はじめに
こんにちは、JHO編集部です。このたびご妊娠された方々、本当におめでとうございます。妊娠期間は、生活習慣や食事、休息、そして心のケアなど、多方面にわたって配慮すべきことが増えるため、多くの方が戸惑いや不安を感じるものです。特に、お腹の中で日々成長している赤ちゃんの健康状態については、妊婦の方やそのご家族にとって非常に大きな関心事となるでしょう。そういった中で近年よく耳にするようになったのが、NIPT(非侵襲的出生前検査)という検査です。これは、胎児の染色体異常が疑われるリスクを早期に、しかも母体への負担を極力少なく把握できる可能性を示す手段として注目を集めています。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
しかし、「NIPT検査は具体的にどういう仕組みなのか?」「どの程度の精度があるのか?」「どのタイミングで受ければ最適か?」といった疑問を抱えている方も多いことでしょう。本記事では、こうした疑問や不安に対して、できるだけ丁寧に答えられるよう努めました。内容は産婦人科医や遺伝カウンセラーといった専門家の見解、および権威ある医学データベースや専門機関による情報に基づいており、妊娠初期の不安緩和に役立てていただけるよう構成しています。
本文はやや長文ではありますが、妊娠期間をより安心して過ごすための大切な情報を網羅しています。ぜひ最後まで目を通していただき、ご自身やご家族の判断材料にしていただければ幸いです。
専門家への相談
本記事は、産婦人科医や臨床遺伝カウンセラーなど、医療資格を有し豊富な臨床経験を積んだ医療従事者から得られた見解を中心にまとめています。また、信頼性の高い医療情報を提供している「Hello Bacsi」や、長年にわたって医学研究成果を蓄積・公開しているNCBI、さらには患者や家族向けに精度の高い医療情報を配信しているMedlinePlusといった国際的に権威ある医療データベースからの知見も取り入れています。日常の診療現場において専門家が参考にする情報を基にしているため、記事の正確性と信頼性には十分配慮しています。
これらの情報源は、日本国内でも産婦人科や遺伝カウンセリングの現場で重要視されており、海外から得られる最新データとの併用によって国際水準の医療知見が提供されています。さらに、この記事の末尾に「参考文献」を設置し、多くの研究成果や専門医療機関から公表されているデータへのアクセスを容易にしています。妊娠期特有の不安を軽減し、納得しながら検査や治療方針を選べるよう、透明性の高い情報提供を心がけています。
重要な注意点
本記事の内容はあくまでも一般的な情報提供を目的としており、医療的な助言や診断の確定を行うものではありません。最終的な判断や具体的な治療方針の決定については、必ず医師や専門家に相談してください。
NIPT検査とは何か?
NIPT(非侵襲的出生前検査)とは、妊娠中の母体から採取した血液を用いて、胎児に染色体異常があるかどうかを早期に評価できるスクリーニング検査です。名前にある「非侵襲的」という言葉が示すとおり、母体の血液採取だけで検査が完結し、胎児に直接アプローチする検査法(羊水穿刺や絨毛膜採取など)に比べるとリスクは比較的低く、安全性が高いとされています。
妊娠期は体の変化が著しく、ホルモンバランスや免疫機能などが日々変化するため、不安要素が多くなりがちです。特に、高齢出産が増えている近年では、染色体異常の発生リスクが年齢とともに上昇することもあり、早期にリスクを把握できる手段としてNIPT検査への関心が高まっています。検査を受けるかどうかは個人の選択に委ねられますが、「より早く赤ちゃんの状態を知りたい」「もし異常が見つかった場合、妊娠中のケアや出産後のサポートの準備を万全にしたい」という希望を持つ妊婦さんやご家族にとって、大きな安心材料となることは間違いありません。
注目される主な染色体異常
NIPT検査で特に注目される染色体異常としては、以下の3つがよく知られています。
- ダウン症候群(トリソミー21)
- エドワーズ症候群(トリソミー18)
- パトウ症候群(トリソミー13)
これらは比較的発生頻度が高く、また出生後の発達や健康状態に大きく関わるため、早期にリスクを認識する意義が大きいと考えられています。さらに、NIPT検査では性染色体異常(ターナー症候群、クラインフェルター症候群など)が検出される場合もあり、多面的なリスク評価が可能です。
NIPT検査でわかることは? 精度は?
