この記事の科学的根拠
この記事は、提供された研究報告書において明確に引用されている、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。以下は、本記事で提示される医学的ガイダンスに直接関連する主要な情報源のリストです。
- 公益社団法人日本産科婦人科学会 (JSOG): 日本におけるNIPTの対象者、対象疾患、遺伝カウンセリング体制、認証施設の要件に関する指針は、JSOGが公表する「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針」に基づいています1。
- 米国産科婦人科学会 (ACOG): 全ての妊婦へのNIPT提供を推奨するなど、国際的な医療水準や考え方に関する記述は、ACOGが発行する「Practice Bulletin No. 226」などの公式見解を根拠としています2。
- こども家庭庁 / 厚生労働省: NIPTを取り巻く日本国内の社会的・倫理的課題、公的統計データに関する情報は、これらの省庁が設置した「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会」の報告書に基づいています3。
- Gil MM, et al. (学術論文): 21トリソミー等の各染色体異数性に対する検査の感度・特異度・陽性的中率(PPV)に関する具体的な精度データは、「Ultrasound in Obstetrics & Gynecology」誌に掲載されたシステマティックレビューおよびメタ分析の結果を引用しています4。
要点まとめ
- 最適な検査時期: 専門家が推奨する最も適した時期は、検査精度が安定し、陽性時の次のステップへの移行期間も確保できる妊娠10週から14週です5。
- 検査の基本原則: NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、病気を断定する「確定診断」ではありません。陽性結果は、必ず羊水検査などの確定検査で確認する必要があります12。
- 精度の正しい理解: 「感度99%」という数字だけでなく、「陽性的中率(PPV)」を理解することが極めて重要です。PPVは妊婦の年齢などによって変動し、特に若年層では陽性でも偽陽性である確率が高まります6。
- 施設選びの重要性: 日本には学会が主導する「認証制度」が存在します。十分な遺伝カウンセリング体制の有無が、認証施設と非認証施設の大きな違いであり、施設選びの重要な判断材料となります7。
- 費用の目安: NIPTは健康保険が適用されない自費診療で、費用は施設や検査項目により異なりますが、一般的に15万円から20万円程度が相場です8。
- 陽性後の流れ: 陽性判定は終着点ではありません。確定検査に進むか、どのような支援が受けられるかなど、専門家と共に考えるための様々な選択肢と支援体制が存在します9。
NIPTとは?〜基本的な仕組みを1分で理解する〜
NIPTは、「Non-invasive Prenatal Testing」の略語で、日本語では「非侵襲的出生前遺伝学的検査」と呼ばれます。「非侵襲的」とは、羊水検査のように針を刺す必要がなく、妊婦さんの身体への負担が少ないことを意味します10。
では、なぜ母親の採血だけで、お腹の赤ちゃんの染色体情報を調べることができるのでしょうか。その鍵は、妊娠中の母親の血液中に、胎盤由来の赤ちゃんのDNA断片(セルフリーDNA、cfDNAと呼ばれます)が混じり合っていることにあります。NIPTは、この母親の血液中にわずかに含まれる赤ちゃんのcfDNAを最新の技術で分析し、特定の染色体疾患の可能性を評価する検査です10。このcfDNAの割合は「胎児分画(Fetal Fraction)」と呼ばれ、検査の精度に影響を与える重要な要素となります。
しかし、ここで絶対に忘れてはならない最も重要な原則があります。それは、NIPTがあくまで可能性の高さを示す「スクリーニング検査」であり、病気の有無を断定する「確定診断」ではないという点です11。米国産科婦人科学会(ACOG)をはじめとする全ての主要な権威機関は、NIPTの結果は確定的ではなく、陽性の結果が出た場合は羊水検査や絨毛検査といった確定検査による確認が不可欠であると一致して強調しています21。この違いを理解することが、NIPTに関する全ての判断の基礎となります。
NIPTの検査時期:結局、いつ受けるのがベスト?
