リンパ浮腫の包括的理解と管理:原因と対策の全貌
耳鼻咽喉科疾患

リンパ浮腫の包括的理解と管理:原因と対策の全貌

リンパ浮腫という診断は、多くの患者さんやそのご家族にとって、大きな不安と戸惑いをもたらすかもしれません。がん治療という大きな試練を乗り越えた先に待つこの慢性的な状態は、日常生活に様々な制約や精神的な負担を強いることがあります1。しかし、リンパ浮腫はもはや「治らないから我慢するしかない」病気ではありません。現在、その発症メカニズムの解明は進み、治療法も目覚ましい進歩を遂げています。

この報告書は、リンパ浮腫と向き合うすべての方々が、ご自身の状態を深く、そして正確に理解し、科学的根拠に基づいた最適な対策を講じるための一助となることを目指しています。リンパ系の基本的な働きから、リンパ浮腫がなぜ起こるのかという原因、最新の診断法、そして「複合的理学療法」という保存的治療の根幹から、リンパ管静脈吻合術(LVA)をはじめとする先進的な外科治療まで、その全貌を網羅的に解説します。

リンパ浮腫は、一度発症すると生涯にわたる付き合いが必要となる慢性疾患です2。しかし、適切な知識を持ち、日々のセルフケアを実践し、専門家チームと連携することで、症状の進行を抑制し、生活の質(QOL)を高く維持することは十分に可能です3。この報告書が、皆様にとってリンパ浮腫との共生への確かな第一歩となり、希望を持って未来へ進むための羅針盤となることを心から願っています。

この記事の科学的根拠

本記事は、インプットされた研究報告書に明示的に引用されている、最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下は、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を含むリストです。

  • 国立がん研究センター: 本記事におけるリンパ浮腫の基礎知識、症状、セルフケア、および「リンパ浮腫ケア外来」に関する指導は、同センターが提供する患者向け情報に基づいています2310
  • 日本リンパ浮腫学会・日本リンパ浮腫治療学会: 複合的理学療法、LVA手術、弾性着衣に関する推奨事項は、これらの学会が策定した「リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版」の科学的根拠と推奨度に基づいています1324
  • Johns Hopkins Medicine: 感染予防策や日常生活での注意点に関する具体的な指導の一部は、同機関が公開している患者向け治療情報に基づいています4
  • 国際リンパ学会(ISL): リンパ浮腫の重症度を評価するための病期分類(0期~III期)は、同学会が定める世界的な基準に基づいています2

要点まとめ

  • リンパ浮腫は、がん治療(特にリンパ節郭清や放射線治療)の後遺症として発症する慢性的なむくみで、進行性の疾患です。
  • 治療の基本は、スキンケア、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法を組み合わせた「複合的理学療法(CDT)」です。
  • 進行した症例や合併症を繰り返す場合、リンパ管静脈吻合術(LVA)などの外科的治療が有効な選択肢となり、治療成績は向上しています。
  • 最も注意すべき合併症は細菌感染による「蜂窩織炎」であり、日々の徹底したスキンケアと怪我の予防が不可欠です。
  • 体重管理はリンパ浮腫の悪化を防ぐ重要な要素です。また、患者会などのサポートシステムを活用することも精神的な支えとなります。

第1章:リンパ浮腫の科学的理解

リンパ浮腫を正しく管理するためには、まず私たちの体の中で「リンパ系」がどのような役割を果たしているのか、そしてなぜその機能が損なわれると「むくみ」が生じるのかを科学的に理解することが不可欠です。本章では、リンパ浮腫の基礎となる医学的知識を分かりやすく解説します。

1.1 リンパ系とは:体内の流れを司る沈黙の器官

リンパ系は、血管系と並んで私たちの全身に張り巡らされた、もう一つの重要な循環システムです。しかし、その働きは血液循環ほど知られておらず、「沈黙の器官」とも呼ばれます。リンパ系の主な構成要素は、リンパ管、リンパ液、そしてリンパ節です。

その中心的な役割は、体内の水分バランスの維持と免疫機能です4。血液が動脈から毛細血管を通って組織に酸素や栄養を届けた後、その一部は静脈に戻りますが、戻りきらなかった水分やタンパク質、老廃物、細菌、ウイルスなどが「リンパ液」としてリンパ管に回収されます5。リンパ管は、このリンパ液を運ぶための管であり、最終的には心臓近くの太い静脈に合流し、体液循環に戻ります。

その途中に点在するのが「リンパ節」です。リンパ節はフィルターのような役割を果たし、リンパ液に含まれる細菌や異物を捕捉・処理することで、感染から体を守る免疫の砦として機能しています4。このリンパ系の精緻な流れが滞ることなく機能することで、私たちの体は健康な状態を保っているのです。

1.2 リンパ浮腫の定義と発症メカニズム

リンパ浮腫とは、このリンパ系の輸送能力に障害が生じ、リンパ液の回収がうまくいかなくなることで、タンパク質を豊富に含んだ液体が皮下組織(皮膚と筋肉の間)に異常に溜まってしまう状態(浮腫)を指します7

発症メカニズムの核心は、リンパ液の「輸送能力の低下」と「生成量のアンバランス」にあります。何らかの原因でリンパ管が損傷したり、リンパ節が切除されてフィルター機能が失われたりすると、リンパ液の流れが堰き止められます6。その結果、行き場を失ったリンパ液が組織内にうっ滞し、腕や脚などに慢性的なむくみを引き起こすのです8

