小児科

赤ちゃんの唇が乾燥するときの対策法とは? 専門家が教えるケア方法

赤ちゃんのデリケートな唇がカサカサに乾燥したり、時には切れてしまったりするのを見ると、多くの保護者の方が心配になることでしょう。赤ちゃんの唇は、大人の皮膚とは構造が異なり、非常に薄く敏感であるため、適切なケアが重要です1。この記事では、小児皮膚科の専門家の視点から、赤ちゃんの唇が乾燥する原因、家庭でできる具体的な予防・ケア方法、安全なリップケア製品の選び方、そして医療機関の受診が必要なケースについて、日本の医療事情やガイドラインを踏まえながら詳しく解説します。

要点まとめ

  • 赤ちゃんの唇は角質層が薄く、皮脂腺がないため、本質的に乾燥しやすく、外部からの刺激に非常に敏感です12
  • ケアの基本は「こまめな保湿」です。安全性の高い白色ワセリンや、無添加の赤ちゃん専用リップクリームを、食後や入浴後、就寝前などに優しく塗り、唇を保護することが最も重要です13
  • 唇を舐める癖は乾燥を悪化させるため、保湿で唇を保護することが舐めたい衝動を減らす助けになります4。また、室内の湿度管理(40~60%)と十分な水分補給も不可欠です1
  • 家庭でのケアで改善しない、出血や水疱、強い痛みを伴う場合、または高熱やぐったりするなど全身の症状が見られる場合は、川崎病5や脱水症6などの可能性があるため、自己判断せず速やかに小児科医を受診してください。

1. なぜ赤ちゃんの唇は乾燥しやすいの?

赤ちゃんの唇が特に乾燥しやすい背景には、その皮膚の特性と様々な外的・内的要因が関わっています。

1.1. 赤ちゃんの唇の皮膚の特徴

赤ちゃんの唇の皮膚は、体の他の部分の皮膚や大人の唇と比較していくつかの際立った特徴があります。まず、最も外側にある角質層(かくしつそう)が非常に薄いことが挙げられます1。この薄い角質層は、外部からの刺激に対するバリア機能が未熟であることを意味します。
さらに重要な点として、唇には皮脂腺(ひしせん)や汗腺(かんせん)が存在しません1。皮脂腺から分泌される皮脂は、皮膚表面に皮脂膜(ひしまく)を形成し、水分の蒸発を防ぎ、外部の刺激物から皮膚を保護する役割を果たします。唇にはこの皮脂膜を自ら作り出す能力がないため、本質的に乾燥しやすく、潤いを保つのが難しい部位なのです。
加えて、乳児の皮膚全体の特徴として、皮膚のバリア機能に重要な役割を果たすセラミドなどの細胞間脂質の量が、大人に比べて少ないことが知られています2。これにより、皮膚全体の水分保持能力が低く、唇もその影響を受けやすいと言えます。

1.2. 主な乾燥の原因

赤ちゃんの唇が乾燥する主な原因は多岐にわたります。

  • 環境的要因: 特に冬場の暖房使用時や夏場の冷房が効いた室内など、空気が乾燥している環境(低湿度)では、唇の水分も奪われやすくなります1。また、冷たい風や寒気にさらされることも、唇の乾燥や荒れを引き起こす一因です1
  • 生理的要因: 赤ちゃん、特に乳児は体重に占める水分量が多く、容易に脱水状態に陥ることがあります。発熱、嘔吐、下痢などの際には特に注意が必要で、唇の乾燥は脱水のサインの一つでもあります1。また、稀ですが特定のビタミン(特にビタミンB群など)の不足が皮膚や粘膜の健康に影響することもあります1
  • 行動的要因: 赤ちゃんが唇を舐めると、唾液が蒸発する際に唇自体の水分も一緒に奪ってしまいます1。さらに、唾液に含まれる消化酵素がデリケートな唇の皮膚を刺激し、乾燥やひび割れを助長することがあります4。これにより、舐めることでさらなる乾燥を招く悪循環に陥りやすいのです。母乳やミルクを飲む際、おしゃぶりの使用、衣類で口元を拭く際の摩擦なども刺激となり得ます。
  • その他: 離乳食が始まった赤ちゃんでは、食べ物や飲み物の付着が刺激となることがあります1。また、唇も紫外線の影響を受けるため、日差しの強い場所での外出時にも注意が必要です1

