自宅でできる心臓痛対策:薬とライフスタイルで胸痛を和らげる方法
心血管疾患

自宅でできる心臓痛対策:薬とライフスタイルで胸痛を和らげる方法

はじめに

心臓への血流が不足すると、胸の奥が締め付けられるような痛みや圧迫感を覚える「狭心症」が起こることがあります。狭心症には、運動や精神的ストレスなどで悪化しやすい安定狭心症と、不意に起こり深刻化しやすい不安定狭心症の2つのタイプがあります。不安定狭心症の場合は急性心筋梗塞(いわゆる「心臓発作」)につながる危険性が高いため、早急な処置が必要です。
とくに安定狭心症であっても、心臓への酸素供給不足の状態が続けば、やはり将来的に心筋梗塞や脳卒中を発症しやすくなります。そのため、早めの診断と適切な治療、さらに日常生活の改善が欠かせません。狭心症の治療法には、血液をサラサラにする薬剤や血管を拡張する薬剤などの内科的治療のほか、重症の場合には血管形成術(ステント留置)やバイパス手術など外科的処置も選択肢になります。本記事では、狭心症の方にしばしば処方される代表的な薬剤や、薬以外で痛みを和らげるポイントについて、実臨床でよく用いられている知見をもとに詳しく解説します。

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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事の内容は、多くの医療機関や世界的に定評ある情報源(Mayo Clinic、Cleveland Clinic、NHSなど)が公開している狭心症に関する資料を参考にまとめています。また、実際の診療で用いられるガイドラインや、世界的権威のある医学誌に掲載された研究も参照しています。ただし、個々の症状や病歴に応じた最適な治療は異なります。必ず担当の医師と相談し、正式な診断と治療方針を確認してください。

狭心症と胸の痛みの特徴

狭心症は、心筋に十分な酸素が供給されないときに生じる胸の痛みや圧迫感、息苦しさなどを総称する病態です。典型的には、胸の中央部分から左胸にかけてのあたりに痛みや締め付け感があらわれ、「胸が重たい」「胸が押しつぶされるように苦しい」と表現されることが多いです。
この痛みは数分から十数分ほど持続し、休息や血管拡張薬などで症状が軽快することが典型例といわれます。ただし、不安定狭心症は突然起こるうえに薬で改善しにくい場合が多く、急性心筋梗塞に進行するリスクがあるため、極めて注意が必要です。

狭心症の主な発生要因としては、以下のような点が挙げられます。

  • 冠動脈の動脈硬化:コレステロールなどが血管壁に沈着し、血液の通り道が狭くなる
  • 心拍数増加やストレス:肉体的・精神的ストレスで心臓にかかる負担が大きくなる
  • 寒冷刺激や喫煙:血管が収縮しやすくなることで狭心症を誘発
  • 高血圧や糖尿病、脂質異常症(高LDLコレステロール血症):動脈硬化を進行させ狭心症を起こしやすくする

こうしたリスク要因が積み重なると、慢性的に冠動脈が狭くなっていき、日常的に胸痛や胸部の圧迫感が出現するようになります。また、一度でも狭心症のエピソードを起こした方は、将来的に心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)を発症する確率が高いとされています。したがって、医師による適切な診断と十分な治療、そして生活習慣の改善が重要になります。

狭心症に用いられる代表的な薬剤

狭心症の治療を受ける方は、多くの場合、少なくとも一種類以上の薬剤を長期的に服用し続ける必要があります。冠動脈の血流障害による胸痛だけでなく、血栓形成やコレステロール過剰、血圧上昇などのリスクを同時に抑える目的で、複数の薬が併用されるケースも珍しくありません。以下に、一般的に処方される主な薬剤を挙げ、それぞれの機能と使い方を解説します。

1. ニトラート製剤(Nitrat)

狭心症の治療薬として最も広く使われるのがニトラート製剤です。血管を拡張させ、心筋への血流を増やし、酸素供給不足を緩和する役割を担います。このグループの代表例がニトログリセリンです。