心臓や腎臓の病気で起こる一般的な「むくみ(浮腫)」が主に水分の貯留であるのに対し、リンパ浮腫はタンパク質濃度が高いという特徴があります9。このタンパク質が組織内に長期間滞留すると、慢性的な炎症を引き起こし、コラーゲン線維の産生を促進します。これにより、皮膚や皮下組織が徐々に硬くなる「線維化」が進行し、症状が不可逆的になっていきます2。このため、利尿薬などで水分を排出しても根本的な改善にはならず、専門的な治療が必要となるのです9

1.3 原因:原発性と続発性の違い

リンパ浮腫は、その原因によって大きく二つに分類されます。

  • 原発性リンパ浮腫: 生まれつきリンパ管やリンパ節の形成不全があるために発症する、比較的まれなタイプです4
  • 続発性リンパ浮腫: こちらがリンパ浮腫の大半を占め、もともと正常だったリンパ系が、後天的な原因によって損傷を受けることで発症します4。先進国における最大の原因は、がん治療です10

続発性の主な原因は以下の通りです。

  • 外科手術: 特に乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどの手術において、転移の有無を調べるため、あるいは転移を防ぐためにリンパ節を切除(リンパ節郭清)することが、リンパの流れを妨げる直接的な原因となります10
  • 放射線治療: 治療のために照射された放射線が、リンパ節やリンパ管にダメージを与え、瘢痕化(組織が硬くなること)を引き起こすことで、リンパ液の流れを悪化させることがあります10。手術と放射線治療を併用した場合、発症リスクはさらに高まると報告されています11
  • 薬物療法(化学療法): 近年では、タキサン系と総称される一部の抗がん剤が、リンパ浮腫の発症リスク因子となる可能性が指摘されています13
  • その他の原因: がん治療以外にも、大きな怪我や重度の感染症、肥満などがリンパ系に負担をかけ、続発性リンパ浮腫の原因となることがあります4

がん治療の「合併症」として一括りにされがちですが、リンパ浮腫は体液のうっ滞、タンパク質の蓄積、慢性的な炎症、そして最終的には組織の線維化といった、独自の進行性の病態を持つ独立した慢性疾患です。治療後何年も経過してから発症する可能性があるという事実も2、この疾患が単なる静的な副作用ではなく、時間とともに進行しうる潜在的な慢性状態であることを示しています。この理解は、症状を単に「我慢する」のではなく、専門的な治療を積極的に求める上で極めて重要です7

1.4 日本における現状:患者数とリスク因子

日本国内において、リンパ浮腫に悩む患者さんの正確な数は完全には把握されていませんが、その数は15万人以上と推定されています14。しかし、これは氷山の一角に過ぎない可能性があります。「がんが治って命が助かったのだから、少しのむくみは我慢しなくては」という思いから、症状を抱えながらも医療機関を受診していない潜在的な患者さんが多数存在すると考えられています7

がん治療後の発症率は決して低くありません。乳がんの腋窩リンパ節郭清後で約20%、婦人科がん(子宮がん・卵巣がん)の骨盤内リンパ節郭清後で20~30%の患者さんがリンパ浮腫を発症すると報告されています11。ある多施設共同研究では、乳がん術後患者の51%に、患側の腕の周径が1cm以上太くなるという基準でリンパ浮腫が認められたとのデータもあります16

原因となるがんの種類から、患者さんは女性が圧倒的に多く、全体の9割以上を占めています7

発症や悪化に関わる重要なリスク因子として、肥満が挙げられます。過剰な体脂肪は、物理的にリンパ管を圧迫するだけでなく、全身の慢性的な炎症状態を引き起こし、リンパの流れをさらに悪化させることが科学的に示されています3。そのため、適切な体重管理は、リンパ浮腫の予防および管理において極めて重要な要素となります。

第2章:診断と進行度の評価

リンパ浮腫は進行性の疾患であるため、その兆候を早期に捉え、適切な対応を開始することが、その後の経過を大きく左右します2。本章では、ご自身でできる初期症状のチェック方法から、専門医による正確な診断、そして治療方針の決定に不可欠な病期分類について解説します。

2.1 初期症状を見逃さない:自己チェックの方法と客観的評価

手術や放射線治療を受けた側の腕や脚に、以下のような変化がないか、日頃から意識することが早期発見の鍵となります。

自覚症状(主観的な変化):

  • なんとなく重い、だるい感じがする10
  • 皮膚が張っているような、締め付けられるような違和感がある。
  • 指輪や腕時計、下着や靴下の跡が以前よりくっきりと残る17
  • 見た目には明らかな腫れはないが、左右で触った感じが違う。
  • 日によってむくみの程度が変わり、朝は良いが夕方になると悪化する2

客観的なセルフチェック:

