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睡眠

最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)

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✦ 結論から言うと

睡眠は「量」と「質」の両方が回復に必要で、成人の目安は7〜9時間とされ[3]、量が足りていても中途覚醒や日中の眠気が続く場合は睡眠の質の問題が疑われる[2]。特に、いびきを伴う夜間の呼吸停止、脚のむずむず感で寝つけない、日中に強い眠気で生活に支障が出ている場合は、単なる寝不足ではなく治療可能な睡眠関連疾患が隠れていることがあり、早めの受診が勧められる[8]。子どもと高齢者は必要な睡眠時間も注意点も成人と異なるため、同じ対策をそのまま当てはめるべきではない[10]。

主な原因 生活習慣の乱れ、ストレス、睡眠環境、加齢に伴う変化、睡眠関連疾患(睡眠時無呼吸症候群・むずむず脚症候群・概日リズム睡眠・覚醒障害など)[1]
主な症状 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、早朝に目覚めてしまう、眠っても疲れが取れない、日中の強い眠気
受診の目安 不眠が週3回以上・1ヶ月以上続き日常生活に支障がある場合、いびきと呼吸停止を指摘された場合、日中の眠気で運転や仕事に危険が及ぶ場合[5][8]

睡眠とは?レム睡眠・ノンレム睡眠が入れ替わる仕組み

睡眠は一様な状態ではなく、脳と体の状態が異なる複数の段階を周期的にくり返す活動である。大きく分けると、脳波が特徴的に変化し眼球が素早く動く「レム睡眠(REM睡眠)」と、脳の活動が全体的に低下する「ノンレム睡眠」の2種類があり、この2つが約90分を1周期として一晩に4〜5回くり返される[1]。ノンレム睡眠はさらに深さによって段階分けされ、もっとも深い段階は「徐波睡眠(深睡眠)」と呼ばれる。徐波睡眠は入眠後の前半に集中して出現し、成長ホルモンの分泌や体の修復、疲労回復に関わるとされる[1]。一方でレム睡眠は明け方に近づくほど長く出現しやすく、記憶の整理や定着、感情の処理に関わると考えられている[1]。夢を見るのは主にレム睡眠中とされ、頻繁に夢を覚えている場合はレム睡眠中に目が覚める回数が多いことを反映している可能性がある[1]。

この配分には意味があり、就寝直後の深い眠りを妨げると体の回復が不十分になりやすく、起床直前のレム睡眠を頻繁に妨げると寝ても疲れが取れたと感じにくくなる場合がある[1]。「何時間眠ったか」だけでなく「深い睡眠と浅い睡眠が正常な順序でとれているか」も、目覚めたときの回復感(睡眠休養感)に影響する要素として重視されている[2]。

睡眠と覚醒のリズムを24時間周期に同調させているのが体内時計(概日リズム)である。体内時計は光の刺激、特に朝の太陽光によってリセットされ、起床後一定時間を経て体温や深部体温の低下とともに眠気が高まるよう設計されている[1]。就寝・起床の時刻が毎日大きくずれると、この体内時計と実際の生活時間帯にずれが生じ、いわゆる「社会的時差ボケ」の状態になり、平日の睡眠不足を週末の寝だめで解消しようとしてもリズムのずれ自体は解消されにくい[1]。

睡眠段階は脳波・眼球運動・筋電図という3つの生理指標の組み合わせで専門的に判定される。ノンレム睡眠はさらにN1(うとうとした最も浅い段階)、N2(睡眠の大半を占める段階)、N3(徐波睡眠、最も深い段階)に分けられ、一晩の前半にはN3の比率が高く、後半になるにつれてN2とレム睡眠の比率が増えていく[1]。加齢とともにN3が減少し、中途覚醒が増える傾向があることも、高齢者の睡眠が若年層と異なる質的な理由のひとつとされている[1]。

「眠りが浅い」という自覚は、必ずしも脳波上のN3が少ないことだけを意味するわけではない。中途覚醒の回数が多い、レム睡眠中に頻繁に覚醒する、あるいは睡眠段階の移行そのものが不安定であるといった複数の要因が組み合わさって生じることがあり、自己判断だけで「眠りの深さ」を評価するのは難しい[1]。日中の眠気や倦怠感が強く、睡眠時間の長さでは説明がつかない場合は、後述する睡眠関連疾患の可能性も含めて評価することが勧められる[8]。

睡眠段階をより細かく見ると、N1は入眠直後の数分間に相当し、脳波上は覚醒時のリズムが崩れはじめる程度の浅い段階で、この時期に体が「カクッ」と動く入眠時ぴくつき(ジャーキング)を経験する人もいる[1]。N2は一晩の睡眠のなかで最も長い時間を占める段階で、脳波上に「睡眠紡錘波」と呼ばれる特徴的な波形が出現し、外部からの軽い物音では覚醒しにくくなる[1]。N3(徐波睡眠)はもっとも覚醒しにくい段階で、この時期に無理に起こされると強い眠気や見当識の乱れ(睡眠慣性)を経験しやすい[1]。健康な成人では一晩の周期を追うごとにN3の割合が減り、後半にかけてレム睡眠とN2の割合が増えるという配分の変化があるため、「同じ8時間でも前半に多く眠るか後半に多く眠るかで体感が変わる」という現象の背景にはこの構造がある[1]。

レム睡眠中は骨格筋の緊張がほぼ失われる一方で脳の活動自体は覚醒時に近い状態になるため「体は眠っているが脳は活動している」段階と説明される[1]。このレム睡眠中の筋緊張の消失が何らかの理由でうまく働かず、夢の内容に合わせて体を動かしてしまう状態はレム睡眠行動障害と呼ばれ、高齢の男性に多いことが知られている[1]。周期の後半になるほどレム睡眠が長く出現しやすいため、明け方に近い時間帯に目が覚めたときほど夢の内容を鮮明に覚えていることが多いという説明がなされている[1]。

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠のしくみ」[1]

年代別の推奨睡眠時間・診断の目安となる数値

必要な睡眠時間は年齢によって大きく異なり、年齢が下がるほど必要な時間は長く、許容される幅も広くなる。米国National Sleep Foundationの専門家パネルが医学文献を系統的にレビューしてまとめた年代別の推奨睡眠時間は、国際的に広く参照されている目安のひとつである[3]。

