夜中に目が覚める12の原因と15の対策|ストレスから病気のサインまで徹底解説
睡眠ケア

夜中に目が覚める12の原因と15の対策|ストレスから病気のサインまで徹底解説

「夜中の2時、また目が覚めてしまった…」「一度起きるとなかなか寝付けない…」。こうした悩みを抱えていませんか。夜中に何度も目が覚める「中途覚醒(ちゅうとかくせい)」は、多くの日本人、特に働き盛りの世代や高齢者にとって非常によくあるつらい問題です。厚生労働省の調査によれば、日本の成人のおよそ5人に1人が何らかの不眠症状に悩んでおり、質の高い睡眠を十分に取れていない人が非常に多いことが示されています1。この問題は単なる「寝不足」に留まらず、日中の倦怠感や集中力の低下、さらには心血管疾患やうつ病などの深刻な健康問題のリスクを高める可能性も指摘されています。

本記事では、厚生労働省の「睡眠ガイド2023」や日本の専門学会、国際的なガイドラインなどの信頼できる情報に基づき、Japanese Health(JHO)編集部が、中途覚醒の背後にある多岐にわたる原因をわかりやすく整理します。ストレスや生活習慣といった身近な問題から、見過ごされがちな病気のサインまでを丁寧に解説し、今日から実践できる具体的な対策、そして専門的な治療法までを包括的に紹介します。あなたの安らかな眠りを取り戻すための一歩として、ぜひ最後まで読み進めてみてください。


この記事の科学的根拠の柱

この記事の信頼性は、利用可能な最も強力な科学的証拠の基盤の上に構築されています。国内外の信頼できる情報源をもとに、睡眠医療やメンタルヘルスに関する知見をJapanese Health(JHO)編集部が日本の生活者向けに整理しました。

本記事は、厚生労働省や日本の専門学会、国立がん研究センター、海外の公的ガイドライン、査読付き論文などの情報に基づいて、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が作成しています。一部の情報整理や構成にはAIツールも活用していますが、最終的な内容の確認・編集はJHO編集部が行っています。

記事全体で直接・間接的に参照している主な情報源および権威は、以下のカテゴリから構成されています。

  • 国の健康ガイドライン(例:厚生労働省の睡眠ガイド、e-ヘルスネット)
  • 国際的な臨床ガイドライン(例:米国睡眠医学会など)
  • 専門医学会の治療ガイドライン(例:日本神経治療学会のむずむず脚症候群ガイドライン)
  • 大学病院・専門クリニック・医療情報ポータルサイトなどの専門情報

この記事の要点

  • 中途覚醒は成人の約20%が経験する一般的な不眠症状ですが、日中の機能低下を伴う場合は医学的な介入が必要な「不眠症」の一部として扱われることがあります。
  • 原因は、ストレス、カフェイン、アルコールなどの「生活習慣」、加齢やホルモン変化などの「生理的変化」、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群などの「病気」の3つに大別できます。
  • 対策の基本は、規則正しい生活や快適な寝室環境を整える「睡眠衛生」ですが、慢性的な不眠にはそれだけでは不十分なことも多く、行動療法や専門的な治療が必要になることがあります。
  • 文化的な習慣である「入浴」は、体温調節を助け睡眠の質を高める科学的根拠があり、梅雨時や酷暑など日本特有の気候への対策も中途覚醒の軽減に役立ちます。
  • 生活改善で効果がない場合、認知行動療法(CBT-I)が長期的に効果的な第一選択の治療法として多くのガイドラインで推奨されています。
  • いびきがひどい、足に不快感がある、気分の落ち込みが続くなどの場合は、背後に病気が隠れている可能性があるため、専門医への相談が不可欠です。
  • 睡眠日誌やセルフチェックを活用することで、自分の睡眠パターンや中途覚醒のきっかけを整理し、医療機関での相談にも役立てることができます。

第1部:医学的定義 – 「中途覚醒」とは一体何か?

