【2025年最新版】胎児発育曲線・体重の一覧表|WHO国際基準と日本の週数別目安を専門医が徹底比較
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【2025年最新版】胎児発育曲線・体重の一覧表|WHO国際基準と日本の週数別目安を専門医が徹底比較

妊娠期間中、お腹の赤ちゃんの成長は最も喜ばしく、同時に最も気になることの一つです。特に妊婦健診の超音波(エコー)検査で推定体重を知らされるたびに、「この数値は順調なのだろうか?」「他の赤ちゃんと比べて大きい?小さい?」といった疑問や不安がよぎることもあるでしょう。インターネットで情報を検索しても、様々な基準や数値が溢れており、かえって混乱してしまうことも少なくありません。この記事は、そのような妊婦さんやそのご家族の皆様が抱える、赤ちゃんの体重に関するあらゆる疑問や不安を解消するために、JAPANESEHEALTH.ORGの編集委員会が総力を挙げて制作した「決定版」ガイドです。国内外の最新かつ最も信頼性の高い科学的根拠に基づき、日本の臨床現場で用いられる「日本の基準」と、世界保健機関(WHO)が推奨する「国際基準」の両方を徹底的に比較・解説します。この記事を読めば、ご自身の赤ちゃんの成長をより深く、正確に理解し、安心して妊娠期間を過ごすための確かな知識を得ることができるでしょう。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。健康上の問題や妊娠に関する具体的な懸念については、必ず資格のある担当の医師や助産師にご相談ください。

要点まとめ

  • 胎児の体重は超音波検査で計測した複数の数値(BPD, AC, FLなど)を計算式に入れて推定されますが、約±10%の誤差を伴います1
  • 日本の臨床現場では、主に日本産科婦人科学会(JSOG)と日本超音波医学会(JSUM)が策定した「日本人胎児発育曲線」が基準として用いられています2。これは日本の赤ちゃんの実際のデータを集めた「参照(Reference)」基準です。
  • 世界的には、世界保健機関(WHO)が支持する「INTERGROWTH-21st」プロジェクトの基準が推奨されています3。これは「こうあるべき」成長を示す「処方箋的(Prescriptive)」基準であり、最適な環境下では胎児の成長に人種差はほとんどないという考えに基づいています4
  • 日本の基準と国際基準では、その作成哲学と実際の数値に違いがあります。本記事では両方のデータ表を掲載し、その違いを専門的に比較・解説します。
  • 赤ちゃんの体重には、遺伝、母親の健康状態や体格、出産回数など多くの要因が影響します5。1回の計測値で一喜一憂せず、継続的な成長のトレンドを見守ることが重要です。

はじめに:赤ちゃんの体重、気になりますか?この記事でわかること

妊婦健診で「赤ちゃんは少し小さめですね」あるいは「大きめですね」と言われたけれど、これは心配すべきことなのでしょうか?6 このような言葉は、多くの妊婦さんに喜びと同時に一抹の不安をもたらします。ご自身の赤ちゃんの成長が順調かどうかを判断する上で、胎児の体重は重要な指標の一つです。しかし、その数値をどう解釈すればよいのか、どの基準を信じればよいのかを正確に理解することは容易ではありません。
この記事では、そのような疑問に明確に答えるため、以下の点を包括的に解説します。

  • 超音波検査で胎児の体重がどのように「推定」されるのか、その基本的な仕組み。
  • 日本の産婦人科で標準的に使われている「日本産科婦人科学会(JSOG)」の基準値とその見方。
  • 世界保健機関(WHO)が推奨する最新の国際基準「INTERGROWTH-21st」プロジェクトとは何か。
  • 「日本の基準」と「世界の基準」の根本的な違いと、なぜ日本の医師は独自の基準を用いるのかについての専門的な解説。
  • 赤ちゃんの体重に影響を与える様々な要因。
  • 健診で「小さい」「大きい」と指摘された場合に、どのように考え、どのような対応がなされるのか。

JAPANESEHEALTH.ORGは、科学的根拠に基づいた正確な情報を提供することで、皆様がご自身の状況を客観的に理解し、医師とのコミュニケーションをより円滑に進め、心穏やかに赤ちゃんの成長を見守るためのお手伝いをします。

1. 胎児の体重はどのように測るの?超音波検査の基本

妊婦健診で告げられる赤ちゃんの体重は、直接体重計で測るわけではありません。超音波(エコー)検査を用いて、いくつかの部位の大きさを測定し、それを専用の計算式に当てはめて算出される「推定胎児体重(Estimated Fetal Weight: EFW)」です。

1.1. 推定胎児体重(EFW)とは?

