この記事の科学的根拠
本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。
要点まとめ
- 問題あるスマートフォン使用(PSU)とうつ病は、一方がもう一方を悪化させる「負の悪循環」の関係にあります。85
- スマホの過剰使用は、脳の報酬系(ドーパミン)を乗っ取り、睡眠の質を低下させ、SNSでの社会的比較を通じて自尊心を傷つけることで、うつ病のリスクを高めます。19
- データによると、インターネット依存の重症度が高まるほど、うつ病の有病率も劇的に増加することが示されています(非依存者の1.01%に対し、重度依存者では58.73%)。14
- 対策には、個人の行動変容(デジタルデトックス)と、認知行動療法(CBT)などの専門的治療があり、日本では精神保健福祉センターなどの公的相談窓口も利用可能です。1826
第1部 問題あるスマートフォン使用の定義とその臨床的背景
「自分はただスマホを使いすぎているだけなのか、それとも病的な依存なのか」——その境界が分からず、一人で不安を抱えている方は少なくありません。しかし、これは単なる意志の弱さの問題ではなく、客観的な指標で判断できる状態です。ご自身の状況を正しく理解することが、解決への第一歩となります。
スマートフォン使用は、便利なツールとしての活用から、生活に支障をきたす「問題ある使用」、そしてコントロールを失った「依存」まで、一つの連続した線上(スペクトラム)に存在します1。「問題あるスマートフォン使用(Problematic Smartphone Use, PSU)」とは、単に使用時間が長いことだけを指すのではありません。むしろ、使用のコントロールを失う、スマホのことで頭がいっぱいになる(没頭)、使えない時に不安やいらだちを感じる(離脱症状)、そして学業や仕事、人間関係に悪影響が出ているにもかかわらず使用を続けてしまう、といった行動パターンによって定義されます1。
習慣から依存へ:スマートフォン使用スペクトラムの特徴
現時点(2025年9月)で、「スマホ依存」は世界保健機関(WHO)の『ICD-11』や米国精神医学会の『DSM-5』において、独立した正式な診断名としては収載されていません。しかし、WHOが正式な疾患として認めた「ゲーム障害(Gaming Disorder)」23や、DSM-5でさらなる研究が必要な状態とされる「インターネットゲーム障害」の診断基準は、PSUの重症度を評価する上で非常に参考になります4。これらの基準には、使用のコントロールができない、他の何よりもスマホを優先する、問題が起きても使用を続ける、といった項目が含まれています。
ご自身の状況を客観的に把握するために、以下の警告サインにどれだけ当てはまるかを確認することが重要です。もし複数の項目に心当たりがある場合は、注意が必要かもしれません。
以下の表は、PSUの主な警告サインをまとめたものです。ご自身の使い方を振り返るための参考にしてください。
基準の種類 | 具体的な指標 | 出典 |
---|---|---|
コントロール喪失 | 使用を制限、削減、または中止しようと試みたが成功しなかった。 | 1 |
当初意図したよりも長く使用してしまう。 | 6 | |
没頭 | 使用について頻繁に考えている(例:前回の使用を思い出したり、次の使用を期待したりする)。 | 4 |
スマホの使用が日常生活の中心的な活動になる。 | 4 | |
離脱症状 | 使用を減らしたり中止したりしようとすると、落ち着かなくなったり、イライラしたり、不安になったり、悲しくなったりする。 | 1 |
スマホが手元にない、またはバッテリーが少ないと不安やパニックを感じる。 | 1 | |
悪影響 | 重要な人間関係、仕事、学業、またはキャリアの機会を危険にさらしたり、失ったりした。 | 5 |
心理社会的な問題(例:不眠、ストレス)を認識しているにもかかわらず、過剰な使用を続ける。 | 4 | |
身体的な問題(例:眼精疲労、首の痛み、頭痛)を引き起こしている。 | 1 | |
行動の優先 | 以前の趣味や娯楽への興味を失った。 | 5 |
家族や友人と一緒にいるよりも、スマホに時間を使うことを好む。 | 7 | |
気分調節のための使用 | 否定的な気分(例:無力感、罪悪感、不安)から逃れるため、または和らげるためにスマホを使用する。 | 4 |
