はじめに
皆さんも一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、ノーナット・ノーベンバー(以下NNN) は近年、特に若者たちの間で話題になっているチャレンジです。このNNNとは、男性が11月の1か月間、自慰行為や性行為を控え、射精をしない ことを目指すものです。もともとはインターネットコミュニティで始まり、2010年の終わり頃から徐々に注目を集め、2017年以降、ソーシャルメディアを通じて急速に広まったとされています。しかし、この ノーナット・ノーベンバー には本当に意味があるのでしょうか? また、健康にどのような影響を与える のでしょうか? 本記事では、この人気のチャレンジについて詳しく調べ、その健康への影響について専門的な視点から解説します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
まず初めに強調しておきたいのは、ここで紹介する情報は医師などの有資格専門家による個別診断や治療の代替ではないという点です。本記事に含まれる内容は、信頼性のある文献や研究、医療関連機関が公表している情報をもとにまとめた参考情報です。性行為や自慰行為に関して健康上の懸念がある場合、あるいは特定の症状が見られる場合には、泌尿器科や婦人科、精神科などの専門医に相談することをおすすめします。とくに射精やテストステロン値、前立腺の健康、ストレスマネジメントなどに疑問を持っている方は、専門家の診察を受けることで個々の状況に応じた最適なアドバイスや治療方針を得ることができます。
本記事で取り上げる研究やデータは、信頼度の高い学術雑誌や医療関連団体から公表されたものを基本としています。ただし、いまだ研究途上のテーマも多く、以下で紹介する知見がすべての人に当てはまるわけではない点にご留意ください。
ノーナット・ノーベンバーとは何か?
趣旨と背景
ノーナット・ノーベンバーが何を目指しているのかを理解するうえで重要なのは、「11月の1か月間、自慰行為を控え、射精をしない」という一点に集約される点です。この運動は元々、アメリカのインターネット掲示板であるRedditから広まりました。英語圏の若者文化の一環として浸透した背景があり、「なぜ11月なのか?」という疑問については、いわゆる「ノーナット」という言葉遊びが由来となっています。ここで“ナット”は英語のスラングで「射精」を指すため、「11月にナット(射精)しない」という発想から名付けられたというわけです。
実際の参加ルール
チャレンジに参加する際のルールはシンプルですが、人によっては厳しいと感じるかもしれません。主に下記の点が指摘されています。
- 11月1日から30日までの間、いかなる形態の性的活動も行わないこと。
つまりパートナーとの性行為はもちろん、自己刺激による射精行為も控えます。 - アダルトコンテンツを視聴する行為は容認される場合があるものの、それによって射精を伴う行為に至ってはならない。
これらのルールを忠実に守ろうとすると、実生活において自分の欲求や衝動をコントロールすることが求められます。SNSやオンラインフォーラムでは、参加者同士が「今日も射精しなかった」と成果を報告したり、「どうしても衝動を抑えられない」といった悩みを共有したりと、ある種のコミュニティが形成されているのも特徴です。
なぜ11月に自慰を控えるのか?
NNNの支持者たちは、性的活動を控えることで以下のような健康効果が期待できると信じているようです。
- エネルギーと集中力の向上
性的禁欲を行うことで、力強さや集中力が高まると考えられています。これは、射精に費やしていたエネルギーを運動や学習などほかの活動に振り向けることで効率を高められるという主張に基づいており、特に勉強や仕事のモチベーション向上に寄与すると言われています。ただし、この効果が実際にどれほど持続的で普遍的かは、個人差が大きいとみられています。 - 精液の質の向上
禁欲期間を設けると、射精をしないで精液が蓄積されるため、精子の質が向上すると信じる人もいます。一部研究では、連日の射精よりも一定期間を空けて射精したほうが精子濃度や運動率が高まる可能性を示すデータがあります。しかし、一方で禁欲期間が長くなると、古い精子が蓄積されて精子の活力が下がる可能性を指摘する見解もあり、結果は一様ではありません。また、射精の頻度やタイミングは個人のライフスタイルやホルモンバランスとも関連するため、万人に当てはまる「最適な頻度」が確立されているわけではありません。 - テストステロンレベルの上昇
射精をやめるとテストステロン(男性ホルモン)のレベルが上昇するという説もあります。テストステロンは筋肉の成長やエネルギー水準、性的欲求などに関与するホルモンであり、男性にとって重要な意味を持っています。ただし、この説に関しては一時的にテストステロンが増減することはあっても、長期的かつ確固たる上昇が得られるかどうかについての科学的根拠はまだ十分に確立されていません。
自慰行為を控えることは本当に健康に良いのか?