年代別の推奨睡眠時間(目安)
年代 推奨される睡眠時間 備考
新生児(0〜3ヶ月) 14〜17時間 まとまった睡眠と覚醒が未分化[3]
乳児(4〜11ヶ月) 12〜15時間 昼夜のリズムが徐々に形成される時期[3]
幼児(1〜2歳) 11〜14時間 昼寝を含む[3]
未就学児(3〜5歳) 10〜13時間 昼寝を含む[3]
学童期(6〜13歳) 9〜11時間 [3]
十代(14〜17歳) 8〜10時間 学業・部活動による夜更かしで不足しやすい[3]
若年成人(18〜25歳) 7〜9時間 [3]
成人(26〜64歳) 7〜9時間 日本の指針でも6時間以上の確保と睡眠休養感が重視される[2]
高齢者(65歳以上) 7〜8時間 中途覚醒が増えやすく、必要量そのものは大きく減らない[3]

出典:米国National Sleep Foundation(Hirshkowitz ほか, 2015, Sleep Health)[3]/厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」[2]

日本の厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人について画一的な時間数を強制するのではなく、日中の眠気で困っていないか、朝の目覚めに満足感(睡眠休養感)があるかを重視する考え方を示している[2]。同じ7時間でも、睡眠休養感が得られていれば問題とされないが、8時間眠っても休養感が乏しく日中の生活に支障が出ている場合は、睡眠の質や睡眠関連疾患の有無を確認する対象となる[2]。反対に、必要以上に長く床にいる「寝過ぎ」の習慣が、かえって睡眠の質を下げたり生活リズムを乱したりする一因になる場合もあり、時間数は多ければ多いほど良いというものでもない[2]。

推奨時間はあくまで集団としての目安であり、個人差が存在することにも注意が必要である。同じ7時間睡眠でも、日中まったく眠気を感じず活動できる人もいれば、強い眠気を感じる人もいる[3]。したがって「表の数字より短いから病気」と短絡的に判断するのではなく、日中の眠気・集中力・気分の状態という実際の生活への影響を合わせて確認することが重要である[2]。逆に、表の範囲内の睡眠時間を確保していても、いびきや呼吸停止を伴う場合は睡眠関連疾患が背景にある可能性を除外できない[8]。

睡眠衛生(生活習慣でできる睡眠改善の基本)

睡眠衛生とは、寝室環境や生活リズムを整えることで睡眠の質を底上げする一連の生活習慣の総称である。厚生労働省 e-ヘルスネットは、就寝・起床時刻を毎日一定に保つこと、朝に太陽光を浴びて体内時計をリセットすること、就寝前のカフェイン・アルコール・強い光(スマートフォンなど)を控えることを基本として挙げている[1]。

睡眠衛生の主なポイント
項目 推奨される行動 理由
起床時刻 休日も含めて毎日一定にする 体内時計のずれ(社会的時差ボケ)を防ぐ[1]
光 起床後に太陽光を浴びる/就寝前は強い光を控える 体内時計の同調に光が関与する[1]
カフェイン 就寝の4〜5時間前以降は控える 覚醒作用が数時間持続する[1]
アルコール 寝酒として使わない 入眠は助けても後半の睡眠を分断しやすい[1]
寝床で行うこと 睡眠以外の作業(スマホ操作・仕事)をしない 「寝床=眠る場所」という条件づけを保つ[5]
昼寝 15〜20分程度、午後の早い時間にとどめる 長い昼寝や夕方以降の昼寝は夜の入眠を妨げる[1]
運動 日中〜夕方の適度な運動を習慣化する 深部体温リズムを整え入眠を促す[1]
寝室環境 温度・湿度・音・光を睡眠に適した状態に保つ 環境刺激による中途覚醒を減らす[1]

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」[1]/日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」[5]

寝室環境:温度・湿度・寝具

寝室の温度と湿度は、体の深部体温の下がり方に影響し、入眠のしやすさに関わる。極端に暑い、または寒い環境では中途覚醒が増えやすく、季節に応じた冷暖房や寝具の調整で快適な範囲を保つことが基本とされる[1]。枕や敷き布団の硬さなど寝具の選び方も個人差が大きく、体格や好みの寝姿勢に合ったものを選ぶことが勧められている。

食事・運動のタイミング

就寝直前の満腹に近い食事は、消化活動により深部体温が下がりにくくなり、入眠を妨げる要因になりうる[1]。逆に空腹すぎる状態も睡眠を妨げることがあるため、夕食は就寝の2〜3時間前までに済ませることが一つの目安とされる。運動については、日中から夕方にかけての適度な有酸素運動が夜間の入眠を促す一方、就寝直前の激しい運動は交感神経を刺激し、かえって寝つきを悪くする可能性がある[1]。

カフェインは摂取後30分〜1時間ほどで血中濃度がピークに達し、その後も数時間にわたって覚醒作用が持続するため、コーヒーや緑茶、エナジードリンクなどの摂取時間帯には注意が必要である[1]。アルコールは寝つきを一時的に良くする作用があるため「寝酒」として使われることがあるが、体内で分解される過程で覚醒作用のある物質が生じ、睡眠の後半部分を分断し中途覚醒を増やすことが知られている[1]。習慣的な寝酒は、量が徐々に増えていきやすく、依存の問題にもつながりうるため推奨されていない[1]。

喫煙に含まれるニコチンにも覚醒作用があり、就寝前の喫煙は入眠を妨げる要因になりうる。入浴については、就寝の1〜2時間前に湯船で体を温め、その後体温が下がっていく過程で眠気が生じやすくなるという体温リズムを利用した方法が広く紹介されているが、熱すぎる湯温での入浴は交感神経を刺激し逆効果になる場合もある[1]。

