片側頭痛の完全ガイド:原因・危険な兆候の見分け方から日本の最新治療法までを徹底解説
脳と神経系の病気

片側頭痛の完全ガイド:原因・危険な兆候の見分け方から日本の最新治療法までを徹底解説

片側のこめかみや頭部が痛む時、「右側だから」「左側だから」と、その位置に特別な意味があるのではないかと考えたことはありませんか。それはもっともな疑問ですが、現代医学では、痛みの場所は重要な手がかりの一つであるものの、診断を決定づけるのはむしろ痛みの性質(拍動性か、締め付けられるようか)、持続時間、そして伴う症状であることが示されています。例えば、片頭痛(へんずつう)はその名の通り片側に起こることが多いですが、両側に発生することも少なくありません1。したがって、痛みの位置だけに注目すると、重要なサインを見逃す可能性があります。ご自身の頭痛を正しく理解するためには、まず医学的な大原則である「一次性頭痛」と「二次性頭痛」の違いを把握することが不可欠です2

  • 一次性頭痛:頭痛そのものが病気である状態です。背景に他の病気がなく、慢性的に繰り返される頭痛で、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などがこれにあたります。
  • 二次性頭痛:他の病気が原因で症状として現れる頭痛です。原因は副鼻腔炎のような一般的なものから、脳出血や脳腫瘍といった生命を脅かす深刻なものまで多岐にわたります3

この二つを鑑別することは、安全を確保する上で最も重要な第一歩です。本稿では、JHO編集委員会が、片側頭痛のあらゆる原因について包括的な分析を行い、症状の見分け方、緊急受診が必要な危険な兆候、そして最も信頼性の高い科学的根拠に基づいた効果的な管理法を、日本の読者の皆様に向けて詳細に解説します。

この記事の科学的根拠

本記事は、ご提供いただいた研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。以下は、本記事で提示される医学的指針に直接関連する主要な情報源です。

  • 国際頭痛学会(IHS) – 国際頭痛分類第3版(ICHD-3):この記事における頭痛の分類と診断基準は、世界中の専門家による合意形成の成果であり、頭痛診断の「ゴールドスタンダード」とされるICHD-3に基づいています。これにより、診断の正確性と国際的な整合性が保証されています45
  • 日本頭痛学会・日本神経学会ほか – 頭痛の診療ガイドライン2021:この記事における日本国内での臨床的推奨、特に治療法や管理戦略に関する記述は、日本の医療現場と患者背景に合わせて策定された「頭痛の診療ガイドライン2021」を主たる典拠としています。これにより、日本の読者にとって実践的かつ適切な情報提供が担保されています67

要点まとめ

  • 片側頭痛の診断では、痛む「場所」よりも「痛みの性質」(ズキズキする拍動性か、締め付けられるかなど)や伴う症状(吐き気、光・音への過敏さ)が重要です。
  • 頭痛には、頭痛自体が病気である「一次性頭痛」と、他の病気が原因の「二次性頭痛」があります。後者を見逃さないことが極めて重要です。
  • 「SNNOOP10」と呼ばれる危険な兆候(突然の激痛、50歳以降の初発、麻痺を伴うなど)を一つでも認めた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。
  • 日本では、市販の鎮痛薬の過剰使用が原因で起こる「薬物乱用頭痛(MOH)」が深刻な問題です。頻繁な頭痛に悩む方は自己判断せず、専門医に相談することが悪循環を断つ鍵です。

一次性頭痛:片側頭痛の最も一般的な原因

このセクションでは、片側に痛みを引き起こすことが多い一次性頭痛の種類を深く掘り下げて分析します。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の公式診断基準を基盤とし、日本国内の状況に即した詳細な情報、統計、臨床的特徴を加えて解説します。

片頭痛:生活に支障をきたす拍動性の痛み

片頭痛は単なる頭痛ではなく、個人の生活を著しく損なう可能性のある複雑な神経疾患です。

日本における有病率と影響

片頭痛は、日本において重大な公衆衛生上の課題です。全国調査によると、日本の人口の約8.4%が片頭痛に罹患していると報告されています8。この割合は女性で著しく高く、特に20代から40代の労働年齢層において、男性の約3~4倍にものぼります1。その影響は身体的な痛みにとどまらず、生活の質、労働能力、経済的生産性に深刻な打撃を与えます9。しかし、懸念すべき現状として、この疾患はしばしば適切に診断されていません。多くの患者が医療機関を受診せず、市販の鎮痛薬に頼ることで、不適切な管理に陥り、さらなる問題を引き起こす危険性があります10

