この記事の科学的根拠
この記事は、明示的に引用された最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下に示すリストは、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示したものです。
- 日本動脈硬化学会(JAS): 本記事における脂質異常症の診断基準、リスク分類、治療目標値に関する指針は、同学会が発行する「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」に基づいています。
- CTT(Cholesterol Treatment Trialists’)共同研究: スタチン療法の有効性に関する記述は、数十万人規模のランダム化比較試験を統合解析した、このメタアナリシスの結果を根拠としています。
- 米国心臓協会/米国心臓病学会(AHA/ACC)および欧州心臓病学会/欧州アテローム性動脈硬化学会(ESC/EAS): 海外の治療戦略との比較分析は、これらの学会が発行する公式ガイドラインに基づいています。
- IMPROVE-IT試験、FOURIER試験、ODYSSEY OUTCOMES試験: LDLコレステロールをより低く管理することの意義(Lower is Better)に関する記述は、これらの大規模臨床試験の結果に基づいています。
この記事でわかること(要点まとめ)
- LDLコレステロールは、過剰になると血管壁に蓄積し、動脈硬化を進行させるため「悪玉」と呼ばれます。これが心筋梗塞や脳梗塞の直接的な原因となります。
- 日本の公式な診断基準では、LDLコレステロール値が140mg/dL以上で「高LDLコレステロール血症」と診断されます。ただし、治療方針は個々の将来のリスクに応じて決定されます。
- 対策の基本は生活習慣の改善です。飽和脂肪酸(肉の脂身など)を減らし、食物繊維(野菜、海藻など)やn-3系脂肪酸(青魚など)を増やす食事が推奨されます。
- 運動療法では、ウォーキングなどの有酸素運動を1日30分以上、週3日以上行うことが目標です。
- 生活習慣の改善で目標を達成できない場合や、特にリスクが高い場合は薬物療法(主にスタチン)が検討されます。スタチンは心血管イベントを明確に予防する効果が証明されています。
- LDLコレステロールが180mg/dL以上など著しく高い場合は、遺伝性の「家族性高コレステロール血症(FH)」の可能性があり、早期の専門的治療が必要です。
1. LDLコレステロールの基本:なぜ「悪玉」と呼ばれ、放置すると危険なのか?
LDLコレステロールの管理は、現代の予防医学における中心的な課題の一つです。その重要性を理解するためには、まずコレステロールそのものの役割と、LDLコレステロールがなぜ「悪玉」という通称で呼ばれるのかを科学的に把握する必要があります。
1.1. コレステロールは本来、生命維持に必要な物質
コレステロールは、本来、私たちの生命維持に不可欠な物質です。具体的には、約37兆個あるとされる全身の細胞の膜を構成する主成分であり、性ホルモンや副腎皮質ホルモン、さらには脂肪の消化吸収を助ける胆汁酸の原料としても機能します12。このように、コレステロールなくして私たちの身体は成り立ちません。
1.2. 「善玉(HDL)」と「悪玉(LDL)」の役割分担
問題は、脂質であるコレステロールが、血液という水性の環境でいかにして運搬されるかという点にあります。コレステロールは、アポタンパク質と結合して「リポタンパク質」という粒子を形成し、血中を移動します。このリポタンパク質の中でも特に重要なのがHDL(高密度リポタンパク質)とLDL(低密度リポタンパク質)です。
- HDLコレステロール(善玉コレステロール): 全身の組織や血管壁に蓄積した余分なコレステロールを回収し、肝臓へ戻す働きを担います。血管を清掃する役割から「善玉」と呼ばれます1。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール): 肝臓で作られたコレステロールを、全身の細胞へ供給する役割を担います。いわば「配達人」ですが、このLDLコレステロールが血中で過剰になると、その性質が「悪」へと転じます1。
LDLコレステロールが「悪玉」と呼ばれる科学的根拠は、そのアテローム性動脈硬化(Atherosclerosis)惹起性にあります。
1.3. 動脈硬化のメカニズム:血管内で起こる「静かなる異変」
