この記事の信頼性について (Why trust this article?)
この記事は、正確性と信頼性を最優先に作成されています。主要な医学的記述は、日本の主要な学会(日本泌尿器科学会、日本生殖医学会など)の診療ガイドラインや、厚生労働省、国立感染症研究所などの公的機関が発表する最新のデータに基づいています。また、国際的な基準として欧米の主要な学会ガイドラインも参照しています。AI技術を活用して最新の研究論文やデータを網羅的に収集・整理し、最終的な内容はすべて人間の専門家(医師および編集者)が検証・校閲(human-verified)しています。
更新日: 2025年10月03日 – PDE5阻害薬の保険適用条件(MHLW 2022)および梅毒の2025年第1四半期報告(NIID)を反映。
この記事の要点まとめ
- 男性の生殖器は、体外から見える外部生殖器(陰茎、陰嚢)と体内の内部生殖器(精巣、精巣上体、精管など)で構成され、それぞれが排尿、性機能、そして生殖において極めて重要な役割を担っています。(1)
- 勃起不全(ED)、男性不妊症、性感染症(STI)、前立腺の疾患は、多くの男性が経験しうる一般的な健康問題ですが、その大半は適切な診断と治療によって管理または改善が可能です。(7)(17)
- 特に梅毒は、日本国内で2024年から2025年にかけても依然として高い水準で報告が続いており、予防と早期発見が極めて重要視されています。(24) 全国の保健所などが提供する公的な相談窓口や無料・匿名検査を積極的に活用することが強く推奨されます。(11)
- 食事、運動、睡眠、喫煙、飲酒といった日々の生活習慣や精神的ストレスは、性機能や妊よう性(妊娠させる力)に直接的な影響を及ぼします。毎日のセルフケアが、生涯にわたる生殖器の健康を維持するための鍵となります。(16)
- もし気になる症状があれば、決して一人で悩まず、泌尿器科をはじめとする専門医に相談することが、問題解決への最も確実で安全な道です。この記事は、そのための準備と後押しを提供することを目的としています。
第1部:基本の知識 – 男性の生殖器の構造と機能
私たちの身体を深く、そして正しく知ることは、効果的な健康管理の基礎となります。このセクションでは、男性の生殖器を構成する各器官の解剖学的な構造と、それぞれが担っている精巧な機能について、最新の医学的知見に基づきながら詳しく解説していきます。(1)

1.1 外部生殖器
体外から直接確認できる器官であり、主として排尿と性交に関連する重要な役割を担っています。
陰茎 (Penis)
- 構造: 陰茎は、先端の膨らんだ部分である亀頭(きとう)と、それに続く陰茎体(いんけいたい)から成り立っています。その内部には、スポンジのような特殊な組織でできた3本の柱状の構造体が存在します。背側にある2本が「陰茎海綿体」、そして腹側にあって尿道を取り囲むように位置する1本が「尿道海綿体」です。これらの海綿体組織こそが、勃起という生理現象において中心的な役割を果たします。(4)
- 機能: 陰茎は、二つの主要な生理機能を持ちます。一つ目は体内の尿を外部へ排出する「排尿」の通路としての役割、そして二つ目は精液を体外に放出するための「射精」の通路としての役割です。性的興奮が高まると、脳からの指令により陰茎海綿体内に大量の血液が急速に流れ込み、組織が血液で満たされることで硬く、そして大きくなります。これが「勃起」の血流力学的なメカニズムです。この変化によって、性交が可能となるのです。(1)
陰嚢 (Scrotum)
- 構造と機能: 陰嚢は、陰茎の基部の下に位置する袋状の皮膚組織であり、その内部に精巣(一般に睾丸とも呼ばれます)を保護し、収めています。陰嚢が持つ最も重要な機能は、精密な「温度調節」機能です。精子を正常に産生するためには、精巣の温度が深部体温よりも約2〜3度低く保たれる必要があります。(1) 陰嚢の皮膚は、周囲の温度に応じて伸び縮みすることで精巣と体との距離を自動的に調節し、常に精子産生に最適な温度環境を維持するという、非常に重要な役割を担っています。
1.2 内部生殖器
体内に位置しており、主に精子の産生、成熟、輸送、そして精液の生成という一連のプロセスに深く関与しています。
精巣 (Testes)
- 機能: 精巣は、男性の生殖機能における「製造工場」ともいえる中心的な器官です。その機能は大きく二つに分けられます。第一に、毎日数千万から数億個という膨大な数の精子を継続的に産生すること(精子形成)。第二に、主要な男性ホルモンである「テストステロン」を合成し、血中に分泌することです。テストステロンは、思春期における第二次性徴の発現、筋肉や骨格の発達、性欲の維持など、男性の心身の健康を生涯にわたって支える不可欠なホルモンです。(1)
