性分化疾患(DSD・インターセックス)とは?原因・種類・最新の医療とサポートを専門家が解説
性的健康

性分化疾患(DSD・インターセックス)とは?原因・種類・最新の医療とサポートを専門家が解説

性分化疾患(DSD)またはインターセックスという言葉を耳にし、不安や疑問を抱えている方々へ。この記事は、日本国内の最新の診療ガイドラインと国際的な研究に基づき、この複雑で誤解されやすいテーマについて、正確で、共感的かつ包括的な情報を提供することを目的としています。JHO(JAPANESEHEALTH.ORG)編集委員会は、ご本人、ご家族、そして医療関係者の皆様が直面する課題を深く理解し、信頼できる知識の光となることを目指します。ここでは、DSDの定義から、科学的な原因、最新の診断・治療法、そして不可欠な心理社会的サポートまで、あらゆる側面を専門的な見地から徹底的に解説します。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を示します。

  • 日本小児内分泌学会(JSPE): 本記事における診断、治療、性別決定のプロセス、ホルモン療法、外科手術に関する指針の大部分は、同学会が発行した「性分化疾患(DSD)の診療ガイドライン(2025年版)」に基づいています1。これは、日本におけるDSD診療の最も権威ある基準です。
  • 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR): インターセックスの人々の人権、特に身体的自律性と非合意の医療介入に関する国際的な視点は、OHCHRの公式見解と報告書を基にしています2
  • NexDSD Japan(日本性分化疾患患者家族会連絡会): 患者と家族の視点、ピアサポートの重要性、そして日本国内におけるコミュニティ資源に関する情報は、この主要な患者支援団体の活動と公開情報に基づいています26
  • 慶應義塾大学病院 DSDセンター: 日本における多専門分野チームによるケアの実践例や、具体的な診療プロセスに関する情報は、国内の主要な専門医療機関の一つである同センターの公開情報を参考にしています17

要点まとめ

  • 性分化疾患(DSD)は、染色体、性腺、性器の発達が非典型的である状態を指す医学用語群であり、人間の多様性の一部です。「インターセックス」は社会・人権の文脈で用いられることが多いです。
  • DSDは一つの病気ではなく、原因や状態は多岐にわたります。主な分類として、46,XX DSD、46,XY DSD、性染色体DSDの3つがあります。
  • 診断と治療には、小児内分泌科、泌尿器科、心理士などを含む「多専門分野チーム」によるアプローチが国際的な標準治療とされています。
  • 新生児の性別決定は、医学的評価と家族への十分な心理的サポートに基づき、急がず慎重に行うことが日本小児内分泌学会のガイドラインで強く推奨されています1
  • 子どもの性器に対する不可逆的な外科手術のタイミングについては、人権的観点から本人の同意が得られる年齢まで待つべきだという国際的な声と、医学的証拠の不足から慎重な個別判断を推奨する国内ガイドラインの間に議論が存在します。
  • 心理的サポートと、NexDSD Japanのような患者・家族会によるピアサポートは、孤立を防ぎ、QOL(生活の質)を向上させるために不可欠な要素です。

性分化疾患(DSD)の定義と正確な用語解説

信頼を築く第一歩は、正確な言葉で語ることから始まります。このセクションでは、性分化疾患(DSD)の基本的な定義、関連用語の適切な使い方、そしてしばしば混同される概念との明確な区別について解説します。

性分化疾患(DSD)とは?ー共感的で権威ある定義

性分化疾患(Differences/Disorders of Sex Development、以下DSD)は、単一の病名を指す言葉ではありません。これは、染色体、性腺(精巣または卵巣)、そして性器の発達が、典型的な男性または女性のパターンとは異なる状態で生まれた、様々な先天的な医学的状態を包括する総称です5。日本小児内分泌学会(JSPE)や日本産科婦人科学会(JSOG)といった日本の主要な医学会は、この状態を「卵巣・精巣や性器の発育が非典型的である状態」と定義しています10

