この記事の科学的根拠
この記事は、ご提供いただいた研究報告書で明示的に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本文中で言及されている実際の情報源の一部とその医学的指針との関連性です。
この記事の要点まとめ
- 手術や放射線療法などの「局所療法」は、目に見えないほど微小な転移(微小転移)を完全に取り除くことができず、これが再発の主な原因となります。
- 抗がん剤(化学療法)は、がん細胞と正常細胞を区別なく攻撃するため副作用が強く、また、がん細胞が薬剤への耐性を獲得する問題があります。
- 治療が失敗する根本的な原因として、①微小転移、②治療に抵抗する親玉細胞「がん幹細胞」、③多様な性質を持つがん細胞の集団「腫瘍の不均一性」という3つの要因が挙げられます。
- これらの限界を克服するため、「がんゲノム医療」による個別化治療や、自身の免疫力を利用する「免疫療法」などの新しいアプローチが期待されています。
- 血液検査でがんの再発リスクを早期に発見する「リキッドバイオプシー」のような診断技術の進歩も、治療成績の向上に貢献すると考えられています。
なぜ「標準治療」だけでは、がんを根治できないのか?
現代のがん治療は、「標準治療」を基本として行われます。標準治療とは、科学的な証拠に基づいて、ある時点での最良の治療法として認められているものを指します2。これは主に手術療法、放射線療法、そして化学療法(抗がん剤治療)の3つを指し、「三大治療」とも呼ばれます。しかし、これらの優れた治療法をもってしても、がんを完全に「治癒」させるのが難しい場面があるのはなぜでしょうか。その理由は、各治療法が持つ固有の「限界」にあります。
手術・放射線治療の限界:目に見えない「微小転移」との戦い
手術と放射線療法は、がんが存在する特定の場所を狙い撃ちする「局所療法」です6。がんがまだ発生した臓器にとどまっている「限局がん」に対しては、これらの治療は極めて高い効果を発揮し、根治を目指すことができます7。原理は、目に見えるがんの塊を物理的に切除するか、高エネルギーの放射線で破壊するという、直接的で強力なものです。
しかし、これらの局所療法の最大の限界は、目に見えない「微小転移(びしょうてんい)」に対して無力である点です8。がんは静的な病気ではありません。早期の段階であっても、がん細胞の一部が元の腫瘍から剥がれ落ち、血液やリンパの流れに乗って体の他の部分へ旅立っている可能性があります。これらの微小な転移巣は、CTやMRIといった最新の画像診断でも捉えることができないほど小さいため9、手術で目に見える腫瘍を完全に取り除けたとしても、体内に残った微小転移が時間をかけて成長し、再発を引き起こすのです8。これが、局所療法だけでは進行したがんを治しきれない根本的な理由です。
抗がん剤(化学療法)の限界:正常細胞へのダメージと「薬剤耐性」の壁
がんが全身に広がっている可能性がある場合、抗がん剤治療(化学療法)が主要な武器となります。これは薬剤が血流に乗って全身を巡る「全身療法」であり、体のどこに隠れていてもがん細胞を攻撃できる可能性があります6。多くの伝統的な抗がん剤は、がん細胞の最大の特徴である「速い細胞分裂」を標的に作用します8。
しかし、この作用機序こそが化学療法の最大の弱点、すなわち「選択性の欠如」につながります。抗がん剤は、分裂しているがん細胞と、同じく活発に分裂している正常な細胞を区別できません8。例えば、血液を作り出す骨髄細胞、髪の毛の元となる毛母細胞、口や消化管の粘膜細胞などがそれに当たります。これらの正常細胞が攻撃されることで、脱毛、吐き気、下痢、貧血、そして免疫力の低下といった、重い副作用が引き起こされます6。多くの場合、体内にいるすべてのがん細胞を叩ききる前に、患者様自身の体が副作用に耐えられなくなってしまうのです10。
もう一つの深刻な問題が「薬剤耐性(やくざいたいせい)」の出現です。絶えず遺伝子変異を繰り返すがん細胞は、やがて抗がん剤を無力化する術を身につけます。これにより、治療中にもかかわらず、がんが再び増殖を始める「再燃」という現象が起こります10。さらに、化学療法は免疫細胞をも攻撃してしまうため、がんを監視・排除するはずの体の防御システムを弱体化させてしまうという、皮肉な側面も持っています。特に、がん細胞を直接攻撃する能力を持つNK(ナチュラルキラー)細胞の働きが、化学療法後、長年にわたって回復しないことがあると指摘されています8。
