この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源の一部と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示したものです。
- Ferreira, C. H. J., et al. (2024)のシステマティックレビュー・メタアナリシス: この記事における「骨盤底筋トレーニングが性的興奮、オルガズム、満足度、疼痛を改善する」という主要な推奨は、American Journal of Obstetrics and Gynecologyに掲載されたこの包括的な分析に基づいています2。
- Sobhgol, S. S., et al. (2019)のシステマティックレビュー・メタアナリシス: 産後の女性に対する骨盤底筋トレーニングの有効性に関する記述は、Journal of Midwifery & Reproductive Healthで発表されたこの研究から得られたものであり、産後の性的機能と生活の質の向上を裏付けています3。
- 観鷺 光, et al. (2014)の日本国内臨床研究: 「この効果は日本人女性でも確認されている」との記述は、日本の理学療法学術大会で発表されたこの研究に基づいています。日本人女性において、骨盤底筋トレーニングが性機能指数(FSFI)の全項目を有意に改善させたことを示しています4。
- 国際泌尿婦人科学会(IUGA)/国際禁制学会(ICS)の共同報告書: 記事全体で使用される専門用語の定義や、骨盤底機能不全と性の健康の関連性についての権威ある根拠は、これらの国際的組織が発表した複数の共同報告書に基づいています15。
要点まとめ
- 骨盤底筋トレーニング(PFMT)は、女性の性機能(性的興奮、オルガズム、満足度、性交痛)を改善するための、科学的根拠に基づいた有効な方法です。
- その効果は、世界的な研究2だけでなく、日本人女性を対象とした臨床研究4でも確認されています。
- 効果を最大限に引き出すためには、正しい方法で筋肉を意識し、息を止めず、他の筋肉を使いすぎないことが不可欠です。継続することが最も重要です。
- エクササイズだけでなく、正しい姿勢や呼吸、生活習慣の見直しも骨盤底の健康には重要です。
- 痛みが続く、改善が見られない、または正しい方法に自信が持てない場合は、一人で悩まずに婦人科医や専門の理学療法士に相談することが推奨されます。
なぜ今、骨盤底筋が注目されるのか?性の健康への影響
骨盤底筋群は、膀胱や子宮などの臓器を支えるハンモックのような役割を果たすだけでなく、女性の性的反応の根幹をなす生理機能に深く関与しています。この筋肉群の健康状態が、性の喜びや快適さに直接影響を与えるのです。
性的興奮と血流
性的興奮の過程では、性器周辺への血流増加が不可欠です。健康でしなやかな骨盤底筋は、この血流を促進し、性的反応を高める上で重要な役割を担います。2024年に発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシスによると、骨盤底筋トレーニングは女性の性的興奮を有意に改善することが示されています2。適切に機能する筋肉は、神経の感受性を高め、より豊かな感覚をもたらす可能性があります。
オルガズムと筋肉の収縮
オルガズムは、骨盤底筋の不随意なリズミカルな収縮によって特徴づけられます。筋肉が強く、協調して動く能力があれば、この収縮がより強くなり、オルガズムの強度や満足感を高める可能性があります。複数の臨床試験を分析した研究でも、骨盤底筋トレーニングがオルガズムの改善に寄与することが報告されています3。
性交痛との関連
性交痛(ディスパレウニア)は、多くの女性が経験するものの、相談しにくい問題の一つです。その原因の一つに、骨盤底筋の機能不全があります。筋肉が弱すぎる、あるいは逆に過度に緊張している(過緊張)状態は、性交時の痛みを引き起こすことがあります。骨盤底筋トレーニングは、筋肉の緊張を和らげ、柔軟性とコントロールを改善することで、痛みを軽減する効果が期待できます。実際に、日本人女性を対象とした研究では、骨盤底トレーニングによって疼痛スコアが大幅に低下したことが確認されています4。
【科学的根拠】骨盤底筋トレーニングは本当に性機能を改善するのか?
