肝斑治療におけるハイドロキノンの効果と安全性:日本の規制と科学的根拠に基づく徹底ガイド
皮膚科疾患

肝斑治療におけるハイドロキノンの効果と安全性:日本の規制と科学的根拠に基づく徹底ガイド

肝斑(かんぱん)は、特に顔面に左右対称に現れることが多く、治療が難しいとされる色素沈着の一種です。多くの女性がこの頑固なシミに悩み、様々な情報を探していますが、その中には科学的根拠の乏しいものや誤解を招くものも少なくありません1。特に、美白有効成分として知られる「ハイドロキノン」については、その高い効果への期待と同時に、副作用や安全性に関する懸念も聞かれます。情報が錯綜する中で、どの治療法を信頼し、選択すれば良いのか迷われている方も多いのではないでしょうか2
この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、肝斑に悩む日本の読者の皆様のために、ハイドロキノンの役割に関する最も包括的で、科学的根拠に基づいた医療ガイドを提供することを目的としています。本稿では、ハイドロキノンの作用機序から、日本皮膚科学会の公式ガイドライン3、日本独自の規制状況4、そして世界の最新研究5に至るまで、あらゆる角度から徹底的に解説します。このガイドが、皆様の治療の旅路における確かな羅針盤となることを目指します。

要点まとめ

  • 肝斑治療の第一選択は、日焼け止め(遮光)と美白外用薬であり、ハイドロキノンはその中でも中心的な役割を果たします3
  • ハイドロキノンはメラニン生成を強力に抑制しますが、赤み、刺激、まれに色素沈着の悪化といった副作用のリスク管理が不可欠です6
  • 日本ではハイドロキノン配合化粧品が市販されていますが、欧米では安全性への懸念から医師の処方箋が必要な医薬品として扱われています47。この違いを理解することが重要です。
  • トラネキサム酸やアゼライン酸など、ハイドロキノン以外にも科学的根拠のある有効な治療選択肢が存在します89
  • 最適な治療法は個人の肌質や肝斑の状態によって異なるため、自己判断に頼らず、必ず皮膚科専門医に相談し、個別化された治療計画を立てることが成功への鍵となります。

そもそも肝斑とは?シミとの違いと正確な見分け方

肝斑は、ありふれたシミ(老人性色素斑)とは異なる特徴を持つ皮膚疾患です。効果的な治療のためには、まずその違いを正確に理解することが第一歩となります。

肝斑の医学的定義と特徴

肝斑は医学的に、主に顔面、特に頬骨、額、上唇、鼻の下などに、左右対称性にもやもやと広がる境界が不明瞭な淡褐色から濃褐色の色素斑と定義されます1。地図のように見えることもあり、個々のシミがはっきりしている老人性色素斑とは外観が異なります。また、肝斑はメラニン色素が皮膚のどの深さに沈着しているかによって、「表皮型」「真皮型」「混合型」の3つのタイプに分類され、この違いが治療への反応性を左右します2。真皮型や混合型は、表皮型に比べて治療が難しい傾向にあります。

肝斑の主な原因

肝斑の正確な原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が複雑に関与していると考えられています。主な誘因・増悪因子は以下の通りです110

  • ホルモンバランスの変動: 妊娠(妊娠性肝斑)、経口避妊薬(ピル)の服用、更年期などがきっかけで発症・悪化することが多く、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの関与が強く示唆されています。
  • 紫外線(UVA・UVB): 紫外線はメラノサイト(色素細胞)を活性化させ、メラニン生成を促進するため、肝斑の最も重要な増悪因子です。
  • 物理的刺激: 洗顔時の過度な摩擦、マッサージ、顔の触りすぎといった物理的な刺激も、微弱な炎症を引き起こし、肝斑を悪化させる一因となります。
  • 遺伝的素因: 家族内に肝斑を持つ人がいる場合、発症しやすい傾向があることも報告されています。

専門医による診断方法

肝斑の診断は、主に皮膚科専門医による視診で行われます1。特徴的な色調や分布、左右対称性などを確認します。診断をより確実にするために、特殊な光を当てて色素沈着の深達度を評価する「ウッド灯検査」や、皮膚を拡大して観察する「ダーモスコピー」が用いられることもあります1。他の皮膚疾患との鑑別が困難な非常に稀なケースでは、皮膚の一部を採取して病理組織学的に調べる皮膚生検が行われることもあります。

