はじめに
目の健康を維持することは、私たちの日常生活の質を高め、快適な視界を得るうえで欠かせない要素です。日々の活動や学習、仕事、趣味など、どれをとっても視覚情報が大きな割合を占めており、目の状態が悪いと心身ともに疲れやすくなることもよく知られています。ところが、朝起きたときに目の隅にたまった分泌物、いわゆる目やにに悩まされる方は少なくありません。通常であれば、目やには生理現象の一部としてごく少量発生するだけですが、量が多かったり、粘着性が異常に強かったり、繰り返し慢性的に出続けたりする場合は、ただちに注意が必要です。
また、目やにが増える背景には、現代の生活習慣や生活環境の変化も関係していると考えられています。長時間のパソコン・スマートフォンの使用や空調の効いた室内での生活は、ドライアイなどの症状を引き起こしやすく、目やに増加のきっかけになることもあります。さらに花粉や大気中の微粒子、コンタクトレンズの長時間装用など、季節ごとの環境要因や生活習慣によっても悪化することがあるため、対策には知識と日頃のケアが必要です。
この記事では、目やにの特徴的な症状から、潜在的な原因、適切な治療法や予防策に至るまで、できるだけ詳しく解説いたします。読者の皆様がこの情報を活用し、安全で健康的な視覚を守り、快適な日常生活を送っていただけるよう、正確かつわかりやすい情報提供を心がけています。
専門家への相談
本記事を執筆するにあたり、目やにに関する見解を提供してくださったのは、ベトナムのBệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninhで勤務するBác sĩ Nguyễn Thường Hanhです。彼は内科の専門医として長年活躍しており、目の健康や全身疾患が目に及ぼす影響について深い知識を持っています。彼の経験は本記事の信頼性を高める一助となりました。ただし、本記事はあくまで参考情報であり、実際に症状がある方は必ず眼科専門医や医療専門家にご相談ください。
目やにが出る症状とその原因
私たちの目は、睡眠中に目の乾燥を防ぐために一定の分泌物を生成します。この分泌物が固まったものが目やにとして観察され、起床時にまぶたの隅などに付着していることがあります。多くの場合、これは生理現象の一環であり、少量であれば特に問題はありません。しかし、以下のような症状が見られる場合は注意が必要です。
- いつもよりも分泌物の量が多く、濃く粘着性が強い
- 分泌物の色が黄色、緑、あるいは白っぽく変化し、膿のように感じる
- まぶたどうしがくっついて開きにくい
- 視界がぼやける、かすむ
- 光に対して敏感になる
- 目が赤く腫れて痛みを伴う
これらの症状が現れた場合は、自己判断で放置せず、一度眼科を受診して正確な診断や適切な治療を受けるようにしてください。見過ごしてしまうと重症化するケースもあるため、早期の対応が大切です。
目やにの主な原因
目やにが増える原因は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
結膜炎(赤目)
結膜炎は目の白目を覆う膜(結膜)に感染や炎症が起こる状態です。目のかゆみや刺激感、赤みなどを生じることが多く、場合によっては大量の分泌物が出ます。結膜炎は原因によって主に次の3種類に分類されます。
- ウイルス性結膜炎
強い感染力を持つタイプです。分泌物は比較的さらっと透明感があり、水っぽいことが多いですが、状況によっては白〜淡黄色に変化します。 - 細菌性結膜炎
適切な治療をしないと視力に悪影響を及ぼす可能性があります。分泌物は黄色や緑、灰色がかった膿のように濃くなることがあります。 - アレルギー性結膜炎
花粉やほこり、化粧品、コンタクトレンズの洗浄液など、アレルゲンに対する過敏反応によって起こります。大量の涙、かゆみ、充血などを生じますが、伝染することはありません。
ドライアイ
ドライアイとは、目の表面が十分に潤っていない状態です。長時間のパソコン作業やスマートフォンの使用、エアコンなどの使用環境などが原因となることが多く、慢性的に目やにが増える一因となります。ドライアイでは以下のような症状が現れます。
- 目の表面がヒリヒリしたり、焼けるような感じがする
- 乾燥による強い違和感や異物感
- 目が充血しやすく、疲れがたまりやすい
なお、近年の研究によると、パソコンやスマートフォンなどの画面を長時間見続けることで瞬きの回数が減少し、涙の蒸発が増えてドライアイの発症率が高まると報告されています。さらに、2021年にBMC Ophthalmologyで発表された調査研究(Hanほか、DOI:10.1186/s12886-021-01913-y)では、長時間のデジタルデバイス使用とドライアイ自覚症状との間に有意な関連が認められました。日本でも働き方や学習環境のデジタル化が進んでいるため、ドライアイの発症リスクは今後も高まる可能性があります。
ものもらい
