はじめに
こんにちは、JHO編集部です。今回は、意外と見逃されがちな健康の「沈黙の敵」、すなわち血液感染症(敗血症)について詳しく取り上げます。この疾患は日本国内ではあまり耳慣れない印象を持つ方もいるかもしれませんが、実は世界中で多くの人々が毎年この病で亡くなっている深刻な問題です。もしも治療が遅れると、患者の生命を脅かしうるほど急速に全身へ影響が及ぶため、迅速な発見と対処が非常に重要です。感染症というと呼吸器系や消化器系など個別の臓器に注目しがちですが、血液を通じて全身に拡散する感染症は想像以上に危険度が高く、十分な警戒が必要です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、血液感染症を早期に発見するための6つの主要な兆候をなるべくわかりやすく解説し、どのように初期対応を行うべきかを丁寧に説明します。ご自身や周囲の大切な人の健康を守るために、そして重大なリスクを防ぐためにも、ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。
専門家への相談
この記事では、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)など各国の公的機関・専門機関が公表しているデータや情報をもとに解説しています。これらの機関は感染症に関して豊富な研究データやガイドラインを蓄積しており、その内容は私たちが暮らす日本においても大変参考になるものです。日常生活で「ちょっとした体調不良かな」と見過ごしやすい症状のなかにも、実は重篤な疾患の前触れが隠れていることがあります。大切なのは「早めに気づき、専門家の判断を仰ぐ」ことです。
なお、本記事の情報はあくまで参考資料としてご活用ください。医師・看護師・薬剤師などの医療専門家による正式な診断や治療方針の決定を代替するものではありません。体調に不安を感じる場合や、今回ご紹介する兆候に該当するような症状がある場合には、速やかに医療機関に相談することを強くおすすめします。
6つの兆候とは何か?
血液感染症(敗血症)は、初期症状がほかの病気と紛らわしいことが多く、進行が速い分、見逃されるリスクが高いといわれています。感染が身体のどこかで起き、それが血液を介して全身に波及することで、臓器不全やショックを引き起こす可能性があり、一刻を争う重大な病態に陥るおそれがあるのです。
専門家の分析によると、以下に示す6つの兆候はとくに注意が必要とされています。これらの兆候のうち複数が同時に表れている場合、あるいは短期間で急激に悪化する兆しが見られる場合には、早急に医療機関を受診することが望まれます。
1. 皮膚の色が青白く冷たく感じる
血液感染症が進行すると、心臓や脳、腎臓などの生命維持に不可欠な臓器へ優先的に血液を送り出すため、四肢の末端や皮膚への血流が減少します。その結果、手足や皮膚が冷たく感じられ、外見上は青白く見えるのが特徴です。
- 青白い皮膚:末梢血管が収縮し、血流量が減ることで肌の色に明らかな変化が生じます。
- 冷感:皮膚表面に十分な血液が届かないため、触れると冷たさを感じやすくなります。
ただし、このような皮膚所見は低体温症や循環障害など他の要因によっても起こりうるため、単独で即座に敗血症だと断定することは困難です。あくまで「要注意の兆候の一つ」として覚えておきましょう。
2. 排尿量の減少と濃い尿
腎臓は体内の血流や体液バランスに敏感に反応します。血液感染症の進行によって血行動態が乱されると、腎臓への血流量も減少しやすくなります。そのため、尿の生成量が著しく減少し、色が濃くなる場合があります。
- 排尿量の減少:1日のトイレの回数や尿量が明らかに少なくなる。
- 尿の色が濃い:一見すると脱水症状と似ていますが、敗血症の場合はさらに急速な悪化を伴うことが多いのが特徴です。
排尿量の減少は腎不全のリスクを伴い、重症化すると死亡率が高まることが世界的にも報告されています。たとえば2021年に「Intensive Care Medicine」誌で公表された国際ガイドライン(Evans L ら, 2021, doi:10.1007/s00134-021-06506-y)によれば、急性腎障害は敗血症の最も重要な合併症の一つとされ、排尿量の変化を早期に捉え、適切な治療介入を行うことが生命予後を大きく左右すると示唆されています。