EFWはあくまで「推定値」であり、実際の出生体重と完全に一致するわけではないことを理解しておくことが非常に重要です。一般的に、その誤差は±10%程度あるとされています1。例えば、推定体重が2500gと出た場合、実際の体重は2250gから2750gの範囲にある可能性が高いと考えられます。妊娠後期になるほど、赤ちゃんの位置や向きによって測定が難しくなり、誤差が大きくなる傾向があります。

1.2. 4つの重要な計測値:BPD, AC, FL, HC

推定胎児体重を算出するためには、主に以下の4つの指標が超音波で測定されます7。これらの数値は母子健康手帳にも記載されることがあります。

  • BPD (Biparietal Diameter / 児頭大横径): 赤ちゃんの頭を真上から見たときの、左右の幅が最も大きい部分の直径です。
  • AC (Abdominal Circumference / 腹部周囲長): 赤ちゃんのお腹の断面積の周囲の長さです。肝臓や皮下脂肪の量などを反映し、体重推定において特に重要な指標とされています。
  • FL (Femur Length / 大腿骨長): 太ももの骨の長さです。赤ちゃんの身長の目安にもなります。
  • HC (Head Circumference / 頭部周囲長): 赤ちゃんの頭の周囲の長さです。

1.3. 日本で使われている計算式

これらの測定値を組み合わせてEFWを算出する計算式は、世界中の研究者によって複数開発されています。日本の産婦人科医療で使われる超音波診断装置には、日本超音波医学会(JSUM)などによって標準化された、日本人の胎児のデータに基づいて開発された計算式が主に使用されています89。これにより、日本の妊婦さんにとってより精度の高い推定値が提供されるようになっています。

2. 日本の基準:日本産科婦人科学会(JSOG)の胎児発育曲線

日本の妊婦さんが産婦人科医から赤ちゃんの成長について説明を受ける際、その基準となるのが「胎児発育曲線」です。これは、母子健康手帳にも印刷されており、多くの妊婦さんにとって最も身近な「ものさし」と言えるでしょう10

2.1. 「日本のものさし」の作られ方

この胎児発育曲線は、日本産科婦人科学会(JSOG)および日本超音波医学会(JSUM)が、多数の健康な日本の胎児の超音波計測データを集めて作成したものです2。これは、実際の日本の胎児がどのように発育しているかを示す「参照(Reference)」モデルです。つまり、「現実の平均的な姿」を記述したものであり、個々の赤ちゃんの成長を評価するための基準となります。

2.2. なぜ早産の帝王切開データを含まないのか?【専門的な視点】

日本の新生児発育曲線を作成する際、研究者たちはある重要な決断をしました。それは、予定日より前に帝王切開で生まれた赤ちゃんのデータを含めないというものです。日本の新生児発育曲線の作成を主導した昭和大学医学部の板橋家頭夫(いたばし かずお)医師らの2014年の研究によると、早産期に帝王切開で生まれた児は、母体や胎児の健康問題といった医学的介入が理由であることが多く、その結果として体重が軽い傾向にあります11。もしこのデータを含めてしまうと、「順調な発育」の基準値そのものが不当に低く歪んでしまう可能性があります。そのため、より制約のない自然な発育パターンを反映するために、経腟分娩で生まれた赤ちゃんのデータが主に採用されました。これは、日本の基準がより「理想的な状況下での発育」に近づけようとする科学的な工夫の一例です。