欺瞞 | 使用の程度について、家族、セラピスト、または他者に嘘をついたことがある。 | 4 |
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第2部 神経生物学的・心理学的基盤
「やめたいのに、気づくとスマホを手に取ってしまう」——その背景には、単なる意志の弱さではなく、脳の仕組みが深く関わっています。スマートフォンは、私たちの脳の報酬システムを非常に巧みに刺激するように設計されており、神経化学的なレベルで「やめられない」状態が作り出されているのです。このメカニズムを理解することは、自分を不必要に責めることなく、問題と建設的に向き合うための第一歩となります。
ドーパミン-セロトニン軸:スマホが脳の報酬系を乗っ取る仕組み
PSUの根底にある神経生物学的なメカニズムは、脳の報酬系、特に神経伝達物質であるドーパミンとの相互作用にあります。SNSの通知、新しい情報、予測不能な「いいね!」といった刺激は、脳のドーパミン経路を強力に活性化させます。この絶え間ない刺激が、薬物依存と同様に、より強い刺激を求める「耐性」や、スマホが使えない時の「離脱症状」を引き起こすのです15。一方で、PSUは気分の安定や衝動のコントロールに重要な役割を果たすセロトニンの機能不全とも関連しており、これがうつ症状に直接的につながると考えられています。
認知的過負荷と脳疲労:実行機能への影響
スマートフォンから絶え間なく送られてくる情報や通知は、脳に「認知的過負荷」をもたらし、いわゆる「脳疲労」の状態を引き起こします。常に複数の情報を処理するマルチタスク状態は、注意力、記憶力、そして意思決定といった、脳の高度な機能(実行機能)を低下させます18。この認知的なエネルギーの消耗は、SNSの受動的な閲覧のような、頭を使わずに済む活動をより魅力的に感じさせます。特に、うつ病によって既に認知機能が低下している人にとっては、この悪循環がさらにPSUを強化してしまうのです。
現実逃避の心理学:不適応な対処メカニズムとしてのスマホ使用
心理的な側面から見ると、PSUはしばしば、不安、孤独、ストレス、抑うつといった辛い感情からの一時的な逃避、つまり「自己治療」として機能します68。うつ病の人が経験する、何も楽しめない感覚(アンヘドニア)や苦痛な思考から気を紛らわすために、スマホは非常に手軽でエネルギーを必要としない手段を提供します。しかし、この一時的な逃避は、ストレスにうまく対処する健康的なスキル(コーピングスキル)の発達を妨げ、結果として根本的な問題をさらに悪化させる「不適応な対処メカニズム」となってしまうのです。
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第3部 うつ病症状への因果経路:包括的分析
気分が落ち込んでいる時ほど、目的もなくスマホを眺め続けてしまい、その結果さらに気分が沈んでしまう——もし、このような悪循環に心当たりがあるなら、それはあなた一人だけの経験ではありません。この現象は、PSUとうつ病の間に存在する強力な相互作用によって引き起こされます。両者は互いに影響を与え合い、抜け出しにくい負のスパイラルを生み出すのです。
この関係は、うつ病の中心的症状である「何も楽しめない(アンヘドニア)」「エネルギーの低下」「社会的な引きこもり」が、人々をPSUに脆弱にすることから始まります58。そして逆に、PSUは以下の4つの主要な経路を通じて、うつ病の症状を積極的に悪化させていきます。この悪循環を断ち切るためには、まずその仕組みを知ることが重要です。
睡眠障害:ブルーライト曝露と気分障害における過剰な認知的覚醒の役割
夜間のスマホ使用は、うつ病の主要な危険因子である睡眠の質の低下と非常に強く関連しています。そのメカニズムは二つあります。一つは生理学的なもので、スマホ画面から発せられるブルーライトが、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、体内時計(概日リズム)を乱してしまうことです15。もう一つは心理学的なもので、就寝前に刺激的なコンテンツに触れることで脳が興奮状態(過覚醒)になり、スムーズな入眠が妨げられます8。慢性的な睡眠不足は、うつ病の発症リスクを高め、既存の症状を悪化させることが科学的に証明されています。
社会的比較と「SNS疲れ」:自尊心と真の社会的つながりの侵食
