ゲーム障害のすべて:兆候、原因、最新治療法、そして家族ができることの完全ガイド
精神・心理疾患

ゲーム障害のすべて:兆候、原因、最新治療法、そして家族ができることの完全ガイド

近年、私たちの生活に深く浸透したビデオゲームは、多くの人々にとって豊かな娯楽であり、社会的なつながりを育む場ともなっています。しかし、その一方で、ゲームとの付き合い方を誤ると、日常生活に深刻な支障をきたす「ゲーム障害」という健康問題に至ることがあります。これは単なる「ゲームのやり過ぎ」ではなく、世界保健機関(WHO)が正式に国際疾病分類第11版(ICD-11)において、治療を必要とする病気として認定したものです1。この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、国内外の最新の研究報告と臨床データを基に、ゲーム障害に関する最も正確で包括的な情報を提供するために作成されました。読者の皆様がご自身やご家族の状況を理解し、健全なデジタルライフを築くための一助となることを目指します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を含むリストです。

  • 世界保健機関(WHO): この記事における「ゲーム障害の公式な診断基準」に関する指針は、WHOが発行した国際疾病分類第11版(ICD-11)に基づいています1
  • 米国精神医学会(APA): 「インターネット・ゲーミング障害(IGD)」との比較に関する記述は、APAが発行した精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)を典拠としています2
  • 日本の厚生労働省(MHLW): 日本国内の「有病率や政策的対応」に関する情報は、厚生労働省が実施した全国調査や研究班の報告に基づいています5621
  • 久里浜医療センター: 日本における「具体的な治療法、診断ツール、および家族への支援策」に関する詳細な記述は、同センターが公開している治療マニュアルや研究報告を主たる情報源としています1332
  • 各種メタアナリシス研究: 「世界的な有病率の推定」や「治療法の有効性」に関するデータは、PubMed等で公開されている複数の系統的レビューおよびメタアナリシス研究の結果を引用しています17182229

要点まとめ

  • ゲーム障害は、WHOが正式に認定した精神疾患であり、単なる趣味の延長ではありません1。主な特徴は「ゲームのコントロールができない」「ゲームを最優先する」「問題が起きても続ける」の3つです。
  • 診断の鍵は、プレイ時間そのものではなく、ゲームによって学業、仕事、家庭生活などに「重大な支障」が生じているかどうかです2
  • 世界的な有病率は一般人口の2〜4%と推定されていますが、日本の児童精神科外来患者のような特定の集団では20%を超える高い有病率が報告されており、他の精神的問題との併発が多いことを示唆しています1821
  • うつ病、不安障害、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)などの精神・発達上の課題が、ゲーム障害の強力な危険因子となります2223。ゲームは、現実世界の苦痛から逃れるための「自己治療」として機能することがあります27
  • 治療の第一選択は、認知行動療法(CBT)であり、家族療法やマインドフルネスも有効です1029。日本では久里浜医療センターが包括的な治療モデルを提供しています13
  • 家族の対応として重要なのは、一方的に禁止するのではなく、協力してルールを作り、ゲーム以外の楽しい活動を増やし、本人の苦しみに寄り添う「I(アイ)メッセージ」で対話することです2739

ゲーム障害とは何か?世界的な定義と日本における現状

世界保健機関(WHO)がその国際疾病分類第11版(ICD-11)において「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を公式に疾患として認定したことは、この問題を社会的な議論から公衆衛生上の重要な懸念事項へと移行させる大きな転換点となりました1。かつて「ゲーム依存」という言葉は、しばしば道徳的な判断を含む俗称として使われていましたが、WHOによる分類は、世界中の臨床医、研究者、政策立案者に対して共通の言語と科学的枠組みを提供しました。これにより、一貫性のある診断、研究、そして政策立案が可能となり、誤った情報や無理解に基づく道徳的パニックを防ぐ助けとなっています3

