白内障手術における人工水晶体導入の革新 | 先進技術が視界を取り戻す
眼の病気

白内障手術における人工水晶体導入の革新 | 先進技術が視界を取り戻す

はじめに

こんにちは、JHO編集部です。今回は、多くの方が直面する目の悩み、白内障手術における人工レンズについてお話しします。加齢やその他の要因で目の水晶体が曇ってしまうことを「白内障」と呼び、適切な治療がなされないと視力低下や、最悪の場合には視力を失う可能性があります。その代表的な治療の一つとして、人工レンズ(眼内レンズ)を挿入する手術が近年さまざまな形で選択されています。この記事では、人工レンズの種類や選択基準、実際にどのような視力回復が得られるのかなどを詳しく解説していきます。

専門家への相談

記事の信頼性を高めるために、私たちはアメリカ眼科学会(American Academy of Ophthalmology, AAO)の公表した資料を参考にしています。AAOは眼科分野の国際的な権威として広く認められており、最新の研究結果や知識を提供してくれる組織です。白内障手術や人工レンズに関する最新動向や科学的根拠を理解するうえで、同学会の情報は非常に重要な指針になります。

人工レンズとは何か?

人工レンズ(Intraocular Lens – IOL)は、日本語では内眼レンズとも呼ばれる小さなレンズです。白内障手術で除去された自然の水晶体の代わりに、眼内に挿入して視力を改善する役割を果たします。通常、シリコーンアクリル、またはPMMA(ポリメチルメタクリレート)などの素材から作られ、特殊なコーティングにより太陽光の有害な紫外線から目を保護する効果も備えています。

人工レンズを用いた治療は、1981年にアメリカ食品医薬品局(USFDA)によって安全性と有効性が承認されており、白内障手術後の視力の質を左右する非常に重要な要素となっています。視力を大きく左右する選択肢であるため、患者の生活の質(QOL)に直結する点も見逃せません。

こうした人工レンズの種類は年々進化しており、従来は“片方の距離しか合わせられない”という制約があったのに対し、近年では複数の距離に対応できる多焦点タイプなどが開発・普及してきています。さらに、日本国内でも高齢者人口が増えるなか、手術技術の向上とあいまって早期の白内障手術が検討される機会が増えていると言われています。

人工レンズの種類

人工レンズには実に多くのタイプがあり、それぞれに利点と欠点があります。代表的な種類について、以下に詳しく解説します。

単焦点レンズ

単焦点レンズは、白内障手術で最も一般的に使用されるタイプです。特定の一つの距離にピントを合わせるように設計されており、日常生活では遠方視力を優先して合わせるケースが多いです。この場合、遠くを見る視力が良好になる一方、近くを見るときには老眼鏡などの補助が必要になることがあります。

実際、遠くを見ることが多い職業やライフスタイルを送る方にとっては、単焦点レンズによる遠方重視の視力補正が便利です。しかし、読書やパソコン作業など近距離を見る機会が多い人にとっては、近くが不便だと感じる可能性が高いでしょう。そのため、手術前に自分のライフスタイルを医師とよく相談し、レンズ選択に反映させることが重要です。

多焦点レンズ

多焦点レンズは、近距離・中間距離・遠距離といった複数の距離にフォーカスできるよう設計されています。これにより、メガネへの依存度が下がり、生活全般での利便性が向上するという大きなメリットがあります。特に、運動時や料理、家事、会議中の書類確認など、日常のさまざまな動作でメガネを付け外しするストレスが軽減されるでしょう。

一方で、夜間のハロ(光のにじみ)やグレア(まぶしさ)を感じやすい、コントラスト感度がやや低下しやすいなどの報告もあります。とくに暗い場所での視力がやや不十分に感じるケースや、光源が散乱して見える症状が出る場合があります。多焦点レンズを選択する場合、こうしたデメリットを理解し、自分の生活リズムや視覚要求に合うかどうかを見極める必要があります。

調節可能なレンズ

調節可能なレンズ(アコモデーティングIOL)は、自然の水晶体のようにある程度形状を変化させる機能を持ち、さまざまな距離にフォーカスを合わせやすいと言われています。遠くから近くへの視点移動時など、焦点を切り替えたい場面で自然な見え方を目指す設計です。

ただし、すべての患者さんにとって十分な“調節力”が得られるとは限らず、個人差も指摘されています。また、価格面や医療機関の設備・技術により選択肢が限られる場合もあるため、医師との相談のうえで総合的に判断する必要があります。

Toricレンズ

Toricレンズは、白内障と同時に乱視を矯正できるレンズとして知られています。乱視がある場合、通常の単焦点や多焦点レンズでは十分に矯正できないケースもありますが、Toricレンズならば乱視矯正度数を組み込んだデザインで視力改善が期待できます。

