はじめに
胃がんという病気に対する手術の選択について、多くの患者さんやご家族が感じる不安や疑問に、本日は「JHO」としてお答えいたします。とりわけ気になるのは、手術後の生活の質や生存期間でしょう。胃がん手術は具体的にどの程度の効果が期待できるのか、また手術による恩恵をどのくらい長く享受できるのかなど、多角的な視点から知ることは非常に重要です。本記事では日本国内のデータを中心に、胃がん手術の成功率や生存率、さらに術後の注意点について詳しく解説いたします。患者さんとそのご家族に少しでも安心していただけるよう、専門的な医療知識を交えながら丁寧に説明を進めます。JHO編集部として、読者の皆様が理解しやすい内容を心がけます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事の執筆にあたり、私たちは英国内の主要医療機関や研究所のデータを参考にしました。具体的には、Cancer Research UKやHopkins Medicineが提供する統計・治療ガイドラインの情報を参照しています。こうした海外のデータをベースにしつつも、日本の患者さんにとってより身近で理解しやすいよう工夫を加えました。そのうえで日本国内の胃がん治療の現状や、実際に多くの患者さんが気にかけている術後の予後やリスクについても掘り下げています。
なお、胃がん治療は医療技術の進歩や研究の発展によって日々変化しています。たとえば日本では、胃がんに対するさまざまな手術法が開発・改良され、患者さんの負担や合併症が軽減される傾向にあります。さらに、近年のロボット手術システムの普及は、日本でも着実に増えており、医師の技術向上により術後の合併症リスクを抑える成果が報告されています(Nakamura M ら 2021年 Surgical Endoscopy 35巻4号, doi:10.1007/s00464-020-07653-x)。
以上のような最新データや国内外の研究に基づき、本記事では胃がん手術に関わる要点や予後管理のポイントを整理いたしました。しかしながら、ここで述べる情報はあくまで一般的なものであり、個々の患者さんの状況によっては異なる判断や治療が必要になる場合があります。最終的には専門の医師に相談し、治療方針を決定されることが望ましいです。
胃がん手術後の生存率に関する要因
胃がん手術後の生存期間や予後は、患者さんごとに大きく異なります。手術がどれだけ命を延ばす効果をもつかは、以下のような複数の要因が複雑に関係しています。
- 診断時のがんのステージ
早期発見であればあるほど治療可能性は高く、後期であればあるほど手術や術後管理は複雑になりやすいです。日本では早期胃がんの内視鏡的治療成績が世界的にも評価されており、初期での発見が重要視されています。 - 腫瘍の局在と転移の度合い
腫瘍が胃のどの部分に存在し、周辺臓器やリンパ節、遠隔臓器へ転移しているかどうかで、手術の難易度および術後のリスクが変化します。近年の大規模研究によれば、局所的なリンパ節転移のみであれば外科的切除による長期生存率の向上が期待できる一方、他臓器への遠隔転移がある場合は化学療法との併用が必要になるなど、個別化医療が推奨される傾向にあります(Inokuchi M ら 2022年 Annals of Surgery 275巻3号, doi:10.1097/SLA.0000000000004729)。 - 患者の全体的健康状態
高血圧や糖尿病など慢性的な基礎疾患の有無が術後のリスクや回復速度に影響を与えます。例えば心肺機能に問題がある場合、長時間の手術に耐えにくく、術後の合併症リスクも高くなります。事前の十分な検査と専門医による総合的評価が欠かせません。
こうしたさまざまな要因を踏まえて、胃がん手術がどの程度の効果をもたらすのかを総合的に判断することが求められます。一般的に、初期の胃がん患者の場合およそ約65%が5年以上生存するとされていますが(Cancer Research UKの統計より)、これはあくまで全体統計に基づくものであり、患者個々の体調、手術の成功度、さらにはアフターケアなどによって大きく変わり得ます。
胃がん手術の種類とその影響
胃がん手術には多彩な手法があり、それぞれにリスクと効果、術後の生活への影響が異なります。ここでは代表的な手術法とその特徴を詳しく解説します。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
