この記事は、医療専門家の監修のもと、あなたの信頼できる伴走者となります。原因や症状、最新の治療法から、婦人科受診の恐怖を乗り越える方法、そして将来への不安にどう向き合うかまで、骨盤内炎症性疾患に関するすべてを一緒に学んでいきましょう。あなたの健康は何よりも尊いものです。私たちと共に、それを守り抜きましょう。
この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。
- 米国疾病予防管理センター(CDC): この記事における骨盤内炎症性疾患の治療推奨(特にメトロニダゾールの使用の重要性)や予防に関するガイダンスは、CDCが発表したガイドラインに基づいています1。
- 予防会: 日本国内の治療実態と国際標準との比較分析に関する記述は、予防会が提供する情報源に基づいています2。
- MSDマニュアル: 骨盤内炎症性疾患の定義、症状、および重篤な合併症(不妊症や子宮外妊娠など)に関する基本的な医学的説明は、MSDマニュアルの記述を参考にしています3。
- 日本産科婦人科学会などの国内専門機関: 日本における診断プロセスや保険適用に関する情報は、済生会などの国内の医療機関や専門家の見解を反映した情報源に基づいています4。
要点まとめ
- 骨盤内炎症性疾患(PID)は、子宮、卵管、卵巣などに起こる深刻な感染症で、主に無治療のクラミジアや淋菌などの性感染症が原因です。
- 下腹部痛、おりものの異常、不正出血などが主な症状ですが、症状がほとんどない「静かなPID」も多く、気づかないうちに不妊や子宮外妊娠のリスクを高めます。
- 診断が遅れるほど不妊のリスクが急増するため、少しでも疑わしい症状があれば、ためらわずに婦人科を受診することが極めて重要です。
- 治療の鍵は、広範囲の細菌に有効な抗生物質を早期に開始することです。パートナーも同時に検査・治療を受けなければ、再感染のリスクが非常に高くなります。
第1章:骨盤内炎症性疾患(PID)を正しく理解する – 女性の静かなる敵
骨盤内炎症性疾患は、多くの女性がその名を知らないかもしれない、しかし誰にでも起こりうる深刻な健康問題です。この病気の本質を理解することは、自分自身を守るための第一歩です。
骨盤内炎症性疾患(PID)とは何か?
骨盤内炎症性疾患(Pelvic Inflammatory Disease、略してPID)とは、女性の上部生殖器官に生じる炎症性疾患の総称です。具体的には、子宮、卵管、卵巣などの臓器が含まれます3。病原となる細菌が膣から侵入し、子宮頸管を通り抜け、子宮内部(子宮内膜炎を引き起こす)、さらに卵管(卵管炎)、そして最終的には卵巣(卵巣炎)や骨盤全体(骨盤腹膜炎)へと上っていくことで感染が広がります。この上向きの感染経路は「上行性感染」と呼ばれ、骨盤内炎症性疾患の主な発症機序です。日本の臨床現場では、特に卵管と卵巣の炎症を指して「子宮付属器炎」という言葉が使われることも多く、これは骨盤内炎症性疾患の中核をなす病態です5。
主な原因:性感染症から骨盤内炎症性疾患へ
骨盤内炎症性疾患の最も一般的な原因は、治療されなかった、あるいは不完全に治療された性感染症(STI)に起因する細菌です4。主な病原体には以下のものがあります。
- クラミジア・トラコマティス (Chlamydia trachomatis): これが最大の原因菌です。特に危険なのは、女性においてクラミジア感染は明確な症状を示さないことが多く、気づかれないまま静かに骨盤内炎症性疾患へと進行してしまう点です2。
- 淋菌 (Neisseria gonorrhoeae): 淋菌はクラミジアよりも急性的で重い症状を引き起こすことが多く、高熱や激しい腹痛を伴うことがあります4。
- マイコプラズマ・ジェニタリウム (Mycoplasma genitalium): 近年、骨盤内炎症性疾患の重要な原因菌として認識されるようになってきており、持続的で慢性的な炎症を引き起こす傾向があります6。
