【専門医が解説】INR検査とは?正常値と日本の目標値、ワーファリンと食事(納豆)・薬の関係まで徹底解説
血液疾患

【専門医が解説】INR検査とは?正常値と日本の目標値、ワーファリンと食事(納豆)・薬の関係まで徹底解説

ワルファリン(ワーファリンとも呼ばれます)を服用されている方にとって、「INR検査」はご自身の治療が適切に行われているかを知るための、いわば「羅針盤」のような存在です。日本国内には心房細動の患者さんだけでも100万人以上いると推定されており1, 2, 3、その方々が脳梗塞などの深刻な血栓症を予防するために、INR検査は極めて重要な役割を担っています。しかし、その数値が何を意味し、日々の生活、特に食事や他の薬とどう関わるのか、多くの疑問や不安をお持ちではないでしょうか。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、科学的根拠に基づき、日本の医療事情に即した最も信頼できる包括的なガイドとして、INR検査に関するあらゆる疑問に専門家の視点からお答えします。

要点まとめ

  • INR検査は、血液の固まりやすさを世界共通の基準で示す指標であり、特にワルファリン治療の効果を測るために不可欠です。
  • INRの目標値は疾患や患者さんの状態によって異なり、日本のガイドラインでは、国際基準とは一部異なる独自の目標値(例:心房細動の一次予防で1.6-2.6)が推奨されています4
  • ワルファリン服用中は、ビタミンKを豊富に含む納豆、青汁、クロレラの摂取は禁止です。これは、納豆菌が腸内でビタミンKを作り続けるためです5
  • 他の薬剤との相互作用には細心の注意が必要です。特に抗真菌薬のミコナゾールは併用禁忌とされています6。市販薬やサプリメントを始める前には必ず医師・薬剤師への相談が必須です。
  • 近年、食事制限の少ないDOAC(直接経口抗凝固薬)が登場しましたが、機械式心臓弁の患者さんなど、依然としてワルファリンとINR検査が第一選択となる重要なケースがあります。

第1部:INR検査の基礎知識

INR検査について深く理解するためには、まずその基本原理と、なぜこの検査が国際的な標準となっているのかを知ることが重要です。ここでは、血液が固まる仕組みからINRの計算方法まで、その基礎を分かりやすく解説します。

1.1. PT-INR検査とは?―世界共通の「ものさし」

私たちの体には、出血した際に血を固めて止める「凝固」という仕組みがあります。この凝固には多くの因子が関わっており、INR検査は「外因系」と呼ばれる経路の働きを調べています。具体的には、プロトロンビン時間(PT: Prothrombin Time)という値を測定します。しかし、PTは測定に使用する検査試薬(組織トロンボプラスチン)の種類によって値が変動してしまうという課題がありました。つまり、同じ血液サンプルでも、A病院とB病院では結果が異なってしまう可能性があったのです7

この問題を解決するために導入されたのが、国際感度指数(ISI: International Sensitivity Index)です。これは、各検査試薬が世界保健機関(WHO)の標準試薬と比べてどれくらいの感度を持つかを示す値です。そして、このISIを用いて各施設でのPT測定値を標準化したものが、国際標準化比(INR: International Normalized Ratio)です。これにより、世界中のどの医療機関で検査を受けても、同じ「ものさし」で血液の固まりやすさを評価できるようになりました4。INRは以下の計算式で求められます。

計算式: INR = (患者さんのPT測定値 / 正常な方のPT平均値) ISI

この式は、患者さんのPTが正常値と比べてどれくらい延長しているかを、試薬の感度差を補正した上で比率として示していることを意味します。

1.2. どのような場合にINR検査が必要か?

INR検査は、主にワルファリンによる抗凝固療法を受けている患者さんに対して、その効果をモニタリングし、適切な投与量を決定するために不可欠です。ワルファリン治療が必要となる代表的な病態には以下のようなものがあります。

  • 心房細動(特に弁膜症性心房細動): 心房が不規則に細かく震えることで心臓内に血栓(血の塊)ができやすくなり、それが脳に飛んで脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。ワルファリンは、この血栓形成を防ぐために用いられます。
  • 機械式心臓人工弁置換術後: 心臓弁膜症の治療で機械式の人工弁を体内に留置した場合、その表面で血栓が形成されやすくなります。これを防ぐために、生涯にわたるワルファリン治療が必要です8
  • 深部静脈血栓症(DVT)・肺血栓塞栓症(PE)の治療と再発予防: 主に下肢の深い部分にある静脈に血栓ができるのがDVT、その血栓が血流に乗って肺の動脈に詰まるのがPE(いわゆるエコノミークラス症候群)です。これらの治療と再発予防のために、ワルファリンが使用されます。

