この記事の科学的根拠
本記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、提示された医学的指導に直接関連する、実際に参照された情報源のリストです。
- 日本産科婦人科学会(JSOG)および日本医学会: 本記事における認定施設、遺伝カウンセリング、および検査の倫理的・社会的側面に関する指針や見解は、これらの権威ある機関が公表したガイドラインや報告に基づいています519。
- NIPTコンソーシアム(出生前検査認証制度等運営委員会): 日本国内における10万人規模のNIPT検査結果、特に陽性的中率や偽陰性率に関する具体的なデータは、この大規模追跡調査の結果を引用しています9。
- 厚生労働省: NIPTに関する妊婦の認知度や理解度についての調査結果は、厚生労働省が実施した公的な実態調査報告書に基づいています4。
- New England Journal of Medicine (NEJM): NIPTと従来のスクリーニング検査の性能を比較した国際的な大規模研究(NEXT研究)のデータは、この権威ある医学雑誌に掲載された論文を典拠としています10。
要点まとめ
- NIPTは「スクリーニング検査」であり、診断を確定するものではありません。陽性結果が出た場合、診断のためには羊水検査などの「確定的検査」が必要です。
- 妊婦さんにとって最も重要な指標は「陽性的中率(PPV)」です。これは「陽性」の結果が本当に陽性である確率を示し、妊婦さんの年齢によって大きく変動します。
- 感度・特異度約99%という高い数値は検査の技術的性能を示すもので、個人の陽性的中率とは異なります。若年妊婦さんでは陽性的中率が比較的低くなる傾向があります。
- 偽陽性(検査は陽性だが胎児は正常)の最大の原因は「胎盤限局性モザイク(CPM)」という生物学的現象です。これは検査のエラーではありません。
- 質の高い遺伝カウンセリングと医療連携が保証された「認定施設」で検査を受けることが、安心して検査に臨み、いかなる結果にも適切に対応するために極めて重要です。
NIPT(新型出生前診断)とは?基本をわかりやすく解説
NIPTを正しく理解するためには、まずその基本的な位置づけと科学的原理を把握することが不可欠です。
スクリーニング検査であり、確定診断ではありません
NIPTに関して最も重要な点は、これが「スクリーニング検査」であり、「確定的検査」ではないということです1。スクリーニング検査の目的は、特定の疾患を持つ可能性が高い人々を大規模な集団から選び出すことです。したがって、NIPTの結果が「陽性」と出た場合、それは胎児がその疾患を持っている可能性が高いことを示唆するものであり、診断を確定するものではありません2。最終的な診断を下すためには、羊水検査や絨毛検査といった侵襲的な確定的検査が必要となります3。
この区別は極めて重要です。なぜなら、厚生労働省が実施した調査によると、「NIPTで胎児の診断が確定できるとは思わない」と正しく理解していた回答者はわずか36.1%でした4。この広範な誤解は、不十分な情報に基づいた医療上の意思決定につながる可能性があり、NIPTの限界を最初から明確に認識しておく必要があります。逆に、「陰性」の結果は、対象となる染色体異常の可能性が「きわめて低い」ことを意味しますが、可能性がゼロになるわけではありません5。
血液中の胎盤のDNAを分析する仕組み
NIPTの科学的根拠は、母体の血液中に存在するセルフリーDNA(cell-free DNA)の分析に基づいています。このcfDNAのうち、約10%は胎盤に由来するもの(胎盤由来cfDNA)です6。胎盤と胎児は同じ受精卵から発生するため、胎盤のDNAは通常、胎児の遺伝情報を反映しています6。NIPTは、母体から採血した血液検体を用いて、この胎盤由来のcfDNAの量を次世代シーケンサーで解析し、特定の染色体(主に21番、18番、13番)の数的異常の危険性を評価します7。
母体の採血のみで実施できるため、羊水検査や絨毛検査に伴う流産などの危険性がないことが大きな利点です1。しかし、この「胎盤のDNAを分析する」という原理そのものが、NIPTの固有の限界、特に後述する「偽陽性」の主な原因にもつながっていることを理解することが重要です。