多くの人が「夜中に目が覚めること」を漠然とした不調として捉えていますが、医学的にはより明確な考え方があります。厚生労働省が運営する健康情報サイト「e-ヘルスネット」などの権威ある情報源によると、「中途覚醒」は「入眠困難(寝つきが悪い)」「早朝覚醒(朝早く目が覚める)」と並ぶ、不眠症(ふみんしょう)の主要な3つの症状タイプの一つです2

ただし、夜間に一度目が覚めたからといって、それだけで「不眠症」と診断されるわけではありません。重要なのは、その覚醒が「どの程度の頻度で」「どれくらいの期間続き」「日中の活動にどう影響しているか」です。医学的な診断基準では、夜間の睡眠問題が「日中の倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲不振、仕事や家事の能率低下」などの不調を引き起こしている場合に、はじめて「不眠症」として扱われます。

例えば、夜中にトイレに起きても、すぐに再び眠りにつけ、翌朝すっきりと目覚められるのであれば、それは必ずしも病的な状態ではありません。年齢や体質によっては、夜間に1〜2回程度目が覚めることは自然なこともあります。この違いを理解することは、必要以上に不安にならず、本当に治療が必要な状態を見極めるための第一歩となります。

中途覚醒が「要注意のサイン」になる目安

次のような状況が続く場合は、単なる一時的な睡眠の乱れではなく、医療機関で相談した方がよい「要注意サイン」と考えられます。

  • 週のうち3日以上、夜中に何度も目が覚めてしまう状態が長く続いている。
  • 目が覚めたあと30分以上眠れない、またはほとんど眠れない日が続いている。
  • 日中に強い眠気やだるさ、仕事・家事・学業に支障が出ている。
  • 気分の落ち込みや不安感、イライラなど、メンタル面の変化も同時に感じている。
  • いびきや呼吸の乱れ、脚の違和感、夜間頻尿など、他の身体症状も気になる。

これらはあくまで目安ですが、「生活に支障が出ているかどうか」「つらさが長く続いているかどうか」が、中途覚醒を自己判断で抱え込まず専門家に相談するタイミングの重要なポイントです。

第2部:根本原因の分析 – なぜ、あなたは夜中に目覚めるのか?

中途覚醒の原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っています。ここでは、読者が自身の状況を整理しやすくするために、原因を以下の3つのカテゴリー(A・B・Cモデル)に分けて詳しく解説します。

A. 生活習慣・環境による原因(自分でコントロール可能な要因)

これらは最も一般的で、かつ個人の工夫によって改善が見込める要因です。「最近生活が不規則になってきた」「スマホを見る時間が増えた」と感じる方は、まずここを見直すだけでも大きく変わることがあります。

  • 心理的要因(ストレス・不安):

    現代社会において最大の原因とも言えるのがストレスです。仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、家族の介護や育児、将来への不安など精神的なストレスに晒されると、体は「闘争・逃走モード」に入ります。このとき、自律神経のうち交感神経が活発になり、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されます。

    コルチゾールは体を覚醒させる作用があるため、夜間にそのレベルが高いままだと眠りが浅くなり、わずかな物音や体の感覚でも目が覚めやすくなります。そして、「眠れない」こと自体が新たなストレスとなり、「また眠れなかったらどうしよう」という不安がさらなる不眠を招くという悪循環に陥りがちです3

  • 行動・嗜好品:

    • カフェインとニコチン:

      コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクに含まれるカフェインには強力な覚醒作用があり、その効果は3〜5時間程度、場合によってはそれ以上持続すると言われています。就寝前4時間以内の摂取は避けることが推奨されます。また、タバコに含まれるニコチンも同様に覚醒作用を持つため、睡眠の質を著しく低下させます2

    • アルコール(寝酒):

      アルコールは一時的に寝つきを良くするように感じさせるため、「寝酒」として利用する人もいますが、これは中途覚醒の大きな原因になり得ます。アルコールが体内で分解される過程で、覚醒作用のあるアセトアルデヒドという物質が生成され、睡眠の後半部分でレム睡眠が阻害され、眠りが浅くなります。その結果、夜中や明け方に何度も目が覚めやすくなります3