- その他の細菌: 骨盤内炎症性疾患はしばしば、嫌気性細菌(酸素のない環境で増殖する細菌)や、大腸菌、連鎖球菌、ブドウ球菌といった腸内や皮膚に常在する細菌など、複数の種類の細菌が関与する混合感染です4。
その他の危険因子
性感染症に罹患していること以外にも、いくつかの要因が骨盤内炎症性疾患の発症危険性を高める可能性があります。
- 年齢: 25歳未満の若い女性は、子宮頸管がまだ完全に成熟しておらず感染に対する抵抗力が弱いため、最も危険性が高いとされています7。
- 性行動: パートナーが複数いる、新しいパートナーができた、コンドームを使用しない性交渉などは、病原体に接触する危険性を高めます7。
- 既往歴: 過去に骨盤内炎症性疾患や性感染症にかかったことがある場合、再発の可能性が高まります7。
- 膣洗浄: 頻繁な膣の洗浄(ビデの使用など)は、膣内の正常な細菌バランスを崩し、有害な細菌が繁殖して上方へ移動するのを助長する可能性があります7。
- 医療処置: 子宮内避妊器具(IUD)の挿入(特に装着後3週間が最も危険性が高い)、中絶手術、子宮内膜の生検など、子宮内に器具を挿入する処置が、意図せず細菌を内部に運び込むことがあります4。
ここで強調すべき重要な点は、性交渉の経験がある人なら誰でも骨盤内炎症性疾患にかかる危険性があるということです。クラミジアのような性感染症は無症状であることが多いため、パートナーが感染していることに気づかず、そのパートナー自身も感染の自覚がないまま、病気をうつしてしまう可能性があります2。この事実を理解することは、自己非難や羞恥心を和らげ、骨盤内炎症性疾患を道徳的な問題ではなく、解決すべき医学的な問題として捉える助けとなります。
第2章:気づきのサイン – 「もしかして私も?」
骨盤内炎症性疾患の最大の課題の一つは、その症状が非常に曖昧で、他の一般的な健康問題と間違われやすいこと、あるいは全く症状が現れないことさえある点です2。どんなに小さなサインでも早期に認識することが、あなたの生殖能力を守るための最も重要で最初のステップです。
一般的な症状
以下の症状のいずれかに気づいた場合、特に月経後や安全でない性交渉の後に現れた場合は、骨盤内炎症性疾患のサインかもしれません3。
- 下腹部痛および骨盤部痛: 最も一般的な症状です。痛みは通常、下腹部の両側に現れ、鈍い痛みや重苦しい感じから、締め付けられるような激しい痛みまで様々です。
- おりものの異常: おりものの量が増える、色が黄色や緑色に変わる、または不快な臭いがする。
- 不正性器出血: 月経と月経の間に少量の出血がある、性交渉後に出血する、または月経が普段より長く続く。
- 発熱・悪寒: 急性期にはこれらの症状が現れることがありますが、常に見られるわけではありません。
- 性交時痛: 特に性交渉の際に、奥の方が痛む感じがする。
- 排尿時痛: 排尿時に焼けるような痛みや困難を感じる。膀胱炎と間違えやすい症状です。
「静かなPID」(Subclinical PID):最大の危険
骨盤内炎症性疾患で最も恐ろしいのは、特にクラミジアが原因の場合、多くの症例で顕著な急性症状が見られないことです2。この状態は「静かなPID」または「無症候性PID」と呼ばれます。明確な痛みや不快感を引き起こさなくても、体内では静かに炎症が進行し、卵管に瘢痕(はんこん)を形成し、閉塞させてしまいます。この損傷は永続的であり、将来的に不妊症(精子と卵子が出会えなくなるため)や子宮外妊娠といった深刻な合併症の直接的な原因となります8。多くの女性は、子供ができにくいと感じて初めて、自分が過去に骨盤内炎症性疾患にかかっていたことを知るのです。これこそが、性交渉のある人が、たとえ何の症状を感じていなくても、定期的に性感染症(特にクラミジアと淋菌)のスクリーニング検査を受けることが極めて重要な理由です7。
直ちに受診が必要な場合
緊急医療警告
以下のいずれかの症状が見られる場合、膿瘍(のうよう:膿の袋)の破裂や腹膜炎といった重篤な状態の可能性があります。直ちに最寄りの医療機関を受診するか、救急車を呼んでください3。