「SNS疲れ」とは、ソーシャルメディア上での交流によって引き起こされる精神的な消耗状態を指します910。他人のキラキラした投稿(実際には生活の良い部分だけを切り取ったもの)に常に触れることで、自分と他人を比較してしまい、劣等感、嫉妬、孤独感、自尊心の低下につながります15。SNSが提供するバーチャルな「つながり」は、多くの場合、困った時に本当に支えとなるような深い社会的サポートにはなりません。むしろ、うつ病に対する重要な防御因子である、顔の見える現実世界での交流の機会を奪ってしまう可能性があります。
置換効果:仮想生活が現実世界の保護的活動をいかに奪うか
スマートフォンに多くの時間を費やすことは、私たちの心をうつ病から守ってくれるはずの健康的な活動の時間を奪ってしまいます。これを「置換効果」と呼びます。例えば、強力な抗うつ効果があることが知られている運動の時間11、精神的な安定に不可欠な友人や家族との対面の交流、そして心を回復させ感情を整理するために重要な趣味やリラックスの時間などが、スマホの使用によって置き換えられてしまうのです5812。
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第4部 疫学的エビデンスと併存疾患
「スマホの使いすぎが心に良くない」という感覚は多くの人が持っていますが、それが具体的にどの程度のリスクなのか、特にうつ病や他の精神的な不調とどう関係するのか、不安に思うかもしれません。近年の大規模な研究データは、この関連性の深刻さを明確な数字で示しています。これらのリスクを客観的に知ることは、問題を直視し、適切な対策を講じる上で不可欠です。
相関研究と長期研究の概観:関連性の定量化
PSUと精神的な不調との関連は、多くの研究で定量的に示されています。例えば、中国の大学生約3万人を対象とした大規模な調査では、インターネット依存の重症度に応じて、うつ病の有病率が劇的に増加することが明らかになりました。依存傾向がない学生のうつ病有病率が1.01%だったのに対し、重度の依存状態にある学生では58.73%にも達していました14。これは、依存が重くなるほど、うつ病のリスクが急激に高まる「用量反応関係」を示唆しています。さらに、日本の国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が行った長期追跡研究では、思春期にオンラインゲームを不適切に使用していると、2年後にうつ病を発症するリスクが1.62倍、不安障害を発症するリスクが1.98倍に高まることが示されました15。これは単なる相関関係だけでなく、PSUが将来の精神疾患の原因となりうる可能性を示しています。
以下の表は、前述の中国の研究結果をまとめたものです。依存のレベルと、うつ病の有病率の間に明確な関連が見られます。
インターネット依存の重症度 | 臨床的うつ病の有病率(%) | 参加者数(n) |
---|---|---|
非依存 | 1.01% | 17,584 |
軽度 | 4.85% | 12,009 |
中等度 | 24.81% | 2,003 |
重度 | 58.73% | 63 |
不安、パニック障害、自殺念慮との併存
PSUの問題は、うつ病だけに留まりません。絶え間ない通知や「常時接続」していることへのプレッシャーは、脳を過覚醒状態にし、不安症状と強く関連します116。重度のケースではパニック障害との関連も報告されています。そして最も憂慮すべきは、インターネット依存の重症度が、自殺について考えること(自殺念慮)、計画すること、そして実際に行動に移してしまうことと密接に相関しているという研究結果です14。
思春期の若者への影響:脆弱な発達段階
思春期の若者は、脳の発達段階の特性から、PSUに対して特に脆弱な集団です。衝動をコントロールしたり、長期的な結果を予測したりする役割を担う脳の前頭前野がまだ発達途上にあるため、スマホの魅力に抗いにくいのです15。米疾病対策センター(CDC)の研究によると、1日のスクリーンタイムが4時間を超える青年は、うつ病や不安の症状を報告する可能性が有意に高いことが示されています17。NCNPの研究では、特に不注意や多動の傾向がある子どもは不適切なゲーム習慣に陥りやすく、それが精神的な健康の悪化につながるという経路も特定されています15。
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第5部 介入および緩和戦略:個人から公衆衛生まで