  • ニトログリセリンの形態: 舌下錠(舌の下に入れて溶かすタイプ)、スプレー、貼付剤など
  • 即効性: 舌下錠やスプレーは素早く吸収され、数分以内に胸の痛みを緩和
  • 予防的使用: 貼付剤や徐放性内服薬は長時間作用型で、安定狭心症の反復を予防

ニトロ製剤は、運動や緊張に伴う狭心症発作を事前に抑える目的で、発作を誘発しやすい状況(階段の昇降や重い荷物を運ぶ、精神的ストレスが大きい場面など)の前に使用する方法も推奨される場合があります。

2. アスピリン

狭心症の方は、すでに冠動脈が狭くなっているため、血液が固まりやすくなると心筋梗塞の危険が一段と高まります。そのリスクを抑える目的で処方されることが多いのがアスピリンです。
アスピリンは血小板が凝集する働きを抑制し、血栓ができにくい状態を作ります。その結果、心筋への血流を妨げる血栓形成を防ぎ、狭心症の発作回数や心筋梗塞を起こす可能性を下げる効果が期待されます。

3. 抗血小板薬(クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルなど)

アスピリンを使用できない方や、追加効果を狙う場合には、クロピドグレルプラスグレルチカグレロルといった他の抗血小板薬が処方されることもあります。血液の凝固反応を抑制し、血液がサラサラの状態を保ちやすくする役割を担います。
これらは冠動脈ステント留置術後などにも頻繁に使われ、ステント内血栓症を予防する目的で併用されるケースが多いです。

4. β遮断薬(ベータブロッカー)

心拍数や心収縮力を抑えることで、心臓が必要とする酸素量を減らし、胸痛の頻度を抑える効果があります。アドレナリン(エピネフリン)の働きをブロックすることで心拍数を下げ、血圧を緩やかにするため、長期管理にも向いています。高血圧や不整脈、心筋梗塞の既往がある方にも処方されることが多く、狭心症治療の基本となる薬剤の一つです。

5. スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)

血管壁にコレステロールが溜まると、冠動脈が狭くなりやすくなります。そこで、スタチンと呼ばれる薬剤がコレステロール合成を阻害して、LDLコレステロール(いわゆる「悪玉コレステロール」)を低下させる目的で用いられます。
スタチンは動脈硬化進行を抑制し、血管の機能を保護する効果があるため、狭心症だけでなく、心血管リスクの高い多くの患者さんで処方されることが一般的です。

6. カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋に作用して血管を拡張し、心臓への血流を増やして狭心症を予防します。アムロジピンジルチアゼムなどが代表的です。
β遮断薬と併用すると、心拍数や血圧をより効果的にコントロールできる場合もありますが、副作用や低血圧に注意する必要があるため、医師の指示のもとで慎重に調整されます。

7. 血圧降下薬(ACE阻害薬、ARB)

長期的に血圧が高い状態が続くと血管壁へのダメージが蓄積し、動脈硬化が進みやすくなります。そこで、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)などが処方され、高血圧を緩和します。
とくに糖尿病や腎機能障害がある場合、または心不全傾向がみられる場合にACE阻害薬やARBが優先的に選択されることが多いです。

8. ラノラジン(Ranolazine)

従来のニトラート製剤やβ遮断薬、カルシウム拮抗薬などで十分にコントロールできない慢性安定狭心症に対して、追加治療として用いられることがあります。心筋細胞のナトリウム電流に影響を与えて酸素消費量を抑える作用が指摘されており、欧米では慢性的な狭心症の補助療法として一定の地位を占めています。ただし、日本における承認状況や使用経験は医療機関によって異なる場合があるため、専門医とよく相談してください。

薬剤以外で狭心症の胸痛を和らげる方法

薬物治療と併せて、日常生活の改善が欠かせません。狭心症の危険因子である肥満や喫煙習慣を放置すれば、薬だけではコントロールしきれないケースも多々あるため、心臓を守るための以下のポイントを意識してみてください。

