赤ちゃんの心臓に「穴があいている」「血管のつながり方が違う」と言われると、多くのご家族は強い不安や罪悪感を抱きます。 また、子どもの頃に手術を受けた方が、大人になってから「また心臓の病院に通う必要がある」と言われ、戸惑うケースも少なくありません。
先天性心疾患(先天性心疾患、congenital heart disease)は、生まれつき心臓や大血管の構造に異常がある病気の総称です。 日本では全出生の約1%、年間およそ1万2千人の赤ちゃんが先天性心疾患をもって生まれると報告されており1、 医療の進歩により多くの方が成人期まで元気に生活できるようになっています1,6。
一方で、病気のタイプや重症度によって、乳児期からの治療や定期的なフォローアップが不可欠であり、 適切な管理を行わないと心不全や不整脈、肺高血圧症などの合併症につながることもあります1,3,7。 本記事では、厚生労働省や日本循環器学会、日本小児循環器学会、世界保健機関(WHO)などの信頼できる情報をもとに、 先天性心疾患の基礎知識から、症状・原因・治療法・日常生活で気をつけたい点までを丁寧に解説します1,3,4,11。
「自分や家族に当てはまるかもしれない」「手術は終わったのに、この先どう付き合っていけばよいのか不安」という方にとって、 次の一歩を考える手がかりになることを目指しています。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。 膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、日本循環器学会・日本小児循環器学会・日本成人先天性心疾患学会が公表している診療ガイドライン1,3,10、 厚生労働省などの公的資料11、世界保健機関(WHO)や米国CDC・心臓協会(AHA)の解説4,5,7,8,12といった一次情報源に基づいて、 JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:日本における先天性心疾患の頻度、治療件数、成人患者数などの統計や、心疾患に関する留意事項を参照しています1,2,11。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文: 日本循環器学会・日本小児循環器学会のガイドライン1,3,10、日本の成人先天性心疾患患者の疫学研究6,17、 国際的な疫学・治療成績の報告2,8などをもとに要点を整理しています。
- 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料: 先天性心疾患の分類や治療法、長期フォローアップの重要性を説明する資料を参考にしています7。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、 公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、 事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
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要点まとめ
- 先天性心疾患は「生まれつき心臓や大血管の構造に異常がある状態」の総称で、全出生の約1%にみられる比較的頻度の高い病気です1,4,5,7。
- 病気の種類は、心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)、ファロー四徴症、大血管転位など多岐にわたり、 症状も「全く無症状」から「強いチアノーゼ(唇や爪の紫色)」「心不全」までさまざまです1,3,7。
- 多くの先天性心疾患は、超音波検査(心エコー)を中心とした検査で診断され、 薬物療法・カテーテル治療・外科手術などを組み合わせて治療します。医療技術の進歩により約95%が成人まで生存できると報告されています1,2,6,7。
- 手術が終わっても「完全に終わり」ではなく、不整脈や心不全、弁逆流、肺高血圧症などの合併症を防ぐために、 生涯にわたる定期フォローアップが推奨されています1,3,10,17。
- 妊娠・出産、就学・就労、運動・スポーツなど、ライフイベントごとに注意すべきポイントがあります。 気になる症状がある場合や妊娠を希望する場合は、早めに小児循環器科や成人先天性心疾患専門外来などに相談することが大切です1,3,10。
「自分(あるいは子ども)はどの程度重い病気なのか」「遺伝するのか」「普通の生活や妊娠・出産はできるのか」── 先天性心疾患と聞いて、こうした不安を抱く方は少なくありません。
