【専門医が監修】その痛み、年のせい?関節リウマチ・変形性関節症・痛風を見分ける重要サインと最新治療法
筋骨格系疾患

【専門医が監修】その痛み、年のせい?関節リウマチ・変形性関節症・痛風を見分ける重要サインと最新治療法

関節の痛みやこわばり。「もう年だから仕方ない」と諦めていませんか?しかし、その症状の背後には、単なる加齢現象では済まされない、治療法が全く異なる複数の病気が隠れている可能性があります。日本の「健康寿命」の延伸を阻む最大の要因の一つであるロコモティブシンドローム(ロコモ)13。その根幹をなす関節の病気について、正しい知識を持つことは、あなたの未来の生活の質を大きく左右します。本記事は、日本リウマチ学会や日本整形外科学会などが発表する最新の診療ガイドラインに基づき、ご自身の症状を正しく理解し、最適な医療へ繋ぐための信頼できる情報を提供することを目的に、JHO編集委員会が総力を挙げて作成しました。


本記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的エビデンス(証拠)にのみ基づいて執筆されています。以下に、本記事で提示される医学的指導の根拠となった主要な情報源とその関連性を示します。

  • 関節リウマチ診療ガイドライン2024 (日本リウマチ学会): 本記事における関節リウマチの診断基準、治療戦略、および「臨床的寛解」という治療目標に関する記述は、この最新ガイドラインに基づいています3
  • 変形性膝関節症診療ガイドライン2023 (日本整形外科学会): 変形性関節症の診断、運動療法や薬物療法、手術療法を含む治療アプローチに関する解説は、この標準的な指針を根拠としています5
  • 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 (日本痛風・尿酸核酸学会): 痛風の診断基準、血清尿酸値6.0mg/dL以下という具体的な治療目標、および生活指導に関する内容は、この専門的ガイドラインに基づいています7
  • 厚生労働省研究班報告(ROADスタディ)及び患者調査: 日本における変形性関節症の有病者数や、筋骨格系疾患全体の患者数に関する統計データは、これらの公的調査結果を正確に引用しています1316

要点まとめ

  • 関節の痛みを「年のせい」と自己判断するのは危険です。変形性関節症、関節リウマチ、痛風など、原因も治療法も全く異なる病気の可能性があるため、早期の鑑別(見分けること)が極めて重要です。
  • 変形性関節症は最も一般的な関節炎で、主に加齢や体重負荷により軟骨がすり減ることが原因です。症状は動き始めに強く、安静にすると和らぐ傾向があります。治療の基本は運動療法と減量です。
  • 関節リウマチは免疫系の異常による自己免疫疾患で、放置すると関節が破壊され変形します。特徴的な症状は「1時間以上続く朝のこわばり」や「左右対称の関節の腫れ」です。早期診断とメトトレキサートや生物学的製剤による寛解を目指す治療が標準です。
  • 痛風は尿酸の結晶が関節に溜まることで激痛発作を引き起こします。血清尿酸値を6.0mg/dL以下にコントロールすることが治療目標であり、薬物療法と生活習慣の改善が中心となります。
  • 関節に異常を感じた場合、まずは整形外科の受診が一般的です。しかし、朝のこわばりや複数の関節の腫れなど、関節リウマチが疑われる場合は、リウマチ科(膠原病科)の専門医に相談することが、早期発見・早期治療への鍵となります。

Part 1: あなたの症状はどれ?主要な関節炎の見分け方

関節炎と一括りにされがちですが、その正体は多種多様です。そして、治療の成否を分ける最も重要な第一歩は、症状の原因となっている病気を正確に「見分ける」ことです。なぜなら、例えば変形性関節症の治療の主軸が運動療法であるのに対し、関節リウマチでは早期からの強力な薬物療法が関節破壊を防ぐ鍵となるなど、治療戦略が180度異なるからです35。誤った自己判断や放置は、回復不可能な機能障害につながる危険性をはらんでいます。

