歯がしみる原因は?専門家が教える予防法と「実は虫歯かも?」の見分け方のすべて
口腔の健康

歯がしみる原因は?専門家が教える予防法と「実は虫歯かも?」の見分け方のすべて

夏の暑い日にかき氷を一口食べた瞬間、あるいは冷たい水を飲んだ時に、背筋を駆け抜けるような鋭い痛みを感じた経験はありませんか28。もしあるなら、あなただけではありません。事実、ある調査によれば日本人の約70.1%が生涯に一度はこの不快な感覚を経験していると報告されています28。この「歯がしみる」症状、専門的には象牙質知覚過敏症(DHS)として知られていますが、多くの人々にとって身近な悩みです。本稿では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、最新の科学的知見と専門家の見解に基づき、歯がしみる問題の全体像を徹底的に解説します。その痛みがどこから来るのか、日々の生活でどのように予防できるのか、そして最も重要な点として、その痛みがより深刻な問題、例えば虫歯の「危険信号」である場合をいかに見分けるかについて、包括的な知識を提供します。


この記事の科学的根拠

本記事は、提供された研究報告書において明確に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本記事で提示される医学的指針に直接関連する情報源の一部です。

  • 国際歯科連盟 (FDI) およびカナダ歯科医師会 (CDA) のガイドライン: この記事における象牙質知覚過敏症の定義、診断、および段階的な治療アプローチに関する指針は、これらの国際的な専門機関が発行したコンセンサスに基づく推奨事項に基づいています28
  • 日本歯内療法学会および厚生労働省の調査: 日本国内における知覚過敏の有病率、患者の行動、そして「知覚過敏だと思っていたら実は虫歯だった」という診断の乖離に関する重要なデータは、これらの国内機関による調査結果を引用しています2226
  • 各種学術論文 (PMC, MDPI掲載): 痛みの発生機序である「動水力学説」や、各種治療薬(硝酸カリウム、フッ化スズなど)の作用機序に関する詳細な科学的説明は、査読済みの学術雑誌に掲載された複数の研究論文に基づいています39

この記事の要点

  • 歯がしみる症状(象牙質知覚過敏症)は、象牙質が露出し、その内部にある無数の微細な管(象牙細管)が外部からの刺激を受けることで発生する、短く鋭い痛みです。
  • 主な原因は、不適切な歯磨きや歯周病による「歯肉退縮」と、酸性飲食物の摂取や歯ぎしりによる「歯の硬組織の喪失」です。特に酸と摩耗の組み合わせは歯を著しく傷つけます。
  • 自己判断は危険です。日本での調査によると、歯がしみたと自己判断した人の32%が、実際には治療が必要な「虫歯」であったことが明らかになっています22。専門家による正確な診断が不可欠です。
  • 家庭での対策としては、原因に合わせた成分(硝酸カリウム、フッ化スズなど)を含む歯磨き粉の選択、正しい歯磨き習慣、酸性飲食物の摂取方法の見直しが有効です。
  • 歯科医院での治療は効果的で、フッ化物塗布やプラスチックの詰め物(コンポジットレジン修復)など、多くが日本の公的医療保険の適用範囲内です。

その「キーン」とする痛みはどこから?歯がしみる科学的メカニズム

歯がしみる独特の痛みは、一体どのようにして生まれるのでしょうか。その謎を解く鍵は、1960年代にスウェーデンの歯科研究者ブレンストロームによって提唱され、現在最も広く受け入れられている「動水力学説」にあります34。この理論を簡単に説明すると、歯の内部で起こる物理的な現象が神経信号に変換されるプロセスです。

歯の表面を覆う硬いエナメル質の下には、「象牙質」と呼ばれる層があります。この象牙質には、「象牙細管」と呼ばれる肉眼では見えない無数の微細な管が、歯の表面から中心部にある歯髄(神経や血管が集まる部分)に向かって伸びています。健康な歯では、これらの管はエナメル質や歯肉によって外界から保護されています2