  • 視診: 腕や脚を鏡に映し、左右の太さや皮膚のしわの状態を比較します。むくみがあると、皮膚の自然なしわが浅くなったり、消えたりします17
  • 圧痕テスト(Pitting Test): すねや手の甲など、骨のすぐ上の部分を指で10秒ほどゆっくりと圧迫し、離した後にへこみが残るかどうかを確認します。へこみが残る場合、圧痕性浮腫と呼ばれ、初期のリンパ浮腫のサインです17
  • 周径測定: 定期的に(例えば月に1回、入浴後など時間を決めて)、左右の腕や脚の同じ部位の周径をメジャーで測定し、記録します。手首や足首から一定間隔(例:10cmごと)で数か所を測定し、左右差が2cm以上ある場合はリンパ浮腫が疑われますが、わずかな差でも継続的に拡大する場合は注意が必要です17

これらのサインに気づいたら、自己判断でマッサージなどを行わず、速やかに治療を受けた病院の担当医や、リンパ浮腫の専門外来に相談することが重要です10

2.2 専門医による診断プロセス

専門の医療機関では、問診と身体診察に加え、必要に応じて客観的な評価を行うための検査が行われます。

  • 問診・身体診察: いつから、どのような症状があるか、がんの治療歴(手術、放射線、薬物療法)、過去の怪我や感染症の有無などを詳しく聴取します。診察では、むくみの範囲や硬さ、皮膚の状態、圧痕の有無などを詳細に評価します。足の指の付け根の皮膚がつまめなくなる「ステンマー徴候(Stemmer’s Sign)」は、進行したリンパ浮腫の典型的な所見です19
  • 画像診断・機能検査: 診断の確定や、特に外科的治療を計画する際には、より詳細な検査が行われます。
    • ICG(インドシアニングリーン)リンパ管造影検査: ICGという特殊な蛍光色素を皮下に注射し、近赤外線カメラでリンパ液の流れをリアルタイムに可視化する検査です。リンパ管が正常に機能しているか、どこで流れが滞っているかを地図(リンパ管マップ)のように描き出すことができます。特に、後述するリンパ管静脈吻合術(LVA)の手術計画には不可欠な検査となっています20
    • 生体インピーダンス法(Bioimpedance Spectroscopy, BIS): 体に微弱な電流を流し、その電気抵抗を測定することで、細胞外液量を推定する非侵襲的な検査です。見た目には腫れがわからないごく初期の段階(0期)のリンパ浮腫も検出できるため、早期診断に有用です19
    • その他の検査: リンパシンチグラフィ(放射性同位体を用いた検査)、MRI、超音波(エコー)検査なども、病態の評価や他の疾患との鑑別のために用いられることがあります19

2.3 国際リンパ学会による病期分類(0期~III期)

リンパ浮腫の重症度は、国際リンパ学会(ISL)が定める病期分類に基づいて評価されます。この分類は、治療方針を決定する上で世界的な基準となっています2

  • 0期(潜在期・無症状期): リンパ液の輸送能力は低下しているものの、見た目にはむくみが現れていない状態。だるさや重さなどの自覚症状のみの場合もあります。この状態が数ヶ月から数年続くこともあります2
  • I期(可逆期): むくみが見た目にもわかるようになりますが、まだ組織は柔らかく、指で押すとへこみが残ります(圧痕性)。腕や脚を心臓より高く挙げる(挙上)ことで、むくみが一時的に改善するのが特徴です2
  • II期(非可逆期): むくみが慢性化し、皮膚や皮下組織の線維化が始まります。組織が硬くなるため、指で押してもへこみが残りにくくなります(非圧痕性)。挙上だけではむくみが改善しなくなります2
  • III期(象皮症): 最も進行した状態で、組織の線維化が著しく進み、皮膚が硬く厚くなります。イボ状の皮膚変化(リンパ漏)や深いシワができ、感染症を合併しやすくなります。この段階ではセルフケアのみでの改善は困難です2

リンパ浮腫はいきなりIII期になるのではなく、0期から徐々に進行していくのが特徴です。どの段階であっても、適切なケアを行うことで症状の進行を遅らせ、改善させることが可能です。だからこそ、早期に発見し、専門家による適切な治療を開始することが何よりも重要なのです2

表1:リンパ浮腫の病期分類と特徴
病期 (Stage) 特徴 治療の焦点
0期 (潜在期) 見た目の腫れはないが、リンパ輸送能は低下している。重さやだるさを感じることがある。 予防的セルフケアの徹底、定期的なモニタリング。
I期 (可逆期) 圧痕性(押すとへこむ)の浮腫。患肢を高く挙げることで軽快する。 複合的理学療法(CDT)による積極的なボリューム減少と改善。
II期 (非可逆期) 非圧痕性の浮腫。組織の線維化が始まり、硬くなる。挙上では軽快しない。 集中的なCDT。症状に応じて外科的治療(LVAなど)の検討。
III期 (象皮症) 皮膚が硬化し、象の皮膚のようになる。感染症などの合併症リスクが高い。 合併症の管理、QOLの維持・向上、減量手術(脂肪吸引など)の検討。

出典: 2

第3章:リンパ浮腫の包括的治療戦略

リンパ浮腫の治療は、かつては「悪化させない」ことが主眼でしたが、近年の研究と技術の進歩により、「症状を改善させ、より良い生活を送る」ための多様な選択肢が生まれました。治療の基本は、国際的な標準治療である「複合的理学療法(CDT)」ですが、これに先進的な外科治療を組み合わせることで、より高い治療効果が期待できるようになっています。本章では、最新の診療ガイドラインの知見も交えながら、包括的な治療戦略を解説します。