1.3. 検査の流れと準備

INR検査は通常の採血と同様に行われます。特別な準備はほとんど必要ありません。

  • 採血前の準備: 一般的に、この検査のための絶食は必要ありません。しかし、最も重要なのは、服用中のすべての薬剤を医師に正確に申告することです。これには、他の病院で処方された薬だけでなく、市販の風邪薬や鎮痛薬、ビタミン剤、漢方薬、サプリメントも含まれます。後述するように、多くの薬剤がワルファリンの効果に影響を与えるためです9
  • 採血プロセス: 通常、腕の静脈から少量の血液を採取します。所要時間は数分程度です。
  • 検査後の注意点: ワルファリンを服用している方は、一般の方より血が止まりにくい傾向があります。そのため、採血後は5分以上、採血部位をしっかりと圧迫し、確実な止血を確認してください。内出血(あざ)ができやすくなることもありますが、通常は時間とともに吸収されます。

第2部:INR検査結果の正しい読み方【日本の基準を重視】

INR検査の結果は、単一の数値で示されます。この数値が治療目標範囲内に収まっているかどうかが、血栓症予防と出血リスクのバランスを保つ上で極めて重要です。ここでは、その数値の解釈と、日本の公式ガイドラインに基づいた疾患別の目標値を詳しく解説します。

2.1. INR値が示すこと:高い場合・低い場合のリスク

INR値は、ワルファリンの効果を直接反映しています。

  • INR高値(例:>3.0-3.5): ワルファリンが効きすぎている状態を意味します。血液が固まりにくくなりすぎているため、出血のリスクが増大します。具体的な症状としては、鼻血、歯肉からの出血、軽い打撲による広範囲のあざ、血尿、黒い便(消化管出血の兆候)、そして最も重篤なものとして脳出血などが挙げられます。
  • INR低値(例:<2.0): ワルファリンの効果が不十分な状態です。血液が固まりやすいままであるため、本来予防すべきであった血栓症(脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓など)を発症するリスクが高まります。

したがって、ワルファリン治療は、INR値が低くなりすぎず、かつ高くなりすぎない、絶妙な「治療域(therapeutic range)」に維持することが目標となります。

2.2. 【最重要】疾患別のINR目標治療域:日本の公式ガイドラインに基づく解説

INRの目標値は、患者さんの病態、年齢、その他のリスク因子によって個別に設定されます。特に、日本では国内の大規模臨床研究の結果を反映した、国際的なガイドラインとは一部異なる独自の基準が設けられています。これは、日本人患者における出血リスクと血栓予防効果の最適なバランスを追求した結果であり、非常に重要です4

以下に、日本循環器学会(JCS)や日本不整脈心電学会(JHRS)などが定める主要なガイドラインに基づいた目標値を示します4, 8, 10

表:疾患別INR目標値(日本 vs 国際ガイドライン比較)
病態 日本のガイドライン(JCS/JHRS等)4, 8 国際ガイドライン(ESC/AHA等)10, 11 備考
非弁膜症性心房細動 (NVAF) – 一次予防 1.6 ~ 2.6 2.0 ~ 3.0 日本のJ-RHYTHMレジストリ研究に基づき、70歳以上の高齢者など出血リスクを考慮して低めの目標値が設定されているのが特徴。
非弁膜症性心房細動 (NVAF) – 二次予防 (70歳未満) 2.0 ~ 3.0 2.0 ~ 3.0 脳梗塞の既往があるなど血栓リスクが高い場合は、国際基準と同様の目標値が推奨される。
機械式心臓人工弁(大動脈弁位) 2.0 ~ 2.5 2.0 ~ 3.0 日本のガイドラインでは、比較的血栓リスクの低い大動脈弁位で、より低い目標値が設定されている。
機械式心臓人工弁(僧帽弁位・複数リスク因子) 2.0 ~ 3.0 2.5 ~ 3.5 血栓リスクが高い僧帽弁位では、日本でも国際基準に近い目標値が推奨される。
深部静脈血栓症 (DVT)・肺血栓塞栓症 (PE) 2.0 ~ 3.0 2.0 ~ 3.0 この領域では、国内外で目標値に大きな違いはない。

