脊椎固定術後の金属(ボルト・スクリュー)は除去すべきか?専門家による時期・基準・危険性の完全解説
筋骨格系疾患

脊椎固定術後の金属(ボルト・スクリュー)は除去すべきか?専門家による時期・基準・危険性の完全解説

複雑な脊椎固定術を乗り越えた後、患者様の関心は目前の回復から、より長期的な疑問へと移ることが少なくありません。その中でも最も一般的かつ自然な懸念の一つが、「手術で入れた金属製のボルトやスクリューは、いつか取り除く必要がありますか?」というものです。この問いは、ご自身の体内に「異物」が存在することに対する本能的な感覚から生じます。これは単純な答えが存在しない、複雑な医学的問いです。まず理解すべき重要な点は、この問題に対する医学的見解が時代と共に大きく変化したことです。日本整形外科学会が指摘するように、過去には金属製の器具を除去する手術(抜釘術)が比較的一般的に行われていましたが、生体材料と医療技術の目覚ましい進歩により、20~30年前とは異なり、現在ではほとんどの場合において器具の除去は不要となっています1。本稿の目的は、脊椎固定器具の除去に関する、最も包括的で信頼できる最新の指針を提供することです。国際的な医学研究からの科学的根拠、日本の医学会のデータ、そして国内トップクラスの病院における臨床実践指針に基づき、器具使用の理由、除去が医学的に必須となる適応、器具を保持する危険性と除去する危険性、重要な時期の判断要素、そして実際の手術と回復過程について深く掘り下げて分析します。最終的な目標は、患者様が十分な知識を得て、担当医と効果的に話し合い、共同で意思決定(shared decision-making)を下せるようになることです。

この記事の科学的根拠

この記事は、提供された調査報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源の一部と、提示された医学的指針との直接的な関連性を示したものです。

  • 日本整形外科学会(JOA): 本稿における「現代の器具は生体適合性が高く、多くの場合で除去は不要」という基本方針は、同学会の公式見解および年次報告書(JOANR)に基づいています124
  • PubMed掲載のシステマティックレビューおよびメタアナリシス: 器具除去手術の具体的な適応(痛み、感染など)や結果に関する議論は、複数の研究を統合分析した質の高い医学論文に基づいています61011
  • 国内の大学病院および主要医療機関: 佐賀大学医学部や新小文字病院などが公開している患者向け情報や臨床実践は、日本国内の実際の医療現場における標準的な手順や考え方を反映するために参照されています521

要点まとめ

  • 現代の脊椎固定器具(主にチタン合金製)は生体適合性が非常に高く、症状がなければ生涯体内に留置しても問題ないとされるのが一般的です1
  • 器具の除去(抜釘術)が医学的に推奨されるのは、器具が原因の持続的な痛み、感染、器具の破損や緩みといった明確な問題が生じた場合に限られます6
  • 抜釘術は「無害な手術」ではなく、麻酔、感染、神経損傷、再骨折などの危険性を伴うため、利益が危険性を上回る場合にのみ慎重に検討されます813
  • 抜釘術を行う前提条件は、骨癒合(移植した骨が完全に固まること)がCTスキャンなどで確実に確認されることです。一般的に手術後1年から2年が目安とされます218
  • 最終的な決定は、担当医と患者様が情報を共有し、共同で意思決定を行うことが最も重要です。

「内部のギプス」を理解する:器具の役割と医学的見解の変化

除去するか否かの判断を理解するためには、まずこれらの金属製器具が果たす役割を正確に知る必要があります。

なぜ私の手術ではスクリューやロッドが使われたのか?

脊椎固定術において、スクリュー(ネジ)、ロッド(棒状の金属)、プレート(金属板)は、「内部のギプス」として機能します2。これらの主な役割は、手術で矯正された椎骨に対し、直ちに機械的な安定性を提供することです。この安定性が極めて重要であり、移植骨が周囲の椎骨と成長・融合し、一つの強固な骨塊を形成するための不動環境を作り出します。この過程は骨癒合(こつゆごう)と呼ばれます2。多くの場合、移植に用いる骨は患者様自身の腸骨(骨盤の一部)から採取され、最高の適合性を確保し骨癒合を促進します。骨癒合が完了すれば、脊椎は自らの力で安定し、理論上、金属製の器具はその役割を終えたことになります。

