胃痛に対する睡眠姿勢の臨床的指針:胃食道逆流症と機能性ディスペプシアの科学的根拠に基づく分析
消化器疾患

胃痛に対する睡眠姿勢の臨床的指針:胃食道逆流症と機能性ディスペプシアの科学的根拠に基づく分析

「胃痛があるとき、どちらを向いて寝るべきか?」という問いは、多くの人々が抱く切実な疑問です。この問いに対する答えは、単純に「左」か「右」かという二者択一ではありません。最適な寝姿勢は、その「胃痛」の根本原因によって全く異なるためです。夜間に経験される胃の不快感は、臨床的には主に二つの異なる病態に起因します。第一に、胃酸を含む胃の内容物が食道へ逆流することにより、胸焼けや呑酸(どんさん)といった不快な症状を引き起こす疾患である胃食道逆流症(GERD)です1。第二に、内視鏡検査などで明らかな器質的疾患が認められないにもかかわらず、食後のもたれ感や膨満感、心窩部(みぞおち)の痛みといった消化不良症状が慢性的に続く状態である機能性ディスペプシア(FD)を指します2。本稿の目的は、これらの症状に基づいて最適な睡眠姿勢を選択するための、科学的根拠に基づいた決定的な指針を提供することです。そのために、国内外の主要な診療ガイドライン、最新の科学的研究、そして人体の解剖学的構造に関する深い知見を統合し、包括的な分析を行います。本稿は、まず寝姿勢が胃に与える影響の解剖学的な基礎を解説し、次にGERDとFDそれぞれに最適な姿勢を科学的証拠と共に詳述します。最終的に、これらの知見を統合し、読者が自身の症状に応じて実践できる、具体的かつ安全な行動計画を提示します。

この記事の要点まとめ

  • 胃痛時の最適な寝姿勢は、その原因が「胃酸の逆流」か「消化不良」かによって異なります。
  • 胸焼けや呑酸(胃食道逆流症)が主な症状の場合、左側臥位(左向き寝)が科学的に強く推奨されます。これにより、胃の構造上、胃酸が食道へ逆流しにくくなります。
  • 胃もたれや食後の膨満感(機能性ディスペプシア)が主な症状の場合、右側臥位(右向き寝)が消化を助ける可能性がありますが、その科学的根拠は左側臥位ほど強くありません。
  • 体位に関わらず夜間の逆流を防ぐには、枕を重ねるのではなく、上半身全体を15~20度持ち上げる「頭部挙上(HOBE)」が最も効果的です。
  • 就寝前2~3時間の食事を避ける、脂肪の多い食事やアルコールを控えるといった生活習慣の改善が、あらゆる胃の不快感に対する基本かつ最も重要な対策です。
  • 症状が続く場合は自己判断せず、必ず消化器内科などの専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることが不可欠です。

第1節 解剖学的基礎:なぜ睡眠時の体位が重要なのか

睡眠時の体位が胃の不快感に与える影響は、単なる経験則ではなく、上部消化管の解剖学的構造という不変の事実に根差しています。この物理的・機械的な関係性を理解することは、最適な寝姿勢を選択する上での論理的基盤となります。

上部消化管の非対称な解剖学的構造

人間の消化管、特に胃の形状と配置は、左右対称ではありません。この非対称性が、体位による影響を決定づける最も重要な要因です。

胃の「J」字形状と配置

胃は単純な袋ではなく、アルファベットの「J」に似た特有の形状をしています。重要なのは、食道と胃の接合部である噴門(ふんもん)が腹部のやや左上に位置し、胃の出口であり十二指腸へとつながる幽門(ゆうもん)が右側に位置している点です3。この解剖学的配置は、体位によって胃内容物の動態が大きく変化することを意味します。

重力の役割

立っている、あるいは座っている姿勢では、重力が胃の内容物を下方、つまり腸の方向へと留めるのを助けています。しかし、横になるとこの重力による恩恵が失われ、体位が胃酸や食物の動きを支配する主要な物理的要因となります4