しかし、何らかの原因で象牙質が露出し、さらに象牙細管の入り口が開いてしまうと、この防御が破られます。この状態で冷たい水や風、歯ブラシの毛先などの刺激が加わると、象牙細管の中を満たしている液体(象牙細管内液)が急速に動きます。この液体の動きが歯髄内の神経線維の末端を物理的に刺激し、それが電気信号となって脳に伝達されます。脳がこの信号を「痛い!」と認識した結果が、私たちが経験する「キーン」と響く、短く鋭い痛み、すなわち象牙質知覚過敏症なのです3

この症状が発生するためには、以下の二つの条件が同時に満たされる必要があります。

  1. 象牙質の露出:歯のエナメル質が失われるか、歯肉が下がり(歯肉退縮)、本来は歯肉に覆われているはずの歯根部分が露出すること。
  2. 象牙細管の開口:露出した象牙質の表面で、象牙細管の入り口が塞がれずに開いていること。

このメカニズムを理解することが、なぜ治療法が「管を塞ぐ」か「神経を鈍らせる」という二つの戦略に集約されるのかを解明する鍵となります。


なぜ私だけ?あなたの歯をじわじわと蝕む5つの「犯人」

象牙質が露出するプロセスは、単一の原因ではなく、多くの場合、複数の生活習慣や口内環境の要因が複雑に絡み合って進行します。ここでは、その主要な原因を5つのカテゴリーに分けて解説します。

1. 歯肉退縮:歯の土台が失われる

これは、歯肉が正常な位置から下がり、エナメル質に覆われていない歯根部が露出する状態です。歯根の表面はセメント質という薄い層で覆われているだけで、非常に摩耗しやすく、象牙質が露出しやすいのです。

  • 歯周病:歯肉炎や歯周炎は歯肉退縮の最大の原因です。慢性的​​な炎症が歯を支える組織(歯肉や骨)を破壊し、結果として歯肉が下がります12
  • 不適切な歯磨き:硬すぎる歯ブラシの使用や、特に水平方向にゴシゴシと力を入れすぎるブラッシングは、歯肉に機械的なダメージを与え、歯の付け根部分を削ってしまいます13
  • 加齢:明確な病気がなくても、加齢プロセスの一部として自然に歯肉が下がることがあります13
  • 歯科治療:歯周病の治療など、必要な処置であっても、結果として治療後に歯肉が下がることがあります1

2. 歯の硬組織の喪失:エナメル質が溶ける・削れる

歯を保護するエナメル質やセメント質が失われ、その下の象牙質が直接的に露出する状態です。

  • 酸蝕(Erosion):細菌の関与なしに、酸によって歯の表面が化学的に溶かされる現象です。酸の供給源は、炭酸飲料、柑橘系のジュース、ワインといった飲食物(外部からの酸)15と、胃食道逆流症や頻繁な嘔吐などによる胃酸(内部からの酸)1の二つがあります。
  • 摩耗(Abrasion):歯磨き粉に含まれる研磨剤や、強すぎるブラッシング圧など、外部の物体との機械的な摩擦によって歯が削られることです8
  • 咬耗(Attrition):上下の歯が接触することによる摩擦で歯がすり減る現象です。無意識に行われる歯ぎしり(ブラキシズム)や食いしばりがある人によく見られます12
  • 歯の亀裂・破折:外傷や強い咬合力によって歯の表面に微細なひびが入り、エナメル質を貫通して象牙質が露出することがあります15

注意すべき「負のスパイラル」:酸蝕と摩耗の危険な関係

臨床研究が明らかにした最も重要な知見の一つは、酸による「酸蝕」と物理的な「摩耗」が組み合わさった時の相乗的な破壊力です8。歯が酸に触れると、表面のエナメル質は一時的にミネラルを失い、「軟化」した状態になります。この弱った状態で、特に強い力で歯を磨いてしまうと、健康な状態の時よりもはるかに多くのエナメル質が削り取られてしまうのです。例えば、朝にレモン水を飲み、その直後に歯を磨く習慣がある人は、この二つの行為を別々に行うよりもはるかに大きなダメージを歯に与えることになります。これが、酸っぱいものを食べた後は、すぐに歯を磨くのではなく、30分から60分ほど待つか、水で口をゆすいで酸を中和することが推奨される理由です1


重大な問い:それは単なる「知覚過敏」か、それとも「虫歯」のサインか?