    • 食事と就寝前の水分摂取:

      就寝直前の満腹状態や脂っこい食事は、消化活動のために内臓が休まらず、睡眠の質を妨げます。また、水分の過剰摂取は夜間頻尿の原因となり、そのために何度もトイレに起きてしまうことがあります。特に高齢者や前立腺肥大症などが疑われる方は注意が必要です。

    • 不適切な昼寝・運動不足:

      長すぎる昼寝(30分以上)や、午後遅い時間帯(15時以降)の昼寝は、夜間の睡眠圧(眠ろうとする力)を減少させてしまいます2。一方で、日中の適度な運動は心地よい身体的疲労感を生み、深い睡眠を促します。デスクワーク中心の生活で運動が不足していると、体の「疲れ方」と「脳の疲れ方」のバランスが崩れ、眠りが浅くなる一因となります。

    • 就寝前のスマートフォン・PC使用:

      ベッドの中で長時間スマートフォンを見続けると、ブルーライトがメラトニンの分泌を抑え、脳を「昼モード」のままにしてしまいます。また、SNSやニュースのチェックによって感情が揺さぶられ、ストレスや不安が高まることも、睡眠の質低下につながります。

  • 睡眠環境:

    寝室の環境も睡眠の質を大きく左右します。特にスマートフォンやPCから発せられるブルーライトは、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。また、騒音、不適切な室温(暑すぎる・寒すぎる)、湿度(乾燥しすぎ・高すぎる)、寝具の硬さや枕の高さなども、無意識のうちに微小な覚醒(micro-arousals)を引き起こし、睡眠を断片化させる原因となります。

B. 生理的変化による原因(理解し、適応すべき要因)

これらは体の自然な変化であり、完全にゼロにすることは難しいものの、そのメカニズムを理解し、生活を工夫することで影響を和らげることができます。

  • 加齢:

    中途覚醒の最も大きな原因の一つが加齢です。年を重ねると、睡眠の構造自体が変化します。最も深いノンレム睡眠(N3段階)が大幅に減少し、浅い睡眠の割合が増えることが知られています。その結果、些細な物音や尿意、体の痛みなどでも目が覚めやすくなります。

    また、体内時計のリズムが前進し(位相前進)、若い頃のように「夜更かし」が難しくなり、自然と早寝早起きになる傾向があります。さらに、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量も、加齢とともに徐々に減少していきます4。こうした変化自体は「病気」ではなく、誰にでも起こり得る自然な老化現象です。

  • 女性ホルモンの変動:

    女性は生涯を通じてホルモンバランスの大きな変動を経験し、それが睡眠に影響を与えます。月経周期に伴う変動、妊娠中の身体的変化やホルモンバランスの変化、そして更年期におけるホットフラッシュ(ほてり)や寝汗といった血管運動神経症状は、いずれも中途覚醒の直接的な原因となり得ます。

    更年期前後には、夜中に急に暑くなって目が覚める、汗で目が覚めるといった訴えが多く、睡眠の質の低下と同時に、日中の疲労感や気分の落ち込みにつながることもあります。婦人科や更年期外来で相談することで、ホルモン療法や漢方、生活習慣の調整など、適切な対処法が見つかる場合があります。

C. 病気のサインの可能性(専門的な診断が必要な警告)

繰り返し起こる中途覚醒は、治療が必要な病気が隠れているサインかもしれません。自己判断で放置せず、疑わしい場合は専門医に相談することが極めて重要です。

  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome):

    睡眠中に呼吸が繰り返し止まる病気です。気道が塞がると血中の酸素濃度が低下し、脳が危険を察知して体を覚醒させ、呼吸を再開させようとします。この無呼吸・覚醒のサイクルが一晩に数十回から数百回も繰り返されるため、睡眠は深刻に断片化され、深い眠りが得られません。