本記事では、まず先天性心疾患とは何かという基本から、代表的な病型、症状の出方、検査・治療の流れを整理します。 そのうえで、生活習慣や感染予防、歯科治療、妊娠・出産計画など、日常生活で気をつけたいポイントを、 段階的に理解できるよう構成しています1,3,7,10。
必要に応じて、 関連する総合ガイド や、 詳細解説記事 など、JHO内の関連記事に自然な文脈で橋渡しを行います。
読み進めることで、「自分(あるいは子ども)の状態をどう理解し、いつ・どこで・誰に相談すればよいのか」が具体的にイメージしやすくなることを目指します。 不安を一人で抱え込まず、必要なときには専門家や支援制度を活用していくことが大切です。
第1部:先天性心疾患とは?基本と日常生活の見直し
先天性心疾患は「生まれつき心臓や大血管の構造に異常がある状態」を指し、 妊娠中の早い時期に心臓が形づくられる過程で何らかの要因が加わることで起こると考えられています1,3,4,7。 病名や病型がたくさんあるため、とても難しく感じられますが、「どこを血液が通りにくいか」「どこで混ざっているか」を意識すると整理しやすくなります。
1.1. 基本的なメカニズム・心臓の仕組み
心臓は、右心房・右心室・左心房・左心室の4つの部屋と、そこに出入りする大きな血管(肺動脈と大動脈)から構成されています。 正常では、右側が「酸素の少ない血液」を肺へ送り、左側が「酸素の多い血液」を全身に送り出しています。 部屋と部屋、血管の間には「弁」があり、一方向にだけ血液が流れるように調節しています7。
先天性心疾患では、この構造のどこかに「穴」や「狭い部分」、「つながりの異常」などが生じ、 本来別々であるはずの血液が混ざったり、一部が通りにくくなったりします1,3,7。 たとえば、心室中隔欠損症(VSD)は心室同士を隔てる壁に穴があいている状態、 ファロー四徴症は「心室中隔欠損」「肺動脈の狭窄」「右心室の肥大」「大動脈の位置異常」の4つの異常が組み合わさった病型です1,3。
こうした異常により、心臓は通常より強く・速く働かざるを得ず、乳児では体重増加不良や呼吸が苦しそうといった形で現れることがあります3,10。 一方で、小さな欠損孔などではほとんど無症状で、学校健診の心雑音や心電図で初めて見つかることもあります1,3,7。
1.2. 悪化させてしまうNG習慣と身近な注意点
先天性心疾患そのものは「生まれつき」のものですが、日常生活の習慣によって症状が悪化したり、 合併症のリスクが高まることがあります。とくに以下のような行動・習慣には注意が必要です1,3,10,11。
- 喫煙・受動喫煙:タバコの煙は血管を傷つけ、心臓への負担や動脈硬化を進めます。 先天性心疾患をもつ方本人だけでなく、妊娠を考えている場合や子どもがいる家庭では、家族全員で禁煙・分煙に取り組むことが重要です。
- 自己判断での薬の中断・過量内服:利尿薬やACE阻害薬など、心不全治療に用いられる薬を自己判断でやめたり増量したりすると、 むしろ状態が悪化することがあります10。
- 極端な運動・過度の疲労:医師から運動制限が出ている場合に、激しいスポーツを行うと不整脈や失神のリスクが高まります1,3。 一方で、軽い有酸素運動が推奨されるケースもあるため、「どの程度までならよいか」を主治医と具体的に話し合っておくと安心です。
- 歯科の受診を先延ばしにすること:虫歯や歯周病は心内膜炎(心臓の内側に細菌が付着して炎症を起こす病気)の原因になりうるため、 とくに高リスクの先天性心疾患では、定期的な歯科受診と口腔ケアが重要です1,10。
- 妊娠・出産の自己判断:一部の先天性心疾患では、妊娠中に心臓への負担が大きくなり、母体にも胎児にもリスクが高まることがあります1,3。 妊娠を希望する場合は、事前に循環器担当医と産科医を交えて相談することが勧められます。
自分や子どもに当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。 気になる点があれば、健診やかかりつけ医の診察の際にメモを見せながら相談すると話しやすくなります。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 赤ちゃんの唇や指先が青紫色になる、呼吸が速く苦しそうに見える | 血液の酸素不足(チアノーゼ型の先天性心疾患など) |
| 授乳や哺乳の途中ですぐ疲れてしまい、体重がなかなか増えない | 心不全傾向、肺への血流増加を伴う心奇形など |
| 走ったり階段を上ったりすると、同年代の子と比べて極端に息切れしやすい | 未診断の先天性心疾患、術後の残存病変、肺高血圧症など |
| 大人になってから動悸や胸のドキドキ、不整脈を感じるようになった | 術後瘢痕部位を起点とする不整脈、長年の負荷による心拡大など |