2.3. 胎児発育曲線(JSOG)の見方と使い方

母子健康手帳に記載されている胎児発育曲線は、グラフの横軸が妊娠週数、縦軸が推定胎児体重(g)を示しています。グラフの中には数本の曲線が描かれており、中央の太い線が平均値(50パーセンタイル)です。その上下にある点線は「SD(Standard Deviation:標準偏差)」を表しています。「+2.0 SD」から「-2.0 SD」の範囲内に、全胎児の約95.4%が含まれると統計学的に考えられています12。健診で測定されたEFWをグラフ上にプロットしていくことで、赤ちゃんがどの範囲で成長しているか、その成長の軌跡(トレンド)を視覚的に追うことができます。日本の産婦人科診療ガイドラインでは、多くの場合、EFWが「-1.5 SD」を下回った場合に「胎児発育不全(Fetal Growth Restriction: FGR)」の疑いとして、より注意深い経過観察の対象となります13

2.4. 【データ表】妊娠週数別・推定胎児体重の基準値(JSOG/JSUM)

以下に、日本産科婦人科学会(JSOG)および日本超音波医学会(JSUM)による、妊娠週数別の推定胎児体重の基準値を示します12

表1: 推定胎児体重の基準値(日本産科婦人科学会/日本超音波医学会)
妊娠週数 平均値 (g) +2.0 SD (g) -1.5 SD (g) -2.0 SD (g)
18週 203 264 156 143
19週 261 339 201 184
20週 334 434 257 235
21週 425 552 327 299
22週 536 697 413 378
23週 669 869 515 471
24週 821 1067 632 578
25週 989 1285 762 697
26週 1168 1518 899 823
27週 1355 1761 1043 954
28週 1544 2007 1189 1088
29週 1733 2252 1334 1221
30週 1917 2491 1476 1351
31週 2094 2721 1612 1475
32週 2261 2938 1740 1592
33週 2416 3139 1860 1702
34週 2558 3324 1969 1802
35週 2688 3493 2069 1894
36週 2806 3646 2160 1977
37週 2912 3784 2242 2052
38週 3008 3909 2315 2119
39週 3094 4021 2382 2180
40週 3172 4122 2442 2235

3. 世界の基準:WHOとINTERGROWTH-21stプロジェクト

日本の基準が国内のデータを基にしているのに対し、グローバルな視点から「胎児はどのように発育『すべき』か」を定義しようとする壮大な試みが存在します。それが「INTERGROWTH-21stプロジェクト」であり、その成果は世界保健機関(WHO)によって国際的な基準として支持されています14

3.1. INTERGROWTH-21stとは?

INTERGROWTH-21stは、オックスフォード大学が主導し、世界8カ国(ブラジル、中国、インド、イタリア、ケニア、オマーン、イギリス、アメリカ)の多様な人種の健康な妊婦を対象に行われた大規模な国際共同研究です15。このプロジェクトの目的は、妊娠14週未満から2歳までの子供の成長、健康、栄養、神経発達を追跡し、妊娠期間の決定、母親の体重増加、胎児の発育、新生児のサイズ、早産児の生後発育、そして2歳時点での認知発達に関する国際的な「処方箋的」基準を作成することでした163。この研究は、オックスフォード大学のジョゼ・ヴィラール(José Villar)教授やアリス・パパジョルジウ(Aris Papageorghiou)教授といった著名な研究者たちによって率いられました174

3.2. 「処方箋的(Prescriptive)」アプローチの考え方

INTERGROWTH-21stの最も重要な特徴は、その「処方箋的(Prescriptive)」アプローチにあります18。これは、単に「現実の胎児がどのように発育しているか(Descriptive)」を記述するのではなく、「健康、栄養、教育、医療へのアクセスといった最適な条件下で、胎児がどのように発育『すべき』か」を規定(Prescribe)するものです。研究の対象者は、経済的に安定し、健康で、適切な栄養を摂取し、非喫煙者であるなど、胎児の成長を妨げるリスク要因が極めて少ない妊婦に限定されました。このアプローチの根底には、「最適な環境さえ提供されれば、世界中のどの地域の赤ちゃんも同様の成長ポテンシャルを持つ」という哲学があります。