【最重要】NIPTの「精度」を正しく理解する3つの指標
「99%の精度」という言葉は魅力的ですが、NIPTの性能を正しく評価するためには、いくつかの重要な統計指標を理解する必要があります。
感度・特異度:「病気を見つける能力」と「ないことを証明する能力」
多くの施設が広告で用いる「感度」と「特異度」は、検査そのものの技術的な性能を示す指標です。
- 感度 (Sensitivity): 胎児が実際に特定の染色体異常を持つ場合に、検査が正しく「陽性」と判定する確率です2。例えば、21トリソミー(ダウン症候群)に対するNIPTの感度は約99%以上と非常に高く、これは21トリソミーの胎児を妊娠している妊婦さん100人のうち99人が陽性結果を得ることを意味します8。
- 特異度 (Specificity): 胎児が実際に特定の染色体異常を持たない場合に、検査が正しく「陰性」と判定する確率です2。NIPTの特異度も極めて高く、主要な3つのトリソミーに対して99.9%を超えます9。
これらの数字は非常に印象的ですが、これらはあくまで「胎児が罹患しているかどうかが事前に分かっている集団において、検査がどれだけうまく機能するか」を示すものです。しかし、検査を受ける個々の妊婦さんが本当に知りたいのは、「自分の検査結果が陽性だった場合、実際に胎児が罹患している確率はどのくらいか?」という問いへの答えです。その答えをくれるのが、次に説明する陽性的中率です。
陽性的中率(PPV):あなたにとって最も大切な数字
陽性的中率(Positive Predictive Value, PPV)は、検査結果が「陽性」であった場合に、胎児が実際にその染色体異常を持っている確率を示す指標です2。これは、検査結果を受け取った個人にとって、感度や特異度よりもはるかに直接的で重要な意味を持ちます。
PPVは検査の性能だけでなく、その疾患の有病率(集団内での発生頻度)に大きく影響されます。これはNIPTの文脈では、主に妊婦の年齢に依存することを意味します2。
例えば、権威ある医学雑誌『New England Journal of Medicine』に掲載された画期的な研究では、一般的な産科集団において21トリソミーに対するNIPTのPPVは80.9%であったのに対し、従来のスクリーニング検査ではわずか3.4%でした10。別の研究では、21トリソミーのPPVが84-85%、18トリソミーが76-77%である一方、13トリソミーでは45%まで低下することが示されています11。このことから、「陽性」という結果の重みは、対象となる疾患によって大きく異なることがわかります。
年齢で変わる陽性的中率:なぜ若いと偽陽性が増えるのか?
染色体異常の発生率は、母体の年齢とともに上昇します。例えば、21トリソミーの発生率は、20歳の妊婦さんでは約2,000人に1人ですが、40歳では約100人に1人となります2。
この「事前確率」の違いがPPVに直接影響します。直感的に理解するために、40歳の妊婦さん1,000人と25歳の妊婦さん1,000人の集団を想像してみてください。40歳の集団には、25歳の集団よりも多くの真の21トリソミーの症例が存在します。そのため、両方の集団で同じ数の偽陽性(検査の技術的なエラーによるもの)が発生したとしても、陽性結果全体に占める「真の陽性」の割合は、40歳の集団の方がはるかに高くなります。結果として、高齢の妊婦さんほどPPVは高くなり、若年の妊婦さんほどPPVは低くなる(つまり、陽性結果が偽陽性である可能性が高まる)のです。
この年齢と精度の関係は、国民の半数近くが認識していないという厚生労働省の調査結果もあり4、個々の危険度に応じた結果の解釈を助ける遺伝カウンセリングの重要性を浮き彫りにしています。
データで見るNIPTの精度:国際研究と日本の10万人調査から
NIPTの精度に関する議論は、信頼できる大規模な臨床データに基づいて行われるべきです。ここでは、国際的な学術論文と、日本国内で実施された大規模な追跡調査の結果を比較検討します。
