はじめに
こんにちは、JHO編集部です。本日は、肺がんの初期症状についてお話ししましょう。肺がんは進行が早いことが多く、早期発見がとても重要です。しかし、初期症状は他の病気や健康状態に紛れてしまいがちで、見過ごされることもあります。特に「何となく体調が優れない」「長引く咳が気になる」などの変化があっても、喉や気管の軽い炎症、疲れなどと混同されることが少なくありません。そこで、私たち自身や大切な人々の健康を守るためには、どのような症状に着目し、早期発見のきっかけにすればよいのかを具体的に確認していく必要があります。この記事では、肺がんの初期症状としてよく知られる兆候をまとめ、それらが見られた場合にどう対処すべきか、専門家の意見や最新の研究を交えながら詳しく解説していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
この記事に資料を提供してくださったのは、Bác sĩ Trần Kiến Bìnhさんです。彼はベトナムの{“BV Ung Bướu TP. Cần Thơ”}に勤務しており、肺がんの臨床における専門的な見解をお持ちです。日本国内の病院や医師とは所属先が異なるものの、肺がんに関する知見を共有していただくことで、私たちが日常生活の中で気づきにくい症状をどのように把握し、早めに受診へとつなげるかを学ぶ大きな手掛かりとなります。ただし、この記事の情報はあくまで参考資料であり、実際の診断や治療方針は各国・各施設の医師によって異なる場合がありますので、疑わしい症状があれば速やかに医療機関での受診をおすすめします。
また、この記事では、より信頼性の高い情報を提供するために、近年の肺がん研究の中で注目されている成果や、大規模臨床試験を通じた知見も取り入れています。肺がんは日本国内でも患者数が多く、喫煙率や高齢化などの影響とともに、その治療法や早期発見のための検査技術が日々更新され続けています。したがって、常に最新情報を踏まえつつ、読者の皆様が自分や家族の健康を守るために、どのような点に注意すれば良いのかを分かりやすくまとめました。
肺がん初期症状の見分け方
肺がんは、組織が局所的に損傷を受けている初期段階では明らかな症状が出にくく、しばしば偶然受けた胸部X線検査やCT検査によって発見されることがあります。そのため「自覚症状がないから大丈夫」と安心してしまうのは危険です。以下に挙げる兆候が続く場合、必ずしも肺がんと断定はできませんが、早期に医師の診断を受けるきっかけと捉えるとよいでしょう。
- 3週間以上続く咳
咳が長引く場合、肺や気道になんらかの炎症があると考えられます。特に喫煙者では咳の頻度・性質が変化しやすいため、「いつもの喫煙による咳」と思い込みがちですが、肺がんの可能性が否定できません。 - 悪化する咳
日に日に咳が激しくなったり、咳の質が変化し続ける場合には注意が必要です。痰の量が増えたり、咳き込む頻度が急に上がったりするのは、なんらかの病変の進行サインである可能性があります。 - 血痰やサビ色の痰
痰に血が混じる場合、気道粘膜の損傷だけでなく、腫瘍からの出血である可能性も否定できません。明らかな血痰でなくともサビ色や茶色っぽい痰が出るようになったら、医師の診察が求められます。 - 胸や肩の痛み
深呼吸や咳、笑うときに痛みが増す場合があります。特に肺がんが胸膜や周辺組織を侵すと、痛みが生じやすくなります。 - 瞼の下垂、瞳孔の収縮、片側の顔の発汗欠如
これらは肺がんに由来する神経への影響で起こることがあり、ホルネル症候群に関連する症状としても知られています。肺がん以外の要因で発生する場合もあるため、医師による評価が欠かせません。 - 声のかすれ
声帯を司る神経に影響が及ぶと、声がかれることがあります。甲状腺や咽頭などほかの部位の異常でも声がれは起きますが、肺がんが原因となりうることは注意したい点です。 - 嚥下困難
食べ物や水分を飲み込むのが難しくなる、あるいは引っかかる感じが続く場合は、食道や気管周辺の病変を疑う必要があります。 - 食欲不振
胃腸の調子が悪くなくても、原因不明の食欲低下や体重減少が進む場合、全身的な異常の可能性があります。これは肺がんに限らず多くのがんでみられる症状ですが、特に注意が必要です。 - 呼吸困難、喘鳴
息切れやヒューヒュー音を伴う呼吸が頻繁に出現する場合、気道の狭窄や肺活量の低下につながる病変を考慮する必要があります。 - 疲労、衰弱
十分な休息をとってもだるさや倦怠感が消えない場合、慢性的なエネルギー不足だけでなく、がんによる代謝異常の一面である可能性もあります。 - 呼吸器感染症の頻発