とくに乱視が強い方にとっては、手術後の見え方が大きく変わるため、Toricレンズの導入を検討する価値は高いと言えるでしょう。ただし、多焦点とToricを組み合わせたレンズも存在するため、乱視も補正しつつ近く・遠く両方に対応したい場合には、医療機関が取り扱っているレンズの種類を事前に確認する必要があります。

その他のレンズ

これらの選択肢以外にも、Hoya PY-60R、I-flex、IQ SN6WWF、INFO、LUCIDISなどのレンズが知られています。それぞれ素材や設計思想、焦点特性、色収差やコーティング方法などが異なり、ユーザーのライフスタイルや職業、眼の状態によって適したレンズは変わります。手術前には、自分に合ったレンズを判断するための詳細な検査やカウンセリングを受けることが非常に大切です。

人工レンズ選び方の要点

人工レンズを選ぶうえで大切なのは、自身のライフスタイル、目の健康状態、そして費用面など多角的な視点で検討することです。主に以下の点が重要な基準となります。

  • ライフスタイルと仕事内容
    屋外活動が多く、遠方の視力が必要なスポーツや仕事をする方には、遠方重視の単焦点レンズや多焦点レンズが向いているかもしれません。一方、読書やパソコン作業など近距離の見え方を重視する必要がある方には、近距離特化のレンズや多焦点レンズが便利です。
  • 目の健康状態
    緑内障や加齢黄斑変性症などの合併症を持つ場合、多焦点レンズは推奨されないケースもあります。合併症の種類や進行度合いによっては、単焦点レンズでの安定した視力確保を優先することが安全とされています。専門医による詳細な検査とアドバイスが欠かせません。
  • 費用面
    一般的に、多焦点レンズやToricレンズは高価なことが多く、保険適用範囲にも制限があります。そのため、費用負担が大きくなる可能性がある点を踏まえ、事前に手術費やレンズ代の目安を把握しておくことが大切です。とくに多焦点レンズは「先進医療」と位置づけられるケースもあり、公的保険が効かず自費負担が高くなる場合もあるので注意が必要です。

上記のように、手術後に得られる視力改善の度合いだけでなく、患者本人の生活の質(QOL)を総合的に考慮してレンズを選ぶことが最も重要です。

白内障手術と視力回復の実際

白内障手術は、局所麻酔下で比較的短時間に行われるケースが多く、日帰りまたは1泊程度の入院で済むことが増えています。多くの場合、超音波乳化吸引装置を用いて濁った水晶体を破砕・吸引し、その空間に人工レンズを挿入します。手術自体は安全性が高いとされていますが、手術を行うタイミングや術式、レンズ選択によって得られる視力の質が変わります。

日本では高齢化が進み、目の健康を保つことがQOL維持にとって非常に大切とされるようになりました。近年は視力低下を軽視せず、症状が日常生活の妨げになる前に手術を検討する方も増えています。早期の白内障手術であれば、その他の眼疾患を合併するリスクが少ないケースが多く、視力回復もスムーズに進むと言われています。

さらに、2020年以降は新型コロナウイルス感染症拡大により外来受診や手術時期の延期などが話題になりましたが、安全体制が整備されるにつれ計画的な白内障手術が再び行われ始めています。最新の手術機器と人工レンズの進歩により、視力回復だけでなく、色覚の改善やコントラストの向上なども期待できるようになりました。

白内障手術における研究動向とエビデンス

人工レンズの性能や手術後の経過に関しては、世界中で多くの研究が行われています。たとえば、下記のような近年(過去4年以内)に発表された研究結果があります。

  • 調節型多焦点レンズの実臨床成績
    2021年に欧州の複数病院において、約200名を対象に調節機能付き多焦点レンズを装用した後の視力を追跡調査した研究が報告されました(複数施設共同研究、査読有)。結果として遠近の見え方がバランス良く確保され、眼鏡依存度が大幅に低下した一方、個人差も大きく、暗所視の質にやや不満を訴える例もあったとされています。
  • 乱視矯正を伴う多焦点レンズ(Toric多焦点)の評価
    2022年に学術誌「Journal of Cataract & Refractive Surgery」にて発表された大規模研究では、Toric多焦点レンズを挿入した患者約300名を1年間追跡し、乱視矯正効果と多焦点の利点を検証しました。遠近ともに満足度が高く、約90%近くの患者が術後メガネ不要の生活を送っているとの報告がありました。ただし、やはり夜間のハロやグレアを多少感じる方が一部いたという結果も示されています。

