乳がんと共に生きるための完全ガイド:診断、治療、心のケアから社会復帰まで
がん・腫瘍疾患

乳がんと共に生きるための完全ガイド:診断、治療、心のケアから社会復帰まで

乳がんという診断は、誰にとっても人生を揺るMがすような出来事です。恐怖、不安、孤立感に苛まれるのは、決してあなた一人ではありません。このページは、乳がんと診断されたあなたと、あなたを支える大切な方々のために作られました。JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、日本の主要な医療ガイドラインと科学的根拠に基づき、そして何よりも先にこの道を歩んだ人々の実体験に裏打ちされた、最も信頼性が高く、包括的で、心に寄り添う情報を提供することを使命としています。ここにあるのは、単なる情報の羅列ではありません。診断の瞬間から治療を乗り越え、新しい日常を築くまで、あなたのあらゆる段階に寄り添い、力を与えるための「道しるべ」です。このガイドが、あなたの不安を和らげ、前向きな一歩を踏み出すための助けとなることを心から願っています。


この記事の科学的根拠

本稿は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、実際に参照された情報源とその医学的指導との関連性を示すリストです。

  • 日本乳癌学会(The Japanese Breast Cancer Society – JBCS): 本稿における標準治療(手術、放射線療法、薬物療法など)に関する記述、および治療選択の指針は、JBCSが発行する診療ガイドラインに基づいています1
  • 国立がん研究センター(National Cancer Center Japan – NCCJ): 日本国内の乳がんに関する統計データ、疫学的情報、および公的支援制度(がん相談支援センターなど)に関する記述は、NCCJが運営する「がん情報サービス」の情報を基にしています2
  • 厚生労働省(Ministry of Health, Labour and Welfare – MHLW): 高額療養費制度などの医療費助成に関する具体的な情報は、厚生労働省の公式発表に基づいています3
  • 日本サイコオンコロジー学会(Japan Psycho-Oncology Society): 不安や恐れ、うつ状態など、がん患者の精神的・心理的ケアに関する記述は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の知見を参考にしています4
  • 患者支援団体(例:J.POSH): 患者の体験談や実生活における工夫、コミュニティサポートの重要性に関する部分は、認定NPO法人J.POSHなどの信頼できる患者支援団体の活動報告や公開情報を参考にしています5

要点まとめ

  • 乳がんの診断は一人で抱え込むものではなく、正確な情報を得て、信頼できる医療チームと共に治療計画を立てることが最初の重要な一歩です。
  • 治療法は画一的ではなく、がんの性質(ステージ、サブタイプ)、患者さん自身の年齢、健康状態、そして価値観を総合的に考慮して決定されます。セカンドオピニオンも積極的に活用しましょう。
  • 治療中の副作用は避けられないものもありますが、その多くは予防したり症状を和らげたりすることが可能です。食事、運動、スキンケアなど、日常生活での具体的な対策が生活の質を大きく左右します。
  • 身体的な回復だけでなく、心のケアも同様に重要です。「再発への恐怖」やボディイメージの変化といった課題には、専門家や患者会など、利用できるサポートが数多く存在します。
  • 日本では、高額療養費制度やがん相談支援センターなど、経済的・社会的な負担を軽減するための公的な支援制度が整備されています。これらの情報を知ることが、安心して治療に専念するための鍵となります。

第1章 診断の瞬間:最初の一歩と感情への向き合い方

「乳がんです」という告知は、時間と思考が停止するような衝撃的な瞬間です。この章では、その衝撃を乗り越え、確かな一歩を踏み出すために必要な情報と心の準備について解説します。

自分の診断を理解する

まずは、ご自身の状況を正確に理解することが大切です。医師からの説明には、専門用語が多く含まれるかもしれません。混乱するのは当然です。大切なのは、分からないことをそのままにしないことです。主に以下の点について確認しましょう。

  • がんの種類(サブタイプ): 乳がんは、ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)やHER2(ハーツー)というタンパク質の発現状況によって、いくつかのタイプに分類されます。このタイプによって、効果的な治療法が大きく異なります1
  • がんの進行度(ステージ): がんの大きさ、リンパ節への転移の有無、他の臓器への遠隔転移の有無によって、ステージ0からステージIVまでの5段階に分類されます。ステージは、治療方針を決定する上で最も重要な要素の一つです2