ビデオゲーム文化の世界的中心地である日本は、この問題に対して特有の状況にあります。現代の主要なエンターテインメントの一部を称賛することと、それがもたらしうる潜在的な害に対処することの間には、一定の緊張関係が存在します。そのため、熱心で健全なゲームプレイと、著しい機能障害を引き起こす問題行動とを明確に区別することが極めて重要です4。この問題の重要性を認識し、日本の厚生労働省は国民を対象とした調査を開始し、関連政策の検討を進めており、これが国家的な課題であることを明確にしています5

診断基準の深掘り:単なる「やり過ぎ」と「障害」を分けるもの

日本国内外でゲーム障害の診断に用いられる基準は、主にWHOのICD-11に基づいています。この基準は、持続的または反復的なゲーム行動のパターンに焦点を当てており、以下の3つの中核的要素によって特徴づけられます1

  1. ゲームに対するコントロールの喪失:ゲームをする頻度、時間、強度、状況などを自分で制御できなくなる。
  2. ゲームの優先順位の上昇:他の生活上の関心事や日常の活動よりもゲームを優先するようになる。
  3. 否定的な結果にもかかわらずゲームを継続・エスカレートさせる:健康問題、学業不振、失職、家族との対立など、明らかな問題が生じているにもかかわらず、ゲームを続ける、あるいはさらにのめり込む。

診断が下されるためには、この行動パターンが個人的、家庭的、社会的、学業的、職業的、その他の重要な機能領域において、著しい障害を引き起こすほど重篤である必要があります。通常、これらの特徴は少なくとも12ヶ月間にわたって観察されることが必要ですが、すべての診断要件が満たされ、症状が重度である場合には、より短い期間でも診断が可能です1

DSM-5における「インターネット・ゲーミング障害」との比較

WHOの枠組みと並行して、米国精神医学会(APA)は、その精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)において、「インターネット・ゲーミング障害(Internet Gaming Disorder – IGD)」と呼ばれる類似の状態を提案しています2。しかし、ここには重要な違いがあります。IGDはDSM-5の第3部に記載されており、これは正式な疾患として認定される前にさらなる研究が必要な状態であることを示しています。IGDの診断には、ゲームへのとらわれ、ゲームができない時の離脱症状、耐性(同じ満足感を得るためにより多くの時間が必要になる)、ゲーム時間について他者に嘘をつくなど、9つの具体的な基準のうち5つ以上を満たす必要があります10。この比較は、現在進行中の科学的な議論を包括的に理解する上で有益です。

日本における臨床的解釈:「機能障害」の重要性

日本の臨床ガイドライン、特に厚生労働省や久里浜医療センターのような専門機関のものは、診断において主にICD-11の枠組みを採用しています6。久里浜医療センターは、潜在的なケースを特定しやすくするために、これらの基準に基づいた独自のスクリーニングツールも開発しています13

ここで最も強調すべき点は、ゲーム障害が単なるプレイ時間の長さではなく、生活における否定的な結果によって定義されるということです。日本の調査では、長時間のゲームプレイと否定的な結果との間に強い相関関係が示されており、例えば、1日に6時間以上プレイする人は、50.4%もの高い割合で睡眠障害を抱えていることが報告されています14。しかし、WHOとAPAの公式診断基準自体は、いずれも「著しい機能障害」や「否定的な結果」を中心に据えています2。久里浜医療センターが家族向けに作成した手引きでも、「やり過ぎ」と「依存」は明確に区別されており、依存状態は生活上の明確な問題の存在によって定義されます13。したがって、長時間ゲームをプレイしていても、健康、社会的関係、責任を十分に維持している人は、ゲーム障害とは見なされません。逆に、プレイ時間はそれほど長くなくても、ゲームが原因で学校に行かなくなったり、仕事を失ったり、深刻な家族間の対立を引き起こしたりする人は、診断基準を満たす可能性があります。これは、一般の読者が理解する上で最も重要な区別です。

問題の規模:日本と世界における有病率と人口統計

ゲーム障害の有病率を正確に把握することは、対策を講じる上で不可欠です。しかし、その数値は調査方法によって大きく変動するため、データを慎重に解釈する必要があります。