思考の変化:「異物」から「生体適合性のある味方」へ

数十年前まで、医学界の伝統的な見解では、いかなるインプラント(体内埋め込み器具)も体内の「異物」と見なされていました3。この論理に基づけば、インプラントがその機能を終えた後は、体外へ取り除くことが最も望ましいと考えられていました5。この考えは医師と患者の双方に深く根付き、過去には抜釘術が比較的頻繁に実施される要因となっていました。しかし、現代の医療状況は全く異なります。この変化は、材料科学の進歩と手術技術の改良という二つの主要因によって推進されました。今日の脊椎固定器具は、もはや単なるステンレス鋼ではなく、主に生体適合性が極めて高いチタン合金から作られています。これらの材料は、体の免疫系からの反応を引き起こしにくく、炎症や拒絶反応の危険性を最小限に抑えます。この見解の変化は、日本整形外科学会の声明にも明確に反映されています。医療機器の著しい進歩により、ほとんどの場合でこれらの器具を体内に保持し続けることは、もはや懸念すべき問題ではなくなりました1。現代医学は、これらを排除すべき「異物」としてではなく、任務を完了し、害を及ぼすことなくその場に安全に留まることができる「静かな味方」と見なす傾向にあります。この思考の進化こそが、「除去しない」という選択がますます一般的になっている背景を理解するための基礎となります。


決断の要素:抜釘術が医学的に必要または推奨される時

器具を体内に留置することが一般的になったとはいえ、除去が不可欠、あるいは強く推奨される特定の状況も存在します。この決定は恣意的なものではなく、明確な医学的適応に基づいており、主に「器具自体が問題を引き起こしている場合」と「除去することが患者の長期的な健康に戦略的利益をもたらす場合」の二つの群に分けられます。

明確な医学的適応:器具自体が問題である場合

これらは、スクリューやロッドの存在が直接的に症状や合併症を引き起こしているケースです。

  • 持続的な痛みや不快感:これは抜釘術に至る最も一般的な理由です。いくつかの研究では、抜釘術の最大57%が痛みを理由に行われています6。痛みは、皮下で器具が突出したり(特に痩せ型の患者様)、周囲の軟部組織、筋肉、腱と擦れたりすることで生じ、慢性的な刺激や炎症を引き起こす可能性があります8
  • 手術部位感染(SSI):特に遅発性または慢性の感染において、金属器具が細菌の温床(nidus for infection)となった場合、細菌を完全に根絶するためには器具の除去が必須となることがよくあります6。細菌は金属表面に生物膜(バイオフィルム)を形成することがあり、これにより抗生物質が浸透しにくくなります。あるメタアナリシスでは、早期感染では器具の温存が優先される可能性があるものの、遅発性感染では除去が選択されることが多いと結論付けています10
  • 器具の破損:スクリューの緩みや破損、ロッドの折損といった機械的な問題は、脊椎の安定性を損ない、痛みを引き起こす可能性があります。このような場合、破損した器具を除去または交換する手術が必要です6
  • 器具の突出:皮下脂肪が薄い患者様では、スクリューの頭やロッドの端が突出し、触れたり、時には見えたりすることがあります。これは美容的な問題だけでなく、圧迫時に痛みを引き起こすこともあり、快適性を改善するために除去が合理的な選択肢となります6

戦略的および患者特有の考慮事項

一部のケースでは、抜釘の決定は現在の問題を解決するためではなく、将来への予防戦略として行われます。

  • 若年および小児の患者:小児患者の場合、脊椎が自然に成長し続けることを可能にし、数十年後に発生しうる潜在的な問題を避けるために、器具の除去が推奨されることがあります8。あるメタアナリシスでも、若年患者における除去は、変形の進行を招くことなく、より優れた機能的結果を達成したことが示されています11
  • アスリートや活動的な生活様式:衝撃の強いスポーツに参加する人々や、重労働に従事する人々にとって、脊椎の柔軟性を部分的に回復させ、隣接する椎骨への負荷を軽減するために、器具の除去が検討されることがあります。ただし、これはまだ議論の多いテーマであり、医師との綿密な相談が必要です。
  • 将来の手術への備え:将来的に隣接する脊椎部分の手術が必要になる可能性が高い患者様の場合、新しい器具を設置するスペースを確保するために、既存の器具を除去することが必要になる場合があります12

