく一部、実験室レベルでの「真実の断片」が存在します。これが噂をより複雑にしています。そのからくりは、in vitro(イン・ビトロ:試験管内やシャーレの上など、生体外での実験)とin vivo(イン・ビボ:マウスやヒトなど、生体内での実験)の違いにあります。
いくつかのin vitro研究では、高濃度に抽出したパイナップルエキスを、ラットやヒトから摘出した子宮の筋肉組織に直接振りかけると、実際に筋肉が収縮することが報告されています14。この実験結果が、噂の科学的な裏付けのように語られることがあります。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。より現実に即したin vivo研究、つまり生きた妊娠中のラットにパイナップルジュースを経口摂取させた実験では、子宮収縮の誘発や分娩開始への影響は一切観察されませんでした14。
これらの研究が示す結論は明確です。高濃度のエキスが摘出された筋肉に直接作用することと、果物を食べて消化・吸収され、血液を介して全身に運ばれることとでは、その影響が全く異なるということです。妊娠中の女性が、実験室のようにパイナップルエキスを子宮に直接適用する方法は存在せず、安全でもありません。したがって、経口摂取した場合の安全性を見る限り、子宮収縮を誘発する効果は確認されていないのです。
2.4. 摂取量の比較:パイナップル一切れ vs. サプリメント
不安を完全に払拭するために、摂取量の観点から比較してみましょう。
医療目的や研究で用いられるブロメラインのサプリメントの一般的な摂取量は、1日あたり80mgから400mg、場合によっては2,000mgにも及びます15。
一方、パイナップルの果肉一切れ(約100g〜200g)に含まれるブロメラインの量は、これらサプリメントの治療量とは比較にならないほど微量です。薬理学的に意味のある量(例えば、子宮収縮を誘発するような量)のブロメラインを食事から摂取しようとすれば、一度に丸ごと数個のパイナップルを食べる必要があると推定されており、これは現実的ではありません14。
結論として、通常の食事としてパイナップルを一切れ、二切れ楽しむ程度では、ブロメラインの摂取量は薬理学的に無視できるレベルであり、妊娠に影響を及ぼすことはないと言えます。
果物としてのパイナップルとサプリメントとしてのブロメラインは別物です
ここで、非常に重要な区別を明確にしておく必要があります。一般の消費者が陥りやすい混乱の一つに、食品そのものの効果と、その食品から特定の成分を抽出・濃縮したサプリメントの効果を混同してしまうことがあります。
ブロメラインのサプリメントは、その生理活性の強さや、妊娠中の安全性に関するデータが不足していることから、妊娠中の使用は慎重になるべき、あるいは避けるべきだと専門家から助言されることがあります16。
この「ブロメライン(サプリメント)は妊娠中に避けましょう」という注意喚起が、誤って「パイナップル(果物)は妊娠中に避けましょう」と拡大解釈されてしまっているのが現状です。これは論理的な誤りです。両者は、含有量、濃度、そして体への吸収のされ方が全く異なります。これは、柳の樹皮から作られたお茶を飲むことと、アスピリンの錠剤を服用することを同一視するようなものです。食品としてのパイナップルは、栄養バランスの取れた食事の一部として安全に楽しむことができるのです。
第3章:妊娠中の健康な食生活におけるパイナップルの栄養的メリット
パイナップルに関する迷信を科学的に否定した上で、次はその真の価値、つまり栄養面に目を向けましょう。パイナップルは、妊娠中の母体と赤ちゃんの両方にとって有益な栄養素を豊富に含んでいます。日本の公的データに基づき、その具体的なメリットを解説します。
表1:生パイナップルの栄養成分(可食部100gあたり)
以下の表は、日本の妊婦さんが摂取する食品の基準となる、文部科学省の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に基づいています。この信頼性の高い国内データは、パイナップルが持つ栄養価を客観的に示しています6。
