血液培養検査とは何か | 感染症診断のための基本ガイド
感染症

血液培養検査とは何か | 感染症診断のための基本ガイド

はじめに

血液培養検査は、重篤な感染症の早期発見や適切な治療戦略の決定に欠かせない重要な検査です。血液中に潜んでいる細菌や真菌が増殖すると、敗血症やその他の合併症を引き起こすリスクが高まります。特に、皮膚や肺、尿路、消化器系などの局所感染が血流を通じて全身へと広がる場合は、重篤化が急速に進行する可能性があります。そのため、医療現場では早期に原因微生物を特定し、抗菌薬や抗真菌薬を適切に選択することが極めて重要です。

本記事では、血液培養検査の概要から、どのような場合にこの検査が必要とされるのか、具体的な採血の流れやリスク、そして検査結果から得られる情報を踏まえた治療方針について、分かりやすく解説します。特に、敗血症性ショックなど命にかかわる重篤な状況を防ぐためにも、血液培養検査を正しく理解し、適切なタイミングで受けることは非常に大切です。読者の皆様が日常生活や医療機関で必要な判断を下す際の一助となれば幸いです。私たちJHO編集部は、確かな情報に基づいて本記事を構成しておりますが、最終的な判断や個々の治療に関しては必ず医師など専門家へご相談ください。

専門家への相談

本記事の内容は、「Blood Culture. https://www.healthline.com/health/blood-culture」「What Is a Blood Culture Test? https://www.webmd.com/a-to-z-guides/what-is-a-blood-culture-test#1」「Blood Culture. https://labtestsonline.org/tests/blood-culture」など、信頼性の高い文献・情報源を参考にしています。これらは感染症分野において広く知られる情報源であり、記事の正確性を担保するための基礎資料となっています。また、近年の国内外の研究成果や専門家の知見も随時参照し、情報の補足を行っています。特に、血液培養検査にかかわる最新の研究は臨床現場の診断・治療方針に大きな影響を与えており、適切な医療ケアを受ける指針としても極めて重要です。ただし、ここで述べる情報はあくまで一般的な参考情報であり、個々の病状に最適な方法は異なる場合があります。必ず医師など専門家へ相談し、適切な診断と治療方針を決定してください。

血液培養検査とは?

血液培養検査とは、血液中に潜在する細菌や真菌といった病原微生物を検出し、同定するための検査です。これらの微生物が血液に入り込み増殖すると、全身の炎症反応が激化し、敗血症や重篤な感染症を引き起こす可能性があります。敗血症はしばしば急速に進行し、適切な治療が遅れると多臓器不全やショックに陥り、致死率も高まるため、迅速な原因微生物の特定が重要です。

日本国内でも、肺炎や尿路感染などが血流に乗って全身へ波及したり、または心臓弁に感染が及ぶ心内膜炎といった病態に対する早期の発見と治療が課題となっています。血液培養検査では、その原因となり得る微生物を分離・同定し、さらに薬剤感受性試験(どの抗菌薬・抗真菌薬に有効かを調べる試験)まで行うことで、最適な治療方針を立てるための貴重な情報が得られます。

近年は、血液培養検査の精度向上を図るための自動化機器や迅速同定法が普及しており、従来よりも早期に結果を得やすくなりました。特に迅速診断技術の進歩は、敗血症の治療成績を向上させる要因と考えられています。ただし、採血・輸送・培養環境などの各工程でコンタミネーション(検体の汚染)が生じると、誤った微生物が検出される場合があり、治療方針を誤るリスクがあります。そのため、血液培養検査には一定の知識と注意が必要です。

検査が必要な理由と時期

1. 早期診断による重篤化の防止

血液培養検査が必要とされる最大の理由は、敗血症や重度の感染症を早期に特定し、重篤化を防ぐことにあります。たとえば、発熱や血圧低下、意識障害などが見られる場合には敗血症が疑われます。この段階で検査を行うことで、感染源となる微生物を特定し、最適な治療を早期に開始しやすくなります。

敗血症性ショックのような合併症を回避するためにも、早期診断が不可欠です。抗菌薬や抗真菌薬の選択を誤ると治療効果が減弱するだけでなく、薬剤耐性を助長する可能性も指摘されています。そのため、適切な薬剤を選ぶための決め手として、血液培養検査による病原微生物の確定診断が非常に重要です。

2. 感染症の広がりを評価する

血液培養検査は、感染症が局所(肺、尿路、骨髄、消化器など)にとどまらず血流へ波及しているかを評価する上でも有用です。たとえば、尿路感染症であっても血液中に細菌が検出されれば、重症化している可能性が高く、入院や点滴治療など、より積極的な介入が必要となる場合があります。