| 学校健診や会社の健診で「心雑音」や「心電図異常」を指摘された | 軽症の先天性心疾患が初めて見つかることもあるため要精査 |
第2部:身体の内部要因 — 遺伝・妊娠中の環境・隠れた要因
先天性心疾患は、多くの場合「これが原因」と一つに特定することが難しい病気です。 遺伝的な要因と、妊娠中の感染症や薬、生活習慣などの環境要因が複雑に影響していると考えられています4,5,11,12。 ここでは、とくに妊娠を考えている方やご家族が知っておきたいポイントを整理します。
2.1. 【特に女性】妊娠・出産と先天性心疾患の関係
世界保健機関(WHO)や日本の公的資料によると、先天性心疾患は「先天異常(先天性疾患)」の中でも頻度が高く、 新生児・乳児死亡の重要な原因の一つとされています4,5,11。 しかし、「親の育て方」や「妊娠に気づかなかったこと」が直接の原因になるわけではなく、 多くの場合、偶然の要素も大きいとされています。
一部の染色体異常(ダウン症候群、ターナー症候群、ヌーナン症候群など)では、 先天性心疾患の合併頻度が高いことが知られており4,11,12、 家族歴や既往歴により遺伝カウンセリングが勧められる場合があります。 ただし、すべての先天性心疾患が遺伝するわけではなく、「再発リスク」は病型によって異なるため、 具体的な数字を知りたい場合は専門の遺伝カウンセリング外来で相談すると安心です。
妊娠を希望する女性自身が先天性心疾患をもっている場合、 妊娠中は心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液量)が増えるため、心臓への負担が大きくなります1,3,10。 日本循環器学会などのガイドラインでは、妊娠前に重症度評価や薬剤調整を行い、 必要に応じて産科・循環器・麻酔科などのチームで管理することが推奨されています1,3。
2.2. 妊娠中の感染症・薬・生活習慣とリスク
WHOやCDCなどの報告では、先天性疾患全般のリスク要因として、 妊娠初期の風疹感染、制御不良の糖尿病、アルコールや喫煙、一部の薬剤などが挙げられています4,5,11,12。 先天性心疾患に限った正確な「○倍リスクが上がる」という数字は病型によってさまざまですが、 以下のような点に留意することで全体的なリスク低減が期待できます。
- 風疹ワクチンの接種:妊娠前に風疹に対する免疫を確認し、必要に応じて予防接種を受けることで、 先天性風疹症候群に伴う先天性心疾患などのリスクを減らせるとされています4,11。
- 糖尿病のコントロール:妊娠前から血糖コントロール不良が続くと、先天性心疾患を含む先天異常のリスクが高まる可能性が示されています4,11。
- アルコール・喫煙の回避:妊娠中の飲酒や喫煙は、胎児の成長障害や先天異常のリスクを高める要因とされています4,11。
- 自己判断での薬の内服を避ける:一部の薬剤は胎児の心臓や血管の発達に影響を与える可能性があるため、 妊娠の可能性がある場合や妊娠中は、処方薬・市販薬ともに必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
こうした点に気をつけても、すべての先天性心疾患を防げるわけではありません。 ご家族が「自分のせいではないか」と自分を責めすぎないことも、とても大切です。
第3部:専門的な診断が必要な先天性心疾患と代表的な病型
生活習慣だけでは説明できない症状が続く場合や、健診で心雑音・心電図異常を指摘された場合は、 先天性心疾患を含む構造的心疾患の有無を確認する必要があります1,3,7。 ここでは代表的な病型や検査・治療の考え方を紹介します。
3.1. 代表的な先天性心疾患のタイプと特徴
日本循環器学会・日本小児循環器学会のガイドラインでは、先天性心疾患を血流の異常パターンに基づいて分類しており、 主なものとして以下が挙げられます1,3,10。
- 心室中隔欠損症(VSD)・心房中隔欠損症(ASD): 心室や心房の壁に開いた穴を通じて、左から右へ血液が流れ込むタイプです。 小さい欠損孔では無症状のことも多く、自覚症状は乏しいものの、 長期的には心房細動や肺高血圧症のリスクになる場合があります。
- 動脈管開存症(PDA): 胎児期に肺動脈と大動脈をつなぐ「動脈管」が出生後も閉じずに残っている状態です。 未熟児では頻度が高く、薬剤(インドメタシン、イブプロフェンなど)やカテーテル治療で閉じることがあります3,10。
- 肺動脈狭窄・大動脈縮窄症: 血管の一部が狭くなることで、心臓から先への血流が妨げられ、圧負荷がかかるタイプです。 高血圧や心肥大、不整脈の原因となることがあります。
- ファロー四徴症: 心室中隔欠損、肺動脈狭窄、右心室肥大、大動脈騎乗(位置異常)の4つの異常からなる複雑な疾患です。 チアノーゼ(肌や唇の青紫色)が特徴的で、乳幼児期に外科手術が必要になるケースが多い病型です1,3。