栄養素 | 含有量(100gあたり) |
---|---|
エネルギー | 54 kcal |
炭水化物 | 13.7 g |
糖類 (参考値) | 10.5 g |
食物繊維 | 1.2 g |
ビタミンC | 35 mg |
ビタミンB1 | 0.09 mg |
ビタミンB6 | 0.10 mg |
葉酸 | 12 µg |
マンガン | 0.84 mg |
カリウム | 150 mg |
出典: 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より作成17 |
この表を基に、パイナップルがもたらす具体的な健康上の利点を見ていきましょう。
3.1. ママの健康をサポート
- つわりの軽減: 妊娠初期のつらい「つわり」。パイナップルに含まれるビタミンB6は、吐き気などの症状を軽減するのに役立つことが知られています7。また、果物特有のさっぱりとした酸味と自然な甘みは、食欲がない時でも口にしやすいと感じる妊婦さんが多く、水分補給にもなります1。
- 便秘の予防・解消: 妊娠中はホルモンの影響で腸の動きが鈍くなり、便秘に悩まされる方が少なくありません。パイナップルには豊富な食物繊維が含まれており、腸の働きを活発にし、便通を整える効果が期待できます。これは妊娠中の快適な生活を支える上で非常に重要です4。
- 免疫力の維持: 妊娠中は免疫機能が変化しやすいため、体調管理が大切です。パイナップルはビタミンCの優れた供給源であり、コップ一杯分(約200g)で妊娠中の女性が1日に必要とするビタミンCのほぼ全量を摂取できます4。ビタミンCは免疫システムをサポートし、感染症から体を守る働きがあります。
- むくみ対策: 妊娠後期にかけて起こりやすい「むくみ(浮腫)」。パイナップルに含まれるミネラルの一種であるカリウムは、体内の余分なナトリウムを排出し、水分バランスを調整する働きがあるため、むくみの軽減に役立つ可能性があります4。
3.2. 赤ちゃんの健やかな発育をサポート
- 神経管閉鎖障害のリスク低減: パイナップルには、赤ちゃんの脳や脊髄の正常な発達に不可欠な葉酸が含まれています8。特に妊娠初期の葉酸摂取は、先天的な神経管閉鎖障害のリスクを低減するために極めて重要です。もちろん、パイナップルだけで推奨量を満たすことは難しいため、厚生労働省や日本産科婦人科学会が推奨する葉酸サプリメントの摂取と併せて、食事からの補給源の一つとして活用するのが賢明です18。
- 骨の形成: パイナップルに豊富に含まれるマンガンは、あまり知られていませんが、赤ちゃんの骨や軟骨を形成する上で重要な役割を果たすミネラルです8。健康な骨格の土台作りに貢献します。
- 貧血予防: 妊娠中は血液量が増加するため、鉄分が不足しやすく、貧血になりがちです。パイナップル自体は鉄分の豊富な食品ではありませんが、その高いビタミンC含有量が重要な役割を果たします。ビタミンCは、ほうれん草や豆類などの植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の体内への吸収率を大幅に高める効果があります。鉄分の多い食品と一緒にパイナップルを食べることで、効率的に貧血を予防することができます7。
第4章:バランスの取れた視点:潜在的リスクと実践的な注意点
パイナップルの安全性を強調し、その栄養的メリットを解説してきましたが、どのような食品にも言えるように、食べ過ぎや特定の状況下では注意が必要です。専門家として、バランスの取れた情報を提供することは極めて重要です。この章では、迷信に基づいた非合理的な恐怖から、科学的根拠のある現実的な注意点へと視点を移し、妊婦さんが知っておくべき潜在的なリスクを解説します。
多くの人が心配する「ブロメラインによる流産リスク」は科学的に支持されていません。しかし、注意を払うべきは、むしろ糖分の過剰摂取や食中毒といった、より一般的で現実的なリスクです。