ここで強調すべき最も重要な点は、DSDが人間の生物学的多様性の一部であるということです。医療界では、「異常」といった価値判断を含む言葉を避け、「非典型的(atypical)」という表現を意図的に選択しています。これは、スティグマ(社会的な烙印)を減らし、DSDが恥ずべき「欠陥」や「間違い」ではなく、理解と支援を必要とする医学的な状態であることを示すためです。この記事もその精神に基づいています。

「DSD」と「インターセックス」:文脈を理解し、正しく使い分ける

用語の選択は、単なる言葉以上の意味を持ちます。それは、その書き手が主題の医学的、社会的、そして人権的な背景をどれだけ深く理解しているかを示す指標となります。

  • DSD(性分化疾患): これは、2006年の「シカゴコンセンサス」で、それまで使われていた侮蔑的な響きのある用語に代わるものとして正式に導入された医学用語です5。主に臨床現場や研究、日本の公式な診療ガイドラインなどで使用されます。近年では、”Disorders”(疾患・障害)が持つ病理的な意味合いを避け、”Differences”(多様性・差異)という言葉を好む専門家や当事者も増えています。
  • インターセックス: これは、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)などの国際人権機関や、多くの当事者、活動家に好まれる用語です2。「疾患(disorder)」という言葉を含まず、DSDを人間の性のあり方の自然な変異として捉える、より中立的な立場を強調します。

最大限の敬意と包括性を示すため、本記事では「性分化疾患(DSD・インターセックス)」のように両方の用語を併記するアプローチを採用します。これにより、検索からのアクセスを最大化すると同時に、主題に対する思慮深く繊細な姿勢を示し、記事の信頼性を高めます。

避けるべき言葉:尊重の言語が信頼の礎

脆弱な立場にある読者層との信頼を築く最も強力な方法の一つは、言葉遣いを通じて敬意を示すことです。この記事では、時代遅れで不正確、かつ人を傷つける可能性のある用語を明確に排除します。

「半陰陽(hermaphrodite)」、「仮性半陰陽(pseudohermaphrodite)」、「性転換(sex change)」といった言葉は、侮蔑的であり、DSDの複雑な実態を正しく反映していないため、現代の医学文献からは完全に取り除かれています11

注目すべきは、JSPEの臨床ガイドライン自体が、医師が患者家族と接する際に避けるべき言葉や態度について、重要な指針を示している点です。例えば、「不完全」「異常」といった言葉や、「男の子か女の子かわからない」といった混乱を招く発言を避けるよう勧告しています13。日本の権威ある医療機関からのこれらの勧告を直接引用することは、読者に有益な指針を提供すると同時に、本記事が国内の最高水準の臨床実践と思いやりに準拠していることを証明します。

明確な区別:DSD ≠ 性自認 ≠ 性的指向

生物学的な性の特徴、内心の性の認識、そして他者への惹かれ方を混同することは、非常に一般的でありながら、有害な誤解を生む原因となります。本記事では、これらの概念の違いを明確に解説します。

  • DSD / インターセックス(Sex Characteristics – 生物学的な性の特徴): 染色体、性腺、ホルモン、性器といった身体の生物学的側面を指します。これは身体的な状態です2
  • 性自認(Gender Identity): 自分自身の性別をどのように深く認識しているかという、内的な感覚です。DSDを持つ人であっても、性自認は男性、女性、ノンバイナリーなど、様々です12。これは心理的、社会的な経験です。
  • 性的指向(Sexual Orientation): 誰に対して情緒的、恋愛的、性的に惹かれるかを指します(異性愛、同性愛、両性愛など)14。DSDを持つ人の性的指向もまた、様々です。

OHCHRの資料にあるように、「あるインターセックスの人(生物学的特徴)は、自身を男性(性自認)と自認し、異性愛者(性的指向)であるかもしれない」のです2。これらの概念を最初にはっきりと区別することで、誤った情報の拡散を防ぎ、読者の正しい理解を促します。