3.3. 人種差はほぼない?驚きの研究結果

このプロジェクトから得られた最も画期的な発見の一つは、最適な条件下で育てば、異なる人種間の胎児の骨格の成長(頭囲や大腿骨長など)の差は驚くほど小さい(全体のばらつきの3.5%未満)ということでした1920。これは、これまで胎児の発育には大きな人種差があると考えられてきた常識を覆すものでした。この結果に基づき、INTERGROWTH-21stは、単一の国際的な成長基準をすべての人種・民族に適用できると結論付けています。

3.4. 【データ表】妊娠週数別・推定胎児体重パーセンタイル(INTERGROWTH-21st)

以下に、INTERGROWTH-21stプロジェクトによる、妊娠週数別の推定胎児体重の国際基準値(パーセンタイル)を示します。これは2017年にStirnemannらが医学雑誌『Ultrasound in Obstetrics & Gynecology』で発表した研究に基づいています2122

表2: 推定胎児体重のパーセンタイル値(INTERGROWTH-21st)
Gestational Age (weeks+days) 3rd (g) 10th (g) 50th (g) 90th (g) 97th (g)
22+0 391 429 516 616 664
23+0 467 510 610 727 780
24+0 551 599 712 847 908
25+0 643 697 823 978 1048
26+0 743 803 945 1122 1202
27+0 851 918 1078 1279 1370
28+0 967 1042 1223 1450 1551
29+0 1091 1175 1379 1635 1749
30+0 1222 1316 1547 1834 1963
31+0 1359 1464 1726 2047 2189
32+0 1501 1618 1915 2272 2431
33+0 1648 1778 2113 2510 2686
34+0 1798 1941 2318 2757 2952
35+0 1950 2107 2529 3012 3226
36+0 2103 2274 2742 3269 3504
37+0 2256 2441 2955 3526 3782
38+0 2406 2605 3165 3775 4052
39+0 2552 2764 3368 4013 4308
40+0 2691 2915 3559 4232 4545

4. 日本の基準 vs. 世界の基準:徹底比較でわかること

日本の妊婦さんは、国内の基準と国際的な基準という2つの「ものさし」が存在することを知り、どちらを参考にすればよいのか戸惑うかもしれません。ここでは、両者の違いをより深く掘り下げ、その意味を解き明かします。

4.1. 哲学と思想の違い:参照(Reference) vs. 処方箋(Prescriptive)

両者の最も根本的な違いは、その作成哲学にあります。

  • 日本の基準 (JSOG/JSUM): これは「参照(Reference)」基準です。特定の地域(日本)の多数の胎児の実際のデータを集め、「現実として、胎児はどのように育っているか」を記述したものです。その地域に特有の遺伝的・環境的要因を反映していると考えられます。
  • 世界の基準 (INTERGROWTH-21st): これは「処方箋的(Prescriptive)」基準です。健康や栄養などの環境を理想的な状態に整えたとき、「生物学的に、胎児はどのように育つ『べき』か」を示したものです。人種や民族を超えた普遍的な成長のポテンシャルを表現しようとしています。

4.2. 実際の数値はどう違う?

表1と表2の数値を比較すると、いくつかの重要な違いが見えてきます。例えば、妊娠36週0日の時点で見ると、日本の基準(JSOG)の平均値は2806gですが、INTERGROWTH-21stの50パーセンタイル値は2742gと、日本の基準の方がやや大きめに出る傾向があります。この違いは、調査対象の母集団やデータ解析の方法論の違いに起因すると考えられます。

4.3. なぜ日本は独自の基準を使い続けるのか?