がん再発・難治化の「3大原因」を深掘り
標準治療が奏効しない背景には、がん細胞自身が持つ驚くべき生存戦略と生物学的特性が存在します。特に「微小転移」「がん幹細胞」「腫瘍の不均一性」という3つの要素が、がんを根治困難な病気にしている根本原因と考えられています。
原因① 微小転移と残存病変(MRD)
「見えざる敵」—これが微小転移とMRD(Minimal Residual Disease:微小残存病変)を最も的確に表す言葉です。これらは、手術などの初期治療後に体内にごくわずかに生き残ったがん細胞の集団を指します11。その大きさは1mmにも満たないことが多く、PETやCTなどの画像検査では検出不可能です9。これらの細胞は、数ヶ月から数年もの間「冬眠状態」にあり、やがて再び目を覚まして増殖を始め、目に見える形での「再発」となります。
国立がん研究センターなどの定義によれば、この再発は主に3つの形式に分類されます12。
- 局所再発: 最初のがんがあった場所、またはそのすぐ近くに再びがんが出現すること。
- 領域再発: 最初のがんの周辺にあるリンパ節などにがんが出現すること。
- 遠隔再発(転移): 肝臓や肺など、元の場所から離れた臓器にがんが出現すること。これは微小転移が存在した明確な証拠です。
近年、この見えざる敵を捉える技術として「リキッドバイオプシー」が注目されています。これは血液検査によって、血液中に漏れ出したごく微量のがん由来のDNA(ctDNA)を検出する技術で、画像診断よりもはるかに早期に再発の兆候を捉えることができると期待されています5。
原因② すべての元凶「がん幹細胞(Cancer Stem Cell)」とは?
もし微小転移が潜伏する「兵士」だとすれば、その兵士を生み出し、指揮する「首領(ドン)」ががん幹細胞(Cancer Stem Cells, CSCs)です。がん組織は均一な細胞の集まりではなく、その中にごくわずかな割合でCSCsが存在します。この細胞は、①自らを複製して数を維持する能力(自己複製能)と、②他の多様ながん細胞を生み出す能力(分化能)という、2つの恐るべき能力を持っています7。がんの発生、増殖、転移、そして再発のすべての根源であると考えられているのです。
CSCsの存在は、標準治療がなぜ根治に至らないかを説明する上で極めて重要です。化学療法や放射線療法は、活発に分裂する細胞を標的としますが、CSCsの多くは分裂を休止した「冬眠状態」にあるため、これらの攻撃をやすやすと回避してしまいます8。その結果、治療によって腫瘍の大部分(分裂していた普通のがん細胞)が死滅し、がんは縮小したように見えても、抵抗性を持つCSCsは生き残ります。そして、この生き残ったCSCsから、いずれ新しいがん組織が再生され、しばしば以前よりも悪性度の高い、治療抵抗性のがんとして再発するのです7。
国際的な研究により、CSCsが治療に抵抗する様々なメカニズムが解明されています。
メカニズム | 詳細な説明 | 科学的根拠(PMID) |
---|---|---|
休眠状態(Dormancy) | 細胞周期を一時的に離脱し、分裂しない状態になることで、増殖中の細胞を標的とする化学療法などを回避する。 | 4 |
DNA修復能力の亢進 | 放射線や一部の抗がん剤によるDNA損傷を効率的に修復するシステムを持ち、攻撃から回復する能力が高い。 | 4 |
薬剤排出ポンプ(Drug Efflux) | ABCトランスポーターと呼ばれるタンパク質を細胞膜に多数持ち、取り込んだ抗がん剤を細胞外へ積極的に排出してしまう。 | 4 |
上皮間葉転換(EMT) | 細胞が移動・浸潤しやすい性質を獲得する生物学的プロセス。これにより、移動能力や薬剤耐性が向上する。 | 13 |
アポトーシス(細胞死)への抵抗 | 細胞が自ら死を選ぶ「アポトーシス」というプログラムされた細胞死に抵抗するシグナル伝達系が強力に働いている。 | 4 |
ニッチとの相互作用 | 「ニッチ」と呼ばれる特殊な微小環境に保護されており、外部からの治療刺激に対して抵抗性を示す。 | 4 |
原因③ 腫瘍の多様性(ヘテロ性)とがん微小環境(TME)
がん組織は、同一の細胞のクローン集団ではありません。むしろ、それは「多様性(不均一性、ヘテロジェナイティ)」に満ちた複雑な生態系です7。つまり、一つの腫瘍の中にも、異なる遺伝子変異や生物学的特徴を持つ、多種多様ながん細胞の亜集団が存在します。この多様性こそが、単一の薬剤で腫瘍全体を根絶するのが困難な理由の一つです。ある薬剤が特定の細胞集団に効果的であっても、他の集団には効かない、という事態が起こるのです7。