骨盤底筋トレーニングの有効性は、個人の体験談だけでなく、数多くの科学的研究によって裏付けられています。ここでは、入手可能な最高レベルのエビデンスに基づき、その効果を検証します。
世界の研究が示すこと:システマティックレビューとメタアナリシス
科学的根拠のレベルで最も信頼性が高いとされるのが、複数の研究を統合して分析する「システマティックレビュー」や「メタアナリシス」です。2024年にAmerican Journal of Obstetrics and Gynecology誌に掲載された最新のメタアナリシスでは、骨盤底筋トレーニングが女性の性機能障害の治療法として有効であることが示されました。具体的には、性的興奮、オルガズム、満足度、そして疼痛の各項目において、統計的に有意な改善が見られたのです2。また、2019年の別のメタアナリシスでは、特に産後の女性において、骨盤底筋トレーニングが性的機能と生活の質(QOL)を有意に向上させることが結論付けられています3。ただし、これらの研究は同時に、エビデンスの確実性が「低いから中程度」であるとも指摘しており、結果の解釈には透明性が求められます2。これは、研究デザインのばらつきなどが原因であり、効果がないという意味ではありません。
日本国内の研究:日本人女性にもたらされた効果
こうした国際的な知見は、日本の女性にも当てはまるのでしょうか。答えは肯定的です。日本の理学療法士らが行った臨床研究では、女性性機能障害を持つ日本人女性に骨盤底トレーニングを実施した結果、国際的に使用されている女性性機能指数(FSFI)の全6項目(性欲、興奮、潤滑、オルガズム、満足、疼痛)すべてにおいて、有意な改善が認められました。特に、痛みの指標(VAS)は顕著に低下し、トレーニングの有効性が強く示唆されました4。このことは、骨盤底筋トレーニングが文化や人種を超えて、女性の性の健康に貢献する普遍的なアプローチであることを示しています。
あなたの骨盤底筋は大丈夫?セルフチェックと衰えのサイン
自分の骨盤底筋の状態を意識することは、ケアの第一歩です。以下に挙げる原因やサインに心当たりがないか、確認してみましょう。
骨盤底筋が弱まる主な原因
骨盤底筋への負担は、特定のライフイベントや生活習慣によって増加します。これらが複合的に関わっている場合も少なくありません。
- 妊娠・出産:妊娠中の子宮の重みや、経膣分娩時の筋肉の伸展は、骨盤底筋に大きなダメージを与える可能性があります6。
- 加齢・閉経:加齢に伴う筋力の低下や、閉経後の女性ホルモンの減少は、筋肉の弾力性を失わせる一因となります7。
- 体重増加・肥満:体重が増えると、骨盤底筋にかかる持続的な圧力が増大します8。
- 慢性的な咳や便秘:咳やくしゃみ、排便時のいきみは、腹圧を急激に高め、骨盤底筋に負担をかけます6。
- その他:重いものを持ち上げる仕事や、長時間の立ち仕事なども危険因子となり得ます。
自宅でできる簡単なセルフチェックリスト
花王株式会社の専門家監修情報などを参考に、ご自身の状態をチェックしてみましょう。一つでも当てはまれば、骨盤底筋が弱っている可能性があります7。
- くしゃみや咳、笑った時などに尿がもれることがある。
- 重いものを持ち上げた時に尿がもれることがある。
- トイレが近くなった、間に合わないことがある。
- 入浴後、意図せず膣からお湯が出てくることがある。
- 膣から何かが出てくるような違和感がある。
- 性交時に痛みを感じたり、以前より感覚が鈍くなったと感じる。
【実践ガイド】専門家が教える正しい骨盤底筋エクササイズ
骨盤底筋トレーニングは、ただやみくもに行っても効果は得られません。正確性と安全性を最優先に、段階的に進めていきましょう。
準備:まず「感じる」ことから始めよう
最も重要な最初のステップは、鍛えるべき筋肉がどこにあるのかを正確に特定することです。多くの人が、腹筋や臀筋(お尻の筋肉)に力を入れてしまいがちです。まずは、清潔な指を膣内に少し入れ、「おならを我慢する」「尿を途中で止める(※頻繁に行うのは非推奨)」といった動作をしてみてください。指がキュッと締め付けられる感覚があれば、それが骨盤底筋です9。この「指を使ったバイオフィードバック」は、筋肉を正しく意識するための非常に有効な方法です。
基本のエクササイズ(ケーゲル体操)
筋肉を特定できたら、基本的なエクササイズを開始します。米国泌尿婦人科学会(AUGS)などの専門機関が推奨する一般的な手順は以下の通りです9。
- 仰向けになり、膝を立ててリラックスします。
- 息を吐きながら、骨盤底筋をゆっくりと締め上げ、膣や肛門を体の内側に引き上げるようなイメージで収縮させます。