4.1. 糖質と妊娠糖尿病
パイナップルが持つ最も現実的なリスクは、その自然な糖分にあります。適量であれば問題ありませんが、過剰に摂取すると血糖値の急上昇を招き、体重管理を難しくする可能性があります1。特に、妊娠糖尿病のリスクがある方や、すでに診断されている方は、摂取量に注意が必要です。
ここで特に警戒すべきは、シロップ漬けの缶詰パイナップルです。生の果物に比べて糖分とカロリーが格段に高く、安易に食べ過ぎてしまうと糖質の過剰摂取に直結します6。缶詰を選ぶ際は、シロップ漬けではなく果汁漬けのものを選ぶ、あるいは食べる量を少量に留めるなどの工夫が求められます。
4.2. 酸度と胸やけ
パイナップルは酸味の強い果物です。そのため、妊娠中に多くの女性が経験する胸やけや胃食道逆流症の症状を、悪化させてしまう可能性があります11。特に胃が敏感になっている方や、もともと逆流性食道炎の傾向がある方は、一度にたくさん食べるのを避け、少量から試してみるのが良いでしょう。
4.3. アレルギー反応
頻度は高くありませんが、パイナップルに対するアレルギーも存在します。食べた後に口の周りのかゆみや腫れ、じんましん、喘息のような症状が出た場合は、アレルギーの可能性があります11。ラテックスや特定の植物の花粉(シラカンバなど)にアレルギーがある人は、パイナップルにも交差反応を示すことがあるため、注意が必要です19。初めて食べるわけではなくても、妊娠中は体質が変化することもあるため、何か異変を感じたらすぐに摂取を中止し、医師に相談してください。
これはパイナップルに限らず、全ての生の果物や野菜に共通する重要な注意点です。果物の皮の表面には、リステリア菌やトキソプラズマ原虫といった、妊娠中に感染すると胎児に深刻な影響を及ぼす可能性のある病原体が付着していることがあります20。
カットする前に、流水でパイナップルの外皮をブラシなどを使って徹底的に洗浄することが非常に重要です。この一手間を怠ると、カットする際に包丁を介して病原体が果肉に付着し、食中毒のリスクが高まります21。特に海外産の果物を扱う際は、この基本的な衛生管理を徹底することが、母子双方の健康を守る上で不可欠です。
この章で示したリスクは、パイナップルを危険な食品だと断定するものではありません。むしろ、正しい知識を持つことで、これらのリスクは容易に管理できるということを示しています。非科学的な噂に惑わされることなく、現実的なリスク管理に目を向けることが、賢明な食生活の第一歩です。
第5章:日本の公的機関の見解:厚生労働省・産婦人科学会の指針
個々の研究や専門家の意見も重要ですが、日本の妊婦さんにとって最も信頼できる拠り所となるのは、国の公的機関が示す公式なガイドラインです。この章では、日本の保健医療の最高権威である厚生労働省と、産科医療の専門家集団である日本産科婦人科学会(JSOG)の見解を検証します。
日本の食に関する安全文化は非常に高く、公的機関からの情報は絶対的な信頼をもって受け止められます。これらの機関が特定の食品に対して警告を発していないという事実は、その食品が安全であると見なされている強力な証拠となります。
5.1. 厚生労働省「妊産婦のための食事バランスガイド」
厚生労働省は、農林水産省と共同で「妊産婦のための食事バランスガイド」を策定し、妊娠中・授乳中の食事の基本方針を示しています22。このガイドは、日本の妊産婦向け栄養指導の根幹をなすものです。
ガイドでは、1日の食事を「主食」「副菜」「主菜」「牛乳・乳製品」「果物」の5つのグループに分類し、独楽(こま)のイラストを用いてバランスの取れた摂取量を視覚的に示しています23。
ここでの重要なポイントは以下の通りです。
- 果物は推奨されている: ガイドでは「果物」は健康的な食事の重要な構成要素として明確に位置づけられています。
- 具体的な摂取目標量: 関連指針では、1日の果物摂取目標量を約200gと推奨しています24。