ここでは、日本で特に患者数が多い主要な4つの関節炎について、その特徴を比較し、ご自身の症状を客観的に見つめるための鑑別ポイントを提示します。

表:主要4大関節炎の鑑別ポイント早見表
特徴 変形性関節症 (OA) 関節リウマチ (RA) 痛風 (Gout) 乾癬性関節炎 (PsA)
主な原因 加齢、体重、機械的ストレスによる軟骨の摩耗 自己免疫の異常による滑膜の炎症 尿酸の結晶化と沈着 皮膚疾患「乾癬」に関連する免疫異常
特徴的な症状 動き始めの痛み、夕方に悪化、安静で軽快 1時間以上続く朝のこわばり、左右対称の腫れ 突然の激痛発作(特に足の親指の付け根) 皮膚や爪の乾癬症状、指のソーセージ様の腫れ
好発部位 膝、股関節、手指の第一関節(DIP関節) 手指の第二・第三関節(PIP, MCP関節)、手首、足指 足の親指の付け根(第一MTP関節)、足首、膝 手指、足指、仙腸関節など非対称性が多い
全身症状 なし 微熱、倦怠感、食欲不振を伴うことがある 発作時に発熱を伴うことがある 発熱、倦怠感を伴うことがある
診断の鍵 X線検査での軟骨減少や骨棘形成 血液検査(抗CCP抗体、RF)、関節エコー 血清尿酸値、関節液中の尿酸結晶 乾癬の病歴、特徴的な関節炎の所見
主な診療ガイドライン 日本整形外科学会5 日本リウマチ学会3 日本痛風・尿酸核酸学会7 日本皮膚科学会9

Part 2: 【変形性関節症】軟骨のすり減りが原因の最も一般的な関節炎

変形性関節症(Osteoarthritis: OA)は、関節炎の中で最も頻度が高く、多くの人々が悩まされる疾患です。厚生労働省の研究班報告であるROADスタディによると、日本の40歳以上のX線診断基準による膝の変形性関節症の有病率は男性で42.6%、女性で62.4%にものぼり、推定患者数は2,530万人(男性860万人、女性1,670万人)とされています13。これは、加齢、体重増加、過去の怪我などにより、関節のクッションである軟骨が長年かけてすり減り、骨が変形することで痛みや機能障害を引き起こす病気です。

主な症状と特徴:動き始めの痛み、安静で軽快

変形性関節症の痛みには特徴があります。立ち上がりや歩き始めなど、動き始め(motion pain)に痛みが強く、しばらく動いていると楽になる傾向があります。しかし、夕方になると痛みが増したり、長時間歩いた後に関節が腫れたり水が溜まったりすることもあります。関節リウマチと対照的に、安静にしていると痛みは和らぐことが多く、朝のこわばりがあっても通常は30分以内に収まります15

診断方法:X線検査の役割と評価

診断の基本は、問診と身体診察に加え、X線(レントゲン)検査です。X線写真では、関節の隙間が狭くなっている(軟骨のすり減り)、骨の辺縁がトゲのように尖っている(骨棘:こつきょく)、骨が硬くなっているなどの特徴的な変化を確認します5。これらの変化の程度は、国際的な分類であるKellgren-Lawrence分類などを用いて評価され、治療方針の決定に役立てられます。

治療の基本方針:日本整形外科学会ガイドライン2023に基づくアプローチ

変形性関節症の治療は、日本整形外科学会が策定した「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」に基づいて進められます5。治療の目的は、痛みをコントロールし、関節の機能を維持・改善して、生活の質を高めることです。治療は大きく分けて保存療法と手術療法があります。

治療の第一歩:運動療法と減量の重要性

驚かれるかもしれませんが、変形性関節症治療の根幹は薬ではなく、運動療法減量です。診療ガイドラインでも、これらの非薬物療法が最も強く推奨されています5。埼玉県立大学の研究報告によると、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える運動は、薬物療法に匹敵するほどの除痛効果があることが示されています25。運動によって関節周囲の筋力が向上すると、関節が安定し、負担が軽減されます。また、運動自体にも痛みを和らげる効果があることが科学的に証明されています26。さらに、体重を1kg減らすと、歩行時の膝への負担は約3〜4kg減少すると言われており、減量は関節への負荷を直接的に減らす最も効果的な方法の一つです。

薬物療法:役割と限界の理解

運動療法などを行っても痛みがコントロールできない場合には、薬物療法が検討されます5

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 内服薬や外用薬(貼り薬、塗り薬)があり、痛みを和らげる効果があります。ただし、内服薬は胃腸障害や腎機能障害などの副作用に注意が必要です。
  • 関節内注射: ヒアルロン酸注射は関節の潤滑油のような役割を果たし、痛みを緩和する効果が期待されますが、その効果は限定的です。痛みが非常に強い場合には、強力な抗炎症作用を持つステロイド注射が行われることもありますが、頻繁な使用は軟骨や組織を傷める可能性があるため、慎重に行われます。