ものもらい(麦粒腫や霰粒腫)とは、まつげの毛根部やまぶたの脂腺が細菌感染などを起こし、赤く腫れる症状です。痛みやかゆみ、腫れ、目やにが出るなど、見た目も気になるため、日常生活に支障をきたしやすいのが特徴です。放置すると悪化して膿が溜まる場合があるため、医療機関での診察を受けることをおすすめします。
涙道閉塞
涙道は涙を鼻腔へ排出するための通り道ですが、先天的または後天的な原因で狭窄や閉塞が起こることがあります。涙道が詰まると涙や分泌物がうまく排出できず、結果として感染や炎症が起こりやすくなり、目やにが増える原因となります。乳児期には比較的多く見られる症状で、自然に改善するケースもありますが、大人でも何らかの原因で閉塞が起こることがあるため注意が必要です。
角膜潰瘍
角膜潰瘍は角膜に傷や感染が起こり、重症化すると失明の可能性がある非常に危険な病変です。外傷やコンタクトレンズの不適切な使用、結膜炎などの感染症が原因で起こる場合があり、目やにが増加して視力が著しく低下することがあります。特にソフトコンタクトレンズを長期間装用する方やレンズケアを適切に行っていない方はリスクが高いため、注意が必要です。
目やにの治療法
目やにが出る原因によって、治療法は大きく異なります。ただし、自己判断に頼るだけでなく、症状が強い場合や長引く場合は専門の眼科医による診断が重要です。早めに対応することで重症化を防ぐことができます。
自宅でのケア
- 温かいタオルでのケア
清潔なタオルを40℃前後の温水で湿らせ、目を閉じた状態でまぶたに数分のせます。その後、やさしく目やにを拭き取ることで、固まった分泌物をスムーズに除去でき、まぶた周辺の血行促進によって症状が和らぐことがあります。 - 清潔な環境の維持
タオルや寝具をこまめに洗濯し、日光の下でしっかり乾かすことで、細菌やウイルスの繁殖を抑制できます。家族間などでタオルやアイメイク用品を共有しないことも感染予防に有効です。 - 適切なアイメイク除去
就寝前にはしっかりメイクを落とし、まぶたのキワやまつげの根元の汚れが残らないよう注意します。メイク残りは細菌の繁殖の温床になりやすく、目やに増加の原因となります。
医療機関での治療
- 感染による場合
ウイルス性結膜炎では抗ウイルス薬、細菌性結膜炎では抗生物質、真菌性の場合は抗真菌薬など、原因に合った点眼薬が処方されることがあります。 - アレルギーによる場合
抗ヒスタミン薬を含む点眼薬やステロイド点眼薬などが必要に応じて用いられます。アレルゲンを特定し、回避できるよう生活習慣を見直すことも重要です。 - ものもらい・涙道閉塞など
ものもらいが悪化して膿が溜まっている場合は、切開して膿を排出する処置が行われることがあります。涙道閉塞が疑われる場合は、涙道を洗浄したり拡張したりする治療が実施され、状態によっては手術的治療が検討されます。 - 角膜潰瘍
原因となる細菌やウイルス、真菌に応じた点眼薬や内服薬が処方されます。進行すると角膜移植が必要になる場合もあるため、早期発見が何よりも大切です。
なお、最近の国際的な研究(Zhuほか、2022年、Ophthalmology、DOI:10.1016/j.ophtha.2022.01.024)では、ものもらいや結膜炎などの眼周辺感染症において早期診断・早期治療が予後を改善する重要な要素であると報告されています。特に軽度のものもらいであっても繰り返し発生する場合は医療機関の受診を強く推奨されています。
目やにの予防法
目の健康を長く守るためには、日頃から目を清潔に保ち、リスクとなる行動を避けることが大切です。以下のポイントを意識すると、目やにの増加や関連する眼疾患を予防しやすくなります。
- 手で顔や目をむやみに触らない
手には多くの雑菌が付着しており、目をこすったりすると菌が入りやすくなります。特に外出先や公共の場所などでは意識して顔や目に触れないようにしましょう。 - こする前に手を洗う
どうしても目の周りがかゆいときや、コンタクトレンズの装用・取り外しをする場合は、必ず先に石けんで手を洗い清潔にします。アルコール除菌も有効ですが、目を触る前には石けんと水による手洗いがより確実です。 - 朝の拭き取りケア
起床時、目やにが多いようなら、清潔な湿ったタオルや綿棒を用いて、まぶた周辺をやさしく拭き取ります。力を入れすぎると目の表面を傷つける可能性があるため、あくまでやさしく行うことが重要です。 - 就寝前のメイク落とし
マスカラやアイライン、アイシャドウなどがまぶたやまつげの根元に残っていると、細菌が繁殖するリスクが高まります。クレンジング剤でしっかり落とし、洗顔を丁寧に行いましょう。 - タオルやメイク用品の共有を避ける
他人のタオルやアイメイク用品には、ウイルスや菌が付着している可能性があります。家族や友人であっても、目元に直接触れるものは共有しない方が安全です。 - コンタクトレンズの使用管理
レンズの装用時間やお手入れ方法を守らないと、角膜潰瘍や結膜炎のリスクが高まります。コンタクトレンズの装用者は、定期的に眼科を受診して目の健康状態をチェックし、指示通りの洗浄・保存を心がけてください。 - 寝具を清潔に保つ