世界的な概観:メタアナリシスの統合的知見

世界中で行われた多数の研究を統合したメタアナリシス(複数の研究結果を統計的に統合する手法)は、ゲーム障害の有病率について様々な推定値を示しています。2024年に行われた84件の研究、641,763人を対象とした大規模なメタアナリシスでは、青少年の有病率を8.6%と報告しています17。一方で、2021年の別のメタアナリシスでは、より低い3.05%という数値が示され、さらに厳格な基準で選ばれた研究のみに絞ると1.96%まで低下しました18。また、別の研究でも3.3%という報告があります19

これらの数値の大きなばらつきは、必ずしも障害の急増や蔓延を意味するものではありません。その変動の大部分は、研究方法の違いに起因します。ある研究は、使用するスクリーニングツールの選択だけで、有病率の推定値の変動の77%を説明できると指摘しています18。その他にも、対象集団(一般人口か臨床患者か)、サンプリング方法、年齢、地域などが結果に大きく影響します19。したがって、単一の「世界的な有病率」を提示することは誤解を招く可能性があります。より正確な伝え方は、一般人口における実際の有病率は一桁台の低い数値(約2〜4%)である可能性が高いものの、研究方法によってはより高い数値が報告されることもある、と幅を持たせて説明することです。このアプローチは、不必要な不安を煽ることを避け、疫学データに対する深い理解を示すものです。

日本国内の状況:全国調査と臨床現場の実態

日本では、データはより複雑な様相を呈しています。2019年に10〜29歳を対象に行われた全国調査では、過去1年間に85%がゲームをプレイしたと回答しました。平日のプレイ時間については、男性の24.6%が3時間以上プレイしているのに対し、女性では10.4%でした16。久里浜医療センターの研究では、男性の有病率を7.6%と示唆していますが、この数値は日本の他の全精神疾患を合計した有病率に匹敵するほど高いとして、一部の社会学者から批判も受けています20

さらに重要な知見として、厚生労働省の研究班による調査があります。この研究では、児童精神科のクリニックを受診している10代の患者を対象にスクリーニングを行ったところ、ゲーム障害の陽性率が20.7%から27.1%に達することが明らかになりました21。これは一般人口の推定値をはるかに上回る数値です。このデータは「臨床の漏斗(じょうご)」効果を示唆しており、対象集団がより専門的・臨床的になるにつれて、ゲーム障害の有病率が急激に上昇することを示しています。これは、ゲーム障害が他の主要な問題で助けを求めた際に発見される、強力な併存疾患であることを意味します。実際に、診断に至る最も一般的な理由は「ゲームのやり過ぎ」ではなく、「不登校」や家庭内暴力といった行動上の問題です21。つまり、日本の臨床現場において、ゲーム障害は二次的、あるいは併発する問題として現れることが多いのです。この事実は、私たちが作成するコンテンツが、単にゲームの時間を心配する親だけでなく、不登校のようなより広範な問題に直面している人々にも向けられるべきであり、ゲームが探求すべき関連要因である可能性を提示する必要があることを示唆しています。

表1:ゲーム障害の有病率比較

出典(引用ID) 研究対象 サンプルサイズ 報告された有病率(95%信頼区間) 背景・方法論的留意点
世界的なメタアナリシス17 青少年 641,763 8.6% (6.9%–10.8%) 高い有病率。多様な研究を含む広範なメタアナリシス。
世界的なメタアナリシス18 一般人口 226,247 3.05% (2.38%–3.91%) 測定ツールが結果に最も大きな影響を与えると指摘。
世界的なメタアナリシス(調整後)18 一般人口 (不明) 1.96% (0.19%–17.12%) より厳格なサンプリング基準の研究のみを含む。
日本の全国調査16 若者 (10-29歳) 5,096 約5-8% 国の調査データ。自己申告による影響の可能性あり。
日本の臨床研究21 青少年(児童精神科外来患者) 203 20.7%–27.1% 既に精神保健上の問題を抱える集団における非常に高い有病率。