手術療法:最終的な選択肢

保存療法で十分な効果が得られず、日常生活に大きな支障をきたす場合には、手術療法が選択肢となります。関節鏡(内視鏡)を用いて関節内を掃除する手術、骨の角度を変えて荷重のかかる位置をずらす骨切り術、そして最も一般的なのが、傷んだ関節を金属やポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える人工関節置換術です。これにより、多くの患者さんが痛みから解放され、活動的な生活を取り戻しています。


Part 3: 【関節リウマチ】免疫の異常が引き起こす全身の炎症

関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis: RA)は、単なる関節の病気ではありません。本来、体を守るべき免疫システムが誤って自分自身の関節を攻撃してしまう「自己免疫疾患」であり、全身に炎症を引き起こす可能性があります。厚生労働省の報告や日本リウマチ学会によると、日本国内の推定患者数は60万〜100万人とされています1415。関節リウマチの最大の特徴は、適切な治療を行わないと、滑膜という関節を包む膜の炎症が骨や軟骨を破壊し、関節が変形して元に戻らなくなってしまう点です。そのため、早期発見と早期治療が何よりも重要となります。

見逃せない初期症状:1時間以上続く朝のこわばり、左右対称の腫れ

関節リウマチには、変形性関節症とは明確に異なる、特徴的な初期症状があります。その最も代表的なものが、朝起きた時に関節がこわばって動かしにくい「朝のこわばり」です。このこわばりが、リウマチ専門医によると1時間以上続く場合は、関節リウマチを強く疑うサインです2。また、手首や手指の付け根(MCP関節)、第二関節(PIP関節)が左右対称に腫れて痛むのも典型的な症状です3。その他、複数の関節に痛みが移動したり、全身の倦怠感や微熱、食欲不振といった全身症状を伴ったりすることもあります。

診断の鍵:血液検査と関節エコーの有用性

関節リウマチの診断は、症状の問診や関節の診察に加え、以下の検査を組み合わせて総合的に行われます。

  • 血液検査: 抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)とリウマトイド因子(RF)が重要な指標です。特に抗CCP抗体は特異度が高く、関節リウマチの早期診断に非常に有用です3。炎症の程度を示すCRPや赤沈(ESR)も参考にします。
  • 画像検査: X線検査では初期の変化は捉えにくいですが、進行すると骨びらん(骨の欠損)が見られます。近年では、関節エコー(超音波)検査が非常に重要視されており、滑膜の炎症や血流の増加をリアルタイムで視覚的に評価できるため、X線ではわからない早期の炎症を発見するのに役立ちます。

治療の最前線:日本リウマチ学会ガイドライン2024に基づく治療戦略

関節リウマチの治療は、この20年で劇的に進歩しました。日本リウマチ学会が発行する「関節リウマチ診療ガイドライン2024」では、早期に診断し、治療目標を明確に設定して強力な治療を開始する「Treat to Target(T2T)」という考え方が標準となっています34

治療のゴール:「臨床的寛解」の重要性

現在の関節リウマチ治療のゴールは、単に痛みを和らげることではありません。病気の活動性がほとんどなく、関節の破壊が進行しない状態、すなわち「臨床的寛解(かんかい)」を目指します。寛解を達成し、それを維持することで、将来的な関節の変形を防ぎ、健常者と変わらない生活を送ることが可能になります。この目標達成のためには、患者と医師が協力して治療を進める「協働的意思決定(Shared Decision-Making)」が不可欠です24

薬物療法の柱:MTX、生物学的製剤、JAK阻害薬

治療の中心は薬物療法であり、その柱となるのが以下の薬剤です3

  • メトトレキサート(MTX): 関節リウマチ治療のアンカードラッグ(中心的な薬剤)です。免疫の異常な働きを抑え、病気の進行をコントロールします。
  • 生物学的製剤: 炎症を引き起こす特定の物質(サイトカインなど)の働きをピンポイントでブロックする薬剤です。高い効果が期待でき、多くの患者さんを寛解に導いています。東京大学医学部附属病院17や聖路加国際病院1819などの先進的施設で積極的に用いられています。
  • JAK阻害薬(ヤヌスキナーゼ阻害薬): 細胞内の炎症シグナルを伝えるJAKという酵素の働きを阻害する内服薬です。生物学的製剤と同等の高い効果が報告されています。