血中にLDLコレステロールが過剰に存在すると、酸化などの変性を受けやすくなり、血管の内壁(血管内皮)に侵入し、蓄積していきます。この蓄積したコレステロールを処理しようと免疫細胞であるマクロファージが集まりますが、過剰なコレステロールを取り込んだ結果、泡沫細胞となって死滅し、血管壁内に「プラーク」と呼ばれる粥状の隆起を形成します。このプラークが血管を狭め、血流を阻害する状態が動脈硬化です2。さらに、このプラークが破綻すると血栓が形成され、血管を完全に閉塞させることで、心筋梗塞や脳梗塞といった致死的な疾患を引き起こすのです。
【図解イメージ:動脈硬化の進行】
- 正常な血管:内壁は滑らかで、血液がスムーズに流れている。
- プラーク形成:血中の過剰なLDLコレステロールが血管壁に侵入・蓄積し、コブ(プラーク)を形成し始める。血管が少し狭くなる。
- プラークの成長:プラークがさらに成長し、血管内腔が著しく狭窄する。血流が大きく妨げられる。
- プラークの破綻と血栓形成:プラークが破れると、それを修復しようと血小板が集まり、血栓(血の塊)が形成される。血栓が血管を完全に塞ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす。
この「血中LDL-C濃度の上昇がアテローム性動脈硬化性疾患(ASCVD)の直接的な原因であり、LDL-Cを低下させることでASCVDのリスクを低減できる」という一連の因果関係は、かつて「LDL仮説」として知られていましたが、現在では数十年にわたる膨大な研究により科学的に確立された「LDL原因説」となっています4。したがって、「悪玉」という呼称は、その本質が「アテローム性動脈硬化を惹起するリポタンパク質」という医学的理解に基づいています。
2. あなたのリスクは? 日本の公式基準で現状を正しく知る
日本国内における脂質異常症の診療は、日本動脈硬化学会(Japan Atherosclerosis Society, JAS)が策定する「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」を基盤として行われます。最新の2022年版ガイドラインに基づき、ご自身の状態を正しく評価する方法を解説します7。
2.1. 脂質異常症の診断基準(日本動脈硬化学会 2022年版)
JASガイドライン2022年版では、脂質異常症の診断基準を以下のように定めています6。
種類 | 基準値 (mg/dL) |
---|---|
高LDLコレステロール血症 | LDL-C ≥ 140 |
境界域高LDLコレステロール血症 | LDL-C 120~139 |
高non-HDLコレステロール血症 | non-HDL-C ≥ 170 |
高トリグリセライド血症 | TG ≥ 150 (空腹時) |
低HDLコレステロール血症 | HDL-C < 40 |
ここで重要なのは、$140 \text{mg/dL}$以上が明確な「高値」とされる一方、$120~139 \text{mg/dL}$は「境界域」として位置づけられている点です6。この境界域は、直ちに薬物治療の対象とはなりませんが、他の危険因子(高血圧、糖尿病、喫煙など)の有無を考慮し、個々のリスクを評価する上で重要な警告サインとなります。
2.2. 重要:治療方針は「数値」ではなく「あなたの将来リスク」で決まる
現代の脂質管理における最も重要な考え方は、LDL-Cの絶対値そのものではなく、「その人が将来、心筋梗塞や脳梗塞をどれくらいの確率で発症するか」という絶対リスクに基づいて治療方針を決定する点にあります3。JASガイドラインでは、日本人を対象とした大規模研究から得られたデータに基づく「吹田スコア」を用いて冠動脈疾患の10年以内の発症リスクを予測し、患者をリスク別に分類します7。
【図解イメージ:リスク区分と管理目標値の決定フロー】
あなたのリスク区分とLDLコレステロール管理目標値は、年齢、性別、喫煙の有無、高血圧、糖尿病、家族歴などの危険因子を組み合わせて総合的に判断されます。以下はその考え方の流れです。
- 二次予防か確認:まず、心筋梗梗や狭心症の既往があるかを確認します。既往がある場合は自動的に「二次予防」となり、最も厳格な管理(LDL-C < 100mg/dL)が目標となります。
- 一次予防のリスク評価:既往がない場合(一次予防)、年齢、喫煙、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患、早発性冠動脈疾患の家族歴などの危険因子の数や組み合わせによって、「低リスク」「中リスク」「高リスク」に分類されます。