    大きな「いびき」、睡眠中の息苦しさや窒息感(多くはベッドパートナーに指摘される)、日中の激しい眠気や居眠りが典型的な症状です。日本における潜在的な患者数は非常に多いと推定されており、高血圧や心臓病、脳卒中などのリスクを高めるため、早期の診断と治療が不可欠です3

  • むずむず脚症候群(RLS: Restless Legs Syndrome):

    脚、特にふくらはぎに「むずむずする」「虫が這うような」「じりじりする」といった言葉では表現しがたい不快感が生じ、脚を動かさずにはいられない衝動に駆られる病気です。この症状は、安静時(座っている時や横になっている時)に現れたり悪化したりし、脚を動かすことで一時的に軽快する、そして夕方から夜間にかけて症状が強くなるという特徴があります。

    脳内の神経伝達物質であるドーパミンの機能異常や鉄分不足が関与していると考えられており、日本神経治療学会のガイドラインにも診断基準や治療方針が明記されています5。自己判断で放置せず、神経内科や睡眠専門医に相談することが大切です。

  • うつ病・不安障害:

    睡眠障害と精神疾患は、鶏と卵のような密接な双方向の関係にあります。うつ病患者の多くが不眠を訴える一方で、慢性的な不眠症が将来のうつ病や不安障害の発症リスクを高めることも多くの研究で示されています。

    気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、何をしても楽しく感じない、強い不安感や焦りなどの症状と共に不眠が続く場合は、精神科や心療内科への相談が必要です3

  • その他の身体疾患:

    夜間に2回以上トイレに起きる「夜間頻尿」、関節リウマチなどの「慢性的な痛み」、心不全や喘息などの呼吸器・循環器系の疾患、アレルギーや皮膚疾患によるかゆみも、中途覚醒の原因となり得ます。また、服用している薬の副作用が睡眠に影響している場合もあるため、心当たりがある場合は、自己判断で薬を中断せず、必ず主治医に相談してください。

第3部:包括的な行動計画 – 快眠を取り戻すために

中途覚醒を克服するためには、「これだけやればすぐ治る」という単一の方法ではなく、生活習慣の見直しから専門的な治療まで、多角的なアプローチが必要です。ここでは、今日から始められることから、医療機関で相談できる治療法まで、段階的な行動計画を提案します。

ステップ1:【土台作り】睡眠衛生を最適化する

睡眠衛生とは、質の良い睡眠のために推奨される生活習慣や環境づくりのことです。これは全ての対策の基本となります。米国睡眠医学会(AASM)や日本の厚生労働省も、その重要性を繰り返し強調しています16

  • 規則正しい生活リズム: 休日も含め、毎日ほぼ同じ時刻に起床・就寝することを心がけましょう。「起きる時間」をまず固定し、その後で就寝時間を調整していくとリズムが整いやすくなります。
  • 光のコントロール: 朝はカーテンを開けて太陽の光を浴び、体内時計をリセットします。夜は寝室をできるだけ暗くし、就寝1〜2時間前からスマートフォンやPCの明るい画面を見る時間を減らしましょう。
  • 快適な寝室環境: 静かな環境を保ち、エアコンや加湿器・除湿機を活用して、季節に応じた温度・湿度を整えます。一般的には、室温はやや涼しめ、湿度は50〜60%程度が目安とされています。
  • 適度な運動習慣: 日中にウォーキングなどの有酸素運動を行うと、夜に心地よい疲労感が得られ、深い睡眠につながります。ただし、就寝直前の激しい運動はかえって覚醒を促してしまうため、寝る3時間前までに終えるようにしましょう。
  • 就寝前のリラックスタイム: 読書、軽いストレッチ、呼吸法、ぬるめのお湯での入浴など、心身をリラックスさせる習慣を持つことが大切です。「寝る直前まで仕事や家事」「布団に入るまでスマホ」という状態から、一度気持ちを切り替える時間を挟むことがポイントです。

ただし、AASMのガイドラインでは「睡眠衛生指導単独では、慢性不眠症の治療には通常不十分である」とも指摘されています6。睡眠衛生はあくまで土台であり、「きちんと取り組んでもつらい状態が続く」場合は、次のステップが必要になります。

ステップ2:【緊急対策】夜中に目が覚めてしまったら?