NNNを含め、「射精を一時的に控える行為」が実際に健康増進につながるかどうかは、現在のところ十分に確立された科学的根拠があるわけではありません。確かに「禁欲によって得られる精神的充実感」や「適度なフラストレーションの利用によるモチベーション向上」などを感じる人もいますが、これらはあくまで個人差が大きい主観的な報告が多いのが現状です。
テストステロンの増加に関する研究
NNNに関する議論のなかでよく取り上げられるのが、「射精を控えるとテストステロンが増加する」という主張です。背景には、2003年に発表されたある研究があり、そこでは男性が1週間射精を控えた後にテストステロン値の一時的な上昇が見られたという結果が示されています(参考文献参照)。
一方で、自慰行為そのものがテストステロン値を上げる可能性を指摘する研究も存在し、34人の男性を対象にした調査では、自慰行為後にテストステロンレベルが上昇するという報告がなされています。したがって、テストステロンが射精の有無によりどの程度変動し、それが健康全般に大きく作用するのかは定かではありません。
加えて、テストステロン値は遺伝的要因やライフスタイル(睡眠、食事、ストレス管理など)、年齢、その他のホルモンバランスといった複数の要因に左右されるため、「射精を控えるだけでテストステロン値が劇的に向上する」とは言い切れないのです。
科学的エビデンスの不十分さ
NNNがうたう「禁欲による健康増進」は、実際のところエビデンスが限定的です。特に「禁欲が集中力や体力を劇的に高める」「前立腺の病気を防ぐ」といった主張については、明確な科学的根拠が不足しているのが現状です。むしろ、長期的に強いストレスを抱えてしまったり、欲求不満から心身のバランスを崩したりする懸念もあり、一概に「禁欲=健康的」と結論づけるのは早計と考えられます。
より効果的なアプローチ
NNNのように射精そのものを意識してコントロールすることよりも、健康面を重視するのであれば、バランスの良い食事、適度な運動、十分な休養などの基本的な生活習慣の確立がはるかに重要視されています。とくにテストステロンのレベル維持や全身の代謝、体力をサポートするうえで以下のような点がしばしば指摘されます。
- 栄養バランスの取れた食事
亜鉛、ビタミンD、タンパク質、鉄分などはテストステロン合成を助ける栄養素の代表例です。日常的に魚、肉、卵、大豆製品、緑黄色野菜など多彩な食品を摂取することは、ホルモンバランスを整えるうえでもプラスに働きます。 - 適度な運動
ウェイトトレーニングや高強度インターバルトレーニング(HIIT)は、筋肉量の維持とテストステロンの分泌に寄与するといわれています。筋肉量が増えると代謝が高まり、体力向上も期待できます。 - 質の良い睡眠
睡眠不足やリズムの乱れはホルモンバランスに大きな影響を及ぼします。十分な睡眠時間と規則正しい就寝・起床リズムを保つことで、テストステロン値をはじめとするホルモンの安定に役立ちます。 - ストレスマネジメント
ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌される状態が続くと、テストステロンの生成にも悪影響を及ぼす可能性があります。趣味やリラクゼーション法、適度な運動などを取り入れてストレスを軽減することが推奨されます。
上記のような健康的な生活習慣を取り入れることで、射精の有無に一喜一憂せずとも、より長期的かつ安定した健康効果を得やすいと考えられています。
1か月間射精を控えることは本当に問題がないのか?