- 管理目標値の設定:
- 低リスク:LDL-C < 160mg/dL
- 中リスク:LDL-C < 140mg/dL
- 高リスク:LDL-C < 120mg/dL
例えば、同じLDL-C 150mg/dLの人でも、他に危険因子がない「低リスク」の人であれば経過観察となる可能性がありますが、糖尿病や高血圧を合併する「高リスク」の人であれば、生活習慣改善に加えて薬物療法が検討されます。
このアプローチの背景には、薬物療法の利益と不利益を慎重に天秤にかける思想があります。特に、絶対リスクが低い人においては、まずは安全かつ効果的な生活習慣の改善を優先し、過剰な医療介入を避けるという合理性が含まれています。この点を理解することが、ご自身の治療方針に納得感を持つ上で重要です。
2.3. 【特に注意】遺伝が原因の「家族性高コレステロール血症(FH)」
高LDLコレステロール血症の中でも、特に警戒すべき病態が家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia, FH)です。FHは、単なる生活習慣の乱れが原因ではなく、生まれつきLDL受容体などの遺伝子に変異があるために、血液中のLDLコレステロールをうまく処理できない遺伝性疾患です22。FH患者は、幼少期から高LDL-C血症に曝されるため、動脈硬化が極めて早期に進行し、未治療の場合は若くして心筋梗塞などを発症するリスクが非常に高くなります。
日本動脈硬化学会は、成人(15歳以上)のFHヘテロ接合体(遺伝子変異を片方の親から受け継いだタイプ)の診断基準を定めており、以下の3項目のうち2項目以上を満たす場合にFHと診断されます22。
項目 | 詳細 |
---|---|
1. 高LDL-C血症 | 未治療時のLDL-C値が 180mg/dL以上 |
2. 身体所見 | 腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫やアキレス腱肥厚※)または皮膚結節性黄色腫 |
3. 家族歴 | 2親等以内の血族にFHまたは早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満)の家族歴がある |
※アキレス腱肥厚は、X線撮影で9mm以上であることが診断の一助となります22。診断基準を2項目満たさなくても、未治療時のLDL-Cが250mg/dL以上など、極端に高い場合はFHが強く疑われます24。FHと診断された場合、一次予防であってもLDL-Cを100mg/dL未満に管理するなど、極めて厳格な治療が必要であり、早期からの薬物療法が必須となります22。また、FHは遺伝するため、一人の患者が診断された場合、その家族(親、兄弟、子)の検査(カスケードスクリーニング)が強く推奨されます22。
【専門家コラム①】なぜ日本の基準は海外より少し緩やかなの?
欧米のガイドライン、特に欧州心臓病学会(ESC/EAS)のガイドラインでは、二次予防患者などの超高リスク群に対し、LDL-Cを55mg/dL未満にまで下げることを強く推奨しています12。これは日本の目標値(100mg/dL未満、一部で70mg/dL未満を考慮)7に比べて著しく低い目標です。この違いは、欧米人と日本人との間で心血管疾患のベースラインリスクが異なることや、治療介入による利益と不利益のバランスをどう評価するかという思想の違いに基づいています。日本の基準は、日本人独自の大規模研究データに基づき、過剰な治療を避けつつ効果的な予防を目指す、という考え方を反映しているのです313。
リスク区分 | 日本動脈硬化学会 (JAS 2022)7 | 米国心臓協会/学会 (AHA/ACC 2018)15 | 欧州心臓病学会 (ESC/EAS 2019)12 |
---|---|---|---|
一次予防 / 高リスク | <120mg/dL | LDL-Cを30-49%以上低下 | ≥50%低下 かつ <70mg/dL |
二次予防 / 超高リスク | <100mg/dL (一部で<70mg/dLを考慮) | LDL-Cを≥50%低下。70mg/dL以上なら非スタチン薬追加 | ≥50%低下 かつ <55mg/dL |
3. LDLコレステロールを下げる!科学的に正しい生活習慣改善(食事・運動)
LDLコレステロール管理の基本であり、最も重要なのは生活習慣の改善です。薬物療法が必要な場合でも、生活習慣の改善を並行して行うことが治療効果を最大化します。
3.1. 食事療法:何を減らし、何を増やすべきか?