すでに目が覚めてしまったとき、「どうすれば少しでもラクに過ごせるか」「悪循環を防げるか」がポイントです。次のような対処法を試してみてください。

  • 時計を見ない: 「まだこんな時間か」「あと何時間しか眠れない」と考えると、かえって不安や焦りが募り、脳が覚醒してしまいます。目覚まし以外の時計は見えない位置に置くか、スマホを手の届かない場所に置いて寝るのも一案です。
  • リラクゼーション法を試す: ゆっくりと鼻から息を吸い、口から吐き出す「腹式呼吸」は、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせるのに効果的です。呼吸の数を数えたり、「吸う4秒・止める2秒・吐く6秒」のようなリズムを意識すると、意識が不安から「呼吸」に移っていきます。
  • 眠れなければ寝床を出る: これは「刺激制御療法」という認知行動療法の一環です。15〜20分経っても眠れない場合は、一度寝床を出て、別の部屋やベッドから離れた場所で、薄暗い明かりの下、退屈な本を読むなどして静かに過ごします。眠気を感じてから再び寝床に戻ることで、「ベッド=眠れない場所」という不適切な条件付けを解消していきます。
  • やってはいけないこと: スマートフォンを見る、明るい照明をつける、しっかりした食事をとる、喫煙するなどの行動は、脳を覚醒させてしまうため厳禁です。SNSやニュースは特に感情を刺激しやすく、再入眠を妨げます。

ステップ3:【日本ならではの知恵】文化と気候を味方につける

  • お風呂の力(入浴の科学):

    日本人にとって馴染み深い入浴習慣は、科学的にも睡眠を改善する効果が示されています。就寝の90〜120分前に40℃程度のお湯に10〜15分ほど浸かることで、体の深部体温が一時的に上昇します。その後、入浴を終えて体温がゆっくり下がっていく過程が、脳に「そろそろ眠りにつく時間だ」という合図を送ると考えられています。

    熱すぎるお湯や長湯はかえって交感神経を刺激してしまうことがあるため、「ぬるめのお湯でほどよい時間」を意識するとよいでしょう。シャワーだけで済ませがちな方も、週に数回だけでも「湯船に浸かる」時間をつくると、睡眠の質が変わることがあります。

  • 梅雨や夏の高温多湿対策:

    日本の梅雨時期や真夏は、高温多湿と日照不足が睡眠の質を低下させる要因となります。湿度が高いと汗が蒸発しにくく、深部体温が下がりにくくなるため、寝苦しさや中途覚醒の原因になります。除湿機やエアコンの除湿機能を活用して寝室の湿度を50〜60%程度に保つことが大切です。

    また、曇りの日でも日中はできるだけ屋外の光を浴びることが、体内時計を整える上で有効です。在宅勤務などで一日中室内にいる場合は、午前中に意識してベランダや近所を少し歩き、「体を外の光に当てる時間」をつくるようにしましょう。

ステップ4:【専門的な助け】医療機関での治療

セルフケアで改善しない場合や、病気が疑われる場合は、専門家の助けを求めることが重要です。治療の選択肢には、まず行動療法があり、必要に応じて薬物療法が検討されます。

  • 認知行動療法(CBT-I):

    認知行動療法(CBT-I)は、慢性不眠症に対する第一選択の治療法として、多くのガイドラインで推奨されている方法です6。薬物療法に比べて長期的な効果が高く、副作用の心配が少ないことが特徴です。

    CBT-Iでは、前述の刺激制御療法のほか、睡眠時間を意図的に制限して睡眠効率を高める「睡眠制限療法」、睡眠に関する「〜でなければならない」といった歪んだ考え方を修正する「認知再構成法」などを組み合わせ、数週間〜数か月かけて取り組んでいきます。日本でも、専門クリニックや一部の医療機関、オンラインプログラムなどで提供されるようになってきています。