歯がしみる症状で最も注意すべき点は、その症状が他の、より深刻な歯科疾患の症状と酷似していることです。そのため、象牙質知覚過敏症の診断は「除外診断」というプロセスを経て行われます8。これは、歯科医師が他のあらゆる可能性を慎重に排除した上で、最終的に下される診断であることを意味します。

歯科医院での診断プロセスでは、まず痛みの特徴(短く鋭いか、長く続くか)、痛みを引き起こす刺激(冷たい、熱い、甘いなど)、食生活や生活習慣についての詳細な問診が行われます。その後、風を吹きかけたり、冷たい水をかけたり、歯の付け根を器具で軽く触れたりして、歯の反応を確かめる臨床検査が行われます8。隠れた虫歯や歯根の先の病気などを否定するために、レントゲン撮影も重要な診断ツールです11

知覚過敏と間違えやすい主な歯科疾患

  • 虫歯(Dental Caries):最も一般的な誤解の原因です。特に歯の根元にできた虫歯は、知覚過敏と非常によく似た鋭い痛みを引き起こすことがあります8
  • 歯髄炎(Pulpitis):歯の神経が炎症を起こした状態です。痛みは刺激がなくなっても長く続き、何もしなくてもズキズキと痛む(自発痛)ことがあるのが特徴です11
  • 歯の亀裂症候群(Cracked Tooth Syndrome):歯に入ったひびが原因で、特に噛んだ時や力を抜いた瞬間に鋭い痛みを感じることがあります8
  • 修復物の不適合・破折:古い詰め物や被せ物の下に隙間ができ、そこから刺激が侵入してしみることがあります8
  • 歯科治療後の一時的な知覚過敏:詰め物などの治療後、数日から数週間にわたって一時的に歯がしみることがあります8

自己診断の落とし穴:日本の衝撃的なデータ

日本歯内療法学会が実施した調査では、患者の認識と臨床現場の実態との間に、憂慮すべきギャップがあることが明らかになりました。この調査によると、歯がしみる症状があった人のうち、自分で「知覚過敏が原因だ」と考えていた人の実に32%が、後に歯科医師によって「虫歯」と診断されていたのです22。これは、多くの人が「一時的なものだろう」と軽視しがちな「しみる」という症状が、実は進行中の虫歯のサインである可能性が高いことを示しています。専門家の診断を受けずに市販の歯磨き粉だけで対処しようとすることは、虫歯治療の「ゴールデンタイム」を逃し、結果的により複雑で高額な治療が必要になる危険性をはらんでいます。

以下の表は症状の一般的な違いをまとめたものですが、これはあくまで参考です。最終的な診断は必ず歯科医師が行う必要があります。

症状比較:知覚過敏 vs 虫歯 vs 初期歯髄炎
特徴 象牙質知覚過敏症 (DHS) 虫歯 歯髄炎(初期)
痛みの種類 短く鋭い。刺激がなくなるとすぐに消える(数秒)14 刺激でしみる。痛みは少し長く続くことがある。 鋭い痛み、またはズキズキする鈍い痛み。刺激除去後も痛みが続く。
痛みの誘因 冷たいもの、温かいもの、空気、酸味、甘味、歯磨きなど3 甘いもの、冷たいもの、食べ物が穴に詰まった時など。 温かいもの、冷たいもの、または刺激がなくても痛む(自発痛)。
噛んだ時の痛み 通常はない。 穴が大きく食べ物が詰まると痛むことがある。 痛むことがある(特に進行した場合)。
自発痛(何もしなくても痛む) 稀。 稀(虫歯が歯髄に達した場合を除く)。 よく見られる(特に夜間)。
歯の外観 歯肉の退縮や歯の付け根の摩耗が見られることがある。歯の色に変化はない。 茶色や黒の穴、または白く濁った斑点が見られることがある。 大きな虫歯があるか、歯が黒っぽく変色していることがある。