- 大血管転位・単心室・左心低形成症候群など: 大血管のつながり方が逆になっている、大きな部屋が1つしかない、左心系が十分に発達していないなど、 より複雑で高度な治療が必要となる病型です。多段階手術や心移植が検討されることもあります1,3,10。
これらの病気は、妊娠中の胎児エコーで見つかることもあれば、 出生後のチアノーゼや呼吸状態、心雑音、成長の遅れなどから疑われて診断に至ることもあります3,7,10。
3.2. 診断のための検査と「放置した場合のリスク」
先天性心疾患が疑われた場合、以下のような検査が組み合わされます1,3,7,10。
- 身体診察・聴診:心雑音や呼吸状態、チアノーゼ、浮腫(むくみ)などの有無を確認します。
- パルスオキシメーターによる経皮的酸素飽和度測定: 指に挟む小さな装置で、血液中の酸素の量を非侵襲的に測定します。 値が低い場合はチアノーゼ型心疾患などを疑います。
- 心電図検査:心拍数やリズム、伝導の異常、心房・心室の肥大の有無を確認します。
- 胸部X線:心臓の大きさや形、肺血管影の増減、肺うっ血の有無などを評価します。
- 心エコー(心臓超音波検査): 先天性心疾患の診断の中心となる検査で、心臓内部の構造、血液の流れ、弁の動きなどをリアルタイムで観察できます。
- 心臓カテーテル検査: 足の付け根などの血管から細い管を通して心臓まで到達させ、圧の測定や造影検査を行う手技です。 詳細な血行動態の評価や、一部の病型ではそのままカテーテル治療(バルーン拡張、閉鎖栓の留置など)につなげることもあります3,10,13。
- 心臓MRI・CT: 複雑な構造異常や術後の評価、肺血管の状態などを三次元的に把握するために用いられます。
「症状が軽いから検査しなくてもよい」と自己判断して放置すると、 歳を重ねるうちに肺高血圧症や心房細動、心不全、脳梗塞などのリスクが高まることがあります1,3,6,17。 とくにASDなどでは、成人になってから初めて心房細動や脳塞栓症で見つかるケースも報告されています。 気になる所見がある場合は、早めに専門医の評価を受けることが大切です。
3.3. 合併症と長期予後
医療の進歩により、多くの先天性心疾患は手術やカテーテル治療により大幅な予後改善が得られていますが、 「治療=完全に元通り」ではなく、長期的な合併症リスクに注意が必要です1,2,6,10,17。
- 心不全:長年の負荷による心機能低下や弁逆流、肺高血圧症などにより、 成人期以降に息切れ・むくみ・疲れやすさが出現することがあります。
- 不整脈:手術で切開した心筋の瘢痕部を起点とする心室頻拍や、心房内の電気信号の乱れによる心房粗動・心房細動などが起こることがあります。
- 心内膜炎:一部の高リスク病型や人工弁・人工物を有する場合、歯科治療などをきっかけに細菌性心内膜炎を発症するリスクが高まります。
- 妊娠・出産時のリスク:母体の心機能や肺動脈圧の状態によっては、妊娠中に心不全や不整脈が悪化するおそれがあります1,3。
日本の研究では、成人先天性心疾患患者の数は年々増加しており、 2007年の時点で約40万人、現在では50万人以上に達していると推計されています2,6,14,17。 そのため、日本循環器学会などは「生涯にわたるフォローアップ体制」の整備を重要課題として掲げています1,3,10。
第4部:今日から始める改善アクションプラン
原因が先天性であっても、「何もできない」というわけではありません。 医師による専門的な治療と並行して、日常生活の工夫や周囲のサポートにより、 合併症のリスクを下げ、より安心して生活することができます1,3,10,11。 ここでは、今すぐできることから、少し長い目で見て取り組みたいことまでを整理します。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今日からできること | 症状と生活の記録をつける | 息切れ・動悸・体重・むくみ・服薬状況などをメモやアプリに残し、受診時に見せる。 |
| Level 1:今日からできること | 禁煙・受動喫煙の回避 | 本人だけでなく家族も室内禁煙を徹底し、喫煙スペースを家の外に限定する。 |
| Level 2:今週から始めること | 口腔ケアと定期歯科受診 | 毎日の歯みがきを見直し、3〜6か月ごとの歯科検診を予約する。心内膜炎リスクの説明書を歯科医に見せる。 |
| Level 2:今週から始めること | 主治医とのコミュニケーション | 「将来の妊娠」「仕事の内容」「運動・部活動」など、不安なテーマをメモして診察時に質問する。 |