これらの情報は、今後の治療の全体像を把握するために不可欠です。理解できるまで、何度でも医師に質問してください。

最初のショックを乗り越える

診断直後は、恐怖、怒り、混乱、罪悪感、現実感のなさなど、様々な感情が嵐のように押し寄せてくるかもしれません。これらの感情はすべて、異常な状況に対する「正常な」反応です。無理に感情を抑えつけたり、前向きになろうと焦る必要はありません。まずは、自分にそのような感情を持つことを許可してあげてください。

最初の診察に備える:医師への質問チェックリスト

多くの患者さんが、「医師の前だとうまく質問できない」という経験をします。特に日本では、権威である医師に対して質問をためらう文化的背景も影響しているかもしれません。しかし、あなた自身の治療です。主体的に関わるために、事前に質問を準備していくことは極めて有効です。以下に、初回の診察で役立つ質問リストの例を挙げます。

【医師への質問チェックリスト】

  • 私のがんのステージとサブタイプは何ですか?
  • どのような治療の選択肢がありますか?それぞれの治療法の目的、手順、期間、そしてメリットとデメリットを教えてください。
  • 提案された治療計画の治癒率はどのくらいですか?
  • 治療による副作用にはどのようなものがありますか?また、それらに対する対策はありますか?
  • 治療は、私の日常生活(仕事、家事、育児など)にどのような影響を与えますか?
  • セカンドオピニオンを受けたいのですが、どのように進めればよいですか?紹介状や資料の提供をお願いできますか?
  • 遺伝性乳がんの可能性はありますか?遺伝子検査を検討すべきでしょうか?

これらの質問を印刷したり、メモに書き留めて持参することをお勧めします。また、可能であれば家族や信頼できる友人に同席してもらい、一緒に話を聞いてもらうことも助けになります。

セカンドオピニオン(第二の意見)の重要性

セカンドオピニオンとは、現在の主治医とは別の医療機関の医師に、診断や治療方針について意見を求めることです。これは主治医を疑う行為ではなく、患者さんが最も納得できる治療法を選択するための、賢明かつ正当な権利です2。特に、治療方針の選択肢が複数ある場合や、希少なタイプの乳がんである場合に有効です。日本の多くの医師はセカンドオピニオンの重要性を理解しており、必要な資料(紹介状や検査データなど)の提供に協力的です。ためらわずに主治医に相談してみましょう。


第2章 治療の選択肢を理解する:これからの道のり

乳がんの治療は、この数十年で飛躍的に進歩しました。かつてのように画一的なものではなく、一人ひとりの状態に合わせて最適化された「個別化医療」が主流です。この章では、日本における標準的な治療法について、その目的や特徴を解説します。

標準治療の全体像

乳がんの治療は、主に「局所療法」と「全身療法」の二つに大別されます。これらを単独、あるいは組み合わせて行います。全ての治療方針は、日本乳癌学会(JBCS)が策定する科学的根拠に基づいた診療ガイドラインに準拠して決定されます1

  • 手術(局所療法): がん組織を物理的に取り除く治療の根幹です。「乳房温存手術」と「乳房全切除術」があります。
  • 放射線治療(局所療法): 高エネルギーのX線を照射し、手術した乳房に残っている可能性のある微小ながん細胞を破壊します。主に乳房温存手術後に行われます。
  • 薬物療法(全身療法): 薬を使って、全身に広がっている可能性のあるがん細胞を攻撃します。これには以下の種類があります。
    • 化学療法(抗がん剤): 細胞分裂が活発ながん細胞を標的にする薬です。
    • ホルモン療法(内分泌療法): ホルモン受容体陽性の乳がんに対して、女性ホルモンの働きを抑えることでがんの増殖を抑制します。
    • 分子標的治療: がん細胞の特定の分子(HER2タンパク質など)だけを狙い撃ちする薬です。
    • 免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬): 体が本来持つ免疫の力を使ってがんを攻撃させる薬です。一部のタイプの乳がんで用いられます。