ICHD-3診断基準(前兆のない片頭痛)

これは最も一般的な片頭痛のタイプです。ICHD-3によれば、診断には以下の基準を満たす必要があります11

  1. B~Dの基準を満たす発作が5回以上ある。
  2. 持続時間:頭痛は4時間から72時間続く(未治療または治療が無効の場合)11
  3. 頭痛の性質(以下の4つのうち少なくとも2つを満たす):
    • 片側性:痛みは通常、頭の片側に局在する11
    • 拍動性:「ズキズキ」「ズキンズキン」といった擬音語で表現される、脈打つような痛み1
    • 中等度~重度の痛み:日常生活を妨げるほどの強い痛み11
    • 日常的な身体活動による増悪:歩行や階段の上り下りといった通常の動作で痛みが悪化するため、患者はこれらの活動を避けるようになる12

ここで日本の読者にとって極めて重要な点は、「頭痛の診療ガイドライン2021」が、患者はこれらの4つの痛みの特徴のうち2つを満たせばよいと明記していることです13。これは、頭痛が必ずしも片側性でなかったり、拍動性でなかったりしても、片頭痛と診断されうることを意味します。この明確化は、非典型的な症状を持つ多くの人々が自身の状態を片頭痛かもしれないと認識し、正確な診断を求める上で非常に重要です。

  1. 随伴症状(以下の2つのうち少なくとも1つを満たす):
    • 悪心(吐き気)および・または嘔吐11
    • 光過敏および音過敏2

前兆のある片頭痛

患者の約20~30%は、「前兆(アウラ)」と呼ばれる一過性の神経症状を、頭痛が始まる前または最中に経験します14。最も一般的な前兆は閃輝暗点(せんきあんてん)であり、視界にキラキラした光やギザギザした歯車のような光が見える状態として描写されます3。前兆の症状は通常5分ほどかけて徐々に広がり、5分から60分間持続し、完全に回復します15

基本的なメカニズム

片頭痛のメカニズムを説明する現在の主要な理論は「三叉神経血管説」です。この説によれば、何らかの誘発因子が、顔面の感覚を司る三叉神経を刺激し、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)をはじめとする神経化学物質を放出させます。これらの物質が脳の硬膜にある血管を拡張・炎症させ、特徴的な拍動性の痛みを引き起こすと考えられています16

一般的な誘発因子

個人の誘発因子を特定することは、片頭痛管理の重要な部分です。一般的なものには、ストレスおよびストレスからの解放、ホルモンバランスの変動(特に月経周期に関連)、睡眠の変化(寝過ぎまたは寝不足)、天候の変化(特に低気圧)、アルコール(特に赤ワイン)、チョコレート、チーズ、ナッツ類などの特定の食品が含まれます17


群発頭痛:耐え難い痛みが周期的に襲う

群発頭痛は、一次性頭痛の中では稀ですが、人類が経験しうる最も激しい痛みを引き起こすものの一つです。その痛みはしばしば耐え難いと表現され、その重篤さから「自殺頭痛」と呼ばれることさえあります12

核心的な特徴

この疾患は、症状においても、発作中の患者の行動においても、片頭痛とは明確に異なります3

ICHD-3診断基準

診断は、以下の非常に特徴的な臨床像に基づきます18

  1. B~Dの基準を満たす発作が5回以上ある。
  2. 痛みの描写:痛みは極めて重度で、常に片側性。眼窩、眼窩上部、側頭部のいずれかまたは複数に集中する。痛みは「えぐられるような」「突き刺すような」と表現され、「片目の奥がえぐられるような鋭利な痛み」という生々しい日本語表現がしばしば用いられます3
  3. 持続時間と頻度:発作は15分から180分と比較的短いが、2日に1回から1日8回という高い頻度で発生しうる19
  4. 特徴的な自律神経症状(痛みと同側に、以下のうち少なくとも1つを認める):
    • 結膜充血および・または流涙(目が赤くなる、涙が出る)3
    • 鼻閉(鼻づまり)および・または鼻漏(鼻水)3
    • 眼瞼浮腫(まぶたの腫れ)18
    • 顔面の発汗3
    • 縮瞳および・または眼瞼下垂(瞳孔が小さくなる、まぶたが下がる)、部分的なホルネル症候群とも呼ばれる3
  5. 落ち着きのなさ・興奮状態:これは重要な行動的特徴です。暗く静かな場所でじっとしていたい片頭痛患者とは対照的に、群発頭痛の患者は落ち着きがなく興奮し、じっとしていられず、歩き回ったり体を揺すったりすることが多い3