精巣上体、精管、射精管 (Epididymis, Vas Deferens, Ejaculatory Duct)
- 機能: これらは精子の「成熟と輸送」を担う、一連の連続した管状の器官です。精巣で作られたばかりの未熟な精子は、精巣の後ろに密着するように位置する「精巣上体」(約6メートルもの長さになる管が複雑に折り畳まれた器官)へと送られます。ここで約10日間かけて成熟し、前に進むための運動能力を獲得します。成熟した精子は、筋肉でできた丈夫な管である「精管」を通り、最終的に「射精管」へと輸送され、射精の瞬間を待ちます。(1)
付属腺:精嚢と前立腺 (Accessory Glands: Seminal Vesicles and Prostate)
- 機能: 一般に精液として知られる液体は、精子だけで構成されているわけではありません。その液体成分の大部分は、付属腺である「精嚢(せいのう)」と「前立腺」から分泌される分泌液です。精嚢は、精子の主要なエネルギー源となる果糖(フルクトース)を豊富に含むアルカリ性の液体を分泌します。前立腺もまた、クエン酸などを含む乳白色の液体を分泌し、精子を外部の環境から保護し、その運動を助ける役割を果たします。これらの分泌液が精子と混ざり合うことで、女性の体内で精子が生存し、卵子へと到達するための乗り物となる「精液」が完成するのです。(1)
尿道 (Urethra)
- 機能: 尿道は、膀胱から亀頭の先端(外尿道口)まで続く一本の管であり、尿と精液の両方が通過する「共通の通路」として二重の役割を担っています。通常時は尿を体外へ排出するルートとして機能しますが、射精時には膀胱の出口(内尿道括約筋)が自動的に収縮して閉じることで尿の流出を防ぎ、精液のみが効率的に射出されるという、非常に精巧な切り替えメカニズムが備わっています。(3)
第2部:よくある健康問題とその対策
男性生殖器に関連する健康上の問題は、年齢を問わず多くの男性が経験しうる身近なものです。この部では、代表的な疾患について、その原因から最新の治療選択肢までを、日本の医療事情も踏まえながら具体的に解説します。
2.1 勃起不全 (ED – Erectile Dysfunction)
Key Takeaway: EDは治療可能な医学的状態であり、多くの場合、心血管系疾患など全身の健康問題の初期サインでもあります。決して放置せず、専門医に相談することが極めて重要です。
EDとは何か?:定義とセルフチェック
日本性機能学会および日本泌尿器科学会が策定したガイドラインでは、EDは「満足な性行為を行うのに十分な勃起を得られないか、または維持できない状態が、持続または再発すること」と明確に定義されています。(17) これは、単に「全く勃起しない」状態だけを指すのではなく、「勃起はするが硬さが不十分である」「性行為の途中で萎えてしまう」といった状態も含まれます。国際的に広く用いられているSHIM(Sexual Health Inventory for Men)などの質問票形式のセルフチェックツールを用いて、ご自身の状態を客観的に確認することも可能です。
主な原因:身体的なものから心理的なものまで
EDを引き起こす原因は非常に多岐にわたります。加齢に伴う生理的な変化のほか、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病による血管(動脈硬化)や神経の障害が、最も一般的な身体的原因となります。(17) また、うつ病や不安障害、仕事上のプレッシャーやパートナーとの関係性といった心理的なストレス、さらには喫煙や過度の飲酒といったライフスタイルも深く関与しています。実際には、単一の原因ではなく、これらの複数の要因が複雑に絡み合って発症しているケースが少なくありません。
治療法の選択肢:日本で承認されている治療
現在の日本におけるED治療の第一選択肢は、PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬と呼ばれる経口薬です。(17) これらの薬は、性的刺激があった際に、陰茎海綿体への血流を増加させることで、勃起をサポートする働きをします。日本で承認され、広く処方されている主な薬剤には以下のものがあります。
一般名(商品名) | 効果発現時間 | 持続時間 | 食事の影響 |
---|---|---|---|