患者様が情報を整理しやすくするために、以下の表に脊椎固定器具を除去するための主な適応をまとめます。

表1:脊椎固定器具の除去適応チェックリスト
適応カテゴリー 具体的な理由 解説と医師への主な質問
感染関連 深部創感染 細菌が器具上で生物膜を形成し、抗生物質だけでは治療が困難になることがあります。質問:「私の痛みは、潜在的な感染の兆候である可能性はありますか?」
疼痛関連 器具が原因の痛み 器具が軟部組織と擦れたり、皮下で突出したりして、慢性的な刺激を引き起こすことがあります。質問:「この痛みが器具由来であると、どの程度確信できますか?他の原因は考えられますか?」
機械的要因 インプラントの緩み・破損 機械的な破損は安定性を失わせ、さらなる痛みや変形を引き起こす可能性があります。質問:「最新のX線/CT画像で、私の器具の状態はどうなっていますか?」
患者特異的要因 小児患者 脊椎の自然な成長を妨げないように除去します。質問:「器具を保持し続けることで、子どもの長期的な成長にどのような影響がありますか?」
戦略的要因 将来的な再手術の必要性 隣接する脊椎部分の別の手術のために場所を確保します。質問:「もし再度手術が必要になった場合、現在の器具を残しておくことは何か問題になりますか?」

コインの裏側:器具を保持する理由と危険性の比較検討

器具を除去するという決定は、潜在的な利益だけでなく、介入しないことの理由や重大な危険性も真剣に考慮しなければなりません。これは二度目の待機的手術(緊急性のない予定手術)であり、決して「良性で無害な」手技ではありません13

指導原則:「壊れていないなら、修理するな」

強固な骨癒合を達成し、かつ無症状(痛みや感染の兆候がない)である大多数の患者様に対して、現在の医学的コンセンサスは器具をそのままにしておくことです1。患者の生活の質に基づいたある研究では、手術前に不快な症状がなかった患者において、器具除去の効果が限定的、あるいは否定的でさえあるため、定型的に行うべきではないと結論付けています14。基本的な原則は、付随する危険性を伴う不必要な手術を避けることです。

抜釘術の潜在的合併症に関する現実的な視点

患者様は、抜釘術そのものの危険性について十分に知らされる必要があります。

  • 一般的な手術の危険性:麻酔関連の合併症、出血、新たな手術部位での感染などが含まれます8
  • 脊椎に特有の危険性
    • 神経または血管の損傷:除去の過程で、特に器具が骨で固く覆われている場合、近くの神経根や主要な血管を損傷する危険性があります8
    • 再骨折:これは最も懸念される危険性の一つです。除去後に残ったスクリュー孔は椎体の弱点となり、軽微な外傷でさえも、まさにその場所で新たな骨折を引き起こす危険性を高めます8
    • 矯正損失・変形の進行:特に脊柱側弯症や後弯症の治療手術の場合、画像上は骨が強固に癒合しているように見えても、器具を除去することで初回手術で得られた矯正角度の一部が失われる可能性があります6。ある研究では、器具の完全除去後に平均23.1度の矯正損失が報告されています6

期待値の管理:痛みは消えないかもしれない

これは強調すべき極めて重要な点です。抜釘術は、痛みがなくなることを保証する魔法の治療法ではありません。証拠によれば、痛みの軽減効果は一貫していません。

  • ある青年を対象とした研究では、痛みを訴えていた患者のうち、器具除去後に症状が軽減したと報告したのはわずか40%でした6
  • 別の研究では、VAS疼痛評価尺度(痛みの強さを測る指標)で改善が見られた(6.6から4.3へ)ものの、これを「控えめな利益」と表現しています16
  • 注目すべきことに、ある対照研究では、手術前に不快な症状がなかった患者群のうち、11.1%が抜釘後に状態が悪化したと感じていました14

この不確実性の原因は、脊椎固定術後の痛みの源が非常に複雑であるためです。痛みは器具自体からではなく、隣接椎間板変性、偽関節(骨が癒合しない状態)、あるいは神経の過敏化といった他の問題から来ている可能性があります16。このような場合、抜釘術を行っても問題の根本は解決されません。

