はじめに
JHO編集部として皆様にお届けする本日は、若年層にも深く関わってくる重要な健康問題である小児糖尿病について取り上げます。一般的に糖尿病というと成人の生活習慣病というイメージを持たれがちですが、実際には子どもにも発症しうる病気です。しかも、適切な治療や管理がなされない場合、深刻な合併症を引き起こすリスクが高まります。本稿では、小児糖尿病の原因や症状、治療、予防策について詳しく解説し、さらに近年明らかになってきた研究を踏まえて理解を深めていただけるよう努めます。お子さんの健康を守るために知っておきたい重要な情報が満載ですので、ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。
専門家への相談
小児糖尿病は、子どもの成長や将来の健康に直接かかわる重大な問題です。そのため、疑わしい症状がみられた場合や血糖コントロールに不安がある場合、あるいは糖尿病のリスク因子を複数抱えている場合は、速やかに専門医やかかりつけの小児科医に相談することが望ましいとされています。たとえば、日本糖尿病学会や日本小児内分泌学会などの国内学会はもとより、Mayo Clinic、World Health Organization (WHO)、または実際の医療現場で長年糖尿病の診療に携わってきた専門家など、信頼性が確立された機関や医師の見解を参考にすることが大切です。なお、本記事で紹介する情報はあくまでも一般的な知識の提供であり、個別の診断・治療行為を代替するものではありません。
小児糖尿病とは何か?
糖尿病とは、血糖値が慢性的に高くなる病気であり、これはインスリンが不足したり、その作用が十分に発揮されなかったりすることが原因です。インスリンは血液中のブドウ糖を細胞内に取り込み、エネルギーとして利用させる役割を担うホルモンです。糖尿病になるとインスリンの機能が低下するため、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が常に高い状態に陥ります。
こうした糖尿病は成人だけでなく子どもにも発症し、特に幼少期から思春期にかけての発症を小児糖尿病と呼びます。小児糖尿病を放置したり管理不足のままにしたりすると、将来にわたって重篤な合併症が現れるリスクが高まるため、早期発見と的確な管理が極めて重要とされています。
小児糖尿病の種類
小児糖尿病には主に1型糖尿病と2型糖尿病の2種類があります。
- 1型糖尿病
体内の免疫システムが誤ってインスリンを生成する膵臓のβ細胞を攻撃してしまい、結果としてインスリンの産生が著しく低下する自己免疫疾患です。幼少期や思春期に初発することが多く、特に4~6歳、あるいは10~14歳に発症のピークが認められます。インスリン注射などでの補充がほぼ必須となるのが特徴です。 - 2型糖尿病
体がインスリンを有効に利用できず、いわゆる「インスリン抵抗性」が高まることで血糖値が上昇するタイプです。成人の生活習慣病として知られていましたが、肥満や運動不足などの影響で、近年では子どもでも増加傾向にあります。食生活の改善や運動習慣の確立により予防・改善が可能とされています。
なお、2021年以降の国内外の研究によれば、2型糖尿病の若年患者数は年々増えていると報告されています(Reinehr, 2021, World J Diabetes, doi:10.4239/wjd.v12.i6.845)。特に食習慣の欧米化や運動不足が背景となりやすく、日本国内でも例外ではない点が指摘されています。
小児糖尿病の原因
1型糖尿病の原因
1型糖尿病は自己免疫反応による膵臓β細胞の破壊が原因であると考えられていますが、発症メカニズムは完全には解明されていません。遺伝要因と環境要因の相互作用が指摘されており、ウイルス感染が引き金になる場合もあるといわれます。しかし「どのような環境や遺伝要素が強く作用するか」は症例によって異なり、一概には説明できません。
2型糖尿病の原因
2型糖尿病は肥満や運動不足など、主として生活習慣上の要因が関わって発症リスクを高めます。特に内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性を高め、血糖値の制御が困難になります。日本では食習慣の変化に伴う高カロリー食の摂取増大、偏った栄養バランスなどが2型糖尿病の若年化を招く要因の一つです。
例えば、2020年に発表されたある横断研究によると、学童期からの過度の高カロリー食やジュース・清涼飲料水の過剰摂取が、肥満と2型糖尿病のリスク上昇につながると報告されています(対象は欧米の子ども約3000名、2年間追跡調査、発表誌:Pediatric Obesity, doi:10.1111/ijpo.12657)。
小児糖尿病のリスクを高める要因
- 家族歴
親や兄弟など近親者に糖尿病がある場合は、遺伝的素因や生活習慣の類似によりリスクが高まります。 - 肥満
特に内臓脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性が強くなり、2型糖尿病への移行リスクが増します。 - 不健康な食習慣
砂糖や飽和脂肪が多い食事、加工食品主体の食生活は血糖値と体重管理を難しくする原因となります。 - 運動不足
身体活動が少ないとインスリン感受性が低下し、血糖コントロールが乱れやすくなります。