Part 4: 【痛風】尿酸結晶が引き起こす激痛発作

痛風(Gout)は、血液中の尿酸値が高い状態(高尿酸血症)が続くことで、尿酸が結晶となって関節内に沈着し、突然激しい炎症を引き起こす病気です。「風が吹いても痛い」と表現されるほどの激痛発作が特徴で、主に中高年の男性に多く見られます。

診断と治療目標:血清尿酸値6.0mg/dL以下

診断は、特徴的な症状に加えて、血液検査で血清尿酸値を確認することで行われます。日本痛風・尿酸核酸学会の「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」では、痛風発作を繰り返さないための治療目標として、血清尿酸値を6.0mg/dL以下にコントロールすることが明確に定められています78。この目標を達成し維持することが、新たな発作の予防と、関節破壊や腎障害などの合併症を防ぐ上で極めて重要です。

治療法:薬物療法と生活指導

治療は、痛風発作を抑える治療と、尿酸値を下げる治療の二本立てで行われます7

  • 発作時の治療: 激しい痛みと炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やコルヒチン、ステロイドなどが用いられます。
  • 尿酸値を下げる治療: 発作が治まった後に、尿酸の生成を抑える薬や、尿酸の排泄を促す薬を開始します。自己判断で中断せず、継続的に服用することが大切です。
  • 生活指導: 薬物療法と並行して、食事療法や飲酒制限、適度な運動などの生活習慣の改善が重要です。

食事療法:プリン体に関する正しい知識

かつては厳しいプリン体制限が強調されていましたが、食事から摂取されるプリン体が体内で作られるプリン体全体に占める割合は限定的であることがわかってきました。ガイドラインでは、極端な制限よりも、高カロリー食や肉類・魚介類に偏った食事を避け、バランスの良い食事を心がけることが推奨されています7。特にレバー類や魚の干物、白子などはプリン体を多く含むため、過剰な摂取は避けるべきです。

アルコールとの賢い付き合い方

アルコール飲料、特にビールはプリン体を多く含むだけでなく、アルコール自体が体内で尿酸を産生し、排泄を妨げる作用があります。アルコールの種類にかかわらず、飲酒量が多いほど痛風のリスクが高まるため、節酒を心がけることが重要です。


Part 5: その他の重要な関節炎

変形性関節症、関節リウマチ、痛風以外にも、注意すべき関節炎が存在します。

【乾癬性関節炎】皮膚の病気「乾癬」と関連

乾癬性関節炎(Psoriatic Arthritis: PsA)は、皮膚に銀白色の鱗屑(りんせつ)を伴う赤い発疹ができる「乾癬」という病気を持つ患者さんの一部に発症する関節炎です。日本皮膚科学会のガイドラインによると、関節リウマチと症状が似ている場合もありますが、指がソーセージのように全体的に腫れたり(指趾炎)、爪に乾癬の変化が見られたり、アキレス腱の付け根が痛んだりするなどの特徴があります910。皮膚科とリウマチ科の連携による診断と治療が重要です。

【感染性関節炎】緊急治療が必要な細菌感染

感染性関節炎(Septic Arthritis)は、関節の中に細菌が侵入して急激な化膿性の炎症を起こす病気です。通常、一つの関節(特に膝関節)が急に赤く腫れ上がり、激しい痛みと高熱を伴います。これは緊急を要する状態で、診断が遅れると数日で関節が破壊されてしまうため、迅速な診断と、抗生物質の投与や関節の洗浄といった治療が必要です。

【若年性特発性関節炎】16歳未満の子供に発症

若年性特発性関節炎(Juvenile Idiopathic Arthritis: JIA)は、16歳未満の子供に原因不明の関節炎が6週間以上続く病気の総称です。日本リウマチ学会および日本小児リウマチ学会のガイドラインでは、病型がいくつかに分類されており、発熱や皮疹を伴う全身型や、少数の関節だけが腫れる少関節型などがあります1112。子供の成長や発達に影響を与えるため、小児リウマチ専門医による早期の診断と適切な治療が不可欠です。