国際的なメタアナリシス(複数の研究を統合して分析する手法)では、NIPTの非常に高い性能が一貫して示されています。2016年に発表されたメタアナリシスでは、21トリソミーに対する統合感度は99.3%、18トリソミーは97.4%、13トリソミーは97.4%であり、3疾患すべての特異度は99.9%でした9。さらに、2015年に『New England Journal of Medicine』に掲載されたNEXT研究は、一般的な妊婦集団においてNIPTと従来のスクリーニング法を直接比較し、NIPTが感度(100% 対 78.9%)、偽陽性率(0.06% 対 5.4%)、そして陽性的中率(80.9% 対 3.4%)のすべての指標で圧倒的に優れていることを証明しました10。
一方、日本国内のデータとして、NIPTコンソーシアム(現:出生前検査認証制度等運営委員会)が2013年から2021年にかけて実施した10万件以上の検査結果の集計があります9。この調査における特筆すべき点は以下の通りです。
- 陽性率: 全体での陽性率は約1.8%(約50人に1人)でした2。
- 陽性的中率 (PPV): 21トリソミーで陽性となった1,100件のうち、その後の羊水検査で実際に陽性が確定したのは955件でした。これにより、この集団における21トリソミーのPPVは非常に高い97.3%と算出されます8。
- 偽陰性率: 偽陰性(検査で陰性だったが実際には罹患していた症例)は極めて稀で、追跡調査が行われた58,893件の陰性例のうち、21トリソミーと18トリソミーでそれぞれ3件ずつ報告されたのみでした8。
国際的なNEXT研究(PPV 80.9%)と日本のコンソーシアムデータ(PPV 97.3%)の間でPPVに差が見られるのは、対象集団の違いによって説明できます。NEXT研究の対象者の平均年齢が30.7歳であったのに対し10、日本のNIPTコンソーシアムの臨床研究は当初、高年齢などの高危険度群の妊婦を主な対象としており、平均年齢は38.4歳でした9。母体年齢が高いほど疾患の有病率が高くなるため、PPVも高くなります。この比較は、PPVが固定された数値ではなく、個人の背景にある危険度(特に年齢)によって変動するという原則を明確に示しています。
指標 | 21トリソミー(ダウン症候群) | 18トリソミー(エドワーズ症候群) | 13トリソミー(パタウ症候群) |
---|---|---|---|
感度 (Sensitivity) | 99.3%9 | 97.4%9 | 97.4%9 |
特異度 (Specificity) | 99.9%9 | 99.9%9 | 99.9%9 |
陽性的中率 (PPV) – 高危険度群/日本 | ~97.3%8 | ~76%11 | ~45%11 |
陽性的中率 (PPV) – 一般集団 | ~80.9%10 | 40.0%17 | データ限定的 |
偽陰性率 (False Negative Rate) | 極めて低い (例: 3/58,893)8 | 極めて低い (例: 3/58,893)8 | データ限定的 |
NIPTの結果に影響する要因:偽陽性・偽陰性の原因は?
NIPTの結果は100%正確ではありません。その背景には、技術的な限界だけでなく、複雑な生物学的要因が存在します。
偽陽性の最大の原因「胎盤モザイク」とは
NIPTで偽陽性(検査結果は陽性だが、胎児は正常)となる最大の原因は、「胎盤限局性モザイク(Confined Placental Mosaicism, CPM)」と呼ばれる現象です12。これは、胎盤には染色体異常を持つ細胞と正常な細胞が混在している(モザイク)が、胎児自身の細胞はすべて正常である状態を指します13。NIPTは胎盤由来のDNAを分析するため、胎盤に異常細胞があれば、たとえ胎児が正常であっても「陽性」と判定してしまうのです13。CPMは全妊娠の約1-2%で発生すると考えられています14。
この現象は、NIPTの「偽陽性」が必ずしも検査の「エラー」ではなく、生物学的な現実に起因するものであることを示しています。そして、胎児の状態を直接反映する羊水(胎児由来の細胞を含む)を用いた羊水検査が、なぜ確定診断に不可欠であるかを明確に説明するものです14。その他、母体自身の染色体異常(母が気づいていないモザイクなど)や、極端に低い胎児DNA分画(fetal fraction)も偽陽性の原因となり得ます15。
双子(双胎妊娠)の場合の精度