1.3. 新生児特有の「吸いダコ」について

新生児期(特に生後2~3ヶ月頃まで)の赤ちゃんに見られる唇の皮むけや水ぶくれのようなものは、「吸いダコ(すいだこ)」と呼ばれることがあります7。これは、母乳やミルクを吸う力が強いために、その摩擦や水分で唇の皮膚がふやけることによってできるものです。お腹の中にいる時から指しゃぶりをしていた赤ちゃんでは、生まれた時から吸いダコが見られることもあります7
吸いダコの主な原因は、この時期の赤ちゃんの唇の皮膚が非常に薄く柔らかいことです7。吸いダコは、小さな水ぶくれ(水疱)や、それが破れた後の皮むけとして現れます。多くの場合、これは生理的なものであり、赤ちゃんの皮膚が徐々に丈夫になり、哺乳のコツも上手になる生後3~4ヶ月頃には自然に治まっていきます7

大切なのは、この吸いダコを無理に剥がしたり、特別な処置をしようとしたりしないことです。無理に剥がすと、そこから出血したり、細菌が感染したりする原因になりかねません7

– 助産師の見解8

吸いダコは、赤ちゃんの成長過程の一時的な現象と理解し、自然に治るのを待つのが基本です。

2. 家庭でできる赤ちゃんの唇ケア:専門家のおすすめ

赤ちゃんの乾燥した唇をケアし、健やかな状態を保つためには、日々の丁寧なケアが不可欠です。専門家が推奨する家庭でのケア方法を具体的に見ていきましょう。

2.1. 基本の保湿ケア

唇の保湿は、乾燥対策の最も基本的な柱です。

  • こまめな保湿: 赤ちゃんの唇は自ら潤いを保つ力が弱いため、こまめに保湿剤を塗ることが非常に重要です1。特に、食事の後、飲み物を飲んだ後、入浴後、外出前、就寝前など、唇が乾燥しやすいタイミングで塗布しましょう19。看護師の奥田ゆうか氏も、唇には自然な保護膜がないため、保湿が何よりも大切であると強調しています1
  • 保湿剤の種類と使い方:
    • ワセリン (Vaseline / Petroleum Jelly): その優れた保護バリア機能と低刺激性から、赤ちゃんの唇ケアに非常に推奨されます。特に、不純物が少なく精製度の高い白色ワセリンや、医療機関で処方されるプロペト、あるいはベビーワセリンといった製品が適しています13。ワセリンは唇の表面に保護膜を形成し、水分の蒸発を防ぐと同時に、唾液や食べ物などの外部刺激からも唇を守ります3。食事の前やよだれが多い時期に、あらかじめ唇の周りや唇に塗っておくことで、刺激による荒れを未然に防ぐ「予防的保護」という観点からも重要です10
    • リップクリーム (Lip Balms): 赤ちゃん専用に作られた、低刺激性で無香料・無着色のリップクリームを選びましょう1
  • 塗り方: ワセリンやチューブタイプのリップクリームは、清潔な指に適量を取るか、チューブの先を直接唇に当てて優しく塗ります。スティックタイプのリップクリームも、力を入れずにそっと塗布しましょう11

2.2. 赤ちゃん向けリップクリーム・保湿剤の選び方(日本市場向け)

日本市場には多様なベビー用リップケア製品がありますが、選ぶ際にはいくつかのポイントに注意が必要です。

安全な成分のポイント:

  • ワセリン: 安全性と効果の高さから基本となる成分です3
  • 天然由来オイル: オリーブ果実油、ホホバ種子油、シア脂、ヒマワリ種子油、スクワランなどは、ベビー製品によく配合されています11。ただし、稀にアレルギー反応を示す赤ちゃんもいるため、初めて使用する際は少量から試すのが賢明です。
  • セラミド: 皮膚のバリア機能をサポートする成分です2。ナチュラルサイエンスの「ママ&キッズ オリゴリップ」など、一部の製品に含まれています12。乳児の皮膚は元々セラミドが少ないため2、これを補うことはバリア機能の維持に役立ちます。
  • グリチルリチン酸ジカリウム / グリチルレチン酸ステアリル: これらは抗炎症作用を持つ成分で、敏感肌や荒れた肌向けの製品によく見られます。肌荒れを防ぐ効果が期待できます12

避けるべき成分・注意点:

  • 添加物: 香料、着色料、刺激の強い防腐剤(例:パラベン)などは避けた方が無難です1
  • 清涼成分: メントールなどスーッとする成分は、赤ちゃんの唇には刺激が強すぎることがあります3
  • はちみつ: 1歳未満の乳児には、乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、はちみつ及びはちみつ入りの製品は絶対に避けるべきです11。ミツロウ(蜜蝋)は、はちみつとは異なり、一般的にはリスクが低いとされています13
  • 潜在的なアレルゲン: ラノリン、特定ナッツ由来のオイルなどは、稀にアレルギーの原因となることがあるため、初めて使う製品は必ずパッチテスト(腕の内側などに少量塗って様子を見る)を行いましょう11
  • 大人用リップクリームの使用: 大人向け製品には赤ちゃんに不適切な成分が含まれていることがあるため、基本的には推奨されません14。花王のニベアブランドでは、通常のリップケア製品は1歳以上からの使用を推奨しています15

「食品成分100%」「医薬部外品」などの表示について:

  • 「食品成分100%」: 「KISSME Mommy! リップクリームN」11のように表示された製品は、赤ちゃんが舐めても安全な成分で作られていることを示しますが、製品自体は化粧品です。これは消費者庁が定める食品の安全性表示とは異なります16
  • 「医薬部外品」と「化粧品」: 「化粧品」は主に保湿を目的とします。一方、「医薬部外品」(薬用)は、グリチルリチン酸ジカリウム17などの有効成分を配合し、「肌あれ防止」といった特定の効果が認められています18。単純な乾燥予防なら化粧品で十分ですが、既に荒れが見られる場合は医薬部外品も選択肢になります。

製品の形状(スティック、チューブ)や使用期限にも注意し、赤ちゃんに合ったものを選びましょう11

2.3. その他の重要なケアポイント

唇の保湿以外にも、赤ちゃんの唇の健康を守るために心がけたいポイントがあります。

  • 十分な水分補給: 体内の水分が不足すると皮膚や唇も乾燥します。特に発熱時や下痢・嘔吐がある場合は、脱水に注意し、母乳やミルク、月齢に応じて湯冷ましなどでこまめに水分を補給しましょう1
  • 適切な室内湿度の維持: 加湿器を使用するなどして、室内湿度を40~60%に保つよう心がけましょう1
  • 栄養バランス: 皮膚や粘膜の健康維持にはビタミン類などが重要です1。離乳食期は赤ちゃんの食事、母乳育児では母親の食事が影響します。
  • 唇を舐める癖への対応: 唇を常にワセリンなどで保湿しておくことで、舐めたい衝動を減らし、皮膚を保護する効果が期待できます1
  • 紫外線対策: 日差しが強い季節は、赤ちゃん用のUVカット効果のあるリップクリームの使用や、つばの広い帽子が有効です1
表1: 赤ちゃん向けリップ製品の成分:推奨と注意点
成分カテゴリー 具体的な成分例(日・英) 役割・効果 赤ちゃんへの主な考慮事項
保護剤・保湿剤 ワセリン (Vaseline) 皮膚保護、水分蒸発防止 低刺激で安全性が高い。白色ワセリン、ベビーワセリンが推奨される3
  セラミド (Ceramides) 皮膚バリア機能補助、保湿 乳児の皮膚に不足しがちな成分を補う2
  天然由来オイル (Olive oil, Jojoba oil, Shea butter など) 保湿、皮膚を柔らかくする 製品による。アレルギーの可能性も考慮し、少量から試す11
抗炎症成分 グリチルリチン酸ジカリウム (Dipotassium Glycyrrhizate) 抗炎症、肌荒れ防止 医薬部外品に含まれることが多い。肌荒れが気になる場合に12
避けるべき・注意成分 香料 (Fragrance), 着色料 (Colorants) (製品の嗜好性向上) デリケートな肌には刺激となる可能性があり、無香料・無着色が無難1
  メントール (Menthol) などの清涼成分 (使用感の清涼感) 刺激が強く、赤ちゃんには不向き3
  はちみつ (Honey) (保湿効果) 1歳未満は乳児ボツリヌス症のリスクがあるため絶対に使用しない11。ミツロウは比較的安全性が高い13
  ラノリン (Lanolin)など (保湿) 稀にアレルギー反応を起こすことがあるため、注意が必要。パッチテストを推奨11