3.1 治療の根幹:複合的理学療法(CDT)

複合的理学療法(Complex Decongestive Therapy, CDT)は、リンパ浮腫治療のゴールドスタンダードであり、複数の治療法を体系的に組み合わせたプログラムです12。CDTは、むくみを集中的に減少させる「集中期」と、減少した状態を維持する「維持期」の2つのフェーズに分かれ、以下の4つの要素から構成されます22

  1. スキンケア: リンパ浮腫の患部は、皮膚のバリア機能が低下し、感染を起こしやすい状態にあります。そのため、皮膚を常に清潔に保ち、低刺激性・弱酸性の保湿剤で潤いを与えることが極めて重要です。小さな傷や虫刺されが、後述する重篤な合併症「蜂窩織炎」の引き金になるため、日々の丁寧なケアが感染予防の第一歩となります4
  2. 用手的リンパドレナージ(Manual Lymphatic Drainage, MLD): これは、専門の研修を受けたセラピストが行う、非常に軽やかでリズミカルな医療的マッサージです。皮膚のすぐ下にあるリンパ管に働きかけ、滞ったリンパ液を、機能が残っている正常なリンパ節やリンパ管系へと迂回させるように誘導します17。一般的なリラクゼーション目的の強いマッサージは、逆にリンパ管を傷つけ症状を悪化させる危険があるため、厳に慎む必要があります8。なお、患者自身が行うセルフマッサージ(SLD)の予防効果については、現在のところ明確な科学的根拠は認められていません3
  3. 圧迫療法:弾性着衣と包帯: CDTの中でも、むくみの改善と維持に最も重要な役割を果たすのが圧迫療法です20
    • 弾性包帯: 集中期に、患肢のボリュームを減少させる目的で使用されます。伸縮性の低い「ショートストレッチ包帯」を何層にも重ねて巻くことで、安静時には低い圧迫(Resting Pressure)を、運動時には筋肉の収縮に抵抗して高い圧迫(Working Pressure)を生み出し、効率的にリンパ液の排出を促します19
    • 弾性着衣(スリーブ・ストッキング): 維持期に、日中の活動時に着用します。適切な圧迫圧、正しいサイズ、体の形状に合った製品を選ぶことが不可欠です。着衣は使用とともに圧迫力が低下するため、定期的な交換(通常は半年に1回程度)が必要です19。日本では、医師の指示に基づいて購入した弾性着衣は、療養費の支給対象となり、費用の負担を軽減できます26
  4. 圧迫下の運動療法: 弾性包帯や弾性着衣を着用した状態で行う運動です。筋肉が収縮・弛緩する「筋ポンプ作用」が、外部からの圧迫と相まって、リンパ液の流れを強力に促進します。特別な運動だけでなく、日常生活の中での動きも、圧迫下で行うことで治療的な効果を発揮します17

3.2 進化する外科的治療

保存的治療で十分な効果が得られない場合や、蜂窩織炎を繰り返す場合などには、外科的治療が有力な選択肢となります。近年のマイクロサージャリー(微小外科)技術の進歩により、手術の安全性と効果は飛躍的に向上しています。

表2:リンパ浮腫の外科的治療法の比較
治療法 主な適応 治療の目的 術後の注意点
リンパ管静脈吻合術 (LVA) 初期~中期のリンパ浮腫 (ステージI-II)23 リンパ液のバイパス路作成(生理的再建)6 生涯にわたる圧迫療法が原則として必要6
血管柄付きリンパ節移植術 (VLNT) 進行期のリンパ浮腫6 リンパ排液機能のポンプ機能再建4 生涯にわたる圧迫療法が必要6
脂肪吸引術 (Liposuction) 線維化・脂肪変性が主体の末期リンパ浮腫 (ステージIII)4 過剰な脂肪・線維組織の除去(減量術)4 術後の再発防止のため、生涯にわたる圧迫療法が必須4

出典: 4, 6, 23

  • リンパ管静脈吻合術(Lymphaticovenous Anastomosis, LVA): これは、スーパーマイクロサージャリーと呼ばれる高度な技術を用いて、詰まってしまったリンパ管(直径0.5mm程度)を、すぐ近くにある同じくらい細い静脈に直接つなぎ合わせる手術です6。これにより、行き場を失ったリンパ液が静脈系へと流れるための新たな「バイパス路」が作られます。リンパ管自体の機能がまだ残っている比較的早期の段階(I期~II期)で最も効果を発揮します23。多くは局所麻酔下での日帰り手術が可能で、体への負担が少ないのが特徴です20。三原誠医師をはじめとする日本のトップサージャンは、この分野で世界をリードする豊富な経験を有しています27
  • 血管柄付きリンパ節移植術(Vascularized Lymph Node Transfer, VLNT): 鼠径部(足の付け根)や頸部(首)など、体の他の部位から、血管がつながったままの健康なリンパ節を組織ごと採取し、リンパ浮腫のある腕や脚の付け根に移植する手術です4。移植されたリンパ節が、スポンジのように周囲のリンパ液を吸収し、新たにつないだ血管を介して静脈系に排出する「ポンプ」のような役割を果たすことが期待されます。LVAの適応とならない、より進行した症例に対して行われることが多い治療法です6
  • 脂肪吸引術およびその他の外科手技: 長期間リンパ浮腫が続くと、組織は水分だけでなく、脂肪細胞や線維組織で満たされて固くなります。このような末期(III期)の状態に対しては、これらの固形成分を物理的に取り除く脂肪吸引術が適応となります4。これはリンパの流れ自体を改善する生理的な手術ではなく、あくまで患肢のボリュームを減らす「減量術」です。そのため、術後に圧迫療法を怠ると、再び体液が溜まってしまうため、生涯にわたる厳格な圧迫が不可欠です4