このように、特に非弁膜症性心房細動の一次予防において、日本のガイドラインがより低いINR目標値を推奨している点は特筆すべきです。これは、日本人を含む東アジア人は、欧米人と比較して同じINR値でも出血リスクが高い傾向にあるという人種差を考慮した、より安全性を重視したアプローチと言えます。

第3部:INR値を安定させるための生活上の注意点

INR値は非常にデリケートで、食事や他の薬剤、さらには体調の変化によっても変動します。目標治療域を維持するためには、日々の生活における注意点を正しく理解し、実践することが不可欠です。ここでは、患者さんから最も質問の多い食事と薬の相互作用について、科学的根拠に基づいて詳しく解説します。

3.1. 食事との関係:なぜ「納豆」は絶対ダメなのか?

ワルファリンと食事の関係で最も有名なのが「納豆は食べてはいけない」というものです。この理由を理解するためには、まずワルファリンとビタミンKの関係を知る必要があります。

  • ビタミンKの役割: ビタミンKは、肝臓で血液凝固因子(プロトロンビンなど)が作られる際に必須の補酵素として働きます。つまり、血液を固めるために必要な物質です。
  • ワルファリンの作用機序: ワルファリンは、このビタミンKの働きを邪魔する(拮抗する)ことで、凝固因子の産生を抑制し、血液を固まりにくくします。そのため、「ビタミンK拮抗薬」と呼ばれます。

この関係性を踏まえると、なぜ納豆が禁忌とされるのか、その科学的な理由が明らかになります。

納豆が禁忌である科学的理由5, 12, 13
理由1:食品自体が含有する豊富なビタミンK2
納豆は、他の食品と比較して桁違いに多くのビタミンK2を含んでいます。これを摂取すると、ワルファリンの効果が打ち消され、INR値が急激に低下し、血栓のリスクが著しく高まります。
理由2:腸内での納豆菌によるビタミンK2の持続的な産生
これが納豆特有の、より厄介な問題です。摂取した納豆菌(Bacillus subtilis natto)は腸内で生き続け、ビタミンK2を産生し続けます。そのため、一度食べただけで数日間にわたってワルファリンの効果が減弱してしまうのです。これが、他のビタミンKが豊富な野菜とは一線を画し、納豆が「絶対禁止」とされる最大の理由です。

以下の表に、ビタミンKを多く含む食品と、その注意レベルをまとめました。

表:ビタミンKを多く含む食品と注意レベル
注意レベル 食品名 解説
【摂取禁止】 納豆、青汁、クロレラ ビタミンK含有量が極めて多く、ワルファリンの効果を著しく減弱させます。これらの摂取は絶対に避けてください5
【大量摂取に注意】 ほうれん草、ブロッコリー、春菊、パセリなどの緑黄色野菜 これらの野菜もビタミンKを多く含みますが、納豆ほどではありません。重要なのは「全く食べない」ことではなく、「毎日ほぼ一定量を食べる」ことです。日によって食べる量が大きく変動すると、INR値も不安定になります。バランスの取れた食事の中で、常識的な量をコンスタントに摂取することが推奨されます。
【問題ない食品】 豆腐・味噌・醤油などの他の大豆製品、オクラ・長芋など粘りのある野菜 納豆と同じ大豆製品でも、豆腐や味噌、醤油などは製造過程で納豆菌を使用しないため、ビタミンK含有量は少なく問題ありません5。また、オクラなどのネバネバ成分はビタミンKとは無関係です。

3.2. 他の薬剤との相互作用【PMDA公式情報に基づく】

【警告】
他の薬剤との飲み合わせは、INR値を大きく変動させ、出血や血栓といった深刻な事態を招く可能性があります。市販薬やサプリメントを含め、新しい薬を始める際は、ワルファリンを服用していることを必ず医師・薬剤師に伝え、相談してください。

ワルファリンは非常に多くの薬剤と相互作用を起こします。ここでは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)などの公式情報に基づき、特に注意が必要な薬剤をいくつか紹介します6, 9, 14

