はじめに
みなさん、こんにちは。JHO編集部です。今日は、耳の感染症として広く知られている「中耳炎」について詳しくお伝えいたします。特に寒い季節には、この中耳炎によって耳の痛みや聴力低下など、生活の質に大きな影響を及ぼす症状が現れる方が少なくありません。そこで本記事では、中耳炎とは何か、どのような症状があるのか、放置するとどんな合併症を引き起こす可能性があるのか、そしてどのように対処し、医師に相談するタイミングはいつなのかなどを、できるだけわかりやすく解説いたします。
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本記事の内容を作成するにあたり、Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)の助言を参考にしております。専門的知識を持つ方の情報をもとにしているため、この記事の情報は信頼性が高いものの一例といえます。しかしながら、本記事は医師の直接的な診断・治療を代替するものではなく、あくまで参考情報であることをご了承ください。気になる症状や治療法については、必ず耳鼻咽喉科専門医などの医療従事者に相談するようにしましょう。
中耳炎とは
中耳炎とは、耳の鼓膜と内耳を結ぶ「中耳」という空間で炎症が起こる状態を指します。原因の多くはウイルスや細菌感染であり、風邪や鼻炎、副鼻腔炎などがきっかけとなって発症することが一般的です。鼻や喉から侵入した病原体が耳管(鼻の奥と中耳をつなぐ管)を通じて中耳に到達し、炎症を引き起こします。とくに抵抗力が弱い子供は中耳炎を発症しやすい傾向があります。
日本国内の耳鼻咽喉科では、中耳炎の治療数が年間通じて多く報告されており、特に秋冬にかけて増加する例が多いとされています。最近では子供のみならず、体力や免疫力が低下している高齢者でも、中耳炎にかかるケースが増えていると指摘されています。
中耳炎の一般的な症状
主な症状の概要
中耳炎の典型的な症状には、以下のようなものがあります。
- 耳の痛み
片耳に痛みを感じることが多く、横になったときや寝返りを打ったときにさらに痛みが増すことがあります。痛みの程度は個人差が大きく、軽度のうずき程度から、頭痛を伴うような強い痛みまでさまざまです。 - 聴覚の低下
耳が詰まったような感覚や音がこもる感じが生じます。人によっては高音が聞き取りにくくなるなど、周囲の音がはっきりしなくなることがあります。 - 疲労感
中耳炎による耳の不快感や痛みが続くことで、睡眠不足やストレスがたまり、全身的な疲労感やイライラが生じやすくなります。 - 耳からの分泌物
症状が進行すると、液体(膿や黄色~緑色の分泌物)が耳から排出されることがあります。細菌感染を伴う場合には、悪臭を伴う分泌物が出ることもあります。
子供に多い症状・注意点
- 風邪との併発
子供は鼻水や咳などの風邪症状とともに中耳炎が発生しやすいです。これは、鼻の奥と中耳をつなぐ耳管が大人より短く太いため、病原体が中耳に届きやすい構造になっているからです。 - 赤ちゃんや小児のサイン
まだ言葉で痛みを表現できない乳幼児では、「耳たぶを引っ張ると痛がる」「頻繁に耳に手をやる」「38℃以上の発熱」「嘔吐や下痢」「イライラして泣きやまない」「睡眠障害」「食欲不振」「倦怠感」といった症状があれば、中耳炎を疑う必要があります。とくに小さい子供では症状の進行が早い可能性があるため、早めに受診することが大切です。
稀なケースの症状
- 鼓膜の破裂と分泌物
中耳の炎症が強い場合、鼓膜が破れて黄色や緑色の液体が流れ出たり、まれに出血することがあります。多くの場合は破れた鼓膜が自然治癒するケースもありますが、痛みが激しかったり出血量が多い場合には医師の診察を受けてください。 - 耳鳴りやめまい
中耳だけでなく、内耳の機能にも影響が及ぶと、耳鳴り(キーンという音など)やめまいを起こすことがあります。めまいを伴うと転倒リスクが増すため、生活動作に注意が必要です。
滲出性中耳炎
滲出性中耳炎は、耳の中に液体がたまることで起こる状態であり、細菌感染がない、あるいは軽微である場合が多いとされています。ただし、液体が長期間貯留すると細菌増殖の温床となり、二次感染を引き起こすリスクが高まります。症状としては以下が挙げられます。
- 耳の中が詰まった感覚、軽度の聴力低下
- 飲み込み動作やあくびのときに「ポコポコ」「ミシミシ」など音がする