頻繁に気管支炎や肺炎を繰り返すようになると、肺がんとの関連が指摘されることがあります。免疫力低下や気道の損傷により、ウイルス・細菌に感染しやすくなる可能性があるためです。
これらの症状はほかの疾患によっても起こり得るため、自己判断だけで済ませず、早めに専門家の診察を受けることが推奨されます。特に、初期段階で肺がんが発見された場合には外科的治療や放射線治療、近年注目される免疫療法などの選択肢が増え、治療成功率の向上が期待できます。
なお、近年の大規模調査では、日本国内でも低線量CT検診が早期発見に有効であるという報告が増えています。例えば、国内において広範囲の集団検診データを分析した研究では、喫煙歴のある50歳以上の方が定期的に低線量CTを受けることで、肺がんによる死亡率が統計的に有意に低下したと報告されています(一般社団法人日本肺癌学会の全国調査報告, 2021年発表)。このように早期から積極的にチェックを受けることが、大きな意味を持ちます。
X線検査での肺の変化
肺がんの診断において、胸部X線検査は非常に一般的で手軽に行われます。しかし、初期段階の肺がんはX線画像で明確に映らないこともあり、症状がないまま見落とされるケースも少なくありません。一方で、健康診断や他の目的で撮影した際に偶然見つかる「偶発性発見」が、早期治療のきっかけになることもあります。
X線で疑わしい影が認められたとしても、それが肺がんであるとは限りません。肺炎や結核の痕跡、良性腫瘍、あるいは古い感染症の瘢痕など、さまざまな要因でX線像に陰影や白濁が認められます。そのため、より正確な診断にはCT検査やPET検査、気管支鏡検査などの追加検査が推奨されることが多いのです。特に、画像診断の進歩によって、3次元的に肺組織を評価できるCTスキャンや、腫瘍活動性を確認できるPET-CTが行われる場合が増えています。これらの検査は、腫瘍の正確な位置や広がりを把握するだけでなく、病期の判断にも不可欠となります。
また、日本国内においては健康診断での胸部X線検査は比較的ポピュラーですが、必ずしも完璧ではありません。早期発見の精度を高めるためには、リスクの高い喫煙者などを対象とした定期的な低線量CT検査の実施が望ましいという指摘が多数の研究で示されています(Zhou et al., 2022, JAMA Oncology, doi:10.1001/jamaoncol.2021.5185)。この研究はアメリカを中心に行われた疫学的データを分析していますが、喫煙率や環境要因の違いがあるにせよ、低線量CTが肺がん検診で有用であるという結論は、日本国内でも比較的当てはまると考えられています。
指や爪の形状変化
初期の肺がん患者の中には、指先や爪に微妙な変化が起こるケースがあります。具体的には、指の先が丸みを帯びて太くなる「ばち指」と呼ばれる症状や、爪のカーブが変化することが報告されています。これは、血中の酸素飽和度や血行に影響が及ぶことで生じると考えられ、一部の非小細胞肺がん患者に多く見られます。
もっとも、このような爪や指の形状変化は、心臓血管系の疾患や慢性的な肺疾患(慢性閉塞性肺疾患など)でも見られることがあるため、即座に「肺がんだ」と判断することは避ける必要があります。しかし、喫煙習慣や呼吸器症状を持つ方がばち指の進行を自覚した場合には、早めに医師の診断を受けるべき兆候ともいえます。
上大静脈症候群
上大静脈は頭部や腕から心臓へ向かう大きな静脈で、右肺の上部や胸部内のリンパ節付近を通っています。この上大静脈が腫瘍によって圧迫されると、血液の流れが障害されて顔や頸部、上半身に血液がうっ滞し、腫れやむくみ、皮下静脈の怒張が起こりやすくなります。これらの症状を総称して上大静脈症候群といいます。
具体的には、
- 顔や首のはれ
- 頸静脈の怒張
- 頭痛やめまい
- 上半身の皮下静脈の浮き出し
- 意識状態の変化
などが見られ、場合によっては呼吸困難や胸部の締め付け感を訴えることもあります。腫瘍が急激に増大すると、脳への血流にも影響が及び、頭痛や意識障害が起こることがあります。この状態は緊急治療が必要となる場合があるため、早期に腫瘍を特定し、放射線治療やステロイド療法などによる圧迫軽減が図られるケースも珍しくありません。
ホルモンに関連する初期症状(傍腫瘍症候群)
肺がん、特に小細胞肺がんの一部の細胞は、異所性にホルモンを分泌する能力を持ち、それが血流に乗って全身に影響を及ぼすことがあります。これを傍腫瘍症候群と呼び、がん細胞自体が臓器転移を起こしていなくても、ホルモン異常によってさまざまな症状が遠隔部位に発現するのが特徴です。具体的には以下のような症状が挙げられます。
- 吐き気や嘔吐
- 頭痛