日本における知覚過敏の現状:統計、行動、そして医療制度

効果的な対策を考える上で、日本の具体的な状況を理解することは不可欠です。厚生労働省が実施した令和4年(2022年)歯科疾患実態調査によると、国民の8.5%が「熱いものや冷たいものがしみる」という症状を有していると報告しています26。一方で、別の調査では、日本人の70.1%がこれまでに一度は歯がしみる感覚を経験したことがあると回答しており28、これが非常にありふれた健康問題であることがわかります。この調査では、しみる原因の第1位として「かき氷」(66.3%)が挙げられており、日本の文化に根差した身近な例として共感を呼びます28

しかし、症状が一般的であるにもかかわらず、人々の対処行動には大きな課題が見られます。日本歯内療法学会の調査では、直近1ヶ月以内に歯がしみた人のうち、実に半数(50%)が「何もしなかった」と回答しています22。この事実と、前述の「32%が実は虫歯だった」というデータを組み合わせると、症状はありふれているがゆえに軽視され、専門的なケアを求める行動が遅れがちである、という憂慮すべき状況が浮かび上がります。

この行動の遅れは、費用や治療法の欠如が原因ではないようです。日本の公的医療保険制度は、象牙質知覚過敏症に対する効果的な基本治療の多くをカバーしています。多くの歯科医院のウェブサイトでは、フッ化物塗布、歯の付け根のくさび状欠損の充填、歯周病治療、歯ぎしり防止用のマウスピース(ナイトガード)作製などが保険適用の対象となることが明記されています14。ある歯科医院では、くさび状欠損の充填にかかる費用が自己負担額で1,000円程度であると例示しています24。さらに、シュミテクト、システマ、GUMといった有名ブランドの専用歯磨き粉も薬局などで容易に入手可能です24

これらの事実から、日本における知覚過敏管理の最大の障壁は、経済的・技術的なものではなく、心理的・認識的なものであると結論付けられます。人々は「大したことはない」「そのうち治るだろう」と考え、その症状が虫歯のようなより深刻な病気の兆候である可能性を十分に認識していません。したがって、私たちが提供する情報は、この心理的障壁を打ち破ることに焦点を当てる必要があります。


あなたにできること:知覚過敏を管理するための行動計画

幸いなことに、象牙質知覚過敏症は、正しい知識と行動によって、その多くが管理・改善可能です。国際的なガイドラインでは、最も侵襲性が低く、保存的な方法から始める「段階的アプローチ」が推奨されています91。これは、患者自身が治療の主役となる「協働管理モデル」です。

ステップ1:家庭でのセルフケア ― あなたが主役です

知覚過敏管理の成功は、日々のセルフケアにかかっています。これには大きく分けて3つの柱があります。

1. 「武器」を選ぶ:あなたに合った歯磨き粉の見つけ方

市販の知覚過敏用歯磨き粉は、低コストで非侵襲的な第一選択肢です8。その作用メカニズムは主に2つに大別されます。

  • 神経を鈍麻させるタイプ:代表的な成分は硝酸カリウム(KNO₃)です。カリウムイオンが歯髄の神経線維の周りに壁を作り、神経が興奮しにくくなることで痛みの信号伝達をブロックします9。痛みの症状を和らげるのに効果的です。
  • 象牙細管を封鎖するタイプ:痛みの物理的な原因である管を塞ぐことで対処します。
    • フッ化スズ(SnF₂):スズイオンが歯の表面に付着し、象牙細管の入り口を物理的に封鎖する層を形成します9
    • 乳酸アルミニウム:日本の製品でよく見られる成分で、象牙細管を収縮させて封鎖する効果があると言われています29
    • アルギニン & 炭酸カルシウム:アルギニンが唾液中のカルシウムやリン酸を引き寄せ、象牙細管を自然に封鎖するミネラル層を形成します9
    • ナノ粒子ハイドロキシアパタイト(n-HA):歯の主成分と同じミネラルのナノ粒子が、象牙細管に直接入り込み、歯を再石灰化させながら封鎖します9
知覚過敏用歯磨き粉の主な有効成分比較
有効成分 作用メカニズム 特徴 日本での代表的な製品例
硝酸カリウム 神経の鈍麻 痛みの症状緩和に即効性がある。 シュミテクト、システマ センシティブ24
フッ化スズ 象牙細管の封鎖 知覚過敏抑制に加え、虫歯予防、歯肉炎予防効果も期待できる。 一部のGUM、Oral-B製品
乳酸アルミニウム 象牙細管の封鎖 硝酸カリウムと組み合わせて効果を高める製品が多い。 メルサージュ ヒスケア、GUM プロケア29
ナノ粒子ハイドロキシアパタイト 象牙細管の封鎖 歯の再石灰化を促進し、生体親和性が高い。 アパガードなど