なぜゲームにのめり込むのか?危険因子と併存する問題

ゲーム障害は、単独で発生することは稀であり、多くの場合、個人の心理的、神経発達的、そして社会的な要因が複雑に絡み合った結果として現れます。その背景を理解することは、効果的な予防と支援に不可欠です。

精神的健康との強固な関連

ゲーム障害と他の精神疾患との間には、強力かつ双方向の関係が存在します。あるメタアナリシスによれば、インターネット・ゲーミング障害(IGD)を持つ人々の約3分の1が、うつ病を併発していることが示されました22。正式な診断に至らないまでも、ゲームに問題を抱える人々は、より高いレベルの抑うつ症状を示す傾向があります。同様に、不安障害や強迫性障害(OCD)も、頻繁に報告される併存疾患です23

神経発達上の要因:ADHDとASDとの関連

この関連性は、日本の臨床現場において特に重要視されています。ADHD(注意欠如・多動症)の中核症状である衝動性、自己調整の困難さ、そして即時的な満足を求める渇望は、ゲーム障害への強い素因となります24。日本の臨床調査でも、ADHDは最も頻繁に見られる併存疾患の一つとして特定されています13。同様に、ASD(自閉スペクトラム症)を持つ人々にとって、オンラインゲームの構造化され、予測可能で、かつ対面ではない社会的相互作用の性質は非常に魅力的であり、これもまた日本の臨床サンプルにおいて一般的な併存疾患となっています13

日本特有の社会構造:ひきこもりと不登校

ゲームは、ひきこもり(長期的な社会的孤立)状態にある人々にとって一般的な活動です25。しかし、厚生労働省の担当者は、ゲームがひきこもりを引き起こすという直接的な因果関係を示す科学的根拠はないと述べています26。精神科医の松本俊彦医師のような専門家は、ゲームはしばしば、現実世界での失敗や社会的孤立につながる社会不安から逃れるための対処メカニズム、あるいは避難場所として機能していると主張しています27。つまり、ゲームは問題の原因ではなく、症状である可能性があるのです。実際に、不登校は、日本でゲーム障害の診断に至る最も一般的な主訴となっています21

「自己治療」としてのゲーム:痛みを和らげるための逃避

うつ病、不安、ADHDなどの潜在的な問題を抱えている人や、社会的な挫折に直面している多くの人々にとって、過度なゲームプレイは単なる楽しみの追求(「正の強化」)だけではありません。むしろ、それは心理的な苦痛を和らげるための一種の「自己治療」(「負の強化」)として、また、実生活では得られない有能さや社会的承認を体験するための代替領域として機能します。松本医師の「負の強化」モデルは、依存症が快楽を求めることではなく、苦痛から逃れることに関するものであると論じています28。彼は、競争の激しい高校に入学するまでは優秀だった生徒が、そこで突然平凡な存在になってしまうという説得力のある例を挙げています。この地位と自尊心の喪失は非常に苦痛です。ゲームは、達成感と尊敬を得るための、新しく、よりアクセスしやすい道を提供します27。他の情報源も、ゲームを現実世界の問題や否定的な感情からの逃避手段として記述しています15。これは、単なる行動抑制を超えた、より複雑な動機モデルを示唆しています。親は「どうすればこの悪い行動をやめさせられるか?」と問う代わりに、「このゲームによって、我が子はいったいどんな苦痛を和らげようとしているのだろう?」あるいは「このゲームはどんなニーズを満たしているのだろう?」と問うように導かれるべきです。これにより、問題は行動の阻止から、その行動を不要にするための根源的なニーズへの対処へと再構築されます。

回復への道筋:科学的根拠に基づく治療法と日本の臨床モデル

ゲーム障害は治療可能な状態であり、科学的根拠に基づいた多様なアプローチが存在します。重要なのは、本人だけでなく、家族を含めた包括的な支援体制を築くことです。

治療のゴールドスタンダード:認知行動療法(CBT)