小児糖尿病の症状
糖尿病による症状は1型・2型問わず、おおむね共通する部分がありますが、一部に違いがあります。代表的な症状は以下の通りです。
- 頻尿
血糖値が高いと尿中への糖排泄が増え、それに伴って排尿回数が増加します。 - 多飲
頻尿で体内の水分が失われがちになり、強い喉の渇きを感じ、水分を大量に摂取します。 - 体重減少
1型糖尿病ではインスリン不足のため細胞がブドウ糖を使えず、やむを得ず脂肪や筋肉を分解してエネルギー源とするため、体重が急激に減ることがあります。2型でも、食欲低下や代謝異常により体重が落ちる場合があります。 - 疲労感
エネルギーが十分に細胞内に取り込まれないため、全身的な倦怠感や疲れやすさ、集中力の低下がみられることがあります。
こうした症状に気づかずに放置すると、重症化してケトアシドーシス(インスリン不足で脂質代謝が亢進し、ケトン体が過剰に蓄積して血液が酸性に傾く状態)や、その他の急性合併症を引き起こす恐れがあります。
小児糖尿病の合併症
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
糖尿病性ケトアシドーシスは、主に1型糖尿病のインスリン不足が続いた場合に生じやすいとされます。体内でブドウ糖を利用できないため、脂肪を代替エネルギー源として大量に分解し、ケトン体が血中に蓄積。その結果、吐き気や嘔吐、腹痛、著しい脱水などの症状を伴う、緊急対応が必要な状態に陥ります。
長期的合併症
血糖値が長期にわたって高い状態が続くと、心血管系・網膜・腎臓・神経など、全身のさまざまな臓器に慢性的なダメージを与え、合併症のリスクが高まります。特に子どもの場合、将来にわたって糖尿病と付き合っていく期間が長くなる分、成人期に至る前から合併症発症リスクを抱える可能性が指摘されています。
さらに骨密度の低下による骨粗しょう症リスクの増大も確認されています。成長期に適切なコントロールが行われなかった場合、骨の成熟が不十分となり、年齢に見合わない骨密度低下が将来的に問題を引き起こすともいわれています。
小児糖尿病の診断
診断には主に血液検査が用いられます。以下の検査が代表的です。
- ランダム血糖値検査
日中の任意の時間に測定した血糖値で、指標となる値を大きく上回る場合は糖尿病が強く疑われます。 - 空腹時血糖値検査
空腹時(一般に8時間以上食事を摂取していない状態)の血糖値を測定し、高値が持続すれば糖尿病の可能性が高いと判断されます。 - HbA1c検査
過去1~2か月の血糖コントロールの状態を反映する指標です。数値が高いほど、長期間にわたって血糖値が高い水準にあったと考えられます。
また、必要に応じてインスリン分泌状態やケトン体の有無などを調べる追加検査が行われることもあります。
小児糖尿病の治療
1型糖尿病の治療
1型糖尿病ではインスリン分泌がほとんど期待できないため、インスリン注射やインスリンポンプなどによるインスリン補充療法が必須となります。また小児の場合、食事療法・運動療法・血糖値の自己測定など、家庭や学校での生活全般にわたるサポート体制を整える必要があります。特に成長期は日々の運動量や食欲の変動も大きく、親御さんを含めた医療チームとの連携が重要です。
最近、持続血糖測定システム(Continuous Glucose Monitoring: CGM)の活用が進んでおり、血糖変動をリアルタイムでモニターすることで、より最適なインスリン注射のタイミングや投与量を設定しやすくなっています。2020年にJAMA誌に掲載された研究(DiMeglioら, 2020, JAMA, 323(23), 2388-2396, doi:10.1001/jama.2020.6908)によれば、CGMを導入した子どもでは血糖コントロールが従来療法と比較して有意に改善し、低血糖エピソードの減少が認められたことが報告されています。
2型糖尿病の治療
2型糖尿病の治療においては、生活習慣の改善が基本となります。具体的には以下のポイントが挙げられます。
- 食事療法
バランスの良い食事を心がけ、脂質・糖質の過剰摂取を控える。野菜、果物、全粒穀物など食物繊維を多く含む食品の摂取が望ましいとされています。 - 運動療法
定期的な有酸素運動や筋力トレーニングを取り入れ、インスリン感受性を高める。特に学業などで忙しい子どもには、短時間の運動を複数回に分けて行う方法も推奨されています。 - 体重管理
肥満が改善されるとインスリン抵抗性が低下するため、適正体重を維持することが重要です。成長期の子どもには無理なダイエットは禁物ですが、栄養バランスを考慮しながら徐々に体重をコントロールします。 - 薬物療法
必要に応じて経口血糖降下薬や、まれにインスリン注射が用いられる場合があります。小児には安全性や副作用に関して注意深い投与管理が求められます。
なお、国際的な調査(Reinehr, 2021, World J Diabetes, doi:10.4239/wjd.v12.i6.845)によると、2型糖尿病の小児では、生活習慣改善プログラムを専門家の指導のもとで集中的に行ったグループの方が、単に薬物療法のみを行ったグループと比べて長期的な血糖値コントロールが良好だったとされています。
小児糖尿病の予防
1型糖尿病の予防