臨床試験(治験)という選択肢

臨床試験(治験)とは、新しい薬や治療法が、国の承認を得るために、その安全性と有効性を確認する試験のことです。標準治療では効果が不十分な場合や、より新しい治療を受けたい場合に選択肢となり得ます。治験に参加することは、最先端の医療にアクセスできる可能性がある一方で、未知の副作用などのリスクも伴います。興味がある場合は、主治医に相談するか、国立がん研究センターの「がん情報サービス」などで現在募集中の治験情報を検索することができます2

手術の決定:温存か、全切除か

手術方法の選択は、患者さんにとって非常に大きな決断です。どちらの方法が優れているということではなく、医学的な条件と患者さん自身の価値観をすり合わせて決定します。

  • 乳房温存手術: がんのしこりとその周囲の組織のみを切除し、乳房のふくらみを可能な限り残す方法です。多くの場合、術後に放射線治療が必要になります。
  • 乳房全切除術: 乳房全体を切除する方法です。がんが広範囲に及ぶ場合や、多発性の場合などに選択されます。術後の放射線治療が不要になることが多いです。

この決定には、がんの大きさや位置だけでなく、「自分の身体のイメージをどう捉えるか」「下着選びや温泉など、将来の生活をどう考えたいか」といった、非常に個人的な感情も関わってきます。

乳房再建について

乳房再建は、失われた乳房の形を再建する手術です。これは単なる美容整形ではなく、女性としての尊厳や自己肯定感を取り戻すための、治療の重要な一環として認識されています。日本の公的医療保険が適用される場合が多く、選択肢も多様化しています1

  • 再建の時期: がんの手術と同時に行う「一次再建」と、術後しばらく経ってから行う「二次再建」があります。
  • 再建の方法:
    • インプラント(人工物)を用いる方法: シリコン製のインプラントを胸の筋肉の下に挿入します。
    • 自家組織を用いる方法: 自分のお腹や背中などの脂肪や皮膚組織を移植します。

どちらの方法にも一長一短があり、費用や身体への負担も異なります。形成外科医と十分に相談し、自分にとって最適な方法を選択することが重要です。患者支援団体である「NPO法人 J.POSH」などでは、再建に関する情報提供も行われています5


第3章 治療中の日常生活マネジメント

治療期間は、心身ともに大きな変化を経験する時期です。しかし、適切な知識と工夫によって、生活の質(QOL)を維持し、治療を乗り切ることは十分に可能です。この章では、副作用への具体的な対処法や、日常生活のポイントを詳しく解説します。

副作用を賢く管理する

副作用は、治療の種類や個人によって大きく異なります。大切なのは、「我慢しないこと」と「事前に備えること」です。

脱毛

化学療法による脱毛は、多くの女性にとって最もつらい副作用の一つです。

  • 心の準備: 脱毛が始まる前に髪を短くしておく、お気に入りのウィッグ(医療用かつら)や帽子、スカーフを用意しておくなど、心の準備をしておくことがショックを和らげます。
  • 経済的支援: 多くの地方自治体では、医療用ウィッグの購入費用の一部を助成する制度があります。お住まいの市区町村の窓口で確認してみましょう。
  • 頭皮ケア: 脱毛中は頭皮が非常に敏感になります。低刺激のシャンプーを使い、優しく洗いましょう。

倦怠感(だるさ)

がんに伴う倦怠感は、単なる疲れとは異なり、休息だけでは回復しにくい特徴があります。

  • エネルギーの配分: 自分のエネルギーレベルを把握し、「今日はこれだけはやる」という優先順位をつけましょう。無理は禁物です。
  • 軽い運動: 意外に思われるかもしれませんが、ウォーキングなどの軽い有酸素運動は、倦怠感を軽減することが多くの研究で示されています4。医師に相談の上、無理のない範囲で取り入れましょう。
  • 質の良い睡眠: 毎日同じ時間に寝て起きるなど、生活リズムを整えることが大切です。

吐き気・味覚の変化

最近の吐き気止めは非常に効果が高く、以前より症状はコントロールしやすくなっています。

  • 食事の工夫: 食事は少量ずつ、回数を分けて摂るのが基本です。口当たりが良く、消化しやすいもの(おかゆ、うどん、スープ、ゼリーなど)を選びましょう。
  • 味覚の変化への対応: 「食べ物の味がしない」「金属のような味がする」といった変化が起こることがあります。出汁を効かせたり、レモンや酢などの酸味を利用したり、ハーブやスパイスで香りを加えるなどの工夫が有効です。