  • ワルファリンの効果を増強する薬剤(出血リスク増)
    • 【併用禁忌】: ミコナゾール(経口剤・注射剤・口腔用剤) – 抗真菌薬(水虫やカンジダ症の治療薬)。ワルファリンの代謝を強力に阻害し、INR値を危険なレベルまで上昇させるため、併用は絶対に禁止です6
    • 【併用注意】: アセトアミノフェン(市販の解熱鎮痛薬に多い)、一部の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、ロキソプロフェンなど)、一部の抗生物質(マクロライド系など)、抗うつ薬(SSRIなど)、脂質異常症治療薬(フィブラート系など)。
  • ワルファリンの効果を減弱する薬剤(血栓リスク増)
    • 【併用注意】: バルビツール酸系薬剤(睡眠薬など)、カルバマゼピン(抗てんかん薬)、リファンピシン(抗結核薬)、ビタミンK製剤、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む健康食品。

このリストは一部に過ぎません。自己判断は絶対にせず、必ず専門家にご相談ください。

3.3. アルコール(お酒)との関係

アルコールについては、適量であれば通常は大きな問題にはならないとされています。例えば、ビール中瓶1本/日程度であれば、INR値への影響は少ないと考えられています。しかし、一度に大量のアルコールを摂取したり(いわゆる「ちゃんぽん飲み」も含む)、日常的に多量に飲酒したりすることは避けるべきです。アルコールはワルファリンの代謝に影響を与え、また、慢性的な多量飲酒は肝機能障害を引き起こし、INR値を著しく不安定にする原因となります15

第4部:現代医療におけるINR検査の役割

2010年代以降、新しいタイプの抗凝固薬が登場し、抗凝固療法の選択肢は大きく変化しました。しかし、その中でもワルファリンとINR検査は、依然として重要な役割を担っています。ここでは、現代医療におけるINR検査の位置づけと将来の展望について解説します。

4.1. 新しい抗凝固薬(DOAC/NOAC)の登場

近年、直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct Oral Anticoagulants)、または非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC: Non-vitamin K antagonist Oral Anticoagulants)と呼ばれる新しい薬が登場しました。日本で承認されているものには、リクシアナ®(エドキサバン)、イグザレルト®(リバーロキサバン)、エリキュース®(アピキサバン)、プラザキサ®(ダビガトラン)があります。

これらのDOACは、ワルファリンと比較していくつかの利点があります16, 17

  • 利点:
    • 納豆などの食事制限がない。
    • 薬物相互作用がワルファリンより少ない。
    • 効果の発現が速やかで、作用時間も短い。
    • 定期的な血液検査によるモニタリングが原則不要。
  • 欠点:
    • 腎機能が低下している患者さんでは用量調節が必要、または使用できない場合がある。
    • 特定の病態(後述)ではワルファリンより効果が劣る可能性があり、推奨されない。
    • 薬価がワルファリンに比べて高価。

RE-LY試験18, 19や大規模なメタアナリシス16の結果、多くの非弁膜症性心房細動の患者さんにおいて、DOACはワルファリンと同等以上の脳梗塞予防効果と、より低い大出血リスクを示すことが証明され、現在では標準治療の一つとなっています。

4.2. なぜ今もワルファリンとINR検査が必要なのか?

DOACの登場によっても、ワルファリンとINR検査の重要性が失われたわけではありません。以下のような特定の病態では、依然としてワルファリンが第一選択薬として推奨されており、DOACの使用は認められていません17

  • 機械式心臓人工弁置換術後の患者さん: この状態の患者さんを対象とした臨床試験で、DOACがワルファリンに劣る結果となったため、使用は禁忌です。
  • 中等度以上の僧帽弁狭窄症を伴う心房細動の患者さん: この病態もDOACの有効性と安全性が確立されておらず、ワルファリンが標準治療です。
  • 抗リン脂質抗体症候群の一部: 自己免疫疾患の一種で血栓症を繰り返す病態ですが、特に血栓リスクが高いケースではDOACの効果が不十分である可能性が指摘されています。
  • 医療経済的な側面: ワルファリンは薬価が非常に安価であり、長年の使用実績があるため、経済的な理由や医師の経験から選択される場合もあります。

これらの患者さんにとっては、定期的なINR検査による精密なコントロールが、安全かつ効果的な治療の生命線であり続けます。

4.3. 将来の展望:在宅モニタリング(POCT)と個別化医療

INR検査の分野でも技術は進歩しています。近年、指先から採取したごく微量の血液で、患者さん自身が自宅やクリニックで迅速にINR値を測定できる機器(POCT: Point of Care Testing、例:コアグチェック®)が利用可能になっています20。これにより、医療機関への通院負担が軽減され、より頻回なモニタリングによる、きめ細やかな治療管理が可能になると期待されています。

また、ワルファリンの効きやすさには、遺伝子多型(CYP2C9やVKORC1といった遺伝子の個人差)が関わっていることが解明されています。将来的には、このような遺伝子情報を基に、個々の患者さんに最適なワルファリンの初期投与量を決定する「個別化医療」が、さらに普及していくと考えられます。

よくある質問 (FAQ)

Q1. ワーファリンを飲み忘れたらどうすればいいですか?