3. 唇の乾燥だけじゃない?注意したい症状

赤ちゃんの唇のトラブルは、単なる乾燥にとどまらないこともあります。注意すべき症状と、関連する「よだれかぶれ」について解説します。

3.1. 一般的な悪化のサイン

家庭でのケアにもかかわらず、以下のような症状が見られる場合は、状態が悪化している可能性があります。

  • 持続的な皮むけ、ひび割れ1
  • 特に口角(唇の両端)の切れや炎症(口角炎)1
  • 赤み、腫れ、炎症が広がる1
  • かゆみや痛みを伴い、特に飲食時に嫌がる1
  • ひび割れからの出血3

3.2. よだれかぶれとの違いとケア

「よだれかぶれ」(医学的には接触皮膚炎の一種)は、主に唇の周りの皮膚(口囲、あご、頬など)に起こる炎症です19。唾液の消化酵素4が長時間皮膚に接触することで刺激となり、かぶれを引き起こします。唇の乾燥とよだれかぶれは併発することもあります。
よだれかぶれのケア: よだれはこまめに、柔らかい湿ったガーゼで優しく押さえるように拭き取ります19。ゴシゴシこすらないことが重要です。食事の前やよだれが多い時間帯には、ワセリンなどを口の周りの皮膚に塗り、唾液の刺激から守ります1920。清潔にした後は、保湿剤で皮膚の潤いを保ちましょう19。症状が改善しない場合は、ステロイド外用薬などが必要になることもあるため、医療機関を受診しましょう21

3.3. 感染症のサイン

唇やその周囲の皮膚のバリア機能が低下すると、細菌やウイルスに感染しやすくなります。以下のようなサインは感染の可能性を示唆します。

  • 水疱(すいほう): 透明または黄色っぽい液体を含んだ水ぶくれ。単純ヘルペスなどのウイルス感染や細菌感染の可能性があります1
  • 膿(うみ)の排出、じゅくじゅくした状態4
  • 黄色っぽいかさぶたの形成(とびひなど細菌感染の可能性)。
  • 痛み、腫れ、赤み、熱感の増強。
  • 唇の症状と同時に発熱がある場合1

特に単純ヘルペス感染症が疑われる場合は、早期の治療が効果的なため、速やかな医療機関の受診が推奨されます3。ひび割れた唇は感染の侵入口となりやすいため、適切なケアが二次感染の予防にも繋がります。

4. 専門医の診察が必要なケース

ほとんどの赤ちゃんの唇の乾燥は家庭でのケアで改善しますが、中には専門医の診察が必要なケースや、背景に別の病気が隠れていることもあります。

4.1. 一般的な受診の目安

以下の状況では、小児科医または小児皮膚科医の診察を受けることを検討しましょう。

  • 家庭での保湿ケアを数日間続けても、症状が改善しない、あるいは悪化する場合1
  • 赤ちゃんが唇の痛みを強く訴える、非常に不機嫌である、または飲食を嫌がるなど、日常生活に支障が出ている場合1
  • 症状が急激に悪化した場合1