睡眠トラッカー・記録の活用と限界

近年はスマートウォッチやスマートフォンのアプリで睡眠時間や睡眠段階の推定値を記録する人が増えている。こうした機器は、就寝・起床のリズムを客観的に振り返る手段として活用できる一方、多くの民生用機器は医療機器としての精度検証を経ておらず、レム睡眠・ノンレム睡眠の判定は医療機関で行う脳波検査(PSG)と比べて誤差が生じうる[1]。数値そのものに一喜一憂するのではなく、就寝・起床時刻のばらつきや、日中の眠気の自覚と記録の傾向を照らし合わせる補助的な目的で使うことが実用的とされる。数値上「深い睡眠が少ない」と出たからといって、それだけで疾患の有無を自己判断することは避けるべきである。

寝室の光・音・寝具の工夫

就寝前のスマートフォンやパソコンの画面から発せられる光は、体内時計を後退させ入眠を遅らせる方向に働く可能性が指摘されている[1]。寝室はできるだけ暗く保ち、豆電球程度の常夜灯であっても人によっては睡眠の質に影響することがある。音についても、生活音や交通騒音が中途覚醒の一因になりうるため、必要に応じて耳栓や防音対策を検討することが挙げられる。枕の高さが合わないと首や肩への負担から中途覚醒につながることがあり、あお向け・横向きなど自分の寝姿勢に合った寝具を選ぶことも睡眠衛生の一部として位置づけられる。

入浴・照明・寝室づくりの具体的な工夫

入浴のタイミングは、就寝の1〜2時間前を目安に湯船で深部体温を一時的に上げ、そこから体温が下がっていく過程で自然な眠気を得るという考え方が広く紹介されている[1]。シャワーのみで済ませる場合は深部体温の上昇が湯船より小さいため、同じ効果を期待しにくいとされる。就寝直前の熱い湯温での入浴は交感神経を刺激し、かえって寝つきを悪くする可能性があるため、ぬるめの湯温でゆっくり入ることが目安として挙げられている[1]。

照明については、夜間に強い白色・青みの強い光を浴びると体内時計が後退しやすいため、就寝の1〜2時間前からは照明を暖色系・低照度に切り替えることが勧められる[1]。寝室そのものは、遮光カーテンなどで可能な限り暗く保ち、時計の光や家電の待機ランプなど小さな光源も、光に敏感な人では睡眠の質に影響しうるため配置を見直す価値がある。音の面では、生活音・交通騒音・いびきをかくパートナーの存在などが中途覚醒の一因になりうるため、耳栓やホワイトノイズの活用、寝室を分けるといった対策が選択肢として挙げられる。

睡眠衛生の改善だけで解決しない不眠が続く場合、次に検討されるのが後述する認知行動療法や医療機関での相談である[5]。生活習慣の工夫だけを試し続けて受診が遅れることは推奨されない。より実践的な対策の一覧は
薬を使わずに不眠を改善する具体的な方法のまとめでも解説している。

不眠症:原因と対処の考え方

不眠症は「寝つきが悪い(入眠困難)」「夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)」「予定より早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)」「眠った気がしない(熟眠障害)」のいずれか、またはその組み合わせが続き、日中の眠気・倦怠感・集中力低下など生活への支障を伴う状態を指す[5]。原因は単一ではなく、ストレスや不安などの心理的要因、就寝前のスマートフォン使用や不規則な生活リズムなどの行動的要因、うつ病や不安障害などの精神疾患、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群などの身体的な睡眠関連疾患、特定の薬剤の副作用が重なって生じることが多い[5]。詳しい原因の切り分け方は眠りたいのに眠れない場合の原因整理にまとめている。

不眠を引き起こす要因は、大きく4つのグループに整理すると理解しやすい。第一は心理的要因で、仕事や人間関係のストレス、将来への不安、近親者との死別といった出来事のあとに一時的な不眠が生じる場合と、「眠れないこと自体への不安」が慢性化して独立した問題になる場合がある[5]。第二は環境的・行動的要因で、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用、不規則な就寝・起床時刻、交代勤務や時差、寝室の温度・光・騒音などが該当し、これらは前述の睡眠衛生の見直しで対処できる部分が大きい[1]。第三は身体的要因(睡眠関連疾患・身体疾患)で、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群のほか、痛みを伴う整形外科的疾患、頻尿を伴う前立腺肥大や過活動膀胱、かゆみを伴う皮膚疾患、甲状腺機能の異常などが夜間の覚醒を増やすことがある[5]。第四は薬剤・嗜好品による要因で、一部の降圧薬・ステロイド・気管支拡張薬などの副作用として不眠が生じることがあるほか、カフェイン・アルコール・ニコチンの摂取パターンも影響する[5]。実際には複数のグループが重なって不眠が形成されることが多く、「原因は1つ」と決めつけず、心理面・環境面・身体面・薬剤面を順に確認していくことが対処の第一歩になる[5]。

不眠と精神的な健康状態は双方向に関係することが知られている。不眠が続くことでストレスへの耐性が下がり気分の落ち込みが強まりやすくなる一方、うつ病や不安障害があると不眠を伴いやすい[5]。そのため、長引く不眠の背景に気分の落ち込みや強い不安がある場合は、不眠だけを切り離して対処するのではなく、精神科・心療内科での評価もあわせて検討することが勧められる。

治療の第一選択として日本睡眠学会のガイドラインが位置づけているのは薬物療法ではなく、睡眠に対する誤った思い込みや行動を修正する認知行動療法(CBT-I:Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia)である[5]。CBT-Iには主に次のような要素が含まれる。

CBT-Iの主な構成要素
手法 内容
睡眠制限法 寝床にいる時間を実際に眠れている時間に近づけ、睡眠効率を高めてから徐々に延ばす[5]
刺激制御法 眠くなってから寝床に入る、寝つけない場合は一度起きて別の部屋で過ごすなど「寝床=眠る場所」の結びつきを強める[5]
認知再構成 「絶対に8時間眠らなければならない」といった睡眠に関する誤った思い込みを見直す[5]
リラクセーション法 就寝前の緊張を緩め入眠しやすい状態を作る[5]

出典:日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」[5]

薬物療法が検討されるのは、生活習慣の改善やCBT-Iを行っても改善が乏しい場合、または症状が強く生活への影響が大きい場合であり、その場合も漫然と長期使用を続けるのではなく、減薬・休薬を見据えた計画のもとで用いることが望ましいとされている[5]。