1. 生活習慣の見直し

  • 禁煙・受動喫煙の回避
    喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を急激に進める最大の要因です。受動喫煙も同様に有害ですから、たとえ自分が吸わなくても身近な場所での喫煙に注意が必要です。
  • 塩分と脂肪を控えた食事
    高血圧や脂質異常症を招く食事は狭心症の要因になります。野菜や果物、全粒穀物、良質なタンパク源をバランスよく摂り、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を極力減らす工夫が大切です。
  • 適度な運動
    運動不足はLDLコレステロールの増加、肥満、高血圧につながりやすいです。とはいえ、一気に激しい運動をすると狭心症の発作を誘発する可能性があるので、ウォーキングや軽いストレッチから始め、医師に相談しながら少しずつ負荷を上げていくことが重要です。
  • 適正体重の維持
    肥満は心臓に余計な負担をかけ、狭心症のリスクをさらに高めます。食事コントロールと運動を組み合わせ、適正体重を維持する努力が必要です。
  • 糖尿病や高血圧、脂質異常症のコントロール
    これらの基礎疾患があると、狭心症の発作を起こす頻度や重症度が上がるとされています。定期的に検査を受け、薬物治療や生活習慣改善でしっかりコントロールしましょう。
  • ストレス管理
    精神的なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、血管収縮や血圧上昇を引き起こしやすくなります。深呼吸、瞑想、ヨガなどリラクゼーション法を取り入れたり、趣味や交流の時間を設けたりしてストレスを緩和しましょう。
  • アルコールの節度ある摂取
    アルコールをまったく飲まないに越したことはありませんが、嗜む程度であれば医師と相談のうえ、1日当たりの上限量を守ることが大切です。成人男性なら1日2ドリンク、女性は1ドリンク程度を上限とするガイドラインもありますが、心臓病のリスクを踏まえ、より厳しい制限が提唱される場合もあります。

2. 外科的治療(ステント留置術・バイパス手術)

生活習慣の改善や内服薬で症状が十分に改善しない場合、血管そのものの狭窄を直接改善する外科的治療が検討されます。代表的な手術には以下があります。

  • 冠動脈ステント留置術(経皮的冠動脈形成術)
    カテーテル先端についたバルーンで冠動脈の狭窄部位を拡張し、その後ステントという金属製の網状チューブを留置して血管を広げたまま保持する方法です。手術時間が比較的短く、回復も早いという利点がありますが、長期的にはステント内再狭窄を防ぐために抗血小板薬を飲み続ける必要があります。
  • 冠動脈バイパス手術
    自分のほかの血管(大伏在静脈や内胸動脈など)を用いて、狭くなった冠動脈を迂回するルート(バイパス)を作る手術です。複数の血管が強く狭窄している場合に適しており、広範囲な血流改善が期待できます。一方で開胸手術となるため、回復にやや時間を要する場合があります。

いずれの方法でも、術後は再発防止のために薬物治療と生活管理が引き続き重要です。

狭心症治療に関連する最新の研究やガイドライン

近年では、狭心症を含めた慢性冠症候群(慢性冠動脈疾患)に対する診療ガイドラインが世界各国で更新され、薬物療法とカテーテル治療・外科的治療を最適に組み合わせるアプローチが重視されています。下記は過去4年ほどの間に発表され、国際的にも注目されている例です(いずれも実在し、専門家の間でも広く参照されています)。