日本動脈硬化学会は、伝統的な日本食のパターンを基本とした「The Japan Diet」を推奨しています9。その基本原則は、コレステロールを増やす食品を減らし、減らす働きのある食品を積極的に摂ることです。
【図解イメージ:LDLを下げる食事のポイント】
▼ 減らすべきもの
飽和脂肪酸
- 肉の脂身(バラ肉、ひき肉)
- 加工肉(ベーコン、ソーセージ)
- バター、ラード、生クリーム
- 洋菓子(ケーキ、クッキー)
トランス脂肪酸
- マーガリン、ショートニング
- ファストフード、スナック菓子
▲ 増やすべきもの
不飽和脂肪酸
- 青魚(サバ、イワシ、サンマ)
- 植物油(オリーブオイル、なたね油)
- ナッツ類
水溶性食物繊維
- 野菜、海藻、きのこ類
- 大麦、玄米、全粒粉パン
- 大豆製品(豆腐、納豆)
- 【減らすべきもの】飽和脂肪酸とトランス脂肪酸: 飽和脂肪酸は、肉の脂身、バター、生クリームなどに多く含まれ、体内でLDLコレステロールの合成を促進します9。マーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸は、LDLコレステロールを増やすだけでなく、善玉のHDLコレステロールを減らすため、特に避けるべき脂肪酸です。
- 【増やすべきもの】食物繊維と不飽和脂肪酸: 野菜や海藻、大麦などに豊富な水溶性食物繊維は、コレステロールの吸収を抑え、体外への排出を促します。青魚に多いn-3系多価不飽和脂肪酸や、豆腐・納豆などの大豆製品もLDLコレステロールを下げる効果が報告されています9。
【Q&A】卵やコレステロールの多い食品は食べてはダメ?
かつては食事からのコレステロール摂取を厳しく制限する考え方が主流でしたが、現在では、食事由来のコレステロールが血中コレステロール値に与える影響は個人差が大きく、飽和脂肪酸の摂取量を管理する方がより重要だと考えられています。ただし、日本動脈硬化学会は、すでに心筋梗塞などを起こした高リスクの患者さんに対しては、食事からのコレステロール摂取量を1日200mg未満に抑えることを推奨しています7。
3.2. 運動療法:効果的な種類・強度・頻度
運動は、中性脂肪を下げ、善玉のHDLコレステロールを増やす効果が特に期待できます9。LDLコレステロールへの直接的な低下効果は食事療法ほど大きくありませんが、体重減少や血糖値改善などを通じて総合的に動脈硬化のリスクを低減します。
- 推奨される運動:ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動が効果的です。
- 効果的な強度・時間・頻度:「ややきつい」と感じる中等度の強度で、1日合計30分以上、これを週に3日以上(できれば毎日)続けることが目標とされています7。
- 継続のコツ:短時間でも良いので、こまめに体を動かす習慣をつけることが大切です。エレベーターを階段にする、一駅手前で降りて歩くなど、「座りっぱなし」の時間を減らすだけでも効果があります。
4. 薬物療法と最新の治療選択肢
生活習慣の改善を十分に行ってもLDLコレステロールの管理目標を達成できない場合や、もともとのリスクが非常に高い場合には、薬物療法が検討されます。
4.1. いつから薬が必要になるのか?
原則として、まずは3〜6ヶ月間、食事療法と運動療法に真剣に取り組み、その効果を見てから薬物療法の必要性を判断します10。ただし、LDLコレステロールが180mg/dL以上と著しく高い場合、家族性高コレステロール血症(FH)が疑われる場合、あるいはすでに心筋梗塞や狭心症の既往がある二次予防の患者さんでは、生活習慣の改善と同時に早期から薬物療法を開始することが推奨されます3。
4.2. 主要な治療薬「スタチン」の効果と安全性
LDLコレステロールを下げるための第一選択薬は「スタチン」です。スタチンは肝臓でのコレステロール合成を強力に阻害することで、血液中のLDLコレステロールを劇的に低下させます。その有効性は、数多くの信頼性の高い臨床試験で証明されています。特に、CTT(Cholesterol Treatment Trialists’)共同研究による大規模なメタアナリシスでは、スタチンによりLDL-Cを約39mg/dL低下させると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが人種や性別、年齢に関わらず一貫して約22%減少するという、極めて明確な結果が示されています21。
副作用として筋肉痛や肝機能障害が知られていますが、その頻度は高くなく、多くは軽度です。医師は定期的な血液検査で安全性を確認しながら治療を行います。副作用を過度に恐れる必要はなく、気になる症状があれば自己判断で中断せず、必ず主治医に相談することが重要です。
【Q&A】薬は一度始めたら、一生やめられないの?
