ステージIV肺がんの生存率と最新治療:希望をもたらす分子標的薬と免疫療法
がん・腫瘍疾患

ステージIV肺がんの生存率と最新治療:希望をもたらす分子標的薬と免疫療法

ステージIV(ステージ4)の肺がんと診断されることは、患者様とそのご家族にとって、計り知れないほどの衝撃と不安をもたらします。しかし、この10年で肺がん治療は劇的な進歩を遂げました。かつて「末期」という言葉が想起させた絶望的な状況は、分子標的薬や免疫療法といった革新的な治療法の登場により、大きく変わりつつあります。国立がん研究センターが公表する5年相対生存率は、あくまで過去のデータ全体の平均値であり、最新の個別化医療を受けた特定の患者様の状況を正確に反映しているわけではありません12。本記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、米国臨床腫瘍学会(ASCO)や日本肺癌学会などの最新の科学的根拠に基づき、ステージIV肺がんの正確な知識、最新の治療選択肢、そして希望を見出すための具体的な情報を包括的に解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性を含むリストです。

  • 米国臨床腫瘍学会(ASCO): 本記事におけるドライバー遺伝子変異陽性および陰性の非小細胞肺がんに対する治療推奨は、ASCOが発行する最新の診療ガイドラインに基づいています。これは国際的な治療の標準です34
  • 日本肺癌学会: 日本国内における治療の標準と、ASCOガイドラインの日本人の文脈への適用に関する記述は、同学会が発行する最新の「肺癌診療ガイドライン」を根拠としています5
  • 国立がん研究センター: 日本における肺がんの罹患率、生存率、および各種統計データに関する記述は、同センターが公表する公式データに基づいています1
  • 日本緩和医療学会(JSPM): 症状緩和と生活の質(QOL)向上に関する緩和ケアの記述は、同学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」を重要な参照情報としています6

要点まとめ

  • ステージIV肺がんは、がんが体の他の部位に転移した状態を指しますが、もはや「末期」と一括りにされる病気ではありません。
  • 治療方針の決定には、がん細胞の遺伝子情報(EGFR、ALK、PD-L1など)を調べる検査が不可欠であり、これが個別化医療の鍵となります。
  • 特定の遺伝子変異(ドライバー遺伝子変異)が見つかった場合、分子標的薬が著しい効果を示し、長期生存も可能になってきています。
  • ドライバー遺伝子変異がない場合でも、免疫チェックポイント阻害薬が治療の中心となり、多くの患者様の予後を改善しています。
  • 緩和ケアは終末期だけでなく、診断初期から治療と並行して行われるべきものであり、生活の質(QOL)を維持するために極めて重要です。

ステージIV(4)肺がんとは?正確な理解が第一歩

ステージIVの肺がんは、がんが最初に発生した肺から、もう一方の肺、あるいは脳、骨、肝臓、副腎といった他の臓器へ転移した状態を指します78。この段階では、手術でがんを完全に取り除くことは困難なため、薬物療法が治療の中心となります。肺がんには大きく分けて「非小細胞肺がん(NSCLC)」と「小細胞肺がん(SCLC)」の2つの組織型があり、ステージIVの患者様の約85%は非小細胞肺がんに分類されます。両者は性質や薬への反応性が異なるため、治療法も大きく異なります。本記事では主に、患者数の多い非小細胞肺がんの治療について詳しく解説します。


診断と【最重要】遺伝子検査:治療方針を決める鍵

ステージIV肺がんの診断後、最初に行われるべき最も重要なステップが、がん細胞の遺伝子情報を詳細に調べることです。これは「バイオマーカー検査」とも呼ばれ、最適な治療法を選択するための羅針盤となります。ASCO9および日本肺癌学会5のガイドラインでは、全ての進行非小細胞肺がん患者に対し、包括的ゲノムプロファイリング検査(網羅的遺伝子検査)の実施を強く推奨しています。

この検査により、以下のような治療薬の選択に直結する重要な情報が明らかになります。

  • ドライバー遺伝子変異の有無: がんの増殖の「運転手(ドライバー)」となっている特定の遺伝子変異(EGFR, ALK, ROS1, BRAFなど)の有無。
  • PD-L1の発現レベル: 免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するための指標。

これらの情報に基づき、一人ひとりの患者様に最も効果が期待できる「個別化医療」または「プレシジョン・メディシン(精密医療)」が実践されます。


治療戦略の分岐点:ドライバー遺伝子変異の有無

遺伝子検査の結果、治療の道筋は大きく二つに分かれます。これは、本記事を理解する上で最も重要な分岐点です。

  1. A. ドライバー遺伝子変異が【陽性】の場合:特定の遺伝子変異を標的とする「分子標的薬」が治療の中心となります。
  2. B. ドライバー遺伝子変異が【陰性】の場合:患者自身の免疫力を利用してがんと戦う「免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)」が治療の中心となります。