シルデナフィル(バイアグラ) | 約30分~1時間 | 約4時間 | 受けやすい(空腹時推奨) |
バルデナフィル(レビトラ) | 約15分~30分 | 約5~8時間 | やや受けやすい |
タダラフィル(シアリス) | 約1~3時間 | 最大36時間 | 受けにくい |
これらの薬剤は医師による処方が必要であり、心臓病などで特定の薬(硝酸薬など)を服用している場合には禁忌となることがあります。また、特筆すべき点として、2024年版の男性不妊症診療ガイドラインに沿い、特定の条件下(タイミング法を用いる不妊治療など)では、これらのPDE5阻害薬の一部が保険適用の対象となる場合があります。(7) ただし、保険適用には「タイミング法指導を受けていること」「1周期あたり4錠まで」「継続期間の目安は約6か月」「6か月以内の不妊治療管理料の算定」「投与医師の要件」など、厚生労働省が定めた厳格な条件を満たす必要があります。(22) その他、欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインなどでは、真空勃起補助具や、陰茎の血管新生を促す可能性がある低強度衝撃波治療(Li-ESWT)なども選択肢として挙げられています。(16)(20)
2.2 男性不妊症 (Male Infertility)
不妊症の定義と男性側の要因
不妊症とは、避妊をせずに定期的な性交渉を1年間継続しても妊娠に至らない状態と定義されます。不妊の原因は女性側、男性側、あるいはその双方にある場合があり、世界保健機関(WHO)の大規模な調査では、原因が男性のみにあるケースが約24%、男女両方にあるケースが約24%と報告されています。これは、男性側の要因が不妊カップルの約半数に関与していることを示しており、決して稀なことではありません。米国泌尿器科学会(AUA)や欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでも同様に、不妊カップルの半数近くに何らかの男性因子が関与していると指摘されています。(15)(16)
精液検査で何がわかるのか?
男性不妊を調べるための基本的な検査は「精液検査」です。この検査では、採取した精液の量、精子の濃度(1mlあたりの数)、運動率(元気に動いている精子の割合)、そして形態(正常な形をしている精子の割合)などを顕微鏡で詳細に調べます。WHOが定める基準値と比較して精子の状態を評価しますが、これはあくまで一つの目安です。日本泌尿器科学会(JUA)やAUAのガイドラインでは、検査結果の数値だけでなく、患者の全体的な健康状態や既往歴、生活習慣などを総合的に考慮して診断することの重要性が強調されています。(7)(15)
原因と最新の治療法(2024年版ガイドラインより)
男性不妊の主な原因には、精巣内で精子をうまく作れない「造精機能障害」、そして精子の通り道(精路)が詰まっている「精路通過障害」などがあります。代表的な原因疾患として、陰嚢内の静脈がこぶ状に膨らんでしまう「精索静脈瘤」や、射出された精液中に精子が全く見られない「無精子症」(精路が閉塞している閉塞性と、精巣での産生が極端に少ない非閉塞性がある)などが挙げられます。(7)
治療法は原因によって大きく異なります。2024年に改訂されたJUA男性不妊症診療ガイドラインでは、最新の科学的知見に基づいた治療法が体系的に示されています。例えば、精索静脈瘤に対しては、妊よう性への影響が考えられる場合に顕微鏡下での手術が推奨されることがあります。また、非閉塞性無精子症の患者に対しては、手術用顕微鏡を用いて精巣組織の中からわずかに存在する精子を丁寧に見つけ出して採取する「顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)」といった高度な生殖補助医療(ART)も行われています。(7) 内分泌系のホルモン異常などに対しては、薬物療法が選択されることもあります。
2.3 性感染症 (STIs – Sexually Transmitted Infections)
日本で注意すべき主な性感染症
日本国内において特に注意が必要な主な性感染症(STI)には、クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、そして近年、特に増加が著しい梅毒などが含まれます。(12) これらの感染症は、性器周辺の不快な症状を引き起こすだけでなく、放置すると男女ともに不妊症の深刻な原因となったり、他の臓器に合併症を引き起こす可能性があるため、正しい知識に基づく予防と、早期の発見・治療が不可欠です。