NIPT検査は、胎児に存在する特定の染色体異常の「可能性」を非常に高い精度で示すことができると報告されています。ただし、完璧な精度を誇るわけではなく、あくまでも「スクリーニング(リスク評価)」としての位置づけです。染色体異常のリスクが高いと判定された場合は、確定診断として羊水検査や絨毛膜検査を行うことで、最終的に異常の有無を判断する流れが一般的です。
1. どんな情報が得られるのか?
NIPT検査を通じて入手できる情報は主に以下の通りです。
- トリソミー21(ダウン症候群)、トリソミー18(エドワーズ症候群)、トリソミー13(パトウ症候群)のリスク評価
出生後の生活に大きく影響するこれら3種類の染色体異常については、世界的にも研究が進んでおり、NIPT検査の重要な検出対象となっています。早期にリスクを認識することで、妊娠中の医療・生活上のサポート体制を整えやすくなります。 - 性染色体異常に関するリスク評価
X染色体やY染色体に由来する異常があった場合、その可能性を評価できます。具体例としては、X染色体が欠けているターナー症候群(45,X)や、男性でX染色体が1本多いクラインフェルター症候群(47,XXY)などがあります。性染色体異常は内分泌機能や生殖機能に影響を与える場合があり、妊娠後半以降の医療方針や出産準備にもつながります。 - その他の染色体異常・遺伝性疾患の一部
代表的なトリソミー以外にも、稀な欠失症候群などの可能性が示唆される場合があります。通常は比較的稀な異常であっても、遺伝カウンセリングや追加検査を組み合わせることで、出産後の特別なケアを準備できる利点があります。
2. 精度について
NIPT検査は、従来の母体血清マーカーや超音波によるスクリーニングと比べて、ダウン症候群(トリソミー21)の感度・特異度が極めて高いとされています。実際、2016年に公表されたメタアナリシス(後述の参考文献に記載)では、ダウン症候群に対する感度と特異度がともに90%以上、あるいはそれに近い値が示されるとの報告がありました。近年も同様の研究報告が増えており、ダウン症候群のスクリーニング検査としては非常に優秀と見なされています。
一方、エドワーズ症候群(トリソミー18)やパトウ症候群(トリソミー13)は、ダウン症候群に比べるとやや感度・特異度が下がる傾向にあるものの、従来のスクリーニングよりも精度が高いと見なされます。また、性染色体異常においては、妊婦の状態や血液中の胎児DNA量によって結果のばらつきが見られる場合もあるため、検査結果の解釈には注意が必要です。あくまで「確定診断」ではなく「リスク評価」であることを理解したうえで、次のステップとして必要に応じた確定診断(羊水検査など)を検討することが推奨されます。
なお、2022年にAmerican Journal of Obstetrics & Gynecologyにおいて、NIPTが従来の母体血清マーカーに比べて優れた検出力を示すとした総説が公表されました(Norton ME, 2022, doi:10.1016/j.ajog.2021.12.006)。この研究では、NIPTの優位性が再度確認されており、特に高齢出産の増加や早期診断ニーズの高まりを背景に、NIPTを「新たな標準的スクリーニング検査」とみなす傾向が広がっていると指摘されています。ただし、これも最終的な診断ではなくリスク評価という位置づけである点は変わりません。
3. NIPT検査で得られる結果に影響を与える要素
NIPT検査は非常に精度の高い手法ですが、結果に影響を与える要素も複数存在します。以下のような点に留意することで、より適切に検査結果を理解し、次のステップを判断できます。
- 母親の年齢
一般的に母親が高齢になるほど、染色体異常のリスクは高まるとされています。高齢出産は世界的にも増加傾向にあるため、NIPT検査の利点は一層注目されていますが、一方で高齢になるほど「陽性(リスク高)」と判定される可能性も高くなり、より慎重な確定診断へのステップを踏む必要があります。 - 採取血液サンプルの質