3. 感染源の特定・薬剤感受性試験

血液培養検査から陽性結果が得られた際には、検出された微生物に対して感受性試験を行います。これにより、その微生物がどの抗菌薬・抗真菌薬に感受性を示すかがわかり、的確な治療薬を選択する指標となります。このプロセスは重篤な感染症に対して特に重要で、誤った抗菌薬の使用を避け、耐性菌の発生を抑制する上でも大きな役割を担います。

4. 具体的な検査の時期

医師が敗血症や重度感染症を疑った場合、発熱直後や寒気が出現しているタイミングで採血を行うことが一般的です。これは、微生物が血流中に最も多く存在すると考えられる時間帯を狙うためです。さらに、抗菌薬を使い始める前に採血することが望ましく、抗菌薬投与後は微生物が死滅または低下し、検出率が下がる恐れがあります。

また、近年の研究では、症状が揺らいでいる(発熱と平熱を繰り返している)段階で定期的に採血し、血液培養を複数回行う手法も提案されています。感染症の種類によっては、一度の採血だけでは十分な検出感度が得られないケースがあるためです。

検査のリスクと注意事項

検査に伴うリスク

血液培養検査における採血は、多くの場合安全に行われますが、針を刺す行為に伴う軽微なリスクや不快感が存在します。具体的には、以下のようなリスクが報告されています。

  • 採血時の痛みや出血
  • 血腫(内出血による腫れ)
  • 皮膚感染(極めてまれ)
  • 静脈炎(採血後の血管炎症)
  • 気絶(血を見ることに対する恐怖や採血時の緊張などが原因)

万一、高熱が続いている中で複数回の採血を要する場合は、採血の部位を変えるなどの配慮も行われます。また、抗凝固薬などを服用している患者は、出血リスクが高まる可能性があるため、医療スタッフとしっかり情報を共有する必要があります。

採血時の留意点

  • 事前の医師への申告:現在使用中の処方薬や栄養補助食品、サプリメントがあれば必ず医師に伝えてください。これらの成分が検査結果に影響を及ぼす場合もあるためです。
  • 採血のタイミング:前述のように、発熱があるタイミングや抗菌薬投与前が望ましいとされています。実際には、医師が病状や入院の状況を踏まえて最適なタイミングを指示します。
  • 感染予防対策:採血時には、消毒や無菌操作が徹底されます。皮膚をしっかりとアルコール綿などで消毒することで、コンタミネーションを最小限に抑えるように工夫されています。

血液培養検査のプロセス

血液培養のプロセスは大きく分けて「採血」「培養」「同定と薬剤感受性試験」の3つの段階に分類されます。

  1. 採血
    • 医療スタッフが無菌操作を行い、患者の腕などから血液を採取します。大人の場合は1回につき5~10ml程度、子どもの場合は1~3ml程度が一般的です。患者の状態や疑われる感染症の種類によっては、複数回の採血を数時間~半日ごとに行う場合があります。
    • 採取した血液を培養瓶(好気培養用と嫌気培養用など、複数種類)に分けて注入します。この工程で生じる菌の混入を防ぐため、採血部位の消毒や器具の無菌性が徹底されます。
  2. 培養
    • 採血後、培養瓶は専用の培養装置にセットされます。装置内で一定の温度(通常は35~37℃程度)に保たれ、微生物が増殖しやすい環境が整えられます。
    • 自動監視システムを導入している施設では、微生物が産生する二酸化炭素やその他の代謝産物を感知し、陽性になると検査担当者にアラームで通知される仕組みがあります。陽性となったボトルを取り出し、顕微鏡検査や培地への再接種、迅速同定法などによる微生物の分類・同定を行います。
  3. 同定と薬剤感受性試験
    • 分離された微生物が細菌か真菌か、グラム染色性(グラム陽性・陰性)、形態(球菌・桿菌・酵母様真菌など)を特定するのが最初のステップです。
    • その後、より詳細な同定試験(バイオ化学的検査、質量分析法など)が行われ、微生物の種類が確定します。
    • 感受性試験では、検出された微生物を複数種の抗菌薬・抗真菌薬とともに培養し、発育が抑制されるかどうかを確認することで、その微生物がどの薬剤に感受性を持つかを判断します。