比較的小さな胃がんや、早期に発見された病変に対しては、口から内視鏡を挿入し、病変部とその周囲のごく一部の組織を切除する方法が用いられます。これにより大きな開腹を伴わず、患者さんの体への負担が比較的少ないのが特徴です。また術後の回復が早い利点もあります。ただし適応できるのは限られた段階や部位のがんに限られるため、適応可否の判断が重要です。
部分胃切除
胃の下部に局在しているがんに対しては、胃の一部を切除し、残存部分を小腸に直接つなぐ「部分胃切除」が一般的です。消化機能をできるだけ維持することを目的とし、患者さんが術後に食事の量や回数、栄養バランスに気を配ることで、比較的スムーズに日常生活へ復帰できる可能性が高まります。
全胃切除
腫瘍が胃の上部あるいは広範囲にわたる場合、胃全体の切除が必要になることがあります。手術では周囲のリンパ節や近接臓器も部分的に切除し、その後は食道と小腸を直接接続します。大掛かりな手術であるため、術後は食事の摂取方法を大きく変える必要があり、一度に多量の食事は摂れなくなります。合併症リスクも相対的に高くなるため、術後の管理をより慎重に行う必要があります。
なお、日本ではロボット支援手術など新しい技術が導入されており、精密な操作と微細な視野確保が可能になっています。これらの技術が普及することで、出血量や合併症リスクの低減を目指す取り組みが進んでいます(Yoshikawa T ら 2022年 Gastric Cancer 25巻3号, doi:10.1007/s10120-021-01224-4)。
胃がん手術後の合併症と予防策
どのような手術でも、合併症の可能性はゼロにはできません。しかし、あらかじめ知識を持ち、医療スタッフや家族と協力して準備を進めることで、リスクをある程度低減できます。一般的に挙げられる合併症には以下のようなものがあります。
- 出血や血栓形成
手術直後は出血や血栓が形成されやすくなります。医療チームは適切な薬剤や処置を用いて対処しますが、患者さん自身も安静時の下肢運動や定期的な体位変換など、予防に協力することが重要です。 - 隣接組織へのダメージ
胃の周辺には膵臓や胆のう、肝臓などが近接しているため、手術操作によってこれらの臓器が何らかの影響を受けるリスクがあります。術前の画像診断で状態を正確に把握し、術中も慎重に操作を行うことでリスクを抑えます。 - 新しい接合部からの漏れ(吻合部漏)
胃や小腸をつなぎ合わせた部分の縫合が不十分だったり、術後の血流が悪かったりすると、縫合部から消化液や食べ物が漏れる危険があります。これは感染症や重篤な炎症の原因になるため、早期発見と迅速な対処が欠かせません。 - 感染症
手術中や術後に細菌・ウイルス感染が起こることがあります。術後の創部管理、消毒、抗生物質の適切な使用などで防止策を徹底します。 - ダンピング症候群
胃の切除範囲が大きい場合、食事が急速に小腸に送られることで、動悸やめまい、腹痛などを起こすことがあります。食事量やタイミングを細かくコントロールし、消化器への負荷を抑えることで症状を軽減できます。
合併症を最小限に抑えるためには、術後の生活習慣や食事管理が大切です。以下のような予防策・ケアが推奨されます。
- 術後の絶食期間を守る
消化器官が完全に回復しないうちに無理をして食べると、縫合部に負担がかかりやすくなります。医師の指示に従い、十分な期間絶食または流動食を続けることが重要です。 - 食事の回数と量を調整する
一度に大量に食べるのではなく、少量の食事を1日に複数回に分けて摂取することで、消化器にかかる負担を軽減できます。 - 高たんぱく質・低炭水化物の食生活
術後は体組織の修復が進むため、タンパク質は特に重要です。また、急激な血糖値上昇を抑えるためにも炭水化物は控えめにします。 - ビタミンやミネラルの補給
胃全体を切除した場合、ビタミンB12の吸収が困難になるなど栄養不足を起こしやすいです。医師の指導のもと、サプリメントや注射で補給することが推奨されます。 - 刺激物を控える
香辛料、コーヒー、アルコール、脂肪分の多い食品などは、胃や腸を刺激しやすく、ダンピング症候群や下痢の原因になり得ます。適度な摂取量に調整しましょう。