「この悪循環からどうすれば抜け出せるのか」——具体的な方法がわからず、途方に暮れているかもしれません。しかし、幸いなことに、PSUとうつ病の負の連鎖を断ち切るために有効性が示されている戦略は数多く存在します。解決策は一つではなく、専門的な治療から、日常生活で実践できるセルフケアまで、様々なアプローチを組み合わせることが可能です。
目標はテクノロジーを完全に排除することではなく、より意図的で、心身の健康を損なわない関係を築くことです。ご自身に合った方法を見つけ、小さな一歩から始めてみましょう。
臨床的介入:認知行動療法(CBT)およびその他の心理療法的アプローチ
専門的な治療法として、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)が有効であることが知られています。CBTは、スマホを使いたくなる思考のパターン(認知)と、実際に使ってしまう行動の癖に焦点を当て、それらをより健康的なものに変えていく手助けをします1819。その他にも、変化への意欲を高める動機づけ面接や、家族関係の問題が背景にある場合には家族療法なども有効です。また、マインドフルネス(今この瞬間に意識を向ける練習)に基づく介入が、大学生のスマホ依存を軽減する上で有望であることも示されています18。
行動的・環境的変容:「デジタルデトックス」の科学と実践
「デジタルデトックス」とは、心身への悪影響を減らすために、意図的にスマートフォンなどのデジタル機器から距離を置く期間のことです。研究によれば、デジタルデトックスは睡眠の質を向上させ、ストレスや不安を和らげ、集中力を高める効果が期待できます2021。ある研究では、わずか1週間SNSの利用を休むだけでも、うつや不安の症状が有意に改善したことが報告されています22。
以下の表は、日常生活にすぐ取り入れられる具体的なデジタル・ハイジーン(衛生管理)戦略です。
戦略の種類 | 具体的な行動 | 根拠/利点 | 出典 |
---|---|---|---|
通知管理 | 不要なアプリの通知(音、バナー、バイブ)をすべてオフにする。 | 認知的な中断とストレスを減らし、より深い集中を可能にする。 | 28 |
睡眠衛生 | 夜間は寝室の外でスマホを充電する。 | メラトニンの抑制を防ぎ、睡眠の質と時間を改善する。 | 21 |
就寝1~2時間前に「デジタル門限」を設定する。 | 脳がリラックスして休息モードに移行するのを助け、入眠を容易にする。 | 21 | |
環境制御 | 仕事中や家族との時間は、スマホを別の部屋やタイマー付きのロックボックスに置く。 | 習慣的・衝動的な使用を減らすための物理的な障壁を作る。 | 28 |
トイレや食卓にスマホを持ち込まない。 | スクリーンフリーの空間と時間を保護し、マインドフルネスと社会的交流を促進する。 | 38 | |
デバイス設定 | 画面をグレースケール(白黒)モードに切り替える。 | 画面の依存性を高める視覚的な魅力を減らし、スクロールを退屈にする。 | 28 |
スクリーンタイム追跡アプリ(iOSのスクリーンタイム、AndroidのDigital Wellbeingなど)を使用する。 | 使用パターンへの意識を高め、実行可能な制限を設定できるようにする。 | 19 | |
行動の代替 | スクリーンを使わない活動(例:運動、読書、友人と会う)を事前に計画する。 | 娯楽をスマホに頼ることを減らすため、代替となるやりがいのある活動で時間を積極的に埋める。 | 12 |
健全な境界線の設定:家族と個人のためのエビデンスに基づくルール作り
特に子どもがいる家庭では、スマホの使用に関する明確なルール作りが重要です。一方的にルールを押し付けるのではなく、なぜそのルールが必要なのかを話し合う協力的なアプローチが効果的です。ルールは具体的で分かりやすく、守れた時には肯定的な言葉をかけることが大切です。そして何よりも、親自身が模範を示すことが、子どもの健全なスマホ利用習慣を育む上で最も重要になります22320。
次の一歩
第6部 日本における公衆衛生的対応と支援インフラ
「専門家の助けが必要かもしれないけれど、一体どこに相談すれば良いのだろうか」——そうした不安を感じる方も多いでしょう。幸いなことに、日本ではインターネットやゲームへの依存問題に対して、国や地方自治体、専門機関が連携した支援体制が整備されています。適切なサポートに繋がる道筋がありますので、一人で抱え込まずに利用できる窓口を知っておくことが大切です。