  • 薬物療法:

    • 処方薬:

      中途覚醒が強い場合には、医師の判断のもとで睡眠薬が処方されることがあります。従来のベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬に加え、近年では、脳の覚醒システムに働く新しいタイプの「オレキシン受容体拮抗薬」(例:スボレキサント、レンボレキサント、ダリドレキサントなど)が登場し、より自然な眠りを促す薬として用いられています。

      いずれの睡眠薬も、効果や副作用、併用している薬との相互作用が人によって異なるため、自己判断で増量したり、市販薬と併用したりすることは危険です。必ず医師の指示のもとで、必要最小限の量と期間にとどめることが原則です。

    • 市販薬・漢方薬:

      日本の市販の睡眠改善薬(例:ドリエル)は、抗ヒスタミン薬の眠くなる副作用を利用したもので、連用すると効果が薄れやすく、日中の眠気などの副作用も生じやすくなります。そのため、一時的な使用に留めることが勧められます2

      一方で、漢方薬の「抑肝散(よくかんさん)」や「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」などは、神経の高ぶりを鎮める作用があり、ストレスが主な原因である軽度から中等度の不眠に用いられることがあります。ただし、漢方薬も薬であることに変わりはなく、体質や持病によっては適さない場合もあるため、医師や薬剤師に相談しながら使用することが大切です。

第4部:中途覚醒と上手につき合うためのセルフチェックと記録術

中途覚醒の対策を考えるうえで、「なんとなくつらい」という感覚を少しだけ言葉や数字に落とし込んでみることは、とても有効です。自分の睡眠パターンを客観的に把握できるようになると、「何がきっかけで悪化しているのか」「どの対策が自分に合っているのか」が見えやすくなります。医療機関を受診する際にも、睡眠の記録は非常に役に立ちます。

睡眠日誌(スリープダイアリー)をつけてみる

難しく考える必要はありません。手帳やノート、スマホのメモなど、続けやすい方法で構いませんので、次の項目を1〜2週間分ほど記録してみましょう。

  • 寝床に入った時刻・実際に眠ったと思う時刻
  • 夜中に目が覚めた回数と、おおよその時刻・きっかけ(トイレ、夢、物音など)
  • 再び眠りにつくまでにかかった時間の感覚
  • 朝起きた時刻と、そのときの眠気・疲労感
  • 日中の眠気の強さ(例:0〜10のスケールで自己評価)
  • その日のストレスイベント(仕事のトラブル、家庭の用事など)やカフェイン・アルコールの摂取状況

完璧に書こうとする必要はありません。大まかな傾向がわかれば十分です。「ストレスが強かった日は特に中途覚醒が増えている」「寝酒をした日は明け方に目が覚めやすい」など、自分なりのパターンが見えてくることがあります。

セルフチェック:受診を迷っているときのヒント

「これくらいで病院に行って良いのだろうか」と迷う方は少なくありません。そんなときは、次のような問いを自分に投げかけてみてください。

  • 中途覚醒のせいで、以前と比べて仕事や家事の能率が明らかに落ちていないか。
  • 睡眠不足のせいで、ミスや事故を起こしそうになった経験があるか。
  • 「眠れないこと」が頭から離れず、一日中そのことばかり考えてしまっていないか。
  • 市販の睡眠改善薬やアルコールに頼らないと眠れない状態が続いていないか。

一つでも当てはまる場合は、自己判断で頑張り続けるよりも、かかりつけ医や睡眠専門医に相談することを検討しましょう。睡眠日誌を持参すると、限られた診察時間の中でも、より具体的なアドバイスが得られやすくなります。

【重要】受診を検討すべき兆候

以下の表は、ご自身の状態を客観的に評価し、専門医への相談が必要かどうかを判断するための目安です。一つでも当てはまる項目があれば、自己判断を続けずに医療機関を受診することを強くお勧めします。