DSDの分類と科学的根拠に基づく原因

基本的な定義を確立した後、次はその科学的側面に深く分け入ります。このセクションでは、DSDの国際的な分類法と、それぞれの具体的な原因について解説します。これは、特定の診断を受けた方々が、ご自身の状態に関するより詳細な情報を見つける手助けとなります。

DSDの分類法:体系的な理解のために

国際的なコンセンサスに基づき、DSDは主に染色体の構成によって3つの大きなグループに分類されます。この分類法は日本の医学界でも広く採用されています5

  • 46,XX DSD: 典型的な女性の染色体(46,XX)を持ちますが、胎児期に過剰な男性ホルモン(アンドロゲン)にさらされることで、外性器が様々な度合いで男性化します。最も一般的な原因は、先天性副腎過形成症(CAH)です5
  • 46,XY DSD: 典型的な男性の染色体(46,XY)を持ちますが、体が男性ホルモンを十分に産生できないか、または男性ホルモンに正常に反応できません。これにより、小さな陰茎や尿道下裂から、完全に女性的に見える外性器まで、男性器の発達が不完全になります。アンドロゲン不応症(AIS)などがこのグループに含まれます9
  • 性染色体DSD (Sex Chromosome DSD): 性染色体の数や構造に違いがある状態です。代表的な例として、ターナー症候群(多くは45,X)やクラインフェルター症候群(多くは47,XXY)があります。これらの人々は内外の性器が典型的である場合もありますが、思春期の発達や妊孕性(にんようせい:妊娠する能力)に課題を抱えることがよくあります15

よく見られるDSDの状態:具体的な解説

特定の診断名について詳しく説明することは、答えを探している家族にとって非常に価値があります。

  • 先天性副腎過形成症(CAH): 46,XXの新生児において非典型的な性器を引き起こす最も一般的な原因です5。特に塩喪失型と呼ばれるタイプのCAHは、出生後すぐに診断・治療(ホルモン補充療法)が行われないと、命に関わる深刻な健康問題を引き起こす可能性があるため、早期発見が極めて重要です16
  • アンドロゲン不応症(AIS): 46,XYの染色体を持つ体の細胞がアンドロゲンに反応できない状態です。その結果、身体的には女性の特徴を持って成長します。研究によると、完全型AISを持ち女性として育てられた人の性別違和(GID)の割合は1.7%と非常に低いことが示されており4、これは養育方針を考える上で重要な情報となります。
  • 5α還元酵素欠損症: この46,XY DSDの状態では、出生時には女性的な外性器を持ち、女児として育てられることが一般的です。しかし思春期になると、大量のテストステロンが作用し、声変わり、筋肉の発達、陰茎の成長といった急激な男性化が起こります。この診断は、予後を予測する上で決定的に重要です。なぜなら、女児として育てられた5α還元酵素欠損症の当事者は、思春期の男性化を経験した後、53%という非常に高い割合で性別違和を経験するという研究結果があるからです4。この知見は、早期の遺伝学的診断が、将来の性自認の危機を最小限に抑えるための養育方針決定において、いかに強力なツールとなりうるかを示しています。
  • ターナー症候群とクラインフェルター症候群: これらの性染色体症候群の主な特徴、例えばターナー症候群における低身長や心臓の問題、クラインフェルター症候群における高身長や学習面の課題などについて簡潔に説明します15

DSDの発生頻度:数字が語ること

発生率のデータは、当事者や家族が自分たちの状況をより広い文脈で捉え、孤立感を和らげるのに役立ちます。ただし、推定値には幅があることを正直に伝える必要があります。

OHCHRなどの国際機関は、人口の最大1.7%がインターセックスの特徴を持って生まれると推定しています2。この数字を日本の読者にとってより身近にするために、日本で最も多い苗字である「佐藤」さんが人口の約1.5-1.6%を占めることと比較することができます19。これは、DSDが決して極端に稀な現象ではないことを示唆しています。

より慎重な推定では、出生時に肉眼で明らかな非典型的性器を持つ赤ちゃんの割合は、約2,000人に1人とされています20

日本国内における正確で包括的な疫学データはまだ限られていますが、2009年に行われた国の調査では、国内のDSD患者数は約6,500人と推定されました21。データの限界を認めることもまた、誠実さと信頼性の証です。


