妊娠中のホルモン変化は髪に大きな影響を与えます。この記事では、産婦人科医または皮膚科医の視点から、科学的根拠に基づいた妊娠中の髪の健康を守るための4つの主要なケア戦略、栄養摂取、安全なヘアケア方法、美容院利用の注意点について詳しく解説します。抜け毛や髪質の変化に悩むプレママ必見の情報です。

妊娠中の髪の変化：ホルモンと身体の影響を理解する

妊娠すると、女性の体は赤ちゃんを育むために劇的に変化します。これらの変化は、髪の健康にもさまざまな影響を及ぼす可能性があります。主な原因はホルモンバランスの変動ですが、栄養状態やストレスなども関わってきます。

エストロゲンとプロゲステロン：髪の成長サイクルへの影響

妊娠中は、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が大幅に増加します¹。 エストロゲンは、髪の成長期（アナゲン期）を延長させ、髪が太く、抜けにくくなる傾向があります²。多くの妊婦さんが妊娠中に髪が豊かでツヤが出たと感じるのはこのためです。プロゲステロンは、エストロゲンと共に髪の成長サイクルを調整し、髪の健康維持に寄与します¹。

妊娠中によく見られる髪の悩み

ホルモンバランスの変化やその他の要因により、妊娠中には以下のような髪の悩みが現れやすくなります。

抜け毛の増加（特に妊娠後期・産後）

妊娠中はエストロゲンの影響で抜けにくかった髪が、出産後にホルモンバランスが急激に戻ることで一斉に休止期（テロゲン期）に入り、大量に抜けることがあります。これは「分娩後脱毛症」と呼ばれ、産後2～6ヶ月頃にピークを迎えることが多いですが、通常は産後半年～1年程度で自然に回復します³。妊娠後期にも、ストレスや栄養不足により抜け毛が増加することがあります。

髪質の変化（パサつき、うねり、太さの変化など）

ホルモンの影響や栄養状態の変化により、髪が乾燥してパサついたり⁴、以前はなかったうねりが出たり、逆に髪が太く硬くなったり、細く柔らかくなったりすることがあります¹。

頭皮のトラブル（乾燥、かゆみ、フケ）

妊娠中は皮膚全体が敏感になりやすく、頭皮も例外ではありません。ホルモンバランスの変化による皮脂分泌の変動や乾燥が原因で、頭皮のかゆみ、フケ、湿疹などが起こりやすくなります⁵。

【戦略1】ホルモンバランスの理解と変化への備え：心身の安定が鍵

妊娠中の髪の変化は避けられない部分もありますが、ホルモンバランスのメカニズムを理解し、心身の調子を整えることで、影響を最小限に抑えることができます。

妊娠周期とホルモン変動：髪への影響の時期別解説

妊娠初期 (～15週): つわりによる食欲不振やストレスが髪に影響を与えることがあります。ホルモンレベルは上昇し始めますが、まだ大きな変化は見られないことが多いです。
妊娠中期 (16週～27週): いわゆる「安定期」で、エストロゲンレベルが高まり、髪の状態が最も良くなる時期と言われます。抜け毛が減り、髪にツヤが出ることが期待できます²。
妊娠後期 (28週～出産): 出産に向けてホルモンバランスが再び変動し始めます。ストレスや睡眠不足、栄養不足が重なると、抜け毛が増えることもあります²。

産後の抜け毛（分娩後脱毛症）：メカニズムと期間の正しい知識

前述の通り、産後の抜け毛はエストロゲンの急激な減少による生理的な現象です⁶。通常、産後2～3ヶ月頃から始まり、4～6ヶ月でピークを迎え、多くの場合、産後1年以内には落ち着きます⁶。過度に心配せず、適切なケアと栄養を心がけることが大切です。

ストレス管理と自律神経の安定：髪への好影響

妊娠中の不安やストレスは自律神経のバランスを乱し、血行不良を引き起こして頭皮や髪に悪影響を与える可能性があります²。リラックスできる時間を作り、十分な睡眠をとり、軽い運動をするなどして、ストレスを上手にコントロールしましょう²。

【戦略2】美髪を育む栄養摂取：科学的根拠に基づく食事戦略

髪は体が作るものですから、健康な髪を育むためにはバランスの取れた栄養摂取が不可欠です。特に妊娠中は、胎児の成長にも栄養が必要となるため、意識的な栄養管理が求められます。