血液採取時の条件(サンプル量や保存状態など)が悪い場合、あるいは妊婦さん個人の体質によっては、十分な胎児DNA断片が検出されず再検査が必要になることもあります。検査機関によっては、このような場合の再検査費用が追加になることもあるため、あらかじめ確認しておきましょう。 - 検査のタイミング
妊娠9~10週頃から検査自体は可能ですが、早すぎる時期の場合は胎児DNA量が十分でないことがあり、偽陰性・偽陽性のリスクが高くなる場合があります。通常は妊娠12~14週前後に検査を受けると、エコー検査などとの組み合わせによりより精度の高い総合評価が可能とされています。
どのタイミングで検査を受けるべきか? その際の注意点
NIPT検査の大きな特徴の一つに、比較的早い段階(妊娠9~10週頃)から受けることができるという点があります。しかし、早期に検査ができるとはいえ、タイミングの選択や事前準備の有無で結果の解釈のしやすさが変わるため、以下の点を理解しておくことが重要です。
1. 最適な時期
多くの専門家は妊娠9週から10週頃からNIPT検査を行えるとしていますが、繰り返し述べているように妊娠12~14週頃に受けることを推奨する意見も少なくありません。その理由としては、以下のようなメリットが挙げられます。
- エコー検査との併用が可能
妊娠12~14週になると、胎児の形態を超音波(エコー)である程度詳細に確認できます。頭蓋骨や脳、四肢、心臓など、形態的な異常が明確にわかりはじめる時期でもあるため、NIPT検査の結果とエコー所見を合わせることで総合的な判断がしやすくなります。 - 胎児DNA量が十分に増加
妊娠初期に比べると、妊娠12週以降は母体血中に含まれる胎児DNA断片の量が増えており、偽陰性や偽陽性のリスクを下げられる可能性があります。
また、より遅い時期に受ける場合は、追加検査までの猶予が短くなる可能性があるという意見もあります。つまり、妊娠初期のうちにリスクを把握できれば、出産までに必要な準備や意思決定を早めに進めやすくなるというメリットもあるのです。したがって、受検時期の決定は医師やカウンセラーと相談し、自分の心身の状況や妊娠経過を踏まえて慎重に行うとよいでしょう。
2. 検査を受ける前の注意点
NIPT検査をよりスムーズかつ正確に受けるために、以下の注意点を押さえておきましょう。
- 検査タイミングの調整
妊娠9~10週で検査を始めることはできますが、先述のとおり12週以降を推奨する専門家が多いです。エコー検査やその他の妊娠初期スクリーニングとの併用も考慮しつつ、主治医と相談して最適なタイミングを見つけてください。 - 薬剤やサプリメント、健康状態の情報提供
服用中の薬剤やサプリメント、過去の輸血歴、持病の有無などは、NIPT検査の結果に影響を及ぼす可能性があります。医療者側が正確な判断を下すために必要な情報となりますので、些細に思えることでも必ず伝えましょう。 - 信頼できる検査機関を選ぶ
NIPT検査は専門性が高く、施設ごとに検査機器や解析システム、スタッフの経験値などに差があります。医療機関の実績や評判、遺伝カウンセリング体制などを確認し、総合的に評価して検査機関を選択すると安心です。 - 検査費用の事前確認
一般的には数万円から十数万円かかるとされますが、各医療機関の料金設定や保険適用の有無、さらに自治体の助成制度などによって費用は変動します。経済的負担を軽減できる公的サポートがあるかどうかも調べてみましょう。 - メンタルサポートの確保
NIPT検査の結果は妊婦さんや家族にとって大きな心理的インパクトを伴います。検査を受ける前から、家族や近しい人、または必要に応じてカウンセラーや専門医と話し合い、不安や心配ごとを相談しておくことは大切です。陽性判定時には追加検査や将来の育児体制など、多くのことを考えなければならない場合がありますので、あらかじめ相談相手を確保しておくことが心の支えになります。
NIPTに関するよくある質問
NIPT検査はまだ比較的新しい検査法であるため、受検を考えている妊婦さんやご家族からはさまざまな質問が寄せられます。ここでは、代表的な疑問点を取り上げ、それぞれに対して分かりやすく解説します。