この複雑さは、「がん微小環境(Tumor Microenvironment, TME)」によってさらに増幅されます。TMEは、がん細胞を取り巻く線維芽細胞、免疫細胞、血管、細胞外マトリックスなどから構成される、がんの「住みか」です14。これは単なる背景ではなく、がんの増殖を積極的に支援し、保護する役割を果たします。例えば、TME内の特殊な線維芽細胞(CAF)は、がんの増殖を促す物質を分泌したり、免疫細胞の侵入を妨げる物理的なバリアを形成したりして、がんが治療から逃れるのを助けます14。
これら3つの原因、すなわち「微小転移」「がん幹細胞」「腫瘍の不均一性とTME」は独立しているのではなく、相互に連携しています15。がん幹細胞が多様ながん細胞を生み出し(不均一性)、一部が転移能力を獲得して微小転移を形成し、転移先で新たなTMEに保護されながら生き延びる、という一連の流れが、がん治療の根深くて複雑な課題を形成しているのです。
限界を乗り越えるための「新しいがん治療」の選択肢
標準治療の限界に直面し、医学界はより個別化され、標的を絞った新たな治療法の開発に邁進しています。分子生物学や免疫学の飛躍的な進歩により、がん治療は新たな時代を迎えようとしています。
がんゲノム医療:遺伝子情報に基づく「個別化治療」
がんゲノム医療は、がん治療におけるパラダイムシフトを象徴するアプローチです。これは、がんが発生した「臓器」ではなく、個々の患者様のがん細胞が持つ「遺伝子の異常」に注目して治療法を選択するものです16。その中核をなすのが「がん遺伝子パネル検査」で、一度に数百種類もの遺伝子を調べ、がんの増殖の原因となっている特有の遺伝子変異(ドライバー変異)を突き止めます17。
もし、治療薬の標的となる遺伝子変異が見つかれば、「分子標的薬」という種類の薬を使用できる可能性があります。これは、その遺伝子変異によって作られる異常なタンパク質だけを狙い撃ちにする薬で、化学療法に比べて副作用が少なく、高い効果が期待できます18。日本では2019年6月から、このパネル検査が公的医療保険の適用となり、多くの方がアクセスできるようになりました19。しかし、検査を受けても実際に適切な分子標的薬が見つかる患者様の割合は、報告によれば約8.1%とまだ低いのが現状で、新薬の臨床試験へのアクセス改善などが今後の課題とされています20。
免疫療法:本来の免疫力を解き放つ治療法
免疫療法は、患者様自身が持つ免疫システムの力を利用してがんと戦う、画期的な治療法です1。免疫細胞は全身をパトロールしているため、この治療法は全身療法として、原発巣だけでなく微小転移にも効果を発揮する可能性があります21。
ここで極めて重要なのは、国立がん研究センターが強調するように、免疫療法を科学的根拠の有無で明確に区別することです1。
- 効果が証明された免疫療法: 主に「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」を指します。がん細胞は免疫細胞に「ブレーキ」をかけることで攻撃から逃れていますが、この薬はそのブレーキを解除し、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようにするものです。ニボルマブ(商品名オプジーボ)などがこれにあたり、大規模な臨床試験で有効性が証明され、一部のがんに対して保険適用となっています。
- 効果が証明されていない免疫療法: 多くの自由診療クリニックで提供されている、活性化リンパ球療法など様々な免疫細胞療法がこれに含まれます。現時点では、その有効性や安全性を大規模な臨床試験で示した質の高い科学的根拠が乏しいのが実情です。治療を検討する際は、必ず主治医や専門医に相談し、慎重に判断することが求められます。
免疫療法の分野では、患者様自身の免疫細胞(T細胞)を体外で遺伝子改変し、がんを特異的に攻撃できるようにする「CAR-T細胞療法」のような、さらに進んだ治療法も登場しています22。また、近年の研究では、腸内細菌叢の状態が免疫チェックポイント阻害薬の効果を左右する可能性も示されており、新たな治療戦略へとつながることが期待されています23。
光免疫療法、放射性治療薬など、注目の最新技術
がんゲノム医療や免疫療法の他にも、様々な先進的な技術が開発されています。