不眠症は男女で有病率に差があることが知られており、女性は男性に比べて不眠を訴える割合が高い傾向が報告されている[5]。背景には月経周期に伴うホルモン変動、妊娠・産後の生活リズムの変化、更年期に伴うホルモン低下と、それに伴うほてり(ホットフラッシュ)などの身体症状が夜間の中途覚醒を増やす要因として関わっている場合がある[5]。女性特有の要因が疑われる場合は、不眠症状のみを対象にするのではなく、婦人科的な背景も含めて相談することが選択肢となる。

月経前の時期には、ホルモン変動に伴う体温上昇や気分の不安定さから寝つきの悪さや中途覚醒が増えることがあり、月経周期に合わせて症状が繰り返すパターンをとる場合は月経前症候群(PMS)との関連も念頭に置かれる[5]。妊娠中は、胎児の成長に伴う体形の変化や頻尿、こむら返りなどの身体的な要因に加え、ホルモン変動そのものが睡眠構造に影響し、妊娠後期になるほど中途覚醒が増えやすいことが知られている[5]。産後は授乳などで睡眠が細切れになりやすく、これ自体は多くの場合一時的なものだが、気分の落ち込みが強く続く場合は産後うつとの関連も考慮される[5]。更年期にはエストロゲンの低下に伴うほてり(ホットフラッシュ)や発汗が夜間に生じやすく、これが中途覚醒の直接的な引き金になることがあるため、不眠のみを切り離さず更年期症状全体として婦人科に相談することが選択肢の一つになる[5]。

ストレスが誘因となる不眠では、ストレスの原因そのものへの対処と並行して、就寝前のリラクセーションや、考え事が頭から離れないときに一度寝床を離れて別の作業をする刺激制御法の応用が有効とされる[5]。ストレスに起因する不眠の場合も、就寝前のリラクセーションや刺激制御法の応用は共通して有効な選択肢となる[5]。

不眠の訴えとともに「いびきを指摘される」「日中に耐えがたい眠気がある」「脚がむずむずして寝つけない」のいずれかがあれば、不眠症としての対処だけでなく、背景にある睡眠関連疾患の評価を優先することが勧められる[8][7]。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)・むずむず脚症候群・概日リズム睡眠障害の見分け方

不眠や日中の眠気を訴える人の中には、単なる寝不足ではなく特定の睡眠関連疾患が背景にある場合がある。代表的な3つの疾患は原因も対処もまったく異なるため、症状の特徴で見分けることが重要である。

睡眠関連疾患の比較
項目 睡眠時無呼吸症候群(SAS) むずむず脚症候群(RLS) 概日リズム睡眠・覚醒障害
主な特徴 睡眠中に呼吸が繰り返し止まる、大きないびき[8] 安静時、特に夕方〜夜間に脚を動かしたくなる異常感覚[7] 望ましい時刻に寝つけない・起きられないが、いったん眠れば睡眠の質自体は保たれやすい[4]
診断の目安 睡眠中の無呼吸低呼吸指数(AHI)が1時間あたり5回以上で症状を伴う場合に治療対象。AHIが30回以上で重症とされ、20回以上で日中の強い眠気などを伴う場合にCPAP治療の対象となることが多い[8] 国際むずむず脚症候群研究グループ(IRLSSG)の4つの必須項目(脚を動かしたい衝動・安静で悪化・運動で軽快・夕方〜夜間に悪化)を満たすこと[7] ICSD-3(睡眠障害国際分類第3版)による概日リズム睡眠・覚醒障害群の診断基準に該当すること[4]
典型例 肥満・扁桃肥大・顎が小さいなどによる上気道の狭窄[8] 鉄欠乏、妊娠、腎機能低下などが誘因となることがある[7] 睡眠相後退型(夜型に大きく偏る)、交代勤務型など複数のタイプがある[4]

見分けるカギ:「いびきと呼吸停止の指摘」があればSAS、「安静時・夜間に悪化する脚の異常感覚」があればRLS、「望ましい時間帯に眠れないだけで、眠れれば質は保たれる」場合は概日リズム睡眠・覚醒障害を疑う手がかりになる[8][7][4]。3つは併存することもあるため、いずれか1つに当てはまるからといって他を除外できるわけではない。

症状の現れる時間帯にも違いがある。SASは眠っている間じゅう断続的に呼吸停止が起こるため、症状のピークという概念がなく一晩を通じて生じる[8]。RLSは夕方から就寝前後にかけて症状が強まり、実際に眠りに入ってしまえば脚の異常感覚自体は感じにくくなる点がSASと異なる[7]。概日リズム睡眠・覚醒障害は、症状が「眠っている最中」ではなく「望ましい時刻に寝つく・起きる」という睡眠のタイミングそのものに現れる点で、前の2つとは性質が異なる[4]。この違いを理解しておくと、「いつ・どのように症状が出るか」を自分の言葉で医療者に伝える際の手がかりになる。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)を詳しく

SASは睡眠中に上気道が繰り返し狭窄・閉塞することで呼吸が止まり、その都度脳が浅い覚醒を起こして呼吸を再開する状態が一晩に何十回、重症では何百回も繰り返される疾患である[8]。危険因子として肥満、扁桃・アデノイドの肥大、顎が小さい・後退している骨格的特徴、加齢、飲酒が挙げられる[8]。治療されないまま放置すると、日中の強い眠気による事故リスクの上昇に加え、高血圧・心疾患・脳卒中・2型糖尿病などとの関連が指摘されている[8]。標準的な治療の一つがCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)で、鼻に装着したマスクから空気を送り込み気道の閉塞を防ぐ[8]。日本では自動車運転免許との関係でも注意喚起されており、重度の眠気を伴うSASが未治療のまま運転を続けることの危険性が指摘されている[8]。より詳しい検査・CPAP治療・費用の解説は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の全知識、いびきと病気の関連についてはいびきの原因と改善法で解説している。