- 下腹部の突然の、耐え難いほどの激しい痛み
- 飲食ができないほどの、止まらない吐き気や嘔吐
- 38.3度以上の高熱
- 非常に強い悪臭を伴うおりもの
表1:PIDの兆候セルフチェックリスト
このツールは、ご自身の症状を整理するのに役立ちます。「はい」または「時々」に2つ以上チェックが入った場合、または「緊急医療警告」のいずれかの項目に該当する場合は、できるだけ早く婦人科の予約を取ってください。
症状 | はい | いいえ | 時々 |
---|---|---|---|
下腹部の鈍い痛みや重苦しさ | |||
おりものが普段より多い | |||
おりものが黄色・緑色、または匂いが気になる | |||
月経と月経の間に少量の出血がある | |||
性交渉の後に出血する | |||
性交渉の際に奥の方が痛む | |||
微熱や悪寒がする感じがある | |||
排尿時に痛みや焼ける感じがする |
第3章:婦人科の診察室にて – 何が行われるのか?(不安の解消)
日本の多くの女性にとって、婦人科の受診は不安やためらいを伴う経験かもしれません9。これは全く正常な感情です。痛みの恐怖、プライベートな部分を見せる羞恥心、あるいは何か悪いことをしたかのように判断されるのではないかという心配は、実在する心理的な障壁です。しかし、忘れてはならない重要なことがあります。婦人科医はあなたの健康の専門家であり、味方です。彼らは助け、治療するために訓練されており、あなたを裁くためではありません。恐怖心から受診を遅らせることは、本来防げたはずの残念な結果につながる可能性があります9。
PID診断のステップバイステップ
あなたの不安を少しでも和らげるために、骨盤内炎症性疾患を診断するための一般的な診察の流れを詳しく説明します。
- 問診: これは非常に重要な最初のステップです。医師は以下のような詳細な質問をします。
- 現在感じている症状(どこが、どのように痛むか、おりものはどう変化したか)。
- 月経周期について。
- あなた自身の病歴や家族の病歴。
- 性生活について(例:新しいパートナーはいるか、コンドームなどの避妊法を使用しているかなど)10。
これらの質問には、できる限り正直に答える準備をしてください。情報が正確であるほど、医師の診断はより効果的になります。
- 内診: これは骨盤内炎症性疾患の診断に不可欠なステップです11。この診察には以下のものが含まれます。
- 腹部の触診: 医師は下腹部を優しく押して、痛みの場所や程度を確認します。
- 腟鏡診(クスコ診): 医師は腟鏡(クスコ)と呼ばれる器具をそっと腟内に挿入します。これにより腟壁が広がり、医師は子宮頸部をはっきりと観察し、おりものを採取して検査に送ることができます。これは原因となっている細菌の種類を特定するのに役立ちます6。
- 双合診(内診): これが最も重要なステップです。医師は手袋をはめ、1本または2本の指を腟内に挿入し、もう一方の手を下腹部に置きます。これにより、子宮や付属器(卵巣、卵管)の大きさ、形、圧痛の有無を感じ取ることができます。骨盤内炎症性疾患の典型的な所見として医師が探すのは、子宮頸部を動かしたときの痛み(cervical motion tenderness)や、子宮・付属器領域の圧痛です12。この診察は少し圧迫感や不快感を伴うことがありますが、非常に貴重な情報を提供します。深呼吸をして体をリラックスさせるよう努めてください。
- その他の検査: 診察の結果に基づき、医師は追加の検査を指示することがあります。
鑑別診断: 骨盤内炎症性疾患の症状は、他の多くの病気と似ていることがあります。医師は、虫垂炎、子宮外妊娠、卵巣嚢腫茎捻転、子宮内膜症などの可能性を排除し、最も正確な診断を下す必要があります13。
第4章:PIDの治療 – 未来を守るための時間との闘い
骨盤内炎症性疾患の治療は、単に目の前の不快な症状を取り除くことだけではありません。それは、永続的なダメージを防ぎ、将来のあなたの生殖能力を守るための時間との闘いです。
黄金律:疑わしきは直ちに治療!