3. 精神的混乱や意識低下
血液感染症による炎症反応や毒素の蓄積、また血圧低下などが相まって、脳への酸素供給が不足する可能性があります。その結果、精神的な混乱、意識レベルの低下、ぼんやりとした状態、めまいなどを引き起こすケースが多いと報告されています。
- 精神的混乱:急に人の話が理解できなくなったり、会話の受け答えがチグハグになる。
- 意識の低下:ぼんやりして受け答えが遅れたり、最悪の場合には昏睡状態に陥る。
これらの症状が見られた場合は非常に危険なサインです。2022年にJAMA Netw Open にて発表された非無作為化臨床試験(Dickerson JA ら, 2022, doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.33869)でも、敗血症患者における意識レベルの急激な変化は重篤化の明確なサインの一つであり、早期に介入することで死亡率を下げられる可能性があると指摘されています。
4. 心拍数の増加
体が感染に対抗しようとするとき、免疫系の活性化や体内の炎症反応などにより血液の循環量や酸素供給量を確保しようとするため、心拍数が上昇することがあります。具体的には安静時の心拍数が普段よりも著しく速い状態が長く続くのが特徴です。
- 頻脈:安静時でも脈拍数が毎分100回を超える、あるいはそれ以上に増加する。
- 動悸:胸がどきどきする、息苦しさを伴うなど、自覚的にも心臓の鼓動が強く感じられる。
もちろん、運動後や精神的ストレスがかかったときにも心拍数は上がりますが、敗血症の場合は何もしていなくても継続的に高い心拍数を示すのがポイントです。
5. 呼吸の困難
呼吸が苦しくなる、息切れしやすくなるといった症状も要注意です。敗血症では、全身の臓器がうまく酸素を取り込めなくなる危険性があるため、肺や循環器系が大きな負荷を受けます。加えて、体内の炎症が広がると肺の機能に影響が及ぶ可能性もあります。
- 息切れ・呼吸困難:少し動いただけでも極度に息切れする。
- 肺の感染との併発:肺炎などと合併している場合にはさらに呼吸状態が悪化しやすい。
呼吸困難自体は心臓病や呼吸器系の持病によっても生じますが、敗血症が疑われる状況では特に重症化しやすいため、早めの対処が必要です。
6. 吐き気、嘔吐や下痢
消化器系も血液感染症の影響を受けやすい部位のひとつです。感染による体内の炎症反応や毒素が腸管にまで及び、あるいは消化器系への血流が減少することで、吐き気、嘔吐、下痢といった症状が出現することがあります。
- 下痢や嘔吐:食あたりやウイルス性腸炎と勘違いしやすい点に注意。
- 食欲不振:腸管の機能が低下しているため、食事を受け付けず、急激に栄養状態が悪化する恐れもある。
これらの消化器症状は一見して軽いウイルス感染症や食中毒と区別しにくいのが難点ですが、短期間で他の症状と重なっているようであれば、血液感染症を疑い、専門の医療機関で検査を受けるほうが賢明です。
まとめて観察する重要性
血液感染症の怖さは、単一の臓器だけでなく全身にわたって急速に症状が進む点にあります。したがって、複数の兆候が重なっているかどうかを見極めることが極めて大切です。皮膚の変化、排尿量、意識状態、心拍数、呼吸状態、消化器症状などを総合的に観察し、怪しいと思ったら早めに医療機関を受診しましょう。
治療法
敗血症が疑われる場合、できるだけ早期に医療機関を受診し、適切な検査と治療を受ける必要があります。特に重症化すると集中治療室(ICU)での管理が必要になり、命を取り留めるための集中的な治療が行われます。一般的に、治療には以下の方法が含まれます。
抗菌薬の使用
細菌感染が明確になった段階、または可能性が高いと判断された段階で、抗菌薬が直ちに投与されます。初期段階では広域スペクトラムを持つ抗菌薬を選択し、感染源となる菌種が判明した時点で投与する薬剤を絞り込むという方針がとられます。これは、敗血症では時間との戦いが重要であり、細菌を特定してからでは遅れるリスクが高いためです。
上述の国際ガイドライン(Evans L ら, 2021)は「敗血症が疑われる場合には、一刻も早く(目標は最初の1時間以内)広域抗菌薬の投与を開始すべき」と強調しており、遅れるほど死亡率が上昇すると警鐘を鳴らしています。
酸素療法