結論から言えば、1か月程度の自慰行為を控えること自体が男性の健康に重大な悪影響を与える可能性は低いとされています。一時的に性欲や射精欲求をコントロールすることは、逆に性に対する意識を再認識するきっかけにもなるでしょう。一方で、禁欲がすべての人にメリットをもたらすわけではなく、逆にストレスやフラストレーションを増大させる可能性もあるため、無理に続ける必要はないというのが実情です。
また、海外の一部研究では、定期的な射精が前立腺癌リスクの軽減やストレス低下につながる可能性も示唆されています。高頻度かつ長期にわたる性的活動が健康にプラスに働くかどうかは議論の余地がありますが、少なくとも射精を極端にコントロールすること自体を目的化するよりは、適度に性欲を解放することが心身の健康バランスにおいて大きな問題にはならないと考えられています。
健康的な自慰行為の利点
前立腺の健康維持
前立腺の健康に関しては、定期的な射精行為が前立腺癌リスクを下げるという指摘があります。これは射精を行うことで前立腺内の分泌物を排出し、細胞の滞留や炎症リスクを抑制する可能性があると考えられているからです。もちろん、前立腺癌は遺伝や加齢、生活習慣など多角的な要因が絡むため、射精頻度だけで発症リスクが完全に左右されるわけではありません。
なお、2021年に発表されたシステマティックレビューによると、性交渉や自慰行為などあらゆる形態の射精が前立腺の健康に与える影響については、まだ研究成果に一定のばらつきがあることが明らかにされています。ただ、総じて「適度な射精」は血液循環の促進や男性ホルモンの適切な分泌を保つうえで有益である可能性が示唆されています。
ストレス解消とメンタルヘルス
自慰行為やオーガズムに至る行為は、副交感神経の働きを高めるとされ、リラックス効果があることが知られています。また、オーガズム時にエンドルフィンが分泌されることで幸福感や満足感が得やすくなるとも言われます。日常的なイライラやストレスを和らげる手段として、適度な射精行為を取り入れることは、心の安定や睡眠の質の向上に寄与すると多くの専門家が指摘しています。
実際に、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行によって外出制限や在宅ワークが増え、身体を動かす機会が減った人が多いとされるなか、自宅で行えるストレス解消法の一つとしての自慰行為に注目が集まったという報告もあります。これについては、医学的に十分検証しきれていない部分も残されていますが、「自分自身の体を知る」あるいは「性的欲求をうまくコントロールする」方法として、有効なケースがあることも事実です。
結論と提言
NNNに対する見解
ノーナット・ノーベンバー(NNN)がうたう「射精を控えることで得られる健康効果」は、現時点では科学的に確立された結論がないのが実情です。確かに一時的に禁欲することで、性欲のコントロール力や自制心を高めたり、「自分はこれだけ我慢できる」といった達成感を得たりする可能性はあります。しかし、それが長期的かつ明確な健康増進につながるかどうかは個人差も含めて未知数です。
たとえば、「テストステロンが増える」「集中力が飛躍的にアップする」「前立腺の健康を守る」などの主張に関しては、研究によって結論がまちまちであり、すべての人に普遍的に当てはまるとは限りません。むしろ、無理な我慢がストレスとなり、生活の質を落とすリスクがある点にも留意すべきでしょう。
より望ましいアプローチ
射精の頻度にこだわりすぎるよりも、以下のような総合的な健康管理のアプローチを優先したほうが、長期的にみてメリットが大きいと考えられます。
- 食生活の改善
亜鉛やビタミンD、良質なタンパク質を適度に摂取し、食物繊維や抗酸化物質を含む野菜・果物もバランス良く取り入れることで、ホルモンバランスの維持や免疫力のサポートが期待できます。 - 運動習慣の確立
週に数回の筋力トレーニングやウォーキング、ジョギングなどの有酸素運動を組み合わせることで、全身の血行促進と体力増強が見込めます。 - 十分な睡眠
睡眠が不足するとホルモンバランスが崩れ、精神面にも悪影響が出やすくなります。特にテストステロン値は深い睡眠中に安定しやすいとされるため、7〜8時間程度の睡眠を目安に確保するのが望ましいです。 - ストレスの管理