この解剖学的な非対称性こそが、「胃痛」に対する寝姿勢の議論の根源にあります。左側臥位と右側臥位では、胃の入口と出口に対する胃酸溜まり(胃酸湖)の位置関係が劇的に変化します。左側を下にして寝ると、胃の入口である噴門は胃酸湖よりも高い位置に来るため、胃酸が食道へ逆流しにくい物理的バリアが形成されます5。一方、右側を下にして寝ると、噴門は胃酸湖に完全に浸かる形となり、逆流が極めて起こりやすくなります。同時に、胃の出口である幽門は下方に位置するため、消化された内容物が十二指腸へと流れやすくなる可能性があります6。したがって、「左向きが良い」「右向きが良い」という一見矛盾したアドバイスは、それぞれが異なる問題、すなわち「上方への逆流を防ぐ(GERD対策)」か、「下方への排出を促す(消化不良対策)」か、という別の力学的な課題に対処しようとしているために生じるのです。この解剖学的事実が、あらゆる議論の出発点となります。

第2節 胃酸逆流(GERD)の管理:左側臥位の臨床的合理性

胸焼けや呑酸といった胃食道逆流症(GERD)の症状に悩む場合、科学的根拠は明確に「左側臥位」を支持しています。この姿勢は、単なる気休めではなく、解剖学的および生理学的に逆流を抑制する強力な防御策となります。

2.1. 胃食道逆流症(GERD)の臨床的概観

GERDは、胃の内容物が食道に逆流することにより、不快な症状や合併症を引き起こす状態と定義されます1。日本における有病率は人口の約10~12%と推定されており、非常に一般的な疾患です7。主な症状は胸焼けと呑酸ですが、特に夜間に生じる症状は睡眠の質を著しく低下させ、より重篤な食道粘膜障害と関連することが知られています8

2.2. 左側臥位(左側を下にして寝る姿勢):機械的・生理学的な防御壁

左側臥位がGERD症状を緩和するメカニズムは、前述の解剖学的位置関係に基づいています。左側を下にして横になることで、食道と胃の接合部が胃酸の液面よりも物理的に高い位置に保たれ、逆流イベントの発生確率が大幅に減少します5。この効果は単なる理論ではなく、客観的な計測データによって裏付けられています。

2.3. 圧倒的な科学的根拠の統合

左側臥位の有効性は、近年の質の高い研究によって繰り返し証明されています。

メタアナリシスとシステマティックレビューの知見

この推奨の根拠として最も強力なのが、複数の研究を統合・分析したメタアナリシスです。2023年に発表されたシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、右側臥位や仰臥位と比較して、左側臥位(Left Lateral Decubitus, LLD)で睡眠をとることが、食道内酸曝露時間(AET)を有意に減少させ、酸クリアランス時間(ACT)(逆流した酸が食道から除去されるまでの時間)を著しく短縮させることが示されました9。具体的には、右側臥位と比較してAETの平均差は-2.03%、ACTの平均差は-81.84秒と、臨床的に意味のある大きな改善が認められています。睡眠姿勢と食道内pHを同時に監視した別の研究でも、この結果は一貫して支持されており、直接的な生理学的証拠を提供しています10

国際的な診療ガイドラインの推奨

世界的な権威である米国消化器病学会(American College of Gastroenterology, ACG)が2022年に発表した最新の診療ガイドラインでは、左側臥位での睡眠が「病態生理学的に明白(unequivocal)」な根拠を持つとして推奨されています11。これは、専門家集団による極めて強力な支持を意味します。日本の日本消化器病学会(JSGE)によるGERD診療ガイドライン2021においても、薬物療法が治療の中心に据えられているものの、生活習慣の改善はその基本であり、睡眠姿勢の工夫も重要な管理法の一部として位置づけられています12

夜間のGERDは、単に不快な症状を引き起こすだけではありません。それは睡眠構造そのものを破壊する悪循環を生み出します。夜間の逆流は睡眠の断片化を引き起こし、生活の質を低下させます13。客観的な睡眠ポリグラフ検査を用いた研究では、GERD患者は睡眠効率の低下、中途覚醒時間の増加、REM睡眠の減少といった睡眠の質の悪化を示すことが確認されています。そして、この悪影響は右側臥位で睡眠をとっている間に最も顕著になり、左側臥位では大部分が改善されることが明らかになりました14。質の悪い睡眠は自律神経のバランスを乱し、胃の運動機能の低下や内臓の知覚過敏を増悪させ、結果としてGERDの症状をさらに悪化させる可能性があります15。したがって、左側臥位を推奨することは、単に胸焼けを防ぐだけでなく、睡眠の質を保護し、日中の活動性や心身の健康、ひいては消化器疾患自体の重症度にも好影響を与える可能性のある、治療的な介入と言えるのです。