重要なのは、これらの外科治療が保存的治療を不要にする「根治術」ではないという点です。手術はリンパの流れを改善させるための強力な手段ですが、その効果を最大限に引き出し、維持するためには、術後も生涯にわたって圧迫療法を中心としたセルフケアを継続することが絶対条件となります6。現代の治療パラダイムは、「保存的治療か、外科治療か」という二者択一ではなく、患者一人ひとりの病態やステージに合わせて、これらを最適に組み合わせる「統合的治療」へとシフトしています。

3.3 治療法の選択:2024年版診療ガイドラインからの洞察

リンパ浮腫の診療は、日々蓄積される科学的根拠(エビデンス)に基づいて進化しています。2024年3月に改訂された「リンパ浮腫診療ガイドライン」は、最新の知見を反映した治療選択の指針であり、いくつかの重要な変更点が含まれています13

表3:2024年版診療ガイドラインの主要改訂点
治療法/項目 旧推奨 (2018年版) 新推奨 (2024年版) 改訂の根拠・意義
弾性着衣 (上肢) B (実践するよう推奨する) A (実践するよう強く推奨する) 有用性を示す質の高いエビデンスが蓄積され、標準治療としての位置づけがより強固になった24
リンパ管静脈吻合術 (LVA) C2 (有効性の根拠に乏しく勧められない) C1 (実践することを考慮してもよい) 有効性を示す報告が蓄積され、複合的治療に難渋する症例などでの治療選択肢として認められた24
間欠的空気圧迫療法 (IPC) C2 (有効性の根拠に乏しく勧められない) C1 (実践することを考慮してもよい) 新型の多チャンバー式機器の登場と有効性を示す報告により、補助療法としての位置づけが見直された24
鍼灸治療 記載なし D (実践しないよう推奨する) 有効性を示す一貫した根拠がなく、血腫などの有害事象のリスクがあるため、推奨されないことが明記された24

出典: 24

この改訂が示す最も重要なメッセージは、治療選択肢の拡大と個別化の進展です。

  • 圧迫療法の重要性の再確認: 上肢リンパ浮腫に対する弾性着衣の推奨度が最高の「A」に引き上げられたことは、圧迫療法がすべての治療の土台であることを改めて強調しています24
  • 外科治療の位置づけの変化: LVAの推奨度が「C1」に引き上げられたことは、外科治療がもはや「最後の手段」ではなく、適切な症例に対しては積極的に検討すべき有効な治療法であるという、コンセンサスの変化を反映しています。これにより、保存的治療だけではコントロールが難しい患者さんにとって、新たな希望の道が開かれました24
  • 新たな注意喚起: 美容目的のレーザー脱毛などは禁忌ではないものの、皮膚トラブルのリスクが高いことが明記されました24。また、これまで効果が曖昧だった鍼灸治療については、推奨されないことが明確に示され、患者さんが安全で効果的な治療を選択するための重要な情報が提供されました24

これらの最新の知見に基づき、患者さんと医療者は、個々の病状、ライフスタイル、そして治療目標について十分に話し合い、最適な治療計画を共同で作り上げていくことが求められます。

第4章:日常生活におけるセルフケアと予防

リンパ浮腫の管理は、医療機関での治療だけで完結するものではありません。日々の生活の中で、患者さん自身が主体的に行うセルフケアと予防策が、症状の安定とQOLの向上に直結します。本章では、科学的根拠に基づいた具体的な日常生活の工夫について、多角的に解説します。

4.1 皮膚を守る:感染予防の最前線

リンパ浮腫の患肢は、免疫機能が低下しており、皮膚のバリアも脆弱になっています。そのため、ささいな傷が細菌感染の入り口となり、前述の「蜂窩織炎」を引き起こすリスクが常にあります。皮膚を健康に保つことは、リンパ浮腫管理の最優先事項です。

  • 日々のケア: 毎日、患肢の皮膚を丁寧に洗浄し、清潔を保ちます。洗浄後は、水分を優しく拭き取り、弱酸性の保湿剤を塗って皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を維持します5
  • 怪我の予防:
    • 家事・園芸: 炊事や庭仕事の際には、ゴム手袋を着用して切り傷や刺し傷を防ぎます4
    • 裁縫・ペット: 裁縫時は指ぬきを使い、ペットとの接触後は手や腕に引っかき傷がないか確認します4
    • ムダ毛の処理: カミソリは皮膚を傷つけるリスクが高いため、肌への負担が少ない電気シェーバーの使用が推奨されます5
  • 応急処置: 小さな切り傷や擦り傷ができた場合は、すぐに流水と石鹸で洗浄し、清潔な状態を保ちます4
  • 紫外線対策: 日焼けは皮膚への熱傷(やけど)の一種であり、炎症を引き起こして浮腫を悪化させる可能性があります。外出時は日焼け止めを塗り、長袖の衣類などで皮膚を保護します5
  • 医療行為: 採血、注射、点滴、血圧測定は、原則として健康な側の腕(健側)で行うよう医療スタッフに伝えます。やむを得ない場合でも、そのリスクについて相談することが重要です4