これが最も重要な原則です。米国疾病予防管理センター(CDC)のような世界的に権威のある医療機関からの科学的証拠とガイドラインは、骨盤内炎症性疾患の治療をわずか3日間遅らせるだけで、不妊のリスクが3倍に増加する可能性があることを強調しています2。そのため、医師は微生物学的検査の結果を待つことなく、骨盤内炎症性疾患が臨床的に疑われる時点で経験的治療(empiric treatment)を開始することが推奨されています14。一日一日が、あなたの卵管の健康にとって極めて重要です。
抗生物質による治療法
骨盤内炎症性疾患の治療には、クラミジア・トラコマティス、淋菌といった主要な病原体に加え、特に膿瘍形成に関与することの多い嫌気性菌(酸素のない環境で増殖する細菌)など、複数の種類の細菌を同時に殺すことができる広域スペクトルの抗生物質を使用する必要があります15。
しかし、国際的な治療ガイドラインと日本国内で一般的に行われている治療法との間には、注目すべき違いが存在します。この違いを理解することは、あなたが情報を得た患者となり、医師とより効果的に話し合う助けとなります。
表2:PID治療ガイドラインの比較:国際標準(CDC 2021)と日本の実情
項目 | CDCガイドライン 2021(国際標準) | 日本の実情(参考文献に基づく) | 患者さんにとっての意味(JHO分析) |
---|---|---|---|
外来治療 | 3剤併用療法:セフトリアキソン(筋注単回)+ドキシサイクリン(14日間内服)+メトロニダゾール(14日間内服)1。 | セフェム系やニューキノロン系の経口抗菌薬が主に用いられる16。セフトリアキソンの注射を併用することもある。メトロニダゾールは日本の保険診療上、PIDの適応がないため通常使用されない16。 | あなたは嫌気性菌に対する治療薬(メトロニダゾール)を処方されない可能性があります。これは治療が不完全になる危険性、膿瘍形成、そして長期的な後遺症のリスクを高めるかもしれません。ご自身のケースで嫌気性菌治療の必要性について、積極的に医師に質問してみてください。 |
入院治療(点滴) | 3剤併用療法:セフトリアキソン+ドキシサイクリン+メトロニダゾール1。 | 第三世代セフェム系やカルバペネム系が使用される16。クリンダマイシンやミノサイクリンを併用して抗菌スペクトルを広げることもある16。 | 外来治療と同様、嫌気性菌を体系的にカバーすることが標準ではない可能性があります。治療方針について医師と話し合うことが非常に重要です。 |
治療期間 | 病原体を完全に根絶し、後遺症を防ぐため14日間1。 | 通常5~7日間。臨床的な反応に応じて延長されることがある16。 | 治療期間が短いと、再発や治療が不完全になるリスクが高まる可能性があります。医師の指示に厳密に従い、たとえ気分が良くなっても自己判断で薬を中止しないでください。 |
入院が必要となる場合
軽度から中等度の骨盤内炎症性疾患のほとんどは外来で治療できます。しかし、以下のいずれかの兆候がある場合は入院が必要です12。
- 虫垂炎などの外科的救急疾患を完全に否定できない場合。
- 妊娠している場合。
- 症状が重い場合(高熱、持続する嘔吐、薬が飲めないなど)。
- 超音波検査で卵管卵巣膿瘍(tubo-ovarian abscess – TOA)が見つかった場合。
- 外来治療(内服薬)に72時間以内に反応しない場合。
外科的治療
骨盤内炎症性疾患に対して外科手術が最初の選択肢となることは稀です。複雑な症例、例えば以下のような場合にのみ検討されます。
- 点滴による抗生物質治療に反応しない大きな膿瘍がある場合。
- 膿瘍が破裂した場合。これは腹腔内を洗浄するために即時の手術を必要とする医学的緊急事態です10。
現在では、侵襲が少なく、回復が早く、傷跡も残りにくいため、開腹手術よりも腹腔鏡下手術が優先されることが一般的です17。
第5章:治療後の生活 – 不安への対処と再発予防
骨盤内炎症性疾患の治療コースを終えることは重要な節目ですが、あなたの健康管理の旅はまだ終わりではありません。この段階は、しばしば将来への多くの不安を伴い、再発を防ぐための積極的な取り組みが求められます。