2. 「技術」を磨く:正しい歯磨き方法

  • 柔らかい毛の歯ブラシを選ぶ:毛先が「やわらかめ」または「超やわらかめ」のものを使用しましょう15
  • 優しい力で磨く:歯ブラシを鉛筆のように2、3本の指で持つと、余計な力が入りにくくなります13
  • 正しい磨き方を実践する:歯と歯肉の境目に毛先を当て、小刻みに優しく動かす「バス法」などが推奨されます。

3. 「燃料」を最適化する:歯に優しい食生活

  • 酸性の強い飲食物の摂取頻度を減らす15
  • 酸っぱいものを口にしたら、すぐに水で口をゆすぐ15
  • 酸に触れた直後の歯磨きは避ける。最低でも30分は時間を空けましょう1

ステップ2:専門家による治療 ― いつ歯科医院に行くべきか?

家庭でのケアを2~4週間続けても症状が改善しない場合や、痛みが非常に強い場合は、専門家である歯科医師の介入が必要です。歯科医院では、効果的で侵襲性の低い治療法が多数用意されています。

歯科医院で行われる主な知覚過敏治療法
治療法 概要 適用ケース 侵襲度 日本での保険適用状況
フッ化物/知覚過敏抑制材の塗布 高濃度のフッ化物や薬剤を歯の表面に塗り、象牙細管を封鎖する。 軽度~中等度のDHS、迅速な痛み緩和が必要な場合。 非侵襲 一般的。多くの場合、保険適用。
コンポジットレジン充填 歯の付け根のくさび状の摩耗部分を、白いプラスチック様の材料で詰める。 歯に明らかな欠損がある場合。 低侵襲 非常に一般的。保険適用24
ナイトガード(マウスピース)作製 歯ぎしりによる歯の摩耗を防ぐため、夜間に装着するマウスピースを作る。 歯ぎしりの証拠(歯の摩耗、顎の痛みなど)がある場合。 非侵襲 一般的。保険適用。
歯周病治療 歯石除去などを行い、歯肉の炎症を抑え、歯肉退縮の進行を防ぐ。 歯周病が原因の歯肉退縮に伴うDHS。 低侵襲 基本的な治療。保険適用。
レーザー治療 特殊なレーザー光を当て、神経を鎮静化させたり、象牙質表面を改質して管を封鎖する。 他の方法で効果が不十分な場合など。 非/低侵襲 普及度は低め。保険適用外の場合もある。
歯肉移植術 他の部位から歯肉を移植し、露出した歯根を覆う外科処置。 重度の歯肉退縮があり、審美性や機能に問題がある場合。 侵襲的 特定の症例で実施。十分な相談が必要。
歯の神経を取る治療(歯内療法) 歯の内部の神経を完全に取り除く最終手段。 他のあらゆる治療法が奏効せず、痛みが極めて重度な場合。 高侵襲 最終選択肢。後戻りはできない。

特に、歯の付け根をコンポジットレジンで詰める治療は、審美的にも機能的にも優れ、日本の保険診療で広く行われています。自己負担額は1本あたり1,000円から2,000円程度が目安であり、費用対効果の非常に高い治療法です24


よくある質問

歯の知覚過敏は自然に治りますか?

軽度の場合、唾液中のミネラルが象牙細管を自然に塞いだり、生活習慣の改善によって症状が和らぐことはあります。しかし、歯肉退縮や歯の摩耗といった根本的な原因は自然には治りません。また、前述の通り虫歯など他の病気の可能性もあるため、「そのうち治るだろう」と放置せず、一度は歯科医師の診断を受けることが極めて重要です。

ホワイトニング用の歯磨き粉は、知覚過敏に悪いですか?