ハイドロキノン:作用機序と効果の科学的根拠

ハイドロキノンは、その強力な色素抑制効果から「肌の漂白剤」とも呼ばれ、肝斑治療において重要な位置を占めています。

「肌の漂白剤」の仕組み:チロシナーゼ阻害作用

ハイドロキノンの美白効果は、主にメラニン生成過程における鍵酵素「チロシナーゼ」の活性を阻害することに基づいています5。チロシナーゼは、アミノ酸の一種であるチロシンからメラニンを作り出す一連の化学反応を触媒します。ハイドロキノンは、この酵素の働きをブロックすることで、新たなメラニンの生成を効果的に抑制します。さらに、高濃度(5%以上など)では、メラニンを産生する細胞であるメラノサイトそのものに対して細胞毒性を示し、メラノサイトの数を減少させる作用も報告されています5。これにより、既存のシミを薄くする効果も期待できるのです。

臨床研究が示す効果:いつから効き始める?

ハイドロキノンの効果は多くの臨床研究によって裏付けられています。一般的に、1日1~2回の外用を継続することで、5~8週間程度で目に見える改善が期待できるとされています11。ただし、効果の発現や程度には個人差があります。特に、ハイドロキノン、トレチノイン(ビタミンA誘導体)、そしてステロイドの3剤を組み合わせた「クリグマン・フォーミュラ(Kligman’s formula)」またはトリプルコンビネーションクリームは、肝斑治療の「ゴールドスタンダード」と見なされており、その有効性は数多くのシステマティックレビューで確認されています38。コクランレビュー(信頼性の高い科学的根拠として国際的に評価されている)においても、このトリプルコンビネーションクリームはハイドロキノン単剤よりも有意に高い効果を示すことが報告されています12

ハイドロキノンの安全性と規制:日本と世界の現状

ハイドロキノンは効果的な成分である一方、その安全性と規制については国によって考え方が異なります。日本と世界の現状を理解することは、適切な製品選びとリスク管理のために極めて重要です。

日本の規制:なぜ化粧品にも配合できるのか?

日本では、2001年の薬事法改正により、それまで医師の処方箋が必要な医薬品成分であったハイドロキノンが、化粧品への配合を認められるようになりました。現在、日本の化粧品におけるハイドロキノンの配合濃度に法的な上限はありませんが、市販されている製品の多くは1~5%の濃度で調整されています13。厚生労働省の科学研究班が2013年に発表した報告書では、「適切な使用法であれば安全性マージンは確保できる」と結論付けられています4。しかし、同省は白斑(皮膚の色が白く抜ける副作用)などのリスクについて注意喚起も行っており14、化粧品であっても慎重な使用が求められます。

世界の動向:欧米でOTC販売が禁止された理由

一方、欧州連合(EU)や米国では、ハイドロキノンの規制はより厳格です。EUでは化粧品への配合が禁止されており、医薬品としてのみ使用が可能です。米国では、2020年に制定されたCARES法により、それまで市販薬(OTC)として購入可能だった2%以下のハイドロキノン製品が規制対象となり、現在は医師の処方箋がなければ入手できなくなりました715。これらの厳しい規制の背景には、主に以下の2つの懸念があります。

  1. 外因性組織黒皮症(Ochronosis): ハイドロキノンを長期間、高濃度で使用した場合に、皮膚が青黒く変色するという稀な副作用が報告されています。これは治療が非常に困難な状態です16
  2. 発がん性の懸念: 動物実験(ラットへの経口投与)において発がん性を示唆するデータが存在しますが、人間での外用使用における発がん性リスクは確認されていません。しかし、この潜在的なリスクが規制強化の一因となっています15

【重要】比較表:ハイドロキノン規制の国際比較

規制区分 日本 欧州連合 (EU) 米国 (USA)
化粧品への配合 許可(濃度上限なし) 禁止 禁止
市販薬 (OTC) 該当なし(化粧品として市販) 禁止 禁止(2020年以降)
処方箋医薬品 あり(高濃度製剤など) あり あり
主な根拠 適切な使用下での安全マージンは確保可能との評価4 外因性組織黒皮症や発がん性の潜在的リスクへの懸念 CARES法に基づく規制強化(外因性組織黒皮症等のリスク)7