A1. 思い出したのが当日のうちであれば、気づいた時点ですぐに1回分を服用してください。しかし、翌日になってから気づいた場合は、前日分は服用せず、当日分のみを1回分服用してください。絶対に自己判断で2回分を一度に飲んではいけません。出血のリスクが非常に高まります。飲み忘れが続いたり、どうすればよいか不安な場合は、必ず主治医や薬剤師に連絡して指示を仰いでください21

Q2. INRの目標値はなぜ人によって違うのですか?

A2. INRの目標値は、画一的に決まるものではありません。あなたの病気の種類(心房細動、機械弁など)、年齢、過去の脳梗塞や出血の既往、腎機能、併用している薬剤など、多くの要因を主治医が総合的に評価して、あなたにとって最も血栓予防効果が高く、かつ出血リスクが低いと判断される範囲に個別に設定されます。特に日本のガイドラインでは、70歳以上の高齢者で目標値を低めに設定することが推奨されるなど、年齢は重要な判断材料の一つです4

Q3. 手術や抜歯の際はどうすればいいですか?

A3. 手術や抜歯など、出血を伴う処置を受ける際には、ワルファリンの管理が非常に重要になります。ワルファリンを服用していることは、必ず事前に手術や処置を担当する医師(外科医、歯科医など)と、ワルファリンを処方している主治医の両方に伝えてください。出血リスクの少ない小さな処置であれば服用を継続することもありますが、大きな手術の場合は、数日前からワルファリンを中止する必要があります。その際、血栓リスクが高い患者さんでは、「ヘパリンブリッジング」といって、作用時間の短い注射薬(ヘパリン)で一時的に代用することもあります。すべての判断は専門医が行いますので、自己判断で薬を止めたりせず、必ず指示に従ってください。

Q4. 出血しやすくなっているサインはありますか?

A4. INR値が高くなり、出血傾向が出ている場合のサインを早期に発見することは重要です。以下のような症状に気づいた場合は、ワルファリンが効きすぎている可能性がありますので、速やかに主治医に相談してください。

  • 軽い打撲でも、普段より大きなあざ(皮下出血)ができる
  • 鼻血や歯ぐきからの出血がなかなか止まらない
  • 尿に血が混じる(血尿)
  • 便が黒くなる(タール便、消化管出血のサイン)
  • 原因不明の頭痛やめまい(脳出血の初期症状の可能性)

結論:主治医との連携で最適な治療を目指す

INR検査は、ワルファリンという歴史が長く非常に効果的な薬剤を、安全かつ最大限に活用するための生命線です。その数値を安定させ、治療目標を達成するためには、検査そのものの意義を理解するだけでなく、ご自身の生活習慣、特に食事や他の薬剤との関係性を正しく知ることが不可欠です。自己判断による服薬の中断や変更、あるいは食事内容の急激な変更は、出血や血栓といった重大な合併症に直結する危険な行為ですので、絶対に避けてください。この記事で得た情報を基に、ご自身の治療について不安や疑問に思う点があれば、次の診察で主治医や薬剤師に具体的に質問してみてください。あなたの質問が、より良い治療への第一歩となります。定期的な検査と、医療専門家との良好なコミュニケーションこそが、最良の治療結果に繋がる鍵なのです。