製品によります。一部のホワイトニング歯磨き粉は、着色を除去するために研磨性が高い成分を多く含んでいる場合があり、知覚過敏を悪化させる可能性があります。もしホワイトニングを希望する場合は、知覚過敏抑制成分(例:硝酸カリウム)が含まれている「知覚過敏ケアもできるホワイトニング歯磨き粉」を選ぶか、歯科医師に相談することをお勧めします。

知覚過敏用の歯磨き粉は、どのくらいで効果が出ますか?

効果の現れ方には個人差がありますが、一般的には毎日2回、継続して使用することで2週間から4週間程度で症状の改善が期待できます9。もし1ヶ月以上使用しても全く改善が見られない場合は、別の原因が考えられるため、歯科医院を受診してください。

レーザー治療は痛いですか?また、保険は適用されますか?

知覚過敏に用いられるレーザー治療は、多くの場合、痛みをほとんど伴いません。しかし、レーザー治療はまだ一般的な治療法ではなく、導入している歯科医院も限られています。また、知覚過敏に対するレーザー治療は、日本の公的医療保険の適用外(自費診療)となることがほとんどです。実施を検討する際は、事前に費用や効果について歯科医師とよく相談することが大切です。

結論

歯がしみるという症状、象牙質知覚過敏症は、単なる不快な感覚以上の、あなたの口腔健康状態を知らせる重要な「信号」です。この記事を通じて、その痛みの背後にある科学的なメカニズム、日々の生活に潜む原因、そして効果的な対処法についてご理解いただけたことでしょう。

最も重要なメッセージを繰り返します。第一に、その痛みを無視しないでください。50%の人が何もしないという現状がありますが22、それはリスクを放置することに他なりません。第二に、自己判断は禁物です。「ただの知覚過敏だろう」という思い込みが、実は治療を必要とする虫歯を見過ごす原因となり得ます(32%の誤診リスク22)。確実な答えを知る唯一の方法は、歯科医師による専門的な診断です。そして第三に、あなたにはこの問題をコントロールする力があります。正しい歯磨き粉の選択、優しいブラッシング、そして食生活の見直しといった日々の努力が、大きな違いを生み出します。そして、もしセルフケアで改善しなくとも、現代の歯科医療には保険適用内で受けられる効果的な治療法が多数存在します。