「群発期」

「群発頭痛」という名称は、発作が数週間から数ヶ月にわたる「群発期」に集中して起こることに由来します。群発期の間には、数ヶ月、時には数年にわたる無症状の寛解期があります。もう一つの顕著な特徴は、驚くほど正確な概日リズムで、発作は毎日ほぼ同じ時刻に、特に夜間に起こり、患者を痛みで目覚めさせることが多いです2

人口統計学的特徴

この疾患は男性の有病率が女性より著しく高いですが、その差は縮小傾向にあるようです。発症年齢は20代から40代が一般的です2


「三大頭痛」とその他の一次性頭痛の鑑別

正確な診断のためには、一次性頭痛の各タイプを区別することが極めて重要です。

緊張型頭痛との比較

これは一般人口で最も頻度の高い頭痛です3

  • 痛みの性質:「万力で締め付けられるような」「鉢巻で締め付けられるような」と表現される圧迫感や緊張感が特徴です。「頭を孫悟空の輪っかで締め付けられているよう」という日本語の表現も知られています3。痛みは両側性が多いですが、片側性の場合もあります。
  • 主な違い:片頭痛と異なり、緊張型頭痛は身体活動で悪化しません。痛みの強度は軽度から中等度で、悪心、嘔吐、または群発頭痛に見られるような顕著な自律神経症状を伴うことはありません20

その他の片側性頭痛

  • 三叉神経痛:数秒間だけ続く、電気が走るような、極めて激しい鋭い痛みが特徴です。顔に触れる、噛む、歯を磨くといった無害な行為で誘発されることが多いです1
  • 持続性片側頭痛:持続的で絶え間なく続く片側性の頭痛です。最も重要な診断的特徴は、抗炎症薬であるインドメタシンに完全に反応することです。この薬で痛みが完全になくなれば、診断はほぼ確定します21

表1:一次性頭痛の比較分析表

以下の表は、最も一般的な3つの一次性頭痛の主な特徴を比較したものです。このツールは、ご自身の症状を体系的に評価し、医師との対話に備えるのに役立ちます。

特徴 片頭痛 緊張型頭痛 群発頭痛
場所 通常は片側(両側もあり)1 通常は両側(片側もあり)3 常に片側(眼の奥・側頭部)18
痛みの性質 ズキズキする拍動性1 重苦しい、締め付けられる圧迫・緊張性3 激痛、えぐられるような、刺すような3
痛みの強さ 中等度~重度11 軽度~中等度20 極めて重度18
持続時間 4~72時間11 30分~7日間20 15~180分19
発作中の行動 暗く静かな場所で休みたい12 通常の活動は可能 落ち着かず、興奮し、歩き回る3
随伴症状 悪心・嘔吐、光・音への過敏11 なし、または軽い光・音への過敏20 同側の自律神経症状(目の充血、流涙、鼻閉など)3
主な誘因 ストレスからの解放、ホルモン、睡眠変化17 ストレス、不自然な姿勢22 アルコール(群発期)、概日リズムの変化23

二次性頭痛:片側痛が重要な警告である場合

このセクションは、読者の安全にとって最も重要な部分です。ほとんどの頭痛は一次性で生命に危険を及ぼすものではありませんが、ごく一部は深刻な病態の警告サインです。これらの「危険な兆候(レッドフラッグ)」を認識することは、命を救うことにつながる可能性があります。

危険を察知する医師の指針:「SNNOOP10」

世界中の医師は、二次性頭痛の危険な兆候を選別するために「SNNOOP10」という記憶術を用いています。このシステムを理解することは、危険な症状を認識し、迅速に行動するために役立ちます。以下に各要素を詳述します24