CPAP以外の治療選択肢として、軽症〜中等症で顎の形態的な要因が関与する場合には、下顎を前方に固定して気道を広げるマウスピース型の口腔内装置(歯科での作成)が検討されることがある[8]。扁桃・アデノイドの肥大が主な原因である小児や一部の成人では、耳鼻咽喉科的な外科的治療が選択肢となる場合もある[8]。肥満を伴う場合は減量そのものが症状の軽減につながることがあり、生活習慣の改善は治療の土台として位置づけられる[8]。診断のプロセスとしては、まず自宅で行える簡易検査でおおよその重症度を確認し、簡易検査で判定が難しい場合や治療方針の確定に精密な情報が必要な場合に、医療機関に一泊して行う終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)に進む段階的な流れが一般的である[8]。

むずむず脚症候群(RLS)を詳しく

RLSは脚(時に腕)に生じる「動かしたくなる」異常感覚が、安静にしていると強まり、動かすと一時的に和らぐという特徴的なパターンをとる[7]。症状は夕方から夜間にかけて強まりやすいため入眠障害の原因になりやすい。原因として鉄欠乏(体内の貯蔵鉄の不足)が明確に関わる場合があり、血液検査でフェリチン値を確認したうえで鉄剤による補充が検討されることがある[7]。妊娠中や腎機能低下がある場合にも生じやすいことが知られている[7]。

RLSと似た症状として、睡眠中に本人が自覚しないまま脚がぴくぴくと周期的に動く「周期性四肢運動障害」が併存することがあり、この場合は同室者からの指摘で気づかれることが多い[7]。診断の際は、貧血の有無だけでなく、鉄が体内にどれだけ蓄えられているかを示すフェリチン値を確認することが重要とされ、貧血の指標であるヘモグロビン値が正常であってもフェリチン値が低い場合には症状に関与している可能性がある[7]。抗うつ薬や制吐薬など一部の薬剤が症状を悪化させることも知られており、他の疾患で薬剤を服用中の場合は処方医に相談することが勧められる[7]。軽症例では、就寝前の脚のストレッチやマッサージ、規則正しい生活リズムの維持といった生活面の工夫が症状緩和の一助になるとされる[7]。

概日リズム睡眠・覚醒障害を詳しく

体内時計と社会生活で求められる時間帯とのずれによって生じる一群の疾患で、望ましい時刻に眠れない・起きられないことが慢性的に続く[4]。十代・若年層に多い「睡眠相後退型」は、体内時計が大きく夜型にずれ、朝定時に起きることが極めて困難になる[4]。交代勤務に伴う「交代勤務障害」や、時差の大きい移動後に生じる「時差障害(いわゆる時差ボケ)」も同じ枠組みで扱われる[4]。対策として、朝の高照度光療法や、体内時計のタイミングに合わせたメラトニンの使用が検討されることがあるが、光やメラトニンを当てるタイミングを誤ると逆にリズムを悪化させる可能性があるため、自己判断ではなく専門家の助言のもとで行うことが望ましいとされる[4]。

睡眠相後退型は、平日は登校・出社時刻に間に合わず遅刻や欠席を繰り返す一方、休日には昼過ぎまで眠り続けられるという特徴的なパターンを示すことが多く、単なる「夜更かしの習慣」と区別がつきにくいために本人や周囲の理解が遅れやすい[4]。反対に高齢者では体内時計が前進し、早い時刻に眠くなり早朝に覚醒してしまう「睡眠相前進型」がみられることがある[4]。交代勤務障害では、夜勤明けの日中に十分な質の睡眠が確保できず、慢性的な睡眠不足と体内時計の乱れが重なることで、消化器症状や気分の変調を伴うこともある[4]。時差障害は東向きの移動(時差を進める方向)のほうが西向きより体内時計の再同調に時間がかかりやすい傾向があるとされる[4]。

3つの疾患は単独で存在するとは限らず、たとえば肥満を背景に持つ人がSASとRLSの両方を合併する、あるいは交代勤務者が概日リズム睡眠・覚醒障害と慢性不眠症を併発するといった重なりも珍しくない[8][7]。そのため、症状の自己チェックだけで1つの疾患に決めつけず、複数の可能性を念頭に医療機関で評価を受けることが望ましい。診断には、自宅で行う簡易検査や医療機関に一泊して行う終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)など、疾患に応じた検査方法が用いられる[8]。

不眠・睡眠関連疾患の経過とケア:時期別の考え方

不眠の対処は「発症してからの経過時間」によって考え方が変わる。急性の不眠(発症から概ね数日〜3ヶ月未満)は、環境の変化や急なストレスなど原因が特定しやすいことが多く、原因の解消と睡眠衛生の見直しで改善することが多い[5]。一方、3ヶ月以上続く慢性不眠症になると、最初のきっかけが解消されたあとも「眠れないこと自体への不安」が不眠を長引かせる悪循環が形成されやすく、この段階ではCBT-Iのような専門的アプローチの有用性が高いとされる[5]。

SASについては、CPAP治療を開始した場合、数日〜数週間でいびきの消失や日中の眠気の改善を自覚することが多いが、装置の定期的な使用継続と装着状態の確認が治療効果を保つ前提となる[8]。RLSは鉄欠乏が関与している場合、鉄の補充による改善に数週間〜数ヶ月を要することがある[7]。いずれの経過も「発症からの期間」を基準にしており、治療開始からの期間と混同しないよう注意が必要である。

睡眠薬について:正しい理解と依存・離脱のリスク

睡眠薬にはベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系(Z薬)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬など複数の系統があり、作用の仕組みも依存性のリスクも異なる[5]。

睡眠薬の主な系統と注意点(一般的な整理)
系統 一般的な特徴 主な注意点
ベンゾジアゼピン系 古くから使われてきた系統 長期・高用量使用で身体的依存が形成されうる[5]
非ベンゾジアゼピン系(Z薬) ベンゾジアゼピン系より作用部位が限定的とされる 依存リスクは相対的に低いとされるが皆無ではない[5]
メラトニン受容体作動薬 体内時計に作用する系統 依存形成の報告は相対的に少ないとされる[5]
オレキシン受容体拮抗薬 覚醒を維持する経路に作用する新しい系統 従来系統とは異なる副作用プロファイルを持つ[9]

出典:日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」[5]/PMDA添付文書情報[9]