よくある不安:専門家とのQ&A
以下は、女性が骨盤内炎症性疾患の治療後によく直面する最も一般的な質問への回答です。
表3:Q&A – 将来に関する不安を解消
質問 | 専門家の回答(科学的根拠に基づく) |
---|---|
1. 私はまた妊娠できますか? | 妊娠の可能性は、卵管の損傷の程度と、どれだけ早く治療を受けられたかに大きく依存します。PIDは予防可能な不妊症の主要な原因の一つです3。早期かつ適切な治療は、生殖能力を最大限に保つのに役立ちます10。不妊のリスクは、病気にかかるたび、または再発するたびに増加します3。治療後、妊娠を計画している場合、医師は卵管の状態を評価するために、卵管が閉塞していないかを確認する子宮卵管造影検査(HSG)などの検査を提案することがあります18。 |
2. 子宮外妊娠のリスクは高くなりますか? | はい。PIDは子宮外妊娠の主な原因です。炎症によって卵管の内部に瘢痕が残り、受精卵が子宮に着床するために移動するのを妨げることがあります3。このリスクは、PID罹患後に6倍から10倍に増加すると推定されています3。そのため、PID治療後に妊娠した場合は、胎児の位置(子宮内か外か)を確認するために早期に受診することが極めて重要です。 |
3. パートナーにはどう伝えればいいですか? | これは難しい会話ですが、感染の連鎖を断ち切るためには絶対に必要です。二人きりで落ち着ける時間と場所を選びましょう。非難するのではなく、共通の健康問題として話を進めることから始めることができます。「あなたと共有したい大切な健康の話があるの。最近、婦人科系の感染症(PID)と診断されたんだけど、原因は性感染症の可能性があると先生に言われたの。私たち二人の健康を守って、私が再感染しないようにするためにも、二人で検査を受けて治療することが勧められているの」4。 |
4. パートナーの治療も必要ですか? | はい、絶対に必要です。彼が全く症状がなくても(クラミジアなどの場合、男性では非常によくあることです)、彼は病原体を保有している可能性があります。あなただけが治療しても、性交渉を再開すればすぐに再感染する可能性が非常に高いです4。パートナーの治療は、PID治療計画の不可欠かつ必須の一部です。 |
5. 性交渉はどのくらい控えるべきですか? | あなたとあなたのパートナー(複数いる場合は全員)が抗生物質の全コースを完了し、あなたの症状が完全に消失するまで、性交渉は完全に控えるべきです5。 |
6. PIDの治療費は保険適用されますか? | PIDの診断と抗生物質による治療は、通常、日本の公的医療保険の対象となります19。ただし、前述の通り、メトロニダゾールのような特定の薬剤はPIDの適応外であるため、保険適用外となる場合があります16。後の不妊症検査、例えば子宮卵管造影検査なども、医師からの医学的指示があれば保険適用となることがあります20。費用については、事前にクリニックや病院と明確に話し合ってください。 |
再発予防と長期的な健康維持
- 治療の遵守: たとえ数日で気分が良くなっても、処方された抗生物質は必ず最後まで飲み切ってください。途中でやめると細菌が完全に死滅せず、再発の原因になります5。
- パートナーの治療の徹底: 再感染を防ぐための鍵となる要素です。
- 安全な性交渉の実践: 特に新しいパートナーとは、常にコンドームを使用してください。コンドームは性感染症のリスクを減らす効果的な手段です7。
- オープンなコミュニケーション: パートナーと性的な経歴や生殖に関する健康についてオープンに話し合いましょう。
- 定期的なスクリーニング: 定期的に婦人科を受診し、性感染症のスクリーニング検査を受けましょう。国際的なガイドラインでは、性的に活動的な25歳未満の女性は、毎年クラミジアと淋菌の検査を受けることが推奨されています7。
- 膣洗浄を避ける: これは膣の自然な微生物環境を乱し、有害な細菌をより上方へ押し上げる可能性があります7。
第6章:日本の背景 – なぜPIDは深刻な問題なのか?