症状・状況 推奨される診療科
非常に大きないびき、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘される、日中の耐え難い眠気がある。 呼吸器内科、睡眠専門医
夕方から夜にかけて、脚に耐えがたい不快感があり、動かすと楽になる。 神経内科、睡眠専門医
2週間以上続く気分の落ち込み、興味の喪失、過度な不安が不眠と同時に起きている。 精神科、心療内科
生活習慣を改善しても、不眠が1ヶ月以上続いている。 一般内科、かかりつけ医、睡眠専門医
不眠が原因で、仕事、学業、社会生活に深刻な支障が出ている。 一般内科、かかりつけ医、睡眠専門医
市販の睡眠改善薬やアルコールなしでは眠れない状態が続いている。 一般内科、心療内科、睡眠専門医

よくある質問(FAQ)

Q1: 夜中に目が覚めるのは、ストレスが原因なのでしょうか?

A1: はい、ストレスは中途覚醒の最も一般的な原因の一つです。ストレスを感じると、体を覚醒させるホルモン「コルチゾール」が分泌され、自律神経のバランスが乱れて交感神経が優位になります。その結果、眠りが浅くなり、夜中にちょっとした物音や体の感覚で目が覚めやすくなります。

「眠れないこと」自体が新たなストレスとなる悪循環もよく見られます。リラクゼーション法の実践や、ストレスの原因を小さな単位に分けて整理すること、就寝前の「考え事時間」をあえて短く区切ることなどが改善の鍵となります3

Q2: 加齢で夜中に目が覚めるのは、仕方がないことですか?

A2: 加齢に伴い、深い睡眠が減少し、眠りが浅くなるのは自然な生理的変化です4。そのため、若い頃に比べて目が覚めやすくなること自体は、ある程度避けられない側面もあります。

しかし、「仕方がない」とすべてを諦める必要はありません。睡眠衛生の徹底、適度な運動、日中の光の浴び方の工夫、夜間頻尿や痛みなどの身体症状の治療などによって、睡眠の質を維持・向上させることは十分に可能です。高齢だからこそ、日中の生活習慣を整えることがより重要になります。

Q3: 夜中に目が覚めて眠れない時は、どうすればいいですか?

A3: 最も重要なのは「眠ろうと焦らない」ことです。15〜20分経っても眠れないと感じたら、一度寝床から出て、薄暗い明かりの下で静かな音楽を聴いたり、単調で退屈な本を読んだりしてリラックスして過ごしましょう。眠気を感じたら再びベッドに戻ります。

この方法は「刺激制御療法」と呼ばれ、不眠症の認知行動療法(CBT-I)の中核的なテクニックの一つです6。時計を見て時間を気にしたり、スマートフォンを操作したりするのは、脳を覚醒させる原因になるため避けてください。

Q4: 睡眠時無呼吸症候群と中途覚醒の関係は?

A4: 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は中途覚醒の重要な原因です。睡眠中に気道が塞がって呼吸が止まると、脳が酸欠を察知して体を覚醒させます。この短い覚醒が夜通し繰り返されるため、本人は意識していなくても睡眠が断片化し、質が著しく低下します。

大きないびきや日中の強い眠気、朝起きたときの頭痛などがある場合は、SASを疑い、呼吸器内科や睡眠専門医の診察を受けることが不可欠です3。放置すると、高血圧や心臓病、脳卒中などのリスクが高まることが知られています。

Q5: 薬にはできるだけ頼りたくありません。それでも中途覚醒は改善できますか?

A5: はい、薬に頼らずに中途覚醒を軽減できる可能性は十分にあります。特に、慢性的な不眠に対しては、認知行動療法(CBT-I)などの行動療法が第一選択として推奨されており、薬物療法よりも長期的な効果が高いとされています6

睡眠衛生の見直し、ストレスマネジメント、就寝前のリラックス習慣、刺激制御療法や睡眠制限療法などを組み合わせることで、「眠れない→不安になる→さらに眠れない」という悪循環を少しずつ断ち切ることが期待できます。自己流で頑張りすぎず、必要に応じて医療機関やカウンセリングサービスなども活用しながら、無理のないペースで取り組んでいくことが大切です。

Q6: 病院を受診する時、どのような情報を医師に伝えればよいですか?