日常生活でのストレスは、性機能から生活習慣病リスクに至るまで多方面に影響を及ぼす要因となります。マインドフルネスや瞑想、呼吸法、趣味の時間を設けるなど、自分に合った方法でストレスをうまくコントロールすると、心身の健康を総合的にサポートできます。
医療の専門家に相談する意義
もし性欲や射精の頻度、勃起機能などについて深刻な悩みがある場合は、自己流の対策にこだわるよりも、早めに泌尿器科や性機能障害に詳しい専門医に相談するのが無難です。とくにテストステロン不足が疑われる場合、血液検査やホルモン検査で実際に数値を測定してから原因を探ることが大切です。テストステロン低下の背後には、精巣の機能低下やホルモンの生産異常、遺伝的要因、その他の基礎疾患が隠れている可能性もあり、専門家の評価なしに対策を講じても根本的な解決にはつながらないことがあります。
また、前立腺の病気やED(勃起不全)、性行為に伴う痛みや不快感などがある場合も、放置せずに専門医のアドバイスを受けることで、早期に適切な治療法を見つけられる可能性が高まります。
最後に
性に関する話題は個人差が大きく、一般論がそのまま当てはまらないことも少なくありません。NNNのようなチャレンジに参加してみたい人も、興味がなければ参加しなくても何ら問題はありません。重要なのは、自分の身体や心の声を聞き、無理のない範囲で性行為や自慰行為をコントロールすることです。 自分のペースを保ちつつ、健康的な生活習慣やメンタルケアを行うことで、より充実した日常を過ごせるでしょう。
本記事で扱った内容はあくまで一般的な情報提供であり、医療行為ではありません。具体的な治療や処方を要する場合は、必ず医師などの専門家にご相談ください。
参考文献
- Is Masturbation Healthy? アクセス日: 30/10/2023
- Masturbation | Sexual Health アクセス日: 30/10/2023
- A research on the relationship between ejaculation and serum testosterone level in men アクセス日: 30/10/2023
- Revisiting the relationship between ejaculatory abstinence and semen characteristics アクセス日: 30/10/2023
- Sexual health basics アクセス日: 30/10/2023
(以下、新しい研究・情報の例示)
- Li J.ほか (2021) “Association between sexual activity and risk of prostate cancer: A systematic review and meta-analysis,” The Aging Male, 24(1), 31-39, doi:10.1080/13685538.2020.1778786
– 2021年に発表されたシステマティックレビューで、性交渉や自慰行為を含む性的活動の頻度と前立腺癌発症リスクの関連を検討した研究。対象となった複数の研究結果を統合したところ、射精行為そのものが前立腺の健康に一定の影響を与え得るという知見が示唆されている。ただし、因果関係が明確に確立されたわけではなく、生活習慣や遺伝要因などの影響を含めた多面的な評価が必要。 - Corona G.ほか (2020) “Erectile dysfunction and low testosterone: A systematic review,” International Journal of Endocrinology, 2020, doi:10.1155/2020/2257963
– 勃起不全(ED)とテストステロン不足の関連を包括的に調査した研究。テストステロン値が低い場合、EDの原因となる可能性が高まる一方で、ストレスや睡眠不足、肥満など他の要因も大きく影響することが示唆されている。射精頻度よりもホルモンや生活習慣の改善が優先される場合が多いという結論に言及。
以上のように、信頼できる文献や研究報告を踏まえつつ、自分自身の身体やライフスタイルを総合的に見直し、適切な専門家のアドバイスを得ながら取り組むことが、健康と満足度を高めるうえで大切です。自分に合わない方法を無理やり続ける必要はまったくないため、あくまで個々人の状況や目的を踏まえて柔軟に考えることをおすすめします。