Part 6: 日本の生活に根差した補完的アプローチと注意点

診療ガイドラインに基づく標準治療が基本ですが、生活の質を高めるための補完的なアプローチについても、科学的根拠に基づいて正しく理解することが大切です。

温泉療法の科学的根拠と正しい利用法

温泉療法は、日本の文化に深く根付いており、関節痛の緩和に利用されてきました。浜松医療センターなどの医療機関もその効果について言及しており、その科学的根拠は主に以下の3点です22

  1. 温熱効果: 体を温めることで血行が促進され、筋肉のこわばりが和らぎ、痛みの原因物質の排出が促されます。
  2. 浮力効果: 水中では浮力によって体重が軽くなり、関節への負担が大幅に軽減されるため、リラックスして動かすことができます。
  3. 泉質の効果: 泉質によっては、硫黄泉や塩化物泉などに含まれる成分が皮膚から浸透し、抗炎症作用や鎮痛作用を示す可能性が指摘されています。

重要な注意喚起: 温泉療法は、あくまで慢性期の症状緩和を目的とした補完療法です。関節リウマチの活動性を抑える根本治療や、診療ガイドラインに基づく薬物療法の代替には決してなりません。また、関節の炎症が強い急性期や発熱時には症状を悪化させる可能性があるため禁忌(避けるべき)です2223。必ず主治医に相談の上で行ってください。

広く信じられているサプリメントに関する専門家の見解

グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントは、関節に良いというイメージで広く販売されています。しかし、国内外の多くの大規模な臨床研究において、これらのサプリメントが変形性関節症の痛みを改善したり、軟骨の減少を防いだりするという明確で質の高い科学的根拠は示されていません6。日本整形外科学会の診療ガイドラインでも、これらのサプリメントの使用は推奨されていません5。健康食品に頼るのではなく、効果が科学的に証明されている運動療法や適切な体重管理に取り組むことが、より確実な対策と言えます。


よくある質問

Q1: 関節リウマチは遺伝しますか?

関節リウマチは、単一の遺伝子で決まる遺伝病ではありません。しかし、特定の遺伝的素因(体質)を持つ人が、喫煙や歯周病などの環境要因にさらされることで発症しやすくなる「多因子疾患」と考えられています。家族に関節リウマチの患者さんがいる場合、いない人と比べて発症する可能性がやや高くなることは知られていますが、必ずしも遺伝するわけではありません。過度に心配する必要はありませんが、特徴的な症状(朝のこわばりなど)が見られた場合は、早めに専門医に相談することが推奨されます3

Q2: 関節が痛い場合、何科を受診すればよいですか?

これは非常に重要な質問です。一般的に、怪我や加齢による関節の痛みであれば、まず整形外科を受診するのが適切です。整形外科は、骨、関節、筋肉、神経など運動器全般の専門家です。しかし、以下のような症状がある場合は、自己免疫疾患の可能性を考慮し、リウマチ科(またはリウマチ・膠原病科)の受診を強くお勧めします。

  • 1時間以上続く朝のこわばり
  • 複数の関節(特に手足の小さな関節)が左右対称に腫れて痛む
  • 原因不明の微熱や倦怠感が続く

リウマチ科は、関節リウマチをはじめとする自己免疫疾患の診断と薬物療法を専門としています。NTT東日本関東病院のように、チーム医療を重視する施設も多くあります2021。適切な専門医を早期に受診することが、将来の関節機能の維持に直結します。


結論

関節の痛みは、決して「年のせい」の一言で片付けられる単純な問題ではありません。その背後には、変形性関節症、関節リウマチ、痛風といった、それぞれに全く異なる原因と治療法を持つ病気が存在します。最も重要なことは、正確な診断に基づいた早期治療を開始することです。特に、関節破壊が進行する関節リウマチにおいては、治療の開始時期が予後を大きく左右します。本記事で提供した、信頼できる診療ガイドラインに基づく情報を活用し、ご自身の症状を客観的に見つめ直してみてください。そして、不安や疑問があれば、ためらわずに専門医の扉を叩いてください。医師と患者がパートナーとして協力し、治療目標を共有する「協働的意思決定」こそが、痛みを克服し、あなたらしい活動的な未来を取り戻すための最も確実な道筋です24

免責事項本記事は、医学的知識の普及と情報提供を目的としており、専門的な医学的アドバイスを提供するものではありません。健康上の問題や治療に関する決定については、必ず資格を有する医療専門家にご相談ください。

参考文献

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