表2:あなたの決断を比較検討する – 抜釘術の利益と危険性の分析
考えられる利点 考えられる危険性・欠点
器具の刺激による痛みの軽減 二度目の手術に伴う危険性(麻酔、感染)
慢性感染源の除去 スクリュー孔での新たな骨折の危険性
脊椎の柔軟性の一部回復 痛みが改善しない、あるいは悪化する可能性
「異物」除去による心理的安心感 得られた脊椎の矯正角度が失われる可能性
将来的な手術への備え 回復のための経済的費用と時間的損失

重要な時期の問題:「いつ器具を抜くことができるのか?」

もし抜釘の決定が下された場合、次の疑問は「いつ?」です。この手術を実施する時期は、手術を決定すること自体と同じくらい重要です。

絶対的な前提条件:強固な骨癒合の確認

外科医が骨癒合プロセスが完了し、骨塊が強固になったと確認するまで、いかなる抜釘術も検討されることはありません。これは交渉の余地のない条件です3。骨が完全に癒合する前に器具を除去すると、脊椎の不安定化、変形の進行、そして初回手術の失敗につながる可能性があります17。骨癒合の評価は、主に画像診断によって行われます。通常のX線撮影でも初期の兆候は確認できますが、一般的にCTスキャンが確実な確認のための標準的な検査法と見なされています。CT画像上で、医師は「骨梁の架橋(こつりょうのかきょう)」といった、新しい骨が椎骨間を強固に繋いでいる成功した骨癒合の兆候を探します18

臨床的な時間軸の航行:証拠と実践が示すこと

いつ抜釘すべきかについて、世界共通のガイドラインや厳格な期限は存在しません5。この決定は非常に臨床的かつ個別化されたものです。しかし、研究や病院での実践に基づき、一般的な時間的枠組みを描くことは可能です。

  • 最短期間:いくつかの情報源では、初回手術後最短3ヶ月という期間が言及されています5
  • 一般的な期間:最も頻繁に引用される期間は、手術後およそ1年から2年です2。この期間は、ほとんどの患者で骨癒合が完全に起こるのに十分であると考えられています。
  • 観察される平均期間:実際には、研究データは抜釘までの平均期間がより長い可能性を示しています。ある研究では平均15ヶ月と記録されていますが19、別の研究では平均2.8年という数字が報告されています6

この時間的なばらつきは矛盾ではなく、医学的意思決定の複雑さを反映しています。「正しい時期」は、個々の骨癒合の速度、抜釘の理由(例えば、感染は待機的な抜釘よりも早期の介入を必要とするかもしれません)、治療された元の病状、そして患者の生活様式など、多くの要因の相互作用に依存します。特定の日付を見るのではなく、医師が患者様それぞれの特定の状況に最も合うように計画を調整している、個別化医療のアプローチであると理解することが重要です。


患者の道のり:抜釘術と回復過程のステップバイステップガイド

再び脊椎手術を受けることへの不安を抱える患者様にとって、その手順と回復過程を明確に理解することは、ストレスを軽減する助けとなります。強調すべき重要な点は、抜釘術後の回復は、初回の脊椎固定術と比較して、通常はるかに速く、複雑さも少ないということです。

手術そのもの:何を期待すべきか

抜釘術は、初回手術よりも侵襲性の低い(体への負担が少ない)手技です。

  • 麻酔:通常、腰部以下の脊椎麻酔または全身麻酔下で行われます。これは部位や複雑さによって異なります3
  • 切開:外科医は通常、古い手術創の一部(約半分から3分の2)を再度切開して器具に到達します5
  • 手術時間:脊椎固定術よりも大幅に短くなります。片側で30〜45分程度から、両側で約1時間半程度まで変動します5
  • 入院期間:入院期間も短く、通常は約1週間です5。手術の2〜3日前に来院し、数日後には退院できます。