ハイドロキノンの正しい使い方と副作用のリスク管理

ハイドロキノンの効果を最大限に引き出し、副作用を最小限に抑えるためには、正しい使用方法を厳守することが絶対条件です。

副作用を最小限に抑えるための使用法

皮膚科専門医の指導のもと、以下の点に注意して使用してください171819

  • 低濃度から開始: 初めて使用する場合は、1~2%程度の低濃度の製品から始め、肌の反応を見ながら徐々に慣らしていくことが推奨されます17
  • パッチテストの実施: 顔全体に塗布する前に、腕の内側などの目立たない部分でパッチテストを行い、アレルギー反応や強い刺激が出ないことを確認してください17
  • 夜間の使用が基本: ハイドロキノンは光や熱に不安定な成分であるため、夜のスキンケアの最後に、洗顔後の清潔な肌に使用するのが一般的です。
  • ポイント使いを徹底: 顔全体に広げるのではなく、綿棒などを使って肝斑の部分にのみピンポイントで薄く塗布します。
  • 絶対必須の紫外線対策: ハイドロキノン使用中の肌は、紫外線に対して非常に敏感になります。日中に紫外線を浴びると、かえって色素沈着が悪化するリスクがあります。季節や天候にかかわらず、毎日、広域スペクトル(SPF30、PA+++以上)の日焼け止めを必ず使用し、数時間おきに塗り直すことを徹底してください9
  • 使用期間の遵守: 副作用のリスクを避けるため、漫然と長期間使用し続けるべきではありません。一般的に3~6ヶ月程度の使用を目安とし、その後は休薬期間を設けることが推奨されます19。必ず医師の指示に従ってください。

知っておくべき主な副作用

ハイドロキノンには、以下のような副作用が報告されています。異常を感じた場合は、直ちに使用を中止し、医師に相談してください。

  • 一般的・初期の副作用: 刺激感、赤み、かゆみ、乾燥、皮むけなどが最もよく見られる副作用です6。多くは使用開始初期に見られ、徐々に軽快しますが、症状が強い場合は使用を中止する必要があります。
  • 逆説的色素沈着: 不適切な使用(高濃度、長期使用)や、紫外線対策の不足により、逆にシミが濃くなってしまうことがあります6
  • 稀だが重篤な副作用:
    • 外因性組織黒皮症(Ochronosis): 前述の通り、皮膚が青黒く変色する副作用です。特に高濃度の製品を長期間使用した場合にリスクが高まります16
    • 白斑: 肌の色がまだらに白く抜けてしまう副作用です。ハイドロキノンのメラノサイトへの毒性が原因と考えられており、一度発症すると治療は困難です16

純ハイドロキノン vs. 安定型ハイドロキノン

市場には「純ハイドロキノン」と「安定型ハイドロキノン」を配合した製品があります。純ハイドロキノンは効果が高い一方で、非常に不安定で酸化しやすく、肌への刺激も強い傾向があります20。一方、安定型ハイドロキノンは、純ハイドロキノンを他の物質でコーティングするなどして安定性を高めたもので、刺激はマイルドですが、実際のハイドロキノンとしての効果は純粋なものに比べて弱い可能性があります20。どちらが適しているかは肌の状態や目的によるため、専門家と相談して選択することが望ましいです。

健康に関する注意事項

  • この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。肝斑の診断や治療については、必ず皮膚科専門医にご相談ください。
  • ハイドロキノンを含む製品の使用は、専門家の指導のもとで正しく行ってください。自己判断での使用は、予期せぬ副作用を招く危険性があります。
  • 妊娠中・授乳中の方は、ハイドロキノンやその他の治療薬の使用について、安全性が確立されていない場合があるため、必ず事前に産婦人科医および皮膚科医に相談してください。

ハイドロキノン以外の選択肢:日本皮膚科学会が推奨する治療法

日本皮膚科学会と日本美容皮膚科学会が共同で作成した「美容医療診療指針」では、肝斑治療は段階的に行うことが推奨されています3。ハイドロキノン以外にも、科学的根拠に基づいた様々な有効な治療法が存在します。

【日本の主流】トラネキサム酸

トラネキサム酸は、現在、日本の肝斑治療において中心的な役割を担う成分です。

  • 内服療法: 元々は止血剤として使用されていた成分ですが、メラニンの生成を促す情報伝達物質「プラスミン」の働きをブロックする「抗プラスミン作用」により、肝斑を改善する効果があることが発見されました21。1979年に日本の二條貞子医師らによってその有効性が初めて報告された、日本発の治療法です22。標準的な用法・用量は1日750mg~1500mg程度です23。第一三共ヘルスケアの「トランシーノEX」は、トラネキサム酸を配合した日本で唯一の市販の肝斑改善薬として知られています24
  • 外用療法: クリームや化粧水として局所的に塗布する方法です。日本の研究でも、外用トラネキサム酸が肝斑に対して80%の有効率を示したと報告されています25