骨盤内炎症性疾患の脅威を完全に理解するためには、日本の特有の社会的および医療的背景の中でそれを捉える必要があります。いくつかの要因が絡み合い、「完璧な嵐」のような状況を生み出し、日本の若い女性をこの病気とその合併症に対して特に脆弱にしています。
性感染症の憂慮すべき増加
近年、日本では性感染症の憂慮すべき増加が見られます。クラミジアと淋菌は2000年代初頭のピーク以降、減少傾向にありましたが、近年再び増加に転じています21。特に梅毒は驚異的な急増を見せ、2022年の感染者数は1万人を超え、過去最高を記録しました22。データによると、最も影響を受けている年齢層は20代の女性と20代から50代の男性です22。これらの性感染症の増加は、その根本原因であるため、直接的に骨盤内炎症性疾患の増加につながります。
性教育の「はどめ規定」
この状況の一因となっている根深い問題の一つが、日本の学校教育における性教育の制約です。文部科学省の「はどめ規定」と呼ばれる指導要領が、例えば小学校では「受精に至る経過は取り扱わない」、中学校では「妊娠の経過は取り扱わない(性交を暗に含むため)」といったように、教えられる範囲を制限してきました23。その結果、多くの若者が安全な性交渉、避妊法、性感染症の予防に関する不十分かつ不正確な知識のまま社会に出ることになります23。学校からの正式な情報源がなければ、彼らはインターネットやSNSといった、誤った情報や危険な情報で溢れた信頼性の低い情報源に頼らざるを得なくなります24。
危険な悪循環
これらの要因の組み合わせは、日本の女性の生殖に関する健康にとって危険な悪循環を生み出しています。
- 包括的な教育の欠如が、リスク認識の低下と安全でない性行動につながり、クラミジアのような静かな性感染症の罹患率を増加させます。
- 症状が出ても、心理的な障壁(羞恥心、恐怖心)が高いため、多くの女性が婦人科の受診をためらいます9。
- この遅れが、骨盤内炎症性疾患の診断を遅らせ、炎症が深刻なダメージを引き起こす時間を与えてしまいます。
- 診断されても、一部の医療現場での治療法が国際標準に比べて最適でない可能性があり(例:嫌気性菌のカバー漏れ)、合併症のリスクを高める可能性があります2。
これらすべてが最終的に、不妊症、子宮外妊娠、慢性骨盤痛といった回復不可能な後遺症のより高いリスクにつながります。この悪循環を認識することは、骨盤内炎症性疾患が単なる個人の健康問題ではなく、日本の教育および医療システムのより深い課題を反映した公衆衛生上の問題であることを示しています。
結論と行動への呼びかけ
骨盤内炎症性疾患(PID)は、稀な病気でも、他人事でもありません。それは、特に現在の日本の社会的背景において、何百万人もの女性の健康と未来に対する深刻かつ現実的な脅威です。しかし、最も重要なメッセージは、PIDは予防可能であり、その合併症は早期に発見し治療すれば最小限に抑えることができる、ということです。
覚えておくべき要点:
- PIDは生殖器官の深刻な感染症で、多くはクラミジアや淋菌のような未治療の性感染症によって引き起こされます。
- 永続的なダメージを与え、不妊症、子宮外妊娠、慢性骨盤痛につながる可能性があります。
- 多くの場合、症状がないため、軽い兆候を見過ごしたり、定期的な性感染症のスクリーニングを怠ったりすることは非常に危険です。
- 疑わしい時点での早期治療と、広域スペクトルの治療計画による適切な治療が、あなたの未来を守る鍵です。
行動への呼びかけ:
- 沈黙せず、ためらわないでください:この記事で述べた症状が少しでもあれば、それを体からの重要なサインと受け止めてください。今日、婦人科の予約を取りましょう。
- 主体的になってください:あなたは自分の治療選択肢について知る権利があります。嫌気性菌治療の必要性を含め、治療計画について医師とオープンに話し合いましょう。
- 責任を持ってください:自分自身とパートナーに対して。常に安全な性交渉を実践してください。あなたとあなたのパートナーが検査を受け、完全に治療されることを確認してください。
- 情報を得た存在でいてください:生殖に関する健康はあなたの権利です。信頼できる情報源から学び続け、自分自身を知識で武装してください。
あなたの体はあなたのものです。それを大切にし、守ることは、最も力強い自己愛の行動です。JAPANESEHEALTH.ORGは、その旅路において信頼できる情報を提供するために、常にここにいます。
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