- 光免疫療法(ひかりめんえきりょうほう): 「第5のがん治療法」とも呼ばれるこの治療は、がん細胞に特異的に結合する薬剤を投与した後、がんに近赤外線を照射することで、薬剤が反応してがん細胞だけを破壊する新しいアプローチです。日本では、切除不能な再発の頭頸部がんに対して承認され、保険適用となっています24。
- 新規放射性治療薬: 放射線を放出する物質を薬剤に組み込み、がん細胞に直接届けて内部から破壊する治療法です。日本で開発が進められている「64Cu-ATSM」は、従来の治療法が効きにくい低酸素状態のがん細胞に集積する性質を持つ放射性薬剤で、悪性脳腫瘍などを対象とした臨床試験が進行中です25。
診断技術の進歩:「リキッドバイオプシー」がもたらす未来
治療法の進歩と並行して、診断技術も飛躍的に進化しています。特に「リキッドバイオプシー」は、がんの監視方法を根本から変える可能性を秘めています。これは、簡単な採血だけで血液中のがんの痕跡(ctDNAなど)を分析する非侵襲的な技術です26。特に再発の監視において、その威力は絶大です。
評価項目 | リキッドバイオプシー(ctDNA分析) | 画像診断(CT/PET) |
---|---|---|
原理 | 血液中のがん由来DNAを検出し、がん細胞の存在を分子レベルで証明する5。 | 腫瘍の大きさや形の変化を画像として捉える9。 |
早期発見能力(MRD検出) | 非常に高い。画像診断より数ヶ月から数年早く、微小残存病変(MRD)を検出し再発を予測できる27。 | 低い。腫瘍が一定の大きさ(通常5-10mm以上)にならないと検出できない9。 |
侵襲性 | 最小限(静脈採血のみ)5。 | 非侵襲的だが、放射線被曝や造影剤の注射を伴うことがある28。 |
繰り返し実施の容易さ | 容易であり、治療効果や耐性の出現をリアルタイムで追跡できる29。 | 費用や放射線被曝のため、頻繁な実施は難しい。 |
提供される情報 | がんの遺伝子情報を提供し、薬剤耐性の特定や次の治療薬選択の指針となる27。 | がんの位置、大きさ、広がりに関する形態学的情報を提供する。 |
これらの先進的な治療法と診断法は、互いに連携し「セラノスティクス(Theranostics)」という新しい概念を生み出しています。これは治療(Therapeutics)と診断(Diagnostics)を融合させ、診断によって最適な治療法を選択し、治療効果を診断でモニターしながら、治療法を柔軟に調整していくという、高度に個別化された医療の姿です。
がん治療と向き合う上で大切なこと
がんと診断されたとき、治療は医療的な介入だけに留まりません。患者様を中心に据え、生活の質や心のケアも含めた包括的なアプローチが、最良の結果を得るために不可欠です。
QOL(生活の質)と緩和ケアの重要性
がん治療の目標は、単に命を長らえることだけではありません。治療中そして治療後のQOL(Quality of Life:生活の質)をいかに維持し、向上させるかが、同じくらい重要な目標です10。多くの患者様が、「治療の副作用で辛い思いをするよりも、残された時間を家族と穏やかに過ごしたい」と考えることがあります。このようなお気持ちも、治療方針を決める上で非常に大切な要素です。
この文脈で重要な役割を果たすのが「緩和ケア」です。これは終末期医療と誤解されがちですが、本来はがんと診断された早期から、痛み、倦怠感、吐き気などの身体的な苦痛や、不安、落ち込みといった精神的な苦痛を和らげるための専門的なケアです10。積極的ながん治療と並行して早期から緩和ケアを受けることで、QOLが改善し、治療成績そのものが向上することもあると報告されています。
再発予防のためにできること:食事・運動・生活習慣
初期治療を終えた患者様が次に直面するのは、「再発を防ぐために何ができるか」という問いです。100%再発を防ぐ魔法の方法はありませんが、科学的根拠に基づいた健康的な生活習慣が、その危険性を低減させる可能性があることが分かってきています11。国内外の信頼できる機関は、以下のような点を推奨しています。
- 適正体重の維持: 肥満は一部のがんの再発リスクを高めることが知られています。
- 定期的な運動: 体を動かすことは免疫機能を高め、心身の健康を促進します。
- バランスの取れた食事: 野菜、果物、全粒穀物を豊富に摂ることを心がけましょう。
- 赤肉・加工肉の制限: 牛肉、豚肉などの摂取を控えめにし、ハムやソーセージなどの加工肉は避けましょう。
- アルコール摂取の制限と禁煙: アルコールと喫煙は、多くのがんの明確な危険因子です。