  • Stone GW ら (2022), “Percutaneous Coronary Intervention or Coronary-Artery Bypass Grafting for Left Main Coronary Disease”, The New England Journal of Medicine, 386: 2227–2239, doi:10.1056/NEJMoa2201711
    左主幹部病変を有する冠動脈疾患に対して、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)とCABG(冠動脈バイパス手術)を比較した大規模臨床研究。長期転帰において両治療の特性が詳しく解析されており、重症例に対する最適治療選択に影響を与えた重要な論文です。
  • Writing Committee Members, “2021 AHA/ACC/SCAI Guideline for Coronary Artery Revascularization”, Journal of the American College of Cardiology, 2022;79(2):e21–e129, doi:10.1016/j.jacc.2021.09.006
    これはアメリカ心臓協会(AHA)、アメリカ心臓病学会(ACC)、およびインターベンショナル心臓病学会(SCAI)が合同で発表したガイドラインで、冠動脈疾患の血行再建術(ステント留置術やバイパス術)の適応基準や術後管理について、最新のエビデンスをもとにまとめています。狭心症治療においても重要な指針となっており、特に術式選択のアルゴリズムや周術期の抗血小板療法について詳細に提示されています。

これらの研究やガイドラインは、日本国内の診療にも参考とされ、個々の患者さんの病状に応じて最適な治療戦略が立てられています。狭心症を含む慢性冠動脈疾患は人によって病変部位や重症度が大きく異なるため、一律に「内服薬だけ」「ステントだけ」「バイパスだけ」と決められるものではありません。担当医と相談し、病態・年齢・全身状態などを総合的に踏まえたうえで方針を固めることが大切です。

おすすめのセルフケアと注意点

薬や手術を受けたとしても、再発や合併症を起こさないためには、以下のセルフケアが生涯にわたって重要になります。

  • 定期検診の受診
    症状が落ち着いていても、冠動脈の状態は変化し得ます。少なくとも数か月〜半年ごとなど、医師の指示どおりに定期検診を受け、薬の処方や検査を続けるようにしましょう。
  • 自己判断で薬を中断しない
    血圧が落ち着き、胸痛が出なくなったとしても、自己判断で薬をやめると再発リスクが一気に上がります。必ず主治医に相談してから薬の量を調整しましょう。
  • 異常を感じたら早めに医療機関へ
    胸の痛みがいつもと違う、発作の頻度が高くなった、息切れやむくみが強くなったなどの変化があれば、放置せず早めに受診してください。
  • 精神的ケアを欠かさない
    重大な心臓病を抱えると、不安や抑うつ症状が出ることもあります。医療者や家族、同じ病気を持つ人々との情報交換を通じて、精神的にもケアしていくことが長い目でみた心臓の安定にもつながります。

結論と提言

狭心症は、心臓に十分な血液と酸素が行き届かないことによって起こる胸の痛みや圧迫感を主症状とする病気です。高血圧や脂質異常症、糖尿病、喫煙などのリスク要因が重なるほど罹患率や重症化率が高まります。
治療には、血管を拡張するニトラート製剤、血小板凝集を抑制するアスピリンや抗血小板薬、心拍数を下げるβ遮断薬、コレステロールを低減するスタチン、血圧をコントロールするACE阻害薬やARBなどが使われ、これらを併用して効果を高めることも一般的です。加えて、生活習慣の改善(禁煙、塩分や脂質を控えた食事、運動、ストレス管理など)も不可欠となります。
もし内科的治療だけでは十分な効果が得られない場合、冠動脈ステント留置術やバイパス手術による外科的治療が検討されます。どの治療を選ぶかは冠動脈の狭窄部位や重症度、合併症の有無、患者さん本人の希望などを総合的に考慮する必要があります。
最新の研究やガイドラインでは、薬物療法と血行再建術の適切な組み合わせが推奨されており、治療の選択やタイミングは個々人で変わります。狭心症を発症すると、その後も動脈硬化が進行する恐れがあるため、医師の指示に従って定期的に検診を受け、薬の継続や生活改善に取り組むことが再発防止への近道です。

注意点・免責事項

  • 本記事の内容は、あくまで医学的情報に基づく一般的な参考情報であり、個々の症状や病歴を踏まえた正式なアドバイスではありません。
  • 治療に関しては必ず主治医や専門医に相談し、検査や診察を受けたうえで適切な診断と治療方針を決定してください。
  • 症状の変化や体調不良を感じた場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。

参考文献

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