痛みを我慢する日々は終わりです。今日、この記事を読んだことをきっかけに、あなたの口腔健康を守るための一歩を踏み出しましょう。最寄りの歯科医院を探し、予約を取ることから始めてみてください。それは、快適な食生活と健康な笑顔を取り戻すための、最も確実な投資です。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格を持つ医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. West N, Seong J, Davies M. Dentine hypersensitivity. Monogr Oral Sci. 2014;25:108-22. doi: 10.1159/000360749.
  2. FDI World Dental Federation. Dentin Hypersensitivity. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.fdiworlddental.org/dentin-hypersensitivity
  3. Al-SNA, Al-Khamees NA. Pathogenesis, diagnosis and management of dentin hypersensitivity: an evidence-based overview for dental practitioners. J Int Oral Health. 2020;12(4):313-20.
  4. Wikipedia contributors. Hydrodynamic theory (dentistry) [インターネット]. Wikipedia, The Free Encyclopedia; 2023. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrodynamic_theory_(dentistry)
  5. Davinelli S, Scapagnini G. Dentin Hypersensitivity: Etiology, Diagnosis and Treatment; A Literature Review. J Biol Regul Homeost Agents. 2013;27(3):621-30.
  6. Haleon HealthPartner. Sensitive Teeth Causes. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.haleonhealthpartner.com/en-us/oral-health/conditions/sensitivity/causes-and-mechanisms/
  7. Alencar-Silva T, et al. An infodemiologic review of internet resources on dental hypersensitivity: A quality and readability assessment. PLOS ONE. 2024;19(7):e0312832.
  8. Canadian Advisory Board on Dentin Hypersensitivity. Consensus-based recommendations for the diagnosis and management of dentin hypersensitivity. J Can Dent Assoc. 2003;69(4):221-6.
  9. Matuszczak E, et al. Dentin Hypersensitivity: Etiology, Diagnosis and Contemporary Treatment Modalities. Appl. Sci. 2023;13(21):11632.
  10. German Society of Periodontology. Guidelines for the Management of Hypersensitivity: efficacy of professionally and self-administered agents. [インターネット]. 2019. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://dgparo.de/wp-content/uploads/2022/02/dg-paro-guidelines-management-of-hypersensivity.pdf
  11. Indian Society of Periodontology. ISP Good Clinical Practice Recommendations for the management of Dentin Hypersensitivity. J Indian Soc Periodontol. 2022;26(Suppl 1):S1-S21.
  12. グラントウキョウスワン歯科・矯正歯科. 歯がしみる「知覚過敏」の治し方~歯科医院での治療法~. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.grantokyo-swan.com/column/%E6%AD%AF%E3%81%8C%E3%81%97%E3%81%BF%E3%82%8B%E3%80%8C%E7%9F%A5%E8%A6%9A%E9%81%8E%E6%95%8F%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%B2%BB%E3%81%97%E6%96%B9%EF%BD%9E%E6%AD%AF%E7%A7%91%E5%8C%BB%E9%99%A2%E3%81%A7%E3%81%AE/
  13. しおみ歯科クリニック. 息・空気を吸うと歯がしみる原因と対処法. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://shiomi-dc.com/tooth-ache/
  14. エス歯科クリニック. 知覚過敏の治療. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.s-shika-clinic.com/symptom/hypersensitivity
  15. 医療法人五條歯科医院. 歯がしみる原因とその対策について. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://gojo-dental.com/clinic_blog/%E6%AD%AF%E3%81%8C%E3%81%97%E3%81%BF%E3%82%8B%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%AD%96%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E2%9C%A8
  16. グリーン歯科. 虫歯じゃないのに歯がしみる?主な原因と6つの対処法を解説. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.green-dc.net/2793/
  17. 日本歯科医師会. 知覚過敏 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.jda.or.jp/park/trouble/index12.html
  18. 日本歯科医師会. お口のなんでも相談「知覚過敏」. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.jda.or.jp/consultation/vol-15.html
  19. 歯科ほんだクリニック. 歯がしみる原因を徹底解説!今日からできる対策と治療法. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://dental-honda-clinic.net/blog/teeth-sensitivity/
  20. あおぞら歯科クリニック本院. 歯がしみる原因と対策!歯の構造と知覚過敏のメカニズム. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.aozora-shika.com/column/column_cat01/post_5794/
  21. Colgate Professional. Dentin hypersensitivity: are you missing the opportunity to provide a treatment and follow-up plan?. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.colgateprofessional.com/dentist-resources/sensitivity/dentin-hypersensitivity-plan
  22. 共同通信PRワイヤー. 1 カ月以内に歯がしみた人の 43.4%は原因を知覚過敏と判断 一方. [インターネット]. 2022. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://cdn.kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M106422/202209277271/_prw_OR1fl_80Rco2yJ.pdf
  23. Ali S, et al. Advances in the Management of Dentin Hypersensitivity: An Updated Review. Open Dent J. 2022;16:e187421062201130.
  24. 川本歯科医院. 知覚過敏処置. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://dental-kawamoto.com/hypersensitivity
  25. 新横浜エス歯科クリニック. 知覚過敏が起こる原因と主な症状は?. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.s-prince-dc.com/symptom/hypersensitivity
  26. NurSHARE. 第21回:知覚過敏と健康への影響. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.nurshare.jp/article/detail/10731
  27. 中川駅前歯科クリニック. 知覚過敏. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-44.html
  28. PR TIMES. 7月25日は知覚過敏の日!. [インターネット]. 2011. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://prtimes.jp/a/?c=1269&r=30&f=a15973b5cc839f170bb63bef16e2851e.pdf
  29. きらら歯科. 知覚過敏の自宅での改善方法. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://kirarashika.com/top/dental-menu/general-dentistry/hypersensitivity-2/hys-home
  30. アットコスメ. 知覚過敏の口コミ一覧. [インターネット]. [引用日: 2025年7月25日]. Available from: https://www.cosme.net/tags/tag/6445/review/
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