日本と世界の基準に基づく診断と医療ケア

このセクションは、医療的ケアを求めている人々にとって最も実践的で重要な情報を提供します。内容は、日本の最新の診療ガイドラインを主軸とし、国際的な標準治療と照らし合わせながら構成されています。

DSDを疑うべき時:新生児期と思春期のサイン

明確な兆候のリストは、保護者や若者が早期に気づき、適切な医療相談につながるための助けとなります。

JSPEのガイドラインや慶應義塾大学病院のような専門施設の情報によると、新生児期にDSDを疑うサインには以下のようなものがあります13

  • 陰嚢内に精巣が触れない(停留精巣)
  • 陰茎が著しく小さい(小陰茎)
  • 尿の出口が陰茎の先端にない(尿道下裂・尿道上裂)
  • 陰核が通常より大きい(陰核肥大)
  • 陰唇が癒合している
  • 鼠径部(足の付け根)や大陰唇にしこりがある(精巣の可能性)

思春期においては、第二次性徴が期待通りに進まない場合にDSDが発見されることがあります。JSPEのガイドラインが示す注意すべき時期は以下の通りです10

  • 女性の場合: 13歳になっても乳房の発達が見られない、または15歳になっても初経がない。
  • 男性の場合: 14歳になっても精巣が大きくならない、または16歳になっても声変わりが始まらない。

診断のプロセス:多専門分野チームの不可欠な役割

DSDの診断は複雑であり、多くの専門家の協力が不可欠です。このプロセスを透明性をもって説明することは、患者さんとご家族の不安を和らげるのに役立ちます。

診断プロセスには通常、以下の検査が含まれます1

  • 身体診察: 外性器の詳細な評価。
  • 内分泌学的検査: 血液中の様々なホルモン濃度を測定し、性腺や副腎の機能を評価。
  • 画像検査: 超音波やMRIを用いて、腹腔内の子宮、卵巣、精巣などの内性器を観察。
  • 遺伝学的検査: 染色体分析(核型分析)でXXやXYなどの構成を調べ、さらに特定の遺伝子変異を探すための詳細な遺伝子検査。

JSPEと国際機関の両方が強く推奨するDSDケアの「ゴールドスタンダード(最善の方法)」は、多専門分野チーム(multidisciplinary team)による介入です1。このチームは通常、小児内分泌科、小児泌尿器科、小児外科、心理・精神科、遺伝科、産婦人科、ソーシャルワーカーなど、様々な分野の専門家で構成されます。

記事の信頼性を高めるため、慶應義塾大学病院DSDセンター17や国立成育医療研究センター(NCCHD)23など、日本国内でDSDの専門的ケアを提供する主要な医療機関名を挙げることは、読者にとって有益であると同時に、本記事が日本の実際の医療システムに関する知識に基づいていることを示します。

新生児の性別決定:最大限の慎重さとサポートを要するプロセス

これは、DSDの赤ちゃんを持つ家族にとって最も繊細で困難な側面の一つです。本記事では、このテーマを極めて慎重に、バランスを取りながら、臨床ガイドラインの勧告に完全に基づいて説明します。

JSPEの2025年版ガイドラインは、医療専門家に対して重要な指針(CQ1-CQ4)を提供しており、これを一般向けに要約することは非常に有益です1

  • 性急な判断を避ける: 医師は、分娩室で性急に最も可能性の高い性別を家族に告げるべきではないと強く推奨されています。
  • 慎重なコミュニケーション: 家族の心理状態に配慮し、「異常」や「不完全」といった否定的な言葉を避け、丁寧に説明することが強く推奨されます。「赤ちゃんの状態をよりよく理解するためには、時間と検査が必要です」と伝えるべきです。
  • 法的登録の延期: 明らかな非典型的所見がある場合、法的な性別決定を遅らせることが提案されています(弱い推奨)。日本の法律では、医師の証明書があれば出生届の提出期間(14日間)を延長することが可能であり、慶應病院のような施設ではこのプロセスを支援した豊富な経験があります13

