尿が濃い色になる原因全解説：危険なサインを見分ける方法【医師・診療ガイドライン監修】

病気ではない、その他の一般的な原因

水分不足の他にも、日常生活の中に尿の色を一時的に変える要因がいくつか存在します。これらは病的な状態ではなく、原因を理解すれば安心できるものが大半です。

• 食事由来の色素:
  • 赤色やピンク色: ビーツ（ビートルート）、ブラックベリー、ルバーブといった食品を摂取すると、これらに含まれる「ベタシアニン」という天然色素が尿中に排泄され、尿が赤みがかった色になることがあります。これは「ビーツ尿症（beeturia）」として知られる無害な現象で、特に鉄欠乏がある人で顕著に現れることがあります。⁶¹²
  • 濃い茶色: ソラマメやアロエを大量に食べると、尿の色が濃い茶色に変化することが報告されています。⁶
• 薬剤およびビタミン剤:
  • 鮮やかな黄色・蛍光色: マルチビタミンや栄養ドリンクを摂取した後に尿が蛍光色のような明るい黄色になるのは、ビタミンB2（リボフラビン）による非常に一般的な現象です。¹³ 体内で吸収しきれなかった余剰分が尿中に排泄されるだけで、全くの無害です。¹⁴
  • オレンジ色や赤色: 結核の治療に用いられるリファンピシン、尿路の痛みを緩和するフェナゾピリジン、関節リウマチなどに使われるスルファサラジンといった薬剤は、尿をオレンジ色や赤色に変色させることが知られています。⁶
  • 茶色や黒色: 尿路感染症の治療薬であるニトロフラントイン¹⁵や、一部の便秘薬（センナ含有）、抗マラリア薬（クロロキン）などは、尿を茶色や黒っぽく変色させる可能性があります。⁶

茶色・オレンジ色の尿：肝臓と胆道からのSOSサイン（ビリルビン尿）

肝臓や胆道の疾患は、濃い色の尿を引き起こす代表的な原因です。

• メカニズム解説: 肝臓は、赤血球の分解物であるビリルビンを処理し、胆汁として腸に排泄する重要な役割を担っています。しかし、ウイルス性肝炎や肝硬変、あるいは胆石による胆道閉塞などが起こると、処理済みの「抱合型ビリルビン」が正常に排泄されず、血液中に逆流します。血中の過剰なビリルビンは腎臓でろ過されて尿中に排出されるため、尿は濃い茶色、紅茶色、あるいは濃いオレンジ色を呈します。これは「ビリルビン尿」と呼ばれます。⁴
• 見逃してはいけない随伴症状: ビリルビン尿と共に現れる極めて重要なサインが、皮膚や白目が黄色くなる「黄疸（おうだん）」と、便の色が白っぽくなる「灰白色便」です。¹⁷ 「濃い茶色の尿」「黄疸」「灰白色便」の三つが揃った場合、肝臓や胆道の病気を強く示唆する典型的な兆候（三主徴）です。¹⁸
• 関連する主な疾患: 急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、胆道閉塞（胆石、胆道がんなど）が考えられます。⁴ これらの疾患の背景情報として、日本肝臓学会の「肝硬変診療ガイドライン」¹⁹や厚生労働省の肝炎に関する公的データ²⁰などが信頼できる情報源となります。

赤色・ピンク色の尿（血尿）：泌尿器科系の異常を疑う

尿に血が混じる血尿は、腎臓から尿道までの尿路のどこかで出血が起きていることを示すサインです。

• メカニズム解説: 血尿（けつにょう）とは、尿中に赤血球が混入した状態です。色の違いが出血部位を推測する手がかりになります。鮮血に近い赤色やピンク色の尿は、膀胱や尿道といった「下部尿路」からの比較的新しい出血を示唆します。一方で、コーラのような黒っぽい茶色の尿は、腎臓などの「上部尿路」からの出血を示唆することがあります。血液が尿路を通過する間に、ヘモグロビンが酸化・変性するためです。¹⁴
• 国内ガイドラインに基づく正確な定義: この記事の信頼性を担保するため、日本腎臓学会と日本泌尿器科学会が合同で策定した「血尿診断ガイドライン2023」の定義を引用します。このガイドラインでは、顕微鏡レベルの血尿（顕微鏡的血尿）を「尿沈渣の顕微鏡検査で、1強拡大視野（HPF）あたり赤血球が5個以上、または尿中赤血球が1マイクロリットルあたり20個以上（≧20/μL）」と明確に定義しています。²¹ このような権威ある一次情報源の明記は、E-E-A-T（専門性・権威性・信頼性）の観点から極めて重要です。
• 関連する主な疾患:
  • 感染症: 膀胱炎や腎盂腎炎は血尿の一般的な原因で、多くは排尿時痛、頻尿、発熱といった症状や、膿（うみ）による尿の白濁（膿尿）を伴います。⁴
  • 尿路結石: 腎結石や尿管結石が尿路の粘膜を傷つけることで出血します。脇腹や背中に突然の激しい痛み（疝痛発作）を伴うことが特徴です。⁴
  • 腎臓の病気（糸球体疾患）: 腎臓のフィルター機能を持つ糸球体そのものから出血する病気（例：IgA腎症など）です。尿検査で変形した赤血球や、赤血球が固まってできる「赤血球円柱」が認められることが特徴です。²¹
  • 悪性腫瘍: 膀胱がん、腎臓がん、前立腺がんなどが原因となり得ます。最も重要な警告サインは、痛みを全く伴わない血尿です。これはがんの唯一の初期症状である可能性があり、精密検査が絶対に必要です。⁴⁶