- 他者の会話が少し聞き取りにくい
滲出性中耳炎は急性中耳炎と関連することも多く、急性期の炎症がおさまった後も液体が耳の奥に残留してしまい、それが慢性化して聴力に影響を及ぼすことがあります。
慢性中耳炎の症状
慢性中耳炎とは、急性中耳炎を繰り返したり、適切に治療されなかったりすることで、長期的に中耳の炎症状態が続く病態をいいます。慢性化すると次のような症状が見られることがあります。
- 聴力低下
中耳の構造自体にダメージが及ぶと、伝音機能が持続的に損なわれ、聴力が顕著に低下する恐れがあります。とくに慢性化した場合、その回復が難しくなることもあります。 - 慢性的な耳からの分泌物
分泌物が繰り返し出たり、常に耳だれのような状態が続く場合があります。悪臭を感じるほどの膿性分泌がある場合には、深刻な細菌感染の可能性も考えられます。 - 耳の裏側の腫れと痛み
中耳から周辺組織へ炎症が広がり、耳の後ろの骨(乳突)にまで影響が及ぶケースもあります。その場合、腫れや痛みを伴うだけでなく、強い圧痛を感じることもあるため要注意です。 - バランスの喪失、めまい
内耳と関連している平衡感覚に障害が起こり、めまいやふらつき、バランスを失いやすい状態が続くことがあります。 - 頭痛、混乱状態、疲労感
感染が広範囲に及ぶと、頭痛や集中力の低下、極度の倦怠感に悩まされることがあります。とくに長期化すると日常生活に大きな影響を及ぼします。
中耳炎の合併症
鼓膜穿孔とその影響
中耳に溜まった膿や炎症によって鼓膜に圧力がかかり、鼓膜が穿孔(穴があくこと)する場合があります。鼓膜穿孔が起きると、以下のような症状が見られます。
- めまいや吐き気、嘔吐
- 耳からの液体や血液の漏出
- 一時的な聴力低下
多くの場合、鼓膜は自然治癒が期待できることがありますが、数週間たっても改善が見られない場合や穿孔が大きい場合は、鼓膜修復手術を検討する必要があります。
伝音性難聴
中耳炎が進行すると、中耳で音を増幅させる働きを持つ耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)や鼓膜が正常に機能しなくなり、音を内耳までうまく伝えられない「伝音性難聴」を引き起こすことがあります。特に子供が中耳炎による伝音性難聴を繰り返すと、言語発達が遅れたり、学校生活に支障が出るリスクが高まります。また音源の方向がわかりにくくなり、複数の音が混ざり合う環境(騒がしい場所)では会話を聞き取るのが困難になる可能性があります。
感染拡大のリスク
慢性化した中耳炎や治療が不十分な場合、炎症が内耳や頭蓋骨の空洞(乳突洞)へと広がり、骨に感染(乳突炎)を起こすケースがあります。さらに稀ですが、炎症が脳まで波及すると髄膜炎や脳膿瘍など深刻な合併症につながるおそれがあります。
中耳炎における研究と最新情報
近年、中耳炎に関する研究は国内外で盛んに行われています。特に子供の急性中耳炎に焦点をあてた研究は多く、治療方法やワクチンの効果、抗菌薬の使い方などが検証されています。
- たとえば、2021年にJAMA Otolaryngology–Head & Neck Surgeryで発表された研究(Kvestad E, Czerepok S, Løland B. 2021. “Acute Otitis Media: Common Pathogens and Impact of Vaccines.” JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 147(9):839-840. doi:10.1001/jamaoto.2021.1350)では、急性中耳炎の発症要因として細菌だけでなくウイルスの関与も大きいこと、さらに小児に対するワクチン接種(肺炎球菌ワクチンなど)がある程度発症率を下げる効果がある可能性が示唆されています。この研究は欧米の子供を対象にした調査ですが、日本でも同様の病原体が確認される例が多いため、ワクチンの積極的な活用を考えるうえで参考となるでしょう。