信頼できる相談先・情報源
がんと闘う旅は、孤独で困難な道のりになることがあります。信頼できる情報源や支援団体とつながることは、知識と安心感、そして力を与えてくれます。日本では、以下のような信頼性の高い組織があります。
- 国立がん研究センター がん情報サービス: 日本で最も信頼性が高く、包括的ながん情報のポータルサイトです。ウェブサイト「ganjoho.jp」は、すべての患者様にとって最初の、そして最良の情報源と言えるでしょう30。
- 各専門領域の医学会: 日本癌治療学会(JSCO)3や日本臨床腫瘍学会(JSMO)31などのウェブサイトでは、専門家向けの診療ガイドラインなどが公開されており、詳細な情報を得ることができます。
- 患者支援団体: 日本には、がん患者様とそのご家族を支援する数多くのNPO法人や患者会が存在します。同じ病気を経験した仲間と話すことで、孤独感が和らぎ、有益な情報を得られることもあります。認定NPO法人キャンサーネットジャパンや、各がん種に特化した希望の会、パンキャンジャパンなどが知られています32。
よくある質問
Q1: 標準治療を中止したら、余命は短くなりますか?
これは非常に難しく、一概にはお答えできない質問です。標準治療は、延命効果が科学的に証明されている最も確実な選択肢であることが多いです。しかし、治療による副作用が非常に強く、QOL(生活の質)が著しく低下してしまう場合、治療を継続することが必ずしもご本人にとって最善とは限りません。治療のメリット(延命効果)とデメリット(副作用、QOLの低下)を天秤にかけ、ご自身の価値観や希望(例:「少しでも長く生きたい」か「苦痛なく穏やかに過ごしたい」か)を医療チームと率直に話し合うことが最も重要です。緩和ケアを早期から導入することで、症状を和らげながら治療を続ける選択肢もあります。
Q2: 自由診療の免疫療法は効果がありますか?
極めて慎重な判断が必要です。国立がん研究センターは、免疫療法を「効果が証明されたもの」と「証明されていないもの」に明確に分けています1。オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、大規模な臨床試験で有効性が証明され、保険適用となっている「証明された治療法」です。一方、多くのクリニックで自由診療として提供されている様々な免疫細胞療法は、現時点ではその有効性を示す質の高い科学的根拠が乏しい「証明されていない治療法」に分類されます。効果がない、あるいは予期せぬ健康被害が起こる可能性も否定できません。治療を検討する際は、必ず主治医に相談し、セカンドオピニオンを求めるなど、多角的な情報を基に判断してください。
Q3: がんゲノム医療は誰でも受けられますか?
結論
がん治療は、その限界を認識することから新たな一歩が始まります。手術、放射線療法、化学療法という標準治療は、今なお多くのがんを治癒に導く強力な手段ですが、微小転移やがん幹細胞といった、がん細胞が持つ巧みな生存戦略の前では、時に無力となることがあります。しかし、絶望する必要はありません。科学の進歩は、がんの遺伝子情報を読み解く「がんゲノム医療」、体の防御システムを再起動させる「免疫療法」、そして再発の兆候を早期に捉える「リキッドバイオプシー」といった、これまでにない武器を私たちに与えつつあります。
患者様とご家族にとって最も大切なことは、正しい情報に基づいて、ご自身の価値観に合った治療を選択することです。そのためには、医療チームとのオープンな対話を重ね、QOL(生活の質)という視点を忘れず、信頼できる情報源から知識を得ることが不可欠です。本記事が、がんと向き合うすべての方々にとって、未来への希望を灯す一助となることを心より願っています。
参考文献
- 免疫療法:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]. Available from: https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/index.html
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- 助成金交付先団体一覧 – 正力厚生会. Available from: https://shourikikouseikai.or.jp/works/kanja/list_kako.php