【緊急レポート】日本の梅毒感染者数の急増とその意味
厚生労働省(MHLW)および国立感染症研究所(NIID)が発表している最新の感染症発生動向調査データによると、日本の梅毒の年間報告数は2010年頃から顕著な増加傾向に転じ、特にここ数年で急増しています。(10)(21) 2023年には過去最多を更新し、2024年から2025年にかけても引き続き高い水準で推移しており、公衆衛生上の深刻な問題となっています。(24) 特に若年層の女性や、幅広い年代の男性での増加が目立ちます。梅毒は、初期段階では症状が軽かったり、自然に消えたりすることがあるため、感染に気づかないまま他人にうつしてしまう「サイレント・スプレッダー」になりやすいという危険性をはらんでいます。この感染拡大は、日本の公衆衛生における重大な警告であり、性的な活動を行う全ての人々が自分自身の問題として真剣に捉える必要があります。
予防、検査、治療の基本
STIから身を守るための基本原則は、予防、検査、そして治療の3つです。
- 予防: 最も確実で効果的な予防法は、性行為の最初から最後まで、コンドームを正しく使用することです。特定のパートナー間であっても、感染のリスクがゼロではないことを理解しておく必要があります。
- 検査: 不安な行為があった場合や、少しでも気になる症状(かゆみ、発疹、痛み、分泌物など)がある場合は、決してためらわずに検査を受けることが極めて重要です。全国の多くの保健所では、無料かつ匿名でSTI(特に梅毒やHIV)の検査を受けることができます。(11) これは国や自治体が提供している重要な公的サービスであり、積極的に活用すべきです。
- 治療: 多くのSTIは、早期に発見しさえすれば、抗生物質などの薬物療法で治療が可能です。もしパートナーがいる場合は、必ず一緒に検査を受け、必要であれば同時に治療を開始する必要があります。片方だけが治療しても、再び感染させ合う「ピンポン感染」を繰り返し、完治が難しくなってしまいます。
2.4 前立腺のトラブル (Prostate Issues)
前立腺肥大症 (BPH) と前立腺がん
前立腺は、男性特有の臓器であり、加齢とともに変化しやすいという特徴があります。前立腺肥大症(BPH)は、前立腺の組織が良性に増殖・肥大し、内部を通る尿道を圧迫することで「尿の勢いが弱い」「頻尿」「残尿感」といった様々な排尿症状を引き起こす疾患です。一方で、前立腺がんは、前立腺の細胞が悪性に増殖する病気であり、特に初期の段階では自覚症状がほとんどないことが特徴です。この二つは全く異なる病気ですが、中高年の男性では併発することも少なくありません。
前立腺がん検診(PSA検査)について知っておくべきこと
前立腺がんの早期発見に非常に有効なのが、少量の血液を採取して測定するPSA(Prostate-Specific Antigen; 前立腺特異抗原)検査です。PSA値が高い場合、前立腺がんの可能性が疑われます。しかし、日本では、国が推奨する対策型検診(胃がん、大腸がん検診など)としては、PSA検査は推奨されていません。任意型検診として個人が希望して受けることは可能ですが、その際には利益(早期発見)と不利益(過剰診断など)について医師から十分な説明を受け、理解した上で判断することが重要です。(23) PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎といった良性の疾患でも上昇することがあり、値が高いからといって必ずしもがんであるとは限りません。また、進行が非常にゆっくりで生命に直接影響を及ぼさない可能性のある「おとなしいがん」まで見つけてしまい、本来不要な治療につながる「過剰診断」のリスクも指摘されています。(14)

第3部:生涯を通じた健康維持とセルフケア
男性生殖器の健康は、遺伝的要因だけでなく、日々の生活習慣と極めて密接に結びついています。この最後の部では、生涯を通じて活力を維持し、トラブルを予防するための具体的なセルフケアの方法について解説します。
3.1 生活習慣が与える影響
食事、運動、睡眠、そして喫煙や飲酒といった日常的な習慣は、男性ホルモンであるテストステロンの値、精子の質、そして勃起機能に直接的な影響を及ぼすことが、数多くの研究で示されています。(16)
- 食事: 栄養バランスの取れた食事がすべての基本です。特に、抗酸化物質を豊富に含む色とりどりの野菜や果物、良質なタンパク質(魚、鶏肉、豆類)、そして青魚などに含まれるオメガ3脂肪酸の積極的な摂取が推奨されます。日本の伝統的な食事に含まれる大豆製品なども、全体的な健康維持に寄与する可能性があります。