日本睡眠学会のガイドラインは、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の薬剤について、長期・高用量の使用で身体的依存が形成されうること、急な中止で不眠が治療前より悪化する「反跳性不眠」が起こりうることを明確に注意点として挙げている[5]。医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開する添付文書情報でも、これらの薬剤について連用による依存性、大量服用や急な減薬・中止による離脱症状のリスクが記載されている[9]。

そのため、睡眠薬は自己判断で量を増やしたり、急に中止したりせず、処方した医療機関の指示に沿って調整することが重要である[9]。減薬・休薬を検討する際も、医師の指導のもとで段階的に減量する方法が一般的に取られる[5]。具体的には、服用量を少しずつ減らす漸減法や、服用しない日を徐々に増やしていく隔日法などが状態に応じて選択され、急に自己判断で中止した場合に起こりうる反跳性不眠や不安の増強を避けることが目的とされる[5]。減薬の途中で一時的に眠りにくさを感じても、それだけで減薬を中断せず、あらかじめ処方医と相談したペースを守ることが望ましいとされている[5]。本記事はいずれの薬剤についても効果を保証するものではなく、特定の薬剤の使用を推奨・宣伝するものでもない。薬剤の選択・用量・使用期間は個々の状態によって医師が判断する事項であり、ここでは一般的な仕組みと注意点の整理にとどめる。

睡眠薬を服用する際の一般的な注意点として、服用直後は入眠準備が整った状態で寝床に入ること、服用後に車の運転や機械の操作など注意力を要する作業を行わないこと、アルコールと同時に摂取しないことが挙げられる[9]。また、他院や他科から重複して睡眠薬が処方されると、意図せず過量摂取につながるおそれがあるため、お薬手帳などを活用してすべての処方薬を医療機関に伝えることが重要である[9]。副作用として翌朝への眠気の持ち越し(持ち越し効果)やふらつきが報告されている薬剤もあり、特に高齢者では転倒リスクの観点から慎重な用量調整が必要とされる[9]。より詳しい副作用・依存性・やめ方の解説は睡眠薬の危険性・副作用・依存性の詳細ガイドで扱っている。

受診の目安:今すぐ相談すべきか、様子を見てよいか

睡眠の問題の多くは緊急性が高くないが、一部には早期受診が強く勧められる状態がある。

🔴 すぐに医療機関(睡眠外来・呼吸器内科・精神科・心療内科など)に相談すべき場合:いびきに加えて睡眠中の呼吸停止を家族などから指摘されている/日中に運転中や会議中でも耐えられないほどの眠気がある/脚の異常感覚で夜間ほぼ眠れない状態が続いている[8][7]。

🟡 1〜2週間様子を見て改善しなければ相談すべき場合:寝つきの悪さや中途覚醒が週3回以上のペースで2週間以上続いている/日中の眠気や集中力低下で仕事や学業に支障が出ている[5]。

🟢 まず生活習慣の見直しで様子を見てよい場合:特定のイベント(旅行・環境変化・一時的なストレス)に伴う一過性の寝つきの悪さで、日中の生活に大きな支障が出ていない場合[1]。

いずれの場合も、判断に迷うときは自己判断で長引かせず、かかりつけ医または睡眠外来のある医療機関に相談することが勧められる[5]。何科を受診すべきか迷う場合、いびきや呼吸停止が中心なら呼吸器内科または耳鼻咽喉科、日中の眠気や不眠が中心なら睡眠外来・精神科・心療内科、脚の異常感覚が中心なら神経内科が一般的な窓口となる。

初診では、いつから・どのような症状が・どのくらいの頻度と時間続いているか、日中の生活にどう影響しているかを問診で詳しく確認されることが多く、可能であれば就寝・起床時刻や中途覚醒の回数を数日〜2週間ほど記録した睡眠日誌を持参すると評価の助けになる[5]。いびきや呼吸停止が疑われる場合は、自宅でセンサーを装着して行う簡易検査からスタートし、結果に応じて医療機関でのPSG検査に進む段階的な流れが一般的である[8]。むずむず脚症候群が疑われる場合は、鉄欠乏の有無を調べる血液検査(フェリチン値を含む)が行われることが多い[7]。

子どもの睡眠:成人とは異なる注意点

子どもの睡眠は成人と同じ基準で語ることができない。前述のとおり必要な睡眠時間そのものが年齢によって大きく異なるうえ、子ども特有の睡眠現象も存在する[10]。たとえば「夜驚症(睡眠時驚愕症)」は、深いノンレム睡眠から不完全に覚醒することで突然叫び声をあげたり激しく動いたりする現象で、多くは学童期までに自然に消失し、本人には翌朝の記憶がないことが多い[10]。夜驚症そのものは多くの場合治療を要さないが、頻度が高く睡眠の質や安全(ベッドからの転落など)に影響する場合は小児科や睡眠専門医への相談が検討される[10]。夜驚症の原因や対処法の詳細は子どもの夜驚症ガイドで解説している。

また、学業や部活動、スマートフォン利用の習慣化により、十代では推奨される8〜10時間の睡眠が確保できず、慢性的な睡眠不足(睡眠負債)に陥りやすいことが指摘されている[3][10]。子どもの睡眠改善では、成人向けの睡眠衛生の考え方をそのまま当てはめるのではなく、就寝・起床時刻を保護者が一緒に管理すること、就寝前のスマートフォン・ゲーム利用を控える時間を設けることが基本とされる[10]。子ども向けの対策と成人向けの対策を同一視しないことが重要である。

年齢によって睡眠の悩みの現れ方も異なる。乳児期には夜間に何度も目を覚まして泣く「夜泣き」がみられることが多く、多くは成長とともに自然に落ち着いていく生理的な現象とされる[10]。幼児期には、就寝時に保護者から離れることへの不安から寝つきが悪くなることがあり、就寝前の決まった手順(絵本を読む、同じ照明にするなど)を毎日繰り返す「入眠儀式」が安心感につながるとされる[10]。学童期以降は、前述の夜驚症に加えて、眠っている間に歩き回る「睡眠時遊行症(夢遊病)」がみられることがあり、これも深いノンレム睡眠からの不完全な覚醒によって生じ、多くは成長とともに消失する[10]。いずれも本人に自覚や記憶がないことが多いため、頻度や安全面(転落・外出などの危険行動の有無)を保護者が観察し、心配な場合は小児科に相談することが基本となる[10]。