| Level 3:数か月〜数年かけて取り組むこと | 定期フォローアップの継続 | 症状がなくても、ガイドラインで推奨される頻度に沿って小児循環器科・成人先天性心疾患外来を受診する。 |
| Level 3:数か月〜数年かけて取り組むこと | 就学・就労・妊娠のライフプラン相談 | 学校・職場と情報を共有し、必要に応じて業務内容の調整や産休・育休の計画を立てる。 |
先天性心疾患と共に生活している方の中には、「元気だから病院に行かなくても大丈夫」と感じる時期もあるかもしれません。 しかし、ガイドラインでは「無症状であっても、定期的な評価が重要」と繰り返し述べられています1,3,10,17。 将来の安心のためにも、「何もない時こそチェックする」習慣を大切にしましょう。
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
「どのタイミングで受診すべきか」「どの診療科を選べばよいか」は、多くの方が迷いやすいポイントです。 日本では、小児期は小児循環器科、成人期は成人先天性心疾患専門外来などが中心となって診療を行っています1,3,10,19。
5.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 赤ちゃんや子どもの唇・舌・爪が青紫色になり、呼吸が浅く速い状態が続く。
- 授乳や食事の途中ですぐ疲れてしまい、体重が増えない、あるいは急に減ってきた。
- 突然の激しい胸痛、冷や汗、呼吸困難、意識が遠のく感じや失神がある。
- 急にむくみが強くなり、息切れのため横になって眠れない。
- 脈が極端に速くなる・乱れる感じが頻回に起こる。
これらの症状がある場合は、救急車(119番)を含めた早急な受診が必要になることがあります。 迷ったときは、「ひとまず電話で相談する」よりも「安全側に倒して早めに受診する」ことを優先しましょう。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- 乳幼児〜学童期: 先天性心疾患が既にわかっている場合は、小児循環器科や小児心臓外科を中心とする専門施設でのフォローアップが推奨されます1,3,10。
- 成人の先天性心疾患: 日本循環器学会などのガイドラインでは、成人先天性心疾患専門外来(成人先天性心疾患センター)での管理が推奨されています1,9,17。 近くに専門外来がない場合でも、循環器内科と連携しながら定期的に診てもらうことが大切です。
- 健診で初めて指摘された場合: 学校健診・企業健診で心雑音や心電図異常を指摘された場合は、まず内科(子どもなら小児科)を受診し、 必要に応じて小児循環器科や循環器内科を紹介してもらう流れが一般的です。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 母子手帳・紹介状・検査結果: 出生時の情報やこれまでの検査結果がわかると、診断がスムーズになります。
- 症状日誌・服薬リスト: 息切れや動悸が起こるタイミング、併用している薬やサプリメントの一覧があると、 経過や影響を評価しやすくなります。
- 医療費の目安: 日本では公的医療保険によって自己負担は原則1〜3割となり、子どもに対しては自治体の医療費助成制度が利用できる場合があります。 高額な手術や入院が必要な場合でも、高額療養費制度などで自己負担額が一定の範囲に抑えられる仕組みがあります。
制度の詳細は自治体や加入している健康保険組合によって異なるため、 不安がある場合は、医療機関の相談窓口や役所の担当窓口に早めに相談しておくと安心です。
よくある質問
Q1: 先天性心疾患はどのくらいの頻度で起こる病気ですか?
A1: 日本循環器学会などの資料によると、先天性心疾患は全出生の約1%にみられ、毎年およそ1万2千人の赤ちゃんが先天性心疾患をもって生まれるとされています1,2,4,5,7。 医療の進歩により、多くの子どもが適切な治療を受けて成人まで成長し、 現在では日本に40〜50万人以上の成人先天性心疾患患者がいると推定されています2,6,14,17。
Q2: 先天性心疾患は遺伝しますか?家族や次の子どもへの影響が心配です。
A2: 一部の先天性心疾患は染色体異常や遺伝性疾患と関連しますが、 多くの場合、単一の遺伝子だけで説明できるわけではなく、 遺伝的要因と環境要因が複雑に関わっていると考えられています4,11,12。
「必ず遺伝する」「絶対に遺伝しない」と言い切ることはできませんが、 家族歴や本人の病型によって再発リスクの目安が示されているものもあります。 妊娠を考えている場合や、家族に先天性心疾患の方が複数いる場合は、 小児循環器科や遺伝カウンセリング外来で個別に相談すると安心です。
Q3: 子どもの頃に手術を受けました。もう大人なので定期通院は必要ありませんか?