第3節 消化不良(機能性ディスペプシア)への対応:右側臥位の生理学的合理性

一方で、胃もたれや食後の膨満感といった消化不良の症状が主である場合、「右側臥位」が有効であるという説が存在します。これはGERDに対する左側臥位とは逆の考え方であり、その根拠と証拠レベルを慎重に評価する必要があります。

3.1. 機能性ディスペプシア(FD)の臨床的概観

機能性ディスペプシア(FD)は、胃潰瘍やがんなどの器質的疾患がないにもかかわらず、食後のもたれ感、早期飽満感(すぐに満腹になる)、心窩部痛といった、つらい上腹部症状が慢性的に続く疾患です2。日本における有病率は健診受診者の11~17%にのぼるとの報告もあり、非常に多くの人々がこの症状に悩まされています16。その診断と治療においては、日本消化器病学会(JSGE)による機能性消化管疾患診療ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD)が基準となります2

3.2. 右側臥位(右側を下にして寝る姿勢):胃からの排出を助ける可能性

胃もたれや消化の遅延といった症状に対して右側臥位が推奨される理論的根拠は、胃から十二指腸への食物の移動を重力によって助けるという点にあります。この姿勢をとることで、胃の下部(前庭部)と出口(幽門)が十二指腸に対して下方に位置するため、内容物がスムーズに排出されやすくなるのではないかと考えられています6

3.3. 科学的根拠の評価:決定的な違い

ここで極めて重要なのは、この推奨の科学的根拠のレベルです。右側臥位が良いというアドバイスは、多くの健康情報サイトや一部のクリニックで散見されますが17、その根拠は主に前述の解剖学的・生理学的な推論に基づいています6。この点に関して、最も権威ある医学的指針であるJSGEのFD診療ガイドライン2021を精査すると、食事やストレスといった生活習慣因子については詳細な記述があるものの、睡眠時の体位に関する推奨や言及は一切見当たりません2。これは、GERDに対する左側臥位の推奨とFDに対する右側臥位の推奨との間に、科学的証拠の質において重大な格差があることを示唆しています。前者は複数のメタアナリシスや主要な国際ガイドラインによって裏付けられた、質の高い証拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine)です9。後者は、解剖学的に妥当性のある仮説ではあるものの、現時点では主要な臨床ガイドラインで採用されるほどの強固な臨床的証拠が確立されていない「一般論」の域を出ていません。したがって、専門的な見地からは、消化不良の症状に対して右側臥位を試すことは、リスクの低い自己管理法の一つとして考えられますが、その効果はGERDに対する左側臥位ほど確固たるものではないと理解することが不可欠です。

第4節 夜間逆流に対する優れた介入:正しい上半身挙上(HOBE)

夜間の逆流症状に対して、特定の体位をとること以上に効果的かつ安定した対策があります。それは、上半身全体を高くして寝る「頭部挙上(Head of Bed Elevation, HOBE)」です。この方法は、睡眠中に寝返りを打って体位が変わっても、常に重力を味方につけて逆流を防ぐことができる、受動的かつ持続的な防御策です4

4.1. 救済の物理学:持続的な重力防御

上半身を傾斜させることで、胃が食道よりも低い位置に保たれます。これにより、胃酸が食道まで坂を上ることが物理的に困難になり、逆流が抑制されます。この単純な物理法則が、夜間の快適性を大きく左右します。

4.2. ガイドラインの推奨と臨床データ

この介入法は、その有効性から広く推奨されています。米国消化器病学会(ACG)のガイドラインでは、夜間のGERD症状に対してHOBEが条件付きで推奨されています11。また、複数のシステマティックレビューでは、個々の研究の限界を認めつつも、HOBEが逆流症状を緩和し、食道内pH計測値を改善するという一貫した結果が報告されています13。日本の医療機関や専門家からも、この方法は広く推奨されています18

4.3. 実践方法:決定的に重要な「やり方」

HOBEの効果を最大限に引き出すには、正しい方法で行うことが極めて重要です。

誤った方法

枕をいくつも重ねて頭だけを高くすることは、絶対に避けるべきです。 この方法は、首や肩に負担をかけて痛みの原因となるだけでなく、顎が引けて気道が圧迫され、呼吸がしにくくなる、あるいは睡眠時無呼吸を悪化させる危険性があります4。また、体全体として安定した傾斜が得られないため、逆流防止効果も限定的です。