4.2 体を動かす:リンパの流れを促す運動習慣

かつては「患肢は安静に」と考えられていましたが、現在では適度な運動がリンパの流れを促進し、症状の改善に有効であることがわかっています。ただし、やみくもに行うのではなく、いくつかの重要な原則があります。

  • 運動の利点: 筋肉を動かす「筋ポンプ作用」は、リンパ液を心臓方向へ送り返す強力な原動力となります。また、体重管理、体力維持、精神的なリフレッシュにも繋がり、QOLを総合的に高めます5
  • 推奨される運動: ウォーキング、水泳や水中運動、ヨガ、ピラティス、軽い負荷での筋力トレーニングなどが安全かつ効果的です19。特に、鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口からゆっくり吐きながらお腹をへこませる「腹式呼吸」は、体の中心部のリンパの流れを促進する基本の運動として、いつでもどこでも実践できます5
  • 重要な注意点: 運動は、必ず弾性着衣(スリーブやストッキング)を着用した状態で行うことが原則です19。圧迫がない状態で激しい運動や反復運動を行うと、血流が増加してリンパ液の産生が過剰になり、かえって浮腫を悪化させる可能性があります3。新しい運動を始める前には、必ず担当医や理学療法士に相談し、自分に合った種類と強度を確認しましょう3

4.3 食事と体重管理の重要性

「これを食べればリンパ浮腫が治る」という特定の食品はありません3。しかし、食事は体重管理を通じて、リンパ浮腫に極めて大きな影響を与えます。

  • 肥満とリンパ浮腫の関係: 肥満は、リンパ浮腫の最大のリスク因子の一つです。過剰な体脂肪がリンパ管を物理的に圧迫し、流れを阻害します。また、肥満に伴う慢性炎症もリンパ系の機能を低下させます3。実際に、体重を減らすことでリンパ浮腫の症状が劇的に改善した例も報告されています9
  • 食事の推奨: 特定の食事制限はありませんが、栄養バランスの取れた食事を心がけることが基本です。野菜や良質なタンパク質を十分に摂り、塩分やアルコールの過剰摂取は体内の水分貯留を招くため、控えめにすることが望ましいです4。目標は、急激な体重増加を避け、適正体重を維持することです5

4.4 日常生活の工夫:衣類、旅行、仕事、入浴

日々の何気ない習慣を見直すことで、リンパ系への負担を軽減できます。

  • 衣類・装飾品: 体を締め付けるような服装はリンパの流れを妨げます。ゆったりとしたデザインの衣服を選び、袖口や下着、靴下のゴムがきついものは避けます。指輪や腕時計なども、患側の腕にはつけないようにしましょう5
  • 姿勢と休息: 長時間、腕や脚を下げたままの姿勢(デスクワークや立ち仕事など)は避け、時々休憩して体を動かしたり、患肢を心臓より少し高い位置に挙げて休ませたりすることが有効です4。脚の浮腫がある場合は、脚を組む癖をなくしましょう17
  • 温度管理: 長時間の熱いお風呂やサウナ、カイロやホットカーペットなどによる局所的な加温は、血管を拡張させて血流を増やし、リンパ液の産生を増加させるため、浮腫を悪化させる可能性があります。入浴はぬるめのお湯で短時間にとどめましょう4
  • 旅行: 特に飛行機での旅行の際は、気圧の低下により浮腫が悪化することがあります。多くの専門家は、フライト中に適切にフィットした弾性着衣を着用することを推奨しています。また、長時間座ったままにならず、時々通路を歩くなどして足の筋肉を動かすことが大切です5
  • 仕事・家事: 重い荷物を持つ際は、健側の腕を使うか、カートなどを利用して負担を分散させます。拭き掃除や草むしりのような反復作業は、こまめに休憩を挟みながら行いましょう5
表4:日常生活におけるセルフケアチェックリスト
カテゴリー チェック項目
スキンケア □ 毎日、患肢の皮膚を観察し、傷や赤みがないか確認する5
□ 毎日、低刺激の保湿剤を塗る17
□ 庭仕事や水仕事では保護手袋を着用する4
□ 虫刺されや日焼けを避ける対策をする5
衣類・装飾品 □ 体を締め付けない、ゆったりとした服や下着を選ぶ5
□ 腕時計や指輪は、健側(症状のない側)につける17
□ 重いバッグは健側で持つか、リュックサックなどを使う5
運動・活動 □ 弾性着衣を着用して、適度な運動(ウォーキングなど)を習慣にする19
□ 長時間同じ姿勢(座りっぱなし、立ちっぱなし)を続けない5
□ 休憩時には、腕や脚を心臓より高く挙げる17
□ 深呼吸(腹式呼吸)を意識的に行う5
環境・その他 □ 長時間の熱い入浴やサウナは避ける5
□ 患肢での採血・注射・血圧測定は原則として避けるよう医療者に伝える4
□ 体重が急激に増えないように管理する3
□ 疲労やストレスを溜めず、十分な睡眠をとる5