思春期に近づくと、体内時計そのものが夜型に傾きやすくなる生理的な変化が加わり、前述の概日リズム睡眠・覚醒障害(睡眠相後退型)が生じやすい年代でもある[4][10]。学業や部活動の負担に加えてこの体内時計の変化が重なることで、平日の睡眠不足と休日の「寝だめ」を繰り返しやすく、前述の社会的時差ボケが顕著に現れやすい年代でもある[1]。朝起きられない状態が長期間続き学業や生活に支障が出ている場合は、単なる夜更かしの習慣として自己判断で片付けず、小児科や睡眠外来など専門家に相談することが望ましい[4]。

高齢者の睡眠:成人とは異なる注意点

高齢者の睡眠は、必要な総睡眠時間こそ成人と大きく変わらない(目安7〜8時間)ものの、睡眠の構造そのものが変化する[3]。深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が減少し、夜間に何度も目が覚める中途覚醒が増え、早朝に目が覚めやすくなる傾向がある[1]。これは病気ではなく加齢に伴う生理的な変化として説明されることが多いが、日中の眠気で生活に支障が出るほどの不眠や、いびき・呼吸停止を伴う場合は、若年層と同様に睡眠関連疾患の評価が必要である[8]。適切な寝姿勢の見直しも高齢者のケアの一部として挙げられており、健康を守る正しい寝姿勢の解説記事もあわせて参照できる。

高齢者特有の注意点として、複数の持病薬を服用している場合、薬剤同士の相互作用や副作用(ふらつき・転倒リスク)を考慮したうえで睡眠薬の使用を検討する必要があり、若年層向けの一般的な睡眠衛生の助言をそのまま適用できない場合がある[9]。成人向けの対策と高齢者向けの対策を混同せず、それぞれ別に考えることが重要である。

高齢者では日中の活動量が減ることで体内時計を整える光刺激が不足しやすく、これも中途覚醒や早朝覚醒を助長する一因になりうる[1]。日中に適度な散歩などで太陽光を浴びる時間を確保することは、若年層と同様に高齢者にとっても体内時計を整えるうえで意味があるとされる[1]。また、認知症など他の疾患の影響で睡眠と覚醒のリズムが乱れる場合もあり、単純な加齢変化との切り分けが難しいことがあるため、急激な悪化がみられる場合は自己判断せず主治医に相談することが望ましい。

退職などで日中の活動や外出の機会が減ると、決まった時刻に太陽光を浴びる機会そのものが失われ、体内時計の同調がさらに乱れやすくなる場合がある[1]。日中の活動性が低い状態が続くと、夜間に「疲れていないのに寝床に入る」ことになりやすく、これが中途覚醒や早朝覚醒を助長する一因になることがある[1]。前述の睡眠制限法の考え方(寝床にいる時間を実際に眠れている時間に近づける)は高齢者にも応用できるが、転倒リスクなど身体機能面への配慮を含めて医療者の助言のもとで行うことが望ましいとされる[5]。

複数の医療機関から重複して薬剤が処方されている高齢者では、睡眠薬に限らず降圧薬・利尿薬・鎮痛薬などが夜間の頻尿や日中の眠気を通じて睡眠の質に影響することがあり、お薬手帳を活用してすべての処方薬を一元的に把握することが前述の睡眠薬の相互作用対策と同様に重要である[9]。認知症を背景に夕方から夜にかけて不穏や興奮が強まる症状(いわゆる夕暮れ症候群)がみられる場合は、単純な不眠として対処するのではなく、主治医や専門医による背景疾患の評価が優先される[1]。

睡眠負債という考え方

「睡眠負債」とは、1日単位では自覚しにくい程度の軽い睡眠不足が、借金のように日々積み重なって蓄積し、ある時点で日中のパフォーマンス低下や強い眠気として表面化する状態を表す考え方である[1]。平日の睡眠不足を休日の「寝だめ」でまとめて解消しようとする対処は、体内時計のリズムを乱す社会的時差ボケを助長しやすく、根本的な解消策としては推奨されていない[1]。睡眠負債の考え方や解消法の詳細は睡眠負債の完全ガイドで扱っている。

睡眠負債の解消は、一度にまとめて返そうとするのではなく、平日の就寝時刻を少しずつ早めて必要な睡眠時間に近づけていく地道な方法が基本とされる[1]。休日に長く眠る場合でも、起床時刻を平日より2時間以上遅らせないようにすることが、体内時計のずれを最小限に抑えるひとつの目安として紹介されている[1]。日中に強い眠気を感じる場合、前述の短時間の昼寝を活用しつつ、根本的には夜間の睡眠時間そのものを底上げしていく方針が優先される[1]。

日本と海外(米国)の睡眠ガイドライン比較

項目 日本(厚生労働省 2023) 米国(AASM/NSF)
成人の睡眠時間の示し方 具体的な時間数の強制ではなく、6時間以上を目安に睡眠休養感を重視[2] 7〜9時間という具体的な時間幅を推奨[3]
不眠症治療の第一選択 認知行動療法(CBT-I)を薬物療法に先行させる方針[5] 米国睡眠医学会もCBT-Iを慢性不眠症の第一選択として位置づけ[4]
睡眠関連疾患の分類 国内学会が国際分類(ICSD)を踏まえて診療指針を整備[5] ICSD-3(睡眠障害国際分類第3版)を独自に策定・改訂[4]

両者の大きな違いは「数値の示し方」にある。日本の指針は主観的な休養感を重視し画一的な時間数を強調しないのに対し、米国の推奨は年代別の具体的な時間幅を明示する形をとっている[2][3]。不眠症治療の第一選択が薬物療法ではなくCBT-Iである点は日米で共通しており、この点は多くの一般向け情報ではあまり強調されていない。