回復への道のり:病院から自宅へ

抜釘術後の回復は、骨はすでに癒合しているため、主に手術創の治癒に焦点が当てられます。

  • 手術直後:患者は通常、翌日から歩行が可能です3。手術創に痛みがある場合は、最初の数日間は松葉杖を使用することがあります。
  • 創傷ケア:術後の痛みは主に皮膚や軟部組織の切開によるものであり、骨の痛みではありません。この痛みは創傷が治癒するにつれて徐々に軽減します3
  • 日常生活への復帰:この道のりは、脊椎固定術後よりも格段に速いです。
    • 事務職:数日から1週間で職場復帰が可能です3
    • 軽作業:一部の指針では2ヶ月後を推奨しています21
    • 重労働:瘢痕治癒を遅らせないために、創傷が完全に治癒するまで、3ヶ月以上待つことが推奨されます3
  • コルセット:初回手術では数ヶ月間のコルセット着用が求められることが多いのに対し、抜釘術後では、医師からの特別な指示がない限り、通常は不要です。

この回復過程における明確な対比は、患者様にとって前向きで安心できるメッセージです。初回のような長く困難な回復期間を経験しなくて済むことは、手術の決定を検討する上で重要な要素となります。


よくある質問

抜釘手術は、最初の固定手術と同じくらい大変ですか?

いいえ、そうではありません。抜釘術は一般的に、初回手術よりも体への負担が少なく、手術時間も入院期間も短くなります。骨を削ったり移植したりする過程がないため、回復も格段に速いです。術後の痛みは主に皮膚の切開創によるもので、数週間で大幅に改善することがほとんどです35

金属を体内に残した場合、将来的にどのような危険性がありますか?

現代のチタン製器具は生体適合性が非常に高いため、症状がない限り、長期的な危険性は極めて低いと考えられています。アレルギー反応や腐食の可能性は理論上ゼロではありませんが、非常に稀です。ただし、将来的に同じ部位や隣接部位で別の手術が必要になった場合、既存の器具が障害となる可能性はあります12。また、非常に稀ですが、外傷によって器具が破損する危険性も考慮されます。

空港の金属探知機に反応しますか?MRI検査は受けられますか?

はい、脊椎に使用される金属の量によっては、空港の金属探知機に反応する可能性があります。多くの病院では、手術後に体内に金属があることを証明するカードを発行しています。MRI検査については、現代のチタン製器具のほとんどはMRIに対応しているため、検査を受けることは可能です。ただし、検査を受ける前には、必ず担当の放射線技師や医師に体内に金属器具があることを伝える必要があります。

抜釘術で痛みが取れる保証はありますか?

保証はありません。これが抜釘術を決定する上で最も難しい点の一つです。痛みの原因が明らかに器具の突出や刺激によるものである場合は改善が期待できますが、痛みの原因が他にある場合(隣接椎間板の変性、神経の問題など)、抜釘しても痛みは改善しない可能性があります。研究によっては、痛みが改善したのは患者の40%程度だったという報告もあります616


結論

要約すると、脊椎固定器具を除去するかどうかの決定は、自動的でも単純でもありません。それは、潜在的な利益と現実的な危険性を慎重に比較検討するプロセスです。骨が強固に癒合した後に無症状である大多数の患者様にとって、現代の医学的見解はこれらの器具を安全に体内に保持し続ける方向へと傾いています。あなたの健康管理の道のりは、協同作業です。本稿の役割は、あなたに基礎知識を提供し、受動的な情報受信者から、あなた自身の健康管理における積極的なパートナーへと変えることです。最終的な決定は、十分な情報を得た患者様と、その方が信頼する外科医との間の、オープンで誠実な話し合いを通じて下されなければなりません。この重要な話し合いに備えるため、次回の診察で医師に尋ねるべき主要な質問のリストを以下に示します。

あなたの主治医に尋ねるべき主要な質問リスト:

  1. 私の最新のX線/CT画像に基づき、骨癒合の状態は「強固」と見なせますか?
  2. 先生は、私の現在の痛みの具体的な原因は何だとお考えですか?それが金属器具によるものであると、どの程度確信していますか?
  3. 私の年齢、病歴、器具の位置を考慮した場合、抜釘術の具体的な危険性は何ですか?
  4. もし器具を除去しないと決めた場合、私が注意すべき長期的な危険性は何ですか?
  5. もし除去を決断した場合、予想される回復の道のりはどのようなもので、いつ頃から通常の活動に戻れますか?

これらの質問で武装することは、より効果的な対話につながり、最終的に下される決定が、あなたの健康と生活の質にとって最善のものであることを確実にする助けとなるでしょう。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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