- 運動: 週に3回以上、1回30分程度の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)は、全身の血流を改善し、EDの重要なリスク因子である動脈硬化の予防に繋がります。また、適度な筋力トレーニングは、テストステロン値を維持・向上させるのに役立ちます。
- 睡眠: 質の良い十分な睡眠は、体内のホルモンバランスを正常に保つ上で不可欠です。特にテストステロンは睡眠中に多く分泌されるため、慢性的な睡眠不足は性機能の低下に直結する可能性があります。
- 禁煙・節酒: 喫煙は血管を強力に収縮させ、血流を悪化させるため、EDの最も強力なリスク因子の一つです。過度のアルコール摂取もまた、テストステロンの産生を抑制し、神経の伝達機能を鈍らせるため、勃起機能や妊よう性に悪影響を及ぼします。
3.2 ストレス管理とメンタルヘルス
心と身体は、私たちが思う以上に密接につながっています。特に性機能は、心理的な状態に大きく左右される繊細なシステムです。仕事上のプレッシャー、人間関係の悩み、経済的な不安といった慢性的なストレスは、心因性のEDを引き起こす主要な原因の一つとなります。瞑想、ヨガ、音楽鑑賞、趣味の時間を持つなど、ご自身に合ったリラクゼーション法を見つけ、日々の心身の緊張を意識的に解きほぐすことが重要です。もしストレスが過大で、自分一人で対処するのが難しいと感じる場合は、カウンセリングなどの専門的な助けを求めることも非常に有効な選択肢です。
3.3 いつ、どの専門科を受診すべきか?
ご自身の身体から発せられるサインを見逃さず、適切なタイミングで専門家の助けを求めることは、健康を守る上で非常に重要です。
- 泌尿器科: 排尿に関する悩み(頻尿、残尿感、尿意切迫感など)、勃起に関する問題(ED)、陰嚢のしこりや痛み、不妊に関する相談など、男性生殖器に関連するほとんどの症状について、最初の相談窓口となる専門診療科です。
- 性感染症科・皮膚科: 性器のかゆみ、特徴的な発疹、痛み、尿道からの分泌物(膿など)といった、STIが強く疑われる症状がある場合の専門診療科です。
- 精神科・心療内科: ストレスや不安が主な原因と思われるED(心因性ED)の場合や、性に関する悩みが日常生活における大きな精神的負担となっている場合に、相談が推奨されます。
受診の目安と緊急時のサイン(Decision Frame)
以下の症状が見られる場合は、自己判断で様子を見ずに、速やかに医療機関を受診してください。特に「緊急性が高いサイン」は、救急外来の受診も検討すべきです。
- 【緊急性が高いサイン】突然の激しい精巣(陰嚢)の痛み: 精巣捻転の可能性があり、数時間以内の緊急手術が必要です。
- 【緊急性が高いサイン】陰嚢の腫れ・赤みと高熱: 精巣上体炎などの重い感染症の可能性があります。
- 【緊急性が高いサイン】全く尿が出せない(尿閉): 急性尿閉といい、緊急の処置が必要です。
- 【早めの受診を】肉眼でわかる血尿: 膀胱がんなど重篤な病気のサインである可能性があります。
- 【早めの受診を】EDに加えて、運動時に胸の痛みや圧迫感がある: 心臓の血管に問題が隠れている可能性があります。
日本には、地域の保健所のほか、性や生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ)を支援するNPOや公的な相談窓口も多数存在します。(6) これらの機関は、専門的かつプライバシーに配慮した情報提供や支援を行っており、どこに相談してよいか分からない場合の最初のステップとして非常に有用です。
よくある誤解と事実 (Myth vs. Fact)
誤解 (Myth) | 事実 (Fact) |
---|---|
EDは年を取れば仕方ない。 | 加齢は一因ですが、多くは生活習慣病が背景にあり治療可能です。諦めずに専門医に相談することが重要です。 |
大豆製品(ソイ)を食べ過ぎると男性ホルモンが減る。 | 一般的な食事の範囲で摂取する限り、健康な男性のテストステロン値に有意な影響を与えるという一貫した科学的証拠はありません。バランスの取れた食事が基本です。 |
PSA値が高いと必ず前立腺がんだ。 | 前立腺肥大症や炎症でも上昇します。がんの可能性を調べるための指標であり、確定診断にはさらなる検査が必要です。 |
よくある質問 (FAQ)
PSA検査は日本で推奨されていますか?