正しい方法

目標は、上半身全体を腰のあたりから緩やかに持ち上げ、約15度から20度の傾斜を作ることです15。これを実現するには、以下の方法が推奨されます。

  • 傾斜枕(ウェッジピロー)の使用:上半身全体を支えるために設計された、三角形の大きなフォーム製枕を使用します。これにより、腰から頭にかけて安定した坂を作ることができます。
  • ベッドの脚の下にブロックを置く:ベッドフレームの頭側の脚の下に、頑丈で安定したブロックや本などを挟み込み、ベッド全体を15cmから20cm(6~10インチ)高くします4。これが最も理想的な方法とされています。
  • 電動リクライニングベッドの活用:背上げ機能付きの電動ベッドを使用すれば、ボタン一つで理想的な角度に調整することが可能です19

第5節 包括的な管理フレームワーク:姿勢と必須の生活習慣改善の統合

睡眠時の姿勢調整は、胃の不快感を管理するための強力なツールですが、それ単独で完結するものではありません。最良の結果を得るためには、これを包括的な生活習慣改善戦略の一環として位置づけることが不可欠です。以下に示す項目は、診療ガイドラインで一貫して推奨されている基本的な対策です。

食事のタイミング

就寝前の2~3時間は食事を避けることが、夜間逆流を防ぐ上で最も重要な対策の一つです。これにより、就寝時に胃の中に残っている食物の量と胃酸の分泌量が減少し、逆流のリスクが大幅に低下します1

食事内容の管理

  • GERD(胃酸逆流)の場合:下部食道括約筋を弛緩させたり、食道粘膜を刺激したりする可能性のある食品を避けることが推奨されます。具体的には、高脂肪食(揚げ物など)、チョコレート、過度のカフェイン、アルコール、香辛料の強い食事、柑橘類などの酸っぱい食品が挙げられます1
  • 消化不良・夜食の場合:消化が良く、脂肪の少ない食品を選ぶことが賢明です。夜遅い時間には、食物繊維の多い根菜類、脂肪の多い肉(バラ肉など)、天ぷらや豚骨ラーメンのような重く油っこい食事は避けるべきです20。鶏のささみや胸肉、豆腐、おかゆ、うどんなどが適しています。

体重管理

過体重や肥満は腹腔内の圧力を高め、胃を圧迫して逆流を引き起こす主要なリスク因子です。ACGガイドラインでは、過体重の患者が体重を減らすことが、GERD症状の改善に対して強く推奨されています4

その他の要因

腹部を締め付けるきつい衣服やベルトを避けること、禁煙、アルコール摂取の節制も、腹圧を下げ、下部食道括約筋の機能を正常に保つために重要です4

第6節 統合的見解と実践的推奨

本稿で詳述してきた科学的根拠を統合すると、胃痛に対する睡眠姿勢の選択は、その症状の性質によって明確に区別されるべきであるという結論に至ります。胃酸の逆流が主症状であれば左側臥位と上半身挙上が、消化不良が主症状であれば右側臥位が、それぞれ理論的・臨床的に推奨されます。

以下の表は、読者が自身の症状に基づいて最適な行動を選択できるよう、本稿の分析結果を実践的な形式で要約したものです。

表1:症状別・睡眠姿勢ガイド
主な症状 推奨される姿勢 根拠(なぜ有効か) 科学的証拠の強さ
胸焼け、呑酸(胃酸逆流) 左側臥位(左向き寝) 解剖学的に、食道と胃の接合部が胃酸の液面より上に位置し、物理的に逆流を防ぐため。 高い(メタアナリシスおよびACGなどの主要な国際ガイドラインが支持)
胃もたれ、食後の膨満感(消化不良) 右側臥位(右向き寝) 重力を利用して、胃から十二指腸への食物の移動を助ける可能性があるため。 低い/理論的(生理学的原則に基づくが、主要なFD診療ガイドラインでは未推奨)
あらゆる夜間逆流症状 上半身挙上(HOBE) 体位に関わらず、重力を利用して胃酸が食道へ到達するのを恒常的に防ぐため。 中程度(ガイドラインで推奨。システマティックレビューが有効性を示唆)

さらに、夜間GERDに対する主要な生活習慣介入について、その作用機序と米国消化器病学会(ACG)2022年ガイドラインにおける位置づけを以下の表にまとめます。これにより、各対策の科学的評価を客観的に理解することができます。