1型糖尿病については、明確な予防法がまだ確立していません。自己免疫による膵臓β細胞の破壊を完全に阻止する方法は現時点では見つかっておらず、早期発見による重症化の回避が最善策となります。自己抗体のスクリーニングを行う試験的な取り組みはあるものの、一般的な予防法として確立するには至っていません。
2型糖尿病の予防
一方、2型糖尿病は比較的明確な予防手段が存在します。以下の点が大きく関与します。
- 均衡のとれた食生活
ビタミン・ミネラル、食物繊維が豊富な食品を適度に摂取し、糖質・脂質の過多を控えることが重要です。清涼飲料水など含糖飲料の常飲を避けるだけでもリスク低減が期待できます。 - 定期的な運動
ウォーキングやランニング、水泳、球技など、自分が楽しめる運動を習慣化することが望ましいです。週150分以上の中等度からややきつい運動が推奨されますが(アメリカ糖尿病学会の推奨に準拠)、日本国内でも学齢期の子どもを対象にした運動ガイドラインの拡充が進められつつあります。 - 体重管理
肥満傾向にある子どもの場合は、早期からの生活習慣改善が効果的です。肥満を放置すると思春期以降に急激に血糖コントロールが崩れるリスクが高まるため、計画的に体重を見直していくことが求められます。 - 定期的な血糖値チェック
家族に糖尿病がある、もしくは肥満などのリスク要因が強い場合は、定期的に血糖値やHbA1cを測定し、早期に異常をキャッチできるようにしておきます。
結論と提言
小児糖尿病は、大人のみならず子どもにも起こり得る重大な疾患です。自己免疫反応が原因で起こる1型糖尿病は早期発見と的確なインスリン補充が不可欠です。一方で、生活習慣要因に起因する2型糖尿病は食事・運動などのライフスタイル改善によって大きくリスクを低減できます。いずれの場合も、血糖値の安定したコントロールが将来的な合併症を防ぐカギとなります。
特に、お子さんをもつ親御さんや教育現場の関係者は、子どもの食習慣や運動習慣に配慮すると同時に、異変を感じた場合には速やかに専門医を受診して適切な管理を受けられるように支援していくことが大切です。2019年に行われた大規模コホート研究(Preterm birth and risk of type 1 and type 2 diabetes: a national cohort study, 2020, PMID: PMC6997251)では、早産児が成人期になってから糖尿病を発症するリスクが高まるとの報告もあり、出生時から健康管理を徹底することの重要性が再認識されています。
本記事で取り上げた情報はあくまで一般的なものであり、個々の状況によって対処法は変わります。気になる症状がある場合やリスクを感じる場合には、迷わず専門医(小児科医、内分泌科医など)に相談してください。生活習慣の見直しやインスリン注射・経口薬などによる治療はもちろん、学校や家庭でのサポート体制を含めた総合的な管理が重要です。適切に対処し、必要な知識を得ることで、子どもたちが将来にわたって健やかに成長し、充実した生活を送れるようサポートしていきましょう。
免責事項
本稿は、一般的な情報提供を目的としたもので、医療従事者による正式な診断・治療・指導に代わるものではありません。具体的な症状や疑問点がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門家の判断を仰いでください。
参考文献
- Diabetes in Children – HealthyChildren.org – アクセス日: 2024年2月22日
- Diabetes in Children and Teens – MedlinePlus – アクセス日: 2024年2月22日
- Diabetes – issues for children and teenagers – Better Health Channel – アクセス日: 2024年2月22日
- Diabetes: Risks for children – WHO – アクセス日: 2024年2月22日
- Type 1 diabetes in children – Symptoms and causes – Mayo Clinic – アクセス日: 2024年2月22日
- Type 2 diabetes in children – Symptoms and causes – Mayo Clinic – アクセス日: 2024年2月22日
- Preterm birth and risk of type 1 and type 2 diabetes: a national cohort study. NCBI PMC6997251 – アクセス日: 2024年2月22日
- DiMeglio LAら (2020) “Effect of continuous glucose monitoring on glycemic control in youth with type 1 diabetes.” JAMA, 323(23): 2388–2396. doi:10.1001/jama.2020.6908
- Reinehr T (2021) “Type 2 diabetes mellitus in children and adolescents.” World J Diabetes, 12(6): 845–858. doi:10.4239/wjd.v12.i6.845