以下では、それぞれの道筋について、最新の科学的根拠に基づき詳しく解説します。


A. ドライバー遺伝子変異【陽性】の場合の薬物療法

特定のドライバー遺伝子変異を持つ患者様には、その変異を持つがん細胞だけを狙い撃ちする分子標的薬が第一選択となります。これらの薬剤は、従来の化学療法(抗がん剤)と比較して、より高い治療効果と少ない副作用が期待できます4

EGFR遺伝子変異陽性の場合

主要な治療薬: オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)10

解説: EGFR遺伝子変異は、日本人を含むアジア人の非小細胞肺がん患者で比較的多く見られます。ASCOガイドラインでは、一般的なEGFR変異(エクソン19欠失またはL858R変異)に対して、第3世代のEGFR阻害薬であるオシメルチニブを第一選択薬として強く推奨しています(推奨1.1)4。イレッサ(ゲフィチニブ)も過去に使用されていましたが、現在ではオシメルチニブが標準治療と位置づけられています。

ALK融合遺伝子陽性の場合

主要な治療薬: アレクチニブ(商品名:アレセンサ)10

解説: ALK融合遺伝子は、比較的若い非喫煙者の肺腺がん患者に見られることがあります。この遺伝子変異に対しては、次世代のALK阻害薬であるアレクチニブが第一選択となります。ASCOガイドラインでも、アレクチニブの使用が強く推奨されています(推奨1.6)4

その他の遺伝子変異(ROS1, BRAF V600Eなど)

上記のほかにも、ROS1、BRAF、MET、RET、NTRKといった様々なドライバー遺伝子変異が知られており、それぞれに対応する分子標的薬が開発・承認されています。例えば、BRAF V600E変異にはダブラフェニブとトラメチニブの併用療法が、ROS1融合遺伝子にはエヌトレクチニブやクリゾチニブが用いられます4。どの変異にどの薬が最適かは、専門医が最新のガイドラインと患者様の状態を基に判断します。


B. ドライバー遺伝子変異【陰性】の場合の薬物療法

標的となるドライバー遺伝子変異が見つからない場合、治療の中心は免疫療法に移ります。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞(T細胞)にかけているブレーキを解除し、患者様自身の免疫システムががんを攻撃できるようにする薬剤です。治療法の選択は、がん細胞の表面にある「PD-L1」というタンパク質の発現率(TPS: Tumor Proportion Score)と、がんの組織型(扁平上皮がんか、非扁平上皮がんか)によって決まります311

PD-L1高発現(TPS≧50%)の場合

主要な治療法: ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)単剤療法

解説: がん細胞の半数以上でPD-L1が強く発現している場合、免疫チェックポイント阻害薬単独でも高い効果が期待できます。ASCOガイドラインは、この集団に対してペムブロリズマブ単剤療法を第一選択肢の一つとして推奨しています(非扁平上皮がん:推奨1.1、扁平上皮がん:推奨3.1)11

PD-L1低発現(TPS 1-49%)の場合

主要な治療法: 免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法

解説: PD-L1の発現が中程度の場合、免疫療法の効果を高めるために化学療法との併用が標準治療となります。例えば、非扁平上皮がんであれば、ペムブロリズマブとペメトレキセド+プラチナ製剤の併用などが選択されます(推奨1.7)11

PD-L1陰性(TPS<1%)の場合

主要な治療法: 免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用、または免疫薬2剤併用

解説: PD-L1が発現していない場合でも、免疫療法が選択肢から外れるわけではありません。化学療法との併用や、異なる作用を持つ2種類の免疫チェックポイント阻害薬(例:イピリムマブとニボルマブ)の併用が有効な場合があります(推奨2.3-2.7)11


症状緩和とQOL向上のための緩和ケア(Palliative Care)

多くの方が「緩和ケア」を「終末期医療」や「治療を諦めた人が受けるもの」と誤解していますが、これは大きな間違いです。世界保健機関(WHO)や英国国民保健サービス(NHS)12、そして米国のGetPalliativeCare.org13などの国際的な機関は、緩和ケアを「診断された初期段階から、がん治療と並行して行われるべきケア」と定義しています。

日本緩和医療学会(JSPM)のガイドライン614でも、緩和ケアの目的は、痛み、呼吸困難、倦怠感、吐き気といった身体的な苦痛や、不安、抑うつといった精神的な苦痛を和らげ、患者様とそのご家族の生活の質(QOL: Quality of Life)を可能な限り高く保つことにあるとされています。最新のがん治療を受けながら、同時に専門的な緩和ケアチームによるサポートを受けることは、より良い療養生活を送る上で不可欠です。


日本における患者支援と情報源

ステージIV肺がんとの闘いは、孤独である必要はありません。日本には、同じ病気と向き合う仲間や、信頼できる情報を提供し、様々な相談に乗ってくれる支援団体が数多く存在します。情報を得て、他の人と繋がることは、治療の道のりにおいて大きな力となります。

  • 一般社団法人全国がん患者団体連合会(全がん連): 日本全国のがん患者団体が加盟する組織で、政策提言や情報提供活動を行っています。信頼できる情報の入り口として非常に重要です1516
  • 地域のがん患者会: 各都道府県には、肺がんを含む様々ながん種の患者会やサロンが存在します。同じ経験を持つ人々と直接話すことで、医療情報だけでは得られない知恵や精神的な支えを得ることができます1718
  • 公益財団法人日本対がん協会: がんに関する無料の電話相談窓口などを設けており、専門の相談員が悩みや疑問に答えてくれます19

これらのリソースを活用し、医療チームだけでなく、社会的なサポートネットワークも積極的に利用することが推奨されます。


よくある質問

質問1:ステージ4でも治る可能性はありますか?