枕カバーやシーツ、タオルケットなどはこまめに交換し、できれば天日干しするか熱風乾燥機でしっかり乾燥させます。寝具には皮脂や汗、ホコリが付着しやすいため、清潔に保つことで目のトラブルを未然に防げます。 - 感染が疑われる場合はタオルを分ける
結膜炎やものもらいなど、感染力のある症状を発症している場合は、両目でタオルを分けるか、使い捨てのペーパータオルを用いると感染が拡大するリスクを抑えられます。
これらを習慣的に行うことで、目の健康を守り、目やにやそれに伴う不快症状の発生を大幅に減らすことが期待できます。2021年にInvest Ophthalmol Vis SciにてAritaほかが実施した多施設共同研究(DOI:10.1167/iovs.62.5.23)でも、毎日のアイケアと正しい衛生管理が結膜炎やドライアイをはじめとする多くの目のトラブルを防ぐ要因になると示唆されています。
まとめと今後の注意点
目やには、通常は寝ている間に目を保護するために分泌される生理現象の一部です。しかし、量や性質が普段と明らかに異なる場合や、目の痛みや充血、視力低下など他の症状を伴う場合には、重大な病気のサインである可能性を否定できません。適切なセルフケアだけでは対処しきれない場合や症状が長引く場合には、専門の眼科医に相談しましょう。
また、ドライアイや結膜炎など、現代のライフスタイルや環境によって引き起こされやすい目のトラブルは、今後さらに増えると予想されています。特にパソコンやスマートフォンの使用時間が長い方や、コンタクトレンズを長時間装用している方は、定期的に眼科検診を受けるとともに、生活習慣を見直すことが推奨されます。衛生面では、手洗いやタオル・寝具などの清潔さを保つことが肝心です。
さらに、ものもらいや涙道閉塞、角膜潰瘍といった感染や傷による眼疾患は、放置すると失明などの重篤な事態を招きかねません。少しでも異常を感じた場合は早めに医療機関で相談し、必要な検査や治療を受けるようにしてください。
このように、目やにが増える背景には多彩な要因が潜んでおり、個々の症状や原因に応じた対処が必要です。毎日の生活のなかで正しい目のケアを行うことはもちろん、専門家の助言を受けることで早期の発見や適切な治療が行いやすくなります。目は一生の宝とも言われるほど大切な器官です。日々の対策を積み重ねていくことで、健康的な視覚を保ち、より豊かな生活を送ることができるでしょう。
免責事項および医療機関の受診について
本記事の情報は、一般的な目やにや目の健康に関する参考情報を提供することを目的としています。したがって、この記事自体が専門家の診断や治療に代わるものではありません。症状の程度や原因は個々人によって異なりますので、疑わしい症状や強い違和感、視力低下などがある場合には、必ず眼科や医療専門家を受診してください。
また、本記事では信頼性の高い情報をもとに内容をまとめていますが、今後の研究成果や医学的知見の進歩により、新しい治療法や予防法が確立される可能性もあります。常に最新の情報を参考にしながら、医療専門家のアドバイスを受けることがより安全で確実な選択となります。
参考文献
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- Why Your Eyes Are Crusty in the Morning アクセス日: 09/08/2021
- Eye discharge アクセス日: 09/08/2021
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- Mắt đổ ghèn nhiều là dấu hiệu của bệnh gì? アクセス日: 09/08/2021
- Allergic conjunctivitis アクセス日: 28/3/2023
- Dry eyes アクセス日: 28/3/2023
- Han KE, Yoon SC, Ahn JM, Nam SM, Kim EK, Seo KY. “Evaluation of ocular surface disease index in patients with chronic ocular discomfort: a prospective observational study.” BMC Ophthalmology. 2021;21(1):159. doi:10.1186/s12886-021-01913-y
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以上の文献や研究は国際的に権威のある学会誌や医療機関により発表されたものであり、信頼性が高いとされています。必要に応じて原文献を参照し、さらなる知識の習得や専門医との連携にお役立てください。症状の経過や個人差を考慮し、安全かつ最適な判断をするためにも、専門家のアドバイスを活用しながら日々のケアを実践していくことを強くおすすめいたします。