アゼライン酸

アゼライン酸は、小麦やライ麦などの穀物に含まれる成分で、海外ではニキビや酒さの治療薬としても広く用いられています。異常なメラノサイトの働きを選択的に抑制する作用があり、肝斑に対しても有効です。あるシステマティックレビューでは、20%のアゼライン酸が4%のハイドロキノンと同等の効果を示し、副作用はより少なかったと報告されています26。特に、妊娠中でも比較的安全に使用できる代替薬として重要です11

レチノイド(トレチノイン)

トレチノインはビタミンA誘導体の一種で、表皮細胞(ケラチノサイト)のターンオーバー(新陳代謝)を強力に促進します。これにより、表皮に蓄積したメラニン色素の排出を早める効果があります5。また、他の薬剤の皮膚への浸透を高める働きもあるため、前述の「クリグマン・フォーミュラ」のように、ハイドロキノンと組み合わせて用いられることが非常に多いです8

その他の有効成分

上記の成分以外にも、肝斑治療に有効性が示唆されている成分がいくつかあります1

  • ビタミンC(アスコルビン酸): 強力な抗酸化作用を持ち、メラニン生成を抑制し、できてしまったメラニンを還元(淡色化)する効果があります。
  • コウジ酸: 味噌や醤油の醸造過程で発見された成分で、チロシナーゼの活性を阻害する作用があります。
  • システアミン: もともと体内に存在するアミノ酸の一種で、強力な抗酸化作用とメラニン生成抑制作用を持ち、近年注目されています。
  • ナイアシンアミド(ビタミンB3): メラノサイトからケラチノサイトへのメラニンの輸送を阻害することで、色素沈着を改善します。

【比較表】主な肝斑治療薬の比較

成分 主な作用機序 長所 短所・注意点 日本の規制
ハイドロキノン チロシナーゼ阻害 強力な美白効果 刺激、赤み、白斑、組織黒皮症のリスク。紫外線対策が必須。 医薬品、化粧品
トラネキサム酸 抗プラスミン作用 内服・外用ともに有効。副作用が比較的少ない。 内服の場合、血栓症のリスクがある人は注意が必要。 医薬品、市販薬(内服)
アゼライン酸 異常メラノサイトの抑制 妊娠中でも使用可能。副作用が少ない。 ハイドロキノンに比べて効果が穏やかな場合がある。 医薬品(海外)、化粧品
トレチノイン 表皮ターンオーバー促進 メラニン排出促進。他剤の浸透を高める。 強い刺激感(レチノイド反応)。妊娠中は禁忌。 医薬品

美容皮膚科での専門的治療:レーザーとケミカルピーリング

外用薬や内服薬で改善が見られない場合や、より積極的な治療を望む場合、美容皮膚科での専門的な施術が選択肢となります。ただし、日本皮膚科学会のガイドラインでは、これらの施術は第二選択、あるいは補助的な治療法として位置づけられています3。不適切なレーザー治療は肝斑を悪化させるリスクがあるため、慎重な判断が必要です。

レーザートーニングとピコトーニング

従来のシミ取りレーザーのような高出力のものは肝斑を悪化させるため禁忌とされています。肝斑治療には、「レーザートーニング」や「ピコ秒レーザートーニング」といった、非常に弱い出力のレーザーを繰り返し照射する方法が用いられます1。これにより、メラノサイトを過度に刺激することなく、皮膚に蓄積したメラニン色素を少しずつ破壊・排出させていきます。日本では非常に人気の高い治療法ですが、過度な治療は白斑(色素脱失)を引き起こすリスクがあるため、経験豊富な医師のもとで受けることが重要です。

ケミカルピーリング

グリコール酸やサリチル酸などの薬剤を皮膚に塗布し、古い角質を剥がれやすくする治療法です。表皮のターンオーバーを促進し、メラニン色素の排出を助けるとともに、ハイドロキノンなどの外用薬の浸透を高める効果も期待できます1。比較的マイルドな治療ですが、他の治療法と組み合わせて行うことで相乗効果が得られます。

よくある質問 (FAQ)