A6: 医師に相談する際には、「どのような睡眠の悩みが、いつから、どのくらいの頻度で続いているか」をできるだけ具体的に伝えることが大切です。具体的には、次のような情報が役に立ちます。

  • 就寝・起床時刻、中途覚醒の回数や時間帯
  • 中途覚醒が起こるきっかけ(トイレ、夢、息苦しさ、痛みなど)
  • 日中の眠気やだるさの程度、仕事や家事への影響
  • 現在服用している薬やサプリメント、市販の睡眠改善薬の使用状況
  • 最近の生活の変化(転職、引っ越し、家族構成の変化など)

簡単な睡眠日誌を数日〜1週間分持参すると、医師が原因を整理しやすくなり、検査や治療方針の検討に大きく役立ちます。

結論

夜中に目が覚める「中途覚醒」は、単なる不快な体験ではなく、私たちの心と体の状態を映し出す重要なサインです。その背景には、ストレスや生活習慣といった日々の選択から、加齢という自然な変化、そして治療を要する医学的な問題まで、実に多様な要因が潜んでいます。

この記事で解説したように、まずは自身の生活を振り返り、睡眠衛生の基本を整えることが第一歩です。日本の文化に根差した入浴の習慣を科学的に活用したり、梅雨や夏の高温多湿といった季節の特徴に合わせて寝室環境を工夫したりすることも、質の高い睡眠への近道となるでしょう。

それでも改善が見られない場合、あるいは病気の兆候が疑われる場合には、決して一人で悩まず、専門家の助けを求める勇気を持つことが大切です。特に、認知行動療法(CBT-I)のように、長期的な改善が期待できる治療法が存在することを知っておくことは、大きな安心材料になります。

中途覚醒は、「もう若くないから仕方がない」「性格の問題だから我慢するしかない」と片づけるべきものではありません。適切な情報とサポートがあれば、多くの場合、状況を少しずつでも良い方向に変えていくことができます。あなたの夜が、断片的な覚醒ではなく、深く安らかな休息の時間となることを、JHO編集部一同、心から願っています。今日からできる小さな一歩を踏み出し、自分に合ったペースで「健やかな眠りへの旅」を始めてみませんか。

免責事項

本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。具体的な診断や治療方針は、個々の症状や背景によって異なります。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド 2023 [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年6月19日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf
  2. アリナミン製薬. 夜中に目が覚める原因は?眠れないことの悪影響や改善するための… [インターネット]. [引用日: 2025年6月19日]. Available from: https://alinamin-kenko.jp/navi/navi_kizi_wake-up-midnight.html
  3. ゆうメンタルクリニック. 睡眠障害による中途覚醒7つの原因|今すぐできる対策も解説 [インターネット]. [引用日: 2025年6月19日]. Available from: https://fukuoka-mental-clinic.jp/column/sleep/sleep-disorders-mid-awakening/
  4. 西川株式会社. 中途覚醒・早朝覚醒とは?20代でも多い?夜中に目が覚めるときの… [インターネット]. [引用日: 2025年6月19日]. Available from: https://www.nishikawa1566.com/column/sleep/20220330173850/
  5. 日本神経治療学会. 標準的神経治療:Restless legs 症候群 [インターネット]. [引用日: 2025年6月19日]. Available from: https://www.jsnt.gr.jp/guideline/restless.html
  6. Edinger JD, Arnedt JT, Bertisch SM, Carney CE, Harrington JJ, Lichstein KL, Sateia MJ, Troxel WM, Zhou ES, Kazmi U, Heald JL, Martin JL. Clinical Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Insomnia in Adults. J Clin Sleep Med. 2021;17(2):255-262. doi:10.5664/jcsm.8986. Available from: https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.8986

:

この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