1. NIPT検査はどのように行われるのですか?
回答:
NIPT検査は、妊婦さんの血液を採取することで進められます。採血部位は基本的に腕で、通常の血液検査とほとんど変わりません。採取した血液には、母体由来のDNAだけでなく、胎児由来のDNA断片が微量に含まれており、それを特殊な解析技術を用いて検出・解析します。
説明とアドバイス:
採血自体は数分から10分程度で終了し、特別な準備は基本的に必要ありません。しかし、血液検査が苦手な方や採血に不安を感じる方は、あらかじめ医療スタッフに伝えておくとよいでしょう。横になったまま採血を行う、リラックスできる環境を整えてもらうなどの配慮が受けられる場合もあります。
2. NIPT検査はどの程度の費用がかかるのですか?
回答:
医療機関や検査機関によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円程度とされています。検査費用には遺伝カウンセリングや結果の説明費用が含まれることもあり、実施施設によって金額や内訳が異なるので、事前の確認が必須です。
説明とアドバイス:
自治体によっては助成金制度が存在する場合もありますし、医療保険の内容によっては一部費用が補助されることもあります。加えて、妊娠生活における他の検査や出産準備の出費なども考慮し、家族やパートナーと相談して経済的負担をどう分担するか決めておくと安心です。
3. 検査結果が陽性の場合、どうすればよいですか?
回答:
NIPT検査で陽性、つまり「染色体異常のリスクが高い」と判定されたとしても、それは確定診断ではありません。追加の羊水検査や絨毛膜検査を受けることで、異常の有無をより直接的に確認できます。
説明とアドバイス:
羊水検査や絨毛膜検査は侵襲的な手技であり、流産リスクがわずかながら高まる可能性があります。しかしながら、赤ちゃんの染色体を直接調べられるため、NIPTよりもはるかに確度の高い情報が得られるメリットがあります。もし陽性判定が出た場合は、医師や遺伝カウンセラーとよく相談し、検査を受けるかどうか、出産後のサポート体制をどのように整えるか、といった点を検討しましょう。
また、精神的な面でのサポートは非常に重要です。結果を受け止めるための時間や周囲の理解、そして必要に応じたカウンセリングを受けることで、不安や混乱を少しでも和らげることができます。近年はインターネットを通じて経験者同士が情報交換を行うコミュニティも存在しますが、公的機関や専門家が監修する場ではない場合、情報の正確性にばらつきがあることに注意してください。
妊娠中の生活におけるNIPTの位置づけと活用
NIPT検査は、妊娠中におけるさまざまな検査や健康管理の一部として位置づけられています。妊娠初期から母体血液検査、超音波検査など、多角的なスクリーニングを行うことで、胎児の健康リスクを早期に把握し、必要に応じた追加検査へとつなげる流れが一般化しつつあります。
NIPT検査と他の検査との組み合わせ
妊娠初期には、以下のような検査がしばしば実施されます。
- 超音波検査(エコー検査)
胎児の成長具合や心拍、形態的な異常がないかを確認。NT(後頸部浮腫)の厚みを測定することでダウン症候群のリスク指標の一つとなる。 - 母体血清マーカー検査
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)やPAPP-A(妊娠関連血漿タンパクA)の値から、染色体異常のリスクを推定する方法。 - 感染症検査
風疹やB型肝炎、梅毒など、母子感染の危険性がある感染症の有無を確認。
これらとNIPTを組み合わせることで、スクリーニング精度を高め、必要に応じて invasive な確定診断を検討する、という流れが主流になりつつあります。特にエコー検査で指摘があった場合や、母体血清マーカー検査でも陽性リスクが示唆された場合には、NIPT検査を行うかどうかの重要な判断材料になります。
情報の活用と意思決定
NIPT検査で得た情報は、あくまで「リスク評価」ですが、結果が陰性(リスク低)であっても必ずしも100%安全が保証されるわけではありません。一方で陽性(リスク高)であっても、それが確定的な結果ではないのです。こうした二面性を理解したうえで、次のステップとして「確定診断を受けるのか」「妊娠を継続するかどうか」「出産後のケアはどうするか」などの意思決定を行う必要があります。
このプロセスでは、妊婦さんやパートナーのみならず、場合によっては家族全体、そして医師や遺伝カウンセラー、心理カウンセラーなど複数の専門家との連携が非常に重要です。検査結果は一つの情報にすぎませんが、それを自分たちの将来像にどう結びつけるかは、当事者にとって大きな課題となるでしょう。
最新の研究動向