免責事項本記事は、信頼できる医学的情報に基づく一般的な知識の提供を目的としています。個々の患者様の病状や治療方針を決定するものではありません。治療に関する具体的な判断は、必ずご自身の主治医または担当の医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本で推定される心房細動患者数はおよそ170万人. 東京ハートリズムクリニック. https://www.tokyo-heart-rhythm.clinic/blog/762/. Accessed June 18, 2025.
  2. 推定患者数100万人超、高齢化に伴いさらに増加すると言われる心房細動. オムロン ヘルスケア. https://www.healthcare.omron.co.jp/zeroevents/bloodpressure/topics/03.html. Accessed June 18, 2025.
  3. 心房細動週間・脈の日. 日本脳卒中協会. https://www.jsa-web.org/citizen/94.html. Accessed June 18, 2025.
  4. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会. 2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン. 2020. http://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf.
  5. どうしても食べたい!ワーファリン服用中の納豆。他の豆もダメ… ePark. https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/l1zfs. Accessed June 18, 2025.
  6. 厚生労働省/医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医薬品・医療機器等安全性情報 No.338. 2016. https://www.pmda.go.jp/files/000214870.pdf.
  7. PT-INRとは(正常値、PTとの違い、ワーファリン)?. 金沢大学 血液内科呼吸器内科. http://www.3nai.jp/weblog/entry/22533.html. Accessed June 18, 2025.
  8. 日本循環器学会合同研究班. 弁膜症治療のガイドライン(2020年改訂版). 2020. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf.
  9. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医療用医薬品 : ワーファリン (ワーファリン錠0.5mg 他). 2023. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068210.
  10. Hindricks G, Potpara T, Dagres N, et al. 2020 ESC Guidelines for the diagnosis and management of atrial fibrillation developed in collaboration with the European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS). Eur Heart J. 2021;42(5):373-498. doi:10.1093/eurheartj/ehaa612. https://www.escardio.org/static-file/Escardio/Guidelines/Documents/ehaa612.pdf.
  11. A Patient’s Guide to Taking Warfarin. American Heart Association. https://www.heart.org/en/health-topics/arrhythmia/prevention–treatment-of-arrhythmia/a-patients-guide-to-taking-warfarin. Accessed June 18, 2025.
  12. 血液をサラサラにする薬を飲んでいると、納豆はダメと言われました。. 武蔵野内科. https://musashinocvm.com/post_blog/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%82%92%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%81%AB%E3%81%99%E3%82%8B%E8%96%AC%E3%82%92%E9%A3%B2%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%80%81%E7%B4%8D%E8%B1%86%E3%81%AF/. Accessed June 18, 2025.
  13. 血のサラサラの薬を飲んでいるけれど納豆は食べていいですか?. 沖縄北あんしん内科クリニック. https://okinawa-anshin-clinic.com/dont-eat-natto/. Accessed June 18, 2025.
  14. 日本薬局方 ワルファリンカリウム錠. 医薬品インタビューフォーム. https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062591.pdf. Accessed June 18, 2025.
  15. ワルファリンを正しく 飲んでいただくために. 名古屋大学医学部附属病院薬剤部. https://www.med.nagoya-u.ac.jp/pharmacy/pdf/warfarin_text_1.pdf. Accessed June 18, 2025.
  16. Ruff CT, Giugliano RP, Braunwald E, et al. Comparison of the efficacy and safety of new oral anticoagulants with warfarin in patients with atrial fibrillation: a meta-analysis of randomised trials. The Lancet. 2014;383(9921):955-962. doi:10.1016/S0140-6736(13)62343-0.
  17. An J, Zhang C, Chen M, et al. When Direct Oral Anticoagulants Should Not Be Standard Treatment: JACC State-of-the-Art Review. J Am Coll Cardiol. 2024;83(5):619-637. doi:10.1016/j.jacc.2023.10.038. https://www.jacc.org/doi/abs/10.1016/j.jacc.2023.10.038.
  18. Connolly SJ, Ezekowitz MD, Yusuf S, et al. Dabigatran versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation. N Engl J Med. 2009;361(12):1139-1151. doi:10.1056/NEJMoa0905561. https://www.kau.edu.sa/Files/0015732/Subjects/NEJMoa0905561.pdf.
  19. Dabigatran versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation. https://elrincondesisifo.org/wp-content/uploads/2009/09/dabigatran-versus-warfarin-in-patients-with-atrial-fibrillation.pdf. Accessed June 18, 2025.
  20. 富士経済グループ. 生化学・血液学的検査、ITシステムの国内市場を調査. 2018. https://www.fuji-keizai.co.jp/press/detail.html?cid=18085.
  21. ワーファリンと食品の関係. フタバ薬局. https://www.futaba-ph.co.jp/wp-content/uploads/2014/08/5-wafarin.pdf. Accessed June 18, 2025.
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