皮膚や爪の変化

放射線治療や一部の薬物療法は、皮膚の乾燥やかゆみ、爪のもろさなどを引き起こします。

  • 徹底した保湿: 低刺激で保湿力の高いクリームやローションを、入浴後などこまめに塗りましょう。
  • 紫外線対策: 治療中の皮膚は紫外線の影響を受けやすいため、外出時は日焼け止め、帽子、長袖などで肌を守りましょう。
  • 爪のケア: 爪は短く切り、保湿オイルなどでケアしましょう。マニキュアは爪を保護するのに役立つこともありますが、除光液は刺激の少ないものを選びましょう。

「ケモブレイン」との付き合い方

「ケモブレイン」とは、化学療法後に見られることがある、物忘れや集中力の低下といった認知機能の軽微な障害のことです。

  • 記録する習慣: 重要な予定ややるべきことは、手帳やスマートフォンのアプリに記録しましょう。「忘れても大丈夫」という安心感が、ストレスを軽減します。
  • 脳のトレーニング: パズルや読書など、頭を使う活動を続けることが推奨されます。

治療中の食事と栄養

「がんに効く特別な食品」というものは、科学的には証明されていません。最も大切なのは、治療を乗り切るための体力を維持するために、バランスの取れた食事を心がけることです2。特定の食品を極端に避けたり、高価なサプリメントに頼ったりするのではなく、主食・主菜・副菜をそろえ、様々な食材から栄養を摂ることを目指しましょう。

体を動かすことの重要性

治療中であっても、体調が良い日には適度な運動をすることが強く推奨されています。運動には、倦怠感の軽減、筋力や体力の維持、気分の改善、不安の軽減など、多くのメリットがあります4。ウォーキング、ヨガ、ストレッチなど、楽しめるものを無理なく続けることが大切です。始める前には必ず主治医に相談しましょう。


第4章 回復への道のり:治療後の身体と心のケア

治療の終了はゴールであると同時に、新たなスタートでもあります。身体的な変化への対応や、心の平穏を取り戻すための道のりが始まります。この章では、治療後の生活で直面する可能性のある課題とそのケアについて解説します。

手術後のケア

  • 傷跡のケア: 傷跡は時間とともに徐々に目立たなくなりますが、気になる場合は、傷跡専用のテープやジェルなどがあります。
  • 腕のリハビリテーション: 手術で脇の下のリンパ節を切除した場合、腕の動きが制限されたり、肩がこりやすくなったりすることがあります。医師や理学療法士の指導のもと、早期からリハビリテーションを行うことが重要です。

リンパ浮腫の予防と管理

リンパ浮腫は、リンパ節を切除した側の腕が、リンパ液の流れが滞ることによってむくんでしまう状態です。一度発症すると完治は難しいとされていますが、適切なケアで予防したり、症状をコントロールしたりすることが可能です1

  • セルフケアの基本: 皮膚を清潔に保ち、保湿を心がけ、怪我や虫刺され、日焼けを避けることが大切です。
  • 体重管理: 肥満はリンパ浮腫のリスクを高めるため、適正体重の維持が推奨されます。
  • 専門的なケア: 症状が出た場合は、専門の医療機関で用手的リンパドレナージ(マッサージ)や、弾性スリーブ(圧迫着衣)の着用などの指導を受けます。

心の健康:再発への恐怖と共に生きる

治療を終えた多くのサバイバーが直面する最大の心理的課題が、「再発への恐怖」です。少しの体調不良でも「再発したのではないか」と不安になるのは、ごく自然なことです。この恐怖と上手に付き合っていくためには、以下のような方法があります。

  • 正しい情報を知る: 再発のリスクがどのくらいあるのか、どのような症状に注意すべきか、主治医と話し合い、正確な情報を得ることが不安の軽減につながります。
  • マインドフルネスとリラクゼーション: 瞑想やヨガ、呼吸法などは、現在の瞬間に意識を集中させ、不安な思考から距離を置くのに役立ちます。日本サイコオンコロジー学会なども、これらの技法の有効性に関する情報を提供しています4
  • 気持ちを共有する: 家族や友人、あるいは同じ経験を持つ患者会の仲間と気持ちを分かち合うことで、孤独感が和らぎます。
  • 専門家への相談: 不安が日常生活に支障をきたすほど強い場合は、がん専門のカウンセラーや精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)に相談することも重要な選択肢です。