現在の医療水準では、ステージIV肺がんを「完全に治癒させる(元の健康な状態に戻す)」ことは依然として非常に困難です。しかし、「治癒」という言葉の定義は重要です。分子標的薬や免疫療法が劇的に効果を発揮し、がんが画像検査で見えなくなる「完全寛解」状態に至り、それを長期間維持される患者様も少数ながらいらっしゃいます20。治療の目標は、必ずしも「治癒」だけではありません。がんと共存しながら、症状をコントロールし、自分らしい生活をできるだけ長く続ける「長期生存」を目指すことが、現代のステージIV肺がん治療における現実的かつ重要な目標となっています。

質問2:治療の副作用はどのように管理できますか?

全ての薬物療法には副作用の可能性がありますが、その管理方法も大きく進歩しています。分子標的薬では皮疹や下痢、免疫療法では甲状腺機能の異常や大腸炎など、薬剤ごとに特有の副作用があります。重要なのは、どのような小さな変化でも早期に医療チーム(医師、看護師、薬剤師)に報告することです。国立がん研究センターのがん情報サービスなどでは、吐き気の予防、口内炎のケア、倦怠感への対処法など、実践的な情報が提供されています2122。副作用を適切に管理することで、治療を継続し、生活の質を維持することが可能になります。


結論

ステージIV肺がんの治療は、遺伝子検査に基づく個別化医療の時代を迎え、過去数年間で飛躍的な進歩を遂げました。ドライバー遺伝子変異の有無に応じて最適な分子標的薬や免疫療法を選択することで、多くの患者様がより長く、より質の高い生活を送れるようになっています。重要なのは、正確な情報に基づいてご自身の病状を理解し、緩和ケアを含めた包括的な治療について医療チームとオープンに話し合うことです。この記事で提供した情報が、患者様とご家族が希望を持って、ご自身にとって最善の治療の道筋を見出すための一助となることを心から願っています。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス. 肺:[国立がん研究センター がん統計]. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/12_lung.html
  2. おしえて がんのコト. 肺がん患者数の年次推移、生存率、死亡率の統計データ. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://oshiete-gan.jp/lung/about/statistic/
  3. Leighl NB, et al. Therapy for Stage IV Non–Small Cell Lung Cancer Without Driver Alterations: ASCO Living Guideline, Version 2025.1. J Clin Oncol. 2025. doi:10.1200/JCO-25-01062. Available from: https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO-25-01062
  4. Kalemkerian GP, et al. Therapy for Stage IV Non–Small Cell Lung Cancer With Driver Alterations: ASCO Living Guideline, Version 2024.3. J Clin Oncol. 2024. doi:10.1200/JCO-24-02785. Available from: https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO-24-02785
  5. 日本肺癌学会. 肺癌診療ガイドライン2024年版. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://www.haigan.gr.jp/publication/guideline/examination/2024/
  6. 日本緩和医療学会. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版). [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://www.jspm.ne.jp/publication/guidelines/individual.html?entry_id=85
  7. National Cancer Institute. Non-Small Cell Lung Cancer Treatment (PDQ®)–Health Professional Version. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://www.cancer.gov/types/lung/hp/non-small-cell-lung-treatment-pdq
  8. 国立がん研究センター がん情報サービス. 肺がんについて. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/about.html
  9. The ASCO Post. ASCO Issues Updated Guidelines for Stage IV NSCLC With and Without Driver Alterations. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://ascopost.com/issues/may-25-2024/asco-issues-updated-guidelines-for-stage-iv-nsclc-with-and-without-driver-alterations/
  10. Cancer Heart Support. 肺がんのステージ4でも楽に余命を伸ばす!今すぐ効果がある治療…. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://cancer-heartsupport.com/lung-cancer-stage4-colum/
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  19. 公益財団法人日本対がん協会. がん患者・家族の支援. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://www.jcancer.jp/consultion_and_support
  20. がん治療の専門家あんしん相談室. 余命1ヶ月・肺がん末期の宣告を受けたら? ステージ4患者が知って…. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://gan911.com/blog/lung-cancer-life-expectancy/
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  22. 国立がん研究センター がん情報サービス. 肺がん 小細胞肺がん 治療. [インターネット]. [2025年7月22日引用]. Available from: https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_sclc.html
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