厚生労働省および国立研究センターの役割
日本政府はPSUを含むインターネット依存問題の深刻さを認識し、厚生労働省を中心に多角的な対策を進めています。具体的には、国民への啓発活動、早期発見・早期介入の促進、治療のためのガイドライン策定、そして研究への資金提供などが行われています25。この分野の研究と治療において中心的な役割を担っているのが、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)15や、インターネット依存の専門外来を国内で初めて設立した久里浜医療センター24といった専門機関です。これらの機関は、最新の研究を行うだけでなく、全国の医療従事者への研修や情報提供も行っています。
主要な支援システム一覧:精神保健福祉センター、ホットライン、自助グループ
日本には、依存症の問題に対応するための強固な公衆衛生インフラが存在します。最も身近な公的相談窓口は、各都道府県・指定都市に設置されている「精神保健福祉センター」です。ここでは、本人や家族からの相談に専門の職員が対応し、必要に応じて適切な医療機関や支援団体を紹介してくれます。これに加えて、MIRA-iのような民間の専門相談サービス27や、同じ悩みを持つ当事者が支え合う自助グループ(例:オンライン・ゲーマーズ・アノニマス)なども重要な役割を果たしています226。
以下の表は、日本国内で利用可能な主要な支援リソースをまとめたものです。状況に応じて、適切な窓口に相談してください。
種類 | 組織名 | 対象者 | 提供サービス | 連絡先情報 | 出典 |
---|---|---|---|---|---|
公的機関 | 精神保健福祉センター | 本人、家族 | 電話/対面相談、専門医療機関の情報提供。 | 全国各地。最寄りのセンターに連絡。厚労省の一覧を参照。 | 40 |
専門サービス | MIRA-i | 本人、家族 | ネット・ゲーム依存に特化した予防・回復支援サービス。 | 電話: 03-6882-0030 | 43 |
ホットライン | グレイス・ロード ゲーム/ネット依存相談ホットライン | 本人 | 電話相談。 | 電話: 080-8149-0940 | 41 |
自助グループ | オンライン・ゲーマーズ・アノニマス (OLGA) | 本人 | ゲーム/ネット依存からの回復のための自助ミーティング。 | ウェブサイトで各地域の情報を確認。 | 41 |
家族会 | ネット・ゲーム依存家族の会 | 家族 | メール/電話相談、月例会(オンライン参加可)。 | ウェブサイトで詳細を確認。 | 41 |
医療機関 | 久里浜医療センター | 本人、家族 | 専門的な医学的治療、回復プログラム、家族向けグループ。 | 病院のウェブサイトを参照。 | 41 |
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第7部 結論と戦略的提言
本監査を通じて、問題あるスマートフォン使用(PSU)とうつ病が、単に関連しているだけでなく、互いを悪化させる深刻な悪循環を形成していることが明らかになりました。この関係は、ドーパミン報酬系の調節不全、睡眠障害、社会的比較による自尊心の低下、そして健康的な活動からの置き換えといった、神経生物学的および心理社会的な複数の経路によって駆動されています。疫学データは、依存の重症度が高まるにつれてうつ病のリスクが指数関数的に増加することを示しており、これは公衆衛生上の重大な懸念事項です。
しかし、この問題は決して解決不可能ではありません。認知行動療法(CBT)のような効果的な臨床的介入、そして日常生活で実践できる「デジタル・ハイジーン」といった個人の行動変容、さらには日本国内に整備された精神保健福祉センターや専門医療機関といった支援インフラが存在します。重要なのは、この問題を個人の「意志の弱さ」として片付けるのではなく、医学的・社会的な支援が必要な状態として認識することです。一人で抱え込まず、利用可能なリソースに助けを求めることが、この悪循環を断ち切り、より健康的なデジタルライフを取り戻すための鍵となります。
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よくある質問
スマホを長時間使うだけで「依存」や「うつ病」になるのですか?