髪の主成分「ケラチン」とタンパク質の重要性

髪の約80-90%は「ケラチン」というタンパク質でできています³。良質なタンパク質（肉、魚、卵、大豆製品など）を十分に摂取することが、丈夫で健康な髪を作る基本です³。

必須ビタミンとミネラル：亜鉛、鉄分、ビタミンB群、C、Eの役割

亜鉛: ケラチンの合成を助け、細胞分裂を促進します。不足すると抜け毛の原因になることがあります²。牡蠣、レバー、赤身肉などに多く含まれます。
鉄分: ヘモグロビンの材料となり、頭皮への酸素供給に不可欠です。妊娠中は特に不足しやすいため、積極的に摂取しましょう²。レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじきなどに豊富です。
ビタミンB群 (特にビオチン、B6、B12): 頭皮の新陳代謝を促し、皮脂バランスを整え、髪の成長をサポートします²。レバー、魚介類、緑黄色野菜、ナッツ類などに含まれます。
ビタミンC: コラーゲンの生成を助け、鉄分の吸収を高めます。また、抗酸化作用により頭皮を健康に保ちます⁴。果物、野菜に豊富です。
ビタミンE: 血行を促進し、抗酸化作用で頭皮の老化を防ぎます⁴。ナッツ類、植物油、アボカドなどに含まれます。

表1：妊娠中の美髪のための主要栄養素と食材例

食事からの栄養摂取のポイント

つわりなどで食事が偏りがちな時期でも、できるだけバランスの良い食事を心がけましょう。一度にたくさん食べられない場合は、分食や栄養補助食品の活用も検討します。特に鉄分や葉酸は、妊娠中に必要量が増加するため、意識して摂取する必要があります⁷。

サプリメントの活用について

食事だけで必要な栄養素を十分に摂取するのが難しい場合は、医師や管理栄養士に相談の上、妊娠中でも安全なサプリメント（例：Elevitブランドの製品など³）を活用することも一つの方法です。ただし、自己判断での過剰摂取は避け、必ず専門家のアドバイスを受けましょう。

【戦略3】安全なヘアケア実践法：頭皮と髪への科学的アプローチ

妊娠中は頭皮も敏感になりやすいため、日々のヘアケア方法を見直すことが大切です。髪と頭皮に優しい製品を選び、正しいケアを実践しましょう。

妊娠中でも安心なシャンプーの選び方：成分と注意点

シャンプーは毎日使うものだからこそ、成分にこだわりたいものです。以下のポイントを参考に選びましょう。

• 低刺激性・アミノ酸系洗浄成分： ラウレス硫酸Naなどの高級アルコール系洗浄成分は洗浄力が強い反面、刺激になることがあります。アミノ酸系（例：ココイルグルタミン酸Na、ラウロイルメチルアラニンNaなど）やベタイン系の洗浄成分は、マイルドな洗浄力で頭皮への刺激が少ないとされています⁵。
• 無添加・オーガニック認証： 香料、着色料、パラベン、シリコンなどが無添加の製品や、信頼できるオーガニック認証（例：ECOCERT、NaTrueなど）を受けた製品は、刺激リスクを低減する一つの目安になります。ただし、「オーガニック＝安全」とは限らないため、成分全体の確認が重要です。
• 保湿成分配合： ヒアルロン酸、セラミド、コラーゲン、植物性オイルなどの保湿成分が配合されていると、頭皮の乾燥を防ぎ、バリア機能をサポートします。
• 専門家の意見を参考に： 産婦人科医や皮膚科医、毛髪診断士に相談し、自身の頭皮状態に合った製品を推奨してもらうのも良いでしょう。

多くの製品情報（例：Fromcocoroのかおりのシャンプー⁸、アンファーのスカルプDボーテ⁵、Pigeonの製品⁹、ナチュラルサイエンスのママ＆キッズ¹⁰など）がオンラインで入手可能です。

表2：妊娠中の使用に注意が必要な可能性のあるシャンプー成分例（医師・専門家相談推奨）

（※）注意：アロマテラピーで直接使用する場合の注意点であり、シャンプー等化粧品への微量配合ではリスクが低いとされることもあります。不安な場合は医師に相談してください。