出典: 3, 4, 5, 17, 19

第5章:合併症への対応と精神的サポート

リンパ浮腫は、単なる「むくみ」以上の影響を心身にもたらします。最も注意すべき合併症である「蜂窩織炎」への迅速な対応と、慢性疾患として長く付き合っていくための精神的なサポート体制は、治療そのものと同じくらい重要です。

5.1 最も注意すべき合併症:蜂窩織炎

蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、リンパ浮腫患者が最も警戒すべき、細菌による急性の皮膚感染症です。タンパク質が豊富で免疫細胞の働きが悪いリンパ液は、細菌にとって格好の繁殖場所となります。蜂窩織炎はリンパ浮腫を急激に悪化させる最大の要因であり、迅速かつ適切な対応が求められます2

症状:

  • 患肢の皮膚が広範囲にわたって赤くなる(発赤)。
  • 触ると熱を持っている(熱感)。
  • ズキズキとした痛みを伴う。
  • 急激に腫れが悪化する。
  • しばしば、38度以上の高熱、悪寒、倦怠感を伴う2

緊急時の対応:

  • 蜂窩織炎は医療的な緊急事態です。上記の症状に気づいたら、自己判断せず、直ちに医療機関(かかりつけ医や救急外来)を受診してください。
  • 治療の基本は、抗生物質の投与です。点滴または内服で治療します25
  • 安静と冷却: 患肢を心臓より高く挙げて安静にします。熱を持っている部分は、氷のうや保冷剤をタオルで包んだもので冷やします(直接当てて凍傷にならないよう注意)2
  • 中止すべきこと: 炎症が起きている最中は、リンパドレナージやマッサージ、弾性着衣による圧迫は、炎症を広げる可能性があるため、絶対に中止してください2。これらのケアの再開時期は、炎症が完全に治まってから、医師の指示に従います。

予防:

蜂窩織炎の最善の治療は、発症させないことです。第4章で詳述した、日々の徹底したスキンケアと怪我の予防が、何よりの予防策となります2

5.2 慢性疾患としてのリンパ浮腫との向き合い方

リンパ浮腫との生活は、身体的な症状だけでなく、精神的にも大きな負担を伴います。見た目の変化によるボディイメージの悩み、思うように体を動かせないことへの苛立ち、日々のケアの煩わしさ、そして蜂窩織炎への恐怖など、そのストレスは多岐にわたります1

  • 感情の受容: 不安、抑うつ、怒りといった感情は、慢性疾患を抱える上でごく自然な反応です。これらの感情を否定せず、まずは自分自身の気持ちを認めることが第一歩です。
  • ライフスタイルの調整: 仕事や家事、趣味など、これまでの生活をすべて諦める必要はありません。しかし、病気と上手に付き合っていくためには、活動のペースを調整したり、やり方を工夫したりすることが必要になります18。完璧を目指さず、「できる範囲で、無理なく続ける」という視点が大切です。
  • 専門家への相談: 精神的なつらさが続く場合は、一人で抱え込まずに、担当医や看護師、あるいは公認心理師や臨床心理士といった心の専門家に相談することも有効な選択肢です。一部の専門クリニックでは、心理的なサポート体制も整えられています27

5.3 社会資源の活用:患者会とサポートシステム

リンパ浮腫という共通の体験を持つ仲間との繋がりは、計り知れない力になります。日本では、患者さんを支えるための様々な組織や情報源が存在します。

患者会・支援団体:

  • リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット): 全国の患者さんや家族を対象に、信頼できる情報の発信、オンラインでの交流会(おしゃべり会)、勉強会などを通じて、仲間と支え合えるコミュニティを提供している全国規模の患者団体です31
  • 地域の患者会: 「あすなろ会」や、婦人科がん患者を支援する「オレンジティ」など、地域やがん種に根差した患者会も多数活動しており、電話相談や交流会などを実施しています32

これらの会に参加することで、治療やセルフケアに関する実用的な情報を交換したり、同じ悩みを持つ仲間と気持ちを分かち合ったりすることができ、孤立感の軽減に繋がります。

専門学会と医療情報:

  • 日本リンパ浮腫学会や日本リンパ浮腫治療学会などの専門学会は、診療ガイドラインの作成や医療者向けの研修会を通じて、日本のリンパ浮腫診療の質の向上を牽引しています34。これらの学会のウェブサイトは、専門的な情報を得るための信頼できる情報源となります。
  • 国立がん研究センターなどのがん診療連携拠点病院では、リンパ浮腫専門のケア外来が設置されている場合も多く、専門的な指導や相談が可能です2

リンパ浮腫の管理は、医療者による「治療」、患者さん自身による「セルフケア」、そして社会や仲間による「サポート」という三つの柱で支えられています。この三つの柱が連携し、機能することで初めて、最適な管理が実現します。医師が治療方針を立て、セラピストがセルフケアを指導し、そして患者会の仲間が日々の実践を励ましてくれる。この統合的なアプローチこそが、リンパ浮腫と長く、そして上手く付き合っていくための鍵なのです。

結論

本報告書を通じて、リンパ浮腫の科学的背景から、原因、診断、そして最新の治療法とセルフケアに至るまで、その全体像を包括的に示してきました。リンパ浮腫は、確かに一度発症すると完治が難しい、生涯にわたる管理を要する慢性疾患です2。その事実は、患者さんにとって重い現実かもしれません。