必ずしもそうではありません。重要なのは「時間」そのものよりも、「生活への影響」です。例えば、使用のコントロールができない、スマホがないとイライラする、学業や仕事、人間関係に悪影響が出ている、といったサインが見られる場合に「問題ある使用」と判断されます1。長時間利用していても、それが生活に良い影響を与えている(例:学習、有益な情報収集)のであれば、問題とは言えません。
やめられないのは、自分の意志が弱いからでしょうか?
意志の力だけの問題ではありません。スマートフォンやアプリは、脳の報酬系(ドーパミン)を刺激し、「もっと使いたい」と思わせるように設計されています5。そのため、一度習慣化すると、自分の意志だけでコントロールするのが非常に難しくなるのは自然なことです。自分を責めずに、脳の仕組みとして理解し、環境を整えるなどの対策を取ることが重要です。
子どもがスマホばかり見ていて心配です。どうすればよいですか?
一方的に禁止するのではなく、まずはオープンに話し合うことが大切です。なぜスマホを使うのか、何が楽しいのかを理解しようと努め、その上で家庭内のルール(例:食事中や寝室では使わない、1日の利用時間の上限など)を一緒に決めましょう23。何よりも、保護者自身が健全なスマホ利用の模範を示すことが効果的です。
「デジタルデトックス」を試したいのですが、完全に断つのは無理です。
完璧を目指す必要はありません。小さなステップから始めることが成功の鍵です。例えば、「寝る前の30分だけスマホを見ない」「食事中はテーブルに置かない」「不要なアプリの通知をオフにする」など、ご自身ができそうなことから試してみてください21。少し距離を置くだけでも、睡眠の質の改善やストレス軽減などの効果が期待できます。
どこに相談すればよいか分かりません。
最も身近で最初の相談窓口として、お住まいの地域にある「精神保健福祉センター」があります。匿名での電話相談も可能です。そこで話を聞いてもらい、必要であれば専門の医療機関などを紹介してもらうことができます。本記事の表3「日本における主要な支援リソース一覧」も参考にしてください。
結論
本監査は、問題あるスマートフォン使用(PSU)とうつ病が、脳の報酬系、睡眠、社会的機能といった複数のレベルで相互に影響し合い、深刻な負のサイクルを形成することを明らかにしました。特に、依存の重症度が高まるにつれてうつ病の有病率が指数関数的に増加するという事実は、この問題を放置することの危険性を示唆しています14。しかし、この課題に対する解決策は存在します。認知行動療法などの確立された治療法、デジタルデトックスのような実践的なセルフケア戦略、そして精神保健福祉センターをはじめとする日本の充実した公的支援インフラを組み合わせることで、この悪循環を断ち切ることは可能です。最も重要なのは、この問題を個人の意志力の欠如としてではなく、適切な支援と介入を必要とする健康問題として捉え、ためらわずに助けを求めることです。
免責事項
本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。
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