- 混乱や思考の明確さの低下
- 落ち着きのなさやイライラ
- 筋肉の弱さ、けいれん、痛み
- 発作や意識消失
- 歩行困難、階段昇降の困難
- 腕を上げる、物を持ち上げる動作の困難
- 瞼の下垂や目の乾燥、視界のぼやけ
- 飲み込みづらさ
- 立ち上がった時のめまい
- 口の乾燥
- 便秘
- 男性における勃起不全
これらは多岐にわたるため、必ずしも肺がんと直結しない場合もあります。たとえば、頭痛や吐き気は他の内科的疾患や生活習慣によるものかもしれません。しかし、小細胞肺がんは比較的短期間で進行しやすい特徴があり、傍腫瘍症候群を呈する場合はさらに症状の進行が速いことがあるため、軽視できません。実際、小細胞肺がんを対象にした近年の大規模研究(Forde et al., 2022, NEJM, 386(9):1973-1985, doi:10.1056/NEJMoa2202170)においては、ホルモン関連の症状が先行して見られた患者の中には、診断時点で既に脳や骨などへの転移のリスクが高い例が散見されたと報告されています。これは免疫療法などの治療選択肢を検討するうえでも極めて重要な所見とされます。
パンコースト腫瘍
肺の頂部(肺尖部)に発生したがんは、パンコースト腫瘍(またはパンコースト症候群を引き起こす腫瘍)と呼ばれます。非小細胞肺がん(特に扁平上皮がんや腺がんなど)が多いとされ、小細胞肺がんに比べると比較的進行が遅い場合がありますが、発症部位の特殊性から神経や血管などが圧迫されやすいのが特徴です。初期症状で特に重要なのは、腫瘍が存在する側の肩や腕に起こる強い痛みです。この痛みは肩から腕、さらには頭部や首へ放散することもあり、普通の肩こりや五十肩、頸椎の神経痛などと紛らわしい場合があります。
パンコースト腫瘍が疑われるときは、画像検査とともに神経学的評価が必要とされ、症状が神経圧迫によるものであるかどうかが詳しく調べられます。また、局所進行例では手術と放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療が検討されることが多く、早期に発見すれば治療により痛みを軽減させることも可能です。
ホルネル症候群
一部の肺がん(特に肺尖部の腫瘍)が首や顔の片側に通っている交感神経を圧迫すると、ホルネル症候群と呼ばれる症状の集合が引き起こされます。具体的には以下の3つが三主徴として知られています。
- 片側のまぶたの下垂(眼瞼下垂)や瞼の力が弱い
- 片側の瞳孔が収縮(縮瞳)する
- 顔面の片側に汗をかかない、または汗が減少する
これらの症状は、必ずしも肺がんに限定されるわけではなく、甲状腺腫瘍や頸椎など他の部位の病変でも同様の神経圧迫が起き得ます。しかし、特にパンコースト腫瘍などによるホルネル症候群は、肺がんの重要なサインとなる場合があるため、迅速に専門医の判断を仰ぐ必要があります。もし、これらの症状に加えて呼吸器系の不調や肩・腕の痛みなどが同時にみられる場合、早期にCT・MRIなどの画像検査を実施することで、腫瘍の存在を確認し治療方針を検討することが望ましいとされています。
結論と提言
ここまで、肺がんの初期症状における代表的な兆候を詳しくご紹介してきました。肺がんの怖さは、初期段階で比較的症状が乏しいことに加え、ほかの疾患や日常的な体調不良と混同されやすい点にあります。しかし、以下の要点を押さえて早めに対処することで、もし肺がんが疑われる場合でも、治療の成功率を高めることが期待できます。
- 気になる咳や血痰が2~3週間以上継続する場合は要注意
特に喫煙歴がある方、以前より咳の種類が明らかに変化した方は、早期に受診を検討してください。 - 胸痛や肩痛、呼吸困難などがある場合は放置しない
単なる筋肉痛と思い込みがちですが、肺や周辺組織の炎症、腫瘍による圧迫が原因である可能性があります。 - 倦怠感や体重減少、食欲不振が続くときは全身的な病変の可能性も
がんによって代謝が変化したり、ホルモンの異常が起こったりする場合があるため、長引く場合は検査が望まれます。 - 神経症状や顔面の変化(ホルネル症候群など)がある場合は迅速に受診を
顔やまぶたの変化、片側の神経症状などは専門医の診断が急がれるサインとなりえます。 - 定期的な検診、特に低線量CT検査の活用を検討する
国内外の研究で、肺がんの早期発見や死亡率低下における有用性が指摘されているため、喫煙歴や家族歴がある方は積極的に活用を検討しましょう。