正しい洗髪方法と頭皮マッサージのコツ

洗髪方法：

1. 洗髪前にブラッシングし、髪の絡まりやホコリを取る。
2. ぬるま湯（38℃程度）で髪と頭皮を十分に予洗いする¹²。
3. シャンプーを手のひらでよく泡立ててから、指の腹で頭皮をマッサージするように優しく洗う¹²。爪を立てないこと。
4. すすぎ残しがないよう、時間をかけて丁寧に洗い流す¹²。
5. コンディショナーやトリートメントは頭皮を避け、毛先中心につける。

頭皮マッサージ：
血行を促進し、頭皮環境を整えるために、シャンプー時やリラックスタイムに頭皮マッサージを取り入れましょう。指の腹で頭皮全体を優しく揉みほぐすように行います。強く擦りすぎないように注意してください²。

妊娠中の育毛剤・トリートメント使用の可否と注意点

市販の育毛剤には、ミノキシジルなど妊娠中の使用が推奨されない成分が含まれている場合があります⁶。自己判断で使用せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。保湿を目的とした頭皮用ローションや、妊娠中でも安全と明記された製品を選ぶのが無難です⁵。トリートメントも、刺激の少ないものを選びましょう。

ドライヤーの熱ダメージを避ける方法

洗髪後は、まずタオルドライで髪の水分を優しく吸い取ります。ドライヤーは髪から20cm以上離し、同じ場所に熱風を当て続けないようにします⁴。低温モードやスカルプモードがある場合は活用しましょう。完全に乾かすことで雑菌の繁殖を防ぎますが、オーバードライにも注意が必要です。

【戦略4】美容院の利用とヘアトリートメント：専門家のアドバイス

妊娠中でも美容院でリフレッシュしたいものです。しかし、いくつかの注意点があります。

美容院へ行くのに最適な時期と注意点

体調が比較的安定する妊娠中期（5～7ヶ月頃）がおすすめです¹³。つわりが治まり、お腹もまだそれほど大きくないため、長時間の施術も比較的楽に受けられます。美容院を予約する際は、妊娠中であることを必ず伝え、体調が悪くなったらすぐに伝えられるようにしましょう。シャンプー台の体勢がきつい場合は、クッションなどで調整してもらうか、短時間で済ませてもらうようにお願いしましょう。

妊娠中のヘアカラー・パーマ：最新研究と医師の見解

ヘアカラー剤やパーマ液の化学物質が胎児に与える影響については、長年議論があります。山梨大学の研究では、妊娠中のヘアカラー製品の使用と子供のアレルギー疾患発症リスクとの間に関連性を示唆する報告もありますが、さらなる研究が必要とされています¹⁴。一般的に、ごく微量の化学物質が頭皮から吸収される可能性は否定できませんが、適切に使用すれば胎児への影響は非常に小さいとする見解が多いです¹⁵。しかし、妊娠中は皮膚が敏感になっているため、かぶれやすいこと、また薬剤の匂いで気分が悪くなることも考慮すべきです¹³。多くの情報源（例：Tomoniteの記事¹⁶、Mitas Series¹⁷、楽天のまとめ記事¹⁸、宇都宮鍼灸院の解説¹⁹など）も参考に、慎重な判断が求められます。

美容師への伝え方と安全な施術の選び方

必ず妊娠していること、現在の週数、体調を美容師に伝えましょう。その上で、以下の点を考慮して施術を選びます。

• 頭皮に薬剤をつけない施術： ヘアマニキュアや、根元を避けてカラーリングする「ゼロテク」などを検討する。
• 刺激の少ない薬剤を選ぶ： オーガニックカラーやヘナなど、比較的刺激が少ないとされる薬剤を選ぶ（ただしアレルギーの可能性はあります）。
• 換気の良い席を選ぶ： 薬剤の匂いを吸い込まないように、換気の良い席や個室を希望する。
• 短時間で終わる施術を選ぶ： 体調を考慮し、長時間の施術は避ける。
• パッチテストを行う： 事前にパッチテストを行い、アレルギー反応が出ないか確認する¹³。

よくある質問（Q&A）

結論

妊娠中の髪の変化は多くのプレママが経験することですが、ホルモンバランスのメカニズムを理解し、適切な栄養摂取、安全なヘアケア製品の選択と正しい使用法、そして必要に応じた専門家のアドバイスを組み合わせることで、健やかな髪と頭皮を維持することは十分に可能です。本記事で紹介した4つの戦略が、皆様の妊娠中のヘアケアの一助となり、心身ともに健やかなマタニティライフを送るためのお役に立てれば幸いです。何よりも、ご自身の体調を最優先し、無理のない範囲でケアを楽しみましょう。