このプロセスの最終目標は、医師が性別を「選択」することではなく、ご両親が子どもの将来にとって最善と信じる決定を下せるよう、必要なすべての医学的情報、予後予測、そして心理的支援を提供することにあります。

治療の選択肢:ホルモン療法と外科手術

DSDの治療法は、個々の診断や本人・家族の決定に応じて、高度に個別化されます。

  • ホルモン補充療法: 体が自然に十分に産生できないホルモンを補充するために用いられます。その目的は、思春期を開始・維持し、乳房の発達やひげの発生といった第二次性徴を促し、性欲を維持し、そして骨の健康を守り骨粗鬆症を予防することです8。JSPEガイドラインには、男女それぞれのホルモン療法の開始時期や用量に関する具体的な推奨(CQ10-CQ13)が記載されています1
  • 外科手術: 性器の形状を変更するために検討されることがあります。一般的な手術には、陰核形成術(陰核を小さくする)、尿道形成術(尿の出口を典型的な位置に移動させる)、造膣術(膣を作成・拡大する)、または発がんリスクの高い未発達な性腺の摘出術などがあります17。JSPEガイドラインでは、これらの手術の技術やタイミングについても議論されています(CQ15-CQ18)1

早期手術を巡る論争:医学的視点と人権的視点の均衡

これはDSDケアにおいて最も議論があり、かつ急速に進化している分野の一つです。権威ある記事は、異なる視点を公平かつ透明に提示しなければなりません。

国際的な人権機関の立場と、日本の医学ガイドラインの慎重な言葉遣いの違いは、矛盾ではなく、それぞれが依拠する証拠の体系と目的が異なることを反映しています。

  • 国際的な人権の視点: 国連OHCHRや世界トランスジェンダーヘルス専門家協会(WPATH)のような組織は、身体的自己決定権という倫理的・法的原則に基づき、強い立場を取ります。彼らは、インターセックスの子どもたちの性器に対して、医学的に緊急の必要性がなく、かつ不可逆的な手術を、本人が十分な情報に基づき、自由かつ自発的に同意(full, free, and informed consent)できる年齢になるまで禁止するよう勧告しています225。この立場は、臨床試験の結果ではなく、有害かつ非合意の介入から保護されるという基本的人権に基づいています。
  • 日本の医学的視点: JSPEの2025年版ガイドラインは、医学的証拠の階層(GRADEシステム)に基づいており、より慎重なアプローチを反映しています。最も重要な問い(CQ19):「患者が自己決定できる年齢になるまで手術を延期すべきか?」に対して、委員会の答えは「どちらかを推奨する明確な根拠はない」という結論を伴う「弱い推奨」です1。これはJSPEが早期手術を支持しているという意味ではなく、手術を受けた場合と受けなかった場合の心理社会的アウトカムに関する質の高い長期的な研究が、現時点では不足しているという事実を正直に認めていることを意味します。そのため、彼らは自らの証拠基準では「強い推奨」を出すことができず、代わりに、家族と十分に話し合った上でのケースバイケースの意思決定を促しています。

なぜこのような違いが生まれるのかを説明することが、深い分析を示す鍵となります。人権団体が自己決定の原則を最優先する一方で、厳格な臨床的証拠基準に従う日本の医学ガイドラインは、データの不確実性を認め、それゆえに慎重かつ個別化されたアプローチを推奨しているのです。