ボディイメージと性生活

手術による乳房の喪失や、治療による脱毛、体重の変化などは、女性としての自己イメージ(ボディイメージ)を大きく揺るがします。また、ホルモン療法などの影響で性欲が減退したり、性交痛を感じたりすることもあります。これらは非常にデリケートで、一人で抱え込みがちな問題です。パートナーと率直に話し合うこと、そして必要であれば、医療者やカウンセラーに相談する勇気を持つことが、解決への第一歩となります。


第5章 新しい日常の再構築

治療を経て、あなたは以前とは違う価値観や視点を持つ「新しい自分」になっているかもしれません。この章では、仕事、家族関係、そして長期的な健康管理といった、社会への再適応と「新しい日常」の構築について考えます。

仕事への復帰

治療と仕事の両立は、多くの患者さんにとって大きな課題です。日本の社会には、幸いにも両立を支援する制度があります。

  • 職場とのコミュニケーション: 復職のタイミングや働き方(時短勤務、在宅勤務など)について、上司や人事担当者と事前に相談することが不可欠です。診断書や「治療と仕事の両立支援プラン」などを活用し、必要な配慮を具体的に伝えましょう。
  • 公的支援の活用: 全国の「がん相談支援センター」では、社会保険労務士による仕事に関する無料相談を受けられる場合があります。また、ハローワークにも、病気の治療をしながら就職を目指す人のための専門窓口が設置されています。

「会社に迷惑をかけたくない」という気持ちが強いかもしれませんが、あなたの健康が最優先です。利用できる制度を最大限に活用し、無理のないペースで復帰を目指しましょう。

家族や友人との関わり方

病気を経験すると、家族や友人との関係性が変化することがあります。周りの人はあなたを気遣うあまり、どう接していいか分からなくなっているかもしれません。一方で、あなたは「病人扱い」されることに抵抗を感じるかもしれません。

大切なのは、自分の気持ちを正直に、しかし穏やかに伝えることです。「今はそっとしておいてほしい」「病気の話ではなく、普通の会話がしたい」「手伝ってほしいことがある」など、あなたのニーズを具体的に伝えることで、周りも安心してあなたをサポートできるようになります。特に日本では「我慢」が美徳とされがちですが、自分の心と体を守るためには、助けを求めることも強さの一つです。

長期的なフォローアップと健康管理

治療後も、定期的な検診は欠かせません。主治医の指示に従い、マンモグラフィや超音波検査、血液検査などを受けましょう。これは、万が一の再発や、対側の乳房に新たながんが発生していないかを確認するために非常に重要です1

また、この機会に生活習慣全体を見直すこともお勧めします。バランスの取れた食事、定期的な運動、禁煙、節酒などは、乳がんだけでなく、他の生活習慣病の予防にもつながり、あなたの長期的な健康を守るための最高の投資となります。


第6章 日本国内の相談窓口・支援団体

あなたは一人ではありません。日本には、乳がん患者さんとそのご家族を支えるための、数多くの信頼できる相談先や支援団体があります。情報を知っているだけで、心の負担は大きく軽くなります。

公的な相談窓口

  • がん相談支援センター: 全国の「がん診療連携拠点病院」などに設置されている無料の相談窓口です。専門の相談員が、病気のこと、治療のこと、療養生活の不安、医療費のこと、仕事のことなど、あらゆる相談に中立的な立場で対応してくれます2。患者さん本人だけでなく、ご家族も利用できます。
  • 高額療養費制度: 日本の公的医療保険制度の一つで、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、暦月(月の初めから終わりまで)で一定の上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です3。事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておけば、窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。加入している公的医療保険(健康保険組合、協会けんぽ、市区町村の国民健康保険など)に申請してください。

患者支援団体・コミュニティ

同じ病気を経験した仲間との出会いは、何物にも代えがたい力になります。

  • 認定NPO法人 J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動): 乳がんに関する啓発活動や、患者さんのための情報提供、相談支援などを幅広く行っています5
  • あけぼの会(乳がん患者・家族の会): 全国に支部を持つ、歴史のある患者会です。お茶会や相談会などを通じて、会員同士の交流の場を提供しています。

これらの団体では、オンラインでの交流会やセミナーも開催されており、地方にお住まいの方や、外出が難しい方でも参加しやすくなっています。


よくある質問

治療が終わったのに、再発するのではないかと常に不安です。どうすればよいですか?