WHOが推奨する国際基準があるにもかかわらず、なぜ日本の臨床現場では国内の基準が依然として主流なのでしょうか。これにはいくつかの理由が考えられます。第一に、長年にわたって蓄積された日本人自身のデータに基づく基準は、日本の臨床医にとって馴染み深く、使いやすいという利点があります。第二に、「ワンサイズ・フィット・オール(one-size-fits-all)」の国際基準が、特定の集団における過小評価や過大評価を招く可能性も指摘されています。いくつかの研究では、INTERGROWTH-21st基準をそのまま適用すると、特定の人種集団において、本来は問題のない赤ちゃんを「小さすぎる(SGA)」または「大きすぎる(LGA)」と誤って分類してしまうリスクが示唆されています23。そのため、各国の状況に合わせて地域的な基準を併用することの重要性が議論されており、日本の医師が国内基準を重視するのは、臨床的な妥当性に基づいた判断と言えます。

5. 赤ちゃんの体重に影響する6つの重要因子

赤ちゃんの体重は、単一の要因で決まるのではなく、様々な要素が複雑に絡み合って影響します。主な要因を理解することは、個々の成長の多様性を受け入れる上で役立ちます。

  1. 遺伝的要因と人種: 両親の体格、特に出生時の体重は、赤ちゃんの体重に遺伝的に影響を与えることがあります。
  2. お母さんの健康状態: 妊娠糖尿病を患っている母親から生まれた赤ちゃんは、平均より大きくなる(LGA)傾向があります。一方、妊娠高血圧症候群などは、胎盤の機能に影響を与え、赤ちゃんが小さくなる(FGR)原因となることがあります。
  3. お母さんの体格と妊娠中の体重増加: 妊娠前の母親のBMIや、妊娠中の体重増加は、赤ちゃんの体重と密接に関連しています。日本では、痩せ型の女性の割合が高く、妊娠中の体重増加が不十分なことが、低出生体重児(LBW)の割合が他の先進国に比べて高い一因と指摘されてきました24。この問題に対応するため、厚生労働省は2021年に「妊産婦のための食生活指針」を改訂し、特に痩せ型(BMI 18.5未満)の女性に対する推奨体重増加量を引き上げました525
    表3: 妊娠中の推奨体重増加量(2021年改訂、厚生労働省/日本産科婦人科学会)
    妊娠前の体格 BMI (kg/m²) 体重増加量の目安
    低体重(やせ) 18.5未満 12~15 kg
    普通体重 18.5以上 25.0未満 10~13 kg
    肥満(1度) 25.0以上 30.0未満 7~10 kg
    肥満(2度以上) 30.0以上 個別対応(上限5kgまでが目安)
  4. 出産回数(初産婦か経産婦か): 一般的に、初産婦よりも経産婦の方が、赤ちゃんはやや大きく生まれる傾向があります。
  5. 胎児の性別: 同じ在胎週数であれば、男の子の方が女の子よりもわずかに体重が重い傾向があります。
  6. 多胎妊娠(双子など): 双子や三つ子などの多胎妊娠では、単胎妊娠に比べて一人ひとりの赤ちゃんの体重は小さくなるのが一般的です。

6. 健診で「小さい」「大きい」と言われたら?

健診で赤ちゃんの体重が基準範囲から外れていると指摘されると、誰でも心配になるものです。しかし、重要なのはパニックにならず、冷静に状況を理解し、医師と協力していくことです。

6.1. まずは落ち着いて:1回の計測で判断しない

前述の通り、EFWには必ず誤差が伴います。また、赤ちゃんの成長は常に一定のペースではなく、一時的に成長が緩やかになったり、急に大きくなったりすることもあります。そのため、たった1回の計測値だけで最終的な判断を下すことはありません。医師は、数週間かけて複数回の計測を行い、成長の「速度」や「軌跡(トレンド)」を重視します12。成長曲線に沿って着実に大きくなっていれば、たとえ基準範囲の下限や上限に近い位置にいても、多くは個性として見守ることになります。

6.2. 胎児発育不全(FGR)とは?

継続的な観察の結果、赤ちゃんの成長が著しく悪く、発育が停滞していると判断された場合、「胎児発育不全(Fetal Growth Restriction: FGR)」と診断されることがあります。日本の産婦人科診療ガイドライン2023では、EFWが-1.5SD未満であることがFGRを疑う一つの基準とされています1326。FGRが疑われる場合、その原因(胎盤機能の問題、染色体異常、感染症など)を調べるための追加検査が行われることがあります。

6.3. 巨大児(LGA)とは?