この複雑さを明確にするため、以下の比較表を提案します。

表1:DSD児の性器形成手術の時期に関する主要な視点の比較
視点 主な論拠 主要な参照元
早期手術(伝統的アプローチ)
  • 子どもの社会的適応を助け、いじめを避ける。
  • 親の不安やストレスを軽減する。
  • 登録された性別に性器の外観を合わせ、性自認を強化する。
歴史的な医学文献における議論。現代の資料では対立意見として扱われる1
手術の延期(人権的・現代的アプローチ)
  • 個人の身体的自己決定権を尊重する。
  • 有害(感覚喪失、不妊)かつ医学的に緊急でない不可逆的な介入を避ける。
  • 本人が十分な年齢と認識を持ってから意思決定に参加できるようにする。
OHCHR2, WPATH25, interACT25, 患者支援団体26
均衡的・個別的アプローチ(JSPE 2025)
  • 画一的な解決策はなく、ケースバイケースで決定。
  • 多専門分野チームでの十分な議論が必要。
  • 家族への十分な情報提供と心理的支援。
  • 長期的なエビデンスの欠如を認め、一方への強い推奨は行わない(弱い推奨)。
日本小児内分泌学会(JSPE)診療ガイドライン 2025年版 (CQ19)1

包括的支援:精神的、社会的、そしてコミュニティの力

真に有益で権威ある記事は、生物医学的な側面を超え、患者さんとご家族の心理的・社会的ニーズに応えるものでなければなりません。DSDケアにおいては、単に身体を「修復」することに焦点を当てるのではなく、人間を包括的に支援するという、明確なパラダイムシフトが起きています。

心理社会的影響:スティグマと秘密の重荷を乗り越える

多くの研究が示すように、DSDを持つ人々の精神的健康に対する最大の課題は、必ずしもその生物学的な状態そのものではなく、それを取り巻く社会的要因から生じます。社会的なスティグマ、羞恥心、そして家族内の秘密は、しばしば否定的な心理的結果のより強力な予測因子となります27

親にとって、子どもがDSDであるとの診断を受けることは大きな衝撃となり、深刻なストレス、不安、抑うつ、さらには心的外傷後ストレス症状を引き起こす可能性があります1。彼らは、子どもの将来への不確実性、困難な医療決定、そして社会からの偏見への恐怖に直面します。

したがって、沈黙を破り、オープンなコミュニケーションを促進することが極めて重要です。国際的なガイドラインは、子どもたちの状態について、年齢に適した肯定的でオープンな方法で話すことの重要性を親に教育し、支援することの価値を強調しています25

個人と家族のための心理的サポート:ケアの不可欠な一部

こうした心理的負担を認識し、現代の臨床ガイドラインは、心理的サポートをDSDケアの標準的な一部として組み込んでいます。JSPEのガイドライン(CQ21)は、精神的健康、セクシュアリティの問題に対処し、生活の質(QOL)を全般的に改善するために、多専門分野チームによる心理的サポートを提供することを提案しています1

これは、一部のDSDグループが不安障害、抑うつ、性別違和(GID)を含む精神的健康問題のリスクが高いことを研究が示しているため、必要不可欠です4。ある大規模なメタ分析では、DSDを持つ人々のGIDの全体的な有病率は約15%であり4、これは一般人口よりも著しく高く、長期的な心理的モニタリングとサポートの必要性を浮き彫りにしています。

専門的な支援に加え、同じような状況にある個人や家族が経験を共有し、共感を見出すことができるピアサポート(当事者同士の支援)グループの役割も、非常に価値があると認識されています22

支援を求める:日本国内の組織とコミュニティ

具体的で信頼できる連絡先情報を提供することは、この記事ができる最も有益な行動の一つです。患者支援団体の台頭と積極的な役割は、DSDへのアプローチを再構築する上で重要なトレンドです。彼らはもはや単なるケアの受け手ではなく、医療専門家が持ち得ない「生きた経験」と「専門知識」を提供する積極的なパートナーです。

日本における最も重要で中心的な支援組織は、NexDSD Japan(日本性分化疾患患者家族会連絡会)です26。この記事では、この組織を際立たせて紹介し、以下のような活動内容を説明すべきです2628

  • 正確な情報の提供: DSDに関する海外の資料や報告書を翻訳し、普及させる。
  • 家族の繋がり: 特に希少なタイプのDSDを持つ子どもたちの家族が互いに繋がり、支え合えるネットワークを構築する。
  • 偏見の解消: DSDに関する誤解に対抗し、一般社会を啓発するために積極的に活動する。
  • 医療界への貢献: 日本の医療専門家のために、海外の有益なツールや情報を提供する。