NIPTを検討する際、最初に浮かぶ疑問が「いつ受けられるのか」という点です。この検査時期は、検査の精度や、万が一陽性だった場合のその後の選択肢に大きく関わるため、非常に重要です。
検査可能な基本期間:妊娠10週0日以降
ほとんどの医療機関では、NIPTは妊娠10週0日以降に実施可能とされています8。その主な理由は、先述した「胎児分画」にあります。ACOGの指針によると、検査精度を担保するために必要な量の胎児分画が、多くの妊婦さんで安定して確保されるのが概ね妊娠10週以降であるためです12。これより早い時期に検査を行うと、胎児分画が不足し、検査結果が得られない「判定保留」となる可能性が高まります。
一部の非認証施設では妊娠6週や8週といった、より早期からの検査を宣伝している場合がありますが、2024年に発表された研究では、妊娠6週から9週という早期段階での検査は、判定保留率が高まる可能性があることが指摘されています13。正確な結果を得るためには、学会などが推奨する適切な時期まで待つことが賢明です。
専門家が推奨する最適な時期:妊娠10週〜14週
多くの専門家やガイドラインが推奨する最も理想的な検査時期は、妊娠10週から14週の間です514。この期間が推奨されるのには、複合的な理由があります。
- 検査精度の安定: この時期には胎児分画が安定し、検査の信頼性が高まります。
- 確定検査への円滑な移行: 万が一NIPTの結果が陽性だった場合、その結果を確定させるためには確定検査が必要です。この期間にNIPTを受けていれば、確定検査の一つである絨毛検査(通常、妊娠11週から14週頃に実施)と、もう一つの羊水検査(通常、妊娠15週以降に実施)の両方の選択肢について、十分に情報を集め、考え、決断するための時間を確保することができます515。
検査時期の上限は?
原理的には、NIPTは出産までいつでも受けることが可能です。しかし、日本の法律(母体保護法)では、母体の健康や経済的な理由による人工妊娠中絶が可能な期間は妊娠21週6日までと定められています16。NIPTの結果を受け、確定検査に進み、その結果に基づいて重大な決断を下すためには、相応の時間が必要です。そのため、この法律上の期限を考慮すると、NIPTを受ける時期には現実的な上限が存在することを理解しておく必要があります。
NIPTでわかること・わからないこと【検査対象の全貌】
NIPTは、母親の血液から胎児の特定の染色体疾患のリスクを評価する画期的な検査ですが、万能ではありません。何がわかり、何がわからないのかを正確に知ることが、誤解を避け、適切な期待を持つ上で不可欠です。
基本的な検査対象:3つの主要トリソミー
日本産科婦人科学会(JSOG)の認証施設における基本的な検査対象は、以下の3つの常染色体トリソミーです1。これらは出生児に最も頻度の高い染色体異数性です。
- 21トリソミー(ダウン症候群): 21番染色体が1本多い状態。知的発達の遅れ、特徴的な顔貌、心疾患などの合併症が見られることがあります。
- 18トリソミー(エドワーズ症候群): 18番染色体が1本多い状態。心臓の重い病気、発育の遅れなどが見られ、多くは生後1年以内に亡くなります。
- 13トリソミー(パタウ症候群): 13番染色体が1本多い状態。脳や心臓などに重篤な奇形を伴うことが多く、予後は極めて厳しいとされています。
追加可能な検査対象(主に非認証施設で提供)
多くの非認証施設では、基本の3疾患に加えて、さらに広範な検査項目を提供しています8。
- 性染色体異数性 (SCA): ターナー症候群(X染色体が1本のみ)、クラインフェルター症候群(X染色体が過剰)など、性別を決める染色体の数の変化を調べます。
- 全染色体検査: 1番から22番までの常染色体全てと性染色体を対象とします。
- 微小欠失症候群: 染色体のごく一部が失われることによって起こる疾患を調べます。
検査範囲を広げることは、より多くの情報を得られる可能性がある一方で、検査の複雑性が増し、結果の解釈が難しくなったり、偽陽性(実際には疾患がないのに陽性と判定されること)の可能性が高まったりするデメリットも存在することを理解しておく必要があります8。
【重要】NIPTでは「わからないこと」の明確なリスト
NIPTは染色体の「数」の変化を見る検査であり、以下の項目は評価の対象外です817。これらの情報を期待してNIPTを受けることは誤りです。
- 確定的な診断: NIPTはあくまでスクリーニング検査です。
- 単一遺伝子疾患: 筋ジストロフィーや血友病など、単一の遺伝子の変異によって起こる病気。
- 染色体の構造異常: 染色体の数は正常でも、一部が切れて他の染色体に移動する(転座)など、構造に変化がある場合。