  • S – Systemic Symptoms(全身症状):頭痛に加えて発熱、悪寒、原因不明の体重減少、筋肉痛など全身に影響する症状を伴う場合。髄膜炎などの感染症、側頭動脈炎などの炎症性疾患、悪性腫瘍の可能性があります24
  • N – Neoplasm History(がんの既往歴):がんの既往歴がある患者に新たな頭痛が出現した場合。脳への転移が強く疑われます25
  • N – Neurologic Deficit(神経脱落症状):頭痛に加えて、体の片側の脱力や麻痺、複視や失明などの視覚変化、錯乱、言語障害、けいれん、意識消失などの局所的な神経症状を伴う場合。脳卒中、脳腫瘍、脳膿瘍など、脳の構造的な問題を示唆します24
  • O – Onset (sudden)(突然の発症):1分以内に痛みが頂点に達する雷鳴のような激しい頭痛(雷鳴頭痛)。生命を脅かすくも膜下出血の典型的な兆候です2
  • O – Older Age of Onset(高齢での発症):50歳以降に初めて新しいタイプの頭痛が出現した場合。失明につながる可能性のある巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)や悪性腫瘍の疑いが高まります1
  • P – Pattern Change(パターンの変化):既存の頭痛の頻度、強さ、性質が著しく変化した場合。「いつもの頭痛」との違いは、新たな病態の進行を示唆している可能性があります25。診断を受けていない「頭痛もち」の方にとって、「いつもと違う」頭痛は特に重要な危険信号です。
  • P – Positional(体位による変化):立ち上がると著しく悪化し、横になると改善するなど、頭痛が体位によって大きく変化する場合。髄液圧の問題(低髄液圧症候群など)が考えられます24
  • P – Precipitated by exertion(労作による誘発):咳、くしゃみ、いきみなど、腹圧・胸腔内圧を上げる行為で突然誘発されたり悪化したりする場合。脳の後方の構造異常(後頭蓋窩病変)の兆候である可能性があります24
  • P – Papilledema(うっ血乳頭):眼底にある視神経乳頭の腫れ。これは医師が眼底検査でしか発見できない所見ですが、脳圧が亢進している客観的なサインです24
  • P – Progressive Headache(進行性の頭痛)/ Atypical Presentations(非典型的な状況):時間経過ととも着実に悪化していく頭痛、または妊娠中や産後など特殊な状況下での頭痛。進行性の頭痛は増大する腫瘍や慢性硬膜下血腫を示唆し、妊娠関連の頭痛は脳静脈血栓症や子癇などの重篤な疾患のリスクが高まります24

表2:危険な頭痛の兆候「SNNOOP10」チェックリスト

これは、専門用語を一般の方向けのチェックリストに変換した重要な安全ツールです。具体的な危険信号を認識し、直ちに医療機関を受診する正当な理由を提供します。

記号・危険な兆候 臨床的意味 考えられる重篤な病気 必要な対応
S – 全身症状 頭痛+発熱、体重減少、悪寒 髄膜炎、動脈炎、がん 直ちに医師の診察を受ける
N – がんの既往歴 がん既往歴のある人の新しい頭痛 脳転移 直ちに医師の診察を受ける
N – 神経脱落症状 頭痛+麻痺、しびれ、複視、けいれん、錯乱 脳卒中、脳腫瘍、脳出血 直ちに救急車を呼ぶ
O – 突然の発症(雷鳴頭痛) 1分以内に頂点に達する激痛 くも膜下出血、動脈解離 直ちに救急車を呼ぶ
O – 50歳以降の初発 50歳以降に初めて出現した頭痛 側頭動脈炎、脳腫瘍 直ちに医師の診察を受ける
P – パターンの変化 「いつもの頭痛」と違う、または悪化 脳腫瘍、慢性硬膜下血腫 直ちに医師の診察を受ける
P – 体位による変化 立つと悪化し、横になると軽快する頭痛 低髄液圧症候群 医師の診察を受ける
P – 咳・くしゃみで誘発 咳、くしゃみ、いきみで出現する頭痛 後頭蓋窩の構造異常、脳圧亢進 医師の診察を受ける
P – うっ血乳頭 視神経の腫れ(医師が発見) 脳圧亢進(腫瘍、炎症など) 医師の指示に従う
P – 進行性・非典型的 日々悪化する頭痛、妊娠中・産後の頭痛 脳腫瘍、血腫、子癇、脳静脈血栓症 直ちに医師の診察を受ける