逆に、赤ちゃんが基準よりも著しく大きい場合は「巨大児(Large for Gestational Age: LGA)」と呼ばれます。LGAは、母親の妊娠糖尿病が背景にあることが多いですが、原因が特定できない場合もあります。LGAの赤ちゃんは、出産時に肩が引っかかって難産になる(肩甲難産)リスクや、出産後の低血糖などのリスクが考えられるため、分娩方法や出産後の管理について慎重な計画が必要となります。

6.4. 医師が行う追加検査と管理

FGRやLGAが疑われた場合、医師は状況をより詳しく評価するために追加の検査を提案することがあります。これには以下のようなものが含まれます1227

  • 精密超音波検査: 赤ちゃんの臓器や構造に異常がないかをより詳細に観察します。
  • ドップラー検査: へその緒(臍帯)や赤ちゃんの脳の血流を測定し、胎盤が十分に機能しているか、赤ちゃんが元気な状態かを評価します。
  • ノンストレステスト(NST): 赤ちゃんの心拍数の変化をモニタリングし、健康状態を評価します。

これらの検査結果に基づき、分娩のタイミングや方法など、個々の状況に合わせた最適な管理方針が決定されます。

結論:赤ちゃんの成長を温かく見守るために

この記事を通じて、胎児の体重を評価するための「ものさし」には、日本の実情を反映した「日本の基準」と、理想的な成長を示す「世界の基準」という、異なる哲学を持つ2つの重要な基準があることをご理解いただけたかと思います。どちらが絶対的に正しいというわけではなく、両者を理解することで、ご自身の赤ちゃんの成長をより多角的な視点から捉えることができます。
覚えておいていただきたい最も大切なことは、すべての赤ちゃんは、それぞれのペースで成長するユニークな存在であるということです。発育曲線はあくまで平均的な目安であり、そこから多少外れていることが、必ずしも問題を示すわけではありません。1回の測定結果に一喜一憂するのではなく、継続的な成長のトレンドを信頼できる専門家と共に見守っていく姿勢が何よりも重要です。
この記事で得た知識が、皆様の不安を少しでも和らげ、医師との対話をより深く、有意義なものにするための一助となれば幸いです。ご自身の体と赤ちゃんの力を信じ、何か疑問や心配なことがあれば、決して一人で抱え込まず、いつでも担当の医師や助産師に相談してください。

よくある質問 (FAQ)

胎児発育曲線が枠内なら絶対安心ですか?
胎児発育曲線で基準値の範囲内(例:-1.5 SDから+1.5 SD)にあることは、赤ちゃんが順調に発育している可能性が高いことを示す良い兆候です。しかし、「絶対安心」というわけではありません。医師は体重の数値だけでなく、成長の速度、羊水量、胎動、胎盤の血流など、他の多くの情報も総合的に評価して赤ちゃんの健康状態を判断します。体重が範囲内でも、成長のペースが急に鈍化した場合などは、注意深い観察が必要になることもあります。定期的な妊婦健診をきちんと受けることが重要です。
推定体重と実際の出生体重はどのくらい違いますか?
推定胎児体重(EFW)と実際の出生体重との間には、一般的に±10%程度の誤差があるとされています1。例えば、健診で3000gと推定されても、実際には2700gから3300gの間で生まれてくる可能性があるということです。この誤差は、赤ちゃんの体勢、羊水量、測定者、妊娠週数(特に臨月)など、多くの要因によって変動します。推定体重はあくまで目安として捉え、ミリ単位の数値にこだわりすぎないことが大切です。
体重を増やす/抑えるために特別な食事は必要ですか?
自己判断で特別な食事療法を行うことは推奨されません。赤ちゃんの体重が小さい(FGRの疑い)場合、原因は単純なカロリー不足ではなく、胎盤機能の問題など他にあることが多いため、ただ闇雲に食べるだけでは改善しない可能性があります。逆に大きい(LGAの疑い)場合、極端な食事制限は母体と胎児に必要な栄養素を不足させる危険があります。まずはバランスの取れた食事を心がけることが基本です。その上で、医師や管理栄養士から個別の状況に応じた食事指導(例えば、妊娠糖尿病の場合は血糖値をコントロールするための食事)があれば、それに従ってください5

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