数多くのメタアナリシスやレビュー研究が、認知行動療法(CBT)をゲーム障害に対する最も効果的で広く研究されている心理的介入法として特定しています10。ゲーム障害のためのCBTは、個人がゲームへの渇望を引き起こすきっかけ(トリガー)を特定し、「次のレベルに到達しなければ幸せになれない」といった非合理的な思考に挑戦し、より健康的な対処戦略と行動を身につける手助けをします12

補完的・統合的アプローチ

  • マインドフルネス:渇望感を減らし、報酬に関連する脳領域の活動を変化させる上で特に有効であることが示されています33。あるネットワークメタアナリシスでは、CBTとマインドフルネスの組み合わせが最も効果的な介入法であることが示唆されました29
  • 家族療法・集団療法:対人関係の力学に対処し、近親者を教育し、仲間からの支援を提供する上で非常に重要です。集団カウンセリングは、現実と向き合い、共感を育むための支援的な空間を提供するため、効果的です30
  • 薬物療法:ゲーム障害を直接治療する特定の薬はありません。しかし、アトモキセチンやブプロピオンのような薬物は、併存するADHDやうつ病を治療するために使用されることがあり、これが間接的にゲーム障害の症状を軽減する可能性があります31

久里浜モデル:日本の統合的アプローチ

樋口進医師343536のリーダーシップのもと、久里浜医療センターは日本の依存症研究と治療のトップ機関です。同センターは2011年に日本初のインターネット依存専門外来を開設しました37。彼らのアプローチは包括的かつ家族中心であり、その詳細は包括的な相談マニュアルに詳述されています13。主な構成要素は以下の通りです。

  • CAP-G (ゲーム障害に対する認知行動療法プログラム): センターで開発・検証された構造化されたCBTプログラム38
  • 家族支援: 最初に助けを求めることが多い家族への教育と支援を強く重視13
  • 治療キャンプ: 若者が現実世界でのスキルや人間関係を築くための、スクリーンを使わないキャンプ13
  • 環境調整: デバイスの使用に関するルールを協力的に設定するための、実践的で詳細なガイダンス。

表2:ゲーム障害に対する治療的介入の有効性

介入法 中核的なメカニズム 有効性の根拠(引用ID) 対象者・主な留意点
認知行動療法 (CBT) 不適応的な思考と行動を変化させる。 最も強力なエビデンス12 ほとんどのケースにおける基盤となる治療法。
マインドフルネスに基づく介入 渇望への気づきを高め、衝動的な反応を減らす。 報酬中枢の脳活動を低下させる33 衝動性や渇望感が強い個人に適している。
家族療法・カウンセリング コミュニケーションを改善し、境界線を設定し、家族システムを治療する。 家族内の対立が高い場合に不可欠13 久里浜モデルはこのアプローチに大きく依存。
集団カウンセリング 仲間からの支援を提供し、孤立を減らし、社会的スキルを構築する。 ゲームにより社会的つながりを失った人に有効30
薬物療法 ADHDやうつ病などの併存疾患を治療する。 直接GDを治療するわけではないが、脆弱性を減らすことができる31 明確な併存疾患の診断がある患者向け。

家庭でできること:予防と初期対応のための実践的ガイド

専門家の助けを求める前に、あるいは専門的治療と並行して、家庭内でできることは数多くあります。重要なのは、対立ではなく協力、支配ではなく対話を目指すことです。ここでは、久里浜医療センターの知見13を基にした具体的なステップを紹介します。

1. 協力的なルール作り(ルール作り)

最も重要な原則は、一方的にルールを押し付けるのではなく、子どもと一緒にルールを作ることです39。これにより、子どもはルールを守る責任感を持ちやすくなります。対話を通じて、なぜルールが必要なのか(例:「睡眠時間を確保して、日中元気に活動するため」)を丁寧に説明し、合意形成を目指しましょう。

2. 時間と場所の特定(時間と場所)