- 超音波検査でわかるような形態異常: 心疾患や口唇口蓋裂など、体の形に関する異常。
- 発達障害や知的障害の有無・程度: 自閉スペクトラム症など、多くの要因が関わる発達障害は評価できません。
- 遺伝情報に基づかない疾患
NIPTの「精度」を正しく理解する【感度99%の落とし穴】
「NIPTの精度は99%」といった宣伝文句を目にすることがありますが、この数字が何を意味するのかを正しく理解しなければ、検査結果を大きく誤解する可能性があります。検査の精度を評価するには、複数の指標を組み合わせて考える必要があります。
検査性能の基本指標:感度と特異度
まず、基本的な指標として「感度」と「特異度」があります。
- 感度 (Sensitivity): 実際に赤ちゃんが特定の疾患を持っている場合に、検査で正しく「陽性」と判定できる確率。
- 特異度 (Specificity): 実際に赤ちゃんが特定の疾患を持っていない場合に、検査で正しく「陰性」と判定できる確率。
2017年に発表された複数の研究を統合した大規模なメタ分析によると、NIPTの21トリソミー(ダウン症候群)に対する感度は99.7%、特異度は99.9%と、非常に高い数値が報告されています4。18トリソミーや13トリソミーについても同様に高い精度が示されています18。
染色体疾患 | 感度 | 特異度 |
---|---|---|
21トリソミー(ダウン症候群) | 99.7% | 99.9% |
18トリソミー(エドワーズ症候群) | 97.9% | 99.9% |
13トリソミー(パタウ症候群) | 99.0% | 99.9% |
最も誤解されやすい重要指標:「陽性的中率(PPV)」
しかし、妊婦さんとそのパートナーにとって最も重要なのは、「陽性という結果が出たときに、本当に赤ちゃんがその疾患を持っている確率はどのくらいか?」という点でしょう。これを示すのが「陽性的中率(Positive Predictive Value, PPV)」です。
驚くべきことに、感度が99%以上であっても、PPVは100%にはなりません。なぜなら、PPVは検査を受ける集団における疾患の有病率(その病気を持つ人の割合)に大きく影響されるからです。
【最重要インサイト】母体年齢とPPVの相関
染色体疾患の発生率は、母体年齢が上がるにつれて高くなります。これは、年齢が高い妊婦さんの集団は「有病率が高い」ことを意味します。PPVは、この有病率が高い集団では高くなり、逆に有病率が低い集団(=年齢が若い妊婦さん)では低くなるという性質があります6。
例えば、21トリソミーに対するNIPTで「陽性」と判定された場合を考えてみましょう。
- 40歳の妊婦さんの場合、PPVは約90%程度と推定されます。つまり、陽性と判定された10人のうち約9人は実際に赤ちゃんが21トリソミーですが、約1人は偽陽性(実際には21トリソミーではない)ということになります。
- 一方、25歳の妊婦さんの場合、PPVは約50%程度まで低下する可能性があります。これは、陽性と判定されたとしても、本当に21トリソミーである確率と、偽陽性である確率が半々程度であることを意味します。
この事実は、「感度99%」という言葉だけでは見えてこない、検査の非常に重要な限界を示しています。特に年齢が若い方がNIPTを受ける場合は、このPPVの概念を十分に理解した上で、結果を受け止める必要があります。
偽陽性・偽陰性の主な原因
なぜ、このような「偽陽性(疾患がないのに陽性)」や「偽陰性(疾患があるのに陰性)」が起こるのでしょうか。その主な原因は、NIPTが分析しているのが胎児自身のDNAではなく、胎盤由来のDNAであることに起因します4。
- 偽陽性の主な原因:
- 胎盤に限局したモザイク (Confined Placental Mosaicism, CPM): 赤ちゃん自身は正常な染色体を持っていても、胎盤にだけ染色体の異数性が存在する状態。これが偽陽性の最も一般的な原因です6。
- 母体自身の要因: 非常に稀ですが、母親自身が気づいていない染色体異常や腫瘍を持っている場合。
- バニシングツイン: 当初は双胎であったが、妊娠初期に一方の胎児が亡くなってしまい、その胎児の染色体情報が残存している場合。
- 偽陰性の主な原因:
- 低い胎児分画: 母親の血液中の胎児由来DNAが極端に少ない場合、異常を検出できないことがあります。
- 胎児自身のモザイク: 胎児の体内に正常な細胞と異常な細胞が混在している場合。
日本におけるNIPTの現状:知っておくべき「認証制度」
日本でNIPTを受けることを検討する際、必ず「認証施設」と「非認証施設」という言葉を目にします。これは日本独自の状況であり、施設を選択する上で極めて重要なポイントです。
なぜ日本には「認証制度」があるのか?