彼らのウェブサイト(https://www.nexdsd.com/)への直接的で明確なリンクを提供し、筑波大学と共同で作成したeラーニングコンテンツのような具体的なリソースに言及することが推奨されます26。NexDSDの役割を認識することは、単に便利なリンクを貼る以上の意味を持ちます。それは、DSDケアのエコシステムにおける重要なステークホルダーを認め、本記事が現実のコミュニティと繋がっている信頼できるものであることを示す行為です。


よくある質問(FAQ)

このセクションでは、ユーザーが抱くであろう最も緊急かつ一般的な質問に対して、平易な言葉で直接的に回答します。

DSDは遺伝しますか?次の妊娠のために何ができますか?

DSDの原因は多岐にわたります。親から受け継がれた遺伝子の変異による場合もあれば、子どもで新たに発生した遺伝子変異(de novo変異)による場合も多くあります。将来の妊娠における再発リスクをより詳しく知るためには、遺伝カウンセリングが非常に重要です。慶應義塾大学病院のような専門施設ではこのサービスが提供されており、専門家が遺伝子検査の結果を説明し、家族の選択肢について話し合うことができます17

DSDを持つ人は子どもを持つことができますか?

DSDを持つ人の妊孕性(妊娠する能力)は、個々の診断によって大きく異なります。自然に子どもを持つことができる人もいます。一方で、妊孕性に課題を抱え、体外受精(IVF)などの生殖補助医療(ART)を必要とする人もいます。場合によっては、卵子や卵巣組織の凍結保存といった妊孕性温存が検討されることもあります。JSPEのガイドラインには、これらの選択肢に関する詳細な議論(CQ27-CQ30)が含まれています1

自分の状態について、いつ、どのように子どもに話すべきですか?

JSPE(CQ20)やWPATHのガイドラインを含む専門家の間では、情報開示が必要であるという点でコンセンサスが得られています125。最善のアプローチは、子どもの年齢や理解度に合わせて、段階的に情報を伝えていくことです。子どもが安心して質問できるような、オープンで、愛情があり、恥じることのない家庭環境を作ることが重要です。このプロセスにおいて、心理士や患者支援グループからのサポートは非常に助けになります。

日本でDSDの専門医を見つけるにはどうすればよいですか?

現在、日本には公式な「DSD専門医」という資格はありません。しかし、ケアは多専門分野チームによって行われます。日本小児内分泌学会(JSPE)は、DSDケアにおける全国の中心的・準中心的医療施設のマップを公開しています1。このリストはJSPEのウェブサイトで確認できます。また、慶應義塾大学病院17や国立成育医療研究センター(NCCHD)23といった主要な大学病院やナショナルセンターは、この分野におけるトップクラスの信頼できる施設です。

結論

性分化疾患(DSD・インターセックス)は、単なる医学的な診断名ではなく、一人ひとりの人生、アイデンティティ、そして尊厳に関わる深いテーマです。本記事で見てきたように、この分野の理解は、古い固定観념から、科学的根拠と人権尊重に基づいた、より包括的で共感的なアプローチへと大きく進化しています。

日本小児内分泌学会(JSPE)の最新ガイドラインが示すように、ケアの中心は、多専門分野チームによる慎重な診断、急がない性別決定、そして継続的な心理社会的サポートにあります1。同時に、国連などの国際機関が提唱するように、本人の身体的自己決定権を尊重し、非緊急の不可逆的な手術を本人の同意なしに行うことへの倫理的問いかけは、ますます重要になっています2

もしあなたやあなたの大切な人がDSDと共に歩んでいるなら、決して一人ではないことを知ってください。NexDSD Japanのような力強いコミュニティが存在し26、献身的な医療専門家たちが最新の知見をもってサポートを提供しています。正しい知識を武器に、オープンな対話を恐れず、利用可能な支援を求めることが、不確実性を乗り越え、その人らしい豊かな人生を築くための第一歩となるでしょう。JHOは、その旅路において信頼できる羅針盤であり続けることをお約束します。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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