NIPTは双胎妊娠にも適用可能ですが、その精度についてはデータがまだ発展途上です16。ある研究では双胎妊娠において非常に高い感度(100%)と特異度(99.9%)が報告されていますが16、一方で、より大規模なメタアナリシスでは、単胎妊娠と比較して双胎妊娠では感度が低下する(21トリソミーで9%、18トリソミーで28%低下)ことが示唆されています9。この矛盾は、研究デザインの違いや、一絨毛膜性と二絨毛性といった双胎の種類による影響などが考えられます。双胎妊娠の場合、NIPTの結果の解釈にはより慎重な姿勢が求められるため、専門医との十分な相談が不可欠です。
不正確な結果の種類 | 主な原因 | 簡単な説明 |
---|---|---|
偽陽性 (False Positive) | 胎盤限局性モザイク (CPM) | 胎盤にのみ染色体異常が存在し、胎児は正常。NIPTは胎盤のDNAを検出する。18 |
偽陽性 (False Positive) | 母体自身の染色体異常/モザイク | 妊婦さん自身が、自覚していない染色体異常やモザイクを持っている場合。15 |
偽陽性/判定保留 | 低胎児DNA分画 (Low Fetal Fraction) | 母体血中の胎児由来DNAの割合が低すぎて、正確な解析ができない。15 |
偽陰性 (False Negative) | 胎児モザイク(胎盤は正常) | 胎児には異常細胞があるが、胎盤は正常なため、NIPTでは検出されない稀な症例。14 |
偽陰性 (False Negative) | 技術的限界 | 極めて稀だが、解析上の限界により異常を検出できない場合がある。 |
日本の公式ガイドライン:安心して検査を受けるために知っておくべきこと
日本においてNIPTは、その倫理的・社会的な影響の大きさから、日本産科婦人科学会(JSOG)や日本医学会などの専門家組織によって慎重に運用されています。安心して検査を受けるためには、この運用体制を理解することが重要です。
なぜ「認定施設」を選ぶべきなのか
当初、日本産科婦人科学会(JSOG)はNIPTの実施施設を厳格に管理する指針を策定しました。この指針に基づき、産婦人科医、小児科医、臨床遺伝専門医などが常勤し、適切な遺伝カウンセリング体制と確定的検査(羊水検査など)が実施できる医療機関のみが「基幹施設」または「連携施設」として認定されました5。現在、この認証制度はより中立的な「日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会」によって運営されていますが、質の高い医療提供を担保するという基本理念は引き継がれています19。
一方で、この認証制度の枠外でNIPTを提供する「無認定施設」も存在します20。これらの施設は年齢制限がなく、費用が安い場合もありますが、最も重要な遺伝カウンセリング体制が不十分である可能性が指摘されています。実際に、カウンセリングが不十分な施設で安易に検査を受け、陽性結果を知らされてから途方に暮れ、後悔したという体験談も報告されています21。三上幹男医師や木村正医師などの専門家が関与する認証制度は5、妊婦さんが身体的・精神的に守られるための安全網であり、「認定施設」を選ぶことは、単なる規則遵守の問題ではなく、質の高い医療と支援を受けるための賢明な選択です。
検査前後の「遺伝カウンセリング」の重要性
日本のガイドラインでは、検査前後に専門家による十分な「遺伝カウンセリング」を受けることが義務付けられています5。
- 検査前カウンセリング: 検査の限界、陽性・陰性の意味、偽陽性・偽陰性の可能性、確定的検査の必要性などについて、中立的な立場で十分な情報提供が行われます。また、対象となる疾患や、障がいを持つことの意味についても話し合われます5。
- 検査後カウンセリング: 特に陽性結果が出た場合に極めて重要です。結果の医学的な意味を正確に理解し、羊水検査などの次の段階について相談し、必要に応じて小児科医や福祉サービス、患者支援団体など、継続的な支援体制へとつなぐ役割を果たします19。
遺伝カウンセリングは、単なる情報伝達の場ではありません。それは、妊婦さんとそのパートナーが複雑な医療情報と向き合い、不安を乗り越え、自分たちの価値観に沿った納得のいく意思決定を下すための、不可欠な支援過程なのです。
NIPT体験談から学ぶ:陽性と言われたとき、どうすればいい?