しかし、重要なのは、リンパ浮腫が「管理可能」な疾患であるということです。この10年で、リンパ浮腫を取り巻く医療環境は劇的に変化しました。ICGリンパ管造影による精密な診断、複合的理学療法の標準化、そしてLVAに代表されるマイクロサージャリー技術の目覚ましい進歩は、もはや症状の悪化を防ぐだけでなく、積極的に改善を目指すことを可能にしました。2024年版の診療ガイドラインが、LVAのような外科治療を正式な治療選択肢として位置づけたことは、その象徴的な出来事と言えるでしょう24

成功の鍵は、早期発見、一貫したセルフケア、そして専門的な医療チームとの強固なパートナーシップにあります。ご自身の身体の変化に注意を払い、わずかな兆候を見逃さず、専門家に相談すること。日々のスキンケア、圧迫療法、運動を生活の一部として着実に実践すること。そして、医師、看護師、セラピスト、さらには患者会の仲間といったサポーターと連携し、一人で抱え込まないこと。これらが、リンパ浮腫という長い道のりを歩む上での道標となります。

科学は進歩し続けています。治療の選択肢は広がり、患者さんを支えるネットワークも充実してきています。リンパ浮腫と共に生きることは、決して平坦な道ではないかもしれません。しかし、正しい知識を力に変え、主体的にご自身の健康管理に取り組むことで、生活の質を高く保ち、希望を持って未来を見据えることは十分に可能なのです。

よくある質問

Q1. リンパ浮腫がありますが、温泉やサウナに入っても良いですか?

A1. 長時間の熱いお湯やサウナは、血流を増加させてむくみを悪化させる可能性があるため、原則として推奨されません5。もし入る場合は、ぬるめのお湯で短時間にとどめ、湯上りには患肢を冷やすなどの工夫が必要です。判断に迷う場合は、必ず担当医に相談してください。

Q2. 仕事で重いものを持つことがあり、夜になると腕がだるくなります。どうすれば良いですか?

A2. まず、可能な限り健康な側(健側)の腕を使う、台車を利用するなどの工夫で、患肢への負担を減らしましょう5。作業中は弾性スリーブを着用し、こまめに休憩を取って腕を休ませることが重要です。仕事の後にだるさを感じる場合は、クッションなどを使って腕を心臓より高く挙げて休息してください17

Q3. 弾性ストッキングやスリーブは高額ですが、費用の補助はありますか?

A3. はい、あります。医師がリンパ浮腫の治療に必要と判断し、指示書を発行した場合、購入した弾性着衣(包帯も含む)の費用は「療養費」として、加入している健康保険から払い戻しを受けることができます。支給は年に2回、1回あたり2着(両足の場合は4着)を上限とするのが一般的です。詳しくは、ご加入の健康保険組合や市町村の担当窓口にお問い合わせください26

Q4. 蜂窩織炎を繰り返しています。どうすれば防げますか?

A4. 蜂窩織炎の最大の予防策は、第4章で解説した「スキンケア」と「怪我の予防」の徹底です。毎日皮膚を清潔・保湿し、ささいな傷も作らないように細心の注意を払うことが基本です。また、過労やストレスによる免疫力の低下も引き金になるため、体調管理も重要です2。それでも繰り返す場合は、LVA手術が蜂窩織炎の頻度を減らすのに有効な場合があるため、専門医に相談することを検討しても良いでしょう25

Q5. 診断されたばかりで、どこに相談すれば良いかわかりません。

A5. まずは、がん治療を受けた病院の担当医や看護師、または「がん相談支援センター」に相談してください8。そこから、リンパ浮腫を専門とする医師や、専門の研修を受けた看護師・理学療法士・作業療法士がいる「リンパ浮腫外来」を紹介してもらえる場合があります。

専門医療機関情報

リンパ浮腫の治療には、高度な専門知識と技術が要求されます。適切な医療機関を見つけることは、治療の第一歩です。

専門医・セラピストの探し方:

  • 紹介: 最も確実な方法は、がん治療を受けた主治医からの紹介です。
  • がん診療連携拠点病院: 全国の「がん診療連携拠点病院」には、がんに関する相談窓口である「がん相談支援センター」が設置されており、地域のリンパ浮腫診療に関する情報を提供してくれる場合があります。国立がん研究センター中央病院のように、専門の「リンパ浮腫ケア外来」を設けている施設もあります37
  • 学会のウェブサイト: 「日本リンパ浮腫学会」や「日本リンパ浮腫治療学会」などのウェブサイトでは、所属する医療者の情報や、研修会などの情報が公開されていることがあります。

専門的な治療を提供する医療機関の例:

特定の医療機関を推奨するものではありませんが、日本にはリンパ浮腫治療に特化した先進的な施設が存在します。例えば、三原誠医師が院長を務める「むくみクリニック」27や、林明辰医師がセンター長を務める「亀田総合病院リンパ浮腫センター」38などは、LVA手術をはじめとする外科治療と保存的治療を組み合わせた集学的治療を数多く手掛けていることで知られています。これらの施設は、リンパ浮腫治療の最前線を知る上での参考となります。

リンパ浮腫の治療はチーム医療です。ご自身に合った信頼できる医療チームを見つけ、二人三脚で治療に取り組んでいくことが、より良い未来への道を開きます。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言を構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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