片側痛を引き起こす特定の重篤な病態

  • くも膜下出血:「これまでの人生で最悪の頭痛」と表現されることが多く、雷鳴のように突然発症します。これは絶対的な救急疾患であり、直ちに救急車を呼ぶ必要があります1
  • 脳卒中・椎骨動脈解離:突然の片側性の痛み、特に後頭部や首の痛みとして現れることがあります。この痛みは、めまい、嘔吐、平衡失調といった他の神経症状が現れる数日前に先行することがあります。これも救急疾患です26
  • 脳腫瘍:脳腫瘍による頭痛は通常、時間とともに徐々に悪化する進行性の特徴を持ちます。朝方に痛みが強くなったり、夜間に痛みで目覚めたりすることがあり、麻痺、けいれん、性格の変化などの新たな神経症状を伴うことが多いです1
  • 巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎):50歳以上の人における片側頭痛の重要な原因です。側頭部に局在する新しい頭痛、触ると痛む頭皮の圧痛、噛むときの顎の痛み、微熱や倦怠感などの全身症状を伴うことが典型的です。失明を防ぐために早期の診断と治療が不可欠です1
  • 急性副鼻腔炎:影響を受けている副鼻腔(前頭部、頬、目の周り)に痛みや圧迫感を引き起こします。通常、発熱、鼻閉、膿性の鼻汁を伴います1
  • 顎関節症:側頭部や顎に痛みを引き起こすことがあり、しばしば咀嚼筋の緊張に関連しています。この痛みは頭痛と誤認されることがあります1

行動計画:頭痛を主体的に管理するアプローチ

このセクションでは、理論的な知識から具体的な行動ステップへと移行し、診断、治療、予防に焦点を当てます。特に、日本における重要な公衆衛生問題である「薬物乱用頭痛」について深く議論します。

診断を求める:頭痛ダイアリーの役割と医療機関の受診

いつ医師に相談すべきか

原則として、「SNNOOP10」の危険な兆候リストにある症状は、いかなるものでも直ちに医療機関の受診が必要です。緊急ではないものの、繰り返す頭痛に悩まされている場合は、かかりつけ医または頭痛専門医に相談することが強く推奨されます2

頭痛ダイアリーの力

これは、患者が医師に提供できる最も有用なツールです。丁寧に記録された日記は、医師が以下の点を理解するための貴重な情報源となります:

  • 頭痛のパターン(頻度、持続時間、強さ)
  • 潜在的な誘発因子
  • 使用した薬剤の効果

日本の頭痛診療の第一人者である坂井文彦医師が監修した2025年版の頭痛ダイアリーのようなツールを活用することは、あなたと医師との対話をはるかに効果的にするでしょう27。日記には、発作の開始・終了日時、痛みの強さ(10段階評価)、痛みの性質、随伴症状、服用した薬と効果、疑われる誘発因子、そして女性の場合は月経周期を記録することが推奨されます28

根拠に基づく治療戦略と自己管理法

急性期治療(痛みが起きている時)

  • 片頭痛の場合:暗く静かな部屋で休むことが最も効果的な対策の一つです12。痛む側頭部や前頭部を冷却パックで冷やすと、血管が収縮し痛みが和らぐことがあります29。発作の初期に少量のカフェイン(コーヒーなど)を摂取することも、血管収縮作用により一部の人には有効です29。市販の鎮痛薬や、医師から処方されたトリプタン製剤などの特異的治療薬を使用します17
  • 緊張型頭痛の場合:首や肩の軽いストレッチ、マッサージ、温罨法(温めること)は、筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減するのに役立ちます。市販の鎮痛薬が効果的なことが多いです。
  • 群発頭痛の場合:これは専門医による管理が必要です。最も効果的な急性期治療には、高流量酸素吸入や、処方箋による注射または点鼻のトリプタン製剤が含まれます19

予防戦略(生活習慣と薬物療法)

規則正しい睡眠スケジュールの維持、規則的な食事(空腹を避ける)、リラクゼーション技法や瞑想による効果的なストレス管理、定期的な運動といった生活習慣の改善は、片頭痛と緊張型頭痛の予防の基盤です17。頭痛ダイアリーを用いて個人の誘発因子を特定し、可能な限り避けることも重要です17。頻繁または重度の頭痛に悩む人には、医師が予防薬を処方することがあります。日本のガイドラインでも推奨されているように、これらの薬の目的は病気を治すことではなく、発作の頻度と重症度を軽減することです7

日本の重要な公衆衛生問題:薬物乱用頭痛(MOH)

これは極めて重要でありながら見過ごされがちな問題です。これを理解することは、慢性頭痛の悪循環を断ち切るための鍵となります。

日本における背景

日本には危険な悪循環が存在します。データによると、片頭痛患者の大部分が未診断のまま放置されています10。適切な診断と治療を受けないため、彼らは市販の鎮痛薬を頻繁に使用して自己治療に頼る傾向があります30。皮肉なことに、この鎮痛薬のあまりにも頻繁な使用自体が、「薬物乱用頭痛(Medication-Overuse Headache – MOH)」と呼ばれる二次性頭痛を引き起こす可能性があるのです3。もう一つの障壁は、「薬物乱用頭痛」という言葉に対する誤解です。多くの日本人はこの言葉を聞くと、違法薬物の乱用を連想しがちで、一般的な鎮痛薬の過剰使用を指すとは理解していません31