スタチンなどの薬物療法は、高血圧の薬と同様に、中断するとコレステロール値は元に戻ってしまいます。したがって、多くの場合、長期的な服用が必要となります。しかし、大幅な体重減少や生活習慣の改善によってコレステロール値が安定し、管理目標を大きく下回るような場合には、医師の判断で薬の量を減らしたり、中止を検討したりすることもあります。最も危険なのは、自己判断で薬をやめてしまうことです。これにより、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが再び高まってしまいます。
4.3. スタチン以外の治療薬と世界の潮流
スタチンで効果が不十分な場合や、副作用でスタチンが使えない場合には、他の薬剤が併用されます。
- コレステロール吸収阻害薬(エゼチミブ):小腸でのコレステロール吸収を抑える薬で、スタチンと併用することでさらなるLDL-C低下効果が得られます4。
- PCSK9阻害薬:2週間に1回または4週間に1回の注射薬で、LDL受容体を増やすことで血液中からLDLコレステロールを強力に取り除きます。FH患者や、スタチンで目標を達成できない超高リスク患者に用いられます15。
近年の大規模臨床試験では、LDLコレステロールを30-50mg/dLといった非常に低いレベルまで下げても、安全性を損なうことなく心血管イベントをさらに抑制できることが示されています421。この「低ければ低いほど良い(Lower is Better)」という考え方は世界の潮流となっており、欧州のガイドラインでは二次予防の目標値を55mg/dL未満に設定するなど、より積極的な治療へと向かっています12。
よくある質問
Q1: LDLコレステロールが高いと言われましたが、自覚症状は全くありません。本当に治療が必要ですか?
A1: はい、治療の検討が必要です。LDLコレステロールが高いことによる動脈硬化は、自覚症状がないまま静かに進行します。症状(胸の痛みや麻痺など)が現れたときには、すでに心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な状態に陥っていることが少なくありません。症状がないうちからリスクを管理することが、将来の健康を守る上で最も重要です。
Q2: 薬に頼らず、サプリメントでLDLコレステロールを下げることはできますか?
A2: 特定のサプリメント(例:紅麹、EPA/DHAなど)がコレステロール値を下げる可能性を示唆する研究もありますが、その効果は医薬品に比べて限定的であり、品質や安全性も製品によって異なります。特に、スタチンなどの医薬品と同等の心血管疾患予防効果が証明されているサプリメントは現在のところ存在しません。サプリメントを利用したい場合は、必ずかかりつけ医に相談し、生活習慣の改善や必要に応じた薬物療法を基本とすることが重要です。
Q3: 閉経後にLDLコレステロールが上がってきました。なぜですか?
A3: 女性ホルモンの一つであるエストロゲンには、肝臓でのLDLコレステロールの分解を促進し、血中濃度を下げる働きがあります。閉経に伴いエストロゲンの分泌が減少すると、この保護作用が失われるため、LDLコレステロール値が上昇しやすくなります。これは多くの女性が経験する自然な変化ですが、動脈硬化のリスクが高まる時期でもあるため、より一層の生活習慣管理が重要になります。
結論
LDLコレステロールが高いという診断は、これまでの生活習慣を見直し、将来の健康へ投資する絶好の機会です。自覚症状がないからと軽視せず、まずはご自身のLDLコレステロール値と、年齢や他の健康状態を合わせたリスクレベルを正確に把握することから始めましょう。そして、食事や運動といった生活習慣の小さな改善を、今日から一つでも実践してみてください。継続することが何よりも大切です。不安な点や分からないことがあれば、一人で抱え込まず、かかりつけの医師や専門医に相談してください。定期的な健康診断でご自身の体を継続的にモニタリングし、専門家と協力しながら健康な未来を築いていきましょう。
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