重症敗血症では多臓器不全を防ぐために、十分な酸素供給が欠かせません。酸素マスクや鼻カニューレ、さらに深刻なケースでは人工呼吸器を用いて、血中酸素飽和度を安定させる必要があります。呼吸機能が低下している場合は、ICUなどの設備が整った環境で24時間の綿密なモニタリングを行うことが推奨されます。
外科手術
敗血症の原因が特定の部位にある場合(膿瘍や壊死組織など)、外科的処置によって感染源を除去することが治療戦略の要となる場合があります。外科手術を行うことで、菌が全身に広がることを未然に防ぎ、抗菌薬の効果を高める狙いがあります。特に腹腔内感染や骨髄炎などの場合は、外科手術と抗菌薬治療を組み合わせることが一般的です。
結論と提言
この記事では、血液感染症(敗血症)の主な兆候として挙げられる6つの症状(皮膚の変化、排尿量の減少、精神的混乱、心拍数の増加、呼吸困難、消化器症状)を中心に、その特徴と初期対応の重要性を解説しました。これらの兆候が単独であっても軽視は禁物ですが、複数の症状が短期間で現れたり、急激に悪化したりする場合には速やかに専門家へ相談してください。
- 早期発見が鍵:ほんの数時間の遅れが予後を大きく左右する可能性があります。
- 症状の複合的な把握:単一症状だけでなく複数の兆候を総合的にチェックする。
- 専門家の助言:少しでも不安を感じる場合には、自己判断せず医療機関を受診する。
さらに、日常からの健康管理や予防策としては、定期的な健康診断、手洗い・うがいなど基本的な衛生管理の徹底、持病を抱えている方はかかりつけ医でのチェックを怠らないなどが挙げられます。もし敗血症が疑われる兆候があったら、一人で悩まずに早めに行動しましょう。
重要なポイント
- この記事の情報は参考として提供するものであり、診断や治療を行うものではありません。
- 痛みや発熱など、体調に異変があり不安を感じる方は、必ず医療機関や医師の診断を受けてください。
- 自己判断による放置や自己流の治療は命に関わるリスクを増やす恐れがあるため、避けることをおすすめします。
参考文献
- Sepsis アクセス日: 14/08/2019
- Symptoms-Sepsis アクセス日: 27/07/2021
- Sepsis アクセス日: 27/07/2021
- What is sepsis? アクセス日: 27/07/2021
- Sepsis アクセス日: 27/07/2021
- Evans L, Rhodes A, Alhazzani W ら (2021)「Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021」Intensive Care Medicine, 47(11):1181-1247. doi:10.1007/s00134-021-06506-y
- Dickerson JA, Blum S, ら (2022)「T2 Bacteremia Panel for Rapid Bloodstream Infection Identification in Critically Ill Adults: A Nonrandomized Clinical Trial」JAMA Netw Open, 5(9): e2233869. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.33869
このように、血液感染症(敗血症)は「沈黙の敵」と称されるほど、患者本人が自覚しにくい点が最大の問題です。感染自体が急速に全身へ波及するため、わずかな初期症状を見逃してしまうと、重症化や多臓器不全に直結しやすくなります。日常生活で観察できるサイン(皮膚の色や温度、排尿量、意識レベル、心拍数、呼吸状態、消化器症状など)をこまめにチェックし、少しでも「おかしい」と思ったら、速やかに医師の診察を受けることが自分や家族、友人の健康を守る最良の手段です。
なお、この記事はあくまで情報提供を目的としており、特定の治療法や診断法を保証するものではありません。必ず専門家の指導や医療機関の診断を優先してください。特に敗血症が疑われる場合には、一刻を争う状況であることを念頭に置き、「迷ったら即受診」の姿勢で行動されることを強くおすすめします。どうか皆さまの健康維持にお役立てください。これらの情報が、少しでも読者の方々の安心や理解につながれば幸いです。