4.2. 特定の警告サイン(レッドフラッグ)

以下の「レッドフラッグ」が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。

表2: 赤ちゃんの唇の危険なサイン:医療機関受診の目安
症状カテゴリー 具体的なサイン(日・英) なぜ懸念されるか 推奨される対応
重度の乾燥・亀裂 出血を伴う亀裂 (Bleeding cracks) 感染リスク、強い痛み 医療機関受診
感染の兆候 膿、水疱 (Pus, Blisters) 細菌・ウイルス感染の可能性 速やかに医療機関受診
  広がる赤み・腫れ・熱感 (Spreading redness, swelling, warmth) 感染・炎症の悪化 速やかに医療機関受診
アレルギー反応の疑い 新しい食品や製品使用後の急な腫れ、広範囲の発疹、呼吸困難 (Sudden swelling, widespread rash, difficulty breathing) アナフィラキシーの可能性 緊急医療機関受診
全身疾患の指標 唇の変化を伴う高熱 (High fever with lip changes) 川崎病などの可能性 速やかに医療機関受診
  いちご舌 (Strawberry tongue) 川崎病の典型症状の一つ 速やかに医療機関受診
  大泉門の陥凹 (Sunken fontanelle) 重度の脱水のサイン 速やかに医療機関受診
  泣いても涙が出ない (No tears when crying) 脱水のサイン 医療機関受診
  唇の乾燥を伴う持続的な嘔吐・下痢 (Persistent vomiting/diarrhea with dry lips) 脱水リスク、基礎疾患の可能性 医療機関受診

4.3. 重篤な病気の可能性

  • 川崎病 (Kawasaki Disease): 赤ちゃんの唇が乾燥し、赤く腫れ、ひび割れるといった症状は、特に5日以上続く高熱(通常39℃以上)と共に現れた場合、川崎病の重要なサインの一つとなり得ます5。その他の特徴的な症状として、いちご舌、目の充血、発疹、首のリンパ節の腫れ、手足の腫れなどがあります5。川崎病は心臓の血管に合併症を起こす可能性があるため、早期の診断と治療が極めて重要です。これらの症状が疑われる場合は、直ちに小児科専門医のいる医療機関を受診してください522
  • 脱水症 (Dehydration): 唇の乾燥に加え、大泉門の陥凹、目がくぼむ、泣いても涙が出ない、おしっこの回数や量が著しく減る、元気がなくぐったりしているなどのサインは、より重い脱水症を示唆します16。嘔吐や下痢が続いている場合は特にリスクが高まりますので、速やかに医療機関で相談してください。

健康に関する注意事項

  • 家庭でのセルフケアは、あくまで軽度の乾燥に対するものです。症状が改善しない、または悪化する場合は、必ず専門医の診断を仰いでください。
  • 1歳未満の乳児には、乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、はちみつおよびはちみつを含む製品は絶対に使用しないでください11
  • ここに記載された情報は一般的なものであり、個々の赤ちゃんの状態に合わせた医学的アドバイスに代わるものではありません。気になる症状があれば、かかりつけの小児科医または皮膚科医にご相談ください。

5. 小児皮膚科医からの追加アドバイス

赤ちゃんの唇ケアについて、さらに小児皮膚科医の視点からいくつか補足的なアドバイスをさせていただきます。

5.1. 乳幼児スキンケアの全体像と唇ケアの位置づけ

赤ちゃんの皮膚は、大人と比べて薄く、バリア機能も未熟で非常にデリケートです2。そのため、唇だけでなく、全身のスキンケアにおいて「優しく洗い、しっかり保湿する」という基本が重要になります。特に日本では、新生児期からの保湿剤塗布がアトピー性皮膚炎の発症リスクを低下させる可能性を示唆する研究23をきっかけに、乳幼児期早期からの積極的なスキンケアの重要性が広く認識されるようになりました。日本皮膚科学会などのガイドラインでも、適切な洗浄と保湿を中心としたスキンケアが推奨されています24。唇のケアも、この乳幼児スキンケア全体の考え方の一部として捉えることが大切です。