- 3〜5秒間、その状態を保持します。この時、呼吸を止めないように注意してください。お腹やお尻、太ももの筋肉はリラックスさせたままにします。
- 息を吸いながら、ゆっくりと3〜5秒間かけて完全に力を抜きます。収縮させることと同じくらい、完全に弛緩させることが重要です。
- この収縮と弛緩を10回繰り返すのを1セットとし、1日に3セット行うことを目標にします。
応用編:日常生活に取り入れる「ながらトレーニング」
基本の動きに慣れてきたら、日常生活の様々な場面でトレーニングを取り入れることができます。例えば、歯磨き中、信号待ちの時間、デスクワークの合間などに、座ったままでも立ったままでも意識的に数回、骨盤底筋の収縮と弛緩を繰り返してみましょう10。これにより、トレーニングを習慣化しやすくなります。
やってはいけないNG例と注意点
間違った方法は、効果がないばかりか、かえって症状を悪化させる可能性もあります。以下の点に注意してください9。
- 息を止めない:息を止めると腹圧が高まり、骨盤底筋に余計な負担がかかります。
- 他の筋肉を使わない:腹筋、臀筋、内ももの筋肉に力が入ってしまうのは間違いです。あくまで骨盤底筋だけを単独で動かすことを意識します。
- やりすぎない:筋肉痛が起こるほどの過度なトレーニングは避けましょう。何事も継続が力です。
エクササイズだけじゃない:性の健康を高める統合的アプローチ
骨盤底筋トレーニングは非常に効果的ですが、それを骨盤全体の健康という、より広い視点の中に位置づけることで、さらなる効果が期待できます。
姿勢と呼吸の重要性
骨盤底筋は単独で機能しているわけではありません。横隔膜(呼吸筋)、腹横筋(体幹のインナーマッスル)、多裂筋(背骨を支える筋肉)と連動し、「インナーユニット」として働いています。日本の研究でも、骨盤底トレーニングにおいて、これらの筋肉群との協調運動を学習することの重要性が示唆されています4。猫背などの悪い姿勢は骨盤底への圧力を高めるため、正しい姿勢を保ち、深い呼吸を意識することは、エクササイズの効果を高める上で役立ちます。
生活習慣の見直し
骨盤底筋への日常的な負担を減らすことも重要です。米国泌尿婦人科学会などの専門機関は、適正体重の維持や、食物繊維の豊富な食事と十分な水分摂取による便秘の解消を推奨しています8。これらは、骨盤底筋への過剰な圧力を減らし、トレーニングの効果をサポートします。
いつ専門家に相談すべきか?
セルフケアは多くの女性にとって有効ですが、専門家の助けが必要な場合もあります。ためらわずに専門医の診察を受けましょう。
このような症状があれば医療機関へ
以下のいずれかの症状が見られる場合は、婦人科や泌尿器科、あるいはウロギネコロジー(泌尿婦人科学)を専門とする医療機関への相談を強く推奨します。
- 性交時の痛みが持続する、または悪化する。
- 膣から何かピンポン玉のようなものが下がってくる感覚がある(骨盤臓器脱の可能性)。
- 数ヶ月間エクササイズを続けても、尿漏れやその他の症状に全く改善が見られない。
- どの筋肉を使えばよいのか、どうしても感覚が掴めない。
骨盤底リハビリテーションとは?理学療法士の役割
専門の理学療法士は、骨盤底リハビリテーションの専門家です。内診による筋肉の動きの評価、バイオフィードバック装置を用いたトレーニング、電気刺激療法、そして個々の状態に合わせた運動プログラムの作成など、より専門的な介入を行います。亀田メディカルセンターのウロギネ・女性排尿機能センターのような先進的な施設では、医師と理学療法士が連携し、包括的な治療を提供しています11。正しい方法を専門家から直接指導してもらうことは、改善への確実な近道です。
よくある質問
どのくらいで効果が出ますか?
個人差はありますが、多くの研究や診療ガイドラインでは、正しい方法で一貫してトレーニングを続けた場合、2〜3ヶ月で尿漏れなどの自覚症状に顕著な改善が見られることが示唆されています12。性的機能の改善に関しても、同程度の期間、継続することが一つの目安となります。大切なのは、すぐに結果が出なくても諦めずに続けることです。
「膣トレグッズ」は使ったほうがいいですか?
市場には様々な「膣トレグッズ」がありますが、その効果や安全性は玉石混交です。国際的な専門家組織(IUGA/ICS)の用語集では、「膣内デバイス」として、バイオフィードバック機能を持つものや重り(コーン)などが定義されています5。これらは、専門家の指導の下で使用すれば、筋肉を意識する助けになる場合があります。しかし、科学的根拠が不明確な製品も多いため、使用する際は自己判断に頼らず、まずは専門医や理学療法士に相談することをお勧めします。
帝王切開でもトレーニングは必要ですか?