- パイナップルに関する警告は皆無: この公式ガイドラインの中で、パイナップルを名指しで禁止したり、注意喚起したりする記述は一切ありません25。パイナップルは、りんごやみかん、バナナなどと同様に、「果物」カテゴリの中の健康的な選択肢の一つとして扱われています26。
5.2. 日本産科婦人科学会(JSOG)の指導
日本産科婦人科学会は、産婦人科医が臨床現場で用いる診療ガイドラインなどを通じて、妊娠中の食事に関する専門的な見解を示しています。同学会の指導の要点は、バランスの取れた食事、適切な体重増加の管理、そして科学的根拠に基づいた特定のリスク回避にあります27。
JSOGや関連機関が、妊娠中に摂取を避けるべき、あるいは注意すべきだと明確に指摘している食品リストには以下のようなものが含まれます。
- 生の肉や加熱不十分な肉: トキソプラズマ感染のリスク21。
- 特定の大型魚(キンメダイ、メカジキなど): 食物連鎖による水銀蓄積のリスク28。
- ナチュラルチーズ(非加熱殺菌タイプ): リステリア菌感染のリスク21。
- レバーやうなぎの過剰摂取: ビタミンAの過剰摂取による胎児への影響リスク27。
- アルコール: 言うまでもなく、胎児性アルコール症候群のリスク29。
このリストが持つ意味は非常に大きいものです。つまり、この公式な注意喚起リストに、パイナップルは含まれていないのです。もしパイナップルが本当に流産や早産のリスクを持つ食品であれば、国内で最も権威ある産科の専門家集団がそれを見過ごすはずがありません。そのリストに存在しないという事実は、日本の医学界がパイナップルを妊娠中にリスクのある食品とは見なしていないことを強く示唆しています。
5.3. 日本の管理栄養士のコンセンサス
産院や自治体の現場で妊婦さんの栄養指導にあたる管理栄養士の見解も、公的機関の指針と一致しています。本レポートの分析対象となった資料で引用されている茅野陽先生や川口由美子先生といった日本の管理栄養士は、一貫して「パイナップルは適量であれば安全」との立場をとっています7。彼女たちは、つわり軽減に役立つビタミンB6などの栄養的メリットを強調する一方で、注意点として缶詰の糖分の多さを挙げるなど、科学的で実践的なアドバイスを提供しています7。
結論として、日本の公的機関および専門家の見解は明確です。パイナップルは、妊娠中に避けるべき食品リストには入っておらず、むしろバランスの取れた食事の一部として推奨される果物の一つなのです。
第6章:【実践編】妊娠中にパイナップルを安全に楽しむためのアクションプラン
科学的な知識と公的機関の見解を理解した上で、最後は日々の食生活に活かすための具体的な行動計画です。この章では、パイナップルを安全かつ健康的に楽しむための実践的な方法をまとめます。
6.1. 理想的な摂取量:1日100g〜200gを目安に
厚生労働省の「食事バランスガイド」が推奨する1日の果物摂取目標量は200gです24。この範囲内で、パイナップルを楽しむのが理想的です。
- 具体的な目安:
- 重要なこと: 毎日パイナップルだけを200g食べるのではなく、他の果物(りんご、みかん、キウイなど)と組み合わせて、多様な果物から栄養を摂ることです。数日に一度の楽しみとして、この量を目安に取り入れるのが良いでしょう。
6.2. 選び方のコツ:生 vs. 缶詰 vs. ジュース
パイナップルには様々な形態がありますが、妊娠中は選び方に少し注意が必要です。
- 生(フレッシュ): 最も推奨される選択肢です6。ビタミンや食物繊維といった栄養素を最大限に摂取でき、余分な糖分や添加物の心配もありません。カットする際は、前述の通り、皮をよく洗うことを忘れないでください。
- 缶詰: 手軽で便利ですが、シロップの糖分に注意が必要です1。選ぶ際は、必ず栄養成分表示を確認し、「ヘビーシロップ(シラップ)漬け」ではなく、「ライトシロップ漬け」や「果汁漬け」を選びましょう。また、缶詰は加熱殺菌処理がされているため、ビタミンCやブロメラインなどの熱に弱い栄養素は減少しています6。