治療後に再発への不安を感じるのは、非常に多くのサバイバーが経験する自然な感情です。まず、その不安を否定せず、自分の一部として受け入れることから始めてみてください。その上で、主治医と再発のリスクや注意すべき症状について具体的に話し合い、正しい知識を持つことが重要です。また、瞑想やヨガなどのリラクゼーション法や、同じ経験を持つ仲間と気持ちを分かち合うことも、不安を和らげるのに役立ちます。不安が日常生活に深刻な影響を及ぼす場合は、ためらわずに「がん相談支援センター」や精神腫瘍医などの専門家に相談してください4

治療と仕事を両立させるには、具体的にどうすればよいですか?

まずは、ご自身の体調を最優先に考え、無理のない計画を立てることが大切です。復職前に、上司や人事担当者と面談の機会を持ち、治療のスケジュールや予想される体調の変化、そしてどのような配慮が必要か(例:時短勤務、通院のための休暇、在宅勤務の活用など)を具体的に伝えましょう。その際、主治医の診断書や意見書を添えると、よりスムーズに理解を得られます。全国の「がん相談支援センター」では、社会保険労務士による無料相談も行っているので、専門的なアドバイスを求めるのも良い方法です2

食事について、「○○はがんに良い」「××はがんに悪い」という情報をよく見かけますが、本当ですか?

特定の食品だけでがんを予防したり治したりできるという科学的根拠は、現時点ではありません。インターネット上には多くの情報が溢れていますが、中には誤ったものや、科学的裏付けのないものも少なくありません。最も信頼できる基本方針は、特定の食品に偏ることなく、主食・主菜・副菜のそろったバランスの良い食事を心がけることです。これにより、治療を乗り切るための体力と免疫力を維持することができます。食事に関して不安や疑問がある場合は、個人的な判断で食生活を極端に変える前に、主治医や管理栄養士に相談してください12

家族や友人に、自分のつらい気持ちをどう伝えればよいか分かりません。

「心配をかけたくない」「迷惑をかけたくない」という思いから、本音を言えずに一人で抱え込んでしまう方は少なくありません。しかし、あなたのことを大切に思っている家族や友人は、あなたの力になりたいと願っています。大切なのは、「私は今、こう感じている」「こうしてほしい」と具体的に伝えることです。例えば、「ただ話を聞いてくれるだけで嬉しい」「病気の話ではなく、いつものように映画の話がしたい」といったように、あなたのニーズを伝えることで、周りの人もどうサポートすればよいか分かりやすくなります。時には、患者会の力を借りて、同じ立場の仲間と語り合うことも、大きな助けになります。

結論

乳がんとの共生は、決して平坦な道のりではないかもしれません。しかし、この旅路はあなたから多くのものを奪うだけでなく、人生の優先順位や、人との繋がりの大切さなど、新たな気づきをもたらすこともあります。現代の医療は目覚ましく進歩しており、多くの信頼できる情報と支援システムがあなたの周りに存在します。どうか一人で抱え込まず、医療チームを信頼し、利用できるサポートを最大限に活用し、そして何よりもご自身を大切にしてください。このガイドが、暗闇の中にいると感じた時に、あなたの足元を照らす小さな光となり、希望を持って未来へと歩み続ける一助となることを、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会一同、心より願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: http://jbcs.gr.jp/guideline/
  2. 国立がん研究センターがん情報サービス. 各種がん情報 乳がん. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/index.html
  3. 厚生労働省. 高額療養費制度を利用される皆さまへ. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
  4. 日本サイコオンコロジー学会. 市民の方へ. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://jpos-society.org/citizen/
  5. 認定NPO法人 J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動). [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://www.j-posh.com/
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