科学的なデータやガイドラインだけでなく、実際にNIPTを経験した人々の声に耳を傾けることは、検査の現実をより深く理解するために不可欠です。
先輩ママたちの心の軌跡
NIPTを経験した人々のブログや体験談からは、共通した感情の軌跡が見て取れます21。多くは、高年齢出産などへの「不安」から、「安心」を求めてNIPTを受けます22。しかし、予期せず「陽性」の通知を受けたとき、その安心は「なぜ自分が?」という衝撃と混乱に変わります21。そこから確定的検査の結果を待つまでの日々は、「偽陽性であってほしい」という一縷の望みを胸に抱きながら過ごす、非常に精神的負荷の高い期間となります。
陽性が確定した後の決断は、家族にとって極めて重いものです。多くの症例で人工妊娠中絶が選択されていますが23、その過程は心身ともに大きな痛みを伴います21。
一方で、興味深いことに、調査ではNIPTを受けた人の9割以上が「受けて良かった」と回答しています22。これは、大多数を占める「陰性」結果を得た人々が、妊娠期間中の大きな不安を解消できたことによる満足感の表れでしょう。この事実は、NIPTが多くの人にとって有益な手段であることを示唆する一方で、陽性となる約1.8%の人々が経験するであろう困難な道のりに対して、事前の心構えと十分な支援体制がいかに重要であるかを物語っています。
「命の選別」という倫理的な問題との向き合い方
NIPTは、「命の選別」につながるのではないかという深刻な倫理的懸念を提起します24。これは、障がいを持つ人々の権利を尊重する観点から、日本社会で非常に慎重に議論されているテーマです。
この問題に唯一の正解はありません。NIPTを支持する人々は、親が事前に情報を得ることで、精神的・経済的な準備をしたり、慎重な意思決定を行ったりする権利を重視します24。一方で、反対する人々は、検査結果が安易な中絶につながり、障がいを持つ人々の生きる権利を脅かす可能性を懸念します20。
重要なのは、どちらか一方の意見を押し付けるのではなく、すべての視点を尊重することです。そして、最終的な決断は、十分な情報提供と専門的なカウンセリングに基づき、妊婦さんとそのパートナーが主体的に下すべきものであり、その決断は尊重されなければなりません25。
よくある質問
NIPTは他の非確定的検査より精度が高いですか?
はい。NIPTの感度(ダウン症候群で約99%)は、母体血清マーカー検査(クアトロテストで感度約80~85%)など、他の非侵襲的スクリーニング検査よりも大幅に高いとされています8。
陽性と判定される確率はどれくらいですか?
日本の大規模調査では、全体の約1.8%(約50人に1人)が何らかのトリソミーで陽性と判定されています8。ただし、この確率は妊婦さんの年齢や検査理由によって変動します。
陽性と言われたら、どうすればいいですか?
まずは落ち着いて、主治医や遺伝カウンセラーに連絡してください。NIPTはスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。次の段階として、診断を確定するための羊水検査を受けるかどうかを、専門家と十分に相談しながら決めることになります。
偽陽性となる可能性はありますか?
はい、あります。特に若い年齢の妊婦さんや、13トリソミー、18トリソミーのように発生頻度が低い疾患では、陽性結果が偽陽性である可能性が相対的に高くなります。主な原因は「胎盤モザイク」です。
陰性だったら100%安心できますか?
陰性の場合、対象となる染色体異常を持つ可能性は極めて低くなりますが、ゼロではありません。「偽陰性」という非常に稀な症例が存在するため、100%の保証ではないことを理解しておく必要があります5。
結論
NIPTは、妊娠中の不安を軽減し、赤ちゃんの健康状態についてより多くの情報を得るための強力な手段です。その精度は従来のスクリーニング検査を大きく上回ります。しかし、その力を最大限に活用し、予期せぬ結果に備えるためには、以下の点を心に留めておくことが不可欠です。
- NIPTはスクリーニング検査です。 「陽性」は可能性の高さを示す信号であり、最終診断には羊水検査などの確定的検査が必要です。
- 「陽性的中率(PPV)」が最も重要です。 「陽性」の結果がどれだけ信頼できるかは、あなたの年齢や対象疾患によって大きく変わります。この数字の意味をカウンセリングで必ず確認してください。
- 「認定施設」を選びましょう。 質の高い遺伝カウンセリングと適切な医療連携は、安心して検査を受け、どんな結果にも対応するための安全網です。
- 心構えと対話が大切です。 検査を受ける前に、パートナーと「もし陽性だったらどうするか」について話し合っておくことが、後悔のない選択につながります。
NIPTは、単なる血液検査ではありません。それは、家族の未来に関わる重要な情報をもたらす可能性のある、深い意味を持つ過程です。本記事が、あなたがNIPTについて科学的かつ多角的に理解を深め、ご自身とご家族にとって最善の道を歩むための一助となることを心から願っています。
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