NIPTが日本に導入された当初、十分な遺伝カウンセリング体制が整わないまま、検査だけが商業的に拡大してしまうことへの強い懸念が、日本産科婦人科学会(JSOG)や日本小児科学会などの専門家団体から示されました1920。NIPTは、単なる血液検査ではなく、その結果が家族の将来に極めて重大な影響を及ぼす可能性があるため、検査前後の適切な情報提供と心理的サポート、すなわち質の高い遺伝カウンセリングが不可欠であると考えられたのです21。
この倫理的・社会的背景から、検査の質と妊婦さんへの支援体制を担保するために設立されたのが、「出生前検査認証制度等運営委員会」が管理する認証制度です7。
認証施設と非認証施設の徹底比較
認証施設(基幹施設・連携施設)と非認証施設(主に民間のクリニック)の主な違いは、以下の表の通りです87。
項目 | 認証施設 | 非認証施設 |
---|---|---|
運営主体 | 大学病院や総合病院など(学会が認定) | 主に民間のクリニック |
対象者 | 原則として、高年齢妊娠、過去の妊娠で染色体疾患があった場合などに限定される(JSOG指針1) | 年齢制限なく、誰でも受けられることが多い |
遺伝カウンセリング | 必須。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどが担当し、検査前後に十分な時間をかけて実施 | 体制は施設により様々。簡略化されている場合や、オンラインのみの場合もある |
検査項目 | 原則として基本3疾患(21, 18, 13トリソミー) | 基本3疾患に加え、性染色体異常、全染色体、微小欠失など多様なオプションを提供 |
陽性時の連携 | 確定検査(羊水検査等)や小児科、各種支援機関との連携体制が確立されている | 連携体制は施設により異なる。陽性時に改めて連携病院を探す必要がある場合も |
非認証施設は、手軽さや検査項目の多さといった利便性がある一方で、最も重要な遺伝カウンセリングや陽性時のサポート体制が不十分である可能性が懸念されています3。どちらの施設を選ぶかは個人の自由ですが、これらの違いを十分に理解した上で選択することが極めて重要です。
日本国内のNIPT実施状況(公式統計データ)
出生前検査認証制度等運営委員会の報告によると、日本国内の認証施設におけるNIPTの実施件数は年々増加しており、多くの妊婦さんがこの検査を選択していることがわかります。また、受検者の年齢分布を見ると、やはり35歳以上の割合が高いものの、35歳未満で受検する人も一定数存在します。これらの公式データは、ご自身の状況を日本全体の傾向と照らし合わせて考える上で参考になります22。
NIPTの費用と保険適用
NIPTの費用は、施設選びにおける大きな関心事の一つです。まず、最も重要な点として、NIPTは予防や治療を目的とした医療行為とは見なされないため、健康保険は適用されず、原則として全額が自費診療となります8。
費用は施設や検査項目によって大きく異なりますが、一般的な相場は以下の通りです。
- 認証施設: 基本の3疾患を対象とした検査で、おおよそ15万円から20万円程度。この費用には、通常、検査前後の遺伝カウンセリング料が含まれています。
- 非認証施設: 施設や検査範囲によって価格設定は多様です。基本検査は10万円以下で提供されることもありますが、全染色体や微小欠失などのオプションを追加すると20万円以上になることもあります。カウンセリング料が別途必要な場合もあるため、総額を事前に確認することが重要です。
また、NIPTで陽性となり、確定検査(羊水検査など)に進む場合、その検査にも別途10万円から20万円程度の費用がかかります。一部の非認証施設では、陽性だった場合の確定検査費用を一部または全額補助する制度を設けている場合がありますが、これはあくまで施設独自のサービスであり、公的な制度ではありません23。
検査を受けるかどうかの意思決定と、その後の流れ
NIPTは、受けるか受けないか、そしてその結果をどう受け止めるか、非常に重い決断を伴う検査です。そのプロセス全体を理解しておくことが、冷静な判断につながります。
【不可欠なステップ】検査前の遺伝カウンセリング
日本産科婦人科学会や日本人類遺伝学会は、NIPTを受ける前の遺伝カウンセリングを極めて重視しています124。これは単なる検査説明ではありません。カウンセリングの場では、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーといった専門家と共に、以下のような点について話し合います。
- NIPTでわかること、わからないこと、検査の限界(偽陽性・偽陰性など)
- 検査結果が陽性・陰性・判定保留だった場合に、それぞれどのような状況が考えられ、どのような選択肢があるのか
- あなたとパートナーが、どのような価値観を大切にしているか
- 抱えている不安や疑問の解消
このプロセスを通じて、検査についての正確な知識を得るだけでなく、自分たちの考えを整理し、主体的に「検査を受けるかどうか」を決定できるようになることが、カウンセリングの最大の目的です。