国が実施する対策型検診としては推奨されていません。ただし、個人が任意で受けることは可能であり、その場合は検査の利益(早期発見)と不利益(過剰診断のリスクなど)について、医師から十分な説明を受ける必要があります。(23)
ED治療薬は保険適用になりますか?
原則として自費診療ですが、タイミング法を用いる不妊治療の場合に限り、厳格な条件付きで保険が適用されることがあります。(22)
梅毒は今も増えていますか?
はい、2024年から2025年にかけても、国内の届出数は依然として高い水準で推移しており、引き続き深刻な公衆衛生上の課題です。(24)
精索静脈瘤は必ず手術すべきですか?
いいえ、必ずしも手術が必要なわけではありません。精液所見の悪化や不妊との関連が強く疑われ、かつ身体所見が一致する場合に、手術が選択肢として推奨されることがあります。(7)(15)
EDに対する低強度衝撃波治療(Li-ESWT)は有効ですか?
欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでは、軽症から中等症の血管性EDに対する治療選択肢の一つとされていますが、効果には個人差があり、患者の選択が重要です。(16)
無料でSTI(性感染症)の検査はできますか?
はい、全国の多くの保健所や自治体の施設で、匿名・無料の検査(梅毒、HIVなど)を受けることができます。(11)
テストステロンは身体にどのような働きをしますか?
第二次性徴の発現、筋肉や骨の維持、造血機能、性欲の維持、そして認知機能など、男性の心身の健康に幅広く関与する重要なホルモンです。(1)
EDは生活習慣の改善だけで良くなりますか?
有酸素運動、禁煙、適切な睡眠、バランスの取れた食事といった生活習慣の改善は、特に軽症のEDにおいて有効性が示されており、治療の基本となります。(16)
【研究者/臨床教育者向け】micro-TESEによる妊娠成功のエビデンスレベルは?
実施する施設の経験と患者の選択基準によって成功率に大きな差が見られます。最新のガイドライン(JUA/AUA)を参照の上で、個別の症例ごとに慎重な検討が必要です。(7)
【研究者/臨床教育者向け】PSAの年齢別カットオフ値の根拠は?
国内外の大規模なランダム化比較試験(RCT)や観察研究、そして前立腺がんの自然史(進行の仕方)に関するデータを踏まえ、過剰診断を減らしつつ利益を最大化する観点から、年齢階層別の基準値が各学会で採用されています。
結論
男性の生殖器系は、単なる解剖学的なパーツの集合体ではなく、私たちの生命、日々の健康、そして幸福感に深く関わる、精巧でダイナミックなシステムです。本記事を通じて、その構造と機能の基本から、ED、不妊症、性感染症といった具体的な健康問題、そして日々のセルフケアの重要性まで、包括的にご理解いただけたことと思います。本稿が伝える最も重要なメッセージは、ご自身の身体を正しく理解することは、積極的で主体的な健康管理の第一歩であるということです。そして、もし何らかの不安や症状を抱えたとしても、それは決して恥ずかしいことではなく、多くの場合、現代の医学で対処可能な問題です。この記事が、皆様がご自身の身体とより良く向き合い、ためらうことなく専門家の助けを求めるきっかけとなれば、これに勝る喜びはありません。健康で充実した未来のために、今日からできる一歩を、ぜひ踏み出しましょう。
監修者情報
辻村 晃(つじむら あきら)医師
順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学 教授
日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本生殖医学会生殖医療専門医。男性不妊症、男性更年期障害(LOH症候群)、性機能障害の診療における日本のトップランナーの一人。2024年に改訂された「男性不妊症診療ガイドライン」の作成委員長を務めるなど、臨床・研究の両面で日本の男性生殖医療を力強く牽引しています。(7)(8)(9)
免責事項この記事は、一般的な情報提供のみを目的としており、個別の専門的な医学的アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
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- メンズライフクリニック. 【医師監修】ペニスの構造とその役割とは?個人差は?. メンズライフクリニック; [日付不明]. 入手可能 ↩︎
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- 辻村晃, 他. 男子不妊症診療ガイドライン 2024年版. メディカルレビュー社; 2024. ISBN: 9784779227899. ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
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