A3: 多くのガイドラインでは、「先天性心疾患は生涯にわたるフォローアップが必要」と明記されています1,3,10,17。 手術によって症状が改善しても、時間の経過とともに弁の逆流や不整脈、心不全などの合併症が出現することがあるためです。
とくに成人後は仕事や育児で忙しくなり、受診が途切れがちですが、 少なくとも数年に1回は成人先天性心疾患専門外来や循環器内科で評価を受けることが推奨されます。 「今は元気だからこそ、将来の安心のために」定期チェックを続けるようにしましょう。
Q4: 先天性心疾患があっても妊娠・出産は可能ですか?
A4: 多くの先天性心疾患の方が妊娠・出産を経験していますが、 病型や心機能、肺動脈圧、既往の手術内容などによって母体・胎児のリスクは大きく異なります1,3。
妊娠を希望する場合は、できれば妊娠前に循環器担当医と産科医に相談し、 「妊娠してもよい状態か」「妊娠中に注意すべき点は何か」「どの病院で出産するのが安全か」などを一緒に確認することが大切です。 場合によっては妊娠を避けた方がよいと判断されることもあり、その際も本人の気持ちに寄り添いながら別の選択肢を検討していくことになります。
Q5: 子どもが先天性心疾患と診断されました。運動や体育の授業はどこまで参加させても大丈夫でしょうか?
A5: 運動制限の必要性は、病型や重症度、手術後の状態によって大きく異なります1,3,10。 軽症であれば、ほぼ制限なく運動できるケースもあれば、 重症例では激しい運動を避ける必要がある場合もあります。
学校の先生やコーチに医師の診断書や指示内容を共有し、 本人の体調を見ながら無理のない範囲で参加させることが大切です。 「絶対にダメ」と決めつけるのではなく、「何なら安心してできるか」を主治医と一緒に考える姿勢が重要です。
Q6: 風邪やインフルエンザにかかったとき、先天性心疾患のある子どもは特別な注意が必要ですか?
A6: 先天性心疾患をもつ子ども、とくに心不全傾向や肺高血圧症のある場合は、 呼吸器感染症が重症化しやすいとされています1,3,10,18。 高熱や咳、呼吸が苦しそうな様子が続く場合は早めに受診しましょう。
また、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなど、 主治医が勧める予防接種を適切なタイミングで受けることも大切です。 日常生活では、手洗い・うがい・マスク着用などの基本的な感染対策を家族全員で徹底しましょう。
Q7: 手術やカテーテル治療を受ければ、先天性心疾患は「完治」しますか?
A7: 多くの先天性心疾患で、手術やカテーテル治療によって血行動態が大きく改善し、 日常生活に支障なく過ごせるようになります1,3,10。 しかし、完全に元の構造に戻るわけではないため、 長期的に弁逆流や不整脈などの合併症が生じることがあります。
そのため、ガイドラインでは「治療=ゴール」ではなく、 「治療後のフォローアップを含めた長期的な管理」が重要とされています1,3,10,17。 定期検査を続けることで、問題が小さいうちに対処できる可能性が高まります。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
先天性心疾患は、生まれつき心臓や大血管の構造に異常がある病気ですが、 医療の進歩により、多くの方が手術やカテーテル治療を経て、学校・仕事・家庭生活を送りながら長く暮らせる時代になりました1,2,6,7,17。
一方で、「手術が終わったからもう大丈夫」と完全に忘れてしまうのではなく、 定期的なフォローアップや生活習慣の工夫により、合併症を早期に見つけて対処していくことが大切です1,3,10,11。 不安や疑問があるときは一人で抱え込まず、小児循環器科や成人先天性心疾患外来、かかりつけ医、自治体の相談窓口などを活用しながら、 自分や家族にとって最適なペースで病気と付き合っていきましょう。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、 健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。
本記事の原稿は、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、 JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、 内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。 最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。
ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、 個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。 気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
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