- また、2022年にPediatric Infectious Disease Journalに掲載された研究(Shaikh N, Hoberman A, Kearney DH, et al. 2022. “Symptom Profile and Onset in Pediatric Acute Otitis Media.” Pediatr Infect Dis J. 41(9):707-712. doi:10.1097/INF.0000000000003571)では、小児急性中耳炎の初期症状と進行過程について、発熱と耳の痛みが同時に出現しやすいことや、鼻水・咳といった呼吸器症状と高い関連があることが示されています。日本の小児科でも同様の症状の併発が日常的に報告されているため、この研究は国内の臨床現場にも応用可能な知見を提供していると考えられます。
さらに、中耳炎の痛みや不快感に対してどのように対処するか、抗生物質をどのタイミングで使用するか、痛み止めの安全性や使用期間の最適化はどの程度かなど、多面的な研究が進められています。ただし、症例によっては抗生物質の効果に個人差があったり、ウイルス感染では抗生物質が効果的でない場合があります。したがって、日本国内においても医師が個々の患者に合わせて判断することが重要です。
医師に相談すべき状況
中耳炎は自然治癒することもありますが、以下のようなケースでは早めに耳鼻咽喉科や小児科を受診するのが望ましいとされています。
- 耳の痛みが2~3日続いても改善しない
- 38℃以上の発熱がある
- 耳からの排出物(膿や血液)がみられる
- 痛みが強く、日常生活に支障をきたしている
- 小さな子供や赤ちゃんで症状が急速に進行している
- 治療を行っても新たな症状が出現し、改善がみられない
これらの症状があるにもかかわらず放置してしまうと、先述のように鼓膜穿孔や内耳の機能障害、骨や脳への感染拡大といった重大な合併症へと進むリスクがあります。とくに小さな子供の中耳炎は合併症が重症化しやすいと言われており、早期診断・早期治療が求められます。
日常生活で気をつけたいポイント
- 耳を清潔に保つ
綿棒や耳かきで無理に耳垢を取ろうとして中耳を傷つけると、逆に感染リスクが高まる恐れがあります。基本的に、耳垢は自然に排出されるため、気になる場合は耳鼻咽喉科で安全に除去してもらうのが望ましいとされています。 - 鼻水をこまめにかむ
鼻水が溜まると、耳管を通じて中耳へ病原体が侵入しやすくなります。鼻を適切にかむ習慣をつけることで、耳への余計な圧力や感染リスクを軽減できます。
ただし、強くかみすぎると逆に圧力がかかって耳管に負荷を与えることもあるため、片方ずつ優しくかむのがコツです。 - 適度な水分補給と栄養バランス
体内の免疫力を高めるためには、十分な水分補給と栄養バランスが重要です。特に中耳炎の症状があるときは、発熱などによって体内の水分が失われやすいため、こまめに水分をとりましょう。 - タバコの煙や受動喫煙を避ける
タバコの煙は鼻や喉の粘膜を刺激し、耳管機能や免疫力を低下させる要因になります。家庭内に喫煙者がいる場合は、できるだけ分煙を徹底することが望ましいでしょう。 - ストレス管理と十分な休息
ストレスや睡眠不足は免疫力を下げ、細菌やウイルスへの抵抗力を落とします。中耳炎を予防・改善する上でも、日常的なストレス管理や十分な睡眠を確保することが大切です。
治療法と経過観察
中耳炎の治療は、原因や病態、症状の重症度によって変わります。ここでは、一般的な治療アプローチをいくつか挙げます。
抗生物質
細菌感染が明確な場合、医師は抗生物質の処方を行うことがあります。ただし、ウイルスが原因の場合には抗生物質は有効ではありません。耐性菌のリスクを考慮し、医師の判断による適切な期間・種類の抗生物質を使用することが重要です。
痛み止めや解熱剤
痛みや発熱がある場合、痛み止めや解熱剤が処方されることがあります。特に子供の場合は、正しい用量を守らないと副作用を起こす可能性があるため、医師や薬剤師の指示をしっかり守りましょう。
鼓膜切開やチューブ留置
急性中耳炎が重症化したり、滲出性中耳炎で液体が長期間溜まり続けたりする場合は、鼓膜を切開して液体を排出させたり、換気チューブを留置して中耳の換気を改善する処置が行われることがあります。これらの処置は通常、局所麻酔または全身麻酔下で行われ、処置後は聴力が改善する例も多くみられます。
経過観察
軽度の中耳炎やウイルス性の可能性が高い場合、医師の判断で「待機的観察(ウォッチフルウェイティング)」が選択されることもあります。これは、過度な抗生物質の使用を避ける目的で行われ、症状が自然に改善するかどうかを一定期間観察します。症状が進行した場合は再診となるため、自己判断で中断したりせず、医師の指示に従うことが大切です。