検査結果が「陽性」だった場合
陽性の結果を受け取ったとき、大きな衝撃と不安を感じるのは当然のことです。しかし、まず冷静に「これはまだ確定診断ではない」という事実を再認識することが重要です。
次のステップは、確定検査を受けるかどうかを検討することです。主な確定検査には以下の二つがあります8。
- 絨毛検査: 妊娠11週から14週頃に実施可能。胎盤の一部を採取して調べる。羊水検査より早期に結果がわかるが、わずかに流産のリスクが高いとされる。
- 羊水検査: 妊娠15週以降に実施可能。羊水を採取して調べる。絨毛検査よりリスクは低いとされるが、結果判明までに時間がかかる。
これらの確定検査で陽性が確定した場合、そこからさらに、妊娠を継続するかどうかという、極めて重い選択に直面することになります。その際には、出生前コンサルトを専門とする小児科医から、生まれてくる赤ちゃんの具体的な状態や、利用可能な医療・療育体制について詳しい情報を得ることができます。また、同じ疾患を持つ子どもを育てる家族会や地域の支援団体など、相談できる場所も存在します9。
検査結果が「判定保留」だった場合
稀に、検査結果が「陽性」でも「陰性」でもなく、「判定保留」となることがあります。これは、母親の血液中の胎児分画が低すぎるなどの理由で、正確な解析ができなかった状態です25。この場合、時期を改めて再検査を行うか、あるいは確定検査に進むかなど、今後の対応について医師と相談することになります。
結論:あなたとパートナーにとって最善の選択をするために
NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)は、出生前診断の分野における画期的な進歩であり、妊婦さんとそのご家族に、これまで得られなかった情報を提供する非常に有用なスクリーニング検査です。しかし、その一方で、「感度99%」という言葉の裏にある陽性的中率(PPV)の変動性や、偽陽性・偽陰性の可能性といった、正しく理解すべき限界も存在します。
また、日本独自の「認証制度」が示すように、この検査は単なる技術的な問題だけでなく、深い倫理的、社会的な側面を内包しています。どの施設で、どのようなサポートを受けながら検査に臨むかは、結果をどう受け止めるかに大きく影響する可能性があります。
この記事で提供した、国内外のガイドラインや最新の研究データに基づく客観的な情報が、あなたとパートナーがNIPTについて深く理解し、十分に話し合うための確かな土台となることを願っています。最終的には、一人で、あるいは二人だけで悩まず、かかりつけの産婦人科医や遺伝カウンセラーといった信頼できる専門家と共に、お二人にとって最も納得のいく意思決定をされることが何よりも重要です。
よくある質問
Q. ダウン症(21トリソミー)に対する精度はどのくらいですか?
A. 複数の大規模研究をまとめたメタ分析によると、21トリソミーに対するNIPTの感度(疾患がある場合に陽性と判定する確率)は約99.7%、特異度(疾患がない場合に陰性と判定する確率)は約99.9%と非常に高い精度です4。ただし、これは「陽性」と出た場合に必ず疾患があることを意味するわけではありません。実際に疾患がある確率を示す「陽性的中率(PPV)」は、妊婦さんの年齢などによって変動するため、注意が必要です。
Q. 検査で赤ちゃんの性別はわかりますか?
A. NIPTは性染色体(X, Y染色体)を分析するため、原理的に赤ちゃんの性別を判定することは可能です。認証施設では倫理的な配慮から原則として性別を伝えませんが、多くの非認証施設では希望者に性別を通知しています8。ただし、これも100%正確ではなく、稀に間違いが起こる可能性はあります。
Q. 双子の場合、検査は受けられますか?
A. はい、双胎妊娠でもNIPTを受けることは可能です。ただし、単胎妊娠と比較していくつかの注意点があります。まず、精度が若干低下する可能性があります。また、陽性と判定された場合に、どちらの赤ちゃんに疾患の可能性があるのかを特定することはできません5。そのため、確定検査の必要性やその後の対応について、より慎重なカウンセリングが求められます。
Q. 35歳未満ですが、検査を受ける意義はありますか?
結論
NIPTは、出生前診断における非常に有用なスクリーニング検査ですが、その限界を正しく理解することが極めて重要です。本記事で解説した通り、検査の最適な時期、わかることとわからないことの範囲、そして「感度」だけでなく「陽性的中率」という指標の重要性を把握することが、情報に基づいた意思決定の第一歩となります。また、日本における「認証制度」の存在は、検査の技術的な側面だけでなく、倫理的な配慮やカウンセリング体制がいかに重要であるかを示しています。この記事で得た客観的な情報を基に、パートナーと十分に話し合い、最終的にはかかりつけの産婦人科医や遺伝カウンセラーといった専門家と共に、ご自身とご家族にとって納得のいく選択をされることを心より願っております。
参考文献
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