NIPT検査の技術自体はここ数年で急速に普及してきましたが、まだ新しい分野であるため、世界中でさらなる研究が進行中です。以下に近年(2020年以降)に発表され、専門家の間で比較的注目されているトピックをいくつか示します。
- 陽性一致率や偽陽性率の検証研究
大規模データを用いて、NIPTの感度・特異度を再検証しようとする動きがあります。検査受検者の民族的多様性や高齢出産率の上昇といった社会背景が変化しているため、以前の研究とは異なる結果が出る可能性が指摘されています。 - 単一遺伝子疾患への応用
近年は、ダウン症候群などのトリソミーだけでなく、特定の単一遺伝子疾患(たとえば脆弱X症候群など)にもNIPT技術を応用できないかという研究が進められています。ただし、現時点では実用化に向けた課題も多く、研究段階です。 - 妊娠中の心理的負担に関する調査
NIPT検査の結果が妊婦さんや家族に与える精神的影響や負担感について、質的研究やアンケート調査も増えています。結果の告知方法やカウンセリング体制の重要性が、改めて強調される傾向にあるようです。
これらの動向は日本国内でも注目されており、産婦人科領域の学会や研究機関を通じて報告が増えています。国際的にも引き続き研究が続けられているため、最新の情報を得るには定期的に専門医や遺伝カウンセラーからアドバイスをもらうのがよいでしょう。
結論と提言
結論
本記事では、NIPT検査の概要やメリット・デメリット、検査時期の選択や注意点、そして検査後の対応などについて詳しく解説しました。NIPTは妊娠初期における染色体異常のリスクを非侵襲的かつ高精度に評価できる方法として、多くの妊婦さんや医療機関で注目され続けています。特に、ダウン症候群に関しては従来のスクリーニングを上回る精度が認められており、高齢出産が増える今の時代、ニーズがさらに高まることが予想されます。
一方で、NIPTはあくまでスクリーニング(リスク評価)であり、確定診断ではありません。陽性判定が出た際には、追加検査として羊水検査や絨毛膜検査を行う必要があること、また検査自体の結果には偽陽性や偽陰性の可能性も含まれることを理解しておくことが大切です。つまり、「NIPTで陰性だったから安心」「陽性だったからすべてが終わり」というわけではなく、各ステップで得られた情報をもとに、最終的な医療的・個人的判断を行うプロセスが求められます。
提言
NIPT検査の導入を検討する際、以下のポイントに留意すると、より納得のいく意思決定がしやすくなるでしょう。
- 信頼性の高い医療機関で検査を受ける
実績や評判があり、遺伝カウンセラーや産婦人科医がしっかり連携している医療施設を選びましょう。検査後のフォローアップ体制(陽性判定時の追加検査や心理的サポートなど)が整っているかどうかも大切です。 - 検査の最適タイミングを理解する
妊娠9~10週頃から検査は可能ですが、妊娠12~14週頃に行うとエコー検査等との併用で総合的判断が行いやすくなるという意見が多く聞かれます。検査の目的や個人の状況を踏まえ、医師と充分に相談したうえで時期を選びましょう。 - 結果の意味を正しく把握する
陽性・陰性という二分法ではあっても、その裏には感度・特異度という検査特性があり、確定診断ではないという事実があります。結果をどう受け止め、追加検査や今後の生活プランをどう考えるかは、医療者だけでなく妊婦さんとパートナー、家族の協力と理解が必要となります。 - 心身のサポート体制を整える
検査結果によっては強い不安が生じたり、出産後の生活設計を大幅に見直す必要があったりするかもしれません。心理カウンセリングや家族・友人とのコミュニケーションなど、サポート体制を早い段階から確保しておくことが大切です。 - 最新の研究情報を定期的に確認する
NIPTは新しい検査法であり、技術的・倫理的な側面を含め研究が続いています。専門医や医療機関のサイト、学会誌などを通じてアップデートを取り入れ、常に最新情報を入手できるようにしておくと安心です。
妊娠中の健康管理とNIPT検査
妊娠期間には、NIPT検査以外にも多くの健康管理ポイントがあります。バランスの良い食生活、適度な運動、ストレスケア、十分な睡眠などは、母体と胎児の双方に良好な影響を与えます。NIPTの結果だけに一喜一憂するのではなく、全体的な健康状態の維持を意識することが重要です。また、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった合併症のリスクもあり、それらへの対策や定期健診の重要性を忘れないようにしましょう。