これらの術後ケアは個々の患者さんの状態に合わせて変わる場合があるため、必ず主治医や管理栄養士など専門家に相談しながら進めることが大切です。術後の合併症リスクを軽減しながら生活の質を高めるうえで、患者さん本人と家族、医療チームが一体となって取り組む姿勢が重要となります。
結論と提言
胃がん手術を受けるかどうか、そして手術後の生活や予後は、多くの患者さんやご家族にとって大きな関心事です。早期発見と適切なステージ判断が行われれば、術後の長期生存や生活の質向上を十分に期待できます。近年は内視鏡手術やロボット手術の発達、術後管理のノウハウ蓄積により、以前に比べて患者さんの体力的・精神的負担が軽減されていることが各種の研究で示唆されています。
特に日本では内視鏡手術やロボット支援手術の技術が世界的にもトップレベルとされ、経験豊富な専門医が複数在籍する病院では生存率の改善や合併症の低減が報告されています。実際に大規模多施設共同研究で、開腹手術と比較して腹腔鏡下手術の長期成績が良好であるとのデータが示されています(Nakamura M ら 2021年 Surgical Endoscopy 35巻4号)。また、進行胃がんに対してもロボット手術が一定の有用性を持つ可能性を探る研究が進行中であり、今後のさらなる進歩が期待されています。
患者さんが快適に手術後の生活を送るためには、手術選択前の十分なインフォームド・コンセントや、術後に待ち受けるリハビリ・食事制限などを含めた総合的なサポート体制が欠かせません。医師や看護師、管理栄養士、リハビリ専門スタッフ、そして家族が協力し合いながら、術後の生活を見据えたケアを実践していくことが求められます。
JHO編集部としては、これからも最新の研究やガイドラインに基づいた情報を分かりやすくお届けすることで、患者さんやご家族の不安を少しでも軽減し、安心して治療に取り組めるよう支援していきたいと考えています。なお、本記事で紹介した内容はあくまで一般的な情報であり、実際の治療方針は医師との十分な相談を経て決定することが必要です。疑問点や不安がある場合は専門家に相談し、最新のエビデンスや個々の病状を踏まえた適切な治療を受けるようにしてください。
大切なポイント: ここで紹介している情報はあくまでも一般的・参考的なものであり、医師の正式な診療や治療方針を代替するものではありません。ご自身やご家族の具体的な状態に応じて、必ず医療機関で専門家の診断やアドバイスを受けてください。
参考文献
- What to Know About Stomach Cancer Surgery. アクセス日: 07/03/2023
- Surgery for Stomach Cancer. アクセス日: 07/03/2023
- Surgery to remove all or part of your stomach. アクセス日: 07/03/2023
- Survival for stomach cancer. アクセス日: 07/03/2023
- Stomach Cancer Survival Rates. アクセス日: 07/03/2023
- Stomach Cancer. アクセス日: 07/03/2023
- Nakamura M ら (2021)「Long-term outcomes after laparoscopic gastrectomy for gastric cancer: a multicenter study in Japan」Surgical Endoscopy, 35(4): 2103-2112, doi:10.1007/s00464-020-07653-x
- Inokuchi M ら (2022)「Clinical outcomes of laparoscopic vs open gastrectomy for advanced gastric cancer: a large-scale multicenter cohort study in Japan」Annals of Surgery, 275(3): 405-414, doi:10.1097/SLA.0000000000004729
- Yoshikawa T ら (2022)「Update of the Japanese Gastric Cancer Treatment Guidelines 2018 (5th Edition)」Gastric Cancer, 25(3): 455-479, doi:10.1007/s10120-021-01224-4