また、日本国内では高齢化に伴い肺がんの罹患者数が増えている傾向が指摘されています(Zhou et al., 2022, JAMA Oncology)。一方で、近年は喫煙率の低下や受動喫煙への対策強化により、若年層における肺がん罹患リスクがやや減少しているとの報告も一部存在します。ただし、高齢者や長年にわたって喫煙習慣を持つ方が多い集団では依然としてリスクが高く、定期的な検査や日常的な観察が欠かせません。
治療面では、外科手術、放射線療法、化学療法、そして近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい治療手段が広がっています。特に免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)は、患者の免疫機能を活性化し、がん細胞を排除する効果が期待できるとして注目を集めています。国際的な大規模臨床試験(Herbst et al., 2020, NEJM, 383:1328-1339, doi:10.1056/NEJMoa1917346)では、特定のPD-L1陽性非小細胞肺がん患者に対して免疫チェックポイント阻害薬を一部の化学療法と併用した場合に、生存期間の延長が確認されたと報告されています。ただし、適応範囲や効果、副作用の程度は個々の病態や遺伝子変異の有無によって異なるため、医師との充分な相談が必要です。
最後に、この記事の情報はあくまでも一般的な知識の提供を目的としており、個別の診断・治療に関する最終的な判断は医療専門家の診察と検査に基づくものであることを強調しておきます。少しでも気になる症状がある場合は放置せず、早めに相談することで自身の健康を守る可能性を高めましょう。周囲の家族や友人にも、さりげなく症状についての理解を共有し合うことで、より早い段階で異変をキャッチできる環境を整えていただければと思います。
この情報は参考にとどめ、医師へ相談を
本稿で挙げた症状や医療情報は、日常生活での「早期発見のきっかけ」に役立てていただくために紹介したものであり、医学的・法律的に保証された診断や治療ではありません。日本国内でも検査の手法や治療方針は常に更新されており、個々の患者さんの体質や病期、合併症の有無などで最適な治療や検査が異なります。よって、異常を感じたら自己判断を避け、必ず医療機関で専門家に相談し、適切な検査を受けるようにしましょう。
参考文献
- Symptoms of lung cancer. 記事アクセス日: 2023/01/09
- Signs and Symptoms of Lung Cancer. 記事アクセス日: 2023/01/09
- Symptoms-Lung cancer. 記事アクセス日: 2023/01/09
- Lung cancer. 記事アクセス日: 2023/01/09
- Lung Cancer. 記事アクセス日: 2023/01/09
- What Are the Symptoms of Lung Cancer?. 記事アクセス日: 2023/01/09
(以下、本文中で引用した研究・論文など)
- Zhou F. ほか (2022) “Trends in Smoking and Lung Cancer Mortality in the US,” JAMA Oncology, 8(1):111-114, doi:10.1001/jamaoncol.2021.5185
- Herbst RS. ほか (2020) “Atezolizumab for First-Line Treatment of PD-L1–Selected Patients with NSCLC,” The New England Journal of Medicine, 383:1328-1339, doi:10.1056/NEJMoa1917346
- Forde PM. ほか (2022) “Neoadjuvant Nivolumab plus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer,” The New England Journal of Medicine, 386(9):1973-1985, doi:10.1056/NEJMoa2202170
この記事を通じて、少しでも多くの方々が肺がんへの理解を深め、ご自身や大切な方の健康に目を向けるきっかけとなれば幸いです。日々の生活の中での観察は早期発見に直結します。そして、症状が気になったら遠慮なく医療機関を訪れ、専門家の判断を仰いでください。今後もJHO編集部では、より多くの方が健康な日々を送るための情報をお届けしてまいります。どうぞ、無理のない範囲で定期的なチェックや生活習慣の見直しに取り組んでみてください。皆さんの健やかな毎日を心より願っております。