ハイドロキノンを使い続けたらどうなりますか?休薬期間は必要ですか?
ハイドロキノンを長期間、連続して使用することは推奨されません19。主な理由は、外因性組織黒皮症や白斑といった稀ですが重篤な副作用のリスクを避けるためです16。また、体が薬剤に慣れてしまい、効果が頭打ちになる可能性も指摘されています。一般的には、3ヶ月から長くとも6ヶ月程度の使用を目安に一度休薬し、肌を休ませる期間を設けることが推奨されます。休薬期間中は、トラネキサム酸やビタミンCなど、別の作用機序を持つ美白成分に切り替えることも有効です。具体的な使用期間と休薬期間については、必ず処方した医師の指示に従ってください。
「純ハイドロキノン」と「安定型ハイドロキノン」はどちらが良いですか?
一概にどちらが良いとは言えません。両者には明確なメリット・デメリットがあります20。「純ハイドロキノン」は、成分そのものであり、効果が高い反面、非常に不安定で酸化しやすく、肌への刺激も強いです。効果を最優先する場合には選択肢となりますが、厳格な品質管理と医師の指導が不可欠です。「安定型ハイドロキノン」は、純ハイドロキノンを他の成分でコーティングするなどして安定性を高め、刺激を抑えたものです。肌が敏感な方や、化粧品としてマイルドな効果を求める場合に適していますが、効果の発現は純ハイドロキノンに比べて穏やかになる可能性があります。ご自身の肌質、求める効果のレベル、そして許容できるリスクを医師と相談した上で選択することが最も重要です。
ハイドロキノン治療が効かない場合、どうすればよいですか?
ハイドロキノンの効果が見られない場合、いくつかの原因が考えられます2。まず、使用期間がまだ短い可能性があります。効果を実感するには最低でも1〜2ヶ月は必要です。次に、紫外線対策が不十分である可能性が非常に高いです。日焼け止めの使用を徹底してください。また、そもそも診断が間違っており、肝斑ではない他の種類のシミ(例:後天性真皮メラノサイトーシス)である可能性も考えられます。治療が効かないと感じた場合は、自己判断で継続せず、再度皮膚科専門医を受診し、診断の見直しや治療計画の変更を相談することが不可欠です。トラネキサム酸の内服や、アゼライン酸への変更、レーザー治療の併用など、次のステップを検討する必要があります。
妊娠中や授乳中に肝斑が悪化しました。ハイドロキノンは使えますか?
妊娠中および授乳中のハイドロキノンの安全性は確立されていません。全身への吸収率は低いとされていますが、胎児や乳児への影響が完全に否定できないため、使用は避けるのが一般的です。妊娠中はホルモンバランスの変化で肝斑が悪化しやすい時期ですが、この時期の治療はより慎重に行う必要があります。比較的安全性が高いとされるアゼライン酸の外用11や、徹底した紫外線対策、物理的刺激を避けるといった保存的なケアが中心となります。出産・授乳が終了すればホルモンバランスが元に戻り、肝斑が自然に軽快することもあります。治療については、必ず産婦人科医と皮膚科医の両方に相談してください。
ハイドロキノンと一緒に使ってはいけない成分はありますか?
ハイドロキノンと過酸化ベンゾイル(海外のニキビ治療薬に含まれる成分)を同時に使用すると、一時的に皮膚が黒ずむ可能性があるため、併用は避けるべきとされています。また、ハイドロキノン自体に刺激があるため、AHA(グリコール酸)やBHA(サリチル酸)などのピーリング成分や、高濃度のレチノール製品と併用すると、刺激が強く出すぎる可能性があります。肌の状態を見ながら慎重に併用するか、医師の指導のもとで行うようにしてください。基本的には、ハイドロキノン治療中は、保湿と紫外線対策を中心としたシンプルなスキンケアを心がけるのが安全です。

結論

肝斑治療は、正しい知識と根気強い取り組みが求められる長い道のりです。その中心的な選択肢であるハイドロキノンは、科学的根拠に裏打ちされた強力な効果を持つ一方で、その使用には副作用のリスクと厳格な管理が伴います。本稿で詳述したように、治療の成功は、単一の成分に頼ることではなく、証拠に基づいた階層的なアプローチにかかっています。
まず、全ての治療の基盤として、徹底した紫外線対策が不可欠です。その上で、皮膚科専門医による正確な診断を受け、第一選択とされるハイドロキノンやトラネキサム酸、アゼライン酸などの外用・内服療法を検討します。そして、必要に応じてレーザー治療などの専門的施術を補助的に組み合わせることが、日本皮膚科学会の推奨する最適な戦略です3。日本と海外での規制の違いを理解し、ご自身の肌とライフスタイルに合った、安全で持続可能な治療計画を専門家と共に立てることが、何よりも重要です。このガイドが、皆様が自信を持って治療への一歩を踏み出すための、信頼できる科学的基盤となることを心から願っています。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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