5.2. 保湿剤を嫌がる赤ちゃんへの対処法

一生懸命ケアしようとしても、赤ちゃんが保湿剤を塗られるのを嫌がることがあります。そのような場合の工夫をいくつかご紹介します25

  • 楽しい雰囲気で: 歌を歌いながら、手遊びを交えながらケアの時間を楽しい遊びの時間に変えてみましょう4
  • 保湿剤を温める: 冷たい保湿剤が肌に触れる感覚を嫌がる赤ちゃんもいます。塗る前に保護者の手のひらで少し温めてから塗布すると、不快感を軽減できます25
  • テクスチャーの工夫: ベタベタするクリームが苦手な場合は、さらっとしたローションやジェルタイプのものに変えてみるのも一案です25
  • 落ち着いたタイミングで: お昼寝前や授乳後など、赤ちゃんがリラックスしている時に行いましょう4
  • 保護者も一緒に: 保護者の方がまず自分の手などに塗ってみせ、「次は〇〇ちゃんの番ね」と声をかけながら行うと、赤ちゃんも受け入れやすくなることがあります25
  • 習慣化する: 毎日の入浴後など、決まった時間にケアを行うことで、生活の一部として自然に受け入れられるようになることもあります。

よくある質問

Q. 母乳を唇に塗ってもいいですか?

A. 時折、民間療法として耳にすることがありますが、推奨されません。母乳には糖分が含まれており、皮膚に残ると細菌が繁殖する可能性も否定できません。唇の乾燥ケアには、ワセリンや赤ちゃん専用のリップクリームなど、目的に合った保湿剤を使用するのが一般的です。なお、乳頭ケアに用いられる精製度の高いラノリン製品などは、成分的に安全なものが多く、赤ちゃんの口に入っても問題ないとされるため、結果的に唇の保湿にも使える場合がありますが、主目的は乳頭保護です26

Q. 大人のリップクリームを使っても大丈夫?

A. 基本的には避けるべきです。大人用の製品には、メントールや強い香料、1歳未満の赤ちゃんには禁忌のはちみつなどが含まれている可能性があります14。また、アレルギーを引き起こす可能性のある成分が含まれていることもあります。必ず赤ちゃん専用に処方された、安全性の確認された製品を選びましょう。

Q. リップクリームを舐めてしまっても大丈夫?

A. 赤ちゃんがリップクリームを舐めてしまうことは想定内です。そのため、万が一口に入っても安全な成分で作られた製品(例:「食品成分100%」を謳うものや、高純度のワセリンなど)を選ぶことが重要です1。これらの製品は、少量であれば大きな問題になることは少ないですが、製品が唇にとどまり、しっかりと保湿効果を発揮することが本来の目的であることを忘れないでください。

Q. 「吸いダコ」はいつまで続きますか?

A. 「吸いダコ」は、哺乳の力が強いために生じる生理的な現象で、通常は赤ちゃんの皮膚が丈夫になり、哺乳に慣れてくる生後3~4ヶ月頃には自然に目立たなくなります7。無理に皮を剥がしたりせず、自然に治るのを待つことが大切です。

Q. 唇の皮がむけているとき、剥がしてもいいですか?

A. いいえ、絶対に剥がさないでください。無理に皮を剥がすと、健康な皮膚まで傷つけてしまい、出血や痛みの原因となります。さらに、そこから細菌が侵入して感染症を引き起こすリスクもあります7。自然に剥がれ落ちるのを待ち、ワセリンなどで優しく保湿して唇を保護することに専念してください。