曖昧な約束ではなく、具体的で明確なルールを設定します。久里浜医療センターが推奨する例としては、以下のようなものがあります13

  • 時間:「平日は1日1時間まで、週末は2時間まで」のように具体的な上限を設ける。タイマーを使い、時間が来たら中断する練習をします。
  • 場所:寝室や食卓へのスマートフォンの持ち込みを禁止するなど、ゲームをしても良い場所とダメな場所を明確に区別します。これにより、生活リズムの乱れを防ぎます。

3. お金の管理(お金の使い方)

オンラインゲームでの課金問題は、家庭内の深刻な対立の原因となり得ます。クレジットカードを直接登録させるのではなく、プリペイドカードを利用させ、月々の上限額を明確に設定することが推奨されます13。これにより、子ども自身がお金の価値を学び、計画的に使う訓練にもなります。

4. テクノロジーの活用

多くのゲーム機やスマートフォンには、ペアレンタルコントロール(保護者による使用制限)機能が搭載されています。これらを活用して、プレイ時間の上限を設定したり、不適切なコンテンツへのアクセスをフィルタリングしたりすることが可能です13。これは罰ではなく、子どもを保護し、ルールを守りやすくするためのサポートツールと位置づけましょう。

5. 代替活動の促進(ゲーム以外の活動)

ゲームが唯一の楽しみや達成感の源泉にならないよう、現実世界での活動を豊かにすることが極めて重要です1340。スポーツ、音楽、読書などの趣味や、家族で一緒に楽しめる活動(キャンプ、ボードゲームなど)を積極的に提案し、実行することで、現実生活をよりやりがいのあるものにします。

6. 「I(アイ)メッセージ」による対話

精神科医の松本俊彦医師が提唱するように、子どもを非難する「You(ユー)メッセージ」(「あなたはゲームをやりすぎよ」)ではなく、自分の感情として伝える「I(アイ)メッセージ」を使いましょう27。例えば、「あなたが夜更かしして睡眠不足だと、お母さんはあなたの体のことが心配になる」といった伝え方です。これにより、相手は防御的にならず、対話しやすくなります。

7. 子どもの世界を理解する

子どもがどんなゲームに夢中になっているのか、関心を示し、理解しようと努めることも信頼関係を築く上で有効です13。ゲームの内容や、どこが面白いのかを尋ねることで、子どもは自分の世界を尊重されていると感じ、心を開きやすくなります。

専門的な助けを求めるには:日本の相談窓口と治療機関

家庭での努力だけでは改善が難しい場合、専門家の支援を求めることが重要です。日本には、ゲーム障害に対応するための様々な窓口があります。

  • 学校のカウンセラーや地域の保健センター:最も身近な相談窓口です。初期の相談を行い、必要に応じてより専門的な機関を紹介してもらうことができます。
  • 精神保健福祉センター:各都道府県・政令指定都市に設置されており、精神保健に関する相談に応じています。
  • 専門の医療機関:前述の久里浜医療センター32をはじめ、全国にはインターネット・ゲーム依存の専門外来を設けている病院やクリニックがあります。これらの機関では、認知行動療法(CBT)などの科学的根拠に基づいた治療を受けることができます。まずはかかりつけの医師や地域の相談窓口に相談し、適切な医療機関を紹介してもらうのが良いでしょう。

よくある質問

Q1: どのくらいの時間ゲームをしたら「ゲーム障害」になりますか?

A1: ゲーム障害は、プレイ時間の長さだけで決まるものではありません。WHOの診断基準によれば、最も重要なのは「ゲームによって個人の、家族の、社会的な、学習上の、職業上の、または他の重要な機能領域における重大な障害」が生じているかどうかです1。例えば、毎日1時間しかプレイしていなくても、そのために宿題をしなかったり、学校を休んだりするようであれば、問題となる可能性があります。逆に、長時間プレイしていても、健康や社会的責任を維持できていれば、障害とは診断されません。

Q2: ADHD(注意欠如・多動症)や発達障害とゲーム障害は関係がありますか?