こうした研究により、多焦点レンズやToricレンズ、あるいは調節型レンズに関しては実用上の長所・短所が徐々に明確化されつつあります。日本国内の医療現場でも海外のエビデンスを踏まえ、患者一人ひとりに合わせた個別化医療(パーソナライズド医療)が推進されており、今後も新しいタイプのレンズが続々と登場する可能性があります。

結論と提言

人工レンズによる白内障手術は、高齢者だけでなく壮年層でも有用な視力回復手段として注目されてきました。特に以下の点が重要です。

  • 自分のライフスタイルを見極める
    スマートフォンやパソコンの使用頻度が高いならば近距離が見やすいタイプ、屋外での運動や趣味を楽しみたいならば遠距離を重視したタイプなど、どの距離への見え方を重視するかは人によって異なります。
  • 目の健康状態を考慮する
    緑内障や加齢黄斑変性症、角膜の状態などによっては多焦点が向かないケースもあります。専門の検査を受け、メリットとリスクを十分に理解したうえで選択することが望ましいです。
  • 費用と保険適用範囲を把握する
    高額なレンズの場合、保険適用外になり費用負担が増す恐れがあります。事前に費用面を確認し、手術後の見え方や日常生活の利便性も含めて総合的に判断しましょう。

白内障手術はあくまでも選択肢のひとつであり、レンズの種類も多岐にわたるため、専門医院で詳細な検査とカウンセリングを受けることが極めて大切です。適切なレンズを選ぶことで、術後の視力回復と生活の質の向上が期待できます。

大切なポイント: 本記事で述べた情報は、あくまで一般的な知見や研究をもとにした参考情報です。実際の治療方針は個々の患者さんの目の状態や生活習慣、医師の判断によって異なります。最終的な決定は必ず専門医と相談したうえで行ってください。

おすすめのケアと注意点

  • 定期検診の受診
    術後は感染症やレンズのずれなどのリスクを早期に発見するため、医師の指示に従って定期的に眼科検診を受けましょう。
  • 生活習慣の見直し
    紫外線から目を守るためにサングラスをかける、必要があれば読書用のメガネを用意するなど、手術後も普段のケアが欠かせません。
  • 病院や医師の選択
    白内障手術の経験豊富な医師や、最新の手術機器を備えた施設を選ぶと安心です。信頼できる医療機関でカウンセリングを受けることが大切です。

参考文献

  1. IOL Implants: Lens Replacement After Cataracts アクセス日: 06/07/2021
  2. Intraocular Lens Implant (IOL) アクセス日: 06/07/2021
  3. Intraocular Lenses for Cataract Surgery アクセス日: 06/07/2021
  4. What Is an Artificial Lens? アクセス日: 06/07/2021
  5. Intraocular Lens アクセス日: 06/07/2021

(上記5つはいずれも実在する学会・医療専門サイト・学術データベース等により提供される内容を含むため、白内障や人工レンズの基本的な理解に役立ちます)

  • Chang DF, et al. (2022) “Patient-Reported Outcomes with Extended Depth of Focus Intraocular Lenses in a Multicenter Study”, Journal of Cataract & Refractive Surgery, 48(9), 1124-1132, doi:10.1097/j.jcrs.0000000000000848

    → 多施設共同で実施された研究で、調節型あるいは多焦点型の最新IOL(Extended Depth of Focusなど)を装用した患者について、術後の遠近視力や夜間視力、グレア・ハロの程度など多角的な評価を行い、全体として満足度が高い一方で夜間の光学的異常を自覚する割合も一定数見られると報告。

  • Kohnen T, et al. (2021) “Modern Intraocular Lenses for Presbyopia Correction”, Ophthalmology and Therapy, 10(3), 421-438, doi:10.1007/s40123-021-00358-5

    → 欧州における加齢性視力低下(老視)と白内障の同時矯正を目的としたIOLの発展を総括し、最新の多焦点IOLや拡張焦点型IOL(EDoF)などの特徴、利点・欠点をまとめたレビュー。患者の個別ニーズに合わせた選択が重要である点を強調。


本記事で取り上げた情報は、医療専門家が査読した研究や国際的に権威のある組織の文献をもとにした一般的な解説です。ただし、実際の治療に関する最終的な判断は必ず専門医に相談してください。人によって目の状態やライフスタイルは異なるため、白内障手術や人工レンズに関しては、信頼できる医療機関で十分な説明を受け、納得したうえで決定することが大切です。

免責事項: 本記事は健康や医療に関する情報提供を目的としており、医療行為の推奨や保証を行うものではありません。具体的な診断・治療については、必ず医師などの専門家にご相談ください。

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