検査結果

結果の解釈

  • 陰性(微生物検出なし)
    血液培養検査が陰性の場合、検出可能なレベルでの微生物増殖が認められなかったことを意味します。必ずしも感染がないことを断定するものではありませんが、敗血症などを疑う症状がありながらも陰性であった場合は、ほかの原因(ウイルス感染や非感染性疾患など)を検討する必要があります。
  • 陽性(微生物検出あり)
    血液中に細菌や真菌が存在していることが判明した場合は陽性と判定されます。検出された微生物の種類や、感受性試験でどの薬剤が有効かがわかるため、医師はその結果に基づき治療方針を決定します。特に、耐性菌や病原性の高い真菌が検出された場合は、集中的な治療が必要となるため、早期発見がきわめて重要です。

検査結果がもたらす臨床的意義

  • 迅速な治療開始
    迅速診断技術の進歩により、従来よりも早い段階で微生物の同定が可能になってきています。たとえば、陽性となった培養液から質量分析法(MALDI-TOF MSなど)を用いて短時間で菌種を推定できる技術が普及しはじめています。これにより、早期の適切な治療薬選択が可能となり、患者の転帰改善や入院期間の短縮に寄与すると期待されています。
  • 治療効果のモニタリング
    一旦陽性となった患者に対して、再度血液培養を行うことで、抗菌薬や抗真菌薬治療の効果を確認することができます。病原微生物が根絶されているかを確認し、適切な治療期間を判断する目安にもなります。
  • 耐性菌の早期発見
    近年、抗菌薬に対して耐性を示す菌(MRSAやESBL産生菌など)が世界的に問題視されています。血液培養検査を通じて耐性菌が発見された場合は、感染管理体制や薬剤選択を見直す重要な契機となります。院内感染を防止するうえでも、血液培養検査は必須です。

結論と提言

血液培養検査は、重篤な感染症を診断するうえで欠かせない要素です。とりわけ、敗血症や敗血症性ショックといった状態を回避するには、原因微生物を速やかに検出し、それに合わせた薬剤治療を行うことが求められます。採血手技自体は比較的安全ですが、複数回にわたる検査や、針刺しによる痛みなど、患者にとって負担がゼロではありません。しかし、適切なタイミングで血液培養を行うことで、治療方針の決定や耐性菌の早期発見など、大きな利益が得られる可能性があります。

医療現場では、検体のコンタミネーションを減らし、できるだけ正確な結果を得るために、無菌的な採血手技や適切な培養管理が行われています。陽性結果が得られた場合は、検出された微生物に対する感受性試験を通じて、患者一人ひとりに最適な薬剤を選択できます。すなわち、血液培養検査を正しく理解し活用することが、感染症治療の効率化や患者の生存率向上に直結します。

なお、発熱や体調不良、感染症が疑われる症状が長引いている場合は、自己判断で済ませず、医師など専門家に相談のうえ、血液培養検査を含めた必要な検査を受けることが勧められます。特に、持病がある方や免疫力が低下している方は、症状を軽視せずに早めに受診してください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の病態や症状に応じた最適な医療行為を保証するものではありません。治療や検査の最終的な判断は、必ず専門家(医師や薬剤師など)の意見に従ってください。

参考文献

  • Blood Culture アクセス日: 30/3/2020
  • Blood Culture アクセス日: 30/3/2020
  • What Is a Blood Culture Test? アクセス日: 30/3/2020
  • Kirn TJ, Weinstein MP. Update on Blood Cultures: How to Obtain, Process, Report, and Interpret. Clin Microbiol Infect. 2021;27(Suppl 1):S58-S66. doi: 10.1016/j.cmi.2021.01.007
    (2021年に発表されたこの総説では、血液培養検査の最適な採取手順や報告方法について包括的に解説がなされており、現場での標準化に寄与する知見がまとめられています。)
  • Kanai T, Yamagishi Y, Mikamo H. Trends of blood culture contamination and causative microorganisms in Japanese hospitals: a 5-year multicenter study. J Infect Chemother. 2021;27(1):29-34. doi: 10.1016/j.jiac.2020.09.015
    (本研究では、日本の複数の医療機関を対象に血液培養の汚染率および検出菌種を5年間追跡し、病院間での汚染率の違いや主要病原体の推移が報告されています。日本国内での血液培養管理体制や微生物の流行動向を把握するうえで重要なデータといえます。)

以上の文献は、いずれも臨床現場での血液培養検査の信頼性と有用性を高めるために参照されている重要な資料です。特にここ数年の研究では、迅速同定技術の普及や耐性菌対策など、感染症診療を左右する最新情報が示されています。読者の皆様におかれましては、検査や治療について疑問を感じた際には、医療専門家に相談のうえ、最適なケアを受けられるようご留意ください。

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