A2: はい、非常に強い関係があります。ADHDの特性である衝動性や自己調整の困難さは、ゲームへの没入を加速させる可能性があります24。また、ASD(自閉スペクトラム症)の人は、明確なルールがあり、対面ではないコミュニケーションが中心のゲームの世界に安心感を覚えることがあります。日本の臨床現場では、ゲーム障害で受診する子どもの多くが、背景にこれらの神経発達症を併存していることが指摘されています13。そのため、治療ではゲームへの介入だけでなく、これらの併存する特性への配慮と支援が不可欠です。

Q3: ゲームを完全に取り上げるべきでしょうか?

A3: 専門家の間では、一方的にゲームを完全に取り上げることは推奨されていません。特に、ゲームが本人の唯一の居場所やコミュニケーション手段になっている場合、それを取り上げることは孤立を深め、逆効果になる可能性があります27。久里浜医療センターのモデルでも、目標は「ゲームとのより良い付き合い方を学ぶ」ことであり、完全な禁止ではありません13。協力的なルール作りを通じて、プレイ時間をコントロールし、現実世界の活動とのバランスを取ることが重要です。

Q4: 治療にはどのような方法があり、費用はかかりますか?

A4: 治療の柱は、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス、家族療法などです1229。これらは、ゲームへの考え方や行動パターンを変え、健康的な対処法を学ぶことを目的とします。ゲーム障害はICD-11で疾患として認められているため、医療機関での治療は原則として公的医療保険の対象となります。ただし、カウンセリングの頻度や内容、施設によっては一部自費診療となる場合もありますので、受診前に医療機関に確認することをお勧めします。

結論

ゲーム障害は、WHOによって認められた治療可能な健康問題です。本稿で概説したように、その有病率は一般人口では2〜4%程度ですが、ADHDやうつ病といった他の精神的課題を抱える人々においては著しく高くなります。このことは、ゲームへの過度な没入が、しばしば根底にある苦痛からの逃避であるという「自己治療」の側面を浮き彫りにします。効果的なアプローチは、一方的な禁止ではなく、対話、協力的なルール設定、そして根源的な心理的ニーズへの対処に基づいた、家族中心のバランスの取れた戦略です。認知行動療法(CBT)は科学的根拠のある主要な治療法であり、日本の久里浜医療センターは世界水準の統合的ケアモデルを提供しています。JAPANESEHEALTH.ORGは、この詳細かつ科学的根拠に基づいた情報を提供することで、日本の家族がゲームと健全な関係を育み、ゲーム障害の課題を効果的に乗り越えるための一助となることを願っています。希望を持って、バランスの取れたデジタルライフを築くことは可能なのです。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  27. 3 寝食忘れて、ゲームをしていても。 | 精神科医・ 松本俊彦先生に聞く、 依存症の話 きみの「依存」は、 じつは何かが 苦しいからかも しれなくて。 – ほぼ日. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://www.1101.com/n/s/izonsho/2024-11-21.html
  28. 松本俊 – 彦先生のご講演「人はなぜ依存症になるのか〜コネクションの対義語としてアディクショ – 日本医療ソーシャルワーカー協会. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://www.jaswhs.or.jp/about/izonshorecovery-HP.pdf
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  35. 樋口 進 | 人名事典 | お楽しみ – PHP研究所. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://www.php.co.jp/fun/people/person.php?name=%E6%A8%8B%E5%8F%A3%E3%80%80%E9%80%B2
  36. 樋口 進(ひぐち すすむ) 先生(神奈川県の精神科医)のプロフィール:久里浜医療センター. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://medicalnote.jp/doctors/200424-002-LQ
  37. 【ご講演者略歴】 樋口 進氏. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://www.mojikatsuji.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/b41ba5cfb05052f020d7bce38554332e.pdf
  38. ゲーム障害に対する認知行動療法をベースとした 治療プログラムの開発と効果検証. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/%20202218008B-buntan7.pdf
  39. ゲーム依存に注意! 予防のための4つのポイント | Gakken家庭学習 …. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://www.gakken.jp/homestudy-support/edu-info/19200/
  40. 「うちの子、ゲーム依存?」と感じた保護者が最初にできること …. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. 入手先: https://benesse.jp/kosodate/202401/20240131-1.html
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