SASの重症度分類についても、無呼吸低呼吸指数(AHI)を用いる基本的な考え方は日米共通だが、CPAP治療の保険適用基準や検査の進め方には各国の医療制度の違いが反映される[8]。日本では簡易検査とPSG検査を組み合わせた段階的な診断の流れが一般的であり、検査結果に応じて治療の適用が判断される[8]。海外の基準をそのまま日本の医療制度に当てはめられるとは限らないため、数値の比較はあくまで「考え方の違いを知る」ための参考情報として捉えることが望ましい。

睡眠薬の位置づけにも違いがみられる。日本睡眠学会のガイドラインはCBT-Iを第一選択としつつ、症状が強い場合や生活への支障が大きい場合には薬物療法を並行して検討する立場をとる[5]。米国睡眠医学会もCBT-Iを慢性不眠症の第一選択として推奨しており、薬物療法は短期的な補助、あるいはCBT-Iへのアクセスが難しい場合の選択肢として位置づけられる点は共通している[4]。むずむず脚症候群や概日リズム睡眠・覚醒障害についても、国内学会は国際分類(ICSD)を踏まえて診療の考え方を整理しており、診断基準そのものは国際的に共通のものが用いられている[4][7]。

睡眠に関する医療費の目安

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16


よくある質問(FAQ)

7時間眠っているのに眠い、寝ても寝ても眠いのはなぜですか?
睡眠時間の長さだけでなく、睡眠の質(深い睡眠がとれているか、途中で呼吸が止まっていないか)が影響している可能性がある[1]。特にいびきを指摘される場合は睡眠時無呼吸症候群の評価が勧められる[8]。うつ病など気分の落ち込みが背景にある場合もあり、日中の眠気が長く続く場合は原因を1つに絞らず評価することが望ましい。
眠れない夜が続くとき、まず何をすればいいですか?
起床時刻を一定にし、就寝前のカフェイン・強い光を控えるなど睡眠衛生の基本から見直すことが第一歩とされる[1]。それでも週3回以上・2週間以上改善しない場合は医療機関への相談が勧められる[5]。
寝る前の牛乳は本当に睡眠に効果がありますか?
特定の食品単独で不眠が解消するという確立した知見はなく、睡眠衛生全体(生活リズム・光・カフェインなど)を整えることの方が根拠が明確である[1]。
睡眠薬は一度飲み始めるとやめられなくなりますか?
薬剤の種類や使用期間によって依存形成のリスクは異なり、自己判断での急な中止は反跳性不眠を招くことがある[9]。減薬・休薬は医師の指導のもとで段階的に行うことが推奨される[5]。
いびきがひどいと言われました。放置しても大丈夫ですか?
大きないびきに睡眠中の呼吸停止が伴う場合、睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、放置すると日中の眠気による事故リスクや生活習慣病との関連が指摘されている[8]。呼吸器内科や睡眠外来への相談が勧められる。
脚がむずむずして眠れないのですが、これは何かの病気ですか?
安静時、特に夕方から夜間にかけて脚を動かしたくなる異常感覚が続く場合、むずむず脚症候群(RLS)の可能性がある。国際的な診断基準では複数の必須項目が示されている[7]。血液検査で鉄欠乏の有無を確認することが対処の手がかりになる場合がある。
子どもが夜中に突然叫んで起きます。何か病気でしょうか?
深い睡眠からの不完全な覚醒によって起こる夜驚症の可能性があり、多くは学童期までに自然に消失し、翌朝の記憶がないことが多い[10]。頻度が高く安全面の懸念がある場合は小児科への相談が検討される。
高齢になると睡眠時間は短くなるものですか?
必要な総睡眠時間自体は成人とそれほど変わらないが(目安7〜8時間)、中途覚醒が増えるなど睡眠の構造が変化しやすい[3]。日中に支障が出るほどの不眠であれば加齢のみで済ませず評価が勧められる[8]。
昼寝はしてもいいのですか、それとも避けるべきですか?
15〜20分程度、午後の早い時間にとどめる昼寝は日中の眠気対策として活用できるとされるが、長時間や夕方以降の昼寝は夜の入眠を妨げやすい[1]。
休日の「寝だめ」で平日の睡眠不足は解消できますか?
休日にまとめて長く眠る対処は、その場の眠気をある程度緩和しても、体内時計のリズムを乱す社会的時差ボケを助長しやすく、根本的な解消策とはされていない[1]。平日から必要な時間を確保することが基本となる。
夜中に脚がぴくぴく動くと言われました。むずむず脚症候群と同じですか?
自覚がないまま脚が周期的に動く場合は、むずむず脚症候群と関連しうる周期性四肢運動障害の可能性がある[7]。同室者からの指摘で気づかれることが多く、日中の眠気や中途覚醒を伴う場合は評価の対象になる。
睡眠トラッカーで「深い睡眠が少ない」と出ました。病気を疑うべきですか?
市販の睡眠トラッカーの多くは医療機器としての精度検証を経ておらず、医療機関の脳波検査(PSG)と比べて誤差が生じうるため、数値だけで疾患の有無を自己判断することは避けるべきである[1]。日中の眠気や集中力低下など実際の生活への影響がある場合に評価の対象として検討する。

睡眠に関する記事一覧

記事一覧 132件

基礎知識・原因 13

症状・見分け方 5

検査・数値 1

食事・生活 22

治療・薬 26

合併症・リスク 19

その他 46

本記事で扱いきれていない個別の薬剤の詳細な用法・用量、および妊娠中・特定の持病がある場合の睡眠薬使用の可否については、今回参照した資料には記載が見当たりませんでした。個別の状況については医療機関に直接ご相談ください。

参考文献

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠」情報ページ 2024 e-healthnet.mhlw.go.jp
  2. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」2023 mhlw.go.jp
  3. Hirshkowitz M, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations. Sleep Health. 2015 sleephealthjournal.org
  4. American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders, Third Edition (ICSD-3) aasm.org
  5. 日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」2013 jssr.jp
  6. International Restless Legs Syndrome Study Group(IRLSSG)診断基準 2012改訂 irlssg.org
  7. 日本呼吸器学会 睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療の手引き jrs.or.jp
  8. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)添付文書情報(睡眠薬 依存性に関する使用上の注意) pmda.go.jp
  9. 厚生労働省 e-ヘルスネット「子どもの睡眠」情報ページ e-healthnet.mhlw.go.jp