結論

赤ちゃんの唇は、その繊細な構造ゆえに乾燥しやすく、日々の丁寧なケアが求められます。主な原因である空気の乾燥、水分不足、唇を舐める癖などを理解し、適切な対策を講じることが大切です。
ケアの基本は、ワセリンや赤ちゃん専用の安全なリップクリームを用いたこまめな保湿、十分な水分補給、適切な室内湿度の維持、そしてバランスの取れた栄養です。製品を選ぶ際には、成分をよく確認し、特に1歳未満の赤ちゃんにははちみつ入りの製品を避けるなど、注意点を守りましょう。
多くの場合は家庭でのケアで改善しますが、症状が長引いたり悪化したりする場合、出血や感染の兆候が見られる場合、あるいは川崎病や脱水症といった他の病気が疑われるサインがある場合は、自己判断せずに速やかに小児科医や小児皮膚科医に相談してください。
赤ちゃんの唇の乾燥はよくある悩みですが、正しい知識を持って予防とケアを行うことで、赤ちゃんの唇を健やかで快適な状態に保つことができます。保護者の皆様が安心して育児に取り組めるよう、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

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  27. Lurie Children’s Hospital of Chicago. Dehydration in Children: Signs, Symptoms and When to Call the Doctor. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.luriechildrens.org/en/blog/dehydration-in-children/
  28. ピジョンインフォ「赤ちゃんの唇がカサカサで皮がむけています。」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://pigeon.info/soudan/soudan-10570.html
  29. 新・商品カバン「お口まわりのカサカサやただれに! 無香料・無着色・パラベンフリーの『ベビーワセリンリップ』でしっかり保湿」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.shin-shouhin.com/2022/04/27/kenei_pharm-baby_waserinlip/
  30. mybest「赤ちゃん用リップクリームのおすすめ人気ランキング26選【徹底比較】」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://my-best.com/20814
  31. アロベビー「アロベビー 国産オーガニック リップクリーム」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.alo-organic.com/shop/products/alo_158_1
  32. Earthcare「赤ちゃんにおすすめの保湿クリーム10選!選び方や塗り方も解説」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://earthcare.co.jp/blog/moisturizing-cream-for-babies
  33. ビーンスターク「赤ちゃんのためのスキンケア」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.beanstalksnow.co.jp/babymom/skincare/
  34. Boston Children’s Hospital. Kawasaki Disease. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.childrenshospital.org/conditions/kawasaki-disease
  35. National University Hospital, Singapore. Kawasaki Disease in Children. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.nuhs.edu.sg/patient-care/find-a-condition/kawasaki-disease-children
  36. Mayo Clinic. Dehydration – Symptoms and causes. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/dehydration/symptoms-causes/syc-20354086
  37. 第一三共ヘルスケア「子どもの皮膚の特徴とスキンケア」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/selfcare/kodomo-hihu/
  38. arau.baby(サラヤ株式会社)「赤ちゃんのスキンケア、どうすればいい?医師監修!アトピー予防にも」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.arau.jp/baby/column/bcare/59.html
  39. 婦人画報「未来の肌は「乳幼児期のスキンケア」で決まる! ナチュラルサイエンスに聞く正しい知識」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.fujingaho.jp/lifestyle/beauty-health/a40986209/natural-science-220921/
  40. 日本農芸化学会「化学と生物」赤ちゃんの肌とスキンケアの重要性. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1756
  41. ピジョンインフォ「【専門家監修】赤ちゃんの肌とアレルギーの関係とは?フィラグリンの働きも解説」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://pigeon.info/filbaby/filaggrin/article1.html
  42. 環境再生保全機構「ぜん息などの情報館」小児のスキンケア,これでいいの?(後編). [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202310_1/
  43. 日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2008」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.kyudai-derm.org/part/atopy/pdf/atopy2008.pdf
  44. 日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2024.pdf
  45. はらこどもスキンケアクリニック「保湿剤について」. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://hara-children-skin.com/moisturizer.html
  46. World Health Organization (WHO). Diarrhoeal disease. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/diarrhoeal-disease
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