はい、必要です。経膣分娩が骨盤底筋に大きな負担をかけることは事実ですが、帝王切開で出産した場合でも、妊娠期間中の子宮の重みが持続的に骨盤底筋へ負荷をかけています6。そのため、分娩方法にかかわらず、産後の骨盤底筋ケアは全ての女性にとって重要です。
結論
骨盤底筋トレーニングは、もはや尿漏れ対策のためだけのものではありません。それは、女性が自身の身体と向き合い、より豊かで快適な性生活を取り戻すための、科学的根拠に裏打ちされた強力な手段です。最新の研究は、この地道なエクササイズが性的興奮、オルガズム、そして満足感を高め、性交痛を和らげる力を持つことを示しています2。その効果は、日本人女性においても確認されています4。
この記事で紹介した正しい方法を参考に、まずはご自身の体と向き合うことから始めてみてください。最も重要なのは、正確なフォームで、焦らず、継続することです。もし症状にお悩みの場合や、正しい方法に自信が持てない場合は、決して一人で抱え込まないでください。婦人科、泌尿器科、あるいは骨盤底を専門とする理学療法士への相談が、あなたの健康と幸福への確かな一歩となるでしょう。
参考文献
- Rogers RG, et al. An International Urogynecological Association (IUGA)/International Continence Society (ICS) Joint Report on the Terminology for Female Pelvic Floor Dysfunction. Int Urogynecol J. 2022. doi:10.1007/s00192-022-05127-x. Available from: https://www.ics.org/2024/abstract/280
- Ferreira CHJ, et al. Pelvic floor muscle training as treatment for female sexual dysfunction: a systematic review and meta-analysis. Am J Obstet Gynecol. 2024;S0002-9378(24)00002-3. doi:10.1016/j.ajog.2024.01.001. PMID: 38191016. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38191016/
- Sobhgol SS, et al. Effect of pelvic floor muscle training on postpartum sexual function and quality of life: A systematic review and meta-analysis of clinical trials. J Midwifery Reprod Health. 2019;7(4):1896-1906. doi:10.22038/jmrh.2019.14182. Available from: https://www.researchgate.net/publication/337408578_Effect_of_pelvic_floor_muscle_training_on_postpartum_sexual_function_and_quality_of_life_A_systematic_review_and_meta-analysis_of_clinical_trials
- 観鷺 光, 他. 女性性機能障害に対する骨盤底トレーニング効果. 日本理学療法学術大会 抄録集. 2014;2013:1327. doi:10.14900/cjpt.2013.0.1327.0. Available from: https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2013/0/2013_1327/_article/-char/ja/
- Bø K, et al. An International Urogynecological Association (IUGA)/International Continence Society (ICS) joint report on the terminology for the conservative and nonpharmacological management of female pelvic floor dysfunction. Neurourol Urodyn. 2017;36(2):221-244. doi:10.1002/nau.23070. PMID: 27918122. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27918122/
- エリエール. 骨盤底筋がゆるむとどうなる?ゆるみの原因と今日からできる改善法 [インターネット]. [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://www.elleair.jp/attento/article/useful/203226/
- 花王株式会社. 【専門医監修】骨盤底筋ゆるみ度セルフチェック | 尿もれに悩むオトナ女性に。FemCare LAB [インターネット]. [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://www.kao.com/jp/femcarelab/selfcheck/
- Holston Medical Group. Pelvic organ prolapse [インターネット]. [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://www.holstonmedicalgroup.com/wp-content/themes/hmg-v4/assets/pdf/pelvic-organ-prolapse.pdf
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- ふくもとメンズヘルスケアクリニック. 骨盤底筋トレーニングで早漏を改善|「筋トレ」で射精コントロールを手に入れる [インターネット]. [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://fukumoto-menshealth.clinic/column/pe/post3961/
- 亀田メディカルセンター ウロギネ・女性排尿機能センター. 骨盤底リハビリ [インターネット]. [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://www.kameda.com/pr/urogyne_center/rehabilitation.html
- 杏林製薬株式会社. 無理なくできる骨盤底筋訓練 [インターネット]. 2022年6月 [引用日: 2025年7月27日]. Available from: https://www.kyorin-medicalbridge.jp/library/urology-education/files/202206_ICUT0010.pdf