- ジュース: パイナップルジュースは、製造過程で貴重な食物繊維が失われ、糖分が凝縮されています。血糖値が上がりやすいため、妊娠中は積極的な摂取は推奨されません。飲むとしてもごく少量に留め、基本的には果物そのものを食べることを心がけましょう30。
6.3. ヘルシーな食べ方のアイデア
パイナップルをより健康的に食事に取り入れるための簡単な工夫をご紹介します。
- 血糖値の安定を意識して: パイナップル単品で食べるよりも、無糖のプレーンヨーグルトや少量のナッツなど、たんぱく質や良質な脂質を含む食品と組み合わせることで、血糖値の急激な上昇を穏やかにすることができます。
- 食事のアクセントとして: デザートとしてだけでなく、鶏肉のソテーのソースに加えたり、サラダのトッピングにしたりと、料理の風味付けに使うのもおすすめです。自然な甘みと酸味が、減塩にも繋がります。
- 栄養満点スムージーに: ほうれん草や小松菜といった緑黄色野菜と一緒にスムージーにすれば、パイナップルの甘みで野菜が食べやすくなり、ビタミンやミネラル、食物繊維を一度に効率よく摂取できます。
これらの実践的なプランを通じて、パイナップルを妊娠中の食生活における「味方」として、賢く、そして楽しく取り入れていきましょう。
よくある質問 (FAQ)
本当にパイナップルを一切れ食べただけで流産することはないのですか?
つわりがひどい時、パイナップルなら食べられそうです。毎日食べてもいいですか?
缶詰のパイナップルと生のパイナップル、どちらが良いですか?
パイナップルを食べると口の中がピリピリします。これはアレルギーですか?赤ちゃんに影響は?
妊娠糖尿病なのですが、パイナップルは食べられますか?
結論:科学的根拠に基づいた、安心できる最終判断
本レポートでは、妊娠中のパイナップル摂取に関する安全性について、科学的研究、日本の公的機関の指針、そして専門家の見解に基づき、多角的に徹底分析を行いました。全ての情報を統合した最終的な結論は、明確かつ安心できるものです。
以下に、本稿の要点をまとめます。
- 流産の噂は「迷信」である: 「パイナップルを食べると流産する」という話は、科学的根拠のない迷信です。この噂の根源である酵素ブロメラインは、主に食べない茎や芯に多く含まれます。
- 果肉のブロメラインは微量: 日常的に食べる果肉に含まれるブロメラインの量はごくわずかであり、妊娠に影響を及ぼすような薬理作用を示すことはありません。実験室レベルの研究と、実際の経口摂取では影響が全く異なります。
- 豊富な栄養的メリット: パイナップルは、つわりを和らげるビタミンB6、便秘を解消する食物繊維、免疫力を高めるビタミンC、赤ちゃんの骨格形成を助けるマンガンなど、母子双方にとって有益な栄養素の優れた供給源です。
- 管理すべき現実的リスク: 心配すべきは迷信ではなく、現実的なリスクです。糖分の過剰摂取(特にシロップ漬け缶詰)、酸による胸やけ、そして全ての生鮮食品に共通する食中毒のリスク管理(外皮の洗浄)が重要です。
- 日本の公的機関も安全性を支持: 厚生労働省の「妊産婦のための食事バランスガイド」や日本産科婦人科学会の指針において、パイナップルは危険な食品として指摘されておらず、むしろバランスの取れた食事の一環として果物の摂取が推奨されています。
この結論は、妊婦さんが不確かな情報に惑わされることなく、自信を持って食事を選択するための一助となるはずです。パイナップルは、恐怖の対象ではなく、適量を守り、正しく選んで扱えば、妊娠中の食生活を豊かにしてくれる美味しくて健康的な果物です。
最終的に、ご自身の食生活に関する具体的な判断や、個別の健康状態に関する懸念については、必ずかかりつけの医師や管理栄養士に相談することが最も重要です。専門家との対話を通じて、あなたと赤ちゃんにとって最適で、安心できる食生活を築いていってください。
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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