妊娠期は心身ともに変化が大きく、「何が正解か」見えにくくなる時期でもあります。NIPT検査が提供する情報は、あくまで胎児の染色体異常に関するリスク評価にとどまりますが、その情報があるかないかで、向き合い方は大きく変わることがあります。自分に合ったアプローチで検査を活用し、余計な不安を減らしながら妊娠期を過ごすことは、結果的に赤ちゃんと母体の両方にとって有益な選択につながるでしょう。
専門家によるサポートの受け方
NIPT検査の結果をより正しく理解し、最善の判断を下すためには、以下のような専門家からのサポートが有効です。
- 産婦人科医
妊娠経過全般を診ているため、NIPTを含む多角的な視点からアドバイスをもらいやすいです。母体の健康状態を踏まえ、他の検査や治療法との兼ね合いも総合的に判断してくれます。 - 臨床遺伝カウンセラー
遺伝子や染色体異常に関する専門知識を有したカウンセラーで、NIPT検査の原理や可能性、限界、追加検査の内容などを詳しく説明できます。もし検査結果が陽性となった場合や、特異な遺伝的要因が疑われる場合などに特に頼りになる存在です。 - 心理カウンセラー・メンタルヘルス専門家
妊娠中の不安や検査結果による精神的ダメージなど、心の問題に対処する専門家です。NIPT検査を含め、妊娠期特有の悩みをカウンセリングによって軽減するサポートをしてくれます。 - 同じ体験をした方々との交流
オンライン・オフラインを問わず、同じようにNIPT検査を受けた方との交流は、自分だけが特別な状況ではないと感じられる安心感につながります。ただし、インターネット上の情報は玉石混交なので、医療的に正確かどうかを見極めることが大切です。
安心して妊娠生活を送るために
NIPT検査によって得られる情報は貴重ですが、それだけですべてを判断するわけではありません。妊娠生活は食事や運動、睡眠、家族のサポートなど、多方面からの支えがあってこそ充実したものになります。NIPT検査は「胎児の染色体異常リスク」という限定的な領域を扱うため、それ以外の健康課題や生活習慣の改善も並行して行う必要があります。
さらに、人生設計や家族との将来のかたちについて考える際にも、NIPT検査の結果は一つの材料にすぎません。今後の流れとしては、出生前診断全般に対する社会的議論や倫理的課題もますます増えると予想されます。その意味でも、正しい知識を得て、主体的に情報を活用し、専門家と連携しながら慎重に決断する姿勢が求められます。
専門家への相談を推奨
ここまで述べてきたように、NIPT検査は妊娠初期における強力なスクリーニング手段です。しかし、結果の解釈や、検査後の追加検査、さらには将来的な育児計画や生活設計など、多岐にわたる判断が求められるため、自己判断のみで進めることは推奨されません。必ず医師や遺伝カウンセラーなどの専門家と相談を重ね、可能な限り正確な情報を得たうえで、家族やパートナーと話し合い、納得のいく選択を行ってください。
参考文献
- Accuracy of non-invasive prenatal testing using cell-free DNA for detection of Down, Edwards and Patau syndromes: a systematic review and meta-analysis (アクセス日: 2024年3月12日)
- NIPT Test (アクセス日: 2024年3月12日)
- What is noninvasive prenatal testing (NIPT) and what disorders can it screen for? (アクセス日: 2024年3月12日)
- What noninvasive prenatal testing can (and can’t) tell you about your baby (アクセス日: 2024年3月12日)
- First Trimester Screening, Nuchal Translucency and NIPT (アクセス日: 2024年3月12日)
- Norton ME. Non-invasive prenatal testing for aneuploidy: The new standard of care? American Journal of Obstetrics & Gynecology. 2022;226(6):773–782. doi:10.1016/j.ajog.2021.12.006
免責事項
本記事は、妊娠中の検査や健康管理に関する情報を提供することを目的としたものであり、医師やその他の医療専門家による診断や治療行為を代替するものではありません。個別の状況や体調、特別な配慮が必要な合併症などについては、必ず医療機関や専門家の意見をお求めください。本記事の内容を参考にする場合でも、最終的な判断はご自身と医療従事者の協議のうえで慎重に行っていただくようお願いいたします。