統計によれば、MOHは日本の一般人口の約1~2%に影響を与え、頭痛専門外来ではその割合はさらに高くなります32。最近の研究では、急性期治療薬の過剰処方が依然として一般的であることも指摘されています33

診断基準と解決策

MOHを診断するための一般的なルールは、月に15日以上頭痛があり、一次性頭痛の既往があり、かつ1種類以上の急性期治療薬を3ヶ月以上にわたって過剰使用していることです3。「過剰使用」とは、一般的に通常の鎮痛薬を月に15日以上、またはトリプタン製剤のようなより特異的な薬を月に10日以上使用することと定義されています。
MOHに対する主要かつ最も効果的な治療法は、医師の厳格な監督のもとで、乱用されている薬剤の使用を中止することです。このプロセスは、頭痛が改善する前に一時的に悪化することがあるため、困難を伴う場合があります。したがって、ここで強調したい重要なメッセージは、もしあなたが頻繁な頭痛に悩んでいるなら、自己判断で鎮痛薬に頼らないでください、ということです。正確な診断を得て、この一般的でありながら深刻な罠に陥るのを避けるために、医療専門家のアドバイスを求めてください。


結論

本稿では、片側頭痛に関する詳細かつ根拠に基づいた分析を提供し、日本の読者の皆様がご自身の状態を効果的かつ安全に管理するために必要な知識を身につけることを目的としました。

要点の再確認

  • 「右か左か」を超えて:頭痛診断の核心は、場所ではなく、痛みの性質(拍動性、締め付け感)、持続時間、随伴症状にあります。
  • 一次性と二次性の鑑別:一次性頭痛(一般的で管理可能)と二次性頭痛(稀だが危険な可能性)の違いを理解することは、あなたの安全の基盤です。
  • 「危険な兆候」の認識:SNNOOP10システムは、重篤な病態の警告サインを認識するための強力なツールです。いずれかの兆候があれば、直ちに医療の助けを求めるべきです。
  • 悪循環を断つ:日本では、未診断、市販薬での自己治療、そして薬物乱用頭痛(MOH)への移行という悪循環が現実的な問題です。これを認識することが、抜け出すための第一歩です。

今後の展望

本稿の最終目標は、自己診断を促すことではなく、あなたが自身の健康管理において知識を持ったパートナーとなることです。ご自身の症状を理解し、頭痛ダイアリーを丁寧に記録し、いつ助けを求めるべきかを知ることで、日本の医療専門家と効果的に連携し、正確な診断と適切な管理計画を得ることができます。知識は力です。正しい知識を身につけることは、頭痛をコントロールし、生活の質を向上させるための最も重要な一歩なのです。

よくある質問

片側が痛む頭痛は、すべて片頭痛なのでしょうか?

いいえ、必ずしもそうではありません。片頭痛は片側に起こることが多いですが、緊張型頭痛や群発頭痛、さらには脳卒中や動脈解離といった危険な二次性頭痛も片側に痛みを引き起こすことがあります。痛みの性質(ズキズキするか、締め付けられるか)、持続時間、伴う症状(吐き気、麻痺など)を総合的に見ることが診断には不可欠です。

「雷鳴頭痛」とは何ですか?なぜ危険なのですか?

雷鳴頭痛とは、雷が落ちたような衝撃で、発症から1分以内に痛みがピークに達する、これまでに経験したことのないような激しい頭痛のことです。これは、生命を脅かす「くも膜下出血」の典型的な症状であるため、極めて危険な兆候とされています。この種の頭痛を経験した場合は、ためらわずに直ちに救急車を呼ぶ必要があります。

鎮痛薬の使いすぎかどうか、どうすればわかりますか?

薬物乱用頭痛(MOH)のリスクを判断する一般的な目安があります。市販の鎮痛薬(アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬など)を月に15日以上、またはトリプタン製剤のような片頭痛専用の処方薬を月に10日以上使用している場合、「過剰使用」と見なされる可能性があります。頭痛の頻度が増え、薬が効きにくくなったと感じる場合は、MOHに陥っている可能性があるため、専門医への相談が強く推奨されます。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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