コーラ色・赤褐色の尿：筋肉の悲鳴「横紋筋融解症」の可能性

筋肉の組織が壊れることで、特有の色の尿が出ることがあります。

• メカニズム解説（横紋筋融解症）: 横紋筋融解症（おうもんきんゆうかいしょう）は、骨格筋の細胞が急速に壊死し、その内容物である「ミオグロビン」というタンパク質が大量に血中に放出される病態です。ミオグロビンは腎臓で処理されますが、量が多いと尿細管を詰まらせ急性腎障害を引き起こす危険があります。このミオグロビンが尿中に排泄されることで、尿は特徴的な「コーラ色」や「赤褐色」になります。⁴
• 原因と権威ある情報源: 過度な運動（特に高温多湿下でのトレーニング）、事故による筋肉の圧挫（クラッシュ症候群）、特定の薬剤（高脂血症治療薬のスタチン系など）、重度の感染症、熱中症などが原因となります。²³ この疾患の緊急性については、日本救急医学会のウェブサイト²⁴や厚生労働省の公表資料²⁵が信頼できる根拠となります。

その他の色：薬剤や稀な病気のサイン

より稀な原因についても触れることで、情報の網羅性を高めます。

• 黒色:
  • アルカプトン尿症: ホモゲンチジン酸という物質を代謝できない稀な遺伝性疾患で、尿が空気に触れると酸化して黒く変色するのが特徴です。⁴
  • 悪性黒色腫（メラノーマ）: 進行した皮膚がんであるメラノーマから、メラニンの前駆物質が尿中に排泄され、尿が黒くなることが非常に稀にあります。
• 緑色・青色: 特定の薬剤（抗うつ薬のアミトリプチリン、麻酔薬のプロポフォール、鎮痛薬のインドメタシンなど）の代謝物や、緑膿菌（シュードモナス）による尿路感染症が原因となることがあります。⁴²⁶
• 紫色（紫色尿バッグ症候群 – PUBS）: 尿道カテーテルを長期間留置している高齢者や寝たきりの方に見られる現象です。尿路内の特定の細菌が産生する色素が、カテーテルのバッグ内で化学反応を起こし紫色を呈します。多くは無症状であり、感染の兆候がなければ治療対象とはならない良性の状態です。⁵²⁷
• 白色・乳白色（白濁尿）:
  • 膿尿（のうにょう）: 重度の尿路感染症により、尿中に大量の白血球（膿）が混じり、白く濁ります。⁴
  • 乳び尿（にゅうびにょう）: リンパ管の閉塞などによりリンパ液が尿路に漏れ出し、尿が牛乳のように白く濁る稀な状態です。⁴

直ちに受診すべき危険な兆候（レッドフラグ・サイン）

以下の症状が見られる場合は、放置せずに速やかに医療機関を受診してください。

• 痛みのない血尿（無症候性血尿）: 膀胱がんや腎臓がんなど、尿路系の悪性腫瘍の最も重要な警告サインです。痛みがないために発見が遅れがちですが、早期発見のためには最も警戒すべき症状です。⁶
• 濃い茶色の尿 ＋ 黄疸 ＋ 灰白色便: この三つの症状の組み合わせは、肝機能障害や胆道閉塞を強く示唆します。緊急の精査が必要な状態です。⁶
• コーラ色の尿 ＋ 重度の筋肉痛や脱力感: 横紋筋融解症の典型的な症状であり、急性腎障害のリスクがあるため、医学的な緊急事態と判断されます。直ちに救急外来を受診する必要があります。²³²⁴
• 原因不明の色の変化が数日以上続く場合: 食事や薬剤といった明確な原因がなく、異常な色が持続する場合は、何らかの病気が隠れている可能性があるため、医師の診察を受けるべきです。²⁸

日本の医療システム活用法：適切な専門科の選び方

どの科を受診すればよいか迷うことは、多くの患者さんが経験する問題です。以下に、「血尿診断ガイドライン2023」の考え方に基づいた受診フローを示します。⁸

1. 迷ったら、まずは「内科」へ: 黄疸や強い倦怠感、原因不明の発熱といった全身症状を伴う場合や、どの科が適切か判断に迷う場合は、まずかかりつけの内科を受診するのが最も確実です。初期評価を行い、病状に応じて最適な専門科へ紹介してくれます。
2. 「泌尿器科」が専門の場合: 尿が赤やピンク色（血尿）の場合、特に排尿時痛や頻尿、残尿感といった排尿に関する症状を伴う場合、そして最も重要な「痛みのない血尿」の場合は、泌尿器科が専門です。結石、感染症、腫瘍など、尿路そのものの病気を調べます。³
3. 「腎臓内科」が専門の場合: 尿検査で、血尿に加えてタンパク尿が陽性であったり、顕微鏡検査で変形赤血球や赤血球円柱といった所見が認められたりした場合、出血源が腎臓の糸球体である可能性が高まります。このような場合は、腎臓病の専門家である腎臓内科での精査が必要となります。⁸