表2:夜間GERDに対する介入策の科学的根拠サマリー
介入策 作用機序 ACG 2022 ガイドラインにおける位置づけ
左側臥位での睡眠 解剖学的配置による逆流防止 推奨可能(病態生理学的に明白)
上半身挙上(HOBE) 重力による胃酸の食道到達防止 提案する(条件付き推奨、低レベルの証拠)
就寝前2~3時間の食事回避 夜間の胃内容量と胃酸の減少 提案する(条件付き推奨、低レベルの証拠)
体重管理(過体重の場合) 腹腔内圧の低下 推奨する(強い推奨、中レベルの証拠)
誘発食品の回避 食道刺激や括約筋弛緩の防止 提案する(条件付き推奨、低レベルの証拠)

健康に関する注意事項

最後に、最も重要な点を強調します。本稿で提示した生活習慣や睡眠姿勢の改善は、症状を管理するための非常に有効な手段ですが、根本的な治療に代わるものではありません。持続的または重度の胃痛は、胃・十二指腸潰瘍、慢性胃炎、あるいは稀には悪性腫瘍といった、より深刻な疾患の兆候である可能性も否定できません21。したがって、症状が改善しない場合や、体重減少、吐血、嚥下困難といった「警告徴候」が見られる場合には、自己判断で対処を続けるのではなく、速やかに消化器内科などの専門医を受診し、正確な診断を受けることが不可欠です。医師の診断のもとで、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)、あるいは漢方薬といった適切な薬物療法を受けることが、根本的な解決への最も確実な道筋となります22

よくある質問

結局、胃が痛いときはどっちを向いて寝ればいいのですか?

それは症状によります。胸焼けや酸っぱいものが上がってくる感じ(胃酸逆流)が強いなら、胃の形から逆流しにくい「左向き」で寝るのが科学的におすすめです。一方、食べ過ぎによる胃もたれや消化の遅れを感じるなら、消化を助けるために「右向き」を試す価値があります。ただし、こちらは左向きほどの強い科学的根拠はありません。

枕をたくさん重ねて頭を高くするだけではダメなのですか?

はい、その方法は推奨されません。枕を重ねるだけだと首や肩を痛めたり、逆に気道を圧迫して呼吸がしにくくなったりする可能性があります4。逆流を防ぐには、市販の傾斜枕(ウェッジピロー)やベッドの脚にブロックを置くなどして、腰のあたりから上半身全体を緩やかに(15~20度)持ち上げるのが正しい方法です。

これらの対策を試しても症状が改善しない場合はどうすればいいですか?

生活習慣の改善はあくまで対症療法の一部です。症状が続く、または悪化する場合、あるいは体重減少や吐血などの警告サインがある場合は、自己判断を続けずに速やかに消化器内科などの専門医を受診してください21。胃潰瘍や他の病気が隠れている可能性もあるため、正確な診断と適切な治療を受けることが非常に重要です。

夜遅くに食事をする場合、何を食べれば良いですか?

理想は就寝2~3時間前までに食事を終えることですが、どうしても夜遅くになる場合は、消化が良く胃に負担の少ないものを選びましょう。鶏のささみ、豆腐、おかゆ、うどんなどが適しています。天ぷらのような揚げ物、脂肪の多い肉、食物繊維の多い根菜類などは消化に時間がかかるため避けるべきです20

結論

「胃痛があるときの寝方」という日常的な疑問は、その背景にある胃食道逆流症(GERD)と機能性ディスペプシア(FD)という二つの異なる病態を理解することで、科学的かつ論理的に解決できます。胸焼けには「左側臥位」、消化不良には「右側臥位」という指針は、上部消化管の解剖学的構造に基づいた合理的な選択です。特にGERDに対する左側臥位の有効性は、質の高い臨床研究によって強く支持されています。しかし、これらの姿勢調整は、より広範な生活習慣の改善、特に食事のタイミングと内容の管理、そして体重コントロールと組み合わせて初めてその効果を最大限に発揮します。上半身挙上(HOBE)は、あらゆる夜間逆流症状に対する普遍的で効果的な物理的防御策です。最終的に、これらの自己管理法はあくまで症状緩和の一助であり、持続する症状に対しては専門医による診断が不可欠であることを忘れてはなりません。本稿が提供する科学的根拠に基づいた知識が、読者の皆様の夜間の快適性と健康の向上に貢献できることを願います。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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