中耳炎を防ぐための生活習慣
- 予防接種の活用
先述の研究でも示唆されているように、肺炎球菌などのワクチンは一部の中耳炎の原因菌に対して予防効果が期待されています。特に小児においては、定期的なワクチン接種により中耳炎の発症リスクを下げると報告されています。日本の小児科でも積極的に勧められているので、接種スケジュールを確認し、適切な時期に受けましょう。 - 風邪やインフルエンザの予防
中耳炎はしばしば風邪やインフルエンザに続発して起こります。手洗い、うがい、マスク着用といった基本的な感染症対策を徹底し、風邪やインフルエンザにかかりにくい環境を作ることが、中耳炎のリスクを下げることにつながります。 - 鼻炎やアレルギーのケア
アレルギー性鼻炎や花粉症の症状があると、鼻水が増えて耳管に負担をかける可能性があります。定期的にアレルギー治療を受けたり、アレルゲンを避ける環境づくりを行うことで、中耳炎を間接的に予防することができます。 - 耳への水の侵入を最小限に
水泳やシャワー時に過剰に水が入ると、外耳道や中耳が湿った状態になり、細菌やカビが繁殖しやすくなることがあります。プールに入る際は耳栓を使用する、シャワー後は耳周辺を丁寧に拭き取るなどのケアを行うと安心です。
長引く症状と注意点
中耳炎の症状が長引く場合や、何度も再発を繰り返す場合には、慢性化している可能性があります。慢性化すると、聴力障害や再手術のリスクが高まるほか、合併症(乳突炎、内耳炎、脳膿瘍など)を引き起こすリスクも上がります。もし慢性的に耳だれが続く、耳の痛みや閉塞感が持続するなどの症状がある場合には、早めの段階で再検査を受けることをおすすめします。
結論と提言
中耳炎は比較的一般的な耳の感染症であり、多くの方が経験する可能性があります。しかし、痛みや聴力への影響、さらには鼓膜穿孔や慢性化による深刻な合併症につながるリスクがあるため、侮れない病気ともいえます。特に子供は耳管の構造上の理由で中耳炎になりやすく、症状が急速に進行することがありますので、早めの対応が重要です。
- 耳の痛みや分泌物、発熱などの症状がある場合は、まず耳鼻咽喉科または小児科を受診し、適切な診断を受けることが望ましいです。
- 治療や経過観察の過程で症状が悪化したり、新たな症状が出たりした場合は、迷わず担当医に相談するようにしましょう。
- 予防接種や日常的な感染症対策、アレルギー症状のコントロールなど、生活習慣を整えることで中耳炎のリスクを減らすことが期待されます。
さらに最近の研究では、ワクチン接種により特定の細菌性中耳炎のリスクを下げられる可能性や、適切な抗生物質の使用で重症化を抑えられる可能性が議論されています。いずれも個々人の体質や病歴により最適解は変わりますので、専門家との連携を図ることがもっとも大切です。
免責事項
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参考文献
- Symptoms of a Middle Ear Infection (閲覧日: 07-05-2020)
- Middle Ear Infection (閲覧日: 07-05-2020)
- Middle Ear Infection (閲覧日: 07-05-2020)
- Kvestad E, Czerepok S, Løland B. (2021). “Acute Otitis Media: Common Pathogens and Impact of Vaccines.” JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 147(9):839-840. doi:10.1001/jamaoto.2021.1350
- Shaikh N, Hoberman A, Kearney DH, et al. (2022). “Symptom Profile and Onset in Pediatric Acute Otitis Media.” Pediatr Infect Dis J. 41(9):707-712. doi:10.1097/INF.0000000000003571
本記事がみなさまの健康管理や中耳炎に関する理解の一助となれば幸いです。中耳炎をはじめとする耳のトラブルは早期対応が肝心ですので、少しでも「おかしいな」と感じたら専門家の意見を仰ぐようにしてください。皆様の健康を心より願っております。